※この作品はR-18です。

マイナーキャラ妄想短編集   作:ニンニク嫌い

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銀魂(今井 信女) 純愛 後編

 

 

 わたしにとって、速之助は光その物だった。

 

 初めて会った時、わたしにとって彼は守りきれなかった彼女の親しい人であった異三郎の弟子でしかなかった。わたしが異三郎に引き取られ、その世話役として彼が来た時も特に何の感情も浮かばなかった。

 

 だけど彼が初めてわたしのためにドーナツを作ってくれた時、わたしは生まれて初めて誰かが自分のためだけに用意してくれた料理を口にしたのだ。

 

 それが、何だか無性に変な感じがして、なぜか口に入れたドーナツの味がわからなくなって、わたしは美味しくないと口にしてしまっていた。それを聞いた彼はショックを受けて、それからたくさんのドーナツを作ってくれるようになったから、わたしはつい何度も美味しくないと嘘をついて、彼のドーナツを求めてしまった。

 

 きっとあれが、わたしが初めて誰かと繋がりを得た瞬間。わたしのために何かをしてくれる誰かがいることを知った初めての日。

 

 やがてわたしの嘘にも気づかずに何度もドーナツを作ってくれた速之助は、どんどんドーナツを作る技術だけ上がっていって、そしてわたしの口に一番合うドーナツを作ってみせた。

 

 だから、速之助が作ってくれるドーナツは、わたしにとって特別で、どんな高級ドーナツにも叶わない唯一無二のわたしのためだけに生み出された物。それが、わたしの死んでいた心を復活させたきっかけ。生まれて初めて嬉しいと思った時。

 

 それからわたしは色んな事を速之助から教わった。道徳、算数、国語、言葉遣い、常識、他にもたくさん。一日のほとんどを彼と過ごした。彼と共にいればいるほど、自分の中の世界が広がって、凍っていた心に温もりが染み渡るように感じる。

 どれだけわたしが物覚えが悪くとも、速之助は絶対にわたしをぶつことも、嗤うこともなく優しく教えてくれた。人を殺すためだけに生まれ育てられたわたしの事を、「お前は人だと」肯定してくれた。

 

 いつか剣の模擬試合の時に、彼は言った。自分は先生には程遠いと。そんな事はない。わたしに初めて「人」を教えてくれたあの人のような慈しみと温かさを、速之助は持っていた。

 だから、わたしを教え導いてくれて、そしてわたしを「人」にしようとしてくれている速之助はわたしにとって間違いなく先生だった。

 

 わたしにとって、そんな速之助が何よりも輝かしい宝石のようだったから。こんな血塗れの汚いわたしが隣にいることが、とんでもない間違いのような気になってしまった。

 

 でも、速之助と共にいる時間をわたしはもう手放すことが出来なかった。

 速之助によくやったと褒められるのが嬉しい。道場で殺しのためではなく、お互いの剣の腕を磨くために竹刀を振る時間が楽しい。速之助に作ってもらったドーナツを食べながら縁側で休日を一緒に過ごすのが心地よい。

 

 どれだけ自分にこんな幸せな時間を過ごす価値なんてないと言い聞かせても、それを覆い尽くすほどの安らぎが速之助の隣にいるだけで感じられる。

 

 この幸せを手放したくない。無くしたくない。

 なんて身勝手な考えだろうと思う。わたしが殺してきた大勢の人が聞いたら、きっとわたしを許さない。でもわたしは生まれてきて初めて生きていると言う実感を得た。生きていいんだと、速之助が必要としてくれた。

 

 だからわたしは、そんな大切な速之助と異三郎を守りたい。助けたい。二人の幸せのためなら、わたしは命だって惜しくないし、いくらでもこの手を血に染めるつもりだった。

 

 なのに……ねぇ。どうして?

 どうして二人はわたしに黙って手の届かない場所に行ってしまうの?

 

 

 

 

 

「あっ……ぐぅ……ッ!!」

 

 先ほど反撃を食らった脇腹から鈍い痛みが全身を貫く。幸い刀傷ではなく、打撃による青痣で済んでいるので行動には支障はないが、この痛みを見ると骨にまでヒビが入っているかもしれない。

 

 でもそんなことに構っている暇はなかった。全身に満遍なく刻まれた裂傷に、火傷の痕さえ今の私には蚊に刺された痛みにさえ感じない。

 周りから立ち上る爆発音に、怒声、金属音、銃声。ここは戦場で、私はその渦中の中にいながら、何一つ状況を把握できていなかった。

 

「速之助……!!」

 

 脱走した真撰組元局長、近藤勲を捕縛するために黒縄島に上陸した私たち見廻組は、彼を助けに来た元真撰組の面々と激突した。

 同じ江戸を守る組織同士であり、幾度か縁のあった彼らと戦うことに思うことがなかったと言えば嘘になるが、異三郎と速之助が剣を取ったのならそれに従わない理由が私にはない。

 

 それでもなるべく殺さないようにと私を気遣って言ってくれた速之助は、やはりとても優しくて。私はその言葉通り、一人も殺さずに無力化することで今回の事件を治めようとした。それは以前の骸だった頃の私なら絶対ありえないことで、速之助と共にいたからこそ選択出来るようになった方法。

 

 それが心地良くて、嬉しくて、彼のおかげで今の私がいるんだと幸福感が全身を満たして----そして突如告げられた異三郎と速之助の謀反の知らせと、二人を殺しに来た奈落の大軍を知った時、私の心は荒れ狂う海よりも強い混乱と絶望に包まれた。

 

 どうして、間違いだ、二人がそんなこと、嘘だ、いや、私に黙って、ありえない、でも、やだ、奈落が来た、やめて、殺される、だめ、死ぬ、速之助、だめだめだめだめだめ----!!

 

 無我夢中で戦場を駆ける私は、その先でようやく異三郎と再開した。弟である鉄之助に介抱される彼から告げられた、彼と速之助で計画していた幕府転覆の企み。それを聞いた時、私の心に去来したのは無力感だ。

 あんなにずっと近くにいたのに、私は二人の真意を理解することが出来なかった。片時も離れる事なく、寝食さえ常に共にしていた速之助の激情を見抜く事が出来なかった。

 絶対に死なせないと誓った私を受け入れず、ただ肩を抱くだけだった速之助の見せた表情の意味をどうして私はわかることが出来なかったのか!

