■04 絡む指と
「おーい緋沙子」
創真は彼女の背中に呼びかける。
「機嫌直せってば、おーい」
しかし緋沙子は、背中を丸めて、うつろな視線をテレビに向けている。彼女はいま、幸平家の小さなこたつに入り、ひたすら拗ねていた。
「――ったく」
創真は、お盆をこたつの上に置き、緋沙子の前に湯飲みを差し出す。
「まだ怒ってんの?」
「…………怒ってなどいない」
「怒ってんじゃん」
彼女は、創真のほうをまったく見ようともしない。
あのあと緋沙子は、店の隅でうずくまって、ぶつぶつとなにやら呪詛めいた言葉をつぶやき続けていた。仕方がないので、創真は一人で明日の仕込みを終え、なかなか動こうとしない彼女をなかば無理矢理、居間へと引っ張ってきた。
それからずっとこうだ。
「いいじゃん別に、富田さんたちに見られたからって」
「よくない!」
「そうそう会う機会もないんだろうし……ん、いや」
「……なんだ?」
創真はちらりと緋沙子の顔を一瞥してから、
「あー、やっぱいい。やめとくわ」
「気になるだろう? 私の顔に、なにか付いてるか」
「……いや、言ったらもっと怒るかなと思ってさ」
「怒られるようなことを考えてたのか?」
非難するような目で見られて、創真は少し困ってしまったが、
「わかったよ。別に、たいしたことじゃないけど」
「いいから、なんだ」
「富田さんたちに見られたの、やっぱりマズかったかなってさ」
「?」
「ほら、もし緋沙子がうちに嫁に来たらさ、ご近所さんになるわけじゃん? オレは気にしないけど……緋沙子が恥ずかしいっていうんならさ、やっぱり気まずいかなって」
「――――よ、嫁!?」
緋沙子の顔がみるみる赤くなっていく。
「な、なにを気の早い!」
「…………。んー、緋沙子って、その辺どう思ってるわけ?」
「ど、どうとは?」
「だからさ、本気でオレのこと好きなのかってこと」
「きみは、いきなりなにを――」
目を白黒させる緋沙子に創真は、
「オレは本気だぜ。お前とずっと一緒にいたい」
「――――っ」
「まあだからさ……本当は明日も、オレ一人でよかったんだけど。せっかくだし、お前にもウチを見せときたかったし、いい機会かなって。親父はあちこちほっつき歩いてるから、いつ紹介できるかわかんねぇけどさ」
「それは……」
緋沙子はすっかり混乱してしまったようで、口元がぷるぷると震えている。
「ま、そういうこと」
「…………」
沈黙。
狭い和室には、テレビからの笑い声だけが響く。緋沙子は視線を落として、湯飲みから立ち上る湯気を見つめていたが、やがて、こたつの中で身じろぎして、
「……私だって、本気だ」
ぽつりと言った。
「好きだ。きみのことが――。だけど怖い。気を許すと、今以上にきみのことを好きになってしまいそうで……」
「それって、悪いことなのか?」
緋沙子は首を振って、
「そうじゃない。でも――、私は器用な人間ではないから、他のことが手につかなくなってしまうかもしれない。きみのことだけで、一杯に満たされてしまうかもしれない。それが怖いんだ」
「そっか」
創真は言葉を継ぐ。
「じゃあ、別れるか――」
「――――!」
「なーんて、言わないぜ」
緋沙子はふたたび困惑した表情になる。創真は、こたつの中で彼女の手を握った。
「あ――」
「お前がポカしたら、オレがフォローするからさ。んで、オレが馬鹿やったら、お前がブレーキをかけてくれればいい。オレたちって、そんなコンビだろ?」
創真は笑ってみせ、
「だからオレは、お前が嫌だって言っても離さない。諦めねえから」
緋沙子の手をぎゅっと握りしめた。彼女の細い指は、しばらく戸惑っていたが、やがて、絡めるように創真の手を握り返した。
「嫌なわけ、ないだろう。私だって離れたくない。できればこうして、ずっと一緒にいたい」
二人の顔は自然と距離を縮め、ちょんと、鼻先が触れた。
