今回はストーリーメインでエロが少なめです。マライア姉さんのエロエロな話を目的にしてた人はすいません。
五月一日
それは、五月になったばかりの、やっと春から夏へと変わる季節の移り目のエジプトでのことだったわ。
あたし、マライアはちんけな泥棒だ。自身の持って生まれた恵まれた容姿を使って男を誘惑し、彼らがその気になって気持ちよくなっている間にお財布やアクセサリーをこっそり抜き取っちゃう。
子供の頃から恵まれない家庭に生まれ、娼婦紛いの仕事でしか生きる術がなかったあたしがこんな非道の道に走ったのは、別におかしくはないでしょう。だって世界はあたしたちみたいな女性には何処までも厳しくて、それを救ってくれる悪のカリスマは現れないように出来ているのだから。
だからあたしは、今日もルクソールの街を歩いている見るからに旅行客っぽい男に声をかける。今日の獲物はヨーロッパ人らしき顔立ちの整った青年。
本人は服装を現地の人に寄せて隠しているつもりなのだろうが、あたしの目と鼻は誤魔化せない。彼はなかなかのお金持ち。滲み出るお坊ちゃん感と人の良さが見え見えだ。
「ねぇ、そこの君。よかったらあたしが道を教えてあげましょうか?」
艶やかな、男が好きな女の声のトーンを意識して話しかける。だが決して甘すぎず、エロくなりすぎない声色。ヨーロッパ人は物取りに敏感だから、露骨な猫撫で声は警戒されてしまうから。
「おっ! マジッ!? うっひょ〜、こんな超グンバツなお姉さんに声かけられるとか俺ツイてるねぇ!」
あたしの顔と姿を見て、露骨に顔をだらしなく歪めた照れ顔を晒す馬鹿な男。どうやら今回の盗みは想像以上に簡単に行きそうだ。
「あら、口がお上手ね。そんなあなたはヨーロッパから来たの?」
「おうよ! イギリス生まれの英国紳士よ! 大学を卒業して学生最後の一人旅行ってやつ〜」
「あら、イギリスの学生さんなのね。『エジプトにようこそ、ミスター』」
相手の国がわかったら、その相手の母国語を使う。異国の地で出会った異性が、自身の国の言語を喋れるとなれば男は露骨に警戒心を下げて、勝手に親近感を覚えて馴れ馴れしく話しかけてくるのだ。
「うっお、お姉さん英語喋れるの!? しかも結構お上手〜!」
「ありがとう。独学だからイントネーションは違うかもしれないけど、そこは許してね」
「全然! 全然、気にならないぜ! むしろエジプト訛りの英語が超クール!!」
この通り、美人なエジプト女と母国語で喋れるとわかった男はどんなに警戒心が強かろうとお猿さんの本能に抗えずに隙を晒す。
「そう? それじゃ親切なあなたにサービスも込めて特別な道案内しちゃおうかしら?」
「まじすかお姉さん!?」
普段ならここまで露骨なアピールはしないが、ここまで馬鹿な男だとむしろこのぐらいがちょうど良い。大学を卒業したばかりのボンボンのイギリス人には、精々社会と女の怖さを知ってもらうことにしよう。
あたしは自信のある自分の豊満な胸を青年の体に押し付ける。そして彼が持っていた地図をスッと彼の手から奪って開くと、片側をあたしの左手が、もう片方を青年の右手に持たせ、わざと密着しないと見れないような開き方をする。旅行客を誘惑する時の十八番だ。
「そうねぇ……ここが観光客に有名な市場でしょ。そしてこっちがここで一番のエジプト料理を出すお店。おすすめのルートはね……」
説明しながらチラリと男の様子を流し目で確認する。頬を赤らめ、明らかにチラチラとあたしの胸元を覗き見て鼻口を広げている姿は実に滑稽だ。自分が今、見知らぬ女に体が触れるほどに接近されていることの危険性に全く気付いてないようだ。
だからあたしは空いた右手をそっと彼の鞄に潜り込ませる。チャックを広げて中からこれだと思った物を、長年のスリで磨いた直感に任せて引き抜く。
思惑通り、明らかに高級とわかる革の長財布。それを音も立てずに自身の赤いコートのポケットに落として目的達成。このお坊ちゃんは異国の地で大金を失う羽目になった。
「はい、案内終わり。旅行を楽しんでね、ミスター♡」
「えぇ!? もうッ!? このまま連れてってくれたりは!!?」
「残念だけど、それをしてあげるにはあなたは若すぎよ。さよなら」
そしてさっさと男に別れを告げて、あたしは余裕のある足取りで、しかし微かに歩調を強めて路地裏に消える。万一男が鞄を確かめて財布の紛失に気づいても、すぐ逃げ切れるだけの距離を稼ぐために。
そしてある程度のルクソールの地元民しか知らないような道を渡り歩いて、腰を落ち着かせる場所まで来たあたしは、さっそく今日の成果を確認しようと男の財布を取り出す。
ついでに懐からタバコを取り出すと、いつものようにそれを口に咥えて吹かす。こうしてニコチンを吸っている間は、とても心が落ち着く。
さてさて、肌触りから相当な高級品とわかるこの中には一体どれだけの大金があるのやら----。
「…………はっ?」
思わず、あたしともあろう者が間抜けな声を出してしまった。吸っていた火をつけたばかりのタバコを地面に落としてしまうほどの衝撃。
革製の黒財布の中に入っていたのは、折り畳まれた紙切れ一つ。小銭入れにも、カードホルダーにも、何一つ、一ギネーどころか一ユーロも入っていない。
まさかの無駄足だったのかと、愕然とするあたしは唯一入っていた紙切れを広げて中を確認する。
五月一日〜三日 ルクソール
五日〜八日 アスワン
八日〜十一日 アプシンベル
十一日〜--------
そこには、まるで旅行の予定日程のようなメモ書きが綺麗な英語でつらつらと書き込まれていた。
「なに……これ……?」
「なにって、俺の旅行プランだぜグンバツのお姉さん」
「----ッ!?」
後ろから突如響いたあたしの独り言への答えに、全身が跳ね起きる。振り向いたあたしの先にいたのは、あたしが財布を奪った件の青年。
なぜ、どうやって、どうしてここに!?