 

『信女……速之助を連れ戻しなさい。彼の怒りは……もう私よりも強い。そんな彼を止められるのは……あなただけです』

 

 重症の体に鞭を打って私に速之助の居場所を告げてくれた異三郎に礼を言うが早いか、私は走り出していた。砲火を潜り抜け、持てる体力の全てを足を動かす事に集中させる。それでも心に溜まるどうしようもない激情に、私の意識は乱される。

 

 憎い。異三郎と速之助を守ると言っておきながら、何一つ二人をわかっていなかった自分が憎い。

 

「邪魔ぁああッッ!!」

 

 目の前に現れた奈落の構成員の二人を、かつてない激情に満たされながら抜刀した刀で一閃する。

 だが心の平静を欠いた状態で振るわれた刀なんて、奈落の一員にまで上り詰めた人間には微風に等しい。私の刃を紙一重で、しかし一切の切り傷も負う事なく躱した性別もわからない二人の敵は、その手に持った小刀を私の急所に向けて突っ込んでくる。

 

「くぅぅッ!!」

 

 それを同じく紙一重で、しかし私の場合は見廻組の隊服が斬られその下の肌に新たな裂傷が刻まれるほどの辛うじての回避。そしてそんな私の隙を、もう一人の奈落が見落とすはずがない。

 

 体を地面と並行になるほどの前傾姿勢で、高速で私の懐に迫ってきた奈落を、私は腰に指していた鞘を抜いて振るう事で牽制する。

 当然躱されるが、それは承知の上だ。相手の視線がコンマ数秒とは言え鞘へと向いた瞬間、その間隙を狙って足元の土を相手の低く屈ませていた顔に向けて蹴り飛ばした。

 

 それに驚き、目を敵の前で潰されると言う最悪を回避するために反射的に手で土を遮るように動かした奈落の一人に向けて。私は未だ地面に着いたままの片足を起点に、土を蹴り上げた勢いを利用して駒の様に体を回転させての横薙ぎを放った。

 

「一人目……!」

 

 その斬撃は的確に奈落の頸動脈を切断し、真っ赤な花を首から咲かせる。事切れる襲撃者の姿をその目に映す事なく私は、仲間の死など気にも留めずにすでに背後へと回っていたもう一人の奈落の刃を刀で受け止めた。

 

「くっ……ううあッ……!」

 

 だが片足状態では鍔迫り合いになる事も出来なかった。吹き飛ばされる体を、せめて即座に受け身を取って立ち上がれるように捻りながら、相手に向けて鞘を投げつける。それは吹き飛ぶ私の急所に向けて、クナイを投擲しようとしていた奈落の動きを阻害するため。

 阻害とは言え、こちらも相手の額を割るつもりの強さで投げた鞘は、危険を察知した奈落によって躱されてしまう。

 

 流石に一筋縄では行かないらしいが、早く速之助の元に向かいたい私にとって、ここで足踏みをする一分一秒が腹立たしい。地面に叩きつけられた体を即座に手をついて立て直すや否や、奈落に向かって突進する。

 

 一刻も早くこいつを殺し、速之助を見つける。それだけを願う私の刃は----増援に現れた新たな奈落の一団に阻まれた。

 

「----ッ!?」

 

 数にして五人。平時の私なら何とか切り抜けられる数だが、傷つき疲弊している上に速之助の安否が心配で気が気ではない心では、とてもではないが無事で済む状況ではない。

 

 だがそれでも----!

 

「速之助、速之助、速之助速之助速之助速之助速之助……! 退けぇぇッ----!!」

 

 邪魔する者は例え誰であろうと皆殺す。私と速之助を遮る者なんて、あってはいけない。許さない。

 

 刀を振り上げ、再び全力での突撃をお見舞いしてやると足に力を込めた瞬間----二度目となる新たな乱入者が、私の前に白銀に輝く刀を震わせて、鬼のように舞い降りた。

 

「はーい、U⚪︎erタクシーのご到着だ。行き先は、クソ真面目なベタ塗り白シャツ副長くんの所でいいんだよな?」

「----!!?」

 

 白夜叉、坂田銀時がそこにはいた。手には見慣れた木刀ではなく真剣を手にし、体中から夥しい血を流していると言うのに、その身から放たれる威圧は私でさえも思わず怯むほど強く、だがなぜか安心感を与えてくる。

 さらに----

 

「ほわちゃーー!」

「えい……!!」

 

 奈落たちの死角から飛び出した見慣れたチャイナ服の少女と、人間をかけた珍しいメガネが、白夜叉に警戒していた彼らの隙を完璧な奇襲で突いてみせた。

 

「何してるアルか信女! さっさと行くアルヨ! こいつらはわたしたちに任せて、お前はとっとと好きな男を迎えに行くネ!」

「信女さん、速之助さんを連れ戻してくださいよ! まだまだツッコミの心得、教え足りてないんですから!」

 

 万事屋の従業員である神楽と新八が、先ほどまで敵対していた私を助けようと、明らかに実力がかけ離れているはずの奈落を相手取っている。

 

「どうして……?」

「頼まれちまったんだよ。やっかいなメル友からな」

 

 理由が分からず困惑する私の隣に、いつの間にか近づいて来ていた白夜叉が呆れたように笑って答えた。だがそれでも意味がわからなくて、目を丸くする私の背を、ここは任せろと言うように強く叩く白夜叉----侍の男。

 

「あいつを助けたいのは、何もお前だけじゃないってことだ。せっかく見つけた宇治金時丼仲間を、みすみす死なせはしねぇよ」

 

 直後、嵐の如く奈落へと突っ込んだ彼は、たった一閃で道を塞ぐ一団に大きな穴を開けてみせた。

 

「行けぇぇぇぇ!! 信女ぇぇ----ッ!!」

「……!! ありがとう----!」

 

 その絶好の機会を物にして、私は全速力でその穴を走り抜けた。途中でその道を阻害しようと飛んでくるクナイや小刀は、私が迎撃しなくても、後ろを任した友人たちが阻んでくれる。

 

