もしクレアが嫌々受けたお見合いで会った婚約者に惹かれてしまったら?
頂いたアイデアを元に書いてみました。アイデアをくれた方、ありがとうございます。
リクエストで頂いたアイデアでは陵辱系か純愛かわからなかったんですが、クレアのエロは催眠やおねショタは見かけるけど純愛物は少ないなと思ったのでこんな感じに。そしてまたエロは後編にお預けになってしまった。短編なのにエロをすぐに提供出来なくてすまない…………。
南極大陸に隕石と共に飛来した宇宙からの謎の異種生命体。地球人たちが長い事SF小説やトンデモオカルト雑誌で夢想したエイリアンの存在は、彼らの地球への到来を持って実在が証明された。
では彼らはE.T.やウルトラマンのように、人間に好意的な来訪者であったのか?
否である。彼らは侵略者だった。それこそ宇宙戦争やインデペンデンスデイのエイリアンたちのような、地球人を容赦なく殺し、喰らい、対話する事さえ出来ない恐ろしき悪魔たち。
だが、全身を鋼よりも硬い未知の外殻に包み、黄色い模様をその全身に浮かべた昆虫のような生命体である彼らは、映画で創られたようなエイリアンたち、人間に最後は倒される事が決まっている彼らとは違い、文字通り人地の及ばない存在たちであった。
それは、人類が紀元前からどれだけ忌避しようとも育んできた来た人を殺すための武器、兵器の類が一切効かなかったのだ。銃弾の雨がポップコーンを降らせただけのようにあしらわれ、戦艦の主砲の一撃が人間サイズのエイリアン一体を屠る事も叶わず、ついには核の使用さえ視野に入れた世界中の核保有国の上層部を嘲笑うように、彼らは原発炉を襲撃して爆破、その爆炎の中から当たり前のように無傷で飛び立って行ったのだ。
誰もが絶望した。誰もが人類の絶滅を予感した。宗教家は審判の日だと高らかに謡い上げ、生きる希望を失った人々は刹那の快楽を求めて強盗、薬、セックスへと溺れて行く。
世界中が過去最大の自殺者の数を記録し、エイリアンの散発的な襲撃で空輸、海輸における国交の交流が完全に断絶。経済は回復困難な大打撃を受け、一部都市では失業者と犯罪者が市民の半分を占めると言う異常事態にさえ見舞われた。
攻撃の通じない相手に、悪戯に軍人を減らすしかなかった政府が、ついに一般市民からの微兵を視野に入れた時だ。ある天才的な科学者が、宇宙人と共に飛来してきた件の隕石を削り取って出来た石が、それを触れた人間によって変幻自在の武器へと変える特性を持つ事を発見したのだ。
それだけなら、確かに驚きだが絶滅が間近に迫った人類にとってはだからどうしたと言える内容だろう。だがこれが後の世に、人類を救った歴史的大発見と言われたのは、その武器が今まで傷をつける事さえ叶わなかったエイリアン、通称をサベージと呼ばれた彼らを害す力があったからだ。
メルトダウンすら耐え抜いた奴らが、その隕石の破片が形を変えて出来た小さな短剣で、まるでバターを切るように呆気なく両断された時、各国の首脳陣は割れ先にとその隕石の回収に乗り出した。
ここでも人類お得意の見事な足の引っ張り合い、小競り合い、殺し合いを起こして流さなくてもいい大量の血が舞ったのだが、ここでは割愛する。
とにかく先進国がこぞって自国の民を守るために行った実験、検証の数々によって、この隕石の欠片がある特殊な波長を含んでおり、これを武器として起動させることが出来るのが、隕石落下当時、第二次性徴を迎えていなかった者たち、つまり子供しかいない事を突き止めた。
そこからは限られた資源であった隕石の略奪の可否よりも各国の上層部を激しい討論に巻き込んだ。
内容は、子供を戦場の前線で戦わせる兵士にするか、否か。
自国のために、他国の人間を殺すのは受け入れられるどの国も、自国の子供たちを生贄にすると言うこの判断は波紋を呼んだ。どこも今更どの口が言うんだな人権を語り、子供たちの未来だとか、いや今を生き抜かねばその未来もないなどと激しくお互いの意見をぶつけ合った。
だが結局は、間近に迫った絶滅の危機を前に子供に隕石の欠片を持たせて対抗させる事を選択した。
そして夥しい子供の死骸の上に、人類はサベージによる第一次遭遇(ファーストアタック)を凌ぎ切ったのだ。
そう、第一次だ。人類はサベージを追い払っただけで、彼らを全滅させることも、もう二度と侵攻出来ないように痛めつけたわけでもない。ただ向こうが、自分たちに対抗できる存在に驚いて一時撤退しただけ。
だがこれを千載一遇のチャンスとして、各国は自分たちが保有する隕石に適合した者たち、武芸者(スレイヤー)と呼称された少年少女たちを彼ら専用の戦闘育成機関を設けて、そこで次なる第二次遭遇(セカンドアタック)に向けて育成する事を決めたのだ。
だが資金も資源も多大な消耗をした各国が、自国のみでそんな巨大な育成機関を作れる余力があるはずもなく。ここに来てようやく人類は共存の手を取り、人類共同でいくつもの海上学園都市艦を建造したのだ。
なぜ海上なのかは、どこの国もそこで学ぶ武芸者たちを所有化出来ないようにと言う国際で決められた配慮からであった。
そしてそこで学んだ生徒たちは、見事第二次遭遇の第一撃を迎撃、その有用性を世界中に高らかに証明した。