「なんでって顔をしているから説明してやるとな…………お姉さんを尾行させてもらったのよ」
「!!?」
その言葉に、あたしの体がより強張る。有り得ないと叫びそうになる口をグッと堪えて、先ほどまでただの金づるであったはずの青年の不敵な笑みを睨みつける。
素人の尾行をあたしが見破れないはずがない。つまり目の前の青年は、明らかにそういうのに慣れた人間だと言うこと。
「へぇ……大学卒業祝いの一人旅行ってのは嘘だったのかしら? 騙されてたなんて、お姉さん傷ついちゃうわ」
口にして、その確信が強まる。たかが学生上がりの人間がこんな事出来るわけがない。ならば相手は旅行者のフリをした私服警官か、はたまたエジプトギャングの一味か。
「おいおい、騙してなんかいないぜ! 俺は正真正銘、卒業旅行の一人旅を満喫しているピチピチの20歳だぜ!」
だがそんなあたしに向かって、青年はそんなふざけた嘘をまだ続けようとしてくる。苛立ったあたしが懐からナイフを取り出すと、慌てた青年はそのポケットから何かを取り出した。
「これ! これ見て! ほら、学生証! もう卒業したけど、オックスフォード大学で考古学科に通ってた証拠だから!!」
青年が誇示するように見せてきたのは、本人が言う通り英語で書かれた学生証だ。そこには綺麗な筆記体でオックスフォード大学の文字が記載されている。
それはあたしが過去に盗んだことがある財布から出てきたオックスフォード大学の学生証と同じ物だ。
だとするなら、まさか本当に?
それにそもそも、あたしを捕まえにきた警察やギャングならここまで手の込んだ嘘をつくはずがない。
「信じてくれたかよ、お姉さん?」
「…………で? それが何?」
だがそれがどうした? あたしのスリに気付き、あたしを尾行したのが本当にただの元大学生であったのは屈辱だが、それがあたしにとって今の状況を変える何かになるわけではない。
むしろ相手が公的機関でも裏社会の人間でもないとわかった今、ここで殺すか逃げるかしてしまえばあたしの勝ちだ。
手に持ったナイフの先端を青年に向け、下手なことをすれば刺すと目に力を込めて睨みつける。
「ストップ、ストップ! 俺はお姉さんに用事があって来ただけなのよ〜」
「それはあたしを捕まえに、ってことでしょ?」
「捕まえるんだったら、最初に後ろから声をかけずに警察呼んでるぜ」
手を横に振り、色々と御託を並べる青年の姿に、もう面倒くさいとあたしは適当に男を切りつけてこの場を逃げることを選んだ。
ダッと足を踏み込み、ストリートで生きる上で鍛えられた足運びで一瞬で男との距離を詰める。後は適当に腕でも切ってしまえば、恵まれた環境で育った人間は死にもしない怪我に涙を流して疼くまるだろう。
だが----
「おっと、あぶね!」
「なっ……!?」
あたしの奮ったナイフを男は体を半身にして避けた。それもたたらを踏んで偶然とかではなく、間違いなくナイフの軌道を読んだ上での回避。驚くあたしに青年はいつのまにか手に持っていたジュースの缶をこちらに向けていた。
「ちょっくらそのナイフには退場願いたいね、波紋!」
ぷしゅうううと突然爆発したように噴き出したジュースが、まるで消防車のホースの勢いをもってあたしのナイフを持つ手を強かに打ち付ける。
「あぐっ……!」
その衝撃にナイフを手放してしまったあたしは、その突然の意味のわからない現象に足首を取られ、その場で大きく転んでしまった。
地面に頭をぶつける、そう思ったあたしの体は、ストンと青年の腕にまるで抱き止められるように支えられたのだった。
「よっと……大丈夫かい? ってお姉さん軽いな、どうやったらそんなスリムを維持できるわけ?」
自分をナイフで刺そうとした女を助けて、あまつさえ軽口まで叩く青年の姿に、あたしは情けないことに、完全に唖然としてしまった。
「どういうつもりなの……?」
「だから言ったろ、俺はお姉さんに用事があるって。よっと……!」
あたしの体を抱き起こして立たせた青年は、軽く手の平を叩くと、その手をあたしに向けて差し出してきた。
「お姉さん、現地の人だろ? さっきの案内めちゃくちゃ詳しかったからよ、是非ともツアーガイドを頼みたいのよ」
「………………はぁ?」
それはあたしの人生史上心からのはぁ? だった。それはもちろん意味のわからない、馬鹿な言葉に対する呆れと侮蔑の感情を込めてのだ。
「おっと、冗談じゃあないぜ! もし引き受けてくれるなら、お姉さんが盗もうとした財布の中身、お礼として支払うからよ!」
そう言うと男は懐から大量の札束を取り出した。思わず目を丸くしてしまったあたしは悪くないだろう。なぜならそれは、あたしが今までスリで稼ぐお金の半年分はゆうに超えそうなほどの大金だからだ。
というか、たかが旅行にこれほどの額を用意するなんて、頭おかしいのかこの男?
「どうだ、受けてみる気はないか? そうしたらお姉さんも、盗んだ汚い金じゃなく、仕事をして得た正当な対価を得られるぜ」
「お金なんて使ってしまえば汚いも綺麗も一緒よ、坊や」
「おっと、確かにその通り。だけど、一ヶ月今みたいに危ない橋を渡って少ない金を稼ぐのと、一ヶ月真面目にお仕事をして大金を稼ぐの、どっちが得って話!」
ちなみにお婆ちゃんから聞いた話だが、これからエジプト警察の巡回が厳しくなってくるらしいぜ、と付け足す青年は嘘をついているようには見えない。
その茶目っ気を全開にした笑みであたしに語りかけてくる姿は、正直実際の歳よりも若く感じさせる。
そしてそれを観察しながら、ようやく冷えてきた頭であたしは男の提案を珍味する。正直、悪い提案か否かと言えばかなり良い話だ。
警察に捕まる心配もなく、ただ金持ちのお坊ちゃんにエジプトツアーをするだけで大金をもらえる。
唯一の不安要素が、あの青年の本性がわからないこと。おそらくあたしの体目当てなのだろうが、こんなまどろっこしい事をする意味がわからない。あの大金があるならば、あたし以外にも容姿の良い女を抱き放題だと言うのに。
あたしを愛人にしようとしてるとか? あたしを油断させて、どこかに売り払おうとしている?
