多くの政治家、医者、学者等を輩出してきた名門白狼院<<はくろういん>>家。
だが歪んだ教育は有能だが歪んだ人間しか生み出さず、力を持たない人間にとっては地獄のようなものであった。

当主の命令で息子を絵梨糸<<えりいと>>中学へ入れることになった妻の美穂<<みほ>>は禁断の手段に出る。

果たして結末は…。




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今回のお話は私が某所で、というよりも今まで書いてきた作品の中でもかなり読み手を選ぶキツイ内容となっております。

※本作品はPixivにも投稿しております。


替え玉受験に憑依薬を使った母の顛末

「ですからお母さん、保君の成績では絵梨糸中学への受験はおやめになった方がよいと申し上げているのです。保君の前では言いにくいですが、とても現状の成績で合格できる見込みは全くと言ってよいほどありません。ランクを下げて別の中学を受験された方がよいかと」

 

「できません ! 名門白狼院家は代々絵梨糸中学へ入学し主席として卒業してきているのです。保の代で伝統を崩すわけにはいきません ! 」

 

ある日の夕方、兵平凡小学校の一室で50歳の男性担任教師と一組の親子が面談を受けている。

 

黒髪で長身で細い身体のキツイ性格の女性が教師相手に自らの一方的な言い分を口にしている。その女性は青混じりの黒いスーツに眼鏡、パンプス、腕時計、全てがブランド品で統一した物を身に着けていた。服の上からでもわかるほどの巨乳で出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいるナイスバディだ。

 

 

白狼院美穂……35歳。一流大学の教授であり約12年前に夫で政治家の誠一郎55歳と結婚した。元々エリート思考で弱肉強食の気質があったのか、一般人の事などどうでもいいと心の中で考えている白狼院家とはウマが合ったのだろう。本来であれば一日持たないと言われる白狼院家の生活にすぐさま順応できた。35歳という異例の若さで大学教授になれた事も彼女の優秀さを表している。

 

さて、そんなエリート夫婦の間に生まれた白狼院保は残念ながら平凡な能力しか持ち合わせていなかった。この街では小学校だけはほぼ例外なく地区ごとに分けられた小学校へ通う事が義務付けられている。中学校からは通いさえすればどこの学校へ行ってもよいのだが、この白狼院家では代々名門中学、絵梨糸中学へ通うのが通例であり伝統となっている。美穂も誠一郎も絵梨糸中卒である。

 

そんな保には絵梨糸中学への挑戦は無謀としか言えない。どれくらい無謀かと言うと『普通の幼稚園児が我が国の名門大学へ入学希望するくらい無謀』と考えていただければよいだろう。当然ながら保の担任教師はそんな暴挙を認めるわけにはいかず考え直してほしいと急遽三者面談の連絡をし現在に至る。

 

「先生、あなたには理解できないでしょうが我が白狼院家は代々政治家、医者、弁護士等、多くの人材を輩出しております。それ以外の人間など存在する価値なんて無いのです。本来であれば保をこんな低レベルの学校へ入学なんてさせたくないのですよ。そもそも、先生ならば保の学力を上げるよう努力してくださらないのですか ? 」

 

「保君は精一杯努力しています。クラスの成績も上から数えた方が早いのです。親御さんなら息子さんの努力を認めてあげてください」

 

「努力 ? そんなのして当然です。結果を出せなければ意味が無いのです。あなたも一緒でしょう ? 結果を出せないと校長先生や教頭先生に何を言われるかわかりませんものね」

 

美穂はエリート気質であるためか一々神経を逆なでする言い方で突き返してくる。確かに教師も学校に勤務している以上それなりの結果を出さなければならない。しかしそれはそれ、これはこれである。今問題にしているのは保の進路であり、教師や美穂のプライドなど問題ではない。

 

「とにかく、保がまだ絵梨糸中学の受験を希望している以上、教師であるあなたも部外者です。家庭の問題に口を出さないでいただきたいですわ。保、あなたもそれでいいわね ? 」

 

「……はい」

 

「それは……ッ ! 」

 

あなたが言わせているのでしょう ! ? その言葉を教師は必死に飲み込んだ。確かに教師である彼にとって保は一教え子にすぎない。これ以上何ができるかと聞かれれば返答は難しいし、個別授業など教師の激務を考えるとほぼ不可能に近い。それがわかっているからこそ教師は言葉を飲み込むしかなかったのだ。

 

「では私達はこれで。ほんと無駄な時間でしたわ、これだけの時間があれば参考書をどれだけ進められたのかしら ? 行くわよ保」

 

「……はい」

 

教師は教室から出ていく二人を黙って見送るしかなかった。保の死んだような目……部外者でもわかる、死んだような目、おぼつかない足取り、ろくに睡眠もとれていないのだろう。学校では図画工作の授業が好きだと話していた保、将来は大工さんになりたいと話していた。下校時間になると『家に帰りたくない』と泣きながら訴えてくる事もあった。虐待を考えたし児童相談所に連絡した事もあった。しかし結果は『虐待の事実は無い』という結果しか出なかった。身体には鞭で叩かれたような痕もあったし家で何かされているのは間違いないのだ。

 

だが虐待の真実は『父親が政治家で地元の有力者』という現実に押しつぶされた。父親の誠一郎によってもみ消されたのである。児童相談所への連絡により教師の学校内での立場は以前から危うくなっていた。他の学校関係者からは同情の目を向けられていたのだが誠一郎の権力には誰も勝てない。誠一郎の力があれば学校関係者の首を飛ばす事など容易く、誰もがわが身が大事、だれも表立って担任教師の味方などしてくれないだろう。

 

 

そして今回の三者面談の一件が致命的となった。

 

「教員免許の剝奪……ですか」

 

「そうだ……すまない。我々も撤回してもらうよう頼んだのだが、教育委員会からの返答は変わらなかった……本当にすまない ! 」

 