『お前にもいずれ、心を通わせ背中を預けられる俺以外の友が出来るさ』

 

 かつて速之助に言われた言葉。その時は速之助と異三郎以外の繋がりなんて欲しくなくて必死に否定した言葉。でもようやく、速之助が私に見つけて欲しかった物が僅かとは言え理解できた気がする。

 

「速之助----今行くから!」

 

 後ろで響く万事屋と奈落の戦闘の音を背に、私は大切で、大好きな、絶対に失いたくない想い人の元へと駆けた。

 

 

 

 

 そこは血と肉塊だけが残る現世に根源した地獄そのものだった。夥しい量の人間のパーツがそこかしこに散乱し、人の腹から飛び出た臓腑と血が一帯の土の色を変色させていて。

 それは、何人の人間を惨殺すれば出来上がるのか。どれだけの数、人の体を刀で分割すればここまで酷い光景を作り出せるのか。

 

 少なくとも、私はそれを作り出した人が、あの優しい速之助であるとは、例え屍の中心で佇む血を頭から被ったような彼の姿を見ても、信じることができなかった。

 

「はや……のすけ……!」

「…………そうか。来て……しまったんだな、信女。お前には、知られぬまま全て終わらすつもりだったと言うのに」

 

 俺もまだまだだな、そう自嘲する私に人としての心を与えてくれた彼の姿に、胸が千切れそうなほど締め付けられる。

 まいったなぁと笑う速之助の顔は、あまりに普段の彼そのままで。だからこそ、彼が普段からこれほどの惨状を作り出す狂気と怒りを秘めたまま私と接していたんだと、今更になってわかってしまう。

 

「どうして、俺の居場所がわかった? この戦場では、如何にお前と言えど俺を探すのは容易ではないだろう」

「異三郎が、教えてくれた」

「----! そうか……師匠が…………。やはりあなたは、優しすぎる」

 

 私の言葉に、速之助が何かを悟ったように目を閉じる。途端に霧散したこの場を覆っていた速之助の剣気に、私はこのまま彼を連れ戻せると思った。異三郎が計画を止めたのならば、彼もまた戦うのを止めてくれると。

 

 だが----

 

「ですが師匠……これはもう、あなただけの復讐ではないんです」

「----っ!!?」

 

 速之助の目に灯された憎しみの炎が、私の背を、その後ろに浮かぶ奈落の戦艦に向けられた。

 

「江戸の平和のために身を捧げて来た真撰組を逆賊として切り捨てる。平和を謳った民草を、軟弱な思想を垂れ流す謀反者として引っ立てる。思い通りに行かぬからと、対話ではなく刃を持って屍を増やすこの国のやり方を、俺は許すことは到底出来ない……!」

 

 それは初めて聞いた、速之助の本心。

 彼が今まで、師匠である異三郎にさえ隠し通した、世の歪みへの嚇怒。

 真面目すぎるが故に、誰もが折り合いをつけて納得して来た事を、彼は決して許すことができなかったのだ。ずっとその胸に、消えることなき憎悪を沸々と溜め込みながら。

 

「正さなければならないだろう。最後の望みであった徳川 茂茂公が亡くなった今、もはや徳川の世の滅びでもってしかこの歪みは無くなりはしない……! あの奈落の戦艦がその証。暴力と恐怖でしか世を支配出来ない愚かさの証明ではないか……!!」

 

 その速之助の言葉に、私は何も言うことができなかった。だって、気づいてしまったから。彼がこれほどまでに幕府への憎しみを募らせてしまった原因を。彼に、死を賭しても復讐せねばと思わせるほど追い詰めてしまった原因を。

 

「あんな物のために……あんな連中のために……! 信女は生涯癒えぬ罪と傷を負わされたと言うのか……ッ!!」

「----っ!!」

 

 ああ、全部私のためだったんだね、速之助。ずっと、私のために怒っていてくれたんだ。心を壊して、泣くことも怒ることも、自分を殺人鬼にした連中を憎むことも出来なくなった私の代わりに、ずっとずっと、怒り続けてくれていたのね。

 

 それがわかった瞬間、私の心は決まった。何をすればいいか、これから速之助をどうすればいいのか、全て。

 

「退け、信女。俺は、あの戦艦を落とす。この身を倒幕の狼煙と変え、奴らの暴政を挫くための最初の焔火となる。この命は、今日、このためにあったのだ」

 

 死の覚悟を決めた侍の目をする速之助に向けて、私もまた覚悟を決めた目で見つめ返す。

 もう、速之助は止まらない。真面目故に、一度決めたら決して折れない速之助を言葉で挫く事は不可能だ。それこそ、異三郎の真意を理解しても止まる気がないと言うのなら、なおさら。

 

「--------それは、俺と刃を交える気だと受け取っていいのか?」

「----ええ、そうよ速之助」

 

 だから、私は速之助を○す覚悟を決めたのだ。彼を止めるために、彼を守るために、彼を…………愛するために。

 

「稽古試合の結果は、134勝165敗52分けだったな」

「私の方が勝ち越してるよ」

「抜かせ……ここ一年、お前は俺から一度も一本取れていないだろう。子供の頃の戦績に胡座をかいて、今の彼我の実力差を見誤るお前ではないはずだ」

「…………それでも、私はあなたを死なせない。速之助は、私が守るから」

 

 一瞬の、静寂。

 私の放った言葉に、ほんの少しだけ速之助が剣気を緩め、そして見間違いかと思うほど微かに、笑った気がした。

 

「我が名は桂 速之助。己が義を押し通すために、その身退けさせてもらう!!」

「今井 信女。大切な人を、愛する速之助を死なせないために、あなたを斬る!!」

 

 初めて本人の前で口にした恋心を風に乗せて、私と速之助は屍山血河の中心で、初めて死愛をぶつけ合い、そして----血飛沫が舞った。

 

 

 

 

 ガチャリと、静寂のみが支配する空間の中、数刻ぶりに耳に届いた音の波に、ベッドに寝転がっていた男は目線を音がした方、この部屋唯一の入り口に向けた。

 