そしてそんな学園都市艦の一隻たる海上学園都市艦リトルガーデン。その艦を建造した大企業ワルスラーン社の創業者を父に持ち、本人も高い武芸者としての資質を持って学園の生徒会長兼、艦の船長、つまりこの都市の最高決定権を持つ存在であるのが、リベリア合衆国が生んだ黄金の宝石、クレア・ハーヴェイであった。
どれほど磨き上げた金玉であろうともその輝きには敵わないであろう、美しき金髪を縦ロールにして垂らし、その歳の頃では考えられないような豊満なおっぱいを胸からぶら下げた絶世の美女と言っていい女性。
そして武芸者としての才能もまた、破格と言っていい物を備えていた。彼女の所属する学園都市艦では『無敗の女王』の異名を持ち、文字通りただの一度も生徒同士の決闘やサベージとの抗戦で敗れた事がないのだ。
彼女のハンドレッドである「気高き戦姫(アリステリオン)」による六機の浮遊砲台による中遠距離戦の高火力殲滅砲撃は圧巻であり、ならば近距離はと攻め込んで来た無謀者を彼女自身の技術であるプロの格闘家とさえ渡り合える武術によって叩きのめす。
さらにはそこに浮遊砲台による自動防御性能まで付加されるのだ。まさしく無敵。まさしく最強。攻守共に隙のない世界トップレベルの武芸者。
そんな武芸者としての圧倒的な才がありながら、美貌でも世界トップクラス、さらにはそれ以外にも帝王学、経済学、外交、戦術、ありとあらゆる統治者として、戦闘者として必要な知識を修めているとあっては、神は一体どれだけのエコ贔屓を彼女に与えたのかと誰もが思うだろう。
それでいて彼女は、それだけの才と美を持ちながら決して驕らず、ノブレスオブリージュを胸に掲げた真なる貴族と言うべき気高い性格を持っているのだ。もはや嫉妬する気も起きない完璧人間。
そんな彼女は今、その美貌を不機嫌そうに歪めて豪華なホテルの一室で足を組んでいるのだった。
「お父様……私も実家の名誉のためならば、どのような選択も受け入れる所存であります。しかし、こうも突然私の婚約者となる相手が出来たなどと…………せめて、私に一言告げるのが礼儀ではありませんか?」
私が鋭い目を向けてお父様を睨むと、お父様は情けないぐらい取り乱して謝ってきます。
その姿に実の父とあっても思わずため息が出てしまいます。
私は昨日唐突にお父様からとある一流企業の御曹司との婚約が決まったから指定されたホテルへと来て欲しいと頼まれました。
あまりにも突然の、自身の将来の伴侶を決めたというお父様からの知らせ。ですがその事については別に怒っても驚いてもいません。
貴族たる者、いつかは来ることだと思っていましたし、その覚悟も決めていましたわ。自分がワルスラーン社の社長令嬢として生まれたからには、恋愛結婚なんて土台不可能だと言うこと、そんな事は百も承知でしたわ。
だから怒っているのは別のこと。それは私にそんな重要で予定をキャンセルする事も出来ない会合の場を、よりにもよって前日に寄越して来たと言う事ですわ。
私はリトルガーデンの生徒会長であり船長。当然ながら数多くの責任と、こなすべき仕事があります。それは艦に乗る全ての学生たちが健康に健やかに学生生活を送れるようにすること。毎日送られてくる生徒の嘆願からイベントの企画書、物流の管理に学内設備の点検に業者の発注。
それらを任された私が、急に席を空けるなんて……一体どれほどの混乱が下の者に降りかかるか。本当にリディとエリカには感謝しないといけませんね。
「はぁ……もういいですわ。それで、先方はいつ頃いらっしゃるのかしら?」
私の質問に、お父様はもうすぐのはずだとおっしゃりました。
先方、私の婚約者となる殿方との初の顔合わせ。正直、あまり緊張致しませんわね。それは事前に車の中で相手と、相手の会社、家族関係、家柄の全てを頭に入れているからと言うのもありますが。
皇国ヤマトが誇る一大企業、九條コーポレーションの御曹司、九條 大和。母国と同じ名前を背負った彼は私と一つしか年が違わないにも関わらず、すでに会社の経営に携わり、いくつもの事業で多大な成果を上げているらしい。
「経歴を見る限り……私の婚約者として相応しくないとは言えませんわね」
集められた情報は、なるほど確かに九條 大和なる男の優秀性をこれ以上となく表しているわね。ですが同時に、あまりにも出来過ぎているとも言えます。その疑いは、九條カンパニーの現社長であり九條 大和の実父に纏わる黒い噂を聞いた段階でかなり強まりました。
汚職、取引先への脅迫、会社の資金源の横領、数多くの愛人の噂……僅か一日しかなかったとは言えこれだけのよろしくない噂が出るような御仁。根も葉もない噂とは到底思えませんわ。
ガチャリと、思考に没頭している私の耳にお父様の秘書が部屋に入ってくる音が響く。何かを父の耳元で囁いていますが、優れた武芸者として日夜訓練を欠かしていない私にはその内容が筒抜けですわ。
どうやら、先方が到着したようですわね。時計を確認するときっちり15分前。とりあえずは時間にルーズではない殿方である事に安心しましたわ。
そしてお父様の秘書が部屋を後にしてから僅か十数秒ほどで、そのお相手はやって来ましたわ。
(…………!! これは……なるほど……。どうやら、見た目は悪くはないようね)
