神室真澄推しの俺がなぜ坂柳有栖の双子の兄に 作:筋骨隆々竹輪マン
――トントントン
何かを切っている音が聞こえます。でも騒音といったわけでもなく、とても心地よいですね。
なんだかいい匂いもしてきました。きっと累栖がご飯を作ってくれてるんでしょう。そこで私は目を覚まし、キッチンのある方へ行きます。
「ん、おはよう有栖」
坂柳累栖。──―私の双子の兄であり、私が最も信頼を寄せている相手。累栖は正に完璧。身体能力に関してはある程度知名度のある格闘技は全て師範になるまで鍛え、頭の良さは私の方が高いと累栖は言いますが、実際は身体が弱い私に気を遣って抑えてくれていて、本当は私と同格です。性格面も私が物心つく頃から優しくしてくれ、ずっと私の身の回りのことや食事のこともこなしてくれます。そして容姿まで完璧なので、異性からモテない訳がありません。
でも私は時々思うのです。なんで完璧な累栖がそこまで私のことを想ってくれるのか。
私が小学生ぐらいの時、完璧な累栖と比べられることに嫌気が差し、累栖に酷く当たり家出をしたことがありました。その際に誘拐にあってしまい、助けに来た累栖に泣いて怒られたんです。確かその時から、累栖は自分の頭の良さを私より下だと言い始めました。
正直私が累栖に抱いている感情が兄に向けるようなものじゃないということは、私自身が一番気づいています。尤も、累栖はそれに気が付いていないようですが。
「どうした、有栖? あんまり美味しくなかったか?」
昨日は山村さんと鬼頭君を仲間に引き入れたこともあって、少し疲れも残っています。私が浮かない表情をしていたことに、累栖が不安気味に聞いてきます。
「いえ、とっても美味しいですよ。ただちょっと悩みがあって...」
微笑みながら美味しいことを伝えると累栖はとても嬉しそうな優しい顔をしてくれます。いつまでもこうやって2人で笑っていられるなら、私はなんだっていい。
だけど累栖はどこまでも進んでいきます。そんな累栖についていくためにも、私は今のままで満足していてはいけないんです。
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目が覚める。時刻は6時半。今日は入学から1週間、つまり推しの万引きを有栖が目撃する日である。隣で寝ている有栖を起こさないように静かに起き、ササっと服を着替えてからエプロンを着る。
軽めの朝食を作っている際に、有栖が起きてきた。
「ん、おはよう有栖」
「おはようございます…」
まだ寝惚けているのか、ふにゃふにゃとした声で喋る有栖。正直言ってめちゃくちゃかわいい。
テーブルに着き、朝食を食べていると、有栖の表情がなんだか曇っている。
「どうした有栖。あんまり美味しくなかったか?」
「いえ、とっても美味しいですよ。ただちょっと悩みがあって…」
美味しいと微笑んでくれた。
「別に無理に言う必要はないが、力になれることがあるならなんでも言ってくれ」
「ありがとうございます。力をお借りしたいときは声をかけますね」
朝食を食べ終わると、次は有栖の着替えだ。もう高校生なのだから、着替えは1人でやってほしいものなんだがな…。
有栖に下着はどれがいいか聞き、選ばれたものを優しく着させる。そしてインナーと制服をパパっと着せれば、着替えは完了だ。
そして次は髪の手入れだ。もうこれも慣れたもので、テキパキとそして丁寧にこなす。正直有栖の髪質がとてもいいこともあって、軽く整えるだけで完成してしまう。それでも枝毛を切ったり、櫛で髪を梳いたりと、やることが少しだけある。
「よし、完成だ」
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
ドアを開け、少しだけ歩いたところで有栖が立ち止まる。
「あら、忘れていたことがありました」
「いってきますのキスか?」
「ええ、そうです。やはりあれがないといけませんね」
小学生のころくらいからずっとやらされてもはや習慣化した。
「目、瞑っとけ」
俺はそう言ってキス待ち顔の有栖へと顔を近づけていき…。
―――チュッ
「よし、行くかっと…」
