※この作品はR-18です。

マイナーキャラ妄想短編集   作:ニンニク嫌い

143 / 164

 もしジョーカーがペルソナを覚醒させられなかった世界線で、鴨志田が『とある相手』を手籠にしたことで警察に捕まることを免れていたら?


 ペルソナ4リメイク、おめでとうございます(激遅)


ペルソナシリーズ(佐倉双葉、久慈川りせ) 前編

 

 

 今日は人生最高の夜になると思ってた。

 

 わたし、佐倉双葉は人生初のデートに緊張していた。それも今日のデートはただのデートではなくあの有名アイドル、りせちーのコンサートを二人で見に行くのだ。

 

 まさかのライブデート。しかもあの大人気アイドルりせちーの久しぶりのドームコンサートだ。

 

 りせちーはここ数か月活動を休止していて、テレビにも雑誌にも姿を見せてなかった。

 だからファンの間では重い病気にかかっただとか、引退するのではないかと囁かれていたのだが、その彼女が今日こうしてステージに戻ってくるとなって、それはもう大ニュースになった。

 

 チケットは即日完売。三万人の座席はものの数秒で販売口から消えてしまったのだ。

 そしてわたしたちは幸運にもそんなコンマ数秒の予約合戦を勝ち抜いてチケットを手に入れた……わけではなく、友人の真から譲られたのだ。しかもなんとなんと、最前列のセンター席。

 

 どうやって手に入れたのか聞いたら、お姉ちゃんからもらったらしい。なんでも知り合いの伝手だとか……東京の検事って人脈ぱねぇ……。

 

 そして貰ったチケットに記載された会場の席に来たところまでは問題はなかった。問題だったのはその席の隣にいる観客にあった。

 

 鴨志田 卓。

 

 わたしたちがコンサートの開演をウキウキしながら待っている間にやって来た男で、わたしが暁たちと出会う前に秀尽学園で働いていた最低教師だ。

 

 そんな男が何食わぬ顔でアイドルのコンサート会場に現れ、わたしの席の隣に座って来た。

 

(なんでこいつがこんなところにいるんだ……しかも逃走不可の座席固定イベントとか、最悪すぎるぞ)

 

 あまりにも場違いな存在だったせいで、私も暁も、すぐには目の前の現実を処理できなかった。

 いやいや、まさか。こんなところにいるはずがないと思いたかったのに、何度見直しても顔は変わらない。人違いでも見間違いでもなく、間違いなく鴨志田卓本人だった。

 

 そう理解した瞬間、私と暁の身体はほとんど同時に強張った。私の肩を抱いていた暁の腕に、ぎゅっと力がこもる。それだけで、暁の腹の底にどれだけ激しい怒りが湧き上がっているのか分かった。

 

 私だって同じだ。顔が勝手に歪むのを抑えられず、少しでも鴨志田から距離を取ろうと、暁の側へ身体を寄せた。

 

 最悪だ。人生初のデートで、大人気アイドルの復帰ライブ。それも最前列のセンター席という、SSRどころか運営の設定ミスを疑うレベルの神イベントだったはずなのに、その隣へよりにもよってこいつが座っているなんて。

 

 どうして私たちがここまで鴨志田を嫌っているのか。それを説明するには、数か月前まで時間を巻き戻す必要がある。

 

 当時、鴨志田は暁たちの通う秀尽学園で、バレー部の顧問をしていた。元オリンピック選手という肩書を持つ有名人で、学園側からも特別扱いされていたらしい。だけど、その肩書の裏でやっていたことは、教師とも指導者とも呼べないようなものだった。

 

 男子生徒には暴力を振るい、女子生徒には顧問という立場を悪用して近づく。そして鴨志田に狙われたのが、暁の大切な友人である高巻杏と鈴井志帆だった。

 二人は長い間、逃げ道のない状況へ追い詰められ、心にも身体にも、簡単には消えない傷を負わされた。

 

 詳しい話を聞いたとき、私は本気で吐き気がした。そんなことをしておきながら、鴨志田は自分が悪いなんて少しも思っていなかったらしい。自分は有名な元選手だから。学園に実績をもたらしたから。生徒を指導してやっているから。

 そんな勝手な理屈で、何をしても許されると思っていた。

 

 やがて杏と志帆が声を上げ、鴨志田のやってきたことが表へ出た。さすがの学園側も、すべてが明るみに出たあとまで鴨志田を庇い続けることはできなかった。結果、鴨志田は顧問の座を追われ、秀尽学園からも解雇された。

 

 でも、本来ならそれだけで終わる話じゃない。警察が捜査して、裁判にかけられて、自分のやったことに見合う罰を受ける。それが当然のはずだった。

 なのに、現実はクソ仕様だった。

 

 騒動が少しずつ世間から忘れられていくころには、鴨志田が失っていたのは仕事だけだった。刑事責任を問われることもない。自由を奪われることもない。それ以外の部分では、ほとんど無傷のまま逃げ切った。

 

 それどころか、世間の一部には、鴨志田を「根拠のない告発で地位を奪われた悲劇の元選手」みたいに扱う連中まで現れた。

 

 被害者は嘘をついている、有名人を陥れたかっただけだ、鴨志田先生は厳しかったが生徒思いの立派な指導者だった。事情も知らない奴らが好き勝手にそんなことを言い、鴨志田を被害者どころか英雄みたいに持ち上げた。胸糞が悪いなんてもんじゃない。

 

 胸糞が悪いなんてもんじゃない。自分たちの訴えを信じてもらえなかったことは、杏と志帆にとって、鴨志田から受けた仕打ちにも劣らないほど深い傷になった。

 

 幸い、二人にはお互いがいて、暁もいたし、二人を信じて支えてくれる仲間たちもいた。私だって、今ではその仲間の一人だと思っている。それでも、鴨志田が何の償いもせず、何食わぬ顔で自由に暮らしている現実が正しくなるわけじゃない。

 

 そして、そのクソ野郎が今、私のすぐ隣に座っている。私の身体は暁に寄り添ったまま、完全な警戒モードへ移行していた。

 暁が鴨志田をどれほど憎んでいるのか、私は知っている。こいつが杏と志帆に何をしたのかも、わかってる。

 

 だから私は、せっかくのライブ会場だというのに、ステージではなく隣の男から目を離せなくなっていた。

 

「……何しに来たんだ、鴨志田」

 

 低く押し殺された暁の声を聞くと、鴨志田はわたしの前へ顔を突き出すようにして、こちら越しに暁を覗き込んだ。その顔には、暁の怒りなんて少しも怖くないと見せつけるような、下卑た笑みが大きく広がっている。

 

「何しにって、お前らと同じだろ。俺もライブを楽しみに来ただけさ。はははっ!」

 

「……笑うな。あんたがしたこと、俺は忘れてない」

 

「おいおい、ライブ会場で会ったくらいで、そんなに殺気立つなよ。せっかくのデートなんだろ? 隣の彼女が怯えてるぜ」

 

「べ、別に怯えてなんかないぞ! ただ、最低最悪の害悪プレイヤーが隣へ強制参加してきたから、き、気分が悪くなっただけだ。い、い、今すぐログアウトして、二度と戻ってくるな!」

 

 声が少し上ずったのは不覚だったけど、わたしは鴨志田を睨み返した。怖くないと言えば嘘になる。だけど、こいつに怯えているなんて絶対に認めたくなかった。

 

「へえ、口の減らない女だな」

 

 鴨志田が、値踏みするような目を私へ向けてきた。その視線に気づいた瞬間、暁は反射的にわたしを庇おうと身を乗り出す。

 わたしも鴨志田から目を逸らすつもりはなかったけど、座席の下では無意識に暁の手を探して、触れた指へ自分の指を絡め、そのまま逃がさないように強く握りしめる。

 

「……どうせライブが目的じゃないんだろ。りせちーを、いやらしい目で見に来ただけだ」

 