いくつかの予想が頭の中を駆け巡るが、最終的に下された決断はイエスだ。提案に乗る。
仮に何かされそうになったとしても、あたしには奥の手がある。この無敵の力がある限り、あたしは安心だ。
「いいわよ、乗ってあげる。これから短い間だけどよろしくね坊や?」
「………ッ! へへッ、よろしくな! えーっと、そう言えば名前聞いてなかった。女性の名前を聞きそびれるなんて、紳士失格だぜ。また婆ちゃんに怒られる」
「あらあら、良いお婆さんを持ってるみたいね。あたしはマライアよ、坊や。あなたの名前は?」
そう聞いたあたしの前で、青年はまるで格好をつけるように額に右手の指を当てると、先ほどの軽薄な雰囲気が感じられないほど堂々と、まるで黄金のような凛々しさを持って名乗ったのだ。
「俺の名前は、
五月三日
あれからジョジョの旅行のツアーガイドをすることになったあたしは、彼と共に連れ立って主だった観光名所や現地の人行きつけのレストランやパブを訪れた。
あたしが観光客を騙すために本物のツアーに混じって覚えた知識を、ジョジョはまるで子供のように素直に聞いては面白がっていた。
特にエジプト人にしかわからないうん蓄やジョーク、地元ネタは大層気に入ったようで、お酒の席で話すと実に盛り上がった。
そして、あたしにツアーガイドを了承させた時の話術からわかっていたが、彼はなかなか話が上手い。それは盛り上げ上手だったり、相手の好む話題を即座に探り当てる観察眼だったり、相手を緊張させずリラックスさせてしまう独特な雰囲気だったりと様々だ。
男を誘惑させるあらゆるテクニックを知っていると思っていたあたしでさえも瞠目するような、テクニックの数々。そしておそらくその半分は素で、そしてもう半分は意識しての計算でやっているのだ。
悔しいが、なかなか彼との会話は学ぶことが多い。それこそ、思わずあたしの誰にも言ったことのない秘密を打ち明けそうになってしまうぐらいだ。
楽しいし、実のある会話だが、同時に油断ができない。そんな彼との三日目の夜のこと。
あたしは何気なく、彼になぜあたしにツアーガイドを頼んだのかの本当の理由を聞いてみた。おそらくはぐらかさせると思っていたあたしの問いに、彼は意外にも居住いを正すと、真っ直ぐにあたしに向かって言ってきたのだ。
「困っている女性を助け、親切にするのがジョースターの男たる者の務めだと、叔父から教わって、俺もそう思っているからだ」
「あたしのような犯罪者にも、手なんて差し伸べるなんてずいぶんな聖人の家系ね」
「ああ、なんてたって俺のひぃひぃひぃお爺さんは、当時自分を助けるフリをしてお金を盗んだ男にさえ恩義を感じて、男が死んだ後の息子の世話をしたぐらいだからな」
なにそれ、と思わず吹き出してしまう。とんだ馬鹿でお人好しの男だと思っていたが、家系図を遡ればもっと馬鹿なお人好し様がいたと言うことか。
「そう、じゃああたしに大金を恵んでくれるチャンスを下さったそのご先祖様に、乾杯」
「おうよ、俺もお姉さんみたいな美人とお酒を楽しめる家訓を作ってくれたご先祖様に乾杯するぜ」
カシャンッとお互いのグラスを重ね合う。口では軽く言っているが、その実隠しきれていないそのご先祖様への敬意が感じられる青年の声に、あたしは心の内で本心からの微笑みを浮かべてしまう。
どうやら、あたしが不安視していた彼の本性はどうしようもないお人好しだったようだ。
五月八日
ルクソールからアスワンに、そして今そのアスワンからアプシンベルに向かう電車が来るホームで、あたしは一人アイスクリームを舐めながら電車内で食べるランチを買いに行ったジョジョを待っていた。
早いものでもう彼とエジプトを観光するようになって一週間。決して長いとは言えないはずのわずか八日間は、あたしにとってかなり充実した日々になっていた。
ルクソール以外の都市の名所やおすすめレストランも、もちろんあたしの頭には入っている。そもそもあたしがルクソールにいたのだって、スリのしすぎて顔が割れてくる度に街を移動して行って流れ着いただけなのだから。
それまでに、あたしはほとんどの主要都市で活動をしていたことがある。なので自分が思っていた以上にツアーガイドはあたしに向いていたらしい。それこそ、このまま本当に観光客向けのガイドの仕事でも始めようかしらと思ってしまうぐらいに。
レロレロレロとジョジョが待っている間にと買ってくれたチョコアイスを舌で舐める。三段重ねにされたアイスの塊は、本来なら二段だったのを店主が恋人にあげる物と、あたしたちの姿を見て勘違いしておまけしてくれたのだ。
馬鹿らしいと笑おうとして、しかしここ一週間の自分とジョジョの行動は、確かにカップルのそれと間違われてもおかしくないことに気づいて苦笑いが浮かんでしまった。
あたしが性に合わないことをしていると、ふと実感してしまったのだ。いつだって自分第一で、思い通りにならないと苛立ってしまう。控えめに言ってもなかなかの小悪党だと思う自分が、あんな善人を絵に描いたような男の恋人? 冗談でも笑えない。
「おいおいねぇちゃん。さっきから実にエロくアイスを舐めてるじゃねぇか。誘ってんのかい?」
ふと、あたしの横から気持ちの悪い笑みを浮かべた複数人の男たちが近づいてくる。その目はあからさまにあたしの胸やお尻、太ももに露出したお腹とねちっこい視線を浴びせている。
不覚だった。つい癖で男を誘惑するようなアイスの舐め方をしていた自分を恥じた。それは身についた職業病とも言うべきか、常に男を誘惑してその懐からお金をくすねてきたあたしにとって、外で何かを食べる時は常に誰かの視線を意識して無意識に色っぽい仕草をしてしまうのだ。
ジョジョといる時は、彼の存在が防波堤となって絡まれなかったが、こうして駅のホームで一人でいるあたしは、確かに絶好のナンパ相手だろう。
「悪いけど、あたしには先約がいるの。わかったら、そのままあたしの前から消えなさい」
「おいおい、釣れないこと言うなよねぇちゃん! 本当はそうやって今日の相手を誘ってたんだろぅ!」
「----ッ!!」
気色悪く近寄ってきた男の一人が、あたしのお尻をその汚い手のひらで強く揉み込んできた。
一瞬で頭に血が上る。いつものあたしなら余裕を持って躱していなせるような相手に、だけどなぜかこの時は激情のままにその男の顔面を蹴り飛ばしていた。
それはもしかしたら、ジョジョとのここ数日の想い出に浸かっていた自分を最低な行為で邪魔したことへの怒りだったのかもしれない。
「うげぇぇッッ!!?」
「て、テメェこのアマッ! やってくれやがったな!!」
