神室真澄推しの俺がなぜ坂柳有栖の双子の兄に 作:筋骨隆々竹輪マン
「参考書のコーナーは…ここか。意外と多いんだな」
今俺は、高校敷地内にある本屋に来ている。その訳は至ってシンプルで、勉強会に使うテキストに引用する参考書を探しに来た。手持ちの物は勉強会初日でほとんど使い切ってしまったので、新しい参考書を探しているという訳だ。
「ふぁ…ちょっと寝不足か…?」
参考書を探している最中、思わず欠伸が出てしまった。勉強会を開く数日前から勉強会の場所の確保をしたり、テキストの作成で睡眠を疎かにしているため1日に4時間弱しか寝れていない日が続いている。こんなところを有栖には見せられないな。
「よし、これなら十分だろう。…ん? あっちはミステリーのコーナー…。久々に何か小説でも買うか」
俺は数冊参考書を手に取った後、隣にあったミステリーのコーナーが目に入る。俺は前世で様々なジャンルの小説を読んでいたが、今世では忙しい日が続いていたためほとんど読めていない。
そういえばよう実にミステリーが好きな少女が居たな…。
「すみません、もしかしてミステリー小説をお読みになるんですか?」
噂をすればなんとやらってやつだ。恐ろしく速いフラグ回収、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「ああ、色んな小説を読むからミステリーもそこそこ嗜んでるぞ。最近はあまり読めてないから最近のおすすめでも聞いていいか?」
俺がそう言うと、話しかけてきた少女――椎名ひよりは目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「貴方もミステリーがお好きなのですね! 同じクラスの方にミステリーが好きな方がおらず、小説について話せる人がいなかったのでとても嬉しいです! おすすめは―――」
その後は参考書とおすすめされた数冊を購入し、カフェで本について2時間程話し合った。原作を見て分かっていたが、椎名は本についてかなり詳しい。俺もそこそこ自信があったものの、椎名のほうが圧倒的に詳しかった。
「今日はありがとうございました、坂柳くん。もしよろしければまた本についてお話しませんか…?」
椎名は少し不安そうに聞いてくる。少し羞恥の感情も混じっているのか、頬がほんのりと赤くなっており椎名の愛らしさを表している。
「俺の方こそ助かった。またおすすめの本があったら教えてくれ。俺の連絡先を渡しておくから、好きなタイミングで連絡してきてくれ」
「!…ありがとうございます。新作がでたらお教えしますね!」
こうして俺と椎名は別れた。そして寮に戻ると、魔王の如きオーラを纏う我が妹が居た。
「累栖…? 直ぐ帰ってくるんじゃなかったんですか…?」
「えーと、それはだな…」
「何か言い訳でもあるんですか?」
とても怖い。その形相、鬼神の如し。
「今失礼なこと考えましたよね?」
「イヤ、ソンナコトナイゾ」
「嘘つかないでください」
俺はさっさと手洗いうがいを済ませ、夕飯の準備をする。
「直ぐ帰ってくるって聞いていたのに2時間も待たされた私の気持ち、分かりますよね?」
「はい…」
そう言ってプリプリしていた有栖も夕飯を食べると直ぐに大人しくなった。説教が終わった後の有栖はいつもよりデレデレになるから可愛くてたまらん。
「累栖、もっと近づいてもいいんですよ?」
「違うだろ有栖。もっと近づいてほしい、だろ?」
「むー…」
ソファに座っている俺の膝の上に向き合う形で乗る有栖。むくれていてもとても可愛い。
「機嫌悪くしないでくれ。有栖は笑っている顔のほうが可愛いんだから」
「もう、累栖…///」
俺が有栖の目をじーっと見ていると、有栖はモジモジしだしてこう言った。
「累栖…その…き、キスをしてほしいのですが…///」
「キス? 行ってきますのキスだけじゃ満足できないのか?」
そう俺が聞くと有栖はコクンと頷き、目を瞑った。これはキス待ちと言うことだろう。俺はその可愛らしい顔に自分の顔を近づけていき、有栖の唇と俺の唇の距離はゼロになった。
「んっ♡…もっと、もっとしてください累栖♡」
なんか変なスイッチ入ってないか? 完全に目がハートになっている。
「全くしょうがない妹だ。舌、挿れるからな」
俺はそう言うと、また有栖の顔に近づいていき接吻をする。
「んっ♡…れろっ♡……ちゅっ♡…んむっ…ぷはっ♡」
すっげぇエロい。なんだこれ。
「る、累栖…ベッドに……行きませんか?♡♡」
心臓がドクドクと音を立てている。どうする、俺。相手は妹だぞ。
「あ、あ―――
俺が返事をしようとした瞬間、部屋のチャイムがなった。俺は正直助かったと思い、部屋のドアを開ける。
「はい――って真澄か。こんな時間にどうした?」
「ちょっと用があって…ね。入れてもらっていい?」
チャイムを鳴らしたのはまさかの真澄だった。何か後ろに隠したようだが…なんだ?
