※この作品はR-18です。

シュタルクとフェルンと『セックスしないと出られない部屋』の魔法   作:TDA

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「閃天撃!」

 

 そう叫ぶと、シュタルクは高々と掲げた巨大な戦斧を壁に叩きつけた。

 

 石やレンガ造りならば大穴が空き、鉄製の壁でも大きくひしゃげるはずの、渾身の一撃。

 

 だが。

 

「くっ、またこれかよ」

 

 柄から伝わってくる奇妙な手応えに、シュタルクは眉を潜める。

 

 見た目はなんの変哲も無い石壁のはずだが、戦斧を打ち込んだ場所にはかすり傷一つ無かった。

 

 石壁に触れる寸前で、見えない何かに戦斧の勢いを全て吸収されたような感触だった。

 

「フェルン、そっちももう1回試してみてくれ」

 

 少し後ろに立っているフェルンにそう呼びかけると、彼女はこくりと頷き、愛用の杖を別の方向の壁に向ける。

 

 杖の先の空間に複雑な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、次いで閃光と共に魔法の一撃が放れた。

 

 魔法使いではないシュタルクの目から見ても、相当な威力の攻撃魔法だったが、やはり壁は無傷だった。

 

「マジか……マジで出られないのか」

 

 シュタルクの額から汗が流れ落ちる。

 

 彼は改めて周囲を見回した。

 

 やや大きめのベッドが1つ、椅子が2つ、小さなテーブルが1つだけの簡素な部屋。

 

 天井に魔導具の燭台があるので明かりに不自由はしないが、どこにも窓は無い。

 

 出入口のドアは真っ先に破壊しようとしてみたが、壁と同じで物理攻撃・魔法攻撃ともに効果無し。

 

 ちなみに床と天井からの突破もすでに試みて失敗している。

 

 そして――シュタルクはドアのすぐ横にあるプレートを一瞬見て、すぐに目を逸らした。

 

 プレートには文字が書かれているが、古エルフ語なので、彼には読めない。

 

 フェルンによれば、そこにはこう書かれているらしい。

 

 

  <<セックスしないと出られない部屋>>

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

 やや時間をさかのぼる。

 

 勇者ヒンメルの死から31年後。

 

 北部高原ナライヤカ地方。

 

 立ち寄った村の食堂兼宿屋で、フリーレン一行は店主からダンジョンの噂を聞いた。

 

 しかもただのダンジョンではない。

 

 大昔にこの地で新魔法の開発に心血を注いだある魔法使いが築いたもので、そこにはいくつもの貴重な魔導書が眠っているというのだ。

 

「それは是非立ち寄ってみないとね」

 

 いい笑顔で宣言するフリーレンに、シュタルクとフェルンは若干げんなりした表情を見せる。

 

 ダンジョンに魔導書と聞いてフリーレンがスルーするはずがないとわかってはいたが、これでまた何日も旅程が伸びる。

 

 フリーレンにとってはなにほどのこともないが、若い人間の時間感覚ではうんざりである。

 

 翌朝出発した3人は、午前中のうちにダンジョンに到着した。

 

 警戒しながら侵入するも、モンスターも罠の類も無く、ただ長い廊下といくつもの部屋が並んでいるだけのダンジョンだった。

 

 部屋の数は10以上あり、鍵のかかっている部屋とかかっていない部屋が半々。

 

 施錠されていない部屋を覗きこむと、ダンジョンを維持する各種魔法の効果が今でも続いているらしく、長く無人なのに埃も積もらず綺麗なままだ。

 

 次いで鍵のかかった部屋について調べてみると、全て結界によって封鎖されていることが判明する。

 

「なるほどね。このダンジョンの造り主は、訪れた冒険者の魔法的な知識と知恵を試したいらしい」

 

 顎に手をあてて、フリーレンはそう言った。

 

 一種のパズルのようなもので、この結界を解析し、解除することによって部屋の中にある魔導書が手に入る、という仕組みなのだ

 