「その顔、元の美人顔が台無しになるまで殴り飛ばして----ッ!」
「誰が、誰の顔を殴り飛ばすって……?」
激昂する男たち、その後ろからこの一週間ですっかり聞き慣れた男の声が響き渡る。
遅いのよ、と思わず口裏で愚痴ってしまうあたしの前でジョジョは一瞬にしてあたしに絡んできていた男たちをボコボコにしてしまった。
「いやぁ、悪い悪い。待たせすぎちまったな! 大丈夫だったか?」
「問題ないわ。あたしがあんな連中に遅れを取るような柔な女じゃないことは、ジョジョも知ってるでしょ?」
「わかってるけどよ、なんか……怒ってたみたいだからな……」
「………………なんでもないことよ、気にしないで」
あたしは自身の心に湧いた何かを誤魔化すように、懐から取り出したタバコに火をつけて心を落ち着かせる。
ふぅーーと煙を吐くとそれだけでさっきまでの怒りやジョジョに感じた何かは霧散していく。
「けほけほっ! ちょっ、いきなりタバコ吸うなって!!」
ツアーガイドを受けてからすぐ知ったことだが、どうやらジョジョはタバコの煙がお嫌いらしい。そう言うところも子供っぽくて可愛らしいと最近思うようになって、煙を吸って咳をする彼を見て、あたしを待たせた罰よと微笑むのだった。
五月 十一日
「確か次はナイル川に沿ってギザに向かうのよね?」
「おうよ! レンタカーを借りて車で行くつもりだぜ!」
アプシンベルにある高台から街並みを眺めながら、あたしはすっかり隣にいるのが自然となったジョジョに話しかける。
彼の旅行の予定はカイロで終わりらしく、ギザまでの道のりをゆっくり車でドライブした後は、ギザに5泊、カイロにも5泊ほどしてイギリスに戻るらしい。
カイロ国際空港でのイギリス便のチケットを見せてもらったがその日付は25日を示しており、確かにギザまでわざと遅く進み、途中で路駐泊しながら何日かかけて行くのが丁度いいだろう。
「一応念のためもう一回聞いとくけどよ、本当にホテルが見つからなかった時に、同じ車の中で寝るのは大丈夫なんだよな?」
「しつこいわね。気にしないって言ってるでしょ」
そして路駐泊となった際には当然、あたしとジョジョは狭い車内で一緒に眠ることになる。今まで泊まるホテルではジョジョがわざわざ部屋を別々に取ってくれたりと、イギリス紳士様々なことをしてくれていたが、さすがに一台の車の中ではそれは出来まい。
なので彼はもしホテルが見つからなかった場合は、自分は外で寝袋に包まっておくなんて、夜の砂漠を舐めているとしか思えないことを宣ったのだ。
あたしがそんなの気にしないわと何度も言っても、「未婚の女性と同じ空間で寝るのは……おばあちゃんに殺される……!」と駄々を捏ねていたのだが。最終的に、あたしが砂漠の危険性を懇切丁寧に説いてあげて、もし何か変なことをしたら容赦なくぶん殴ってあげると言うあたしの言葉で納得…………したのだが、こうして何度も確認してくるのだ。
あんなに普段は堂々として、女にも下心全開のナンパまがいのことをするくせに、こういうところで急に紳士な部分を見せてくるのは何というか。
「はぁ…………」
ため息を一つ、なぜか再び心に湧いた変な感情を押し込めようと懐からタバコを取り出す。そしてそれにいつものように火をつけようとして----ふと、隣でタバコを咥えたあたしを見て距離を取るジョジョを見た。
急に離れてしまった彼から伝わる雰囲気に、なぜか無性に心が冷たくなって。
「そんなにタバコ……嫌?」
「あははは、父ちゃんがヘビースモーカーで、きついのばっかもらってたからなぁ……」
「………………そう」
素っ気なく彼の言葉を受け流した風を装って、あたしは口につけていたタバコを元のタバコ入れに戻す。
「あれ、吸わないのか?」
「そんなに毎回吸う度に離れられたら面倒なだけ。あなたとの旅行中だけは我慢してあげる」
その日からあたしは、あれほど好きだったタバコを吸わなくなった。
五月 十四日
「ぬぐぐ、あの親父め! イギリス人は泊めないだと! 差別だ差別! ベェーだ!」
「はいはい、諦めて車に戻りましょう」
ギザを目前にしたあたしとジョジョは、ついにと言うべきか車中泊をすることになった。
最も今日までが運が良すぎたのか。普通この時期のナイル川沿いのモーテルに予約も無しに泊まろうなんて、無鉄砲が過ぎる。
ジョジョが大学卒業旅行に来ているように、他の人間にとってもエジプトは今観光場所として打って付けなのだから。
ことごとくホテルやモーテルに満席を告げられ、最後に大幅にルートを外れて来たモーテルにも宿泊お断りのお達しをされてしまった。
その理由はジョジョがイギリス人だからと言う物らしいが、大家らしい男が自分に向けた下卑た視線からして美人な自国の女と旅をしているジョジョが気に食わなかったのだろう。
事実ジョジョが離れた隙に、あたし一人だけなら特別にタダで泊めてやるなんて誘ってきたのだから。当然袖にしてやったし、なんならついでに男の懐から財布を盗んでもやった。
ともかく、こうして初めてジョジョと同じ空間で寝泊まりすることになったあたし。
ジョジョはさすがと言うべきか、自然にあたしへと後部座席を譲り、自身は運転席のベッドにさっさと腰を下ろしてしまった。
そして帽子を目深に被ってさっさと寝てしまおうとする彼の姿に、あたしはちょっとした悪戯心が芽生えてしまう。
それは数多くの男を誘惑してきた女として、ジョジョを一度は本気で誘惑してみようというプライドだったのか…………はたまた、タバコを止めてからかき消せなくなった未知の胸の高鳴りによるものだったのか。この時のあたしは知る術もなかった。
「ねぇ、隣で寝ていい?」
「え゛えッ!? 隣って、隣ィッ!?」
帽子を頭から落として慌てふためくジョジョを尻目に、あたしはよいしょっと後部座席から運転席の隣を潜って助手席へと移動する。
そうして隣り合う形となったあたしとジョジョ、いつものような立ち位置になった現状になぜか心が安らぐ。
決して人前では見せたことがない、心から安心しきった時にしか出せない微笑みをジョジョの前で晒してしまう。それほどに、あたしが彼に心を許しているのだと今のあたしは、少しだけ認められる。
そのあたしの姿に、ジョジョも何も言えなくなったのだろう。再び顔を真正面に戻して帽子を被って眠りに着こうとしている。
それが嫌で、あたしは彼の帽子を奪い取るとそれを自分の頭に被ってしまう。「ぬあっ!?」と変な声を上げる彼がおかしくて、そんなあたしを見てジョジョもまた照れたように笑ってくれる。
夜の広大な砂漠の、小さな車の中で、あたしとジョジョの奇妙な二人組の笑い声がこだまする。