三者面談から約一か月後、校長からの呼び出しを受けた保の担任教師は『教員免許の剝奪』という重すぎる罰則を受けた。校長は何度も机に頭を叩きつけて謝罪し、教頭も唇を噛みしめ血を流している。今回の件について担任教師に落ち度が無いことは学校教員は誰もが理解している。虐待の事実を掴み相談もした、一人の生徒を救おうと力を尽くした事もわかっている。だからこそ校長や教頭は何度も頭を下げて処罰を撤回、または軽くしてもらおうと動いた。それでも誠一郎は動かなかった。

 

さらに美穂からは『考古学研究クラブなどと怪しげな部活動をしている男は教員に相応しくありません』と言い捨ててきた。

 

担任教師は以前から考古学に興味を持ち外国に行き、多くの書物や当時の原住民や王族が使っていたと思われる道具を購入、または譲り受けたりした。確かに中には怪しげな道具はあったが、使い方を間違えなければ無害な物がほとんどだった。そもそも考古学は昔の人々がどのような生活をしてきたか ? 今の暮らしに役立てられる先人の知恵がないか ? 温故知新の精神に則り知恵を貸していただく事が肝要だと教師は考えていた。生徒たちにも『古臭いと馬鹿にしてはいけない。先人の失敗や努力があったからこそ今日我々が生活できている』と教えてきた。

 

 

話を戻すが、担任教師は急遽学園を去ることになり、生徒たちとお別れの挨拶する時間すら許されなかった。

 

教頭先生から教師が辞めた事を突きつけられた生徒たちの反応は様々だった。

 

え~、と残念がる生徒。

先生どうして辞めちゃったの ? と泣きながら教頭に聞く生徒。

 

ただの一人も喜ぶ生徒はいなかった。この事実が、担任教師が生徒たちから慕われてきた事実を物語っている。

 

(……恨みますぞ、白狼院誠一郎、白狼院美穂。あなた方はこれだけの若き我が国の宝を泣かせたのだッ ! )

 

苦虫を嚙み潰した教頭は白狼院保の顔を見る。保は壊れたレコードのように『先生ごめんなさい、先生ごめんなさい……』と何度もつぶやいていた。

 

教頭は保の顔を見て自らの無力さを嘆くしかできなかった。

 

 

 

白狼院家では保の学力を向上させるべく、家庭教師を何人も抱えたり美穂が時間を作り保へ指導を行っていた。

 

だが担任教師が学園を追放されてから保は勉強を拒否した。家庭教師は困り果て、美穂や誠一郎からは手が出る鞭が飛ぶ叱責されるといった虐待に近い罰が与えられたが、それでも保は教科書を開こうとしなかった。それは小学生である保ができる唯一の両親に対する反抗だったのだろう。

 

誠一郎は『なんとかしろ』その一言だけを美穂に吐き捨て自ら保に対して行動しなくなった。否、声をかける事もしなくなった。

 

美穂は夫である誠一郎の命令に従うも肝心の保がやる気を出さない為、どうしたらよいかと頭を悩ませるのである。

 

 

受験まで残り一週間となった白狼院家では美穂が最終手段という名の禁じ手に手を出そうとしていた。

 

憑依薬……ネットの口コミで噂となっている薬、他人の身体に乗り移れるという噂の飲み薬である。

 

普段の美穂ならば何をバカな……と切り捨てる噂だが彼女にはもう時間が無かった。保が絵梨糸中学に合格できる見込みはゼロ、しかし誠一郎からの命令は絶対、自分が受験すれば確実に合格できるのだろうがそんな事できるわけがない。そこまで考えていた美穂が偶然見てしまった憑依薬の口コミ、何故そんな物が噂になっているのか ? 噂の出所は ? 本当に効果はあるのか ? 疑問はいくらでもあったが美穂も精神的に追い詰められており、根も葉もない噂に賭けるしかなかったのだ。つまり、美穂が保の身体に乗り移って代わりに受験する……替え玉受験である。

 

探し当てた憑依薬を販売している裏サイトに明記されていた金額は1本100万円だった。

 

(かなり高額だけど出せない金額ではないわね……)

 

そう考えた美穂だったが金額の他に書かれていた説明文を見て冷や汗を流す。

 

 

 

・憑依薬を飲むと一時的に精神体となりますがこの状態は非常に危険です。精神体になると生命エネルギーが急激に消耗される為お早めに魂の入っていない生きた肉体に入り込んでください。

 

・肉体の年齢差によっては精神体が衰弱している場合、憑依先で精神体が消滅する場合もございます。

 

・既に精神体が入っている身体には憑依できません。

 

・無機物にも入り込む事は可能ですが、一度中に入ると外に出る事は不可能です。

 

・精神体が入っていない肉体は24時間経過すると死体となりますのでご注意ください。

 

・肉体に入り込める精神体は早い者勝ちです。

 

・この憑依薬の使用時に不都合があったとしても当方では一切責任は持ちません。

 

 

 

 

(なにこれ ? つまり保にも憑依薬を飲ませないといけないって事 ? つまり受験後元の身体に戻る事を考えると4本買う必要があるの ! ? )

 

憑依薬4本購入にあたり必要経費は400万円、さすがに一瞬購入をためらう金額ではあったがあくまで一瞬のこと。美穂はすぐさま購入ボタンを押した。もはや手段は選んでいられない、絵梨糸中学合格のためにはどうしてもこの憑依薬が必要なのだから。

 

 

絵梨糸中学の受験当日、白狼院家の座敷で美穂と保が向かい合って座る。

 

「いいわね保、この薬を飲んだらすぐに私の身体に憑依しなさい。私はあなたの身体に入って代わりに受験してくるから。まったく……あなたがもっと優秀ならこんな無駄な出費もしなくてよかったのに。どうして私と誠一郎さんからあなたみたいな凡骨が生まれたのかしら」

 

「はい……申し訳ありませんお母さん……」

 