 フリーレンにとってはこの手の仕掛けは挑戦心をくすぐられるらしく、次々と部屋を開けて魔導書を手に入れていった。

 

 

<<有精卵か無精卵か見分ける魔法>>

 

<<発情期の猫の鳴き声を小さくする魔法>>

 

<<犬の妊娠期間を短くする魔法>>

 

<<牝牛の乳首の色を青くする魔法>>

 

<<馬の小便の匂いを臭くする魔法>>

 

 

「どうやらこのダンジョンの造り主は、動物の交配に強い関心があったみたいだね。この地方は昔から畜産が盛んだったという話だけど、この魔法使いの影響かもしれないよ」

 

「なあフリーレン、これ俺たち付き合わなきゃダメ?」

 

 結界の解析中、やることがまったく無い上に、入手できる魔法のあまりのくだらなさにとうとうシュタルクは音を上げた。

 

 フリーレンは新しい魔導書が手に入るたびに、その魔法の有用性とは無関係に喜んでいるのだが。

 

「んー? 別にいいよ。鍵のかかってない部屋で休んでなよ。確か、ベッドがある部屋とかもあったよね。今とりかかってるのは、これまでとは段違いに手強いから夜までかかると思うよ」

 

 シュタルクたちの方を見もせずに解析に夢中になっているフリーレン。

 

 フェルンとシュタルクは一緒になってため息をつきつつ、フリーレンの言に従うことにした。

 

 その結果が、フェルン曰く「馬鹿みたいに下品な魔法がかかった部屋」への閉じ込めであった。

 

 

 

    ■    ■    ■

 

 

 

「これ、フリーレンなら開けられると思うか?」

 

「それは問題無いですね」

 

 フェルンの答えに、シュタルクはほっと胸を撫で下ろした。

 

「じゃあしばらく待ってりゃいいか。フリーレンは夜になるまで気づかないかもしれないけど」

 

 椅子の一つに腰かけながら、シュタルクは言う。

 

 それに対してフェルンは壁越しにフリーレンがいるはずの方向を見つつ、どこかそわそわした様子で言った。

 

「いえ……フリーレン様の救助を待つ案には反対です」

 

「え、なんで?」

 

 シュタルクの問いかけに、フェルンは机の上に置いてある荷物を指した。

 

「食料も水もここに全部持ちこんでしまいました。フリーレン様がお腹を空かせたり喉が渇いたりしたら可哀そうでしょう」

 

 と、どっちが保護者だかわからないことを言う。

 

「そうは言ってもなあ。じゃあ結界に隙間が無いか、もっと隈なく攻撃してみるか?」

 

「隙間なんか無いですよ。脱出するなら正攻法しかありません」

 

「正攻法ってなんだよ」

 

 するとフェルンは、扉の横の、例のプレートを指した。

 

「そこに書いてある通りの方法で」

 

 シュタルクは固まった。

 

 そして、まじまじとフェルンの顔を見る。

 

 彼女の表情は――わからない。

 

 シュタルクは困惑し、頭を抱えそうになった。

 

 フェルンはとても分かり易い時ととてもわかり難い時とがあり、そこそこ長い付き合いなのに、シュタルクには未だに彼女を不可解に思うことがしばしばだ。

 

「え……いや……でも……それは……」

 

 言い淀むシュタルクに、フェルンの目元が険しくなった。

 

 これははっきりと不満の表情だ、とシュタルクは察する。

 

 いったいどうすればと内心慌てるシュタルクに、フェルンは意外な言葉を投げかけてきた。

 

「……そんなに私とするのがお嫌ですか」

 

「そ、そんなことあるわけないだろ」

 

 つい椅子から立ち上がって、大きな声を出すシュタルク。

 

 フェルンの考えはわからない。

 

 だが己の気持ちはわかる。

 

 フェルンのことを、一人の女の子として好ましいと思っている。

 

 単なるパーティーメンバーという立場を越えて、親密になりたいと思っている。

 

 もしかしたら、フェルンもまた同じように思って、この機会を利用しているのかもしれない。

 

 ならば退く手は無い!