空気が変わった。そんな陳腐な表現を私が思わず感じてしまうほどに、入って来た青年の存在感でこのホテルの一室の雰囲気が塗り替えられた。
入って来たのは、皇国ヤマトの人間の九割が持つような黒髪ではなく、銀雪のように透き通った銀髪と端正な顔立ちをした美少年。
その容姿だけで相当多くの女性を魅了したのだろうと思えるだけの美貌を、完璧に着こなした黒のビジネススーツでより上品に飾り立てた姿は、社交界で人目を集める振る舞いを熟知した私を持ってしても思わず唸ってしまうほどの自然体。その後ろから入って来た彼の父親であり九條コーポレーションの社長が、ただの付き人のように思えてしまうほどの存在感。
だが、私が評価したのはそんな彼の容姿にではありません。彼の容姿自体は事前に取り揃えた資料からすでに拝見しています。相当の美丈夫だとその時は思いましたが、実際の人の印象なんて直に会ってみなければわかりませんわ。
そしてこうして実際に目の当たりにして、私は彼への疑いを取り消し、その功績に見合っただけの評価へと訂正し直す。
(間違いない……この気風と見ただけでわかるカリスマ性……! この九條 大和と言う男……私が出会った中でも特急の傑物……!!)
「ハーヴェイ家の御主君と、その長女とお見受する。初めまして、九條 大和だ」
そして自身の父親を差し置いて、私とお父様へとハーヴェイ家で厳しい礼儀作法を受けた私が見ても瞠目するほどの美しい礼を見せた彼は、その礼儀に見合わないような値踏みするような視線を私へ向けて来たのですわ。
「それで、大和さんはどのような趣味をお持ちなのかしら?」
「読書と音楽を嗜む程度。あとはたまに自身で弾いてみたりもするぐらいだ」
「あら、素敵な趣味をお持ちですわね」
初めての介錯の後、お互いの両親は「あとは若い二人に」とお決まりの文言を言ってとっとと退散してしまいましたわ。それから私は、この昨日知ったばかりの婚約者の方と二人きり、味気ないお決まりの質問と答えを返し合っています。
ええ、お決まりの、ですわ。私が投げかける質問に対して、あからさまに向こうは杓子定規の解答をわざと選んで返して来る。私も社交界に参加した時に、寄って来る殿方相手によく使った会話を長引かせない方法ですからすぐにわかりましたわ。
つまり、相手は私との会話をする気がそもそもないと言う事。婚約者として私を選んでおきながら、一体どう言うつもりなのかと思わず内心腹立ちますわ。
「----提案だが」
唐突に、九條 大和が話の流れを遮るようにその端正な顔に含んだような笑みを浮かべて切り出してくる。
「これ以上は私の貴重な時間の無駄だ。目的である婚約者同士の顔合わせは済んだのだから、ここで一文の特にもならない会話をする必要はあるまい」
「………………は?」
その優美な笑みから吐かれたまさかの提言に、思わず私ともあろう者が間抜けな声を発してしまう。
「……っ! ど、どう言うことかしら?」
「どう言うこともない。そちらもすでにこの会話がただのマニュアル通りの会話の応酬である事はわかっているだろう」
私の動揺した問いに対して、先ほどまでの値踏みするような視線を止めた男は、その微笑みを浮かべていた顔を傲岸不遜な薄笑みへと変えていた。
「時間と金の浪費が好きな無能な上流階級とは違い、責任と力の意味を正しく理解しているクレア・ハーヴェイ嬢なら同意していただけると思っているのだが、見当違いかな?」
「なっ、あ……!?」
あまりにも人が違ったような、いやむしろ最初に私が感じた印象に照らし合わせればこちらの方が本性なのだろう姿に、私は一瞬二の句が告げなくなってしまう。
だがすぐに立ち直り、そもそも最初にこの席を設けて来たのは向こう側なのに、来賓側にこのような態度をする男の失礼な行為を同じ貴族として戒めようと口を開く。
「あなた……! 私に婚約を申し込んでおいてその態度と対応は、いささか礼節に欠けているのではなくて……!?」
思わず立ち上がって捲し立てた声に対して、しかし男は不思議そうな顔を浮かべるだけだ。まるで、私と彼の間に何か思い違いがあるかのように。
「ふむ…………これはいささか認識の違いがあるようだ。私の聞いた話によれば、婚約を申し込んで来たのは君のお父上からだと聞いていたのだがね?」
「…………えっ」
彼が告げた言葉。それを耳にして、理解した瞬間、先ほどまで内で燃えていた炎が急速に萎み、むしろ別の羞恥と言う火が燃え上がって行くのを感じました。
いや、まさか、そんなはずわ。
でも確かに、お父様は婚約が決まったとは言っていましたが、それがどちらから申し込んだとかは言っていませんでしたわ。
「あっ…………ああ…………その、申し訳……ありませんわ……!」
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。とんでもない勘違いで、見当違いの事を口走ってしまった。しかもなんですのあれ!? あれじゃ、まるで私が婚約は自分がされるのが当たり前の認識を持っている女と勘違いされかねませんわ!! いや確かに、今まで言い寄られた事はたくさんありますが、自分から言い寄った事はありませんが!