とても母親が実の息子にかける言葉ではないが、白狼院家ではこれが当然なのである。大黒柱である誠一郎の言う事は絶対であり、保だけではなく妻の美穂も従わなければならない。もし今回の受験が上手くいかなければ美穂は離婚、保と一緒に白狼院家を追い出されるだろう。誠一郎が欲しいのは『自分に忠実で優秀な駒』なのだ、たとえそれが血を分けた実の息子でも容赦はしない。そんな男だからこそ、似たような性格の美穂が結婚できたのだろう。

 

白狼院誠一郎は優秀だが冷徹で傲慢な男なのである。

 

美穂と保が憑依薬を1本ずつ飲み干すと身体の内側から半透明の精神体が浮かび上がり、美穂は保へ、保は美穂の身体へ入って行った。

 

二人はほぼ同時に目を覚ます、意識がなかったのはほんの5分程度にすぎなかった。

 

「ふん、これが男の身体……確かに力はあるようね、悪くはないわ」

 

保は憑依前とは態度が一変し、自信に満ち溢れているが不遜な印象を与える少年に変貌した。

 

「……」

 

一方で美穂は卑屈で根暗な女性に変わっていた。その若い身体とは相反するかのように顔からは生気がまるで感じられなかった。自らの姿が気に入らないのか保は鼻を鳴らす。

 

「それじゃあ母さんは受験に行ってくるから保は留守番してなさい。いい ? 絶対に余計な事するんじゃないわよ。受験が終わるまで私の身体を守り通しなさい」

 

言うだけ言って保は身なりを整え絵梨糸中学に向かって歩き出した。自分自身の姿を美穂は澱んだ目で見送った。

 

*

 

母の姿になって何をすればいいのか特に思い浮かばなかった美穂はとりあえず日課にもなっていた朝刊を手に持って保の部屋に戻った。世界情勢を知る為に新聞を読むことは大事な事ではあるが、保にとってはただ単純に新聞の読む事自体が彼にとって唯一の楽しみだったのだ。ゲームやおもちゃなど両親は買ってくれなかったのだから。

 

部屋に置いてある姿見を覗くと背の高い美穂の身体が映し出される。保は背が低くクラスメイトからも影でチビと悪口を言われてきた。そんな自分のコンプレックスを解消できるような母である美穂の身体。

 

その姿を見た美穂の顔は憎悪に塗りつぶされていた。

 

自信に満ち溢れた母、賢いが厳しい母、自分の思い通りにいかないとすぐ不機嫌になり暴力を振るう母、絶対こんな大人にはなりたくない見本のような母……。

 

そんな母に外見だけとはいえ同じ存在となった保はがっくりと項垂れた。最初は母の評判を落とそうかとも考えた、しかし優秀な母はすぐに評判など取り返すだろう、保はどれだけ考えてもこの状況をうまく自分へ有利な方向に持っていける知恵は持ち合わせていなかった。

 

人間は『自分がダメな存在』だと思い込んでしまうと本来持つ能力を発揮できないものだ。

 

保も同じであり、彼の長所を見つけ出し伸ばしていけるような教育を施せば大成する可能性は十分にあった。これは教育方針を間違えた白狼院夫婦の大失態であろう。

 

(僕はお母さんの身体に入れても何もできないんだ……)

 

美穂は項垂れたまま椅子に腰かけ机に新聞を広げ読み始める。ロボット制作会社の求人広告、社説、コラムに次々と目を通す美穂だったがある箇所で目が止まる。

 

美穂は見間違いだと思い何度もその箇所を読み直す。しかし何回読んでも変わらない。

 

 

死亡広告の欄に書かれていた名前……それはかつて自分を励ましてくれた先生、自分のせいで教員免許を剝奪された先生、両親のせいで人生を狂わされた先生。

 

元担任教師の名前が書いてあった。

 

「う……うう……うああ……あああ ! ? ご、ごめんなさい ! ごめんなさい先生 ! 僕の、僕のせいで先生が ! 僕が優秀じゃなかったから ! 先生が僕をかばってくれたから ! 僕が……僕が先生を殺しちゃったんだッ ! 」

 

美穂の慟哭と嘆きと謝罪は続く、しかし無限のようにも感じた時間は美穂自身の手で終わりを迎える。

 

美穂は立ち上がり数日間の新聞を読み漁る。担任教師の死亡について掲載されているかもしれないと思ったからである。最近は精神的に不安定であり1週間程新聞を読んでいなかったが、今の美穂は本人にも似ているような覇気を感じる。美穂は驚くべき速度で次々と新聞を読み上げる。読む速度と内容の暗記だけならば誠一郎や美穂本人よりも優れているだろう。

 

目的の掲載部分が見つかると、美穂は3本目の憑依薬を手に取り家を出て行った。その姿は項垂れてはおらず、背筋を伸ばしてしっかりと前を見据えていた……が、その目は黒く澱んでいた。

 

*

 

同じころ、保の身体に憑依中の美穂は早くも絵梨糸中学の教師から視線を集めていた。キリッとした姿勢、気品溢れる所作、とても小学生とは思えない様子であり、事前情報で受験生の中でもワースト1位の判定をつけていた絵梨糸中学の教師陣はすぐさま判定を撤回した。

 

受験本番でも保は他の受験生とは違い緊張する様子は全く見せず、最後まで落ち着いて受験に臨み問題を解いた。後に採点を行った教師一同は驚愕する。満点……絵梨糸中学の問題は他の学校よりも問題が難しく作られている。これまでの歴史の中で99点を取った受験生はいたが満点は今回が初である。最初はカンニングを疑ったが、保にはカンニングをするような素振りは無かった為に教師陣は認めざるをえなかった。

 

『白狼院保……彼はエリートになるべくして生まれた存在だ』

 

(ふふ、過去の自己採点では99点だったけど今回は満点。こんな形で屈辱を払拭できるとはね)

 

保は心の中で合格を確信し過去の学び舎を後にした。

 