 

 シュタルクはそんな風に思い、ぐっと拳を握りしめた。

 

 巨大なドラゴンに立ち向かった時よりも心臓が激しく脈打つのを、彼は感じた。

 

 フェルンに向かって一歩、二歩と進み、彼女の正面に立つ。

 

「フェルン……」

 

「シュタルク様……」

 

 二人は見つめあい、数秒後に恥ずかしくなって示し合わせたようにお互い目を逸らした。

 

 そしてもう一度目を合わせる。

 

 今更ながら、シュタルクはフェルンが若干、顔を赤らめているのに気づいた。

 

 彼女は杖を近くの壁に立てかけて、その手でシュタルクの手を取った。

 

 フェルンと繋いだ手が熱く、若干震えているのをシュタルクは自覚した。

 

 今更ながら、本当に"する"のかと思う。

 

 現実感が無い。足元がふわふわしている。

 

 それなのに、心臓の鼓動と、フェルンの細く柔らかい指の感触だけがはっきりと伝わってくる。

 

 フェルンの顔が、いつもの距離より少し近い。

 

 最近、ふとした拍子に彼女のことを可愛らしいと感じることが増えたと思っていた。

 

 そして今は、これまでにも増してフェルンのことが愛おしく思えた。

 

「あの、念のために確認しておくんですが」

 

 さらに距離を詰めようとした矢先に、不意にフェルンが話しかけてくる。

 

「な、なに?」

 

「シュタルク様って、こういうことの経験、あるんですか?」

 

 一瞬、シュタルクの脳裏に見栄を張りたいという考えよぎる。

 

 だが、そんなウソをついたところですぐバレるのだからと、羞恥を堪えて正直に答えた。

 

「いや、無いよ……」

 

「でしょうね」

 

「『でしょうね』!?」

 

 わかってるならなんで聞いた、と涙目になるシュタルク。

 

「ええと……これは聞いた話なのですが。男の人の中には、やりたいことだけサッとやって、それで終わり、自分が満足したら相手の女に興味を失う、という人がいるそうで」

 

 フェルンは視線を外し、身じろぎしながら言う。

 

「ええ……? そんな話、どこで誰から聞いたのさ」

 

「一級魔法使い試験の後、参加者の女性陣だけで集まって女子会をしたんです。そこでそういう話が」

 

「女子会ってそんな話すんの?」

 

 何かの幻想が崩れた顔でシュタルクが言うと、フェルンはどこか達観した表情で返した。

 

「女子会の内容なんて、7割が愚痴で2割が猥談ですよ。普段は表に出さない本性が出るというか。ユーベル様なんて、あんな露出の高い格好しているのに意外とオクテで純情だったり……」

 

 と、そこまで話して脱線し過ぎたと思ったのか、フェルンは、一度咳払いをして話を元に戻した。

 

「とにかく、そういう『やることだけやって終わり』みたいなのは、やめて欲しいんです。下品な罠にかかった結果とはいえ、ちゃんと最初から最後まで、段階を踏んで欲しいというか……」

 

「俺はそんな男じゃないよ! ちゃんとやるさ」

 

「でも、経験無いんでしょう?」

 

「無いけど、でも、男だって男同士の会話で猥談はするんだよ。そうやって段取りとかテクニックを教えあったりするんだ。だから知識はある!」

 

「まさかその男同士の会話の相手ってザイン様ではないでしょうね……」

 

 かえって不安な顔になるフェルン。

 

 その表情を見てシュタルクは、彼女が「やっぱりやめましょう」と言い出さないうちに、コトを始めてしまわないといけないと決意した。

 

 

 

 




 フリーレンの二次創作としてはヒンメル×フリーレンと同じくらい王道のカップルだと思ってたシュタルク×フェルンですが、ハーメルンでは思ったより少ないので書きました。

 「二次創作でカップルをセックスに持ち込む最も安直な場面設定」と言われるセックスしないと出られない部屋ですが、なんか思ったよりこの状況に持ち込むために字数を費やしましたね……。
 次から本格的にHシーンですよ。

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