※この作品はR-18です。

マイナーキャラ妄想短編集   作:ニンニク嫌い

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 もし日向 望に異変前から仲の良い男子生徒がいたら?

 モナーク(遠野あかね、遠野スミレ)編の続編です。読んでいない方は、そちらとセットでお読みください。


モナーク(日向 望) 純愛

 

 私は誰かのために命をかけられる、そういうキレイな存在になりたかった。

 ううん、ならなくちゃいけないんだ。彼女の代わりになるために。

 

 

 私は、弱くて泣き虫な女の子だった。自分じゃ何も決められず、いつも幼馴染のチヨちゃんにおんぶに抱っこで。

 

 そんな私のせいで、チヨちゃんは殺された。

 

 私が馬鹿だったから、私よりも何倍も素敵だったチヨちゃんは死んだ。

 私に勇気がなかったから、私より何十倍も価値のあるチヨちゃんは死んだ。

 私なんかがチヨちゃんの友達だったから、これからもたくさんの人を救えるはずだったチヨちゃんは死んだ。

 

 チヨちゃんのお母さんが、私を責める。

 お前のせいだって。

 その通りだ。私が悪い。私が悪い。私が悪い。私が、私が、私が……!!

 

 だから、私は償わなくちゃいけない。

 みんなの憧れで、強くて、かっこよくて、輝いていたチヨちゃんの代わりに、私がならなくちゃいけない。

 

 私はチヨちゃんのようのならなきゃいけない。

 

 

 

 

「………それは、違うんじゃい?」

 

「……えっ?」

 

 生徒会室で何気ない会話をしていた私に、君が急にそう言って待ったをかけた。

 

 君、来島 湊くん。

 私が屋上で出会った、余命少ない男子生徒。

 青みがかった髪を肩まで伸ばして、体を冷やさないように制服の上からおしゃれな着物を羽織る彼は、普通なら変になりそうなのに、その顔立ちの良さで完璧にその奇抜なファッションを着こなしている。

 

 初めて会った時、サボりだと思った私が注意をしたことで知り合った彼と、こうして生徒会室で話す仲になるとは思ってもみなかった。

 あの時、湊くんの顔を見てすぐに彼が、先生たちから生徒会長である私に特別に教えられていた余命少ない三年生であることに気づいた。

 

 慌てて謝る私に、彼は笑って一緒に話そうと提案してくると、見てて危なっかしいほどおぼつかない足取りで私の元まで歩いて来て、そのまま本当に世間話を始めてしまった。

 

 やれここから見える景色はどうだとか、保健室の先生は女子生徒にモテそうだとか、最近の学校新聞はマンネリしてきてるなんて。

 そんな、普通の学生のような話題を私に振ってくるのだ。

 

 それに答える私は、彼が本当に余命少ないのか疑問に思ってしまって。でも彼の先ほどの歩き方や、時おり制服の隙間から見える体が明らかに痩せ細っていることが、彼の病気の重さを物語っていた。

 

 それで、失礼だとはわかっても、どうしてそんな体なのに当たり前のように生きられるのか疑問を投げかけてしまった。

 それを彼は笑って答えたんだ。

 

「だって、辛そうな顔より、楽しそうな顔で誰かの記憶に残ってほしいでしょ?」

 

 それを聞いて、私は---ああこの人は強くてすごい、チヨちゃんみたいな人なんだと思ったんだ。

 ハリボテの私とは違う、本物の強い人。

 

 それから私と彼は何度か会って話す、いや彼の方から私に会いに来るようになった。

 彼にとって自分の病状を知っている学生は私だけだったらしく、俺のことを悲しい生徒だと生徒会長さんに思われたまま死にたくないから、という理由で私がいる生徒会室によく来るのだ。

 

 そして今日も、生徒会の仕事をしながらそんな彼とのおしゃべりをしていて、それで……。

 

「もし、生徒会長が誰かの代わりになろうとしてるなら、それは生徒会長にとっても、模倣される側にとっても、良い結果を生むとは思えない」

 

「…………ッ!!」

 

 彼から投げかけられた今までの自分を否定する言葉に、私は立ち上がって彼を睨みつけた。

 

 そう、彼と一緒にいることで、彼の持つ独特の雰囲気に当てられた私は、誰にも喋ったことのない秘密、自分の生き方が誰かの代わり物であると言ってしまったんだ。

 

 それは、いつ死んでもおかしくないのに、自分の人生を悲観することもなく、真っ直ぐに生きる彼に、私の生き方も正しい在り方なんだって肯定してほしかったのかもしれない。

 他人の生き方を引き継ぐなんてすごいねと。

 

 でもかけられた言葉は望んでいた物とは真逆で。それが私にはどうしても納得できなかった。

 

「な、なんで……!」

 

「それがこう生きたいとか、こんなふうになりたいとかなら、俺も生徒会長さんを応援するよ。でも生徒会長さんの口ぶりだと、その人本人になりたいって感じがした。それも、気のせいじゃなければ義務感で」

 

「-----っ、な……あ、それは……!」

 

 見透かされた。私のもっとも触れたれたくない闇を。その精神の強さに憧れて、尊敬していた彼に。

 

 感情に任せて立ち上がった足が、そのままタタラを踏んで後ずさってしまう。でもすぐに壁に阻まれてしまって逃げ場なんてなくて。

 

 どうしよう。見られたくない。覗かれたくない。弱くて、臆病で、卑怯な自分をこれ以上知られなたくないのに。

 

「ごめん。込み入ったことを聞いた。浅慮な行いだったと謝罪するよ」

 

 そんな私を見て、君は頭を下げて謝ってきた。君が悪いわけじゃないのに。全ては弱い私が悪いのに。

 未だに壁に背を当てて青い顔をする私に、彼は何かを考えるように顎に手を当てると、自嘲するような笑みを浮かべて話し始めた。

 

「そうだね。生徒会長に秘密を図らずも知ってしまったお詫びに、俺も生徒会長に自分の弱さを教えよう」

 

 それは、私にとって耳を疑う言葉だった。

 だって、私から見た彼はとても強くて、弱いところなんてないような完璧な人間に見えた。自分の死を悲観せず、しっかりと向き合った上で日々を生きれる人がどれだけいるだろう。

 そんなキレイな生き方をしている君に、弱さがあるなら私は---

 

「実はここにこうして生徒会長と話をしに来てるのはね、友人たちに俺の今を見られるのが怖いからなんだ。

 もちろん、生徒会長を友達と思っていないわけじゃない。ここで言うのは、おれの病気を知らない幼馴染や、クラスメイト、この三年で出会った多くの知人たちのことさ」

 

 そう訥々と語る彼の顔はとても辛そうな表情をしていて、思いとは裏腹に上手く生きられない自分自身を責めるような……チカちゃんの代わりを上手く演じられない私を見ているようで。

 

「綺麗な思い出としとて、最後までみんなの心に残りたいと思ってたのに……綺麗に生きられなくなった瞬間に、彼らの思い出に残りたくなくなってさ。

 そのくせ完全に逃げることも出来ずに、学校に内緒で来てはみんなのことを眺めてる。中途半端で、みっともない。化けの皮が剥がれたハリボテ、それが今の俺なんだよ」

 

 なによそれ。そんなの当然だ。弱っていく自分の姿を友達に見られたくない、心配させたくないなんて、当たり前の感情じゃないか。

 そんなの、誰だって抱く普通の弱さで---

 

「つまるところ、俺は自分を強く見せているだけの臆病者だってことさ。このあいだも、大切な幼馴染たちに自分が弱ってる姿を見られたくなくて酷い言葉で拒絶して傷つけてしまってね。最低だろ?」

 

 ちがう、ちがう。君は強い人間だ。チカちゃんみたいなキレイで輝いている人で。

 私みたいな紛い物とは違う本物の強さを持ってるはずだ。

 

「やめて……止めてよ!! そんな風に自分のことを卑下しないでよ! 君にそんなこと言われたら、君に憧れた私はどうすれば……ッ!!」

 

 気づいたら、口から否定の声が漏れていた。溢れた言葉は止めどころを失い、ぐちゃぐちゃの感情に身を任せるまま叫び続ける。

 

 気づいたら、私が誰にも話したことがなかったチカちゃんのことまで喋っていた。

 自分のせいで死んだ彼女。だからその償いとして、彼女に成ろうとしていること。

 

 全て、全て。私の醜いところ全部。

 

 それを、彼は黙って聞いていた。何も言わずに、私の目をじっと見つめて。

 

 口の中の水分が無くなり、息も絶え絶えになってしまった私がようやく落ち着いた時、彼は初めて立ち上がって、私の体を優しく抱きしめた。

 

「すごいな、生徒会長は。俺よりずっと強い人だったんだ」

 

「---ッ! ば、馬鹿にしてるの!?」

 

 開口一番に彼の言った言葉に、私は激昂した。強い彼が、弱い私の逃避を強いなんて、ふざけるなって思って。

 

「馬鹿になんかしてない。少なくとも俺は、生徒会長と同じ状況になったら、きっとその死の重みも背負うことなく生きていたかもしれない。

 でも、生徒会長は背負った。背負って今日まで必死に生きてきた。それは例えハリボテだとしても、それを建て続けられたのは強い証拠じゃないか。弱さを覆い隠して生きるのは、強い人がただ強く生きるよりも、ずっと困難で、茨の道なんだから」