 

保が自宅へ着いた時には既に夕方だった。カラスが鳴き、夕日は沈みかけ、どことなく寂しさを感じる風景である。

 

(今日は妙にカラスが多いわね。いやな感じ)

 

自宅の周りには普段よりもカラスが多くあまり良い印象は受けない。カラスは不吉の象徴と呼ばれる時代もあったが実際はただの偶然、気のせいである。

 

 

 

しかし今回ばかりは、電線に並ぶカラスの群れは白狼院家の終わりを表しているかのようだった。

 

 

 

 

「戻ったわよ保、憑依薬を持ってきなさい、元に戻るわよ」

 

玄関をくぐった保は中にいるはずの美穂へ声をかける。だが美穂からの返事は帰ってこない、それどころか居間の電気も点いていない。

 

「保、保 ! どこにいるの ! さっさと出てきなさい ! 」

 

大声を出すがそれでも応答は無い。保は台所だけ電気が点いている事に気が付き奥へ進むのだが、保はこの時点で嫌な予感が止まらなかった。

 

保が台所を覗くと、そこに美穂はいた。いたことはいたが美穂の様子は今朝とは全く異なっていた。眼鏡をかけ白いブラウスのボタンを全てとめ、黒いスカートと茶色のストッキングを履いていたのが憑依した直後の美穂だった。

 

しかし保の目に映るのは、眼鏡を放り投げブラウスのボタンを上から3つ外して豊満な乳を開放した姿。スカートを脱ぎ捨てストッキングを履いたままテーブルに足を乗せ、誠一郎秘蔵の日本酒を飲んでいる美穂の姿だったのだ。

 

「な、なにしてるの保 ! 私の身体で、しかも誠一郎さんのお酒を ! 」

 

美穂に掴みかかる保だったが椅子から降りた美穂に軽く振りほどかれる。

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ ! 」

 

「ガッ ! ……ああ……」

 

美穂は保の腹部に蹴りを放った。手加減などしていない大人の本気の蹴りである、保はその場で腹をかかえうずくまった。

 

「ここは俺の家なんだろう ? だったら酒を飲んでも文句はねえだろうが ! 」

 

美穂は空になった酒瓶を持ちながら保の顔を持ち上げる。

 

(さ、酒臭っ ! )

 

美穂はかなりの量の酒を飲んでいたようであり口からアルコール臭が漂ってくる。

 

「ぐ……あ、あなた、こんな事をしてただで済むと思ってないでしょうね…… ! ? 」

 

うずくまりながらも虚勢を張る保に対し、美穂は上機嫌で手を叩きながら大笑いする。

 

「こりゃあ傑作だ ! 自分の身体手放してガキの身体に入ってただで済むと思うなぁ…… ! ? バッカじゃねぇのかお前 ! 今のお前に何ができるんだよ ! ? 」

 

「た、保……」

 

今の美穂は中身が保とは思えない程に凶暴だ。美穂の顔は心底相手を馬鹿にしているような表情であり知性的な印象は欠片ほども見られない。

 

「だいたい保保ってなあ、まさか俺が本当に『保君』だとでもだとでも思ってんのかよ ? お母さん ? 」

 

「な、なに言ってるの保 ? 」

 

「保君はなぁ……死んだよ、俺の目の前でなぁ……お前は自分の息子を殺したんだよ。ハハハ ! 笑えよお母さん、お前は息子を合格させるために息子を殺したんだよ ! 」

 

美穂が大笑いする様子を見て保は震えながら思考を巡らせる。目の前で自身の身体を使っているのはどう考えても保とは思えない。となると赤の他人が使っている、だが誰が ? そんなのわかるわけがない。

 

「自称エリート様でもわからないか ? コホン『保君の成績では絵梨糸中学への受験はおやめになった方がよいと申し上げているのです』」

 

「あ……ま、まさか…… ! ? 」

 

保はようやく答えにたどり着いた。自分に志望校の変更を勧めてきた者など一人しかいないのだから。

 

「あなたは……保の……名前が思いだせない……」

 

「そうだよなあ、俺の名前なんてお前にとってはどうでもいい事だもんなぁ。だが今日からは俺が白狼院美穂だ。この男を挑発するけしからんボディが保君からの慰謝料さ」

 

「あ、あなたは何を言ってるの ! ? 私の身体を返しなさい ! 」

 

保の叫びに対し美穂はニヤニヤ笑いながら保の服の首筋を持ち抱えて2階に上がっていく。本来もうすぐ中学生に上がる男子は母親と背丈が変わらない事も珍しい話ではないのだが、保はコンプレックスを抱えるくらいの小柄な体格であり美穂でも運ぶことができたのだ。

 

「は、放して ! 」

 

「放したら階段から落ちるぞ、いいのかなぁ ? 」

 

美穂はわざと揺らしながら階段を上がっていく。下手をすれば保は受け身を取れず怪我をしてしまいかねない。なので保は大人しくしているしかないのであった。

 

 

2階へ上がった美穂が向かった先は美穂自身の部屋だった。美穂の部屋は整理整頓されており、法学書、帝王学、様々な参考書が本棚に収められている。美穂は保を下ろすとズボンを下着ごと一気にずり下ろし下半身を丸出しにさせる。

 

「何をするの ! ? 痛ッ ! ? 」

 

保の下半身に走る痛み……否、立っていられない程の激痛が保を襲う。美穂がいつのまにか持っていた鞭でチンコと玉を叩いたのだ。男性ならばわかるだろうが、男性の急所を攻撃された時の痛みは言葉では言い表せない程である。

 

(なに、なんなのこの痛みは ! ? )

 

男性に生理の辛さがわからないように女性も玉を痛めた時の痛みはわからないが、保は今この瞬間両方の辛さを知ることになったのだ。

 

「俺の言う事を聞かないとまた鞭で叩く、さぁ次は上着を全部脱いで裸になりな ! 」

 