「まぁいいが…あまり遅くならないうちに帰れよ。同じ階とはいえ真澄みたいな女の子が夜に1人で外に出ない方がいい」
「わかってる。用さえ終われば帰るから」
そして部屋に入れると、有栖はまたむくれた。
「むーっ、私と一緒にいるのに何故他の女の人を部屋に入れるのですか?」
「真澄は用が終わればすぐ帰るって言ってたからだ。それで真澄、用ってなんだ?」
俺がそう聞くと、真澄は少し頬を染めながら後ろに隠していたものを取り出した。
「それは…クッキーですか?」
「うん…いつもご飯食べさせてもらってるわけだし…なんか返さないとと思って…さ///」
そう、真澄が後ろに隠していたもの…それはクッキーであった。少し不格好ではあるものの、手作り感がありとても美味しそうなクッキーだ。
「なるほど、それなら貰わない訳にはいかないな。今食べてもいいか?」
「!…うん」
一口齧ると、バターの優しい甘みが口の中に広がっていく。そして咀嚼を進めるごとに小麦の味に変わっていき素材の良さを感じる。これは手作りならではの良さだ。
「うん…うまい。有栖もどうだ?」
「ではお一つ。…おや、とても美味しいですね」
さっきまであんな発情してたのに真澄が来た瞬間にまともになった…妙だな…。
「…累栖?」
俺の心を読むんじゃない、我が妹よ。
「あんたらのその仲の良さはなんなのよ……」
▽▽▽
「それでですね、ここのシーンが――」
今、俺は図書室で椎名と小説について語り合っている。今日の日付は5月15日、つまりDクラスが中間テストの範囲変更を知る日だ。この日に図書室に居れば原作を近くで見れる…! と思い何の気なしにやってきたのである。
「なんだと!」
「本当のことを言っただけで怒んなよ。もし校内で暴力行為何て起こしたら、どれだけポイント査定に響くか。おっと、お前らは失くすポイントもないんだっけか。てことは、退学になるかもなぁ?」
「上等だ、かかって来いよ!」
お、丁度Cクラスが挑発しているところみたいだ。図書室で騒いでいるため、椎名はとても不愉快そうな顔をしている。
「椎名、少し待っていてくれ。あの厄介事を片付けて来よう」
「危ないことにだけはならないようにお願いしますね…」
優しいええ子や…と感動しつつも俺は須藤とCクラスの……誰だっけ? 名前を忘れた奴の所に向かう。
「彼の言う通りよ。ここで騒ぎを起こせば、どうなるかわからない。最悪退学させられることだって、あると思った方がいいわ。それから私たちのことを悪く言うのは構わないけれど、あなたもCクラスでしょう? 正直自慢できるようなクラスではないわね」
「C~Aクラスなんて誤差みたいなもんだ。お前らDクラスだけは別次元だけどなぁ」
「―――誤差? Cクラスの、ましてやモブ風情に随分と舐められたもんだな」
結構かっこいい登場の仕方が出来たのではないだろうか。かませキャラの後に登場する強キャラみたいでいいぞ。――いやでも俺もかませっぽくなってる気がする…。
「その口振りから察するに、あなたはAクラスかBクラスかしら? 部外者には入ってこないで欲しいのだけれど」
初期堀北キツイなぁ…前世の俺なら泣いてたぞ。だが俺は今世でメンタルも鍛えたんでな、鋼のメンタルを手に入れているのだ。
「部外者? お前らが言い合いをしている相手に侮辱されたんだ、無関係とは言えないんじゃないか?」
「言い合いだなんて。向こうが一方的に挑発を飛ばしてきていただけよ」
「残念だがそちらの赤髪の生徒が挑発に乗っていた。だから俺は同レベルだと判断し、言い合いと言い換えた。それだけだ」
そう言うと堀北は眉をひそめて黙った。須藤は何か大きな声を上げているが無視だ。
「黙って聞いてりゃ何だよ! ていうかまずお前誰だよ!」
「悪いな、名乗るのが遅れた。俺は坂柳累栖、Aクラスだ」