「そうか。どうやら、各々の立場を理解していない父親の、勝手な判断に振り回されたのはお互い同じらしい。そちらが望むならこの婚約の話、なかったことにしてやろう」
「----!? そ、そんなこと!」
「可能だ。奴は私が否だと告げれば、首を縦に振るしか出来まい。大方、会社で権力を持ち出した俺に首輪を付けるために今回の話を持ち出したのだろうが、たかが婚約程度で飼い慣らされると思っている性根の浅さはどうしようもない」
目の前で公然と実の父親を侮蔑するような事を口走る彼に、私は唖然とするしかなかった。だが何よりもこの時私の中に溢れた思いは、なんとも言えない敗北感だった。
それをなぜ感じたのか。考えてみて、私はすぐにその答えに行き着いた。
私は、生まれて初めて袖にされた。殿方に、興味がないと言われたのだ。私の容姿にも、才能にも、家柄にも。何一つ見向きもされなかった。それが、どうしようもなく屈辱的で、許せなくて、私のプライドを馬鹿にする物でしたから----
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
私はテーブルを強く叩いて、今まさに席を立って部屋を後にしようとする男、九條 大和を呼び止めました。
「何かな?」
「まだ、私は帰ってもよろしいとは言ってませんわ。マニュアル通りの会話が好みでないと言うのなら、どんな貴族子女でも出来ないような刺激的な話を差し上げますわ」
必ずこの男が見る私の印象を変えて見せる。先ほど気づいた男の私を値踏みする視線が無くなった理由。それは単純に、男が私の評価を終えたと言う事。この私を、会話する価値もない存在として脇に置いた事を意味しています。そんなの、ハーヴェイ家の長女として、何よりも無敗の女王であるクレア・ハーヴェイが許せるはずがありませんわ!
「どうです? 決して退屈はさせないと約束いたしますわ」
「ほう…………いいだろう。この私に対してそこまで啖呵を切った女はお前が初めてだ。その意気込みが虚勢でない事を祈るとしよう」
そこからの彼との語らいは…………ええ、率直に言ってとても心躍る物でしたわ。打てば響くと彼の国の諺にはあるそうですが、まさしくその通りの会話のやり取りは、今までの私が体験したことのない充実した時間でした。
ハーヴェイ家に生まれた私は、ノブレスオブリージュの精神を全うするために勉学も武芸者としての鍛錬も決して休む事なく励んで来ました。ですがその結果、私に並び立てる存在というのが、いつのまにかほとんどいなくなってしまった。
その事を後悔するつもりはありません。私は自分に課せられた責務を精一杯果たし続けただけなのだから。幸いリディとエリカと言う得難い友人を得ることも叶いましたが、それでも彼女たちはあくまで私の従者という面が強く、私に並ぶ者とは……二人には申し訳ないけど言う事は出来ないわ。
唯一、つい最近入学して来て私にデュエルを挑んで来た如月 ハヤトにはその素質があると見込んだが……それでも彼が私に並び立てるのは遠い話だろうし、おそらく知の面では私に及ぶ事は出来ないでしょう。
その点、この九條 大和は違った。私が政治学から学んだ私見を話せば、お父様に雇われた専属の家庭教師よりもスラスラとその問題点と良い点、そして改善案を述べて来る。帝王学や経済学におけるあれこれはむしろ私が教わる側となり、それならばと武芸者に関係する戦術理論や外交上の彼らの活用法を話題にすれば、そこでも彼は私が驚くような知識の深さを披露してくれました。
少しズルと分かっていて、わざと別々の戦術、それでも過去の武芸者の記録をかなり頭に入れていないとわからないような、をさも一つの戦術として言ってみれば、彼はそれを即座に看破し、どこからどこまでが彼の戦術かまでもを答え合わせのように述べた後に、なんとより完成度の高い戦術を口にして来た。
すごい、なんて感想じゃ足りないぐらいに恐ろしく冴えた頭脳。多分、この私が初めて頭脳において勝てないかもしれないと思わせた相手。
そんな彼とのこの時間は、気づけば一時間、二時間と時も忘れて熱中してしまうほどに私の心を虜にして。彼を夢中にさせると言った私の方が、彼に夢中にさせられていました。
「どうやら……もう時間のようだ」
「この技法の面白いところは----えっ?」
私が自身のハンドレッドの能力を使った戦闘方を彼に評価してもらおうと説明していると、不意に懐中時計を見た彼がそう話を遮って来た。
時間? なんの? まだ全然私の話は喋りたりないのに?
「この部屋の利用時間は18時までだ。これ以上ここに長居するわけにはいかん」
「18時……? え、何言ってますの、だって私たちが顔を合わせたのは13時で、そんなすぐに時間が経つはずが……!?」
だけど私の思いを裏切るように、部屋にかけられた時計は長針なⅥの位置に差し掛かり始めていて、まるで時間が加速したかのような衝撃を私に齎した。
「ククク……楽しい時間はすぐに過ぎ去ると言うが…………よほど心躍らせていたようだな」
「〜〜〜〜〜!!」
彼が微笑み混じりに言った言葉に顔が羞恥心で真っ赤に染まってしまう。なまじ彼の顔がとても整っているだけに、その仕草さえ絵になっているせいで嫌味なく感じてしまうのが質が悪いですわ!