 暁は低い声でそう言い放った。だけど、いつものような落ち着きはなく、怒りを必死に押さえ込んでいるのが分かる。鴨志田みたいな奴がりせちーへ視線を向けること自体、我慢ならないんだろう。

 

 もちろん、今夜の暁はわたしの恋人として、このデートをずっと楽しみにしてくれていた。それでも、りせちーが思わず目を奪われるくらい可愛いことまで否定するつもりはない。国民的アイドルである彼女に憧れを抱いているのはわたしも同じなので、今回は不問とする。

 

「り、りせちーに変な目を向けたら……わたしが見逃さないからな。すぐ通報して、永久BANにしてやる……!」

 

「相変わらず威勢だけはいいな、お前ら。俺が何を見るかなんて、俺の勝手だろ?」

 

 鴨志田は否定するどころか、ますます愉快そうに笑った。それから暁に向けていた視線をわたしへ移すと、まるで親しい相手にでもするみたいに、馴れ馴れしく片目を瞑ってみせる。

 

 ぞわっと背筋に悪寒が走った。さっきまで強がっていたわたしの身体は、その気色悪い仕草だけで勝手に硬くなる。鴨志田に気づかれたくなくて睨み返したまま、座席の下では暁の手をさらに強く握りしめた。

 

「なあ、お嬢ちゃん。俺の勘違いじゃなきゃ、そこの彼氏は自分の女を俺から守るより、りせちーの貞操を守るほうに必死みたいだぜ?」

 

「――――っ!!?」

 むぎゅっ

 それは唐突で、一瞬わたしは自分が何をされたのか理解できなかった。

 

 鴨志田の手が暁の位置からは見えないようにわたしの後ろ手に伸びたかと思うと、ショートパンツ越しわたしのお尻を強く揉んできたのだ。

 驚愕とか恐怖とか、そんな感情が全身に伝播し、わたしの体は情けないぐらいに強ばって、その言い訳のしようのない痴漢行為に小さな悲鳴を上げるしかできなかった。

 

「な、何を……この、変態……っ」

 

 どうにか押し殺した声を絞り出すと、鴨志田は暁から見えない角度で口元を歪めた。私の抗議なんて何の意味もないとでも言うように、柔らかな肉へさらに深く指を食い込ませてくる。

 

「お前の彼氏が、りせちーに夢中みたいだからな。寂しくないように、俺が構ってやってるんだよ」

 

「ふ、ふざけるな……! 誰がお前なんかに――っ!?」

 

 そしてわたしがその行動に何か言おうとしたまさにその瞬間。会場の照明が一斉に落ち、腹の底まで震わせる大音響が、爆発したみたいに響き渡った。客席から凄まじい歓声が巻き起こり、ずっと引きこもりだった私が必死に絞り出した小さな抗議なんて、一瞬で跡形もなく呑み込まれてしまう。

 

「き、来た……りせちーだ!」

 

 色鮮やかな光が暗闇を切り裂き、その中央へ、華やかな衣装に身を包んだ久慈川りせが躍り出た。長い活動休止を終え、ついにステージへ戻ってきた伝説的アイドル。その姿が目に飛び込んできた瞬間、私も暁も、そして鴨志田までもが、周りの観客につられるように立ち上がった。

 

「みんなーっ! 今日は会いに来てくれて、本当にありがとーっ!」

 

 りせちーの明るい声が会場いっぱいに広がり、それを待ち焦がれていた観客たちから、耳がどうにかなりそうなほどの歓声が返される。

 暁の視線は、あっという間にステージの上へ釘づけになっていた。昔から憧れていたアイドルが、最前列のほんの数メートル先で歌って踊っているのだ。ほかのものが目に入らなくなるのも、まあ無理はない。

 

「すごい……本物のりせちーが、こんな近くに……」

 

 わたしも思わずステージへ見入ってしまった。テレビやモニターの向こう側にしかいなかったりせちーが、今は手を伸ばせば届きそうな場所にいる。声も、表情も、衣装の細かな飾りが光を反射するところまで、全部がはっきり見えた。

 

 だけど、その感動へ完全に浸りきることはできなかった。立ち上がったあとも、鴨志田の手がわたしの尻から離れなかったからだ。それどころか、奴は暗くなった会場と観客たちの熱狂を利用するように、わたしの背後へぴったりと身体を寄せてきた。

 

「んっ……くぅ、んん!」

 

 ショートパンツ越しに尻を何度も揉み上げられ、ステージへ向けていた意識が、嫌でも背後へ引き戻される。周囲では何万人もの観客がりせちーの名前を叫んでいるのに、私の頭の中では別の警告音が鳴り続けていた。

 

(離れろ……こいつから離れないと。でも暁はステージを見てるし、こんな大音量じゃ声を出しても……)

 

 だからわたしは隣にいる鴨志田からの痴漢に抵抗も誰かへの救援も求めることが出来ず、ただ口を閉じてお尻をまるで玩具のようにこねくり回してくる手を我慢するしかなかった。

 相手の事なんてまるで考えていないような力強い指圧は、ショートパンツ越しでも鴨志田の手の形を認識できてしまうほどで、それに痛み以外感じるはずがない最低で最悪なもの。

 そのはずなのに――――

「ふぅ……! んぃっ……んんううう!!」

 なんでこんなに気持ちいいんだ……!?

 尻を揉み込む鴨志田の指がぎゅっと力を増して尻肉を潰すたびに、下半身から甘い刺激が迸る。 鴨志田はまるでわたしのお尻を揉みなれているかのように巧みだった。

 

 いや、違う。こいつは、色んな女のお尻を揉んで、どのタイプのお尻にはこの揉みかたが良いだとかを、全部熟知しているんだ。

「ふん、引きこもりの割には良いケツしてるじゃないか」

「…………ッ! ふ、ぅうう!!」

 わたしを馬鹿にするような鴨志田の言葉。勝手にお尻を触っておきながら上から目線に品評してくるなんて最低なクソ野郎だ。

 そう思うべきだ。そのはずなのにわたしの体は、心は、丸っきり逆の反応を返してしまう。パンッ、パンッとお尻の張りを確かめるように鴨志田に叩かれる度に興奮したように体が熱くなり、ショートパンツからはみ出た太股をくすぐられるとなぜか甘い刺激を感じる。

「いいね、雌犬らしく感度は十分みたいだな。これなら膣中も……クク、びしょ濡れだ」

 

「ひああぁぁっ!?」

 突然わたしのお尻を痴漢していた鴨志田の指がショートパンツと太股の間から侵入して、下着をずらしてアソコを直接触って来た。

 驚いてあられもない声を出してしまうが、幸いかもしくは不運にか、その声は周りの熱狂に掻き消され隣の暁にも届くことはなかった。

 こいつ本気かっ!? とアイドルのコンサートで堂々と尻を触られておきながら今更かもしれないが、鴨志田の常軌を逸した行為にわたしは恐怖と混乱、そしてなぜか興奮を覚えてしまう。

 だがわたしが混乱してる間も鴨志田の指は止まることなく、指先をアソコの中へと滑り込ませてくる。

「止め……んっ、んん! こんな、とこで……何を、ぉおお!?」

「おうおう、結構キツキツだな。なんだ処女かお前。ククク、こいつは良い。調教しがいがある」

 

「んんんんンンッーーーー!!」

 鴨志田の指がアソコの一番敏感なところ、Gスポットをグイッと押し込んだ。その瞬間わたしの頭はスパークしたみたいに真っ白になり、腰が跳ね上がる。絶頂をしてしまった。

 好き勝手言う鴨志田の声も聞こえないほどの快感に、わたしは立つこともままならず体を最低な元体育教師の胸に預けるように倒れてしまう。

「はぁ……はぁ……んいぃ! ま、待ってまだ、あ、ああっ!!」

「何が待てだ、こんなにまんこをヒクヒクさせやがって。ここがいいんだろ、ん? 好きだもんな、お前みたいなコミュ障女は……ここをこうやって突かれるの」

 