「は……はい」

 

保にとって屈辱以外の何物でもなかった。エリートで他人を使う立場であるはずの自分が他人に従っている。しかも相手は自分の姿で椅子に座り足を組んで嗤っている。だが従わなければまた鞭が飛ぶ。あの痛みを2度も受けるのはごめんだと思い、やむを得ず保は服を全て脱いだ。

 

全裸になった保の肌には青あざが何個も浮かんでいた。美穂が今持っている鞭で叩いていたからなのだが、今度は保の身体に憑依している美穂が鞭の恐怖を味わっているのだ。

 

「よぉし……次はベッドへ仰向けになりな。早くしないと……」

 

「は、はい ! わかりました ! 」

 

美穂が鞭を手で叩いているのを見て保は慌てて指示通りに動く。まだ皮が剝けていない保のチンコは幼いながらも健気に自己主張をしていた。

 

「ほほう、生意気なチンコだねぇ……ならこれからは保健体育の個別授業よ、ママが剥いてあげるわ」

 

「えっ ! ? 」

 

美穂は保の上に跨ると包茎だったチンコの先端を下へ剥き始めた。

 

「や、やめ……「保 ? ママの言う事に逆らうの ? 」うう……」

 

美穂からの氷のように冷たい視線に思わず黙ってしまった保は自分を襲う痛痒さに耐える他なかった。

 

「はい注目、保の可愛らしいチンポがとても辛そうにしています。こういう場合は自分でヌくか女にヌいてもらうかのどちらかですが、今回は特別にママがヌいてあげましょう」

 

美穂は両足で保のチンコを挟み込みグニグニと弄び始めた。

 

「な、なにこれ気持ちイ……ち、違う ! や、やめなさい ! ……」

 

保は相手の名を呼ぼうとしたが担任教師の名前などわからない。やめて、としか言いようがないのだ。

 

「ほぅら保、しっかり見なさい感じなさい ? あなたのザコザコチンポを扱いてくれる女なんて今後現れないわよ。ママに感謝なさい。本当なら授業料を取ってもいいくらいなんだから。ここの筋を攻めると男は弱いの、親指の裏でグニグニいじくられて……ふふ、自分の足で感じる快感はどう ? 尿道口を無理矢理開かれる感想は ? チンコの生え際を足で擦られるのも楽しいでしょう ? 」

 

「や、やめて、やめて ! 私はそんな事言わないわ ! ざ……ザコザコチ……なんて」

 

保は顔を真っ赤にしながら言いよどむ。対して美穂は超ノリノリで保の息子を弄り倒している。ストッキング越しに感じる両足の温度、力加減、だが全ては本来白狼院美穂、つまり自分の物なのだ。自分の身体に自らが襲われている事実が余計に保の頭を混乱させ快感を与える。

 

「あ、ああ、何かが来る……チ、チン……いや、言いたくない、でもでも ! 足で、私の足でなんて ! ? 」

 

「あらあら足でイクのはいや ? ならこっちでシテあげるわ。ママのお・っ・ぱ・い・で」

 

今度は保のチンコが美穂の胸に挟まれる。スポンジのような肌触り、保のチンコから溢れる先走り汁がオイルのように美穂の上下移動を滑らかにする手助けとなっていた。

 

「ふふ、あなたのチンコは気合十分ね。あと何分持つのかしら ? 」

 

「いや、こんなのいや、でもだしたい。なにか知らないけどだしたい ! チンコから、保のチンコからだしたいの ! 」

 

保は目を見開き懇願する。美穂の胸の谷間からにょっきり顔を出す保のチンコ。赤黒く膨張しているチンコは射精の時をまだかまだか ! と待ちわびている。

 

「いいわよぉ保、しっかり受け止めてあげるわ。あなたのザコザコチンコから出るザーメンをね ! 」

 

「ザコザコ、ザコザコチンコから……ああ ! ? 」

 

保は生まれて初めて身体の外へ自らの種を放出した。その衝撃で保の肉体に残った記憶の一部が美穂本人の精神になだれ込んでくる。

 

*

 

憑依薬を持って美穂の身体に入った保が向かったのはある道路の交差点である。道端には花が供えられ、線香に火もついていた。保の担任教師は先日交差点でスピード超過の車に撥ねられ命を落とした、即死だった。お供え物も、線香も、お酒も何も持ってこなかった美穂はただ手を合わせ謝罪するのみ。

 

その時の美穂はほとんど死にかけの精神状態であったからなのか教師の強い恨みなのか不明だが、美穂は教師の怨念と顔を合わせた。

 

教師の言動はとても子どもに聞かせられないものだった。一度死んで怨霊になったからなのか、普段学校で発していた優しい先生とは完全に別人である。声にならない声を聞いた美穂は自分が白狼院保である事、教師が交通事故に遭ったと今更知り、自分が不出来だった為に先生の人生を台無しにしてしまった事をただ謝りたかったと伝えた。

 

本心からの謝罪を聞き教師の怨念も幾分か和らいだのだが、その瞬間美穂が道端で倒れこみ持っていた憑依薬のビンが地面に落ちる。

 

 

・肉体の年齢差によっては精神体が衰弱している場合、憑依先で精神体が消滅する場合もございます。

 

 

白狼院保の心は限界であり、そこに憑依薬を使った事で保の精神が消滅を迎えようとしていたのだ。近くに寄り添う教師の怨念に対し最後の力を振り絞った保が伝えた言葉はこうだった。

 

「せんせい……ぼくみんなのいえをいっぱいたてたいな。せんせい……ぼくせんせいのこどもにうまれたかった……おかあさんのからだあげるから……せ、せい、ぼ、おか、さ、にな……」

 

『先生、僕のお母さんになってほしいな』最後の言葉を伝える前に白狼院保の精神は消滅した。

 

学校で親身になって力を貸してくれた先生、もし担任教師が美穂の身体に入り保が元通りの状態に戻っていたらと保本人は考えていた。たとえ相手が男でも自分の母親になってほしいと思うのは変態なのだろうか…… ?

