※この作品はR-18です。

秘書子とソーマ   作:タイフーンの目

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スタジエール最終日、新戸緋沙子と幸平創真には、もうひとつ『試練』が用意されていた。夜のホテルに2人きりになった彼と彼女は……。


スタジエールの夜に(その1)

■00 背中合わせ

 

(ど、どうしてこうなった……!)

 

 とあるホテルの一室。照明は落とされ、静かな闇が訪れていた。

 

 部屋の中央にあるベッドで、新戸(あらと)緋沙子(ひさこ)は身を固くして横になっていた。う(・)し(・)ろ(・)のことを頭の中から追い出すように、ただひたすら、カーテンの下りた窓のほうを見つめていた。

 

 眠れない。とてもじゃないが眠れそうになかった――。

 横向きにした頭を枕に預け、背中を丸め、ぎゅっと手を握りしめていた。体中が熱い。

 

 ごそごそっ――

 

 背中で人の動く気配がして緋沙子は、

 

「ひゃうっ……!」

 

 と声を漏らしてしまった。

 

「おお、悪わりい悪わりい」

 

 すぐ近くで、軽薄そうな声がする。

 

「起こしちまったか、新戸?」

 

「そ、そそそ、そんなことはないっ!」

 

 緋沙子は顔が赤くなるのを感じながら、背中合わせで寝る男――幸平(ゆきひら)創真(そうま)にそう答える。

 

 創真は怪訝そうに、

 

「? そうか?」

 

 とだけ答えて、また静かになった。

 

 

 ひとつのベッドに枕が二つ。

 時折響く衣擦きぬずれの音が、やたらと大きく耳に届く。

 

 緋沙子はもっと離れて寝たかったが、掛け布団はひとつしかないので、この距離が精一杯だった。

 

 つまり、創真がその気になれば、すぐに緋沙子に手を伸ばせるくらいの……そんな距離。

 

(どうしてこうなった! どうしてこうなったぁ……!)

 

 緋沙子は、混乱する頭で数時間前のことを思い出していた。

 

 

 

■01 スタジエール最終日

 

 それは、『洋食の三田村』での研修に合格し、創真と別れた後のことだった。

 

 彼から託されたマンガ本の紙袋――えりなへの届け物だ――を宝物のように抱きしめ、緋沙子は家路に着こうとしていた。

 しかし、はっと思い出したように足を止め、バッグを漁る。そこには、1枚のプリントがあった。審査員から合格を言い渡された際に受け取ったものだ。

 

 そのプリントには、追加の『課題』が書かれてあった。

 

『とあるホテルの朝食を食べ、その改善点をレポートにまとめて提出しろ』

 

 というものだが、実はこれは、第1のスタジエールをクリアした者へのご褒美という面もあった。高級ホテルのスイートルームに宿泊し、翌朝、その部屋に運ばれて来る豪華な朝食を食べることになるのだ。

 

 研修の疲れを、最上級のおもてなしで癒やすようにという、学園側からのわずかばかりの配慮だった。

 

  + + +

 

 緋沙子がプリントにあった地図を頼りに、指定されたホテルの前にたどり着くと、

 

「あれ、新戸じゃん」

 

 入口の前で、ばったりと創真に出くわした。実に15分ぶりの再会だった。

 

「幸平創真? 貴様もこのホテルなのか?」

 

「ん、おう。ここで1泊しろって書いてあってさ。新戸もか?」

 

「そうだ。しかしまあ、ふむ……悪くなさそうなホテルだな」

 

 そう言って、ホテルの入口に目をやる。

 

 豪華だがうるさすぎない照明や、その脇に礼儀正しく佇たたずむ黒服の男性。明らかにその辺のものとはランクの違う、40階建てのホテルだった。

 

「……これで『悪くない』って、贅沢すぎじゃね?」

 

 創真は苦笑いを浮かべる。

 

「よし、ではまた明日の朝だな、幸平創真。まさか、この程度の試練で失格するなよ」

 

「ははっ、んなわけねえだろ。つーか、やっとゆっくりできるな」

 

「そうだな」

 

 緋沙子は笑顔で返した。

 そうして、和やかな雰囲気のまま、2人はホテルへと入っていった。

 

 

 ……本当の『試練』が、2人を待ち受けているとは知らずに。

 

 

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