「あぁ、あんっ、んいい! な、なにをぉ、ふざけ、ぁあああ!!」

 

 わたしは怒りに震えながら、どうにか鴨志田の手を振り払おうとした。だけど、ステージへ向かって一斉に腕を振り上げる観客たちの間では、思うように身体を動かせなくて。

 そしてその間に、あいつはわたしのアソコの一番気持ちいい部分、Gスポットってネットで知った場所を探り当てて、そこを執拗に責め立ててきた。

 

「んああっ! そ、こ……やめっ! ふひぃぃっ!?」

 

「んん? なにがやめてほしいんだ? お前の身体はそう思ってないようだがなぁ」

 

 こんなの我慢できるはずがない。今まで感じたことのない刺激がわたしのアソコを通して脳を甘く痺れさせてくる。鴨志田の小馬鹿にするような声に反応する余裕もないほど、わたしはこいつの指使いに翻弄されていた。

 そして心底悔しいのが、鴨志田の言う通り、わたしのアソコはこいつの指を求めるようにキツく締め付けを強めている。

 

「んあっ! ふぅっ、ふぅっ……っ、あひっ! ひああっ!!」

 

(嫌だ……こんなの、嬉しいわけがない。こいつに触られるなんて最悪なのに……! なのに、なんで私の体は……っ!)

 

 鴨志田が弄ぶように指でアソコを色んな角度で突く度に、わたしは塞ごうとした口を決壊させられて、あられもない喘ぎ声をあげせられた。

 暁に異常を知らせようにも、すぐ隣にいる彼は、長年憧れ続けてきたりせちーの歌声に完全に心を奪われていて、さっきから隣で悶えているわたしの声にさえ気づいていない。

 

「んんッ……あっ、んあっ! ふ、ぅう……うあっ、ああっ……!」

 

 必死に息を潜めようとしても、喉の奥から漏れる吐息を抑えきれない。鴨志田の指は容赦なく動き続け、わたしのアソコの奥深くをえぐるように掻き回してくる。

 

 そのたびに電流のような快感が身体を駆け上がり、理性を粉々に砕いていく。ステージではりせちーが最高潮の盛り上がりを見せているというのに、今のわたしはもう何も考えられない。

 

「おいおい、俺の指が気持ちいいからってそんなにビクビクするなよ。隣の彼氏にバレちまうぞ? なあ?」

 

 耳元で囁かれる下品な声。それすらも興奮材料になって、わたしの体はまたしても反応してしまう。

 ダメだ、このままじゃ本当に……!

 

「くっ……だ、黙れぇ……ッ」

 

 最後の抵抗として絞り出した声は掠れていて、まるで媚びているように聞こえたかもしれない。それが逆に鴨志田を喜ばせたようで、彼はさらに強く指を押し込んできた。

 

「あひぃッ!?」

 

 突然の刺激に耐えきれず、わたしは再び仰け反ってしまう。その拍子に尻が鴨志田の方へ押し付けられる形になり、奴はそれを見逃さなかった。

 

「おっと危ない。よしよし、いい子だから暴れるなよ。もっと気持ちよくしてやるからな」

 

「い、いやっ……もう、やめろ……!」

 

 わたしを抱き止めた鴨志田は、なんとそのまま胸にまで手を伸ばしてきた。

 必死に首を振って拒絶するが、効果はない。むしろその態度が鴨志田を喜ばせただけだったようで、奴は嬉々として服の上からわたしの胸を指を揉み始めた。

 

「こっちも中々育ってるじゃないか。まったく最近の中学生は発育が良いな。エロい身体して、将来有望だ」

 

「やっ、やめ……さわ、るな……んんッ……!」

 

 シャツ越しに乳首を摘まれた瞬間、全身に電気が流れたような衝撃を感じ、またしても喘ぎ声が出てしまう。もう限界だった。これ以上されたら本当に取り返しがつかなくなる。

 

 しかし、わたしの願いも虚しく、鴨志田の手は一向に止まらない。それどころか調子に乗ってブラジャーをズラすと、直接胸に触れてきたのだ。

 

「ひゃうぅっ……!?」

 

 信じられないことに、わたしは今まで経験したことのない感覚に戸惑いながらも、徐々にその感触に慣れていってしまっていた。

 柔らかい乳房を鷲掴みにされ、乱暴に揉みしだかれるたび、なぜか気持ち良さを感じてしまう。自分でも信じられないけど、確かに快感を覚えてしまっている自分がいた。

 

「はぁ……はぁ……んんッ……! やめ……こんなことぉ……あぁんっ!!」

 

 口では拒絶しながらも、わたしの身体は正直だった。

 

 一体どこの同人誌のセリフだと自分で自嘲しながらも、わたしの体は鴨志田の愛撫に合わせて無意識のうちに腰が動き出して、ショーツの中もどんどん濡れてきているのがわかる。

 

「おうおう、やっぱり感じてるんじゃねえか。素直になれよ」

 

 鴨志田はそう言うと、再びわたしの乳首を摘んできた。今度は優しく転がすように弄ばれると、ゾクゾクとした快感が背筋を走り抜ける。

 そして同じようにずっと指を出し入れされてるアソコが、その快感にキュッと引き締まり、より強烈な甘い刺激を伝えてくる悪循環。

 

 わたしの体は今、完全に、この最低教師の玩具にされていた。

 

 視界の先では、りせちーが二曲目の最後のサビを歌っているところだった。彼女の明るくて透き通るような歌声が会場全体を包み込み、観客たちの熱狂も最高潮に達している。

 

 だけどそれはわたしからすれば、まだ二曲目が終わらないほどの時間しか鴨志田に愛撫されていない事を意味する。

 時間にしたら10分にも満たない間に、わたしの体は鴨志田の手によって散々弄ばれ、すっかり蕩けきってしまっていた。

 

「さて、それじゃそろそろ強烈なのを味わわせてやるか」

 

「あっ、んあっ、ああっ! んっ、え……?」

 

 その言葉と同時に、りせちーの曲の盛り上がりと同調するように鴨志田の指の動きが激しさを増した。

 

 今までとは比べ物にならないほどの速さと力強さでアソコの中を引っ掻き回され、わたしはもう何も考えられなくなって。

 

「ほら、潮を吹きな。盛大にな」

 

「あああぁぁっ!! いやっ! やだっ! こんなのッ!! ああっ、ああぁぁ……ッ!!」

 

 最後に、鴨志田の指がわたしの敏感な豆、クリトリスを力強く摘んだ瞬間、頭の中で何かが弾けるような感覚と共に、凄まじい絶頂を迎えた。

 

 ぶしゅっ♡ ぶしゃっ♡ しゃぁぁっ♡

 

 今まで体験したことの無いような衝撃的な快感に、わたしは全身を震わせて叫んだ。あまりの強烈さに意識が遠のきかける。

 

 ずらされたショートパンツと下着の隙間から、鴨志田の言葉通りまるで粗相をしたように大量の愛液が潮となって撒き散らされたが、わたしは恥ずかしさよりも解放感の方が大きかった。

 

「はへっ……あひっ……ぁぁ……」

 

 絶頂の余韻で鴨志田の胸に倒れ込んだわたしは、舌を出して息も絶え絶え。体はビクビクと痙攣しっぱなしで、足腰に力が入らない。

 

 ステージではちょうど二曲目の演奏が終わったところで、観客達から万雷の拍手と歓声が沸き起こる。

 どうやらわたしのさっきの叫びは、上手いこと曲のピークと観客の掛け声に飲み込まれて打ち消されてしまったらしい。

 

 隣の暁も、まだわたしを蔑ろにしてりせちーに夢中のまま。

 

「はぁ……はぁ……あふ……っ…」

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、わたしの目前にびしょびしょに濡れた指先が突き出された。アソコを責め立てていた、鴨志田の指だ。

 