 

 

ほんの1、2分経過すると、白狼院美穂は目を覚ました。自らの身体の感触を確かめゆっくりと立ち上がった。足元には憑依薬の瓶が転がっており、美穂の目にはどす黒い怒りの炎が燃え上がっていた。

 

*

 

保の心を知った美穂の精神体だったが、人間の性根など簡単に変わるものではない。心を入れ替えるという言葉が嘘くさく感じるように、白狼院美穂の精神もまた変わらなかった。

 

保本人の事も力不足の能無し程度にしか考えなかったのである。それにまだ美穂からの個別授業は続いているのだ。

 

「た~っぷり出したわね保、お母さんの顔はどうなってる ? あなたのくっさ~いザーメンをぶっかけられたのよ、元あなたの身体は息子に汚されたの。これはおしおきが必要ねぇ……」

 

ニヤつきながら美穂は自らのストッキングを下ろし、まだ膨張している保のイチモツに向かって自らのマンコをねじ込む。

 

「や、やめなさい ! さすがにそれは冗談になってないわよ ! ? 」

 

保は美穂の身体を引きはがそうとするが、子どもの身体では大人である美穂の身体はびくともしない。それどころか美穂に両手を掴まれ逆に動けなくされてしまった。

 

「保、あなたは知るのよ。女の身体に射精する興奮、快感、欲情、たっぷり味わいなさい。人生最後の射精をね ! 」

 

「またでる、でちゃう ! またでちゃうぅッ ! ! 」

 

保は自らの身体に人生2度目の射精を行った。女の身体とはまた違う興奮と快感を味わった保はしばらく動けなかった……だが。

 

「保、童貞卒業おめでと~、あなたの初めては大好きなあなたの身体……ママに捧げたのよ~ ! 」

 

美穂の言葉、そしてカチャリという音と自らのチンコに何かが装着されたような違和感が保を夢から現実へ引き戻す。

 

「な、なにこれ ! ? 」

 

保のチンコには金でできた悪趣味な薄い肉棒型のケースがはめ込まれていた。しかも鍵がかかっていてどうやっても取り外せない。

 

「保、ママの顔にザーメンぶっかけた罰よ、あなたは私が許すまでその貞操帯をはめて過ごしなさい。その貞操帯は私が以前海外で譲られたお土産の一つでね、考古学をしていたらどんな事があるかわからないし、どんな物品が手に入るかわからないけど、まさかこんな形で役に立つとはねぇ……あなたによくお似合いよ」

 

「は、外してっ ! ? 」

 

「その貞操帯は私の鍵が無ければ取り外せない。それに……」

 

保は自らのチンコが段々と押しつぶされていく事に気がついた。貞操帯はびくともせず、それどころか内部が圧縮されていきこのままでは本当に肉棒が潰されてしまう。

 

「痛ッ ! お願い止めて、止めてください ! 」

 

保の泣きながらの訴えによってようやく貞操帯は元に戻る。しかしながらこれで保は美穂に逆らえなくなった事は間違いない。

 

「ちなみにこの貞操帯は高性能で、私が念じるだけで圧縮自在だし射程距離は無いみたいなの。そして盗聴機能もあって、あなたがどこでなにをしているかが私には手に取るようにわかる……合鍵も現代の技術では作成不可能、よほど浮気を許さない女が作らせたのでしょうねぇ。さあよい子はもう寝る時間、これからは大人の時間よ。さあ、部屋に戻りなさい」

 

保は悔し涙を流すが現時点ではどうしようもない。唯一の望みは誠一郎が異変に気が付くことだが……。

 

 

 

結局受験当日に誠一郎が帰宅する事はなかった。彼が帰宅したのは受験から約半月ほど先の事である。それまでの間に美穂と保は自宅でマンツーマンの個別授業が行われていた。美穂は大学からの連絡を徹底的に無視し、保への個別授業に臨んだ。

 

「痛い痛い ! どうして ! ? この参考書に書いた答えは完璧の筈よ ! ? 」

 

保が見せたのは一冊の参考書、それらすべてに答えがびっしりと記入されており満点と言える内容だったのだが。

 

「保、ママは50点を取れと言ったはずよ ? それがなに ? この答え……ママの言いつけを守れないのなら」

 

美穂は保の貞操帯を圧縮させ無理矢理言う事を聞かせる。保は到底耐えられない激痛から逃れる為にわざと間違った答えを混ぜて提出し直す。

 

「狙ったように50点……それでいいのよ保。ママ嬉しいわ、保が言う事を聞いてくれて」

 

飴と鞭、2つを使い分けた美穂の指導と『50点を取れ』という謎の指導、これが毎日徹底的に行われた。

 

人間は『自分がダメな存在』だと思い込んでしまうと本来持つ能力を発揮できない、これは以前話した通りだが何もこの話しは保だけではなく美穂に通じる。

 

例え話をしよう、ノミはとても跳躍力が高い生物である。瓶の中にノミを1匹閉じ込め透明な蓋をする。するとノミは蓋の事を知らないから瓶から出ようとジャンプするがぶつかり出られない。なので蓋への激突を防ごうとジャンプが控えめになるのだ。すると蓋を外してもノミは蓋があった場所までしかジャンプできなくなり瓶から出られなくなってしまう。

 

50点だけを取る……最初は美穂からの貞操帯と侮蔑という名の鞭で無理矢理やらされていたがここに飴が加わると自然に『50点を取る』ようになる。それは後に『50点しか取れない』という風に変わっていく。

 

そうして白狼院保の中にいる白狼院美穂は段々とエリートからかけ離れた力しか発揮できなくなっていった。中学受験では満点を出した天才の保は今や50点しか取れない凡才へと変貌した。

 

 

そして半月後、美穂は誠一郎と久しぶりの食卓を囲んでいた。

 