「いや失礼。こちらも、久しぶりに充実した時間を過ごさせてもらったのでな。今のは、ちょっとした洒落と言うものだ」
だが次の瞬間には、今日初めて見た年頃の青年らしい悪戯気な笑みを顔に浮かべてみせる。こんな顔も出来るんですのね、と不覚にも心が揺れ動いてしまうような純粋な笑顔。
「クレア・ハーヴェイ、貴公への認識を改めよう。お前は俺が出会って来た女の中で、まさしく最上に近い魅力と実力を合わせ持った存在だ」
その顔に私が見惚れていた間に、彼は身嗜みを整えて部屋を後にして行く。去り際に、そんな増上慢な言葉を残して。
ただその時の私を見る彼の目は、対等な人間を見つけた喜びが確かにあった気がして。
「………………ふふ、この私が試される側になるなんて」
余裕を持って笑おうとした私の顔は、彼に認められた喜悦でみっともないほど釣り上がっていましたわ。
「まさか、こうも早い再会になるとは思わなかったよ」
「ええ、本当にね」
あれから一週間後、私は港に停泊したリトルガーデンから降りて九條 大和と隣り合ってリムジンに乗っています。
本当に、思いの外早い再会になったのは前回の私たちの会合で手応えがあったと感じたお父様が、彼を私の学校の模擬試合に招待したからだ。それが武芸者たちの使う装備や日用品まで取り扱う九條コーポレーションにとっても丁度いいマーケティングになると言う事で、こうして彼が視察の名目で訪れることになったということだ。
(まぁ、彼からしたら名目のつもりは欠片もないようですが)
親たちは婚約者同士の交流の機会のつもりでセッティングしたのでしょうが、訪れた彼は勝手に用意されていたレストランやホテルをほとんどキャンセルしてリトルガーデンで学生相手の聞き込みに性を出していました。
いくら学外から多くの部外者が集まるイベント時とは言え、彼のような居るだけで目立つような美丈夫が学内を歩き回るのはそれはもう生徒会長として苦労しましたわ。
「にしても、もう少しご自身の容姿を自覚するべきじゃないかしら? あなたに急に話しかけられた生徒が気の毒ですわ」
「理解しているとも。だから俺に話しかけられても臆さず答えを返せるだけの原石を選りすぐった」
「原石って…………まあ、否定は出来ませんわね」
彼が話しかけた相手。それは如月 ハヤトやエミリア・ハーミットと言ったリトルガーデンでもトップクラスの武芸者の素質を持つ学生たち。それだけなら事前に資料で目をつけていたのかと思うが、彼は他にもレイティア・サンテミリオンやフリッツ・グランツらの取り立てて成績に目立った所のない生徒にも声をかけていた。
そしてその全員が、彼の雰囲気に圧倒されながらも受け答えを可能としたのだ。
「二流、三流の武芸者が望む物などそこらの社員に頼めば誰でも集められる。俺が直接市場調査に赴くからには、これからの戦場の担い手となる者たちが、その芽を早く開花させるために何が必要かを見極めるぐらい出来なくてはな」
「つまり、あなたが今日声をかけた者は皆大成すると?」
「当然だ。俺が見込んだ才を持つのだからな」
思わず口がポカンと、はしたないとわかっていますが開いてしまう。それぐらい何というか、彼の言葉には絶対的な自信が込められていた。下手な人間が言えば自信過剰とか冗談と受け取られかねないのに、九條 大和がそれを言ったというだけでどんな高名な占い師や預言者が言うよりも、その未来を信じられてしまう。
「はぁ……その自信には呆れてしまうわね」
「事実を述べたまでだよ。貴公こそ、実に優秀な者を周りに置いている。彼女たちは戦場を支配する英傑にはなれないだろうが、英雄を支える側近としては及第点以上と言える」
「あら、ありがと。あとで二人に言ったら喜ぶと思うわ」
もしくは嫉妬するか、ね。内心で今回の私の婚約にあまり良い感情を抱いていないリディとエリカに苦笑いを浮かべる。
生徒会室に彼が挨拶に来た際にはかなり警戒心を上げていて、いざ対面したら当然と言うべきか彼の雰囲気に飲まれてしまった二人。それでも私の婚約者を見定めると奮い立った彼女たちはこの稀代の大人物には実に好意的に映ったようだ。
「それで、肝心の婚約者たる私には何か言うことはないのかしら? 私のデモンストレーションの評価を是非あなたの口から聞いてみたいわ」
そしてここまで婚約者たる彼から他人の評価ばかり聞いていれば、自分のこともまた気になってしまうのが女として……いえ、武芸者という者ですわ。