「舐めろ。お前の出した愛液で汚れたんだ。それなら、お前が綺麗にするのが道理だよなぁ?」

 

 そう、なのか? そうかもしれない。人生で初めての本気絶頂の直後で、うまく頭が回らないわたしは、その言葉に従うようにほとんど無意識に自分の愛液で濡れた指をしゃぶっていた。

 

「んぁ……はむ……ちゅぷ……ぢゅるっ……」

 

 言われるがままに舌を出して、自分の体液で濡れた鴨志田の指を丁寧に舐め始める。不思議な味がして、少し苦い気がしたけど、それが自分のものだと思うと妙な興奮を覚えた。

 

「ん、ぅん……ふぅっ……ちゅぱ……じゅる……んっ!?」

 

 そして舐めていると、再びアソコに指が入り込んできた。しかも、今度は2本。さっきとは比べ物にならない質量と圧迫感に、思わず息を飲む。

 

「おうおう、いいねぇ。随分素直になったじゃないか。どうだ? 自分の愛液の味は?」

 

「んんッ……ふぁっ……わか、らない……ぃ…っ」

 

 そして、鴨志田はわたしの反応を楽しむかのように、ゆっくりと指を動かし始めた。2本の指が中を掻き回すたびに、粘着質な水音が鳴り響く。その音に羞恥心を煽られながら、わたしはただ無我夢中で鴨志田の指をしゃぶり続けた。

 

「はむ……ちゅ……ちゅぱ……れろ……んくっ……」

 

 わたしの口からは甘い吐息と唾液が溢れ出てきて、それを指ごと飲み込んでしまう。まるでおしゃぶりに吸い付く赤ん坊みたいに、わたしは鴨志田の指だけに夢中になる。

 

 周りで爆音がまた響いて、それがりせちーの三曲目のスタートの合図だとわかりながら、わたしはもうそのライブの光景を一切気にすることもなく、ひたすらに鴨志田の腕の中で弄ばれ続けた。

 

 

 だけど、そのときの私も暁も、まだ何も知らなかった。

 

 この状況が、私たちの想像よりも遥かに悪辣で、遥かに周到に仕組まれたものだってことを。そして、このライブそのものが暁を陥れるために用意された、巨大な罠だったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高巻と鈴井を好きにした件が明るみに出てからというもの、あのクソガキは未分不相応にもオリンピック金メダリストの俺様の罪を暴き、今度こそ償わせようと、いつまでもしつこく嗅ぎ回ってきやがった。

 

 俺が実質的に何の処罰も受けず、こうして自由に暮らしていることがよほど気に入らないらしい。

 

 くだらない正義感を振りかざし、何度追い払っても執拗に食い下がってくる。最初は威勢のいいバカなガキだと笑っていた俺も、今ではその顔を見るだけで苛立つようになっていた。

 

 もっとも、俺が罪を免れたのは、ただ運が良かったからじゃない。その裏では、ある一人の女がずいぶんと役に立ってくれた。

 

 俺の「女王」だ。

 

 あの女は俺の立場を守り、世間が俺へ向ける目を都合よく変えた。それだけでなく、俺が望めば、本来ならどれほど手を伸ばしても届かない相手とさえ引き合わせ、俺の前へ差し出してくれる。

 

 その一人が、世界的な知名度を誇る華やかなアイドル、りせちー――久慈川りせだった。

 

 そう。あのバカなガキが何年もの間、画面越しに眺め続けてきた憧れのアイドルを、俺は数週間も前にすでに抱いている。

 今、目の前のステージで眩しい笑顔を振りまき、可憐な衣装を揺らしながら歌い踊っている久慈川りせは、もう完全に俺の掌の中にあるのだ。

 

(何も知らずに目を輝かせやがって……本当におめでたい奴だ)

 

 憧れのアイドルを前にして、ガキは周囲のことなどすっかり忘れたようにステージへ見入っている。

 その間抜けな横顔を眺めているだけで、笑いが込み上げてきた。あいつがどれほど強く願おうと、遠くから見上げることしかできなかった女を、俺はとっくに手に入れているのだ。

 

 もちろん、この復帰ライブは、単に久慈川りせの歌を観客へ披露するためだけのものではない。俺に逆らい続けたクソガキの目の前で、あいつが憧れてきたものを俺が支配していると見せつけ、そのくだらない正義感も自尊心も徹底的に踏みにじるために用意された舞台なのだ。

 

(今夜、嫌というほど思い知らせてやる。お前がどれだけ俺を追い回そうが、結局は何一つ守れないってことをな)

 

 しかも、本当の計画が始まる前から、俺はすでにあいつのすぐ隣で、クソガキの恋人へ手を伸ばしていた。

 

 ステージに夢中になっているこいつは何も気づかず、このメスガキも周囲の目を気にして声を上げられない。俺はその反応を愉しみながら、ガキからは見えない位置で、あいつの大切な彼女のおっぱいもマンコも好き勝手に弄り回して、絶頂させた。

 

 恋人が手を伸ばせば届く場所にいるというのに、このクソガキは何も知らない。

 

 その事実が、たまらなく愉快だった。

 

 自身の腕の中で悶えるメスガキは、もうすでに抵抗らしい抵抗をやめている。

 大人しく愛液で濡れた指をしゃぶり、膣に挿れられた二つの指を言われてもないのに締め付けては軽い絶頂をして愛液を垂らす。

 

 本当に、女というやつはどいつもこいつも大して変わらない。俺を嫌っているだの、触られるのが不快だのといくら態度で示したところで、実際に力のある男から迫られれば、まともに抗うこともできず受け入れるしかないのだ。

 

「んちゅ……じゅぷっ、じゅる……んんっ、んんんん゛ッ!」

 

(こいつも口ほどじゃなかったな)

 

 隣のクソガキにバレないよう、盛大な舞台演出が会場を震わせた瞬間にこいつの恋人の陰裂を責めていた指を、今度は後ろの穴、アナルへと突き刺す。

 

「んふぅ! ふっ、ぅぅっ……! んんっ!!」

 

 それに口を塞がれながらメスガキは悲鳴をあげるが、やはり隣の恋人様は気づく様子もなくステージ上の久慈川りせへ夢中になっている。

 

 ホントに、良い恋人だなと笑えてしまう。自分の彼女が肛門に指を挿れられ、グリグリと拡張されて喘いでいるというのに。

 

 そして自分の恋人の存在を忘れるほどクソガキが夢中になっているりせへと目を向ければ、なるほど確かにそれだけの魅力を持っていると言えるだろう。

 

 もっとも、その女がすでに俺様の物で、観客を魅了する肢体の全てをすでに俺が味わい尽くしているとは誰も知らないだろうが。

 

 数日前に自身の精液を全身に塗りたくっていたアイドルの姿を思い出し、そしてあの女がステージを降りれば俺の望みどおりになるという事実を思うと、自然と口元が緩んでしまう。

 

「んふぅぉっ……!?」

 

 おっと、その瞬間が楽しみすぎて、つい指を2本ほど根本までメスガキのアナルに突き刺しちまった。

 まあ問題ないか。メスガキはびくびくと震えて、初めてのアナル快感を味わって絶頂したようだ。緩んだ脚が生まれたての小鹿みたいに痙攣していて、そのショートパンツの隙間からまた愛液を……。

 

「ク、クク……おいおいマジかよ」

 

「んっ、んんぅぅ……」

 

 ジョロロロロロと、潮吹きではあり得ない量と流れかたでメスガキの足を伝って会場の床に小さな水たまりを作るのは、濃縮されたアンモニア臭を放つ黄色い液体だ。

 

(こいつ、おしっこまで漏らしやがった)

 

 どうやら、このメスガキは相当のマゾらしい。クソガキの彼女だけあって、俺に反抗的な態度をとっていたのは、やはり口だけだったということだろう。

 

 そしてちょうどメスガキのお漏らしが最後まで終わったところで曲が終わり、りせはすぐに次の曲へは移らず、ステージの上から観客へ笑顔を振りまきながら短いトークを始めた。