 ガチャ、ガチッ、ガシャン、と続けて鳴るいくつもの施錠を開ける音を聞いて、ああ帰って来たのだなと、男はもはや一人では動けぬ体の身で内心呟く。

 そしてジャラジャラジャラと大きく響いた重い鎖が落ちる音を最後に、ようやく鉄で出来た重厚な扉がゆっくりと開かれた。

 

 そしてその扉の先から姿を現した、この部屋に唯一出入りする事が許された彼女に向けて、男はいつもの迎えの挨拶をかけるのだ。

 

「おかえり、信女」

「ただいま、速之助……!」

 

 そして、愛する男の待つ家へと帰って来た今井 信女は、花が咲くような笑みを浮かべながら、片手を失い、両足の腱を切られた速之助に抱きつくのだった。

 

 

 

 

 あの戦いの決着を左右したのは、殺意の有無だった。速之助は信女を殺すつもりはなく、信女は速之助を二度と一人で動けないように、人として殺すつもりで戦った。

 

 結果、信女の急所を外して気絶させるために放たれた二刀の剣撃を、信女は気合いで耐え抜き、返す刀で速之助の右手を切断したのだ。それに驚き、しかし刹那で大勢を立て直した速之助は流石であり、だが奈落で生まれ育ち、速之助を守るために己を鍛え続けた信女にはその一瞬は遅すぎた。

 

 飛び退ろうとした速之助の顎を鞘で打ち抜き、昏倒して倒れた彼の両足の腱をその場で切断。二度と歩けぬ身に変えた上で、それでもと戦意を燃え上がらせる彼を、信女は徹底的に壊した。二度と大義のために死ぬなんて考えられないように、二度と自分の側から離れようと思わないように、念入りに、周到に、桂 速之助の強靭な精神を自分色に染め上げた。

 

 出血を鑑みて捕縛した彼を江戸に連れ帰り、医者に傷の治療させた後は、病院から連れ出し、今二人がいるこの部屋、奈落が過去に放棄した地下の密会場に監禁したのだ。

 

 そこで信女が行ったのは、痛みではなく愛による洗脳。自分の胸を焼くほどに強く燃え盛る速之助への恋慕を、欲望のままに体でぶつける女の技。

 

「ちゅっ、あむっ♡ じゅるっ、ちゅぱっ♡ 速之助、今日もちゃんと良い子にしてた?」

「お前がいなければ、俺は動く事もままならん。良い子、悪い子以前に、何も出来んさ」

 

 自身が半身不随にして、隻腕にした男に向けて熱烈な接吻を捧げる信女。ずっと触れ合う事を夢見て来た彼の舌に自身の舌先を触れさせて、なめくじのようにお互いのベロを絡ませ合う。

 

 信女の質問に速之助が呆れ交じりに返すや否や、再び彼の唇を奪ってその薄紅色の柔らかい唇で貪るのだ。それは男と女のまぐわいとは程遠い、獣の貪り合い。性欲と愛欲を心のままにぶつける快感を知ってしまった信女の、人生で最も幸せな瞬間の一つだ。

 

「じゅるる♡ ちゅぱっ、ちゅ♡ 速之助、もっと舌伸ばして♡ あなたの舌を私にちょうだい♡」

「んっ……ぐっ!?」

 

 舌で絡め取り、無理やり外へと引っ張り上げた速之助の舌を唇で吸い上げて自身の口内へと連れ帰る。咄嗟に逃げようとする彼を、決して許しはしないとベッドに縫い付け、体全体を彼に押し付けて縛りつける。その際に自身の胸が彼の胸板と重なって潰れるが、それはむしろ嬉しい誤算となって、より強く彼に自身の乳房を擦り付け、その感触と胸のドキドキを彼へと伝えていく。

 

 その肉食獣の責めに、四肢を三つも失ってしまった男が跳ね除けられるわけがない。せめての抵抗と伸ばした左手は信女の片手によって、赤子の手を掴むような容易さで捕縛され、頭の上にと固定される。

 そうすれば後に待つのは、信女が満足するまでのキス地獄だ。酸素補給も許してくれない、情欲に支配された彼女の体は、速之助の口の中の唾液を全て自分の中の唾液と交換するまで続いた。

 

「----っぷはぁ! はぁ、はぁ、はぁ……!」

「あぁ♡ 見て、速之助……私と速之助の口の間、唾液の糸が出来てる♡」

 

 酸素を求めて喘ぐ速之助の顔を両手で固定し、自分の口と彼を繋ぐ淫靡な体液橋を強制的に見させる完全にヤンデレへと堕ちてしまった信女。

 そんな彼女に、かつての強い倒幕への意志を萎ませ、後悔に滲んだ表情をした速之助はそっと左手を彼女の頬へと当てるのだ。

 

「ああ、そうだな。信女、そろそろ俺を外に連れ出してはくれないか? 師匠も、万事屋の面々も俺たちを心配して----ぐぅ!!」

 

 なるべく優しく、安心させるような声色を心がけて紡いでいた速之助の首を、目にも止まらぬ速度で掴み上げた信女が締め上げた。

 

「何を言ってるの……? またそうやって、私に嘘をついて死にに行くつもり? ダメ、させない、許さない……。言ったよね? ここから出たかったら、どうすればいいか?」

 

 瞳孔が開いた、一切の光の見えない瞳で速之助を見つめる信女の言葉は、まるで骸時代に戻ったかのように寒々しい。その威圧と首を締め上げる手によって言葉を紡げなくなった速之助に向けて、信女は酸欠で喘ぐ脳に刷り込むように、唯一ここから出られる二人にとってのハッピーエンドの道を教えるのだ。

 

「速之助の精子を、私の卵子と結びつけて、私を妊娠させるの。私が無理やりやるんじゃなくて、速之助が自分の意志で私の子宮に射精してね。そうすれば、もう侍として死ぬなんて、真面目で優しい速之助は言えないよね? 妊娠させた奥さんと、その子供をこんな世の中に置いて死ぬなんて事……出来るわけないもの」

 

 それは信女が考えた、最上級の速之助を縛る鎖だった。彼の生来の優しさ、平和を尊び、不幸な子供たちの存在を悲しむ性格、それを産む今の歪んだ世を憎む心。その全てを理解した信女が導き出した一手は、これ以上となく正しかった。