Cクラスの…思い出した、山脇だ。山脇が俺に指を指しながら文句を垂れてきた。
「そしてこれ以上図書室で騒ぐようなら、生徒会に報告させてもらう。生憎、生徒会長への伝手はあるんでな」
「もう我慢ならねぇ! 一発殴らせろ!」
俺がそう脅しをかけると山脇は黙り、須藤が痺れを切らして俺の胸倉をつかもうとしてきたが俺はその手を掴み、その勢いのまま腕を捻って相手の背に付ける。
「――はいストップストップ!」
須藤が痛みに顔を歪めた直後に一之瀬がやってきた。
「一之瀬か。お前が来たなら俺がここにいる意味はないだろう、頑張れよDクラス。俺はお前らに期待している」
なんて、ちょっとかっこいいセリフを言って退場し、その後は椎名とまったり時間を過ごした。あ、もちろん帰った後は有栖が拗ねていたよ。ずっと頭をよしよししてあげたら機嫌を直してくれたけどね。
▽▽▽
「ではこれより中間テストの結果を発表する」
なんだかんだで時間は過ぎ、もう中間テストの結果がでたらしい。そこそこ動いたんだから、最悪の結果にはならないだろう。
「大丈夫ですよ葛城さん! あんな兄妹に葛城さんが負けるわけないですよ!」
こちらはAクラスのかませ犬こと戸塚弥彦だ。こいつに関してはなにも言うこともないし、恐らくは年末のクラス内投票で退学になるだろう。
そして真嶋先生は結果の紙を次々に張り出していく。そして結果は―――
「葛城派の平均は78.4点…有栖の派閥の平均は86.9点…そして中立派は…96.5点か。まぁこんなものだろう」
俺がそう言うと、中立派の面子から歓声が上がる。そして葛城派は呆気に取られていた。
「ふふふ、さすが累栖ですね。Aクラスのリーダーはどうなされるんですか?」
「それについてなんだが、俺の妹の有栖に任せたいと思っている。他人を動かす力や頭脳面は俺よりも有栖の方が優れている。有栖をリーダーとして俺や葛城は参謀と言った立ち位置にいるほうがAクラスはより強固なものになるだろう、というのが俺の意見だが異論はあるか?」
異論はなし、か。まぁ皆も凡そ見当がついていたのだろう。
「ま、待ってくださいよ葛城さん!」
「なんだ弥彦。結果は結果だ」
葛城は甘んじて受け入れ、戸塚は納得していないようだ。
「ていうか坂柳! お前どんなズルを使った!」
ズル、か。原作知識があるからこの学校に対して俺はズルの塊みたいなものだな。
「法外な手を使ったわけじゃない。これを見てくれ」
俺が皆に提示したのは原作同様の過去問である。生徒会長こと堀北兄に頼んで10万PPtで譲ってもらったものだ。俺はこの過去問を3回目の勉強会、つまり中間テストの1週間以上前から中立派の各生徒に渡しておいた。
では原作知識のある俺が何故勉強会を2回も開いたか?――それは中立派生徒の学力の把握と底上げのためだ。過去問を勉強会1回目に渡すことも可能だった。だがそんなことをしてもその場しのぎになるだけで結果的には何も変わっていないと判断した。
「か、過去問…? なんか拍子抜けだな…」
「ああ、だがこれは今回限りになるだろう。恐らく今回はこう言った抜け道もあるのだと新入生に知らしめるためのテストだと俺は思う」
そう言うと大半の生徒は俺の言葉に頷き、納得している。
「有栖を筆頭に、このクラスであればAクラスを維持したまま卒業することが可能だと俺は考えている。そのためには全員の能力向上と堅い団結が必要だ。どうか力を貸してくれ」
俺が頭を下げると、クラス中から歓声が聞こえる。Aクラスの弱点は団結の甘さと有栖がいないときの脆弱さだ。そのどちらも補うには俺が動く他ない。
そして俺が顔を上げた際の有栖の降参した、と言わんばかりの微笑みが俺の脳裏に焼き付いていた。
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