 

 熱狂の余韻は残っていたが、会場を満たしていた音は先ほどまでより幾分小さくなっている。

 

 待っていた機会がようやく訪れた。

 

 俺はメスガキのびしょびしょになったショートパンツと口から手を離す。その際に「あっ」と名残惜しそうな声をメスガキが漏らしたのを確かに聞いた。

 

 そんなすっかり教育が進んだクソガキの恋人を横目に、その彼女の無様な惨状が目に入らないようにあいつの前へと身を乗り出すと、二人の間へ割り込んだ。

 

「おい、クソガキ。俺とひとつ賭けをしないか?」

 

 久慈川りせの復帰ステージに酔いしれていたバカは、俺の声でようやく現実へ引き戻された。名残惜しそうにステージから目を離すと、眉間へ皺を刻んで俺を睨みつける。

 

 その生意気な目も、もうすぐ別の表情に変わる。そう思えば、腹を立てるより笑いが込み上げた。

 

「……何を賭けるつもりだ?」

 

 俺は片手をステージへ向けた。そこでは一曲を歌い終えたりせが、笑顔で観客へ手を振りながら水を飲んでいる。

 

「みんな、ちょっとだけ待っててね。お水を飲んだら、すぐ次の曲にいくから!」

 

 りせがペットボトルへ可愛らしく口をつけると、それだけで客席から大きな歓声が上がった。水を飲んでいるだけの女に、よくもまああれだけ騒げるものだ。

 あの女がどんなふうに肉棒をしゃぶり、口内で射精された精液を音を鳴らして飲み干しているかを知ったら、ここの連中はどんな歓声をあげるのやら。

 

 もっとも、その観客たちが崇拝するアイドルの本当の姿を知っているのは、ここでは俺だけだった。

 

 俺はりせを当然のように眺めながら、クソガキへ賭けの条件を告げた。

 

「もし俺が、あの久慈川りせにキスさせたうえで、向こうから礼まで言わせられたら……お前は俺が、そこの尻のでかい彼女にキスするのを黙って見てな」

 

「は……?」

 

 背後のメスガキが肩を強張らせた。自分が賭けの品にされたと気づき、眼鏡の奥から鋭い目を向けてくる。

 

「ちょっと待て。なんで私が――」

 

「いいだろう……!」

 

 だが、抗議を終えるより先にクソガキが条件を呑んだ。

 

 恋人を守るような顔をしておきながら、本人の意思を確かめようともしない。正義を語る奴ほど、目的のためなら身近な人間を平気で利用するらしい。

 

「アキラ……!?」

 

 恋人の声にも気づかず、バカは俺へ身を乗り出した。その目には、この賭けを利用して今度こそ俺を追い詰めてやろうという決意を燃やしていやがる。

 

「その代わり、今夜のライブが終わるまでにできなかったら、明日の朝、自分から警察へ出頭しろ。杏と志帆を強姦したことを全部認めて、正直に自白するんだ!」

 

 俺は一瞬呆れたあと、腹の底から笑った。

 

 こいつには、絶対に負けない賭けへ見えているのだろう。国民的アイドルが客席の男へ自らキスし、そのうえ礼まで言う。何も知らなければ、あり得ないと思うのも無理はない。

 

 だが俺は、りせが俺様を拒むはずなどないと知っていた。

 

「いいぜ。交渉成立だ」

 

「勝手に成立させるな!」

 

 その夜初めて、メスガキの怒りが俺ではなく恋人へ向けられた。

 

 そこでようやくクソガキも、自分が双葉の意思を無視して唇を賭けたことに気づいたらしい。勢いを失い、慌てて耳元へ顔を寄せる。

 

「ごめん、双葉。でも、あいつにできるはずがない。りせちーが鴨志田なんかとキスするわけないだろ?」

 

「そういう問題じゃない。私のことなのに、どうして勝手に決めるんだ」

 

「分かってる。本当に悪かった。でも、これが杏と志帆のために、あいつを警察へ突き出せる最後の機会かもしれない」

 

 暁は声を潜め、必死に言い訳を続けている。高巻と鈴井がどれだけ苦しんでいるかを持ち出せば、彼女も強く反対できないと分かっているのだろう。

 

(結局、お前も俺と大して変わらねえな)

 

 俺は二人のやり取りを横目で眺めながら、口元に浮かんだ笑みを隠さなかった。

 女の気持ちを無視して、自分の目的のために利用する。そのくせ、自分だけは正しい人間だと思い込んでいる。

 

 違うのは、俺が最初から自分の欲しいものを分かっていることくらいだ。

 

「……後で絶対に話し合うからな。こんな決め方、私は納得してないからな!」

 

「ああ。本当にごめん」

 

「それに……もし万が一、あいつが勝ったとしても、私は自分からキスなんかしない。そこは、勘違いするなよ」

 

 二人がまだ小声で揉めている間に、俺はとっくに興味を失っていた。今さら何を話し合おうが、賭けは成立している。

 

 俺の意識は、すでにステージ上のりせへ向いていた。

 

 あの女は一晩中、俺が合図を送る瞬間を待っていた。何万人もの観客を前に歌い、華やかな振り付けを披露している間も、曲の合間になるたびに視線を最前列へ流し、何度も俺の姿を確かめていた。

 

 表向きは、会場を埋め尽くしたファン全員のために歌っていることになっている。

 だが、あの笑顔も、甘ったるい歌声も、汗に濡れて照明を反射する身体も、本当に見せたがっている相手は俺だけだ。

 

(ずいぶん必死じゃねえか。そんなに俺に見てほしいのかよ)

 

 観客へ手を振りながらも、りせの目は何度となくこちらへ向けられていた。俺が少し視線を返すだけで、笑顔が目に見えて明るくなる。まるで褒美を待つ犬だ。

 

 やがて、再び目が合った瞬間を狙い、俺は片手をゆっくりと上げた。

 その途端、りせの顔へ弾けるような笑みが広がった。

 

 客に見せるための、計算されたアイドルの笑顔とは違う。もっと露骨で、もっと嬉しそうな……雌の顔だ。俺からの合図をようやくもらえたことが、隠しきれないほど表情へ出ている。

 

「あっ……!」

 

 小さく声を漏らしたりせは、手にしていた飲み物をスタッフへ預けると、迷うことなくステージの縁へ歩き始めた。

 

 ただ近づいてくるだけではない。長い脚を一歩ずつ見せつけ、腰を大きく揺らしながら、観客の視線を自分へ集めるように華やかに歩いてくる。

 

 周囲からは耳をつんざくほどの歓声が上がったが、りせはそんなものには目もくれない。

 あの女が見ているのは、最初から俺だけなのだから。

 

(そうだ。それでいい。誰のためにここまで来たのか、ちゃんと分かってるじゃねえか)

 

 俺が満足げに眺めている一方で、隣の二人は揃って目を見開いていた。

 

 憧れのアイドルが自分たちの目の前へ近づいてくる。その事実を喜ぶより先に、なぜりせが俺だけを見つめているのか、その意味を理解できずにいるらしい。

 

「おい……なんで、あいつを……」

 

「アキラ、これ……何かおかしい」

 

 クソガキの顔から余裕が消え、メスガキも異変を察する。だが、もう遅い。

 俺は青ざめていく二人を横目に、込み上げる笑いを堪えた。

 

 会場の大型スクリーンにも、俺たちとりせの姿が大きく映し出された。最前列の高価な席に座る熱心なファンへ、復帰したばかりのアイドルが直々に声をかける。

 運営側にしてみれば、観客を喜ばせる絶好のファンサービスに見えているのだろう。

 

 カメラは、りせの輝く笑顔と、その視線の先にいる俺の顔を交互に映していた。

 

 りせはステージの縁まで来ると、その場へしゃがみ込み、俺と目線の高さを近づける。頬の横へ片手を添え、いかにもアイドルらしい可愛らしい仕草を見せたが、その瞳に浮かぶ喜びまでは演技ではなかった。