 もしも、信女が速之助の子供を孕ったのならば、速之助はもう信女と彼女の胎にいる自身の子供を、今の歪んだ世の中に残して逝く事は彼の責任感が許しはしない。

 

「ここを出たい? 異三郎や白夜叉に会って無事を伝えたい? それならもう意地を張るのをやめて、私を妊娠させましょう? 私と夫婦になって、二人で無事と結婚の報告をしに行こう?」

 

 それは悪魔の囁きだ。こんな様になってもまだ消えない侍の魂を持つ速之助を、真の意味で堕落させようとする淫魔の誘惑。それが自身が誰よりも大切に思う家族の姿をして誘ってくるのが、何よりも速之助の精神を追い詰める。

 

 はらりと、信女が自身の服を脱ぎ捨てる。着ていた見廻組の白制服を地面に落とし、下のワイシャツ、そしてズボンを下ろしていく。そうすれば残るのは、信女の秘部を守る彼女の髪の色と同じ蒼色の扇状的な下着のみ。

 

 いつか速之助が褒めた信女の髪色そっくりの下着は、彼女が彼と結ばれた時を思って以前から用意していた勝負下着。その何十着目ともなる下着の一枚だ。それだけの数、すでに信女は速之助と交じり合い、そしてその激しいプレイで下着を幾度も二度と淫臭が取れないほどダメにしてしまっていた。

 

「さぁ、今日も私のここで速之助のあそこ、チンポのお世話をしてあげる♡」

 

 度重なるセックスと、本気で速之助を堕とすために勉強した淫語を、信女はその蠱惑的な美声で響かせる。

 びくりと、雄としての宿命か、速之助は自身の男性器が起立してしまうのを感じた。それどころか、パンツの上からその陰棒を撫でる艶やかな信女の指先に、すっかり女の魅力を教え込まされ体は射精感を高められてしまう。

 

「ふふふ♡」

 

 窮屈そうにパンツを押し上げる雄棒を、信女は優しい手つきでパンツを下ろして解放してあげるのだ。

 

「ああ♡ 速之助のチンポ♡ すぅぅ----っっ♡ 今日もとっても良い臭い♡」

 

 ぼろんとまろび出た肉の塊。その何度見ても惹きつけられる雄の魅力たっぷりの魔羅を、信女は鼻先を近づけて大きく深呼吸する。鼻腔を貫く強烈な雄の臭い、そこに混じる自分の淫液の臭い、彼と自分が愛し合った残り香。それだけで、信女の秘部は愛液を垂れ流し、早くも新調したショーツをびしょ濡れの淫汁プールへと変えてしまう。

 

「はぁ、はぁ、はあぁ♡ もう、我慢できないよね? 大丈夫、私は用意出来てるから♡ すぐに、私のマンコに挿れてあげるから♡」

「待て、信女……! お前はまだ前戯を…………うぅおっ!?」

 

 じゅぷりっ♡

 

 そんな淫音さえ聞こえて来そうなほどあっさりと、信女の膣穴は速之助の肉棒をすっぽり咥え込んでしまった。

 

「あっ、あああ……♡ 前戯なんて必要ないよ、速之助。私のマンコは、速之助の匂いを嗅いだだけで、んんっ、もう発情してたっぷり股を濡らしちゃうんだから……♡」

 

 そして膣奥深くまで受け入れた男の肉棒を、信女は下半身に力を入れて膣襞で圧迫していく。

 

「くっ……!」

 

 性器が搾り取られるかのような強烈な締め付けと吸引。思わず腰が引けてしまうほどの極上テクニックは、全て信女が速之助とのセックスを重ねることで覚えた、彼を満足させるための技法。

 セックス初心者だった彼女は、愛する男を繋ぎ止めるために吉原の高級娼婦でさえ膝を折るほどの性技を開花させたのだ。

 

「ほら、速之助はここを、こうして……! んんっ♡!! 扱かれのが、好きなんだよね? ふふ、言わなくても分かるよ。だって、私の中ですっごく固くなってるもの」

 

 彼女の持つ、多くの男性を虜にしたであろう引き締まった美尻を、男の肉棒に馬乗りになった態勢でパンッ♡ パンッ♡ と振り下ろす。それは身動きの取れない哀れな獲物となった男の性器の、最も敏感な部分を膣襞と陰核で擦り上げる。

 

「くっ……ああっ! 信女……!」

 

「辛い、速之助? 我慢しなくていいんだよ。快楽は耐えるものじゃなくて受け入れるものだよ。速之助とのエッチで、私はそう教えられた。だから、セックスに関しては、私が速之助の先生……ってことになるかな♡」

 

 かつて道場で交わした先生とは何かという速之助との会話。その時、信女は次代を教え導く知識と人格を持った存在が先生と成れるのだと教えられた。だからこそ、彼女は速之助を自身を導いてくれた存在として、彼を先生と称した。

 

 だが今、信女は速之助を淫欲と言う道に導くために相応しい知識と淫らな人格を持って、彼を堕落させる先生へとなり、彼を教育しようとしていた。花婿修行と言う、自分の未来の旦那様としての教育を。

 

「あ、んっ、ああ……♡」

「----!?」

 

 わざと自身の艶声を速之助の耳元で囁くようにこだまさせる。熱い吐息を混ぜ、何度も、何度も自身の淫らな美声を彼の脳へと送り届ける。

 それは後の世ではAMSRと呼ばれる耳を溶かす魔性の技。それを江戸時代から男を悦ばせる効果的な淫技として物にした信女は、一体どれほど雌としての才能があったのか。

 

 もしかしたら彼女は、奈落に拾われなければ極上の雌娼婦として吉原や裏社会で多くの男を虜にしたのではないか?

