シュヴァルツェスマーケン アイリスディーナとテオドールの結婚式 作:雄渾
大分、おふざけを中心とした内容になります。
まあ、色々考えた末、恋愛小説や劇画で、お約束の偽装結婚ものにしました。
1983年6月6日。
ドイツ・ベルリンにある
ここは、創建200年を超えるカトリック寺院である。
今まさに、二人の男女による結婚式が行われようとしていた。
新婦は、東ドイツ軍最強と言われる第666中隊の部隊長、アイリスディーナ・ベルンハルト大尉。
新郎である、テオードル・エーベルバッハ少尉は、今年の4月13日で19歳になったばかりの青年であった。
彼は、教会に掲げられた十字架とキリスト像をじっと見つめながら、急に決まった結婚式を思い返していた。
2週間前の事である。
中隊長室に呼ばれたテオドールを待っていたのは、アイリスディーナただ一人だった。
彼女は、思春期の娘の様に頬を染めながら、奇妙な提案をしてきたのだ。
「テオードル、お前を見込んで頼みがあるんだ。
私と結婚してほしい」
テオドールにはその言葉の意味が理解できなかった。
「はいッ?」
「お前に迷惑はかけない。
1年間の偽装結婚をしてほしいんだ」
アイリスディーナの話は、こうだった。
海王星作戦の後、何かにつけて西側の軍隊の接触を持つ機会が増えてきた。
特に、米軍や西ドイツ軍の佐官級や大隊長クラスから、見合いや後添えに欲しいという話が来ている。
「そこでだ、1年間、私の夫を演じてほしいんだ」
テオドールの気持ちなど、お構いなしである。
「ちょうど19歳になったんだろう。これで誰の遠慮会釈もなく結婚できる」
東西ドイツの婚姻制度では、女子は18歳未満は両親と家庭裁判所の許可があれば、特例として婚姻できた。
どうやらアイリスディーナは、婚姻制度を中途半端に理解している様だった。
「な、何を……」
「一度でいいから、教会で花嫁衣装が着たいんだ」
その言葉は、テオドールの肺腑にまで響く言葉だった。
脇で黙って聞いていた、さすがのグレーテルも困惑の色を示した。
「同志ベルンハルト大尉、貴女の精神状態おかしいよ」
「それは、貴様の錯覚だよ」
テオドール・エーベルバッハは、困惑していた。
6歳年上の上司、アイリスディーナ・ベルンハルト大尉に連れられて、ベルリンにある国防省本部に来ていた。
だが、いつの間にか結婚をする前提の話し合いになっていたことを今一つ理解できていなかった。
目の前の老年の将軍は、先程から怫然とした顔でこちらを睨むように見ている
テオードルは、左腕に嵌めたクオーツ腕時計を見る
もう10分が過ぎているのに、男は眉一つ動かさずただ睨んでいる。
「何!結婚したいだと」
出された茶は、すっかり冷めてしまい、飲む気すら失せてしまった。
氷のように透き通った眼で、テオードルをねめつける。
邪険な雰囲気がその場を包み始めたころ、ドアが急に開く。
「同志将軍、ちょっとよろしいかしら!」
ドアから、ベアトリクス・ブレーメ少佐が顔を出す。
なぜ、シュタージの少佐がという疑問があったが、そんな事はこの問題の前にはどうでもよかった。
「今行くよ」
そう言い残すと、ハイム少将は部屋を後にした。
戻ってきたハイム少将は、憔悴しきっていた感じだった。
テオドールは、男がしおらしくなっている理由を知らなかった。
「まあ、結婚を前提にしているから、やむを得ないのだが……
お前たちも何というか……とにかく式を挙げなさい」
さっきとまるで、態度が違うじゃないか。
ハイム少将の様子から、ベアトリクスに何か吹き込まれたらしいことは理解できた。
「頼むよッ、同志エーベルバッハ少尉。ベルンハルト大尉を頼む」
「はい、申し訳ありません」
「なんとも妙な気持ちだ……」
「う~ん……そうか出来たのか」
呆然としていたテオードルには最後の言葉は、衝撃的だった。
どうやらベアトリクスが、アイリスディーナが妊娠したらしいという嘘をついたことはわかった。
まだアイリスディーナとのキスすらしていないテオドールには、余りにも馬鹿げた話だった。
かくして、結婚式までの流れはスムーズに進んだ。