 

「ねえ、そこのカッコいいお兄さん。次は何を歌ってほしい? せっかくだから、あなたのリクエストに応えてあげる!」

 

 観客席から、羨望の入り混じった大歓声が上がった。

 だが俺は周囲の騒ぎにも動じず、期待に満ちたりせの顔を眺めながら、ゆっくりと首を横へ振った。

 

「いや、歌はいらねえ。俺が欲しいのはキスだ。どうだ、りせちー?」

 

 何万人もの前で堂々と口づけを要求すると、隣のクソガキは言葉を失った。あれほどあり得ないと信じていた条件を、俺がためらいなく口にしたことが理解できないらしい。

 

 双葉も呆れたように俺を見ていたが、その頬はうっすらと赤い。腹を立てているのか、それとも別の理由なのか。

 どちらにせよ、眼鏡の奥の目は、りせがどう答えるのか気になって仕方がないようにステージへ釘づけだった。

 

 その視線の先で、りせの頬がみるみる赤く染まっていく。大型スクリーンにもその表情が大写しになり、りせは僅かに唇を開いて、熱を含んだ吐息を漏らした。

 

「もう……そんなこと、いきなり言われても困るよぉ」

 

 困ったような声とは裏腹に、瞳には嫌悪も警戒もない。俺から求められた喜びを隠しきれず、胸元で両手を重ねながら、恥ずかしそうに身体を揺らしている。

 

 もっとも、初対面のファンへすぐキスを許したように見えれば、アイドルとしての体裁が悪い。りせは上目遣いで俺を見たあと、恥じらうように顔を逸らして、迷っているふりを続けた。

 

「キスなんて……みんなも見てるんだよ? それに、今日初めて会った人となんて……」

 

(まだそんな芝居を続けるつもりか。早く俺にキスしたくて仕方ねえくせにな)

 

 俺が笑みを浮かべたまま待っていると、客席の一角から狙い澄ましたように声が上がった。

 

「りせちー、してあげて!」

 

 続いて、少し離れた場所から別の男が声を張る。

 

「今日だけの特別サービスだろ!」

 

「羨ましいぞ、お兄さん!」

 

 どれも偶然ではない。あらかじめ客席へ紛れ込ませておいたサクラたちが、打ち合わせどおりに空気を作っているのだ。

 

 最初は戸惑った笑いしか起きなかったが、何人もの声が重なるにつれ、周囲の客も少しずつ同調し始めた。本人も本気で嫌がっているようには見えない。それなら無礼な要求ではなく、復帰ライブを盛り上げる特別なファンサービスなのだと、勝手に納得したのだろう。

 

 やがてサクラではない客からも、「頑張って、りせちー!」「キスしてあげて!」という声が飛び始めた。一つの声は十へ、十は百へと膨れ、最後には会場全体が口づけを期待する熱気に包まれていく。

 

(大衆心理さまさまだな。アイドルがファンにキスするなんてタブーも、周りが許せば簡単に覆る)

 

 大型スクリーンのりせは、押し寄せる声援を聞きながら困ったように頬へ手を添えた。もちろん、すべて予定どおりだ。観客に背中を押された形さえ作れば、国民的アイドルが見知らぬ男へキスをしても、不自然には見えない。

 

 十分に客を焦らし、拒むための形だけの理由も並べ終えたところで、りせはようやく観念したように微笑んだ。

 

「も、もう……仕方ないなぁ。みんなにそこまで言われたら、断れないよ。ファンのお願いには、できるだけ応えてあげなくちゃね?」

 

 そう言うや否や、りせはステージの縁へ両手をつき、そのまま身軽に飛び降りた。華やかな衣装の裾がふわりと舞い上がり、照明を浴びたすらりとした両脚が眩しく輝く。

 

 危なげなく着地したりせは、迷う様子もなく、真っすぐ俺の正面へ立った。

 

「え……?」

 

 クソガキとメスガキの口から、ほとんど同時に間の抜けた声が漏れた。

 

 二人だけではない。会場を埋め尽くす何万人もの観客が息を呑み、ステージを降りた国民的アイドルへ釘づけになっている。

 

「りせちー、本気なのか……?」

 

「そんな……あんな男に……」

 

 二人が呆然と呟く。だがりせはそんな声など聞こえていないように俺へ歩み寄ると、しなやかな両腕を首へ回してきた。

 柔らかな身体をぴったりと密着させ、俺を見上げるその目には迷いなどなく、合図を待ち続けた末にようやく褒美へありつける喜びが浮かんでいた。

 

(そうだ。さっさと周りに見せてやりな。お前が誰の言うことを聞く女なのかをな)

 

 その内心が聞こえたのかどうか、りせは背伸びをすると、そのまま俺の唇へ自分の唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 軽く触れるだけで済ませるつもりはないらしい。目を閉じたりせは自分から深く口づけ、柔らかな身体を隙間なく押しつけてくる。俺も当然のように腰へ腕を回し、さらに強く抱き寄せた。

 

「おい……嘘だろ……」

 

 クソガキの声から、さっきまでの確信が消えていた。

 

 長年憧れ続けてきたアイドルが、俺の腕の中で自ら唇を重ねている。まだ仕事上のファンサービスだと思い込みたいのだろうが、そんな言い訳が通じる程度で終わらせるつもりはなかった。

 

 りせが僅かに口を開いた瞬間、俺は舌を滑り込ませた。

 

「んぅ……んっ、ふぁ……」

 

 りせは逃げるどころか、自分から舌を絡ませ、首へ回した腕にも力を込めてくる。観客の存在など忘れたように俺へ身体を預けていた。

 

 しかも、手にしたマイクはまだ入ったままだ。

 

「んんっ……ちゅ、んぁ……鴨志田、さん……」

 

 甘い吐息と俺の名前が会場中へ響き、客席から悲鳴にも似た歓声が上がった。これで俺たちが以前から知り合いだったと察する者もいるだろうが、今さらどうでもいい。

 

(よく見ておけ、クソガキ。お前が何年も憧れてきた女が、誰の腕の中でこんな顔をしているのかを)

 

 俺はりせを抱いたまま、横目でヤツの顔を確かめた。賭けに勝って俺を警察へ突き出すつもりだった男が、目の前の光景を受け入れられず、呆然と立ち尽くしている。

 

 だが、さらに面白い反応を見せていたのは隣のメスガキだった。

 

 りせが俺へしがみつき、口づけへ応えるほど、双葉の顔は険しくなっていく。唇を噛み、指先を固く握りながらも、俺たちから目を逸らせずにいた。

 

(なんだ、その顔は。りせちーを取られたのが気に入らねえのか? それとも、俺が自分じゃなくこいつを抱いてるのが気に入らねえのか?)