 それとも、彼女のこの淫魔の血を引いているとしか思えない素養は、速之助を想う愛情から生まれた後天性の物なのか。

 

 だが少なくとも、江戸中の女が束になっても構わないほどのテクニックの全てを、自分一人に向けられることになった速之助の精神の堕落は、もう免れられないと言うことは確かだった。

 

 耳を蕩かす家族のように大切に思っていた少女の喘き声を聞きながら、自身が処女を奪うことになった少女の膣で男性器をピストンされる。すでに速之助の中で、信女は家族ではなく結婚して子供を産ます事が出来る異性となっていた。

 

「あっ、あっ♡ 速之助のチンポ、私の中ですっごく大きくなってきた。精子を出しそうなんだね。ふふ、本当に……体は正直なんだから……♡」

 

 でも、と。今まで熱心に腰を振って、肉棒を収縮を繰り返す膣穴で擦り上げていた信女がその動きを止めた。わざとお尻を浮かせ、亀頭が膣口から出るか出ないかと言うギリギリのところで固定させる。

 その突然止まったピストンの動きに、限界近くまで高まっていた射精感を宙ぶらりんにされた状態でお預けを食らった速之助は、目を丸くして淫靡に笑う捕食者と化した自身の相棒を見やった。

 

 そして、そんなすっかり自分のテクニックに溺れる愛しい男の耳元に口を寄せて、信女はさらなる追い討ちとなる言葉を囁くのだ。

 

「今日は、射精はさせないよ。だって----私、今日は危険日なの」

「----っ!?」

 

 告げられた驚愕の情報。なぜそれを今告げるのか。速之助は、信女の狙いを朧げながら察し、その魔性の笑みの裏から覗く獲物を追い詰めた狩人の目に戦慄した。

 

「だ、か、ら……したかったら、私の妊娠確実マンコに射精したいって、私と結婚して子供を作ろうって言うの」

 

 彼女のその言葉は、半分勝利宣言でもあった。事実速之助の信女とのセックスによる快楽に染まった体は、もう彼女のテクニックで果てるのが当たり前になるよう教育されてしまっている。

 例え、今耐えることが出来たとしても、一時間後、三時間後、一生寸止めを続けられた状態でこのボロボロになった意思で耐えることが果たして出来るのか?

 

「全部諦めて、私と幸せになろう……ね?」

「ぁ…………」

 

 それからの事は、速之助の人生にとって最も長い数時間となった。

 

 

 

「ほら、私のおっぱい気持ちいい? 速之助とエッチしてたら、また大きくなっちゃったの。今では……んっ♡ こうして、速之助のチンポを挟めるようになったもの」

 

 前から見廻組の制服をキツく絞めないと、服の下からでも存在を強く主張するほど大きかった胸を、さらに一回りほど大きくさせた信女によるパイズリフェラ。

 亀頭を尿道どころか、皮裏まで舐め取って、その乳房の弾力で胸を圧迫させてくる絶技に何度速之助は達しそうになり、その度に止められてきたか。

 

「ふふ、ほら私の太ももとお尻で顔を挟まれた感触はどうかな? 目も、耳も、鼻も、口も、触覚も、全部私の肌の事しか感じないでしょ? このままチンポを手で扱きながら、一時間はこの態勢でいてあげる♡」

 

 顔に淫液で濡れた信女の尻を乗せられて、両頬を太ももで固定される。そして宣言通り、魔羅を両手でごしごしと弄られながら、本当に一時間視界を信女の蜜穴に埋め尽くされ続けた。

 

「知ってた、速之助? 菊穴ってね、セックスにも使えるんだって。私、何度か自分で試してみたの。ねぇ、使ってみる? もちろん、私の子宮に射精した後だけどね」

 

 速之助も聞いた事のないような、アナルプレイなるアブノーマルなセックスプレイまで使って誘惑して来て、その後ろの排泄穴をわざと亀頭にくっつけたり離したり、先端だけを僅かに挿入させたりを繰り返してくるのだ。

 

 そんなありとあらゆる淫技と言葉責めを、すでに十四時間も寸止めをされながら耐え続けた速之助は、やはり異次元の頑固さだった。

 何度も折れるタイミングはあったのに、その度に歯を食いしばって耐える姿は、信女の愛する彼の強さで惚れ直したが、とっとと負けて自分との結婚子作りセックスを認めない意思の強さは、そろそろ本気で彼女の業を煮やしていた。

 

「さすが速之助だね。ここまでやって、まだ諦めないんだ」

「ぁ……ぁぅ……ぁ……」

 

 ほとんどうわごとを言うだけの人形のようになってしまった彼を見下ろしながら、汗と淫液でテカテカに光る裸体を彼の性器と繋げた状態で信女は称賛した。

 

「そんな強い速之助が、私は好き。大好き。愛してるわ。でも、たまには私に甘えて欲しい。私に、あなたの本心を教えて欲しい」

 

 でもその抵抗も、もう薄皮一枚の風が吹けば破れて消えてしまうものだと信女は気づいていた。あとはほんのきっかけと、負ける理由を与えてあげれば、速之助は私に堕ちるとわかっていた。

 

 だから信女は、途端に優しい声色で、今までの淫魔のような口調とは打って変わった、速之助と共に育ち、彼と最も時間を共にした身近な存在、今井 信女として彼を終わらせる事にしたのだ。

 

「の……ぶめ……。おれ……は、お前の……未来には……相応しく…………な、い」

「そっか……。ずっと、そんな勘違いをしてたのね」

 

 速之助の弱った口から飛び出した、彼が信女を受け入れなかった本心。それは馬鹿真面目な彼らしい、一度決めたら決して考えを曲げない悪癖によって自身に下した裁定。

 信女を大切に思い、彼女の拠り所になっておきながら、最後は死という断絶を彼女に突きつけようとしている最低な自分は、地獄に堕ちるに相応しい悪であり、幸福な道を行く信女をこれ以上苦しめてはいけないと言う戒め。

 

 それをここまで信女本人によって狂気的なまでに愛されてなお捨てる気がないのだから、馬鹿と言うか何と言うかだろう。

 でも、それももう終わり。

 

 速之助の頬を両手で挟み込んだ信女は、虚な彼の目を自身へと合わせながら強い語調で彼へと宣言した。

 

「いい? 私を幸せに出来るのは速之助だけなの。私が世界で唯一愛せるのは速之助しかいないの。速之助がいない世界を、私は生きていけない。きっと、すぐに後を追う。それでも速之助は、私の想いを無視して勝手に死んじゃうの?」

 

 それって、江戸の市民の想いを顧みらずに自分の我欲を押し付けた徳川と一緒だよ。

 

「----なっ! あ、ああ……っ!!」

 

