神室真澄推しの俺がなぜ坂柳有栖の双子の兄に 作:筋骨隆々竹輪マン
「累栖、少しコンビニに寄ってもいいですか?」
そう俺に聞いてくるのは有栖。そして今日は入学から1週間経った後。これが何を意味するかは明白だろう。
「ああ、コンビニ"には"用がないんだろ?」
「さすがですね、累栖」
「まぁそれはいい、さっさと行くぞ」
有栖は神室の仕草や行動などから万引きすることをある程度予測していた。末恐ろしい妹だ。
そしてコンビニの前で待つこと数分、神室がコンビニから出てきた。有栖は少しだけ歩いてから声をかける。
「待ってください」
「何か用?」
「入学して間もないですし、少しお話がしたいなと思いまして。神室さん」
「私の名前、憶えてたんだ」
「クラスメイトの名前と顔くらいは、憶えさせていただきました。それに貴方は累栖とも接点があります」
神室はずっと警戒しながら話している。
「一緒に帰っても構いませんか?」
「勝手にすれば」
「ありがとうございます」
有栖が笑顔になる。有栖は他人の前では造った笑顔をみせる。だがこの笑顔は心からの笑みが混じっていることを俺は直ぐに理解した。
「無理して転んでも助けないから」
「大丈夫です。私には累栖がいますので」
「はぁ……」
有栖のブラコンっぷりにため息をついている。まったくこの子ったら、しょうがないんだから。
「ところで──────―先ほどコンビニでは何を?」
ついに本題に移るようだ。
「何をって?」
「見たところ何も買われていないようでしたので」
「別にいいでしょ。欲しいものがないことだってある」
ていうかほとんどが原作のセリフまんまで俺感動しちゃった。俺ほとんど空気になっちゃってるよ。
「万引きしましたよね」
「何度か下見に行ってカメラの位置は把握していたと思われますが、学校では初めてですか? それとも今回で何回目ですか?」
「私が盗んだって確信があるわけ?」
「ええ。あなたは私を気にも留めていなかったようですが、確信しています。そうでなければ『万引きしましたよね?』なんて言いませんよ」
「そうね。確かにそう」
神室は続けてこう言った。
「盗んだとしたら、何だっていうの? 学校にチクる?」
「そうですね。報告するのは簡単ですが、その前に聞かせて下さい」
「は?」
「あなたの手際は見事でした。何より驚いたのは、その冷静さです。普通はガムや飴のように安いものだけでも購入して罪悪感を減らしたりするものです。しかしあなたにはそんな素振りは一切見受けられなかった。それは、こういった万引き行為があなたの中で日常化してしまっている証拠でもあります」
「好きにして」
そう言って神室はカバンに手を入れ、コンビニで盗んだアルコールの缶を取り出した。ていうか教職員だけが飲むなら生徒が利用するコンビニに置くなよ。
「さっさと連絡しなさいよ」
「アルコールは常飲されるんです?」
「は? ……しない。別にお酒に興味ないし」
「なら、これは俺が預かっておこう」
俺はそう言って神室の手から缶を抜き取り、カバンに入れる。こんなとこで少女がアルコールの缶を持っているのが見られたらたまったもんじゃないからな。
「つまりあなたにとって万引きとは、日々の生活を楽にするための行動ではなく、あくまでもその罪の意識、そしてスリルを味わうための行動でしかない、ということですね」
「あんたが冷静に分析できるのはわかったから、さっさと学校側に突き出せば?」
神室は詰んでいると思っているのか不用意に暴れたりはしない。
「よろしいのですか? 万引きともなれば、停学は免れないでしょうね」
「だから?」
「入学してまだ1週間。これから楽しいことも楽しくないことも沢山ありますよ?」
「あんたが連絡しないなら、私からする」
携帯を取り出そうとする手を、俺が止めた。
「ありがとうございます累栖。そして神室真澄さん。気に入りました。貴方には私の最初のお友達になってもらいます」
おお、こうやって有栖は友達をつくり、兄離れをしていくんだな。よよよ。
「何言ってんの」
「あなたの秘密を守る代わりに、色々と私に協力してください」
「それ、友達って言わない」
「そうですか?」
ご尤もな意見だ。