俺が身体の向きを変えた先には、ストロベリーブロンドの髪の女子生徒、一之瀬帆波がいた。一之瀬は真っ赤になっている。
「///…ふっ2人って兄妹じゃ…あっ愛のかたちは人それぞれだもんね…ごっごめんね!///」
初対面なのになんだかすごい誤解をされた気がする。
別に有栖は俺を兄として慕ってくれているだけで、そんな感情を向ける相手は綾小路だろう。というか有栖が兄離れしていくことを考えただけで、涙がでそうになる。
「累栖、どうしたんですか? 行きますよ」
「ああ、すまない。少しぼーっとしていた」
なんて何気ない会話をしながら、教室へ向かう。
教室に入ると、今日はなんだか男子生徒が賑やかだった。あぁ、水泳の授業か。男子は女子の身体が見たくてしかたないんだろう。
「有栖、杖で弁慶を攻撃しないでくれ」
うちの小悪魔系大魔王はエスパーも兼ねているそうです。
席につき、HRを終えたあとに思わず欠伸がでてしまう。昨日は疲れたんだよなぁ。
この1週間で柔道部、空手部、剣道部、サッカー部、バスケ部、テニス部、バレー部、陸上部、野球部、卓球部とそれぞれ平均200万PPtを賭けで勝ち取り、合計PPtが21,357,690PPtと、もう2000万PPtを超えてしまった。そして運動部の先輩方がひもじい生活をしないといけなくなるという事態に。
それに有栖が山村と鬼頭を仲間に引き入れるから俺は監視カメラの位置を確認してきてくれ、と学校中を探索させられた。しかもその際に生徒会長の堀北兄こと堀北学に声をかけられてSシステムについて答えたらPPtを100万もくれたし。だけど名前をみて『お前が犯人か...』と言われてしまった。
その際に一緒にいた橘先輩に『堀北先輩との恋路、応援してます』と伝えると真っ赤になったが見る目があると言ってくれた。とても可愛かった。
「おいどうした累栖、もしかしてお姫様とエッチなことでもしてたのか~?」
神室真澄がこいつをうざがっていた理由がよくわかる。
「そんなことする兄妹がいてたまるか。いたとしてそれは義理の関係だ。俺と有栖は血がつながってるんだよ」
「ええそうですね、でも毎朝キスはしているでしょう?」
爆弾発言しかしないなこの子は。
「えっ…は? キスってあれだよな? あのキスだよな?」
正義が狼狽えている。面白いな。
もっと狼狽えさせる方法は…そうだ。
「有栖、ちょっとこっち向いてくれ」
「はい、なんでしょ…っんむっ!?」
俺はいつもより長いキスをする。
「っぷは…ほら、これが証拠だ」
「いやおま…はぁ!?」
「累栖…///ああ、そんな…ダメです///」
クラス全体が騒がしくなっている。
まずいな、やらかした。有栖に至ってはトリップしている。
その後、授業が始まるまで教室は騒然としていた。
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水泳の時間がやってきた。正直やる気がない。有栖か推しに応援されたらやる気がでるんだけどな。
「累栖、お前さん身体すっげぇな…」
「なんだ正義、お前そういうシュミだったのか…?」
「ちげぇよ…。でもほんとにお前の筋肉はすげぇぜ」
「……ああ、この筋肉は魅せる筋肉ではなく、使うための筋肉だ」
そう言うこいつは鬼頭隼。俺はこいつを結構気に入っている。身体能力が須藤並にあるため、俺とそこそこ張り合えるのだ。そしてなにより正義のようにうざくない。それが1番でかい。
プールに到着すると、まだ女子は着替え終わっていないようだった。
「坂柳累栖、ちょっといいか?」
そう聞いてくるのは葛城だ。ちなみにフルネームで呼ぶのは兄妹での区別のためだそうだ。
「別に累栖でいいんだぞ?」
「そうか、これからは累栖と呼ばせてもらおう」
「わざわざ声をかけてきたんだ、なにか用があるんだろ?」
「いや、用というよりも確認に近いな」
葛城は顎に手を当て、考えるようにそう言った。
「確認?」
「ああ、坂柳有栖の兄であるお前の人柄をな」
「なるほどな。だが生憎と俺は派閥争いにも興味がないしだれがリーダーをやろうと関係ないな」
「妹の派閥に組していながら、どうでもいいと?」
え、なんか勝手に坂柳派にさせられてね?