 

「…………あっ」

 

 その言葉に、私の目から涙が流れ落ちてしまう。ぐちゃぐちゃになっていた心を洗い流すように、彼の一言一句が中に染み渡っていく。

 

 初めて、私は自分の生き方を褒めてもらえたんだ。私の弱いなりの決意を、すごいと認めてもらえた。

 それが嬉しくて、幸せで、満たされて。

 

「あ、ああぁぁ、うわぁぁぁん……!」

 

 私は初めて、チカちゃんの代わりの日向 望ではなく、弱くて卑怯な日向 望として誰かの前で涙を流したんだ。

 

 

 初めて私の弱さを知ってくれた君。私の弱い生き方を、誰よりも強いと肯定してくれた君。私の全てを受け入れてくれた君。

 そんな君が肯定してくれたなら、私も少しは自分を認められる気がした。

 

 やっぱり、君が弱いなんて嘘だよ。

 だって、今も私を救ってくれたんだから。

 君はやっぱり、キレイで、強くて、カッコいい男の子だ。

 

 

 

 そんな君のことを、私は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったんだね……お兄さん」

 

「だから、あタしを拒絶したんだね」

 

「やっぱりお兄さんはアたシの運命の人だったんだ」

 

「ふふふ……ふふふふふふ」

 

「絶対に、死なせないよ」

 

 

 

 学校に霧が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新御門学園部室練。生徒の無事と人を狂わす霧を消すために契約者を探すために、そして行方知れずの彼を探すために訪れたそこで、私はあの姉妹と再会した。それも、最悪の形で。

 

「よくもアタシの前に顔を出せたね……泥棒猫さん……」

「きゃっ……!?」

 

 突如として私たちの前に現れた遠野スミレちゃん。彼女は姿を見せるや否や私たちに、いいえ、私に向けて手を振り翳した。瞬間的に全身を何かが走り抜けるような感覚がして……しかしそれは即座に私の前に盾になるように割って入った少年のおかげで霧散する。

 

「誰…………あなた? どうしてアタシの力が効かないのかな……?」

「…………」

 

 私を庇うように立ったのは、この異常事態で初めて知り合った中等部のアイドル愛川千代ちゃんのお兄さん。一切の色素が感じられない真っ白な髪に、血の色を思わせる純血に染まった瞳。そして、『虚飾』の権能に選ばれた契約者の一人。私はよくわからないが、史上初めて観測された七つの権能ではない番外の能力者。

 とても同じ人間とは思えないような現実離れした雰囲気を持った、チカちゃんや彼のような強い人。

 

「だんまりはよくないなぁ、お兄さん。そんなんじゃモテないよ。邪魔だから早くその女から退いてくれない? ねぇ、退いてよ………………退け」

「----!」

 

 瞬間、天井に吊るされていた蛍光灯が発火して降り注いで来た。スミレちゃんが手を上に上げただけで起こったその事象に、慌てて彼が私を横に突き飛ばして自身もまた飛び退く事で回避する。湊くんの幼馴染の姉妹から向けられた本気の殺意に呆気に取られていた私は、されるがまま地面に投げ出されるしかなくて…………そして地面に倒れ込む私に向けて手の平を向けるスミレちゃんと目が合った。

 

(あれ……私、死んじゃ…………)

 

 

 

 

「危ない……!」

 

 死の諦観に駆られた私を助け起こしたのは、「虚飾」の権能者である彼ではなく、この部室練の前で知り合った学園長の息子である弓田 信哉くんだった。女の子にも見える美少年の彼に手を掴まれ、スミレちゃんから死角となる下駄箱の裏に引き込まれた。

 

「隠れていてください。どうやら彼女は、あなたを狙っているみたいですから」

 

 未だ困惑の中にいる私を置いて、まるで忍者のように下駄箱を蹴って壁を垂直に走る後輩の男の娘。そしてそんな彼を援護するように、相手の視界目掛けて消化器を噴射した彼。それが一番効果的な手段だと、あのたった一瞬の攻防で理解したかのようで。

 

「邪魔しないで……! お兄さんを惑わす売女を……殺せないじゃない……ッ!!」

 

 そしてそれを鬼の形相で迎え撃つスミレちゃんは、出会ってから変わる事のない殺意を、私一人にだけ向け続けている。

 その憎悪がまるで形になったかのように、手をかざした彼女を中心にして周囲の空気が急激に下がり始める。部活練の廊下が一瞬で真冬の雪山のような超低温に変わり、私が瞬きをした時には床に氷のカーペットが出来上がっていた。

 

「なにっ……!?」

「----!」

 

 氷によって奇襲するための踏み込む足場を無くした彼と信哉くんが慌てて飛び退く。そんな二人を逃さないと言わんばかりにスミレちゃんが手を向けて。咄嗟に私が危ない!と口にしようとする、それよりも早く。

 

「舐めるなっ--!」

「きゃっ……!?」

 

 その追撃を予想したかのように、信哉君が履いていた靴をスミレちゃんに向けて投擲。それに彼女の意識が僅かに逸れたタイミングで、素早く彼も信哉くんも物陰に身を隠して彼女の視界から消えて見せた。

 

 それは一瞬の攻防だ。荒事には無縁の生活を送って来た私には、追いつく事も間に割って入る事も不可能だとわかる刹那の見切り合い。

 

「まずいナ。ここは完全に向こうのテリトリー。このままだと逃げる事も出来ずにすり潰されるゾ」

「バニタス!?」

 

 突然耳元に響いた不躾な男の声に、張り詰めていた緊張もあって心臓が飛びでるのではと思うほど驚いた。だけどすぐその声の主に思い立った私は、一体どう言う事なんだと、重力を無視して宙に浮かぶツギハギだらけのウサギの人形に目をやった。

 

「今はあの二人がうまく翻弄しているように見えるガ、あの娘……先ほどの氷の攻撃で出入り口を塞ぎおっタ。ワレワレの退路を完全に絶ってきたゾ」

 

 バニタスの言葉に慌てて後方の出口を確認すると、氷の壁が部室練の扉を覆って完全に凍結させてしまっている。それどころか、周りを見渡せばこの廊下から抜け出すための全ての移動経路が氷によって潰されているではないか。

 

「そんな……! どうしたら!?」

「ええイ、焦るナ小娘。向こうが権能を振り翳すのなら、ワレらも振り翳せばイイ。ワレが言いたい事がわかるナ?」

 

 その問いは、私に対してのものではない。バニタスの視線の先には、私ではなく彼がいた。そして距離が離れている故に聞こえるはずのないバニタスの声を、まるで聞き届けたように、彼はその紅い瞳を爛々と輝かせて頷いて。

 

 そして彼が何をする気なのか、考えるよりも先にそれは来た。

 

「----」

 

 『昂揚』、『恐怖』、『戦意』、『義務感』、『憐憫』、『愛情』、『憎悪』、『殺意』、『諦観』、『殺意』、『殺意』、『愛情」、『愛情』、『殺意』、『愛』、『愛』、『愛』、『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』『お兄さん』----

 

 それは私ではない、私以外の誰かが今感じている感情との強制的な【共感】。

 頭の中に私以外の誰かの感情と心が、線で結ばれたように接続される。これまで何度となく体験しながら未だ慣れないこの感覚こそ、彼が持つ『虚飾』の権能。

 

 虚飾、空虚な飾り、中身のない上っ面、その場を誤魔化すだけの見栄。

 

 その力は、自身と他者の感覚、感情、状態の完全な共有化。虚飾の権能者は指定した相手が今持つ全てを、プラス、マイナス関係なく持たざる自身に飾り付ける。空っぽな今を、他人を模倣することで在るように見せるのだ。

 私の中に湧いてきた未知の感覚や感情、そして契約者しか使えないはずの『色欲』と『虚飾』の権能の力は、私が彼とスミレちゃんと共感している証拠。

 

 虚飾の力は他の契約者さえ自身の権能下に置いて支配する、完全な契約者メタのアンチ権能。一般人相手には何の意味もなさない力の共有化は、むしろ自身の弱体化さえ招きかねない。だがこと同じ権能者相手には、相手の権能を使えると言う反則的な強さを発揮するのだ。

 

「……はっ、かっ!? なに、これ……!!?」

 

 視界の先でスミレちゃんが困惑したように、頭を抱えるのが見えた。自身の感覚や力が誰かと共有化される気持ち悪さを、初見の彼女がいきなり対処できるはずがない。

 その感情の戸惑い、吐き気、嫌悪がダイレクトに私にも感じられる。こめかみに力が入り、私もまたスミレちゃんと同じように頭を抱えて動けなくなってしまう前で----

 

 虚飾の権能者たる彼は、自身の頭に渦巻くこの場全員の感情の嵐をまるで感じてないと言うように、その手を氷の壁へと翳して----次瞬、彼の手から嫉妬の権能が行使された。

 

「ヨシ! よくやっタ、さすがワレが見込んだだけはアル!! さぁ、あの小娘が立ち直らんうちニ、さっさと走レ!!」

 

 喜ぶバニタスに促され、風のような速さで投擲した靴を回収した信哉くんと私は、彼と共に炎で溶け落ちた氷の間を抜けて部室練の奥へと走り出す。

 

