その後、綾芽の荷物を回収するために公園管理事務所コインロッカーに向かい、少ない荷物を一通り車に乗せて我が家へ向けて出発した。
「あの...本当に良いんですか...?」
遠慮がちに尋ねる綾芽。
まだまだ気が引けているらしい。
「構わないさ。というより...寧ろこんな男の1人暮らしの家でも大丈夫?」
よくよく考えるとかなり危ない提案だよな...
「え?それってどういう...あっ」
はっとなる綾芽。そして、みるみるうちに顔が赤くなってきた。
「そ、それって...その...家賃は身体で払え...って意味、ですよね...?」
きゅっと自分の身体を抱きしめながら、恐る恐るといった具合に尋ねてきた。
「そ、そんなこと言わないってば...」
寧ろ、綾芽がそんなことを言うモノだから...逆に変な想像をしてしまった。
「あ、いえ...その...イヤというワケではないんです。ただ...その...お兄さんを満足させることが出来るか...不安で...」
「え?」
マジで?嫌じゃないの?
...思わず興奮してしまった。
「そ、その...わたし、経験が無いので...えっちな事とか...よく分からなくて...」
段々と尻すぼみになっていく声。
...寧ろ、そちらの方が自然だ。いや、イマドキの子は早いウチからセックスをしていると聞いたことが有る。ということは綾芽の方が異端なのだろうか?
綾芽が色々な男に調教されているというのも...それはそれで興奮するかもしれないが、とにかく彼女が純情で良かった。
「大丈夫。大丈夫だから。これから覚えていけばいいんだから」
...俺は何を口走っているのだろうか。
「そ、それって...っ...!」
いよいよ顔が真っ赤になってしまった綾芽。
「あっ...えっと...それは...」
さて...なんと弁明したものか。
「...その...お願い、します」
意外な答えだった。...案外嫌じゃないらしい。
「えっと...こちらこそ...?」
混乱したまま、会話が一通り終わるのであった。
......................
「ここが俺の家だよ」
「ここが...」
マンションに到着し、いつもの駐車スペースに車を停めた。
ラゲッジから荷物を取りだし、2人で並んで俺の部屋に向かう。
「さあどうぞ。遠慮しなくて良いからね」
「ありがとうござ...います」
部屋の中を見て一瞬だけ固まる綾芽。
彼女の視線を追うと、その理由が理解できた。
「...ちょっと散らかってるけど」
「お、男の人の1人暮らしなので...ちょっとくらい散らかっていても良いと思いますよっ」
不思議なフォローだった。
「ごめん...最近掃除をサボり気味だったんだ」
「あ、いえ...その、気にしないで下さい。掃除ならわたしがやりますから」
うんと年下の女の子に慰められてしまった。...でも良いな、これ。元気になるわ。
「と、とにかく...ご飯にしようか。お腹空いたでしょ?」
「えっと...その...」
その時、可愛らしい音が細いお腹周りから聞こえて来た。
「っ!」
かあっと耳まで赤くなる白い肌。
「ははっ。遠慮何てしなくて良いからね。何が食べたい?何でも作ってあげるよ」
1人暮らしを始める前からそれなりに料理は作れる。...まあ、不器用なので見栄えはいまいちだけど。
「いえ、その...本当に何でも大丈夫です」
「本当に?」
まだまだ顔が赤い綾芽を見つめながら尋ねた。
「そ、それなら...お好み焼きが食べたいです」
遠慮がちに綾芽は自分の希望を伝えてくれた。
「よし、お好み焼きだね。材料は...キャベツと豚肉は有るから大丈夫だよ」
本当はイカや揚げ玉でもあれば良いけれど、この際仕方ない。かつお節はストックが有るはずだ。
そのような事を考えながらキッチンへと向かった。
「わ、わたしも手伝いますっ」
後からパタパタと駆け寄って来る音が聞こえた。
「本当に?それじゃあ...キャベツを切ってくれる?今から用意するから」
「はいっ」
その後、汚れそうな作業は俺が全て担当したのだが、綾芽は非常に手際よく手伝いをこなしてくれた。
聞けば、どうやら料理は母親から教えてもらっていたらしく、一通りこなすことが出来るらしい。
故に、あっという間に美味しそうなお好み焼きが完成したのであった。
「わぁ...!」
程よく焼けた生地の表面。
まだまだ何も乗せていないプレーンな状態だ。
「これに...」
冷蔵庫からソースを取り出した。
...広島の会社から取り寄せている品だ。
スプーンで伸ばして...マヨネーズとかつお節を振りかけて完成だ。
「よし、綾芽ちゃん、これを食卓まで運んでくれ」
「はい♪」
ご機嫌な様子で大皿を運んでいる。
かなり大き目に作ったのでタネも使い切ってしまった。
「さて...」
俺は取り皿とお箸を片手に持ち、もう片方でミネラルウォーターを取り出した。
「次は何を運べば良いですか?」
「じゃあ...これを頼めるかな?」
お箸と取り皿を手渡した。
「はいっ」
良い返事だ。...うん。この子は楽しそうに笑っている方が可愛い。
「ありがとう」
「いえいえ♪」
俺はコップを二つ準備して食卓に向かった。
「足りなかったら言ってね。カップ麺とかなら直ぐに出せるから」
「あ、いえ!そんな...」
彼女は成長期だ。男の子程ではないかもしれないが、それなりに多く食べるだろう。
「それじゃあ...いただきます」
「いただきますっ」
その後、久々に家で誰かと食事を摂るという時間を楽しんだのであった...
