勇者愛人刑~敗北勇者は女の子として魔王の妾に~ 作:よるめく
肉体の性質を自由に切り替え、物理的な戦闘に強い。
対処するには魔術の心得が必要不可欠。炎の魔法が魔法使いの必修科目となっている要因のひとつには、スライムに最も有効に働くからという理由がある。
「う、うぅ……?」
目覚めたウィンは、自分が柔らかなベッドの上で寝かされているのに気が付いた。
頭が痛い。二日酔いというのはこういう感覚なのだろうか。酒飲みのダズルは、もしやしょっちゅうこんな感じだったのかもしれない。
パーティに在籍していた格闘家を恋しく思いながら体を起こす。
ゴシック調とでも言えばいいのか、そこは黒が大部分を占める部屋の中。天蓋付きのベッド、悪趣味なデザインのドレッサー、巨大な棺と見紛う衣装棚……全く見覚えはないし、ウィンの趣味でもない内装だ。鏡に映った自分の服装と同じように。
―――そうだった。僕は魔王に女にされて、あの宮廷魔術師に……。
―――頭の中が変な知識でいっぱいだ。
ウィンは首を振り、魔導書の力で植え付けられた知識を追い出そうとする。当然、そんなことはできない。
苛立ちのあまり頭皮に爪を立てながら、脱出できる場所はないかと目を凝らしてみるが、扉は厳重に鉄格子で塞がれ、窓はない。ネズミ一匹逃がす気は無いと言わんばかりだ。
下手な宿屋よりも広いので、閉塞感は感じない。ただ、拘束ベルト付きのドレスと真っ黒な色のせいで、闇の中にひとり放り出されたような心細さがあった。
―――とにかく、今はあの宮廷魔術師もいないみたいだし、逃げるチャンスだ。
―――どこか抜け出せそうな場所、それとこの服と首輪を外す刃物とかはないか。
歩くたび、股間を締め付けるベルトの感触に肩を震わせながら部屋を探索。
ベッドの下、家具の裏、とにかく怪しい場所に目を通す。
が、成果は全く得られなかった。
「くそっ、魔王め! ふぬぐぐぐ……っ!」
扉を塞ぐ鉄格子をつかんで力を込める。冷たい黒鉄の柵はビクともせず、淡々とウィンの手を拒むのみ。
根負けしたウィンは勢い良く息を吐き、痺れる両手を下ろしながら後退した。
旅の中でたくさんの人の力を借りてきた。勇者といえども、ひとりでできることには限界がある。
わかっているが、それでも今の状況でじっとしてはいられない。苛烈な戦いの中で傷つき、置いていかざるを得なくなった仲間たちの安否が心配だし、狂った宮廷魔術師の拷問を受け続けていたら気が触れてしまう。まして魔王の妾になって、子を為すなどと。
「んっ……?」
そこまで考えて、下腹部に違和感を覚える。
腹の奥で、小さなものが縮んだような。今までに感じたことのない感触に疑問符を浮かべていると、扉を覆っていた鉄格子がひとりでに持ち上げられた。
とっさに飛び下がって身構えるウィンの前で扉が開く。入ってきたのは、あの宮廷魔術師だ。
「起きていましたか。ちょうどいい、禊の時間です」
「みそぎの時間だって? 今度は一体何をする気だ!」
格闘家ダズルに軽く習った程度の、あまり慣れていない拳闘の構え。魔導書による“教育”のショックから立ち直った様を見た宮廷魔術師は不愉快そうに鼻を鳴らすと、杖の石突で床を叩いた。
ビリッとウィンの首輪から電撃が走り、構えを強制的に解く。
短く苦悶したウィンは、ただそれだけで“教育”の際に散々叩き込まれた懲罰の痛みと植え付けられた知識を記憶から引き出した。
「誰に対して、そんな態度をとっているのです? また読書漬けにされたいのですか? それとも、もっときつい懲罰を?」
「も、申し訳ございません、魔術師様! どうか粗相をお許しください!」
―――あれ? 僕、何を言って……。
頭を深く下げながら、ウィンは困惑に瞳を曇らせる。
反射的に口から飛び出した言葉と、丁寧なお辞儀をしている自分をすぐには受け入れられなかった。
宮廷魔術師はくるりと背を向けた。
「ついてきなさい、浴場に案内します。それと、あなたを清める侍女たちもね」
「は、はいっ!」
再度の短い電撃を浴びたウィンは、頭を疑問符でいっぱいにしながら宮廷魔術師の後に続いて歩き始めた。
どうして自分がそんな行動をとっているのか、自分でも理解しきれないまま。
そして辿り着いたのは、魔王城の大浴場。
代々魔王の妃や魔族の姫が使っているその場所にいたのは、体がスライムで構成された二人組の侍女であった。
「クリーム、メリエン。禊の用意は済んでいますね?」
「はぁい、魔術師のおばさま! 全て整ってございます!」
「まったくもう、待ちわびましたよぉ~。お仕事なんてお久しぶりでぇ~」
「「で? で? で?」」
スライムの双子は左右に体を傾け、宮廷魔術師背後のウィンに目を向けた。
ぎょっとして半歩後ずさったウィンは混乱を引きずったまま、どう行動するか逡巡する。
スライム族は不定形であり、物理攻撃での対処はほぼ不可能である。聖剣を持たず、攻撃系の魔法を不得手とする今のウィンでは太刀打ちできない。
下げた足に力を入れて、逃げ出すタイミングを探すウィン。宮廷魔術師が杖を使えば、またあの電撃が飛んでくる。幾多の苦痛に耐えてきたウィンでさえ動けなくなる威力だ。使われれば逃げるどころか、もっとひどい目に遭わされかねない。
結果、立ち止まったウィンの左右をスライム娘が捕まえる。ふたりは青くぷるぷるした指先でウィンの顎や頬をなぞり始めた。
「で、これがかの勇者様ですかぁ~! 魔王様に敗北して、女の子にされちゃったっていう!」
「本当にこれがかの勇者様なのですかぁ? どこからどうみても、ねえメリエン?」
「そうね、クリーム」
スライムの姉妹はウィンの耳に口を寄せ、嬲るように囁いた。
「「弱くてかわいい人間ちゃんのオ・ン・ナ・ノ・コ♡」」
じゅる、とゼリー状の舌に耳を舐められ、ウィンは体を固くする。
本能的に感じる被食の恐怖に背筋が凍った。
宮廷魔術師が杖を振ると、ウィンを縛り付けていた服が消えて裸体をむき出しにしてしまう。
首輪を残して全裸になったウィンは、カッと顔を赤くして胸と股間を隠そうとするが、それより早くクリームが動く。
人型を捨てたクリームはウィンの手首足首を捕らえて無理矢理体を開かせ、口を塞いで声を出せないようにする。
ウィンは暴れて脱出しようとするが、硬軟も弾力も形状さえ自由自在なスライムの拘束を前に為すすべがない。
宮廷魔術師はその脇を足早に通り過ぎた。
「終わったころにまた来ます。今夜、魔王様がそれの花を散らしますので、隅々まで丁寧に洗浄してください」
「お任せくださぁ~い。ところで、“慣らし”は必要ですかぁ?」
「ええ。ほんの少し、雌の自覚が出てきたようですからね」
「了解しましたぁ~。それじゃあ、体を洗いましょうね、勇者様~」
ウィンは首を振って抵抗するが、拘束台となったクリームは無慈悲に浴室へと連れ込んでいく。
メリエンは魔力で両手に泡を生み出しながら、妖しい表情で舌なめずりをした。