「待て……! 待ちなさいよ、この泥棒猫っっ!!」

 

 私の背中に浴びせられる感じたことのないような怨嗟の叫びと、今すぐ目に付くもの全てを破壊したくなる嫉妬を直に感じる。それが何故なのか、共感してしまったが故に理解してしまった私は彼女に、彼女たちに合わせる顔がない。

 

「待てぇぇぇええぇぇええッッッ!!!」

 

 ああ、私はやっぱり臆病で汚くて、卑怯な人間だ。湊くんを助けるって誓ったのに、清く正しい生徒会長としてこの事件を解決するって決めたのに。あの姉妹が私に向ける嫉妬の理由が----誰よりも強い彼が私の助けを必要としているからだって知ってしまったから

 

「どうして、どうして君は私なんかを……そんなに……」

 

 君を助けるって決めたのに、君が私を信じてくれているとわかった瞬間。本当の私が、私にそんな価値はないって囁いた。

 

 

 

 

 

 

 部室練での色欲と虚飾の権能者同士の戦いは、それから追う者と追われる者、見つけて殺す側と隙を見てイデア(契約者の力の源)を破壊する側に分たれた。

 

 契約者にとっては命よりも大切な三つの結晶体たるイデアは、その全てを破壊された時、契約の破棄と共に契約者の願いを焼却する。それは彼ら彼女らにとって最も大切なエゴ。遠野姉妹にとっては、愛するお兄さんたる湊への恋情を意味した。

 

 故に二人は絶対に破壊させはしないと、自分たちのイデアがある場所に繋がる異空間の入り口に日向たちが辿りつかないように、死ぬ気で妨害を行った。

 

 例えば、部室練の物理的な破壊。人が踏み入れる事も困難なほどに焼却し、凍結させて道を無くす。

 

 例えば、部室練に取り残された哀れな生徒たちの陽動。彼ら彼女らの感情を操り、他人を殺したくて仕方がないほどの狂躁を抱かせて日向たちにぶつける。暴徒と化した生徒の存在は、ただの一般人には相性の悪い虚飾の権能では対処不可能。

 

 愛するお兄さんと添い遂げるためなら、人を殺す事など厭わない今の姉妹にはそれこそどんな事でも出来た。

 

 それをなんとか切り抜けてイデアがある異空間にたどり着いたとしても、待っていたのは遠野姉妹による、部室練に訪れた時の戦闘とは隔絶した死の防衛圏。

 眷属の量も質も圧倒的に違ければ、遠野姉妹の権能の出力まで常識はずれな高火力。数々の契約者の資料を閲覧している信哉からして、今まで観測された色欲の契約者の中で間違いなく最強の適性を得ていると豪語された二人。

 

 結果、日向たちは一つのイデアも破壊する事なく追われては逃げての繰り返しを続ける事になり、そしてそれはいずれ来る詰みを引き延ばすだけの悪あがきでしかなかった。

 今までの契約者とは次元の違う二人は、ともすれば今回の異変を企てた「◼︎◼︎ ◼︎◼︎」にも匹敵する契約者であると言えよう。

 

 そんな彼女たちを倒すためにはどうすればいいか?

 

「ここで勝ち目がないのなラ、ここじゃない場所で戦えばイイ」

 

 バニタスが発した助言。それは追い詰められていた彼らにとって天啓とも言える一言で、そして同時に日向 望にとっても図らずも自身の願いを遂げるきっかけとなった。

 

 そして彼らは行動を起こした。無謀で愚かな、考え無しのイデアを破壊するための何度目ともなる異空間への突撃。

 それを迎撃しに現れる、現実世界にいる時は四六時中どちらかが屯している部屋を空けてイデアの死守に来る遠野姉妹との勝ち目のない戦いへ、男二人だけで挑むのだ。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ここで、間違いない……!」

 

 私は息も絶え絶えで、彼が居ると思しき部屋の前に辿り着いた。全力疾走と、決して気取られてはならないと言う緊張感を同時に体感していた私の体は、気持ちの悪い汗でびっしょりで、そんな事考えている場合じゃないとわかっていても、こんな状態で湊くんの前に立ちたくないと思う私がいる。

 

 湊くん。来島 湊。私の憧れ。私のもう一人の目標。そして、私の◼︎◼︎の人。その彼が、ここにいる。私が助けたいと願った君が、ここにいる。それだけで、心臓が早鐘を打って、全身に熱い血潮が流れ出す。

 

 湊くんを助けたいって私のエゴは、びっくりするほどあっさりと、彼と信哉くんに受け入れられた。もちろんそれが、彼女たちを二人のテリトリーたる部室練から外に出すための最も有効な手立てだったのもあるだろう。

 

 でも二人の顔を見れば、湊君の救出が決してそんな打算からの理由だけではないとわかった。

 そしてお人よしだとわかっていた彼はともかく、初めて会った信哉くんまで遠野さんたちを倒すことより優先すべき事だと納得してくれたのは意外だった。なんでも父代わりである優吾さん、学園長の旦那さんが良くお世話になっていたかららしい。

 

 学園長の旦那さんにまで縁を繋げてたなんて、私の知らない関係性を結んでいた事に少し嫉妬してしまったけど、そんな彼の魅力がこうして私が君を救う助けになってくれているのが今は嬉しい。

 まるで、私が君を助ける事が君自身に望まれている気がして。

 

 私たちの来島 湊救出作戦は至ってシンプルだった。

 

 囮となる彼と信哉君がイデアを狙うフリをして異空間に侵入、それを妨害に来る遠野姉妹を私が湊君を救出するまで引きつけておく。

 言葉にすれば単純で、でも実際は相手にこちらの狙いを悟られないように立ち回らなければいけない。作戦の都合、必ず一人は現実世界に残らなければならず、人数の減少の意図をあの姉妹二人に気取られない演技力と、ただでさえ戦力差のある戦いを現実での救出作戦が成功するまで長引かせなければならないのだ。

 

 その難しい役回りを進んで買って出てくれた彼と信哉君には感謝しかないし、湊君を救うのは君であるべきだって私の背を押してくれた二人のためにも、なんとしても私は作戦を成功させなきゃいけない。

 

 私は二人が異世界に侵入してから、ただじっと気配を殺してその時を待った。君を助ける瞬間を。

 君が望み、願って伸ばした助けを求める手を掴む瞬間を。それが、私が今までみっともなく生き残ってしまった理由だったのだと言い聞かせて。やっと、私が綺麗な人を助けられるんだと、汚い本性を湧き立たせながら。

 

 そして今、やっとその時が来て。私はここにいる。一刻も早く君に会いたくて、でも汗臭い私を見られたくない乙女心もあって、ごちゃごちゃになった感情は、でもただ一つ君を想っていることだけは一致していた。

 

「湊くん----?」

 

 扉を開ける。そこに君がいる事を、目で見るよりも早く直感で確信した。

 

 部屋は、まるでそう言うホテルの一室のようにベッドが中央に置かれた以外何もない空間だった。元々そこにあっただろう机や椅子、ロッカーは全て撤去されていて、床には埃一つ落ちていない。

 思わず病室を連想してしまうような清潔な部屋の中心に、君はいた。

 

 毛布に包まれた体から覗く四肢を鎖でベッドに縛り付けらて。だけど安らかな顔で眠る姿は、まるで一つの絵画のよう。ゴルゴダの丘に磔にされた救世主のように、君の姿は私には神々しく映った。

 

「………………ぁ、湊くん! 大丈夫!?」

 

 あまりの衝撃に気をやってしまったが、状況は一刻を争う状態なのだ。いつ何時遠野姉妹が戻ってこないとも限らない現状、すぐに彼を連れ出さなくてはいけない。私は慌てて彼が眠るベッドに近づいて、鎖の拘束を解く。枷に締め付けられていた箇所は僅かに鬱血していて、それが彼の元々の病弱な外見と合わさって痛々しさを増してくる。

 

「早く、ここから出ないと「へぇ、どこに出るの?」----」

 

 

 

 

 

 息が止まった。

 

 

 

 

 後ろからかけられた、まるで親しい友人を呼び止めるかのような声色で投げかけられた声に、全神経の動きが強制的に固められてしまった。

 

「ねぇ、教えてよ泥棒猫さん」

 

 声が、近づいてくる。

 

「一体、あたしの王子様をどこに連れて行く気なの?」

 

 声が、近づいてくる。

 

「その汚い体で、その醜い指先で、王子様をお城から奪おうとしたの?」

 

 声が、近づいてくる。

 

「それって、本当に…………烏滸がましいよ」

 

 真後ろ。

 

「壊れて」

 

 その一言は、私の脳裏に直接響いたように感じて。そして瞬間、私の脳は狂躁に焼かれた。

 

「----あ、あああ゛あ゛あ゛あ゛あああああ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!」

 

 脳に感じたことがないほどの興奮が駆け巡る。視界に映る全てが流転して、僅かな音の波長さえも神経が過敏に反応して脳を揺らし、あまりの激情に目が裏返り、口や鼻が呼吸を忘れて過呼吸に陥りそうになる。

 と思ったら、今度は全脳をとてつもない絶望が襲う。生きている事に飽きてくるような、指一本、瞼を揺らすことさえ億劫になるほどの倦怠感と無気力感が全身を支配して。

 