不意に、どちらともなく二人で車内から見える夜の砂漠の星空を見上げた。それはまばゆいばかりに当たりを埋め尽くす
ふと、隣に座るジョジョの横顔を私は見た。
目を輝かせる彼の顔は子供のようで、だけどこの二週間で知った彼は知的でユーモアがあって、その歳の頃とは思えないほどの度胸があることを私は知っていて----
----だから、彼の恋人になってもいいなんて思ってしまって
「ねぇ、ジョジョ」
「なんだよお姉さん」
「マライアって呼ぶ気はない?」
「……いや、でも年上だし」
「あたしは気にしないから……呼んでくれない? ジョジョ」
「………………マライア、さん」
「呼び捨てでいいわ」
「…………マライア」
「ふふ、それでいいわジョジョ」
「…………………」
「…………………」
「…………ねぇ、ジョジョ」
「なんだ、マライア?」
「キス、していい?」
「……………いいぜ」
「………んっ」
それがあたしの初めての恋の始まり。
五月 十五日
「あぁら♡ 女を抱くのは初めて? ジョ、ジョ♡」
「う、うるせぇ! 家の事情もあって、金目当てで寄ってくる女が多くて機会がなかっただけだっつうの!」
「へぇ、じゃあ童貞なんだ♡」
「ぬあっ!?」
ギザに着いてすぐに、あたしとジョジョは予約していたホテルの一室でその身を重ねていた。
あたしは人生で初めてと言える興奮を感じながら、ジョジョの前で服を脱いでいく。いつもの赤い頭巾を外し、タイトスカートを脱ぎ捨てる。露わになったあたしのスパッツに包まれた下着とお尻を見て興奮するジョジョの姿が、今まで誘惑してきた男と同じ姿のはずなのに、とても愛おしく感じてしまう。
トップスを脱いで、スパッツも下ろせばあたしに残っているのは褐色の肌をよく見せるための上品な黒の下着だけ。
それさえもはいっと外してしまえば、あたしの豊満な胸も、引き締まったお尻も、そして股から覗く陰部も全てジョジョに曝け出してしまえる。
「さぁジョジョ、女性にだけ脱がせるなんて……そんな紳士じゃないこと、しないわよね?」
「お、おうおう! 当たり前だ!!」
あたしが煽るようにわざと蠱惑的な声で言えば、反抗するようにジョジョもまた服を脱ぎ捨てていく。
そして露わになるのは、ここ二週間でわかってはいたが、とてもガッチリとした男の体つき。見せるためではなく、実用のために鍛え上げられた体だと一目でわかる筋肉の締まりは、それだけであたしの中の女が熱を持って、下腹部を切なくさせてしまう。
何よりジョジョの股にぶら下がる怒張。それを見た瞬間、あたしは今までの余裕ある大人の表情を忘れて魅入ってしまった。
大きくて、力強く、女の子宮を貫くために生まれて来たような彼のチンポ。
ごくりと知らず生唾を飲み込んで、あたしはもしかしたらジョジョ以上にこれからするセックスを熱望していた。
「さぁジョジョ……マライアお姉さんがお世話してあげる……♡」
パンッ!パンッ!!パンッ!!!
「お゛ほっ! ま、まって、ジョジョ……おおぉッ!? こんな、はげし……んひぃ! 気持ちよすぎ……よすぎるからぁ!! あ、あああぁぁぁ----ッ!!!」
違う。こんなはずじゃなかった。あたしが童貞のジョジョを大人のお姉さんとしてリードして、手綱を掴んで、男の快楽を教えてあげるはずだったのに……!
なのに、どうしてあたしの方がジョジョに組み伏せられて、女の快楽を叩き込まれているのさ!?
「おっ、おっ、おおッ! 子宮に届いてるッ! ジョジョのチンポが、あたしの子宮にキスしてるッ!! お゛おぉ、ごんな、こんなはずじゃあ……ダメ、待って……イク! イクから待って……! あっ、あっ、イッくぅぅっぅ----!!!」
頭がスパークして視界が真っ白に染まる。全身に満遍なく行き渡る、感じたことがないほどの強い快楽。体がその衝撃にピンっと弓形に跳ね上がり、掴んだシーツを破れそうなほどの握力で握り締める。それでも逃すことも耐えることも叶わない、もはや暴力的と言っていい絶頂の波にあたしは、数多の男を誘惑した魔性の女としてのプライドも、大人のお姉さんとしての意地も忘れて、今日何度目ともなる無様な嬌声を響かせた。
「おぉ……おほぉ……あっ、あんっ! ジョジョ、お願い、あたしが悪かった、んほぉ!! おっ、おっ、もう許して、気持ちよすぎるからぁ!!」
あたしの四肢はもう力を失ってベッドに投げ出されていて、唯一チンポを咥えてだらしなく持ち上がったお尻にジョジョがその大きな体を何度も打ちつける。
その度に膣襞を擦り上げるカリ首に口から出る懇願の言葉はオホ声に変えられ、体をジョジョの逞しい体でプレスされる快感は、あたしに開いてはいけない道の扉を開かせようとしてくる。いや、もしかしたらもうすでに手遅れかもしれない。
こうなったのは、全てあたしとジョジョの体の相性があまりにも良すぎた事が原因だ。
あたしはプロのスリであると同時に誘惑のプロフェッショナル。金持ちの男の財布を奪うため、夜を共にした事だって何度もあるし、彼らを満足させて眠りにつかせるテクニックをあたしはたくさん実践で学んできた。
だから童貞のジョジョ程度、本気になったあたしからすれば簡単に主導権を握れて、あたしの手の平で踊る可愛い坊やになるはずだったのに。
それがなぜ、あたしがジョジョの腰の下で喘ぐ無様な雌にされているのか。
最初は上手く行っていた。緊張するジョジョにあたしの胸や膣を触らせ、女の感じさせ方をレクチャーしていた時はまさしくあたしが思い描いていた流れだった。
それが変わったのは、ジョジョのチンポをあたしの膣に挿入させた瞬間。
あたしは自分の膣を押し広げて入ってくるジョジョの肉棒の存在を感じただけで、絶頂した。
「えっ?」と心の中で困惑して、今までのセックスでは感じたことのないような結合した性器同士のフィット感。まるでそうあるのが当然だったというぐらい綺麗に嵌って、ハマってしまったあたしの膣とジョジョのチンポ。
そしてジョジョのピストンが始まった時、あたしは今までのセックスがお遊びで、自分が一度も本当のセックスをしたことがなかったのだと知った。教えこまされた。
「あひっ、あッ!! イク、あたしまたイクぅ! ジョジョ、ジョジョ! ジョジョとのセックスでイクぅぅぅ----ッ!!!」
子宮を亀頭によってノックされるのが、こんなに気持ちいいと知らなかった。男に上からプレスされるたびに全身を駆け巡る、支配されているという感覚が、こんなに病みつきになるほど素晴らしいなんて知らなかった。
何より----
「ジョジョ! ジョジョ、ジョジョ!! あたしをもっと強く突いて! あなたを感じさせて!!」