ベアトリクスとアイリスディーナのついた嘘を、嘘だといなかった。
俺も男だ。こうなったら行くところまで行くしかあるまい。
テオドールは、覚悟を決めった。
「この結婚に、異議のある者はいますか」
「はい、お兄ちゃんと中隊長の結婚に反対します!」
声を上げたのは、義妹のリィズ・ホーエンシュタインであった。
「私が、一番お兄ちゃんとの生活が長く、付き合いも古いんです。
ですから、結婚する権利はあります」
さしものテオドールは、この行動に困惑するばかりであった。
でも、養子先の妹と結婚するなんて、テオドールは夢想だにしなかった。
「はーい」
そういって、一斉に第666中隊の女性隊員たちが手を挙げる。
「私たちも、この結婚に異議があります」
なぜか、シルヴィア・クシャシンスカに代わって、キルケ・シュタインホフが手を挙げていた。
彼女は、確か西ドイツ軍のはず……
彼氏持ちのグレーテルや、イングヒルト・ブロニコフスキーも手を挙げている。
おそらく、その場のノリで参加したんだろうか……
「私たちは、テオドールさんのおかげでここまで生きてこれました。
陰になり、日向になり、テオドールさんは、私たちを支えてくれたのです」
カティアの口上の後に、グレーテルが続ける。
「私たち全員が、彼とともに、幾度となく死線を超えたのです。
今日ここに来れなかった大勢の仲間たちと……」
ハイム少将もハンニバル少佐も、はなはだ顔色は優れなかった。
あまりの事態に、西側からの来賓たちも混乱するばかりであった。
「テオドールが家庭を持ったら、私たちは、どうなるんですか!
いずれにせよ、第666中隊の女たちに大変化が起きるんですよ!」
憤りを隠さないアネットと共に、キルケがこう叫んだ。
「だから、今回の結婚に異議を唱えます!」
その瞬間!
教会の扉が蹴破られ、二人組の男を先頭に武装した兵士たちが入ってきた。
「同志ベルンハルト!君を国家反逆罪で逮捕する」
40代後半と思われる俳優顔の男が、ツェラ・メーリス・P1001-0自動拳銃を振り回す。
褐色の野獣との異名を持つ、ハインツ・アクスマン中佐であった。
「シュタージ総裁の名において、この結婚式に参加したものを、反革命・国際ブルジョアジーほう助の罪で、25年の禁固刑に処す!
者ども!全員ひっとらえろ!」
もう一人の男は、禿頭の30代後半で、手にソ連製のバラライカ短機関銃を持っていた。
将官用の勤務服の上から灰色のオーバーコートを着ていた男は、シュタージ総裁のエーリッヒ・シュミットである。
「伏せてっ!」
鋭い女の声と同時に、二発の自動拳銃の音が響いた。
打ち返す間もなく、アクスマンとシュミットは脳天を打ち抜かれ、その場でこと切れた。
撃ったのは、アイリスディーナとベアトリクスであった。
「テオドールは敵が多く、狙われています。
ウエディングドレスの下に
「異議はございませんね。では……」
「新郎、テオードル・エーベルバッハ。
貴方は、この人をあなたの妻となし、いかなる時も永遠の愛を誓いあうことを誓いますか」
「誓います」
「新婦、アイリスディーナ・ベルンハルト。
貴女は、この人をあなたの夫となし、いかなる時も永遠の愛を誓いあうことを誓いますか」
「はい、誓います」
二人は用意された結婚契約書にサインをする。
それを見届けた神父は、満足そうな笑みを浮かべる。
「ここに、二人の婚姻を認めます。父と子と聖霊の御名において、アーメン」
史実云々を考えたのですが、外国人はともかく西ドイツ人や亡命者だと東ベルリンに入るのが大変です。
史実通り、ベルリンの壁崩壊を待つと、アイリスディーナは30歳になってしまいます。
この時代の東ドイツ人の平均婚姻年齢は21歳です。
1983年の時点で、アイリスディーナは24歳です。
当時の感覚でいえば、十分行き遅れな年齢ですね。
もういろいろ面倒くさいので、原作時空のシュバルツェスマーケンの話にしました。
新郎はテオードル君で、新婦はアイリスディーナちゃんにしました。
全体的に、おふざけになっております。
アイリスディーナの口調は、原作に準じた男言葉にしました。
なお、濡れ場は例によって、次回以降ですね。