「あはははははは!!!」

 

 そしたら今度は何もかもがどうしようもなくなるほどの笑いを感じ。

 

「ひっ、ひぐっ、あっ……ああぁぁ゛ぁ!!」

 

 今度は今すぐ自殺したくなるほどの後悔に胸を締め付けられる。

 

 そして再び、興奮を、絶望を、感動、悲しみ、怒り、後悔、狂悦、鬱、歓喜、苦痛--------

 

 

 

 

「ひっ……ひゅ……っ……」

「あははは、ザマァないね泥棒猫さん。王子様とお姫様の恋路を邪魔する悪い継母とその娘たちは、成敗されるのが当然の摂理なんだよ」

 

 永遠にも感じられた精神の躁鬱が治った時、私は息も絶え絶えで廊下に這いつくばっていた。もう自分が何をしようとしていたのかとか、今私を見下ろしているのが誰なのかさえわからない。ただただ、ようやく脳に訪れた静けさに何も考えずに浸かっていたくて。願いとか、覚悟とか、想いとか、もう全部どうでもよくなって。

 

「ふふふ……このまま殺してあげてもいいけど、それじゃお兄さんの中で泥棒猫さんは良い人のままで記憶に残っちゃうものね」

 

 ガリっと頭を踏みつけられる。でもその痛みさえ最早感じ取れないほど、私の感覚は虫の息ほどに壊れてしまっている。

 

「だからこの空っぽの脳に熱を送って、常時発情している淫乱に変えてこの部室練にいる全男子と交わらせてあげる。自分から進んで股開いて、喜んで汚い連中の汚物を口で咥えるビッチ。そんな姿を見れば、お兄さんもあなたの事を失望してくれるでしょ?」

 

 頭の上から響いた言葉。思考を回すのさえ億劫な私の頭が、それでも一つの単語だけは聞き届けた。

 『失望』。チカちゃんの代わりになると誓った私が一番されたくなくて、そして誰よりも彼にそう思われたくなかった感情。

 

 頭の中で彼と失望が結びつく。その瞬間、私のどこにこんな意思の余力が残っていたんだと思うほど、全身に凄まじい恐怖と、それ以上の拒絶反応による力が湧いてくる。

 

「ぃ……や…………れ……けわ……」

「……っ!? まだ動けるの?」

 

 だけど絞り出せた力で出来た事は、まるで死にかけの虫がわずかに足を動かすだけ程度。立つことも、言葉を発することもままならず、それでも私はただ彼を思って足掻いていた。

 

「き、みに……だ……けは、わ……たし……ッ!」

「…………あっそう。泥棒猫さんの、お兄さんを想う心だけは認めてあげる。----でも、それはあたしたちだけが持っていればいいの」

 

 ----だからさよなら

 

 頭上で、誰かが手をかざしたのを感じた。そして同時に、私の頭はもう終わりなんだと悟った。私の足掻きは何の意味もなさなかったんだと。

 

 

 

 

 だけど----

 

 だけど、私の心は

 まだ、諦めてなくて

 まだ、彼と笑い合う日々を

 彼と、また生徒会室で他愛のないおしゃべりする日を求めていて

 何より…………!

 

(私、まだ君に告白してないんだよ----)

 

 ああ、この大切な気持ちが、大切だってわかるのにこんなに時間かかっちゃった。

 

「…………湊くんッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 その唖然とした言葉は、私と彼女、どっちのものだっただろう。

 

 思考が空白になっていた。好きな人の名を叫んだ瞬間後ろで膨れ上がった圧に、私は今度こそ終わったのだと思っていた。

 だけど、その時は訪れなくて。代わりに感じたのは、誰かが私を抱きしめたような温かな感触。『色欲』の権能でズタズタにされていた心が、それだけで回復して形を取り戻していくような温もり。

 

 それをくれたのが誰か。

 私の体を、重病の身でそれでも強く抱きしめてくれているのは誰か。

 青みがかった髪を肩まで伸ばし、私をあかねちゃんから隠すように庇ってくれているのは誰か。

 

「ぁ……ぁぁ…………湊……くん?」

「うっ、ぐ…………おはよう、生徒会長」

 

 来島 湊。私のヒーロー。私の目標。私の理想。そして、私の好きな人。

 彼が、そこにいた。

 

「----っ、お兄さんどいて! そいつ殺せない!!」

 

 あかねちゃんの憎悪のこもった怒声が響き渡る。思わず身が竦み上がってしまうほどの強烈な殺意と、向けられた手の平が否応なく私に先ほどの地獄を想起させてくる。

 だけどあかねちゃんは憎々しく彼の背後にいる私を睨むだけで何もしてこない。いや、出来ないのだ。なぜなら、彼女が私を『色欲』の権能で攻撃するには対象に手を翳さなくてはいけないのに、その対象である私が彼女の愛する彼の体にすっぽり覆われているから。

 

 でもそれなのに私は安心する事はできなかった。だって視界に入る君の顔は、誰が見ても疲労困憊なのが目に見えて、本来は私と同じく体を動かすのさえ辛いのを無理矢理動かして私を助けてくれたのだとわかってしまったから。

 

 それはあかねちゃんにもわかるのだろう。だからこそ、彼女は彼にそんな無理をさせた私を、無理をしても助けたいと彼に思われている私に先ほど以上に激しい憎悪を向けている。

 

「っ、言っとくけど……お兄さんを逃す気はないよ。その泥棒猫もね。これは大好きなお兄さんの頼みでも聞けない。特に、お兄さんがやっぱり諦めてくれてなかったとわかった今はなおさら…………」

 

 あかねちゃんの纏う雰囲気が、寒々しい暗い熱を灯したようなものに変わる。そしてその言葉から、もう湊くんにも一時的に危害を加える事を辞さないだろうと言うこともわかってしまう。

 

 こちらは無手で、まともに動けない。でも相手はただ手を向けるだけでこちらを昏倒できる。本来なら絶対に勝ち目はない状況。

 だけど、意識がはっきりして考えがまとまるようになった私には、先ほどの不意打ちでの感情操作の時には活かせなかった奥の手が一つだけあった。

 

 それは別行動となっている虚飾の契約者たる彼から授けられた秘策。おそらく一度きりの、でも成功すれば回避不可能な足止め方法。

 

「湊くん、これをあかねちゃんに投げて!」

「! わかったよ、会長……!」

 

 湊くんに、私の懐に入っていた物を渡す。それが何か、なぜそれを投げなくてはいけないのか、それを何一つ聞くことなく、彼はあかねちゃんに渡した物を投擲してくれる。それが私の事をそれだけ信用してくれている事の証だとわかってしまって、こんな時に熱くなる顔を止められない。

 

「えっ……なに、これ……?」

 

 そして私の推測通り、あかねちゃんは好きな相手から突然投げられた物を、つい反射的に受け取ってしまう。

 

「…………? 携帯……?」

 

 RRrRrRRRrRrr

 

 あかねちゃんがキャッチした物。あらかじめ特殊な連絡先に電話をかけていた携帯電話が、普遍的な着信音を鳴らし出す。それはこの場において、不自然なほどよく響き渡り、そして----

 

「なんのつもりかな? 一体どこにでん----」

 

 ガチャン

 

 それは何の前触れもなかった。

 それはまるで同じ場所の別の時間を編集して繋ぎ合わせた映像のように突然と。

 

 疑問を最後まで言い終わることなく、その手に持っていた携帯電話が地に落ちる音を残して、遠野あかねはこの世界から消失した。

 

「!?」

「大丈夫、一時的に別世界に飛ばしただけ。契約者である彼女ならすぐに戻ってくるよ」

 

 驚き目を丸くする彼に、私はなるべく心配をさせないような声色を意識してあかねちゃんは大丈夫だと告げる。

 

 今のこの学園は霧の影響で別世界……変な絡繰のような存在がいる世界に繋がりやすくなっている。そしてその別世界は、突発的に学園内で起こる時空の歪みで入ってしまう以外にも、携帯電話で特定の番号に電話をかける事でも入る事が可能なのだ。

 それはまるで、ラジオの周波数を合わせてラジオ局の通信と繋がるように。別世界が常に発している周波数と携帯から電話として送信する周波数を合わせる事で、一時的に彼方と此方に電波による橋が形成されるのだ。

 

 そしてその橋は、その周波数を発する物体の至近距離にいた者を強制的に彼方側へと転送する。その転送される人間がどれくらい携帯と距離があれば選ばれるのかは、私たちも何度か試してみて実証済み。この私たちの位置ならば、ギリギリあかねちゃんだけが別世界に送られる。

 

「さぁ、今のうちに逃げないと!」

「っ……ああ、助かるよ会長」

 

 だがこの方法はあくまで別世界に送るだけ。普通の人ならそのまま終わりだろうけど、悪魔と契約した人ならば此方に帰って来るのは容易だ。つまり、急いでこの場から逃げないと、あかねちゃんが戻って来てしまうと言う事。

 

 疲弊している彼の腕を肩に抱いて持ち上げる。病で痩せ細っている彼の体は、私でも何とか支えられるぐらいに軽くて、それがなんだか彼が死に近いところにいるようで怖くなる。

 