「それに、素直に従うと思ってるわけ?」
「確かにあなたは、学校側に申告されてもダメージは少なそうです。しかし、それでも神室真澄という人間が万引きをするような存在である、ということは露見してしまいます。そうなれば今後、万引きを行う際にも問題が生じるのではありませんか?」
「万引きを見逃すどころか、もっとやってもいいって?」
神室は疑うような視線をしながらそう言う。犯罪を助長させるようなことを言っているのだからそうなるのも頷ける。
「どうされるかはあなたの自由です。その部分に私が関与することはありません。そもそも道徳的にあなたに犯罪行為はダメだと訴えたところで、心に響かせることができるはずもない。違いますか?」
「それは、まあね……」
「ですが────私についてくれば退屈はしないと思いますよ。万引きすることでしか満たされないあなたの心を、別のモノや人で埋めることはできるかもしれません」
「…わかった」
話がひと段落ついたようなので、俺は前に出てこう言った。
「神室、有栖と仲良くしてあげてくれ」
「言っとくけど、私は弱みを握られてるだけ。従いたくて従う訳じゃないから」
「それでも、だ。それに有栖の身の回りのことを俺1人でやるには時間が足りなくてな、正直人手が増えるのは助かる」
俺がそう言うと、神室は首を軽く傾げながらこう聞いてきた。
「身の回りの世話って?」
「掃除洗濯料理、有栖の着替えに髪の手入れ、あとは杖に不備がないかの確認に危険な道の確認だな」
「あんたそれ1人でこなしがら自分のこともやってたの?」
「累栖は完璧ですからね。ふふっ」
俺のことを自慢げに話す妹は今日もかわいい。
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そして来たる5月1日。
この約1か月の期間で、真澄はある程度の有栖の世話をできるようになっていた。それでも料理や杖の不備の確認などは俺が行っているが。
そしてお互い名前で呼び合うようになったのだ。きっかけは坂柳、と呼び捨てにされて2人とも反応したのが理由なのだが。
話は戻るが教室はもちろん騒然としていた。『10万PPtじゃない』だとか、『他クラスはもっと少ない』だとか。『Dクラスに至っては貰えていない』とかすでに下に見ている輩もいた。
「やはり累栖、あなたの言った通りになりましたね」
「当たり前だ。分かりやすすぎる」
「累栖ってほんとに何者よ」
「別に俺はただの高校生だ」
人生2週目+原作知識アリだけどな。
まぁ、それは置いといて。俺は4月の半ばにSシステムについて根拠をもって説明し、PPtを使いすぎずに、そして授業を受け問題行動を起こすなと注意したところ、AクラスのCPtは960になった。原作と比べて20CPtも増えたのはいい方だと思う。
そしてこの1か月で俺はなぜが中立派のトップになっていた。
いや、俺は別にクラスの端っこに居れればそれでいいんだが…。
そして俺は2000万以上あるPPtで、ある人物をAクラスに連れてくることを今から有栖と真澄の2人に伝えようと思う。
「有栖、真澄。今から少し話したいことがあるんだが」
「なんでしょう?」
「なに?」
2人には俺が2000万以上のPPtを保有してあることを伝えてある。真澄に関しては教えたときに卒倒しそうになっていたが。
はぁ今日も2人がかわいい。っと話が逸れそうになる。
「これを使ってAクラスに連れてきたい奴がいるんだが…いいか?」
俺は端末を取り出し、軽く振る仕草をしながら言った。
「私は彼と勝負ができればなんでもいいですよ」
「別にそれは累栖のなんだから好きにすればいいじゃない」
「よしわかった。今から行こう」
『今から(ですか)!?』
なにか問題があっただろうか。
「ああ、クラスのやつらにも伝えたほうがいいか?」
「それは当たり前です。それに今から行くと混乱させてしまいませんか?」
「いや、むしろ混乱させたほうがいいだろう。そいつはBクラスだ」
「なるほど。そもそも私に累栖の行動を制限する権利はないのでご自由にどうぞ」
そう言われたので好きにやらせてもらう。
「みんな、少し話を聞いてもらってもいいか?」