 その言葉に、ずっと心ここにあらずの状態だった速之助が目を見開いた。自身の信女を受け入れまいとする抵抗が、憎むべき邪悪たちと同じだと指摘され、彼の心の間隙に大きな波風を引き起こした。

 

 その絶好の隙を、速之助の一挙手一投足、微細な眉毛の動きの感情の変化さえ見逃さない信女が追い討ちをかけない訳がない。

 

「速之助は、そんな人間じゃないよね。だってあんなに幕府の人間を憎んでたんだもの。だから……ね? 私と子作りしましょ? 大丈夫、これは速之助があんな人たちとは違うって証明するためだから」

 

 諦める(中出し)する理由を与えてあげる。

 侍であることを止める(私と結婚する)事が正しいんだって教えてあげる。

 彼に、敗北宣言(プロポーズ)を自分から言わせてあげる。

 

「ね、速之助。私は速之助を愛してる。結婚して速之助の子供を生んで、幸せな家庭を築きたい。だから、教えて? 速之助は、私のことどう思ってる……?」

「俺は……俺は……っ」

 

 

 

 

 その時、速之助の頭にまるで走馬灯のように信女との日々が駆け抜けた。それはあの師と自分の運命を決定的に変えた血の記憶から、今日に至るまでの復讐を果たさんと怒りを溜めて、しかしそれ以上に煌びやかに輝いていた信女との日常。

 

 自身が作ったドーナツを初めて美味しいと言ってくれた彼女の笑み。

 道場で共に稽古し、汗を流してお互いの成長を喜び合った。

 浪人や犯罪者との斬り合いでは、常に背中を預けあい、誰よりも、師匠よりも信を置いていた。

 

 片時も離れず自身の隣にいた美しく成長した信女に、一度も異性としての劣情を抱かなかったと言えば嘘になる。むしろ、同じ寝所で寝食を共にする彼女が着替える時に見せる肌艶、寝起きのあどけない顔、当然のように自身の布団の中に入り込んで来た彼女の体の感触に、鼻腔をくすぐる成熟した女の匂い。

 

 認めよう。桂 速之助は、確かに信女を男として惹かれていたと。例えそれが、彼女が途中から意図して自身を誘惑していたのだとしても。今この瞬間も、彼女が俺の動揺の隙を突いて洗脳まがいの方法で籠絡しようとしているのだとしても。

 

(ああ……よもや俺をここまで想ってくれる女人がいたとはな……。それが信女であったこと……嬉しいと思うのは、俺もいつの間にやらお前に懸想していたといことか)

 

 速之助は、ここに来てようやく信女への恋心を自覚した。そして自覚してしまえば、驚くほど心は凪いでしまった。あれほど強く抗って来た快楽への抵抗心も、信女への罪悪感も、全てが波紋一つ残さず掻き消えていく。

 

 速之助は、信女を見た。そこに、確かな意思が宿っていたのを見て、信女が驚いたように目を見開いた。そして同時に、僅かな悲しみもその瞳に宿して。

 きっと、ここまでしても俺が諦めなかったと、自分を受け入れてくれなかったと思ってるのだろう。ずいぶん、わかりやすくなったものだ。出会った頃に比べれば……ははっ、まるで別人だ。

 

 悪いな、信女。だが、男が好きな女に告白する時に、酔ったままと言うのは格好がつかんだろう。それが、これから未来を共にする妻に捧げる言葉だと言うのなら、なおさらだ。

 

「信女」

 

 名を呼ぶ。深い海の蒼を瞳に映した彼女がぴくりと震えて、俺の言葉を待っている。

 

「俺は長いこと、お前を苦しめていた。この身は不出来で至らぬ事が多すぎる軟弱者。男として、いささか以上に魅力が欠如していると言わざるをえん……」

「……! そんな事ないッ!! 速之助は----」

「しかし!」

 

 俺の自嘲を否定しようと口を開いたら信女を遮って。

 

「そんなダメな亭主でよければ……今井 信女、どうか俺と夫婦の契りを結んでくれないだろうか?」

「----」

 

 静寂は一瞬。まるで弾かれたように静止していた体を動かした信女は、勢いよく俺に抱きついて来た。

 

「うん……! うん!! 私は、速之助と結婚する! 速之助の奥さんとして、桂 信女として、ずっとあなたと共に生きたい……!!」

 

 涙を流して喜ぶ信女を、俺もまた片腕になった手で抱きしめ返す。しかし、こうしてみると思うが、隻腕、下半身不随では夫としての役目を何も果たせないのではないか? 江戸の技術士に腕の良い義手や義足を作れる者がいればいいが。

 

「ねぇ、速之助? これで私たち夫婦になったってことは……もう赤ちゃん出来ても良いってことだよね?」

「いや、それは俺たちの収入やこれからの身の振り方が決まってからの方が…………ダメか?」

「ダメ♡」

 

 そうして、結ばれたばかりの夫の懇願を溢れる情欲と妊娠欲の前に切って捨てた、これから何人もの子供を彼との間に儲ける事になる信女は、その限界をとっくに超えていた男の射精寸前チンポを自身の子宮口内にまで深々と突き刺すのだった。

 

「あっ、ぐううう!!」

 

 びゅるるるるるる!

 

 その性器全てを包み込む、淫熱と肉襞のうねりに、耐えることを止めた速之助が我慢できるはずもなく。その数時間分の濃い精液の大群を、妻となったばかりの少女の子宮へと注ぎ込む。

 

「ああああ♡!! 速之助の精子♡ 私の中に入ってる……っ♡ 私を孕ませようって卵子に向かって、泳いで来てる♡♡ はぁぁああああ----ッッ♡♡♡!!!!」

 

 それを史上の喜びの声で迎え入れる信女は、その幸福のほんの数分の一でも良いから速之助に伝えようと、膣を締め付け、体を弓形に仰け反らせながら激しい絶頂へと上り詰める。

 結合部から噴出された愛液が、下となっている速之助の股に降り注ぎ、そこをシャワーを浴びた直後のようにびっしょりと淫水で濡らしつくしてしまうのだ。

 

 ぷつん♡

 

「----あっ♡」

 