 だからその恐怖を誤魔化すように、私は努めてみんなが尊敬する生徒会長、日向 望を装う。そうしないと、やっとまた会えた彼の前でみっともなく泣き出してしまいそうだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るよ、湊くん。今、大丈夫…………あ、まだ寝てるんだね」

 

 あの後、部室練から湊くんを連れて逃走した私は、囮役を買って出てくれてた二人と合流して本校舎まで避難する事ができた。

 

 それとあかねちゃんが私の元に来た理由は、信哉くん曰く途中までは姉妹揃ってイデアの防衛に当たっていたらしいのだが、女の勘とやらで危機感を覚えたあかねちゃんが戦線を離脱してしまったらしいのだ。

 申し訳なく謝って来る信哉くんと彼に無事だったから問題ないよと励ましたけど、そこから驚いたのがなんでも二人はその後スミレちゃんを撤退させてイデアを一つ破壊する事に成功したと言うのだ。

 

 どうやら湊くんに何かあったのではと気が気ではなかったスミレちゃんは、平常心を保てずに焦って隙ができたらしい。それを的確に突いて、一杯食わせる事が出来たと、淡々と感情の乗らない口調で説明する虚飾の彼に、彼女たちの恐怖を骨身に刻まれた私は一周回ってその豪胆さに尊敬してしまった。

 

 とにかく、その後本校舎に着いた私たちは何にも優先して湊くんを保健室に預けた。一目で相当の疲弊をしているとわかる彼を、校医である長谷川カケル先生はいつものだらしない姿からは想像つかないほど真剣な顔で受け入れてくれた。

 彼とカケル先生は前々から交流があったらしく(まぁ、彼の立場を考えるとあって当然だよね)、即座に痛み止めやらビタミン剤が彼に打たれた。これも彼の主治医が学校に通う条件としてカケル先生に頼んだ処方薬らしく、学園長の許可もあってただの保健室の先生である彼も特例的に使用が許されているらしい。

 

 そしてとりあえず全ての処置を終えて、今の所問題はないと太鼓判を押された彼に、私は居ても立っても居らずに保健室へと訪ねて来てしまった。

 だけど当然と言うべきか、私が考えなさすぎたと言うべきか、彼は保健室の清潔感漂うベッドの上で瞼を閉じて眠っている。あれだけの状態だったんだ、休んで然るべきだろう。

 

「んっ……でも、本当によかった」

 

 眠る彼の側に近寄る。そしてそっと彼の頬に触れれば、彼の体温が手の平を通じて伝わってきて、私はようやく彼を助けられたのだと実感出来た。

 

「ううん、助けられたのは私の方…………だよね」

 

 だけど口を思わず吐いて出てしまった言葉に、私は否応なく数時間前の自分の醜態を思い出して心が暗くなってしまう。

 彼を助けようとして、でも何も出来ずにあかねちゃんに壊されかけて。結局、助けようとしたはずの湊くんに助けられて…………彼がいなかったら私は、今頃何も成せずにあのまま終わっていただろう。

 

「本当……情けないな……私。やっぱり、私なんかじゃ……なんにも……」

 

 彼の頬を触る手が震えてしまう。口にすればするほどマイナスになっていく感情が、私を苛んで責め立てるかのよう。それでも自責の念は止まらなくて、私は縋り付くように彼の体を抱きしめようとした。

 

「…………あっ」

 

 そして、気づいてしまった。

 

 彼の全身に付けられた、いくつものマーキング(キスマーク)。

 助ける時には気づかなかった鼻腔を刺激する、強烈な雌の淫汁。

 

 それが意味する事を、あの二人が彼とナニをしていたのかを、私は理解してしまった。

 

「--------」

 

 その時、私の中に湧き上がった感情を一体なんて呼べばよかったんだろう。

 羞恥、嫉妬、興奮、怒り、背徳感、憎悪、そして----共感。彼を監禁してでも犯して自分の色に染めてしまおうとした彼女たちに、私は深いシンパシーを感じてしまった。

 

「………………ぁ」

 

 知らず伸ばした手が彼の手を握り締めて、顔が彼の口に吸い寄せられるように近づいてしまう。唇と唇の距離がもうほんの数センチほどにまでなって、私の視界が彼の顔でいっぱいになる。

 そのままシテしまおうかと、私の頭がイケナイ思考に侵食されてしまう瞬間----

 

「…………せいと……かいちょう……?」

「ふわあぁぁあッッ!!?」

 

 目を開けた彼の視線と視線がぶつかり合った。あまりの驚きと羞恥心に、思わず飛び起きて地面に転げ落ちてしまう。ぶつけたお尻がズキンと痛んで、しかし眠っていた彼にキスをしようとした事がバレたかもしれないと言う事実に、そんな些細な事はどうでもよくなってしまう。

 

「えっと、違うの、今のは、あの、その!?」

 

 混乱した頭では弁解のための言い訳さえ思い浮かばない。意識を覚醒させてゆっくりとベッドから身を起こした彼を前に、私はただ顔を真っ赤にして手をブンブンと振り回すしか出来ない。

 

「----そうか……やっぱり、生徒会長が助けに来てくれのは夢じゃなかったのか」

「ええと、だからあれはキスとかじゃなくて、その…………え?」

 

 でもそんな私に対して、彼はいつも生徒会室で二人きりで話していた時と同じような落ち着いた声と仕草で、何一つ変わることのない優しげな笑みを浮かべてくれた。

 

「信じてたよ、生徒会長。ありがとう、あなたはやっぱり強い人だ」

「な……そんな、私は……っ!」

 

 それは私なんかが受け取っていい言葉ではなくて。

 それは私なんて醜い女が浴びていい賞賛じゃなくて。

 さっきとは別の意味で否定の言葉を出そうとする私の口は、不意に頭に乗せられた彼の手のひらの温もりで妨げられた。

 

「そんなに自分を否定しなくていい。俺にとって会長は、俺が憧れて好きになった日向 望は強い人だ。あなたがそう思わなくても、俺がそう思っている。実際、こうして助けに来てくれたんだ。これで私は強くないとか、逆に失礼だと思うな」

「----っ! ぅあっ……ああっ……!」

 

 涙が、勝手に溢れ出す。彼の私を肯定する言葉に。チヨちゃんを演じる私ではなく、弱くて醜い日向 望を信じる彼の眼差しに。

 ずっと、ずっとずっとずっと自分の価値を認められなかった私自身を、誰よりも強い人だと私が思っている君は、価値はあると真正面から断言して。

 

 そんなの、どう思えばいいの。君にそんなにまっすぐ肯定されたら、私…………もう自分を否定できないよ。

 だって----好きな人の本気の言葉を、違うって拒絶出来るほど私は強くないんだもの。

 

「私……君を助けに来たの。弱くて、頼りなくて、臆病で……それでも君を助けたいって思ったから!」

「うん……助けに来てくれてありがとう、会長。俺も、会長をずっと待ってた」

 

 もうこの胸の衝動を我慢することなんて出来ない。私は手を広げて、彼を抱きしめた。強く、強く。助けた彼の存在を自身の体に刻みつけるように、もうどこにも行かないでと彼の体に教え込むように。

 

 そして重ね合った体から彼の温もりを感じると、私の瞳は自然、彼のこちらを見つめる視線と合わさってしまう。

 海の青さを思わせる綺麗な青髪。痩せ細ってもわかる彼の整った顔。そして私を優しく見つめてくる吸い込まれそうなほど美しい瞳。

 

「ぁっ…………んっ」

 

 だから私は……ううん、私たちは自然とお互いの距離をゼロにして、そっと唇を重ね合わせた。

 

「ちゅ……あ、んんっ……」

 

 そして一度触れ合うと、私はもう我慢が効かなくなって。触れるだけで抑えようと思ってた私の口は、まるで啄むように何度も彼の唇に吸い付いては彼の温もりを口から感じ取ろうとしてしまう。

 

「ちゅぱっ……はむっ……んじゅる……!」

 

 どんどん彼を求める私の動きは活発になっていって。気づいたら舌を彼の口内に侵入させて驚きで震える彼の舌を絡め取ってお互いの唾液を交換させ合わせたりまでして。

 

「ちゅずずっ、ふぅ、ふぅ、ぢゅぢゅ、あっ、んふぅ……♡」

 

 いつの間にか彼の体に馬乗りになって、彼を押さえつけるように両手で彼の顔を固定して、この時の私、きっとか弱い男の子を襲う獣みたいだったんだろうなと、後から回想して思ってしまうほど貪欲に彼を求めていて。

 

 重なり合った唇から収まりきらなかった唾液がこぼれ落ちてお互いの顎を伝わり落ちて、ようやく離れた私たちの口の間にはとっても濃く混じり合った唾液の橋が結び合っていた。

 

「----好き、私は君が大好き」

 

「…………ありがとう、生徒会長。でも、俺はもう----」

 

「わかってる。それでも、私は君が好きなの。強くなれない弱い私を、弱いままでと良いと受け入れてくれた君が好き。ずっと好きになれなかった私自身を、素敵だって、かっこいいって、この私を認めてくれた君が好き」

 

「日向 望は、来島 湊くんが大好きです!!」

 

 一息に、胸が張り裂けそうなほど溜め込み続けた彼への想いを吐き出す。彼の病気も、現状も、全てを理解しているけれど、私の中のこの激情(エゴ)はそんなこと関係ないと叫んでいるから。