特に私は今回の一般向けに宣伝した模擬試合の花形を務める存在。その試合形式は、どの生徒よりも派手で観客やスポンサーの心を掴む物である必要がありましたわ。
よって、私の試合のみ従来のデュエル、一対一の決闘方式ではなく個人対複数、無敗の女王たる私と3年と2年の実力者たちの試合とさせていただきました。
「それで、あなたの審美眼から見た私の戦術はどうだったかしら?」
「そうだな…………期待以上、と言うだけでは言葉が足りんな。その試合運びの巧みさと、ブラフと切り札を虚実使い分けた堅実な戦闘スタイル、実に見事だった」
「貴公のハンドレッドによる砲撃で常に相手の機先を制し、完全に戦場をコントロール下に置いていた。時に砲撃の間隙を抜いて来た近接系の武芸者に対しても見事な徒手空拳でのカウンターを決めた物だ。あれは一朝一夕で身につくものではあるまい」
「そして個々の思考から協調性を奪い去り、彼らが各々スタンドプレーでの行動を余儀なくさせたところで、同仕打ちを狙って隙を見せた者から一斉掃射」
「見事だ。策自体は複数戦における常道なれど、それをたった一人でここまで上手く運べる存在はそういまい。常に自身と敵対者の位置関係、個々人それぞれの三手先までの動きの予測。戦場を常に俯瞰的に見れるだけの頭と決して動じない胆力がなくては不可能だ。それをあれだけの観衆が見守る中、当然のようにこなした貴殿は……なるほど無敗の女王の名に偽りなしだ」
「…………ふ……ふふ。え、ええ……そ、その通りで……でしてよ」
どうしましょう。ちょっと、口が釣り上がるのが止められませんわ。今の私、絶対顔を真っ赤にして人に見せられないような笑みを浮かべているのが自分でもわかってしまう。
だって、何気ない風を装って彼から視線を外して見た車の窓には親に初めて褒められた子供のように満面の笑みを浮かべた私が映っているんですもの。
いえ、というか褒めすぎではありませんか!? 確かに評価してほしいと頼んだのは私です。でも、ここまでつらつらと私の戦術の狙いを全て見破って称賛してくるなんて、予想外だったわ。
平常心を装って出した声が明らかに上擦っていて、もう次の言葉を紡げない。この無敗の女王たる私が、心臓の鼓動の音が漏れないように手で抑えるのに精一杯だなんて!
「だが----」
だけどそんな私の昂る心を冷ますように、一拍置いた彼が相変わらずの絶対的な自信のこもった声で告げた。
「合理的な完璧な戦術だったが故に、一つの不合理な一手が目に着いた」
それはまるで、完成されたパズルに混在するピースよ小さな綻びを見つけたとでも言うように。
「最初の貴殿の一手。試合開始の合図と共に、自身の周囲をハンドレッドで固めてから威嚇射撃をした一手が実に浮いている。敵の出方もまだわからない開戦と同時の威嚇射撃など、貴殿のバトルスタイルと噛み合っているとは思えん」
「…………!?」
彼のその指摘に、私は先ほどまでのニヤけ顔を崩して窓から振り向いて彼の顔を見つめてしまう。そこには依然として不適な笑みを浮かべる九條 大和がいて、私の動揺を欠片も気に止めていない。
「イベント故のファンサービス。そんな遊びをデモンストレーションとは言え武芸者同士の戦いに持ち込む貴殿ではあるまい。何より、あの一手はあの場において何故か奇妙に噛み合い、開戦直後に脇目も振らずに突撃して来た何人かの武芸者を叩き潰した」
天才だとは思っていたが、まさかあれだけの情報でここまで見抜くなんて----
「そう、攻撃を仕掛けた側も、見事に迎撃した貴殿も、まるで以前にまったく同じシチュエーションを経験したかのような手際の良さだ。思うに……貴殿は一度、試合開始と共に突っ込んで来た対戦相手に一杯煮湯を飲まされたのではないかね?」
『ちょっと、どこを触っておりますの!?』
「〜〜〜〜〜!!」
頭の中に、私が決闘で初めて味わった不覚であり、最大の屈辱である如月ハヤトとの戦いの記憶、殿方に生まれて初めて胸を揉まれた瞬間の記憶がフラッシュバックして思い出される。
私の顔は、一瞬でさっきの赤面とは違う意味で真っ赤に染まり、あの時の一見をなんとか頭から追い出そうと顔を振る。
その私の行動が予想外だったのか、彼が少し驚いたように目を丸くしていて、私は慌てて釈明の言葉を出そうとよく回っていない頭で喋り出してしまいました。
「ち、違うわそれは! 別に如月ハヤトに生徒の前で胸を揉まれた事がトラウマになっていて、つい反射的に全身防御からの砲撃をしてしまったわけ……で……わ…………」
あれ、私……何を口走ってるの……!?