 

 どちらにせよ、俺にはどうでもよかった。クソガキが絶望し、その恋人が自分でも理解できない感情に苛まれ、りせが俺の腕の中で喜んでいる。それだけで十分だ。

 

 大型スクリーンには、重なった唇と、俺の首へ回されたりせの腕が大写しになっていた。画面は胸元で切れているため、もう片方の手が背中を下り、腰を越えていることには、最前列の人間しか気づいていない。

 

 画面の外で尻を掴むと、りせの身体が大きく震えた。

 

「んんっ……!」

 

 スクリーンに映ったのは、突然目を見開き、俺へ強くしがみつく表情だけだ。会場の大半には、口づけが激しくなった反応としか見えないだろう。

 

 俺はそのままりせを強く抱き寄せ、口づけを続けた。あいつも甘い声を漏らしながら懸命に応え、もはやファンサービスを装う余裕など残っていない。

 

 十分に味わったところで、俺はようやく顔を離した。りせは大きく息を乱し、名残惜しそうに俺の唇を見つめている。

 

「はぁ……はぁ……あ、あれ? 私、ファンサービスのつもりだったのに……なんだか、まだ胸がドキドキしてる……」

 

(まだ足りねえって顔だな)

 

 りせは自分の唇へ指を添え、恥ずかしそうに身体を揺らしたあと、俺の耳元へ顔を寄せた。

 

「わ、私……もう、ほかの男の人とはキスできないかも。だってお兄さん、今までで一番キスが上手だったんだもん。本当にありがとっ♡」

 

 今度はマイクを使わない内緒話だった。その言葉を聞けたのは、りせと俺、そして両隣で息を呑んでいたバカなカップルだけだ。

 

 クソガキの顔から、最後に残っていた期待が消えた。

 目の前の光景だけでも、りせが嫌がっていなかったことは明らかだったが、それでも派手なファンサービスにすぎなかったと言い張る余地は残っていたかもしれない。

 

 だが、りせは自分の口から、まるで本心をそっと打ち明けるように俺とのキスが今までで一番だったと認め、そして礼まで口にした。

 

 これで賭けの条件は、文句のつけようもなく満たされた。

 

(終わりだなぁ、クソガキ)

 

 長年憧れ続けてきた女が、敵である俺へ頬を染め、幸せそうに笑いかけている。暁は肩を落とし、身体の芯を抜かれたような顔で立ち尽くしていた。

 

 賭けに負けただけではない。自分が大切にしてきたものを、よりにもよって俺に奪われた。その事実が、くだらない自尊心を根こそぎへし折ったのだろう。

 

 だが、その隣ではもっと面白いことが起きていた。

 

 俺が賭けの代償を要求するより先に、メスガキが自分からこちらへ近づいてきたのだ。一歩ずつ足を進め、りせと入れ替わるように俺の前へ立つ。

 

 本人も何をしているのか分かっていないらしい。僅かに唇を開き、俺とりせを交互に見ながら、顔を真っ赤にして指先を震わせている。それでも逃げようとはせず、俺の前で立ち尽くしていた。

 

「ふ、双葉……待て。お前、本当に――」

 

 ようやく我に返ったクソガキの声を、りせが明るく遮った。

 

「あっ、ごめんなさい……もしかして、この人、あなたの彼氏? 二人でデートしてたの?」

 

「え……ち、違――」

 

 メスガキが否定し終えるより早く、りせは申し訳なさそうな表情を作り、マイクへ言葉を重ねる。

 

「それなのに私ったら、彼女さんの目の前でキスしちゃって……ごめんね。じゃあ今度は、あなたの番だよ。私だけ彼氏さんからキスをもらったら、不公平でしょ?」

 

 本来なら、双葉はすぐ訂正するべきだった。俺は恋人ではなく、本当の彼氏は隣にいる暁で、これはただの賭けなのだと。

 

 だが、何も言わなかった。

 代わりに、俺を見上げ、恥ずかしそうに目を伏せると、ゆっくり小さく頷いた。

 

「――――」

 

 クソガキが息を呑む音が聞こえた。

 

 俺は笑いを堪えながら、目の前で赤くなっている佐倉双葉を見下ろした。大型スクリーンには、俯く双葉と余裕の笑みを浮かべる俺、それを促すりせが大きく映っている。

 

 ただし、離れた場所で顔を引きつらせるクソガキは画角の外だった。

 

 もちろん、偶然ではない。大型スクリーンへ送られる映像とは別に、何台かのカメラがクソガキだけを捉えている。

 

 憧れのアイドルを俺に奪われ、今度は自分の恋人まで目の前で俺とのキスを受け入れようとしている。

 そのとき、あいつがどんな顔をするのか。あとでゆっくり眺めるために、りせが手配しておいたものだった。

 

(気が利くじゃねえか、りせ)

 

 双葉の頷きがスクリーンへ映ると、客席の一角から声が上がった。

 

「キース! キース!」

 

 続いて、反対側からも同じ掛け声が重なる。

 

 先ほどと同じサクラたちだ。離れた場所から声を上げ、観客全体が自然に望み始めたような空気を作っている。

 

 戸惑っていた周囲の客も、双葉が否定せず俺の前に残っているのを見ると、次第に加わり始めた。本人が恋人だと認め、りせも笑顔で背中を押している。それなら、恥ずかしがるカップルを皆で応援する微笑ましい余興なのだと、勝手に納得したのだろう。

 

「キース! キース! キース!」

 

 数十人の声は数百、数千へと膨れ上がり、地鳴りのような掛け声が会場を揺らした。

 

「ほら、みんなも応援してるよ! 恥ずかしがらなくて大丈夫だからね」

 

 事情を知らない連中には、りせが内気な女性ファンを励ましているようにしか見えない。

 

 だが俺たちは知っていた。この場で拒めば、何万人もの好奇の視線が双葉へ集中する。

 

「どうして嫌がるのか」「二人は恋人ではないのか」と騒がれれば、この元引きこもりに逃げ場はない。

 

 双葉は押し寄せる声に包まれながら、さらに俺へ近づいた。

 

(この女も、ずいぶん俺に懐いてきたじゃねえか)

 

 俺はゆっくり身を屈め、スクリーンに映らない位置で細い腰へ腕を回した。

 

「俺が賭けに勝ったら、お前へキスする約束だったな。分かってるだろうな?」

 

「う……うん……」

 

 掠れた声で答えた双葉は、ためらいながら俺の首へ両手を回した。その動きに合わせ、歳の離れた恋人同士のように唇を重ねる。

 

「んっ……ふぅ……」

 

 会場が爆発したような歓声に包まれた。軽く触れるだけで離れるつもりだったのだろうが、双葉は轟音に驚き、俺の唇へ吸いついたまま固まってしまう。

 

(クク……ずいぶん初心じゃねえか。その程度で、よく俺に逆らおうと思えたな)

 

 もちろん、俺が不慣れなこいつへ合わせる理由はない。腰を抱き寄せ、閉じた唇を舌先で押し開く。

 

「んむっ……ん、ぅ……」

 

 肩を跳ねさせる双葉へ構わず舌を滑り込ませ、逃げ場を失った舌を捕らえた。りせにしたのと同じように、口内を好きに探り、俺へ従わせていく。

 

 大型スクリーンには、俺の首へしがみつく双葉と、固く閉じた瞼、重なった唇だけが映っていた。映像は胸元で切れているため、腰を抱き締めて逃がさないようにしていることは、最前列の客にしか見えない。

 

「んぅ……ふ、ぁ……」

 

 男に抱かれるのも、舌を絡めるキスも初めてなのだろう。身体は強張っていたが、舌を動かすたびに唇は少しずつ柔らかくなっていった。

 

「ん、ちゅっ……ちゅる……」

 

 やがて双葉の舌が、恐る恐る動いた。

 

 俺がさらに深く絡めると、今度は逃げずに追ってくる。ぎこちなくても、自分から応えていることに変わりはない。

 

 身体を胸板へ押しつけると、双葉の指が俺の服を掴んだ。もう押し返そうとはせず、力を抜いて口づけへついてくる。

 

(正義だの友情だのと言っても、いざ男に抱かれれば何も考えられなくなる。女なんて、結局その程度だ)

 

 唇を吸い、逃げかけた舌をもう一度捕らえる。すると双葉は、自分から強く唇を押しつけ、俺を逃がすまいとするように舌を絡ませてきた。

 

 俺が画面の外へ手を下ろし、再び尻を掴むと、細い身体が大きく跳ねる。

 

「ふぁっ……んんんっ!」

 

 スクリーンには、突然背筋を伸ばし、俺へしがみつく姿だけが映った。観客には激しい口づけに驚いただけに見えるだろう。

 

 実際には両脚から力が抜け、全身が細かく震えている。俺の服を握る指には必死なほど力が入り、それでも唇を離そうとはしなかった。

 

(キスと少し触られただけでこの有り様か。とんだ口だけの淫乱女だな)

 

 俺は両手で尻を支えながら、さらに口づけを続けた。

 