 

「------------そっか」

 

 私の一世一代の告白を聞いた彼は、長い沈黙の末にそのたった一言だけを絞り出すように口にした。そして、こちらを向いて姿勢を正すと私が思わず見惚れてしまうような儚い微笑みを浮かべて。

 

「ごめん。俺は、生徒会長の……望の気持ちを受け取れない。それは、もう死んでしまう者が受け取って良い物ではないから。だから、ごめんなさい」

「--------ぁっ」

 

 悲しみは、思ったほど感じなかった。

 それは、心のどこかで彼が告白を受け入れてくれないとわかっていたから。監禁するまで自身の事を愛している姉妹の想いさえ拒絶した彼の覚悟。それが、私でも覆す事は出来ないなんて、当然のこと……だよね。

 

「…………それなら……思い出を、くれないかな?」

「え?」

 

 でも、だけど、想いを受け入れられなかったとしても、それで諦められるほど私の愛(エゴ)も軽くはない。しかも、受け入れられなかった理由が、もう死んでしまうからなんて、君の気持ちと関係ない理由ならなおさら。

 

「思い出って……」

「わかるでしょ? 遠野さんたちと、してたんでしょ、ずっと」

「いや、あれは…………っ!?」

 

 顔を赤くして躊躇う彼を押さえつける。キスも告白もしてしまったからか、私を押し留めるまともなストッパーはもう働いていない。あるのはただ、遠野さんたちと同じように彼に私を刻み込ませたいと言う醜い女の情動だけ。

 

「私とも、したっていいでしょ? こんなに君のこと好きな女の子、フッてはい終わりなんて許さないから」

「せいとか----」

「望……次に生徒会長って言ったら……私も、何するかわかんないよ」

 

 声を低くして、脅すように彼の耳元で囁く。それを聞いた彼が、一瞬びくりと体を震わせて、でも私の本気を確かめるように強い眼差しで見つめて来た。

 

「俺で……いいのか?」

「君じゃなきゃダメなんだよ」

 

 私の心からの言葉。それを聞いた彼は、ようやく折れてくれたようで抵抗していた体の力を抜いてくれた。

 

 よかった。やっぱりハジメテはちゃんと合意の上でしたいもんね。私は自分の中でスイッチを入れる。いつものように、臆病でダメな私からみんなの憧れる強くてかっこいい生徒会長……ではなく、男の子を翻弄するお姉さんの仮面をかぶって。

 

「じゃあ、下……脱がすね」

 

 彼に確認を取るように言ってみたけど、その実彼からの返答なんて聞く気はなかった。もう彼のズボンに伸ばした手は、下着ごと彼の下半身の衣服を全て脱がしていく。

 

「あっ……」

 

 そして露わになった父親以外ので初めて見る男の人の生殖器に目が釘付けになってしまう。それは彼の男性器がその病弱な体に似合わないほど大きかったからと言うのももちろんあるが、それ以上にその肉竿から香る圧倒的な雄の匂いに、私の中の女が心奪われてしまったからだ。

 

「----っ、それじゃあ……君のおちんちん……ごくっ…………ご奉仕させてもらうから」

 

 これをこれから咥えると思っただけで思わず下腹部が熱くなってしまう。知らず口の中に溜まった唾を飲み込みながら、私は興奮した手つきで彼の性器に指先を伸ばす。

 

「ぁ……暖かい……」

 

 触れた彼の肉棒はびっくりするぐらい熱くて、固くて、ビクビクしてて、とても可愛らしかった。

 

「ふふ、震えてる。私に触れられてびっくりしてるの? 大丈夫、すぐに気持ちよくしてあげる」

 

 上目遣いに見上げた彼の顔は、何かを堪えるように顔を赤くしながら目を瞑っていて、それが私の中の加虐心を強めている事に君は気づいてないんだろうな。

 

「こうやって、手で包んで上下させればいいんだよね? それと、この玉をこうして揉み込んで……どう? 気持ちいい?」

「うっ、ああ……なんで、そんなに知って……!?」

「ふふ、女の子舐めないでよね。性に興味があるのは、男の子だけじゃないんだから」

 

 彼の勃起した肉棒を丸を作った手の中に収めて、優しく上から下にと擦ってあげる。そしてもう片方の手は彼の睾丸を包んで、指先でコロコロと揉みほぐす。

 前に問題児の男子生徒たちから取り上げたエロ本を、男性高校生が持っていていいものか検閲するために読んだ際に不覚にも知ってしまった知識だけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

 

「気持ちいいみたいだね。君の……どんどん大きくなってるよ」

 

 私の手の中で、彼の固く勃起していた肉棒はよりその膨らみを増して、血管が浮き出るほどにその怒張を猛らせて行く。

 

 それが私のテクでこんなに興奮してくれていると視覚的に教えてくれて、私の奉仕精神にさらに油を注いでくる。だからより一生懸命にと彼の肉棒を手で奉仕していると、彼の竿皮を擦る私の手の平からずちゅ♡ ぐちゅっ♡ と水音が響き始めた。

 

「んっ、これって……もしかして、これが先走り液ってやつなの?」

「……っ! そうだけど、あんまり口にしないでほしいな……!」

 

 私の手に付着した液体。それが彼の鈴口からこぼれ落ちた物だとわかると、私は思わず記憶回路に引っかかったその液体の正体を口にしてしまう。

 初めて見て、触れた男の人の精子とは違う体液。そして顔を真っ赤にして私に文句を言う彼の姿に思わず、悪戯心が刺激されてしまって……私はニヤリと笑いながら彼に見せつけるようにその手に付いた先走り液を口に咥えた。

 

「なっ……!?」

「んっ、ちゅっ、ちゅぱっ……なんだか、苦いね。これが男の人の味なんだ」

 

 舌で転がした液体は、思いの外苦味を伴っていて、これが湊くんの体から出た物でなければとてもではないがまた口にしたいとは思えない味だ。まぁ逆に言えば、湊くんの物なら何度でも口にしても良いってことだけど。

 

「もっと舐めてみたいから……そろそろ君のを咥えるね」

 

 だから早速とばかりに、私は彼の先走り液で濡れた肉棒へと口を近づけた。最も彼の体液を舐めてみたいと言うのは建前で、本当はそろそろ男の人のを口で奉仕する、確かフェラチオ? ってのをやってみたかったからだ。

 

「んっ……ちゅううう……」

「ふっ、あっ……! 望……っ!?」

 

 私の口の中に、彼の肉棒の先端が入ってくる。とても大きくて、弾力があって、熱い雄棒。一瞬、熱々のソーセージを食べている気分になって、でも舌先から感じる苦味やザラザラとした感触に、これが男の人の性器なんだと再確認させられる。

 

「んじゅううう……♡」

 

 ゆっくりと、彼の肉棒の形に沿って唇を窄めながら顔を下ろしていく。そうすれば、彼の肉棒にまるで私と言う存在をマーキングしているような錯覚を覚えるから。

 

 そしてようやっと彼の根本まで咥え込むと、彼の肉棒の先端は私の喉奥深くまで届いていて。思わず嗚咽しそうになる体を無理やり抑え込みながら、今度はゆっくりと彼の竿を抜いて行く。

 

 ずちゅううう♡って、淫らな音をわざと奏でながら、頬裏にまで彼の物が当たるように調整しながら咥え込んだ時と同じくらいの速度でゆっくりと引き抜いていく。

 

「んおおおぉぉ………ぷはぁ……♡ はぁ、はぁ…………あぁ♡」

 

 口から引き抜いてから見やった彼の肉棒。それが見事なまでに私の唾液で余す事なくテカテカとコーティングされていたから。私はまるで彼を自分色に染め上げたような感覚に、思わず胸を熱く高鳴らせてしまった。

 

(そっか、これが遠野さんたちも感じていた感覚なんだね。うん、わかるよ。こんなの、病みつきになって当然だよね♡)

 

 私の中に、あの恐ろしかった姉妹への恐怖心はもうなかった。代わりに宿ったのは二人への深い共感と同調。きっと彼へと同じことをしただろう二人に、私はこれなら彼を監禁してずっと淫欲に耽っていたのも当然だよね、と心からの納得をしてしまう。

 

「だめ、我慢できないよこんなの。あーん♡ じゅるるる、ちゅぱっ、んじゅ、ぢゅずずず……♡」

「なっ、望!? そんな、急に激しく……!」

 

 だから私は、すぐにまた彼の肉棒を口に咥えると、今度はスローペースではなく欲望全開の激しいストロークで彼を責め立てた。

 じゅぽ♡ じゅぷ♡って口の間から漏れた唾液と先走り液の混合液が淫らな水音を鳴らして、それがより私の興奮を煽ってもっと激しいフェラを誘発させる。

 

「じゅずず♡ んぶっ、じゅぷ、じゅぞぞぞッ♡」

「待って、本当に……これ以上は……ぐっ、出る……出ちゃうから……!」

 

 上から聞こえた彼の懇願の言葉。出ると言う動詞が意味する主語の存在を悟った私は、より強く彼へのフェラを強めて、そして両手で彼の腰を掴んで逃げられないように固定する。

 驚いたような彼の雰囲気が伝わってくるが、まったく、本当に女心がわかってないな。君の事を無理やり組み伏せて襲っちゃうぐらい好きな子が、君のザーメンを嫌がると思っているのかな?