「ほう……保が満点を……美穂、お前の指導のおかげか。よくやった」

 

「当然の結果ですわ、私が指導したのですから」

 

珍しく上機嫌の誠一郎は美穂と乾杯し酒を口に含み一気に飲み干した。

 

「ところで保はどうした ? 」

 

「保ならまだ部屋で勉強していますわ、まだしばらく部屋から出て来ないかと」

 

「ふむ……まさかあの保が合格できるとはな。正直落第すると思っていたが、これならば保の処遇を考え直してもよいか」

 

誠一郎は自宅だからか普段よりも酒量が多く、ついに用意した酒瓶が空になった。

 

「あら、もう空ですね。お代わりはいかがですか ? 」

 

「うむ、もらおうか」

 

誠一郎は美穂から注がれた飲み物を飲み干した。

 

「む ? これは洋酒か ? 」

 

「ええ、そんなところです」

 

「美穂……儂は日本酒しか飲まんと言ったはずだ……ぞ」

 

一度聞いた事は忘れない美穂にしては珍しいと思った誠一郎。彼は酒に強かったが途端に眩暈が襲い、視線の先には足を組みニヤニヤ笑う美穂の姿が見えた。

 

「み、美穂……貴様、何を入れた……」

 

さすがに政治家、何か変なものを飲まされたと気が付く誠一郎ではあるがもはや身体が動かない。その様子を全く気にしない美穂は誠一郎の前に古びた人形を食卓の上に置いた。

 

「白狼院誠一郎、この人形が見えるか ? これがお前の新しい身体だ。よかったなぁ女の身体で」

 

美穂の言葉を最後まで聞くことができず誠一郎は眠りについた。

 

*

 

数日後。

 

『む……ここは ? 』

 

誠一郎が目を覚ますと、視線が中途半端な位置にあった。普段よりも視線が低く身体が全く動かない。それどころか誰かに持ち運ばれているようだった。

 

『だ、誰だ ! おい、誰かいないのか ! ? 』

 

声を出した筈だが声が出ない。場所は自宅の裏庭のようだった、自宅の窓ガラスに映ったのは周りの景色と日本人形を持ち運ぶ美穂だった。

 

『バカな、儂の位置に日本人形が……まさか、儂が日本人形の中に入っているだと ! ? 』

 

「あらぁ、お目覚めですかお人形さん。さすが現状把握が早いですわねぇ」

 

『き、貴様美穂……いや違う、貴様美穂ではないな ! 誰だ貴様は ! ? 』

 

「まあまあ、冷静になられてください。怒ると血管が切れますよ ? ああ ! もうあなたに血管なんてありませんでしたわね ! ごめんなさぁい、おほほ」

 

『ふざけるな ! 貴様、美穂の姿で何をしようというのだ ! ? 』

 

「まぁ……後始末かな ? 白狼院誠一郎は死んだ。既に死亡診断書は作成され、正式に死亡は受理された。後は貴方の処分だけだ」

 

誠一郎はもうない血管を心の中で浮かび上がらせながら激怒した。

 

最後に飲んだのは酒ではなく憑依薬、甘い洋酒のような口触りである。

 

 

・無機物にも入り込む事は可能ですが、一度中に入ると外に出る事は不可能です。

 

・精神体が入っていない肉体は24時間経過すると死体となりますのでご注意ください。

 

 

誠一郎の精神体は美穂によって日本人形に入れられたためもう逃げる事はできない。肉体は服薬から24時間経過し死を迎えた。世間では政治家の急死と大々的に報じられたのだが、世間一般では『あ、あのオッサン死んだのね』程度にしか受け取られなかった。

 

誠一郎の罵詈雑言と美穂の独り言は続いていたが意外にもすぐに終わりを迎える、目的地に着いたからだ。着いたのは白狼院家の裏庭にある焼却炉前である。昔はゴミを燃やす為に使用されていたが次第に使われなくなっていった。しかしまだまだ現役で使用可能ではある。現に美穂が焼却炉を起動させると段々火が強くなり、轟々と音を立てながら猛火が上がる。

 

『ま、まさか……バカなやめろ ! 儂にはまだやらなければならない事があるのだ。儂が死ねば我が国がどれだけの損害を被るか……』

 

「そんな事知らんよ、貴方が死んだところで傾く国ならとっくの昔に他国からの侵略を受けて植民地化しているよ」

 

焼却炉は十分に温まり、火の勢いは強さを増している。

 

『やめろ ! やめろ ! やめてくれえ ! 』

 

「……ざまあみろ、我が国の癌め」

 

美穂は日本人形を焼却炉に放り込み蓋を閉めた。

 

『助けてくれ ! 助けてくれぇ ! 美穂 ! 保 ! 誰でもいいから儂を助けろぉ ! 身体が ! 身体が焼ける ! ぎゃあああッ ! ! 』

 

しばらく続いたしわがれた男の絶叫は次第に聞こえなくなり、ついに日本人形は消し炭と化した。

 

「くく、随分あっけない最後だったなあ。さて、最後の仕上げだ」

 

美穂はニヤニヤ嗤いながら自室へ戻って行く。

 

政治家、白狼院誠一郎は生きたまま炎に焼かれてこの世を去った。

 

*

 

誠一郎の葬儀後、保はしばらく美穂に対して怯えながら過ごしていた。次は自分が殺されるのだと……。

 

「ああ、誠一郎さんが死んで寂しいわ。保、慰めてちょうだい」

 

美穂はこう言ってはいるが言葉と行動が一致していない。保の部屋で美穂は膝の上に保を乗せ、さらに自身の巨乳を保の頭に乗せて乳置きにしていたのだ。

 

嫌がる保だったが美穂によって貞操帯を圧縮したり戻したりと毎日弄ばれている。もはや今の保はただの子ども、能力も低くただの凡骨に成り下がっていた。さらにチンコの貞操帯は更なる苦しみを与える。圧縮だけではなく自慰が一切許されない。興奮して膨張したくても貞操帯が膨張を物理的に封じ込める。保は恐怖、性の抑圧と多くのストレスを与えられていた。