「は? いやおれは中立派だが」
『え?』
そこにいるAクラス男子全員の声が響き渡る。
「おい累栖! お前はお姫さんの味方じゃねぇのか!?」
「いや、俺は有栖から力を貸せと言われてないからまだどこにも組していないぞ?」
「そ、そうか! なら累栖、
「俺は有栖に力を貸さないだけで敵対するとは言ってない」
そんなこんなで騒がしくしていると、女子がプールに移動してきた。観戦席には有栖の姿が。軽く手を振ると有栖が微笑みながら手を振り返してくれる。なんだあの天使は。
「うっわ、坂柳くんの身体すっご…」
「これは美しい…」
そんな声が聞こえてきて、有栖の顔が曇りがかっていく。
「あっそういや累栖、姫さんから伝言があった」
「なんだ?」
「『本気、出してくださいね?』だとよ」
つまりこの後起こる競争で1位になれということか。
「あんた、なんかスポーツでもやってたの?」
推しに話しかけられたっ!
「ああ、中学では何部にも入らなかったがほとんどの運動部で助っ人でエースだったな」
「ぷぷっ…助っ人でエースって…」
確かによく考えるとおかしいな。
そう思っていると体育教師が入ってきて、説明が始まった。そして準備体操をしてから50mを泳がないといけないそうだ。まぁこれは適当にこなしてもいいだろう。そう判断し、ゆっくり泳いだ。
「────。では早速だがこれから競争をする。男女別50m自由形だ」
「競争!? マジかよ…」
「1位になった生徒には、俺から特別ボーナス、5000ポイントを支給しよう。1番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ」
5000PPt…いらねぇ。
「先生、5000PPtじゃあ俺はやる気になりません」
俺のその発言にクラスからは驚きの声があがる。
「うーん、そうか。なら記録に応じて、PPtを支給しよう。男子なら25秒から1秒切る毎に1万PPt、女子なら30秒からだな」
「ちなみに先生、小数点以下は四捨五入しますか?」
「そうだな、今回はそうしよう」
本気を出すメリットが生まれたな。何万とれるかな。
女子の方が先に行われ、俺は推しの泳ぐ姿をしっかりと目に焼き付けた。
「お疲れ様、神室」
「ん、ありがと。あんたも頑張って」
その瞬間、俺の中にある全細胞が覚醒し、異常なやる気に満ち満ちた。推しのスク水+応援、これ以上に人をやる気にさせるものはあるのだろうか。
そして気が付けば俺はスタート台に立っていて、笛がなった。
俺はなにも考えられなくなるなんてことはなく、逆に脳は澄み切って活性化していた。
クロールで早く泳ぐためのコツ、それは息継ぎをせず、テンポよくストロークすること。もちろん足の動きも重要だが、クロールの推進力の8割は、ストロークから生まれているため足よりも手のほうが重要なのである。
そしてあっという間にゴールしていた。周りからはすごい歓声が響き渡る。
「先生、タイムは?」
「あ、ありえん…20秒351だと……!?」
四捨五入して5万か、そこそこだな。
「20秒351ってお前、世界記録更新してんじゃねーか!?」
「うちの有栖は世界一の天才なんだ。これくらい普通だ」
「おい坂柳! す、水泳部にはいらないか!? お前なら全国どころか世界をとれる!」
「生憎、部活には興味がないんです。でも助っ人としてなら行きますよ」
俺はそう言ってプールサイドへと上がる。そして神室の近くに行くと話しかけられた。
「坂柳くんって…何者?」
「ただの高校生だ」
人生2週目だけどな。
「ただの高校生は体育で世界記録更新しないから」
……一理ある。
その後、なぜか有栖に弁慶を攻撃された。
そして遂に放課後がやってくる。
実はこのお話、見切り発車なのでプロットがあまり組めてないんですよね。6話ほど書いたところで投稿し始めているのでそれ以降は投稿ペースが落ちるかもしれません。