 

「じゅじゅずっ♡ はひて! へいし、はなたのへいし、へんぶはひて!!」

「あっ……くっ、うあああッ!!」

 

 びゅるるるる!

 

 私が催促するように強く鈴口を吸い上げた瞬間、爆発するように飛び出した彼の精液が私の口内に吐き出された。

 それは舌に、頬裏に、歯に、喉奥にと、私の口内全てに付着し、注ぎ込まれて、彼の体液で私が支配されて行く。

 

「んじゅ……れろ……じゅ、じゅる……んっ、ごくり♡」

 

 舌の上で彼の精液を転がし、口全体で彼の体液を味わってから胃の中へと飲み込む。初めて味わった性液は、先走り液と同じくらい苦くて変な味がして、でもそれが彼の物だと言うバイアスを通した事でこれ以上とない美食に感じられてしまう。

 

「はぁ……♡ とっても、美味しかったよ。湊くんの精液……♡」

「う、うう……あかねとスミレと言い、どうして男の精液なんて飲みたがるんだ」

 

 ああ、やっぱり遠野さんたちも飲んだんだね。それはそうだよね。こんなに美味しいんだもの。

 

「ふふ、好きな人の体液はなんだって飲みたくなるものよ」

「それは……流石に一般的な性癖とは言い難いんじゃないかな?」

「私は一般的じゃなくて全然構わない。それだけ、私や遠野さんたちは君が好きって事だもん」

 

 そう告げながら、私はもうすっかり興奮で濡れてしまった下着をスカートの下から脱ぎ捨てる。

 お気に入りだった白のレース下着は、替えがないと言うのにすっかり淫液と淫臭を香らせる卑猥なオブジェクトになってしまっていて。一瞬この行為が終わった後下着どうしようかなぁと思ったけど、彼と本番行為をすると言う魅力的な現在の前に、そんな後のことはどうでもよくなってしまった。

 

 そしてふと目についた、先ほどの射精で萎えてしまっている肉棒を見て、私はこの下着の最後の使い方を決めた。

 

「えいっ♡」

「ちょ、望!?」

 

 私の愛液で濡れてぐちょぐちょになってただの布切れみたいになってしまった私のレース下着を、彼の肉棒へと巻きつける。そして驚く彼に抵抗を許さずに、私はそのまま彼の肉棒へと下着コキを行ってあげた。

 

「…………っっ!!」

「どうかな? 私の愛液で濡れた、私の脱ぎ立てパンツの触り心地は? 温かくて、ほかほかしてるでしょ? それに…………ん、はぁ……♡」

 

 下着に包まれた彼の生殖棒。その中で、わざとはみ出させた亀頭へと私は熱く体を火照らせる体温を吐息として吐き出した。

 

「ッッ、ぁ……っ!!」

 

 びくん、びくんと萎えていた彼の肉棒が一瞬でまた元の大きさを取り戻す。下着の上からでもわかるほどにそそり立った剛直が、白のレースを押し上げながらドクンドクンと胎動している。

 

「うん、大きくなれて偉いねぇ湊くん♡」

「はぁ、はぁ……まさか望が、ここまでサキュバスの才能があったなんて……知らなかったよ」

 

 目を情欲に蕩けさせながら彼のおちんちんを見る私に、湊くんが呆れるやら恐れるやらと言った風に言葉をかけてくる。でもその評価は、ちょっと乙女としては納得できない。

 

「サキュバスって、男の人なら誰でも襲っちゃう悪魔のことでしょ? 一緒にしないでほしいな。私が襲うのは、君だけなんだから」

「はは、わかった訂正するよ。君はサキュバスより恐ろしいよ」

 

 むぅ、あんまりわかってくれた気がしない。私がこんなに乱れるのは、大好きな君を喜ばせたいからであって。まぁ……もちろん、私も興奮してちょっと欲望任せに行動しているのは否めないけど。

 でもそれでもちょっとムッとさせられたのは本当なので、少し彼を揶揄ってみたくなる。

 

「制服は着たままの方が興奮するかな? 男子が持っていたエロ本には、男の子はそっちの方が好みって聞いたけど?」

「…………ノーコメント……は、ダメかな?」

「答えて。何するか、わからないよ?……私」

 

 ここまで来てそんな悪いことを言うような君には、罰を加えちゃおうかなーって耳元で囁いてあげれば、彼は観念したようにため息を吐いた。地味に耳が君のウィークポイントなんだねー、覚えちゃった。

 

「制服のままの方が……いい、かな」

「うん、わかった♪」

 

 素直な彼の言葉に笑顔で返しながら、私はスカートをたくしあげながら寝転ぶ彼の股間に跨るように乗っかる。そしてさっきの下着コキですっかり元気を取り戻した彼の肉棒を手で掴んで、私の割れ目と亀頭がキスをするように調整してあげて。

 

 くちゅりと、私の濡れた蜜壺と彼の亀頭がぴったりと合わさった音が耳に届いた時、私は彼に意趣返しをするようにちょっと小悪魔チックな笑みを向ける。

 

「じゃあ、挿れるよ。君のおちんちんが新御門高校の生徒会長の処女、奪っちゃうところしっかり見ててよね♡」

 

 スカートをたくし上げたまま、わざと私の胸に輝く生徒会長の証であるバッジを誇示するように胸を張りながら、私は一息に彼の怒張に腰を下ろした。

 

 ミチミチミチ、ブチッ

 

「〜〜〜〜〜ッッ!!」

 

 下腹部が押し上げられる感覚を感じた次の瞬間、何かが破られるような鈍い痛みが体を駆け巡った。声にならない悲鳴を噛み殺しながら、私は流石に一気に挿れるのは失敗だったかなと少し後悔を感じてしまった。

 

 だって、あれだけ煽っといて実はちょっと処女喪失するのが怖くて、それを誤魔化すために一息でやってしまおうと思ったなんて、乙女として彼には言えないよ。

 

「大丈夫か、望? ゆっくり、深呼吸して」

「うん……ありがとう、湊くん」

 

 でも、彼はそんな私の様子さえ察してくれたらしく、優しく私の手を取って息を整える手助けをしてくれる。

 はぁ、本当に私はダメダメだなぁ。あんなに君を翻弄する経験豊富なお姉さんを演じたのに、結局最後はボロが出てこうして慰められてる。

 

「大丈夫、すぐに痛みは引いてくよ」

「はぁ……ふぅ……はぁ……ふぅ……ん、んん」

 

 彼の声を聞きながら言われた通りゆっくりと深呼吸を繰り返すと、だんだんと下腹部の痛みが引いてきて、代わりに彼の肉棒が膣内で胎動する感覚が膣襞を通して伝わってくる。

 

「一緒に動こうか?」

「…………お願い……します……」

 

 一度演技が剥がれてしまうと、もう私は本来の臆病で弱虫な日向 望に戻ってしまう。情けないけど、それでもこんな私も彼は受け入れてくれるとわかってるから、心はなんの不安もなく彼に身を委ねてしまう。

 

「はぁ、あん♡ あっ、あっ、あぁ♡ すごい、君のおちんちんが、私の中をかき混ぜてるよ……!」

 

 私を思ってゆっくりとピストンを始めた彼の腰使いに合わせて、繋がり合った性器同士が擦れ合って今まで感じたことのない刺激が私に走り抜けた。

 

「ああッ……! はぁ……ッ! 熱くて固い……ッ、これが……湊くんのおちんちんなんだね……! 私のオマンコで、感じてるよ……! 君の、全部……私の中に、挿入ってるって……!!」

 

 まるで体の下側だけ別の生き物になってしまったかのように、彼の肉棒を受け入れた膣穴が勝手に彼の肉茎に絡みついてギチギチと締め付ける。好きな人と繋がっていると言う幸福感が、私の意思さえ飛び越えて体が彼の性器をより感じようと膣肉による圧力を強めてしまっているみたいで。

 

「ああっ、ふぅ……♡! ほぉっ、ぉお……♡! も、もう大丈夫……もっと……激しくして……いいから……!」

「ああ、わかった……!」

 

 私の望みに答えて、彼が腰を振る速度を早くしてくれる。

 

「っ、あああ゛ぁ……♡! ひぃっ……ぉ、おおっ……♡! あっ、あっ、あっ、んィィ……ッ♡!!」

 

 勢いを増した肉棒の挿入運動に、私の段々とほぐれて快感に弱くなってきた膣が悲鳴に近い震えを発しながら大量の愛液を分泌し始める。私もまた、絶え間なく押し寄せる快楽と幸福の洪水に脳を洗い流されて、もう彼の肉棒の上で腰を振ることだけしか考えられない。

 

「んいっ……! ぁっ、あくぅぅ……ッ♡! はぁッ、はぁッ! 子宮に、君のおちんちん、届いてる……! 私の赤ちゃんの部屋に、君の先っぽがノックして……ああぁっ……♡♡!!」

 

 お互いに息を合わせて腰を振り出したからか、彼の肉棒が私の一番最奥、子宮口にまで届いて来る。私の一番大切な場所、君の赤ちゃんを孕んで育てる場所に亀頭がキスしている。それだけで、体と心が歓喜に震えてしまって、私は絶頂を迎えようとする身で強く彼を両手両足で抱きしめた。

 

「湊くん、湊くん……! 私、イグ……イクぅぅぅぅ……ッ♡♡♡!!」

「まっ、望……今抱きしめたら、抜けな……ッ!? あっ、あああ----ッ!!」

 

 絶対に逃さないと深く腰を下ろした事で根本まで咥え込んだ肉棒を、絶頂と共に媚肉が強く締め付けて彼の射精を懇願する。そして私の思惑通り、絶頂を迎えそうになって慌てて私の膣から肉棒を抜こうとした彼を強く抱きしめた私の両手と両足が逃走を阻んだ。

 

 びゅるるるるるる!!