恋をした人とするセックスがこんなに心を昂らせてくれるなんて、知らなかったんだから。
「マライア、俺もうイクぜ!!」
「いや、抜かないで……!」
あたしの懇願に反するように、ジョジョはあたしの膣からチンポを引き抜こうとする。それは彼にとっては当然の行為。だって今あたしたちはコンドーム無しでセックスをしているのだもの。
それはあの車内でキスをしてから、お互いを求める熱が強すぎてコンドームを買う暇もなくホテルについておっ始めてしまったからだ。
万が一妊娠してはいけない。それはわかっている。何せ彼は間違いなくイギリスの大金持ちの息子で、あたしはエジプトの下町で男から金をスって暮らす最底辺の女。身分も性格も境遇も違いすぎて、こうして体を重ねる関係になっている事が奇跡なのだ。
それがわかっているのに、あたしは彼の精液を子宮で受け止めたくて彼の体を捕まえようと足を動かそうとしてしまって。もちろん、とっくに力が入らないほど弛緩した体にそんな体力はなくて、彼はあたしの膣から抜き取ったチンポで、あたしのお尻に向かって精液を射精する。
尻肌から感じる彼の子種の熱。それはとても暖かくて心地よくて、同時にそこじゃないんだとあたしの中の雌が訴える。
彼にとってこれは、旅行先での淡い恋物語の一つとなるのだろう。卒業旅行で知り合った現地の女性といい雰囲気になって、体を重ねた。よくあるストーリーだ。きっと、大きくなって思い出話として聞かせるには情熱的な話となるだろう。
そうだ。あたしにとっても、この一夜はそんな一夏のアバンチュールとして仕舞っておくべき思い出の一つ。今夜だけの関係。ワンナイト。
ここまで体の相性が良かったのは驚きだけど、それだけ。明日になったら、何事もないただのガイドと観光客に戻って別れの日までの残り十日を過ごすだけ。そう自分に言い聞かせて、今の自分がしようとした行動を気の迷いだと忘れてしまう。
そのはずだったのに----
五月 二十日
「はぁ、はぁ、ジョジョ♡ ジョジョ♡」
「うっ……マライア、出る!!」
あれから毎晩、あたしはジョジョと愛し合っていた。彼の腰の上で尻を振り、何度も彼の唇にキスをする。もう大人の余裕とかプライドとかどうでもよくて、ただ一分一秒でも彼と体を重ねていたい。
誘いは毎回あたしから。元大学生のくせに、一回やったら満足したとかふざけた事を言うジョジョを無理やりベッドに誘い、毎晩あたしの方から誘惑して彼を求める。
男を誘惑して、手玉に取って来たあたしが、ジョジョという雄に誘惑され、体も心も彼を求めて絡め取られてしまっている。そしてその事実を、嬉しいと感じてしまう自分が何よりもジョジョの虜になってしまった証だ。
自身の膣内で感じるジョジョのチンポが膨れ上がる感覚。それだけで、多幸感で絶頂しそうになる体を押さえつけて、彼にしがみついてその体を決して逃げられないように固定する。
そしてその状態で膣内に吐き出される精液は…………残念ながら全てコンドームによって止められてしまう。
結局、それからもセックスするならと、ジョジョがコンドームを買って来たのだ。そのおかげで妊娠の心配なく全力でお互いを求められるのは、確かにあたしにとっても嬉しい。
でも、何かが違うと、あたしの長いストリート暮らしで消え去ったと思っていた少女の心が、あたしに囁くのだ。
本当にこれでいいの? と。
一夜の関係ではなく、旅行の間だけの関係。それの何がおかしいと、あたしは自分に言い聞かせる。住む世界が違う彼をこれ以上求めたところで、どうにもならない。
「ねぇ……あなたって、あたし以外の女性でもあんな風に助けるの?」
行為が終わってお互いに同じベッドで添い寝をしながらのピロートークで、ふとあたしは紳士として困ってる女性を助けるのは当たり前と言っていたジョジョを思い出して問いかけていた。
それは、ほんの興味。彼のおかげで、確かに何かが良い方向に変わったあたしの、ちょっとした好奇心。
「まあな……! 紳士たるもの、どんな女性にも優しく、親切に! 今までも、これからも俺はそうやって生きてくぜ!」
「…………………………へぇ、そう」
その時胸に宿った火は、果たして何だったんだろう?
ただ彼が、あたしじゃない女性を助けて、あたしにしてくれたみたいに親切にしてあげるだけじゃない。
あたしが彼の特別じゃないってだけで…………。
ガリッ
ああ、タバコが吸いたいな。この心を落ち着けたい。
五月二十二日
「はぁ……はぁ……ジョジョ、ジョジョ!! んっんんッッ!!!」
腰を振る。彼の上で。まだあたし以外の誰も締め付けたことのない彼の肉棒をあたしの膣で咥え込んで。
「マライア……! そろそろ寝ようぜ!もう十二時回って……んぐぅ!?」
「はむっ……ちゅる……じゅずずっ……♡」
おかしな事を言うジョジョの口をあたしの唇で塞ぐ。彼の舌にあたしの舌を繋げて、お互いの唾液を相手の体の中に行き渡らせる。
あと三日。 考えたくない
「ジョジョ、ジョジョ! もっと、もっとしましょう!」
彼の胸板にあたしの豊満な胸を形が変わるほど強く押し付ける。両手を彼の首に回して、絶対に離さないと、強く、強く。
あと三日。 考えたくない
「ねぇ、ほら。コンドーム、無くなりそうでしょ……勿体ないから全部使い切るまで、今日はやりましょう……!」
使い切ったコンドームをあたしの口を使って付け替える。喉奥にまで咥えたジョジョのチンポの熱さが、愛おしくて、愛おしくて。
あと三日。 考えたくない
「ジョジョ♡……ジョジョ♡♡……ジョジョ……!!!♡♡♡」
彼と口で、性器で重なり合う。胸で、お腹で、手で、足で、彼を感じる。あたしの全てをジョジョに捧げて、彼の全てをあたしが感じる。
あと三日。
いやだ。
五月二十四日
「おっといけねぇ、忘れ物忘れ物!」
「きゃっ……!!?」
突然部屋に戻って来たジョジョの声に、あたしは持っていた物を落としそうになった。次いで、慌ててそれを後ろ手に隠すと風呂場に行って後三十分は帰ってこないはずだった彼に笑いかける。
「驚かせないで、ジョジョ。心臓に悪いじゃない」
「悪い、悪い……! ん? 後ろ、なんか持ってんのか?」
「----ッ!!」
ジョジョの指摘に、体が強張る。彼の観察眼の良さを甘く見ていたわけではないが、それでもこうまで簡単に見抜かれると心がヒヤヒヤする。辛うじて、まだ彼はあたしの持つ物が何か見えていないようだ。
「内緒よ。レディの秘密を探ろうなんて、悪い子……♡」
「いや、別にそんなつもりはないんだけどよ」