 観客たちは、スクリーンに映る蕩けた顔と震える肩へ歓声を上げている。何が起きているのか正確に理解している者は、ほとんどいない。

 

 だが、それで構わない。国民的アイドルに続き、眼鏡をかけた内気な女まで俺の腕の中で夢中になっている。連中に見えているのはそれだけで十分だろう。

 

「すごい……この子、キスだけでこんなになっちゃったんだ」

 

 りせが弾んだ声を上げ、双葉の蕩けた表情を嬉しそうに覗き込んだ。それから俺へ甘えるような視線を向け、空いている側へ身体を寄せてくる。

 

「ねえ、私ももう一回……仲間に入れて?」

 

 俺が答えるより早く、りせは待ちきれないとばかりに顔を寄せてきた。

 

 俺と双葉の重なった唇へ、りせが横から自分の唇を押し当て、僅かな隙間へ舌を滑り込ませる。大型スクリーンには、俺を中心に顔を寄せ合う二人と、唾液に濡れた唇が大写しになっていた。

 

「んっ……ちゅ、んぅ……♡」

 

「ふぁ……りせ、ちー……」

 

 双葉は突然加わったりせに身体を強張らせたものの、逃げることも唇を閉ざすこともなく、その柔らかな舌を受け入れた。

 

 俺の舌へ必死に絡みついていたかと思えば、今度はりせの舌まで追いかけている。ついさっきまで初々しかった舌使いも、憧れのアイドルが加われば、同じ男を挟んで情熱的に絡ませられるらしい。

 

(ほかの女も一緒なら恥ずかしくないってか? ずいぶん都合のいい頭をしてやがる)

 

 りせは俺の舌を唇で吸い、そのまま追いかけるように双葉へ舌を絡ませた。

 

「んふっ……上手だよ。もっと力、抜いて……鴨志田さんに全部任せちゃえばいいの」

 

「まかせ、りゅ……ふぁっ、ぁぁ……! うん……ちゅっ、ちゅぱっ……♡」

 

 その言葉に従うように、双葉の身体から力が抜けていく。俺の服を掴んだ指だけは離れず、りせと一緒になって俺の唇を求め続けていた。

 

「ちゅっ、ちゅぷ……! んあっ、あむっ……♡」

 

「じゅるっ、ちゅぱ、ちゅぅぅっ♡」

 

 俺は二人の尻を片腕ずつ抱き寄せ、好きなように舌を絡ませてやった。

 

 りせは慣れた様子で俺へ合わせ、双葉はそれを真似するように必死についてくる。大型スクリーンに映っているのは、俺を挟んで口づけへ夢中になる二人の顔と上半身だけだ。

 画面の外で俺の手がショートパンツとスカートの下へ伸びていることなど、会場の大半には分からない。

 

 それでも、二人の乱れた呼吸や潤んだ目を見れば、ただの悪ふざけではないことくらい伝わっただろう。サクラに煽られた観客たちは、事情も知らずに歓声をさらに大きくしていた。

 

 十分に二人を味わったところで、俺はようやく唇を離した。

 

「んぅ……」

 

「あっ……」

 

 りせと双葉が名残惜しそうに顔を上げる。俺は身体を起こし、背の低い二人には届かない位置まで顔を遠ざけた。

 

 追いすがるような二人の視線が実に滑稽で、雄としての優越感を煽ってくる。

 

「このくらいで十分だろ。賭けは俺の勝ちだ」

 

 俺が腕を離すと、支えを失った双葉の膝が折れ、そのまま後ろへよろめいた。すぐ背後にいたりせが慌てて抱き止めたが、クソガキは恋人のそんな姿を見ても、一歩も動けずにいる。

 

「双葉……なんで……」

 

 負け犬の掠れた声が耳に心地いい。顔には隠しようのない恐怖と落胆が浮かび、それが俺の優越感をさらに満たした。

 

(どうした、正義の味方。お前が自信満々で受けた賭けだろうが)

 

 双葉はりせに支えられながらも、俺から目を離さなかった。ぼんやりと唇を開き、残った感触を確かめるように舌を僅かに動かしている。

 

「鴨志田……さん……」

 

「ふふ、また後で3人でキスしようね、双葉ちゃん」

 

 そんな状態の双葉を席に座らせたりせは、りせは名残惜しそうに俺を見つめたあと、すぐに国民的アイドルの笑顔を取り戻し、軽やかにステージへ戻っていった。

 

 観客へ向けて可愛らしく手を振りながらも、最後に見つめたのは俺だけだった。指先を自分の唇へ当てて、甘えるような投げキスを送ってくる。

 

「ありがとっ! おかげで、次の曲も最高の気分で歌えそう!」

 

 俺は答える代わりに、口元へ薄い笑みを浮かべると、次の曲のイントロが流れ始め、会場中の視線は再びステージへ集まった。

 

 眩い照明を浴びて歌い踊るりせを、何万人もの観客が熱狂的に見つめ、その華々しい復帰を祝福している。

 

 そしてもう、俺を見ている者はほとんどいない。

 

 俺はその騒ぎに紛れ、何事もなかったように席を立った。

 わざわざ名残惜しそうに振り返る必要などない。りせはすでに俺のものだし、双葉も俺の口づけを忘れられずにいる。クソガキにいたっては、何もできないまま二人を俺に奪われ、惨めに立ち尽くしているだけだった。

 

 それでも、俺が離れていくことに気づいたのは、その三人だけだ。

 

 双葉はクソガキに心配されながら、物欲しげな目で俺の背中を追っている。ステージ上のりせも、歌と振り付けを続けながら、何度となくこちらへ視線を送ってきた。

 

 暁だけは激しい憎悪を込めて俺を睨んでいたが、振り返って相手をしてやる価値もない。何か叫んでいるようだったが、その声は音楽と歓声にかき消され、俺の耳までは届かなかった。

 

(せいぜい悔しがってろ。自分から受けた賭けに負けて、恋人まで俺に夢中にさせたのは、お前自身なんだからな)

 

 俺はそのまま人波の向こうへ歩いていった。

 

 残された双葉とりせの中には、口づけだけでは満たされない渇きが燻っているだろう。もっと俺に触れてほしい。もう一度、俺の腕へ抱き寄せられたい。そんな欲求を抱えたまま、二人は今夜を過ごすことになる。

 

 対照的に、暁の中へ残るのは、どこにもぶつけられない無力な怒りだけ。

 

 つまり俺にとっては、実に有意義な一時間だったってことだ。

 

 

 

 

 本音を言えば、鴨志田はあのまま会場に居残り、すでに自分へ夢中になっているりせをもう一度抱きながら、双葉まで完全に堕としてしまいたかった。

 

 だが、あれほど大勢の目とカメラが集まる客席では、できることにも限度がある。だが、そんな鴨志田が会場の外へ続く通路へ差しかかったところで、ポケットの中のスマートフォンが短く震えた。

 

『終演後、双葉ちゃんを楽屋に連れていくね。ご褒美、期待しててもいい?』

 

 どうやら曲と曲の間の、照明が落ちてステージが暗転した僅かな時間に送ったらしい。歌と踊りを再開する寸前まで、りせの頭にあったのは鴨志田のことだけだったということだ。

 

 それを読んだ瞬間、先に席を立った判断が正しかったことを、鴨志田は確信した。

 

 りせとの再会を心待ちにしているわけではない。彼女はもう、とっくに鴨志田のものだ。

 

 今夜の本当の獲物は、まだ自分の意思で抗っているつもりの佐倉双葉なのだから。

 

 

 

 

 

もしFFのエロをやるならどのナンバリングが見たい?*FF7は意図的に外しています

  • FF1
  • FF2
  • FF3
  • FF4
  • FF5
  • FF6
  • FF8
  • FF9
  • FF10
  • FF11
  • FF12
  • FF13
  • FF14
  • FF15
  • FF外伝*零式やCC、タクティクスなど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。