 

「あああああ----♡♡♡♡!!!」

 

 私の膣中に注がれる熱い精液の温もり。それは繋がり合った結合部から一滴も漏れることなく私の中に注ぎ込まれて、私の子宮、膣道にへばりついて行く。

 

「はぁ……♡ ふぅ……♡ ぁああ……♡」

 

 射精が終わっても、私はしばらく彼を離さなかった。それは絶頂の余韻に浸かる心が、愛しい人の温もりを求めてしまったから。

 

「ねぇ、もう少し……このままでいて……。君の体温を、私に感じさせて……」

「ああ……わかったよ望」

 

 彼と抱きしめ合いながら、彼の胸の鼓動と、繋がり合った性器同士が脈動する感覚に浸る。そして絶頂してもなお彼の肉棒を熱く抱擁する私の膣は、まだ彼の子種を飲み込み足りないと淫靡に収束を繰り返している。

 

 どうしよう、このまま二回戦をお願いしようかな……なんて、私が夢見心地のまま考えていた時に、それは来た。

 

 

「----ッッ!!!」

 

 爆音。すぐ近くから響いた臓腑を重く震わせるような振動と耳が一瞬音の概念を無くすほどの轟音に、私たちの微睡みは即座に中断させられた。

 

「何が……!?」

「あの娘っ子二人が攻め込んで来たようダ。わざわざ玄関口を吹き飛ばすサービス付きでナ」

「ひゃあああ!!? ば、バニタス!? なんで……いる……ッ、〜〜〜〜〜ッッ!!!」

 

 突然当たり前のように現れたバニタスに驚かされて、でもすぐに私の今の現状を思い出して、羞恥やら怒りやらで全身が真っ赤になってしまう。

 

「な〜ニを赤くなっとるんダ小娘。誰モお前さんたちのようナ人間の性行に興味はないワ……まア、少しは声ノ音量を下げるべきだとは思うがナ」

「----ッッ、っあ……ぁぁあ……ああああ!!!」

「イタッ! おイ、誰がここの人払いをやってやったと思ってるんダ! 結構、あノ保険教師を追い払ウの大変だったんだゾ〜!!」

 

 混乱に塗れた私は、とりあえず近くにあった枕でバニタスを叩いた。それはもう強く。初めてのエッチが他人に見られていたなんて、そんなの自殺物だ。

 

 だがパニックに陥っていた私は、次にバニタスが発した先の爆音の正体によって一気に沈静化させられた。

 

「それニ、今はこんな事をしとる場合じゃないゾ!! あの『色欲』の契約者の娘二人が攻め込んできたのだからナ」

「--------え?」

「っ! あかねとスミレが!?」

 

 驚く私と湊くんに対して、バニタスは今まさに起こっている非常事態を説明してくれた。

 

 遠野あかねと遠野スミレが色欲の権能を使って本館玄関口を燃やし尽くして攻め込んで来たらしい。目的はもちろん、来島 湊の奪還。

 今は虚飾の契約者たる彼と、部室練で共闘した弓田 信哉くんが迎撃に当たってくれているらしいが、玄関からほど近いこの保健室までいつ被害が及ぶかわからない状態らしい。

 

「くっ、それなら俺が二人を止めないと……!」

「待って!」

 

 ベッドから身を起こそうとする彼を慌てて押し留める。彼女たちの目的である彼が二人の前に顔を出せば、余計に戦意を昂らせるだけだからだ。

 それに----この展開は、私たちがあらかじめ計画していた通りのものだから。

 

「大丈夫、遠野さんたちが本館に来ることは予想してたの。私たちは、ここで二人を迎え撃つ準備を整えてたんだから。だから君はここに隠れていて」

「だけど……っ!」

「心配しないで。それとも、君が言ってくれた私を信じてるって言葉は嘘だったの?」

 

 私の説明にそれでも責任を感じて立とうとする彼に、少しずるいとわかっている問いを投げる。すると彼はわずかに目を見開いて、次いで参ったと言うように薄く微笑んだ。

 

「そうだな……ああ、信じてるよ望。----二人を任せてもいいか?」

「うん、任されたよ湊くん」

 

 こちらを信じて本当は自分がしたいだろう彼女たちの説得を私に託してくれる彼に、私は力強く頷いた。

 君が信じてくれるなら、私はいつだって君が望む最高の私になれるから。

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

 そして私はニヒル(虚飾)な笑みを浮かべて、彼が強いと言ってくれた私(騎士)を被りながら、二人の魔王(遠野姉妹)が待つ玄関口へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 その信頼を、実は最初から裏切っている事を隠しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまリ、こいつはこの事件が解決すれバ死ぬと言うことダ』

 

 彼の病室に行く前にバニタスから告げられた一言。それは私にとってあやめちゃんに味わわされた絶望よりも深い暗闇を、私に齎した。

 

『あやツの体は、すでにボロボロ。この事件が起きる前カラ、いつ死んでモおかしくなイ状態だったはずダ。本来なラ、この狂気を運ぶ霧の影響デ、すでに死んでいるところヲ、結界とあの姉妹の権能の力デ、辛うじて踏みとどまっていル』

 

『だガ、そのどちらかが無くなった瞬間、あやツは即座に今まデの揺り戻シを食らって死ぬ事になるだろウ』

 

『それヲ止める術は、無イ。そもそモ、今生きている事自体が矛盾しているのダ。あるべきことガ、あるべきようになル……これは、そう言うことダ』

 

----そしテ、おそらくその事をあやツも気づいているのだろうナ

 

 

 

 

 

「知ってるよ。君が、自分の死を受け入れている事は」

 

 君が求める助けは、もうこれ以上必要ないんだってこと。

 

「私にこの事件を解決する事を戸惑わせないように、その事を黙っているんだってことも…………」

 

 君の願いは、多くの人に綺麗な自分を覚えていて欲しいってこと。

 

「----それでも、私は」

 

 その上で、私は----

 

「君を助ける(生かす)よ」

 

 

 

 たとえ君が明日を望まなくても

 たとえ君が未来を願わなくても

 私は君を助けに行く

 それでたとえ君に嫌われてしまったとしても、それが私のエゴだから

 

 





日向 望
 愛した人がどんな答えを用意してても、問答無用で助ける事を決めたハリボテ(虚飾)の騎士。結ばれて、救う覚悟も決めて、後は魔王二人と戦うだけ。主人公力フルスロットルの覚醒生徒会長。

来島 湊
 信じて送り出した生徒会長がガンギマリ絶対自分助けるウーマンになってしまった主人公。事件が解決すれば自分が死ぬ事に気づいているし、その上で事件解決を心から願ってるし、なんならその為の手助けを惜しまない悟り系男子。裏でひっそり原作主人公とメアド交換するぐらい仲良くなった。

遠野姉妹
 ブチギレムカ着火ファイヤー状態。生徒会長は殺す。邪魔した男子二人組も殺す。愛に狂った魔王二人。お兄さんがこの事件が解決したら死んでしまう事に気づいてしまったからこそ、彼を監禁して未来のない世界で愛欲に溺れた日々を過ごそうと決めた。

彼
 原作主人公。虚飾の王。学校のアイドル千代ちゃんの兄? それ以外の一切が謎に包まれ、霧が現れるまで学園長さえも存在を知らなかった生徒。人間とは思えない雰囲気を纏っている。ヤンデレ大戦に巻き込まれた事はなんとも思ってないもよう。

カケル先生
 知り合いの余命短い少年が救出されたと慌てて駆けつけたら、全身からイカ臭い明らかな事後の匂いを漂わせていた時の保険医の気持ちを答えよ。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 なんかもうエロ短編じゃなくてただのモナーク二次になってしまったけど、原作プレイ後の熱をそのまま動員したらこうなってしまいました。

 生徒会長さん、トラウマとか中盤の病み時期とかめちゃくちゃ好きなんだけどパートナーキャラの中では本人のルート以外だとフェードアウトしてしまう関係上、空気気味なのが悲しみ。
 他のパートナーのキャラが濃すぎるのがやっぱ問題点かなぁ。

 味方より敵ルートの方がカッコいい(作者談)、館の兄貴
 キャラ人気トップの安心安全な女、こころちゃん
 生徒会長とは別ベクトルで自分のルート以外悲惨(黒幕に殺されてゾンビ化or魂コピペされて無限雑魚敵化)なワンコ系後輩、信哉くん
 うーん、勝てない。でも彼女のテーマ曲「君の望み、君の願い」はめちゃくちゃ名曲なので一度聞いてみてください。

もしFFのエロをやるならどのナンバリングが見たい?*FF7は意図的に外しています

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