この一ヶ月ですっかり気の置けない仲になったあたしの言葉に、ジョジョはそれ以上の追求はせずに忘れていたというボディソープを持って再び風呂場へと戻っていく。
「………………ふぅ」
閉められた扉の先からようやくシャワーの音が響いて来たのを聞いて、あたしは安堵のため息と共に…………手に持っていたコンドームとそれに穴を開けるための針を置いた。
「…………あたし、なにしてるんだろ」
ジョジョが戻ってくる前までの自分は気がおかしかったんじゃないか? そう、彼と喋ったことで平静を取り戻した心で数分前の自分の行動を思い返す。
ジョジョとこのまま別れたくない一心で、今日使うはずのコンドーム全てに針で穴を開けて、少しでも彼との思い出を自分の体の中に残そうとしていたあたし。
馬鹿じゃない。たとえ中出しされたとしても、それで妊娠できるかなんてわからないのに。
そもそももし妊娠したとして、どうすると言うんだ。それがわかる時には、ジョジョはとっくにイギリスに戻っている。職もなく、男の金を盗んで生きるあたしが大きくなったお腹を抱えてどうすると言うんだ。
そんなの、野垂れ死ぬに決まっているじゃないか。
「…………っ、うっ………ぐっ……!!」
涙が溢れてくる。初めてこんなに人を好きになった。そんな自分が憎い。自分をここまで狂わせたジョジョが憎くて、それ以上に大好きで。感情の整理がつかないままに、地面に座り込んで、明日訪れる別れに恐怖の涙を流すしかなくて----。
「悪い、俺がなんか追い詰めちまったみたいだな」
「----えっ?」
ぎゅっと後ろからあたしを抱きしめる大きくて温かい手の感触を、あたしは現実のように感じられなかった。
「----なんで」
「ちょいと前からマライアの様子がおかしいのは察してたからよ……さっきの忘れ物も、わざと置いといてな。実は全部、扉の影から見てた」
「ッッ!!?」
その告白に、あたしは思わずジョジョの体を跳ね除けようとした。だけど彼のあたしを抱きしめる力は強くて、あたしの抵抗はただもがくことだけだ。
「----ッ! だ、だったら、あたしがどう言う女かわかったでしょ! あたしは、あんたの子供を産んで、あんたに養育費と口止め料を貰おうとした最低な女さッ!」
あたしの口から思ってもない事がスラスラとこぼれ落ちる。それはあたしが今まで生きて来た人生経験で身につけた咄嗟の対処法。変に失望されるぐらいなら、こっちから徹底的に嫌われることを言って関係を絶ってしまおうという、自分の身を守るための癖。
それを、最悪なタイミングで、最も言いたくない人の前で晒してしまった。
「………………」
「どうよ、これがあたしの全て! 残念だったわね、あなたの初めての相手があたしで! 坊やにはすぎた火遊びだったってことよバァカッ!!」
自信のあった美貌をこれ以上となく歪め、涙と鼻水を垂らしながら罵倒する。拒絶する。
何も言わないジョジョがあたしを憎んでいるんだと思うと、それだけで、あたしは----。
「……………………そうか。 本当にすまねぇ。俺、ついこの前まで童貞で馬鹿だからよ、今のマライアの言葉が本当かどうかわからねぇ。でもな…………そんなに辛そうな顔して泣く女を助けねぇのは、ジョースターとして----いや、ジョン・ジョースターとしてありえねぇ行為だ!!」
「--------ッッ!!」
ジョジョが、あたしの体を今度は正面から抱きしめてくる。強く、強く、少し痛いくらいの強さで。
それが、絶対にあたしを離さないと言ってくれているようで、あたしのあんなに乱れて、ぐちゃぐちゃになっていた心が急速にその安定を取り戻していく。
「………………落ち着いたか?」
「…………うん」
「はは……うんってマライアも可愛いところがあるんだな」
「うっさい…………デリカシーがないのに勘のいい男なんか嫌いよ…………」
「…………………話してくれるか?」
「…………………話すわよ…………ここまでされて、話さないわけないでしょ」
それからあたしはジョジョにあたしの想いを全て伝えた。あたしのこと、あたしの想い、あたしのしたいこと。
それをジョジョは全部黙って聞いてくれて。
そして----
五月二十五日
「そんじゃ、ここまででいいぜマライア!」
「そう? イギリスまで気をつけて帰ることね」
カイロ国際空港でスーツケースを引いて入場ゲート前で立ち止まったジョジョに、あたしは別れの言葉を告げる。
一体どれだけのお土産を買ったのやら、先ほど三つもスーツケースを預けたのに、手荷物でまだスーツケースを持っていくジョジョの子供っぽさに呆れて物も言えなくなる。
「へっへ、言われなくとも! 自慢じゃないが、このジョン・ジョースターが乗った乗り物は今まで一度も事故にあった事がないんだぜ!」
「……? それ、そんなに自慢になるの?」
「いやいや、うちの爺ちゃんにとんでもないくらい乗り物運が悪いのがいて、飛行機に乗れば墜落し、船に乗れば沈没しと、それはもうすごいのがなぁ」
なにそれ。先祖の話を聞いた時も思ったけど、彼の家系は誰も変人ばかりのようだ。別れの時だと言うのにそんなくだらない世間話をしてしまえるのがとても嬉しくて、あたしはすっかりここ最近で自然に出せるようになった微笑みを見せる。
「ふふ、じゃあその続きは
「おうっ! もちろんだ!!」
今度。彼が約束してくれたまたねの機会。この旅行でのあたしとの出会いを、過去の思い出にはしないと誓ってくれた彼の再会の言葉。
単なる口約束でしかないのに、あたしはそれを無条件に信じられる。今まで誰も信じてこなかったあたしが言うのも、おかしな話だけどね。
「----ねぇ、ジョジョ」
「んっ、どうした? マライ----」
「ちゅっ----」
彼の唇に口付ける。あの星屑が空を覆う夜の砂漠の下で初めてを捧げてから、今まで何度となく行なってきたキス。
今まであたしにとってキスは、男を誘惑するためのものか、性欲を解消するためのものでしかなかった。
だからこれは、あたしにとって初めての再会を誓う、少女の頃のあたしが夢見たようなロマンティックなキス。
「…………ぷはぁ♡ それじゃあ、また会いましょうジョジョ」
「………ふ、おうともよ!」
最後に、笑顔で手を振ってゲートの向こう側へと消えていくジョジョの姿をその目に強く焼き付けながら、あたしとジョジョを繋いだ奇妙な一ヶ月の冒険は終わりを告げた。
「ふぅ…………これからどうしようかしら」
空港ターミナルの屋上。そこでジョジョの乗る飛行機を見送ったあたしは、一人背もたれに両手を乗せてため息をついた。