少し大きめの声で話し出すと皆会話をやめ、こちらに顔を向けてくる。こういうところを見ると、俺はやはり中立派のトップなんだな、とつくづく思う。
「早速で悪いんだが、俺はすでに2000万PPtを持っている。これを使って1人Aクラスに移動させたい奴がいるんだが…ってどうした? 皆して鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」
『えええええええええっ!?!?』
耳が痛い。
「お、おい累栖そのポイントどうやって稼いだんだよ!」
「部活動で賭けをした。10個以上行ったし全勝だ」
そう言うとクラスの面々は絶句している。
「ま、まぁ特別得意ってわけでもない水泳の授業で世界記録更新する奴だしな…」
「兎に角、これを使ってAクラスに移動させたい奴がいるんだ。いいか?」
「まて累栖、そいつはAクラスに害を及ぼさないと言い切れるか?」
葛城が驚く表情をした後、すぐにはっとしてそう言った。慎重な性格の葛城なら真っ当な疑問だろう。
「ああ、言い切れる。この1か月で信頼を置けると確信した人物だ。しかもそいつは今の自分のクラスに不満を持っている」
そう言うと葛城は目を瞑り、頷いた。
「お前がそこまで言うなら信頼に値する人物なのだろう。私は累栖が信頼するその人物を信頼しよう」
葛城って俺のことめちゃくちゃ買ってくれてるんだな。葛城は龍園クラスに行かせるには惜しい人材だと思っている。どうにかできないものか…。
「有栖は異論ないな?」
「ええ、もちろんです」
「クラスでリーダー争いをしてる2人を納得させたんだ、他のやつも文句はないな?」
そう聞くとAクラスの生徒は全員が頷いた。
「それじゃあ、連れてくる」
俺はAクラスの教室を出て、足早にBクラスへと向かった。
「失礼する。Aクラスの坂柳累栖だ」
「わっ!///いいいいいらっしゃいませ!///」
一之瀬がバグっている。前に目の前で有栖とキスしたのをまだ覚えているのか。
「ど、どうした一之瀬。そしてAクラスが何の用だ?」
神崎が聞いてくる。初対面だがこいつ挿絵通りイケメンだなぁ。
「いやなに、2000万PPt溜まったんで引き抜きに来た」
『は?』
「だから、引き抜きにきたと言っているんだ」
「…ちなみに…誰を?」
少しの静寂の後、一之瀬が恐る恐る聞いてきた。
「そんなに警戒しなくとも一之瀬や神崎は引き抜かない。というかその2人は同意を得られん」
「同意を得られる人なんてこのクラスにはいないよ」
一之瀬はそう言い切っているが、それは間違いであると俺は知っている。
「果たして本当にそうか? なぁ、ユキ」
俺がユキの名前を出した瞬間、クラス中の目線がユキに向けられる。
「それは私を引き抜きに来たって意味で合ってる?」
「ああ、そうだ。そもそもBクラスに前から接点があるのがユキしか居ない」
一之瀬のあれは接点とは言えないだろう。
「それでどうするユキ、Aにくるか?」
「ユキちゃん! 罠かもしれないよ!」
「……私は…Aクラスに移動する」
俺はその言葉を聞き、若干安堵しつつユキの傍まで歩いていく。
「いい判断だ。早速だが職員室に行くぞ」
「まってよ坂柳くん!」
俺は一之瀬に呼び止められる。
「……なんだ一之瀬?」
「…なんで私たちの仲を引き裂こうとするの? それにユキちゃんもそれでいいの?」
「…直接は言わなかったけど、正直あんたらのお人良しなとこだったり仲良し感のある空気がずーっと鬱陶しかったから」
「仲を引き裂くもなにも、この通りユキはお前らを鬱陶しがっていたぞ。4月の頭からな。それじゃ、失礼したな」
俺のこの発言にクラスはどよめく。
そんなどよめきの中、ユキと俺は職員室に向かって歩き出す。
「言ってよかったのか? 俺1人にヘイトを向けさせればユキに対する印象は良いもののままだったろうに」
「…累栖くん1人に嫌われ役押し付けるほど私は腐ってるように見える?」
「いいや、そういう訳じゃない。まぁ、なんだ…ありがとうな」
微笑みながらそう言うと、ユキの頬が赤く染まっていく。
「っ!///…うざ……///」
こうして姫野ユキは、Aクラスに移動することになった。