......................
食事を終え、一通り食器や鍋の類を片付け終えた頃。
そろそろお風呂と就寝の準備を始めなければいけない時間帯だ。
「風呂はどうする?お湯張ろうか?」
「あ、大丈夫ですよ。その...シャワーだけお借りできれば」
「それなら大丈夫だね。先に入っておいで」
その間に俺は部屋の掃除でもしておこう。
「そんな...お兄さんが先に入ってください。わたしは後からでも大丈夫ですから」
そう言ってもな。あの山奥の公園で震えていた女の子を差し置いて温まるというのは気が引ける。
「そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ。それに、俺はちょっとやることが有るから」
「そんな...でも...」
まだ遠慮がちな様子だ。
「良いから。ほら、行っておいで」
「...わかりました。その―――」
「急がなくていいからね?」
先に退路を断ってみた。
「っ...わ、わかりました。その...お風呂、お借りします」
そう言って浴室に向かう綾芽を見送り、俺は改めて部屋を見渡した。
...散らかってるな。
汚部屋というほどでは無いが、生活感が溢れるほどの散らかり具合だ。
「さて...」
ひとまず洗濯物や書類の類を整理し始めた。
洗濯物を畳み、一つにまとめる。
書類は重要なモノ以外は資源ごみに回し、機密情報が混じっているモノは会社で処分するために重要書類と一緒にカバンに放り込んだ。
「時間は...まだ洗濯機を回しても大丈夫そうだな」
ご近所迷惑になるような時間ではない。それに、今から回せば寝る前には終わるだろう。
「綾芽ちゃん、入るよ?」
『は、はいっ』
くぐもった声が聞こえる。既に浴室の中だろう。
「洗濯機を回すからちょっとごめんね」
『あ...わかりました。ありがとうございますっ』
少し緊張気味の声だ。
...それもそうか。会ったばかりの男の家でシャワーを浴びるだけではなく、薄い扉一つ隔てた先で無防備な姿を晒しているのだから。
更に言えば、浴室はこの家の中ではデッドエンドあり、外に声が届かない密室に彼女の逃げ場は無い。
つまり、俺がこの場で理性を失って浴室に押し入れば...哀れな雌である綾芽はその極上の身体を蹂躙されるしかないのだ。
「...」
何を考えているんだ、俺は。
「これで...良し、と」
洗濯機に注水される音が鳴り始めた。時間は...十分終わりそうだな。
「終わったよ、ごめんね。後はごゆっくりどうぞ」
『い、いえ!わたしの方こそ、その...ありがとうございます。洗濯までしていただいて』
「いえいえ」
そう言って脱衣所を後にした。
「さて...」
一応、衛生的にマズいゴミは無いのだが、台所やパソコンの周りにはモノが散らばっていた。
その辺りを含めて片付けていると、あっという間に数十分が経過していた。
「ん?」
脱衣所の方から浴室の扉が開く音が聞こえた。...そろそろ上がる頃だろう。
「...」
綾芽は...服を着ていてもスタイル抜群であることが分かる。そんな彼女が薄着になれば...未知数の破壊力だろう。
と、そこまで考えた所で気が付いた。
...そう言えば綾芽の着替えはどうするのだろうか、と。
「...」
彼女の手荷物には着替えが有ったのだが...パジャマの類は無かった。
...それもそうだろう。外で寝泊りしているのにそんな無防備な服では危険だ。
「あ、あの...お兄さん...?」
脱衣所の方から声が聞こえて来た。
「うん?」
「あ、あの...服、なんですけど...」
やはりそうか。というか、俺が彼女の服を全て洗濯してしまったせいで着替えが無いのだろう。
「あー...ちょっと待ってね」
「は、はい...」
寝室に向かい、クローゼットの中を漁る。