 そして子宮の中で、ついに念願の男の精子が自身の卵子と結びついた事を信女は本能で理解した。彼女の深い愛と優れた剣客としての鋭敏な感覚が、わかるはずのない受精の音を確かに知覚させたのだ。

 

「おめでとう速之助♡ 私たち、今日からパパとママになったよ♡」

「くっ……やむをえん、か。こうなっては、早いところ再就職先を探す必要があるな」

 

 自身の下腹部を愛おしげに撫でる信女(淫魔)の姿を見ながら、全てを諦めたように捕食された男はため息を吐いた。自分はどうやら、とんでもない魔物へと彼女を変貌させてしまったようだ。

 

「ねぇ、子供の名前はどうする?」

「まだ男か女かもわからないだろ。はぁ……だが考えておかねばなるまいか。師に助言をいただけるといいが……」

 

 ベッドの上で幸せな未来を語り合う二人の男女。それは混迷を極めた江戸の世にあって、確かな希望の未来を予感させる光景だった。例えそれが、暗い地下室の一室で、男は四肢の機能の半分以上を失っていて、女はその下手人だったとしても、確かにそこにはお互いを想い合う愛があった。それはある種、今の歪んだ世の中らしい愛の形なのかも知れない。

 

「愛してるわ速之助。私があなたをずっと、ずっと----ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと守るから。だから一生、私から離れないでね」

 

 骸から生まれた少女は、信愛を知って女になった。

 これは、そんな彼女が幸せになった物語。たった一人の愛する男をその腕に抱擁し、永遠に側に寄り添い続ける彼女の名は----

 

 

 




桂 信女
 速之助を二度と動けない体にしても絶対に死なせない、自分と添い遂げさせるガール。好きな食べ物は、速之助が作るドーナツと彼の体液(意味深)。どちらかを一日に三回は摂取しないと禁断症状が出て狂気度がどこぞの赤い彗星の如く三倍に跳ね上がる。
 速之助と結ばれてもしばらくは彼を外に出すのを渋って、セックス三昧の日々を送っていた。解放した後は、異三郎に結婚報告をして、彼の旧家を新婚ハウスとして譲り受ける。その後は無事第一子を出産し、良妻賢母として速之助と寄り添って暮らした。
 なお最終的に四人の子供を儲けるほど性欲は一向に収まることを知らず、危険日だろうが子供が隣の部屋にいようがお構いなしに精を強請る淫魔っぷりを生涯発揮し続けた。「いいか信女。俺とお前はもう一児の父と母なのだ。だからこんな真っ昼間から体を重ねるなど、子供に示しがつかな……こら待てやめろ、俺の義足の電源を切ってベッドに無理やり押し倒そうとするな……!」

桂 速之助
 モデルは実在した見廻組の隊士、桂 早之助。真面目で責任感が強く、面倒見の良い、一度成すと決めた事は納得できるまでとことんやる少年。ただし天然で、騙されやすい気質もあるので、冗談を間に受けて意味不明な方向に突っ走ることもしばしば。
 本話では彼が見廻組の副長であり、実力は沖田と互角に渡り合えるほどだが、情に弱いため彼と違って裏切った隊士を容赦なく殺せる非情さを持てない。だがその性格から仲間内での評価は高く、鴨を切った土方のような鬼の副長とはまた違う、見廻組のご意見番副長。
 本編後無事に師匠や万事屋と再開して、信女と結婚する事を伝えられた。無くなった右腕と腱を切られた両足は、江戸一番の絡繰技士である平賀 源外によって本物のように動く義手と、足に取り付けるタイプの外付け義足を見繕ってもらった事でなんとかなった。なお、それらの制御装置は全て信女が管理している模様。最近の悩みは、信女が自分に首輪を付けようとしてくる事。「信女、俺は家族を預かる夫として働きに行きたいわけであって別にお前から離れようとしているわけではない。だからその手に持った首輪と鎖と縄を置くんだ……!」

佐々木 異三郎
 ちゃっかり生き残ってしまった今回のキーパーソン。自分以上に幕府への憎しみと怒りを募らせ、死の道を喜んで進もうとする速之助をずっと案じていた。
 自分の息子のような速之助に、実の娘のような信女が恋心を抱いている事を知って全力で親バカを発動して応援していた。速之助は師匠は信女に甘すぎると思っているが、実際は速之助に信女と未来を生きる事を選択させるために二人を結ばせようとしていた。まあ、ゲロ甘である事は変わらないが。
 消えた二人については「あっ、食われましたね速之助」と特に心配していなかった。後に結婚報告に来た二人に数年前から用意していたクラッカーとお祝いメールを乱舞した。二人の子供の名付け親に嬉々として志願したらしい。「師匠、最終候補だけで二十個もあるのですが……いい加減決めてもらえませんか?」

万事屋
 ヒロインをヒーローの元へと送り届けるU⚪︎erまでこなす我らが何でも屋。彼らがいなければ信女は間に合わず、速之助は奈落の船と共に灰となっていた。
 事件後は原作通り宇宙へと高杉を救いに行ってしまうので、信女が速之助を拉致監禁逆レイプをした事は帰ってくるまで知らなかった。大きくなったお腹を撫でる信女の姿を見て全てを察した銀時は、速之助に心の底から同情し、他二人は無邪気に手を叩いて喜んでいた。「銀時殿、少しでいいので信女から匿ってもらえぬか? 最近また求めが激しくなって来て体が持ちそうに……あっ、銀時殿、なぜ扉を閉める!?」

真撰組
 速之助にとって、同じ江戸を守る同士として強く尊敬する者たち。だからこそ、彼らに将軍暗殺の罪を着せた幕府を彼は完全に見限った。バラガキ事件の一件の後、なぜか真撰組屯所に差出人不明の菓子折り(バレバレ)が頻繁に届くようになっていた。「さすがに弟君の一件はこちらに非があります、師匠」


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 すまない……R18作品なのにエロじゃない方に力を入れすぎて、本当にすまない……。これでも色々と書きたい事を端折ったんです。
 前にも言いましたが、信女が銀魂女キャラで一番好きなので、その想いが少しでも伝わればと。信女ヒロインの銀魂ssがもっと増える事を祈ってます。

もしFFのエロをやるならどのナンバリングが見たい?*FF7は意図的に外しています

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