ジョジョから報酬としてもらったお金は、なんとあの時見せていたのは一部だったとかで、あたしの生活費一年分を十分賄える額の大金となっていた。
たった一ヶ月で一年分のお金を稼いだせいか、あたしはもう取り急いで何かをする用事がなくなってしまった。なのでジョジョがまたエジプトに戻ってくるまでどうやって暇を潰そうかと思案を巡らせることになった。
ジョジョがいない時間。今まで考えないようにしていたのに、彼が隣にいないと実感した瞬間に心がどんどん冷水を浴びせられたように冷たくなってくる。
心が落ち着かなくなって、彼のいない一分一秒が耐えられなくなりそうになる。
「…………タバコ……タバコ吸おう」
こんな時、あたしの心をいつも落ち着かせてくれたのはタバコとそこから感じるニコチンの風味だった。
ジョジョがいなくなったことで、ようやく誰にも気を使わずに吸えるようになったタバコに、あたしは二週間ぶりに火をつける。
「すぅ…………はぁ…………」
久しぶりに吸ったタバコの煙を口の中に溜めて、そっと空気中に吐き出して、
「--------タバコ、こんなに美味しくなかったかしら」
あたしの口を満足させるのは、もうジョジョの唇しかないようだ。
十月二十三日
イギリスにあるジョースター家の一室。自室というよりはホテルのスイートルームと呼ぶ方が相応しいほどの広さと豪華さを誇る部屋を、数多くの本や資料を散らかして偏屈な研究者の仕事部屋のように変えている男がいた。
「あぁあ゛! なんでこう文献ごとに言ってることやってること違えんだよッ! 統一しろ、統一!! くっそ、これじゃエジプト考古学チームのメンバーに選ばれるなんて夢のまた夢じゃねぇか!!」
その男の名をジョン・ジョースター。通称ジョジョ。この夏に大学の卒業式を終えて無事社会人の仲間入りを果たし、今はスピードワゴン財団の考古学部門の若手のホープと呼ばれている。
そしてそんな彼は今、卒業旅行で出会った運命の女性 マライアと再開するために、スピードワゴン財団主体のエジプト発掘調査団の一員に選ばれようと、日夜エジプト史の勉強をしているのだ。
最も、彼の様子を見ればわかる通りそれはあまり芳しい結果を叩き出しているとは言えないのだが。
あまりにも膨大な資料の数。時代や書いてる人間の人種によって全く異なるエジプト感。未だに多くのブラックボックスやら空白期間が存在するエジプトへの、個々科学者の見解という名の妄想を読ませられる日々。
さすがのジョジョを持ってしても頭がおかしくなりそうであった。
「ジョン! 降りて来なさい! 今日は新しい使用人が来る日だと言ったでしょ!!」
「ちょっと待ってくれよスージー婆ちゃん! あとちょっと、あとちょーっとでひと段落するから!」
「いいえ、待ちません! あんまりわがまま言うとあなたが卒業旅行先で大金を無くしたこと、お父さんに言いつけますよ!」
「うげぇぇ! それは勘弁ッ!!」
そんなジョジョを呼ぶのは、彼の叔母にあたるスージーQ。もう六十を超えた老人だと言うのに、その声の張りも気迫もとても年老いた人間のそれではない。
そんなスージー婆ちゃんは、ジョジョにとって数少ない勝てる気がしない人間の一人だ。
ちなみにその内のもう一人が彼女の夫で、ジョジョにとっても叔父にあたるジョセフ爺さんだ。百回ゲームをやれば八割負けるほどその頭脳の冴えは凄まじいのだ。
「今行くから、ちょっと待って!」
とにかく、そんなスージー婆ちゃんに呼ばれればジョジョは自分の勉強をほっぽり出して向かうしかない。乱れていた服装を整えて、ギリギリ英国紳士と呼べる身嗜みになったジョジョは扉を開けると、廊下を駆け抜けて玄関ホールへと向かっていく。
新しい使用人。話には聞いていて、先月年で引退したメイドさんに変わって雇うことになった若い女性らしい。前のジョジョなら、可愛い美人のメイドさんとか来てくれたら最高だぜっ! と喜んでいただろうが、マライアという再会を誓った女性がいる今、そんな考えは欠片も浮かばない。
ジョースター家の男が愛する女性は生涯ただ一人(ジョセフを除く)、は彼にもまた適応されるのだ。
「ごめーん、待たせたスージー婆ちゃん!」
「もう! 新しいこの屋敷の一人となる人なんだから、きちんと敬意を持って迎え入れないと駄目でしょ……!」
やっと玄関ロビーに着いたジョジョに対して腰に手を当てて、プンスカと怒るスージーQはとても六十代の女性とは思えないほど可愛らしい仕草だが、それが似合う理想的な歳の取り方をしている。
「ごめんごめんスージー婆ちゃん! で、そっちが新しいメイ……ド……?」
そしてそんなスージーQの後ろに控えるように立つメイド服を着た女性の姿を見た時、ジョジョの呼吸は止まった。
エキゾチックな褐色の肌に、きちんと手入れされた美しい銀髪、メイド服の上からでもわかる豊満な胸に、何よりスカートから垣間見えるグンバツの足!
「お久しぶりです、ミスター ジョン・ジョースターさん」
スッとジョジョの前に歩み出て、あまりにも聞き慣れた男を誘惑する魅力的な声と、世の男全てが見惚れる美貌を持つエジプト美女を、ジョジョは知っている! わたしたちは知っている!!
「マライアと言います。…………あんまり遅いから、こっちから来ちゃったわ。これから末永く、よろしくお願いね」
ジョジョ♡
ここまでお読みいただきありがとうございます。
マライア姉さん禁煙成功&玉の輿エンド。この後ジョジョに猛アタックして無事結婚、妊娠ハッピーエンドを迎えます。
貴族と使用人の恋愛は許されない? ジョセフとスージーQを見て言えよ。だいたいスージー婆ちゃんが周りを黙らせて何とかしてくれます。なお、二人が再開した最後の一ヶ月後に承太郎が刑務所に入る模様。
ジョジョ二人目誰にしようかと思ってたら、久しぶりに見たマライア姉さんがすごく可愛かったので書きました。まさか本編であの後ケニーGと結婚していたとは知らずにショック。羨ましすぎる。
何だろう、ハイキューの後日談で清水先輩が田中先輩と結婚していた時のショックのような物を感じた。いや田中先輩好きだけど。
主人公の性格はまんま若ジョセフをイメージです。原作でマライアさんが老ジョセフを気に入ってたので若ジョセフの頃ならコロッといくのでは? と思ったら思いのほかストーリーに気合いが入ってしまってメロドラマみたいな話になってしまった。これでも最初は1万文字で収める軽めの話にするつもりだったんだけどなぁ。
もしFFのエロをやるならどのナンバリングが見たい?*FF7は意図的に外しています
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