「うーん...これしかないか」
古着をまとめているエリアから"とある服"を取り出して脱衣所に向かった。
「お待たせ。その...服なんだけどさ」
「は、はい」
顔だけ覗かせている綾芽に向かい、先ほどの服を手渡した。
「これでも良い...?」
「え?...あっ...」
彼女に手渡した服は...古いYシャツだった。
つい先日まで現役だったのだが、車の乗り降りが多い仕事なので腰の辺りが擦り切れて穴が開いてしまったのだ。
彼女の着替えの中に体操服が有れば良かったのだが、恐らく学校に置いているのだろう。
「ごめんね。直ぐにスウェットか何かを買って来るから」
「あ、い、いえ、そんな!その...このシャツでも大丈夫ですから」
そう言ってYシャツを受け取る綾芽。
「本当に...嬉しいですから」
そして、ほんのりと頬を染めながら微笑んだ。
「本当に?」
「はい♪その...こんなに優しくしてもらったのって...凄く久しぶりなので...」
今にも泣き出しそうなその笑顔に、俺の方が胸を締め付けられた。
「と、とにかく!ありがとうございます。着替えてきますね」
そう言って再び脱衣所に戻った綾芽だった。
「...俺も着替えを取って来るか」
このまま脱衣所の前で待機し続けるというのは...なんとも変態チックだろう。
綾芽に嫌われたくないので、俺は再び寝室に部屋着を取りに戻ったのであった。
そして、再び脱衣所に戻って来た頃、綾芽も着替えを終えたらしい。
「お、お待たせ...しました」
「....」
脱衣所から現れた彼女の姿に...俺は言葉を失ってしまった。
ほんのりと濡れた黒髪。上気して赤くなっている白い肌。男物のシャツの胸元を大きく押し上げている豊満なバスト。裾からすらりと伸びる長い脚。それでいて頬を赤く染めて恥じらう美少女。
...想像以上の破壊力だった。
「お兄さん?」
不思議そうに小首をかしげている綾芽。
その愛らしい仕草は、もはやただの追撃だった。
「あ、いや...その...なんでもない、よ。...良く似合ってる」
思わずその称賛の言葉が漏れてしまった。
「え?...そ、その...似合って、居ますか...?」
困惑気味に自分の格好を見渡している。
「え、えっちな格好ではあると思いますけど...」
更に顔を赤くしていた。...可愛い。
「と、とりあえず...俺も風呂に入って来るよ」
「あ、は、はいっ」
少し猫背になりながら俺も浴室に向かったのであった...
......................
入浴も終え、出来る限り綾芽の方を見ずに洗濯物を干し終えた頃。後は就寝するだけ、なのだが...
「さ、さすがにベッドまでお借りできません!わたしはソファでも床でも大丈夫ですから!」
床って...それはダメだろう。
...そう。何処で眠るかについて揉めていた。まあ、揉めるというより譲り合っていた。
「大丈夫だってば。この部屋に引っ越して直ぐの頃はソファで寝ていたんだから大丈夫だよ」
ちなみに、俺のミスでベッドが届かなかったのだ。
「わ、わたしだって...最近は公園のアスレチックの中で寝ていたので平気です!」
「そんなことを言われると余計にベッドで寝て欲しいよ...」
余計に申し訳ない気持ちになるわ...
「っ...で、でも...あっ!」
すると、綾芽が何か思いついた様子で声を上げた。
「そ、それなら...い、一緒に寝ましょう!」
「え?」
一緒に寝るって言ったのか?この子。
「い、一緒に寝てくれないと...わたしは床で寝ます!」
...どうやら意志は固いらしい。
「...わかった。そうしよう」
幸い、俺のベッドはかなり大きい。運び入れるのには随分と苦労したモノだ。
「ほっ...」
言い争いが終わってほっとしている様子だ。
...さて、俺は耐えることが出来るのだろうか。