 

美穂も以前とは別人になっていた。大学はクビになり、部屋は散らかり放題、家では下着1枚だけでうろつき風呂上がりのビールを美味そうに飲み干す、彼女の行動は完全にオヤジと化していた。

 

そしてもう一つ保が絶望した事実がある。憑依薬を買った裏サイトが閉鎖されていたのだ。様々なサイトを調べたがどこにも憑依薬を取り扱っているサイトを見つけられなかった。

 

(私……ずっとこのままなの…… ? )

 

保はこの現実に愕然とし部屋に閉じこもる日が続いた。それはかつて本物の保が生前していた生活と同じである。

 

だが保の絵梨糸中学への入学を目前に控えたある日、美穂は保にこう言った。

 

『この身体返してあげるわ』

 

(やった、やっとこの身体から出られる。元の身体に戻れば私はまたエリートに戻れる。今の私なんて私じゃない。そうよ、私は一流大学の若き教授、天才、才女、そう、私は白狼院美穂なのよ ! )

 

保は勘違いしていた。今の能力はこれが限界だと、白狼院保の身体だから出来が悪いんだと思い込んでいるだけなのだ。例えばスポーツ選手が一般人の身体に憑依したとしよう、すると以前までの動きなどできるわけがない。肉体が精神についていけないからだ。しかし頭の出来までは変わらない。したがって今の状態でも保はやろうと思えば以前までの秀才ぶりを発揮できるのだ。しかし保は以上の思い込みから抜け出せない。

 

保は美穂の部屋に入ると椅子に座り足を組む美穂の姿を見つけた。

 

「さあ、早く私の身体を……」

 

保は逸るように身体を返せと訴えかかるが美穂は1本の瓶を見せる。

 

「保、これなんだかわかる ? 最後の憑依薬よ。私は自然にこの身体に入ったから1本余ってたのよねぇ」

 

(あいつが自力で身体の外に出た時にあれを使えば…… ! ? )

 

保は元に戻れるという希望を得たが同時に嫌な予感も感じた。

 

(何故今ここで見せた ? 何故今身体を返す ? )

 

様々な思考が頭を巡ったがその答えはすぐにわかった。美穂がグイッと憑依薬を飲み干したのだ。

 

「ま、待って ! ? 」

 

保は手を伸ばすが時既に遅し、瓶の中には憑依薬は1適も残っておらず美穂は。

 

「ざまあみろ……」

 

そう言い残し美穂は床に倒れて意識を失った。

 

「あ、ああ……私の、私の身体が ! ? 」

 

保の目の前には空になった自身の身体。不摂生が続いた為贅肉が少しつきプニプニしているが懐かしき自分の身体が目前にある。憑依薬があれば元に戻れるのだ。しかし憑依薬はもう無い、現存していた物はたった今使われた。

 

「私の身体、ここにあるのに、あの薬があれば戻れるのに ! どこかに無いの ! ? 」

 

保は家の中を必死になって探すが見つからない。

 

(どこ ? どこかに無いの ! ? あの薬が ! ? )

 

保は再度インターネットで憑依薬を探した。次に知り合いを、とにかく探して回ったが誰も憑依薬の事等知らないし、保は変人扱いされる、大学の関係者からは心底馬鹿にされた様子で見られた。

 

元々美穂は確かに能力は高かったが人間関係は最悪と言ってよい部類だった。他人を見下し自身の力を誇示する。白狼院家の当主がいない今、そんな人物がいい顔をされるわけがない。

 

美穂が憑依薬を飲んでから24時間後。

 

保は24時間以内に憑依薬を見つける事ができず、白狼院美穂の肉体は死を迎えた。

 

*

 

目の前で自分の身体が死ぬ瞬間を見てしまった保は生ける屍のように町を彷徨っていた。

 

(もう元の身体には戻れない。エリートには戻れない)

 

ぶつぶつ呟きながら歩き回った保は歩道橋の上に立っていた。

 

「あは、あはは、あはははっはははっははh ! これは夢よ ! 夢から覚めれば私は元のエリート、白狼院美穂なのよ ! そうよ、これは夢なんだから、ここから飛び降りたって ! 」

 

保は何の躊躇いもなく歩道橋から身を投げた。保の目には急速に迫る道路が映る。

 

「私は ! はくろうい…… ! 」

 

グシャッと肉が潰れる音が聞こえ、直後に通行人の悲鳴が周囲に拡散していった。

 

 

 

ねえ聞いた ? 白狼院の家の息子さんが自殺したって。

奥さんも自室で亡くなってたらしいわよ ?

ひょっとして祟りかしら ?

やっぱりあの家の人たち他人を泣かせすぎたのね。

 

 

『白狼院家もこれでおしまいよねえ』

 

 

 

 

「あらら、また一人亡くなってしまいましたか。やっぱりこんな粗悪品じゃダメですよ……ねえ君たち ? 」

 

遠く離れた地では多くの男たちが文字通り何かに押しつぶされ、部屋の中が真っ赤に染まっていた。

 

「よくもまあこんな物を流行らせてくれましたね……おかげで私たちは大変でしたよ。粗悪品の回収なんて大変だったんですから」

 

一人の女性がうんざりした様子でそう話す。しかしその声掛けに返事をする者はいない。

 

「でもまあエリートですか……本当のエリートは憑依薬なんて小細工には頼らないですよねぇ」

 

女性は誰に言ったのか、または独り言か、ボソッと呟くのだった。




いかがでしたでしょうか ? 最後に出てきた女性は私が某所で連載していた中編物の単発続編で出す予定だったキャラです。

私が言いたかった事を言わせる為に出しました。

…ちなみに私はハッピーエンド大好きですよ。信じてください、何でもはしませんから !

ご感想お待ちしております<(_ _)>

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