「クっ……クククっ……フハハハハッ!! そうか、そんな事があったのか……! それは、予想出来なかったよ……ククク……ッ」
「ちょっ、何を笑っているのです!」
あの九條 大和が腹を抱えて笑っている。今まで一度として余裕の態度を崩した事がなかった彼が、心底楽しそうに。それがどれだけ異常な事なのか、この時の私はまったくわかっていなくて、ただ私の黒歴史を嗤う彼を止めるので精一杯でした。
「ク、ククク……しかしそうか、あの如月ハヤトが貴殿を翻弄したのか」
「ぐっ……ええ、そうですわ。私の油断とは言え、見事にしてやられましたわ」
ようやく落ち着いてきた彼が話題を如月ハヤトの方へと移すと、私も開き直って話を進める事にしました。もうこうなったのなら、この辱めも甘んじて受け入れますわ。
「なるほど、やはり俺の評価に間違いはなかったな。アレは大物になる存在だ」
「ずいぶん買いますわね、如月ハヤトのことを。そこまで彼が優秀な武芸者になると?」
私に屈辱を与えたのが如月ハヤトであることを、驚くどころかまるで納得したとでも言うように話す彼に、私の中で彼の中での如月ハヤト評が気になってしまう。
余程高く評価しているのだと思った私に対して、しかし次の瞬間に彼が言ったのは予想外の言葉だった。
「いいや。奴は武芸者としてはどこまで行っても二流だろう。そして、戦士としては三流もいいところと言ったところだ」
「は…………?」
酷評。それも飛び切りの。先ほどまで如月ハヤトを褒めていたのが嘘か何かなのではと思えるほどの低評価を、この私でさえ瞠目する頭脳を持つ九條 大和は下したのだ。
「思い切りはあるが、それを活かす戦闘での勘が足りていない。高いハンドレッド反応数値を持っているが、武芸者として突出した才があるわけではない。ならばそれを覆す意志があるかと言われれば、いずれも平均値を覆すには至らない。彼ほどの覚悟と精神を持った人間など、前線には吐いて捨てるほどいる」
「ずいぶんな言い草ですわね」
その如月ハヤトへの蔑視にも近い評価に、自然と私の表情も険しくなって行く。それはハンデ有りとは言え、無敗の女王である私に初めて土を付けた相手を悪しように言う姿に怒りを覚えたからこそ。
私の中で九條 大和への好感度が下がって行く感覚を覚えながら、これ以上の如月ハヤトへの侮辱を止めようと口を挟もうとした時。
「しかし----彼にはそれを覆すほどの素質がある」
「…………なにを?」
空気が変わった。彼の纏う雰囲気が、冷めたそれから興奮したような物へと変わる。彼の口調が、まるで夢物語に出てくる憧れの主人公を語るかのように熱を持って行く。
「才能、知識、力、意志……そんな物はこと一つの天から授かったギフトの前には全て意味をなさなくなる。そして如月ハヤトはそれを持つ」
「『運命力』。如月ハヤトは必要な時、必要な場所に、その問題を解決できる巡り合わせを持って出会える事が出来る。それは彼の不思議な魅力だ。決して万人を導くカリスマでなくとも、その場の危機を乗り越えるだけの人々を惹きつけてしまう何かが、彼には生まれついて備わっている」
その時の九條 大和の顔を、私はこれから先、決して忘れる事はないでしょう。
なぜなら----
「そしてそれを持つ者を----
まるで想い人への報われぬ恋心を告げるかのような、儚くも情熱的なその顔に----私は生まれて初めての恋をしたのですから。
それから私と九條 大和は何度となく時を共に過ごすことになりましたわ。特にその際たる助けとなったのが、激化するサベージの地球襲撃に、私と彼の両親が、会社よりも婚約者で世界有数の実力者である私のいるリトルガーデンの方が安全面でも本人達の親睦を深める意味でも適していると判断した事ですわ。最も、九條 大和の父君は彼を会社の経営から遠くにやりたかったのが本当の理由のようですが。
理由が理由だけにあまり手放しで喜ぶ事が出来ませんが、リトルガーデンの寮にやって来た九條 大和の姿を見て、私は心を躍らせてしまいました。これでより頻繁に共に過ごすことが出来ると。
それからの日々は、私にとってかけがえのない、素晴らしい日々でした。生徒会や艦長としての仕事の合間に、共にリトルガーデンの庭園で食事をし、夜には艦の経営方針を語り合う。時には如月ハヤトたちを加えたささやかなイベント、海水浴やバーベキューを楽しみました。
もちろんその時は私も渾身の水着を持って彼へとアピールをさせてもらいました。………………まぁ、あまりに面と向かって褒められてしまった事と、大会社の御曹司とは思えないほど鍛え抜かれた彼の水着姿に逆に私が翻弄されてしまったのは誤算でした。
おほんっ、とにかく彼とは婚約者として実に理想的な関係を積み重ねて行っていると言えるわ。私が読み込んだ『ラブラブな恋人になるための10のイベント』なんてふざけたタイトルをしていた雑誌に載っていた事も全て制覇しましたもの。
カフェデート(学園のテラス)、二人きりの部屋での団欒(生徒会室での行事相談)、二人で使う小物のショッピング(事務仕事で必要な資材の買い入れ)、水着での付き合い(複数の友人と一緒に)。
毎日デートを申し込むたびに、リディやエリカに一緒に服選びを手伝った甲斐があったと言うものね。
だから、ええ、そう、そうよ………….そろそろ、次のステップに……もう少し婚約者同士らしい事をしてもいいのではなくて?
「素晴らしいな。船の上から見る花火と言うのも、実に風情がある」
「ええ、そうですわね」
今日は、世界的歌姫である霧島 サクラがリトルガーデン生に向けた特別コンサートが行われています。生徒会室から近いテラスの下のグラウンドでは、この日のために建設された特設ステージに立つ彼女が、その周りを囲むリトルガーデン生たちに向けて歌っている。
いえ、もしかしたら彼女の想い人たる如月ハヤト個人に向けて歌っているのかしら。私も最近は、他人の恋路を察せられるようになって来ましたから、エミリアさんとサクラさんが如月ハヤトに向ける感情のベクトルも理解出来るようになりました。
同じ恋する者として彼女たちを応援したいところですが、如月ハヤトがどちらかを選ばなくてはならない以上、あまりどちらか片方に肩入れするわけにはいきませんものね。
それに私も、今は自分の恋路の事で精一杯ですから。
チラリと、眼下のステージから演出の一環として打ち上げられた花火を変わらぬ不敵な笑みで見下ろす九條 大和を見る。
いつもの黒のビジネススーツを着こなし、月光に当てられて輝く銀髪を海風にたなびかせる彼の姿は、やはりどこまでも絵になっている。
そしてそんな彼の隣に並び立とうと決めた私もまた、今日は特に力を入れたドレス姿でいる。今夜のために、秘密裏にハーヴェイ家お抱えのデザイナーに頼んで作ってもらった、私のハンドレッドの色と同じ真紅のドレス。
胸元を強調するように首から下の肌の露出があり、スリットが腰近くまで入ったかなりセクシーな見た目をしていながら、決して下品になりすぎない上品なドレス。私の注文通りの完璧な仕事をしてくれた先方には、あとで感謝の書状をしたためなくてはなりませんね。
「………………思えば、私たちが婚約者として出会ってから、もう半年も経つのかしら」
「ああ、早いものだ。飛行型サベージや人造型サベージの出現。エミリア嬢の一件に、サードアタック、そして全世界武芸大会と……飽きることのない日々だったとも」
「本当ですわ。まさか、ここまで濃い半年になるとは思いませんでしたわ。あなたにも…………色々とお世話になりっぱなしでしたもの」
リトルガーデンが関わった多くの事件に、九條 大和は様々な支援をしてくれた。それら九條コーポレーションを使った物資の提供から、その類稀なる知識を使っての戦術立案に、私がいない間のリトルガーデンの管理など、本当に様々ですわ。返しきれない恩とはこのことで、すっかり九條 大和の名は学園の生徒の間では私の婚約者として以上に、頼りになるもう一人の艦長のような扱いになっています。
それを否定する気は私にはありませんし、何より周りが私たちをお似合いのカップルのように見てくれている現状、むしろ喜ばしいとさえ思えてしまう。
「本当に…………色々とありましたわね」
目を閉じて、今日までの日々を回顧する。あまりにも鮮明に焼き付いている彼と出会ってからの毎日は、彼と出会う前までの日々の数倍の輝きをたった半年で私に齎してくれました。
「このリトルガーデンに乗ったこと、後悔はしてないかしら?」
「ないとも。むしろ、望外の幸運だったと思っているよ。あの無能な父親にしては、良縁を運んで来てくれたものだ」
相変わらず太々しい物言いだけど、その口ぶりは心からここでの日々を楽しんでいる事を如実に語っていて----私は、今がその時なのだと感じた。
「そうですわね。----ねぇ」
「ん?」
震えそうになる声を必死に抑制して、言葉を紡ぐ。もしかしたら、サベージと戦う時以上に気力を張り巡らせているかもしれない。それぐらいこれからする事は、私にとって、女性にとって一世一代の勝負だから。
「私は今まで、ノブレスオブリージュを胸に生きて来ましたわ。持つ者として生まれて来た故の責務。それに殉じ、果たす事こそが私の、クレア・ハーヴェイの生きる道なのだと」
彼は黙って聞いていた。すでに視線は外ではなく、私にのみ注がれていて。その強い意志を感じさせる瞳を、私の真意を測るように透き通らせている。
「だから、そのためにどんな不条理な選択を押し付けられたとしても、私はそれを受け入れるつもりでした。それこそ、将来の伴侶さえも私の意思で決められないとしても。あなたも、そうではなくて?」
私の問いに、彼は……九條 大和は静かに首肯した。それこそ、持って生まれた者が背負うべき不自由さだと言うように。
「その通りだ。我々は他者より多くを持って生まれた。才能、家柄、金銭…………その対価に、ある程度の理不尽や選択肢の消失は受け入れるべきものだ」
「ええ、私も同じ考えですわ」
だから----
「ずっと、私は恋愛結婚なんて出来ないのだろうと思っていました。真に好ましい男性と出会い、普通の男女がするような思い出を重ね合い、結ばれて結婚する。私には決して訪れないと思っていました」
「………………」
街に繰り出してデートをする。今日あった事をご飯を食べながら談笑する。今日のデートは何を着て行きましょうかと、鏡の前で頭を抱える。そして、友人たちにバレないようにこっそりとイベント中に逢引きする。
いつのまにか、私が想像していた恋人同士がやる事は全てクリアしていました。
「九條 大和……あなたは、そう思った事はないかしら?」
「…………フッ、ああ思っていたさ」
「それは----今でもそう思うのかしら?」
「……………………」
返事はない。
曲の締めに入った下のライブステージから、一際大きな花火が打ち上がる。そして、夜の暗闇を昼のように明るく照らし出すその刹那。近づいて来た彼が、私の頬に手を伸ばして----私はハジメテ、彼と顔を重ね合いました。
ああ、どうかこの花火の音に混じって、小さなリップ音と私の人生で一番真っ赤に染まっているであろう顔が隠れてしまいますように。
もしFFのエロをやるならどのナンバリングが見たい?*FF7は意図的に外しています
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