「きみの鼻、冷たいぞ」
「厨房、寒かったからな。暖めてくれるか?」
「馬鹿」
唇が触れる。薄皮が接触するだけの、軽いキス。ついばむように、何度も。創真は緋沙子の体温を感じながら、やわらかな唇に何度も触れた。
■05 密着
「あっ、やっ――……もう」
緋沙子の熱っぽい声が、創真の興奮をさらに沸き立てた。こたつに座る彼女の後ろに回りこみ、ニットのワンピースの上から両胸をわしづかんで、やさしく揉みしだきながら、
「緋沙子、可愛い」
「ば、馬鹿……」
その感触と、緋沙子の反応を味わう。
右手をするすると腰のあたりに這わせ、こたつの中の、緋沙子の足に触れる。黒いパンストの太ももをじっくりと撫で回すと、緋沙子は身をよじる。そのまま内側へとと――
「やっ、ちょっと待って」
「ん?」
「その……」
恥ずかしげな声で彼女は、
「シャワー、浴びてない」
「いいじゃん、別に」
言って、創真は彼女の首元に顔をうずめる。
「あん――」
「緋沙子、いいにおいだし」
「に、においって」
「甘いにおい」
「しない! そんなにおいはしない!」
「するってば」
白く、やや汗ばんだ首筋に口づけする。さらに上へ。緋沙子の耳を舌で犯す。
「あっ、くぅ――」
すると、太ももの抵抗も弱まる。パンスト越しに触れた緋沙子の下腹部は湿っていた。汗――ではないだろう。
「なんだ、もうこんなになってんじゃん」
「違う、これは……」
もう一方の手を、ワンピースの首元から忍びこませ、さらにブラジャーの内側へと――柔らかい感触の中に、こりっとしたものを見つけた。
「んっ、やあっ――!」
「こっちも、いやらしいことになってるけど?」
逃げようとする緋沙子の体を、上から、下から刺激する。耳元では言葉でなじり、ときに唇を這わせ、彼女の快感を刺激する。
パンストの股間は、まるで直接触れているかのようにぐちょぐちょに湿りはじめ、彼女の性的興奮を伝えてきた。こたつの中で手探りに、彼女の下着の内側へと、右手を滑らせる。ぐちゅん――直に触れたそこは、やわらかな肉が蜜で水浸しになっていた。
「はあっ、やん、本当にもう――」
「あん! あ――、創真……」
やっとの思いで声を絞り出し、
「キス、して」
切なげな瞳でこちらを見た。
■06 攻守
唇を重ねる。先ほどとは違い、今度は愛欲に身を任せたむさぼるような口づけだ。舌を絡み合わせ、互いの唾液を塗りつけ、体温を交換する。手は休まず緋沙子の性感帯を刺激し続ける。
「んむっ――はあっ、あんっ!」
快楽の波は緋沙子の体を、ときおり不意に
「緋沙子――」
「好き、好きだ」
ぐいと、創真は押し倒される。畳で仰向けになると、緋沙子の心地よい体重が胸のあたりに掛かった。彼女のつややかな髪が、はらりと垂れる。
「もう、きみはいつもいつも……」
「嫌いじゃないだろ?」
「馬鹿」
言って、緋沙子は創真の唇を奪う。
「ほら、スイッチ、入ってんじゃん」
「きみのせいだ。……いつも私ばかり襲われては不公平だ。だから――」
緋沙子は創真の服をたくしあげ、
「今日は、私もしてあげる」
小さな唇が、創真の乳首に触れる。
「うおっ――!?」
ちろちろと、舌でなめ回されて、創真はなんとも言えないむず痒さを感じる。
「ふふっ、どうだ?」
「くすぐったいっつーか、その――」
緋沙子はうっとりと微笑むと、創真の乳首をさらに唾液で濡らす。もう一方の突起は、緋沙子の細い指でくりくりと刺激を与えられる。
思わず声が出る。素肌を緋沙子の毛先が撫でて、ぞわりと背筋が震える。はじめのうちは、こそばゆさしかなかったが、次第に痺れるような快感に変わっていく。
緋沙子の口元からも吐息が漏れる。
「はむっ、んちゅ――」
「くっ、緋沙子、それやばい……」
「ふふっ、男の子も乳首、感じるんだな」
嬉しそうに笑う。
気づくと、彼女の太ももが、創真の下腹部にこすりつけられていた。
「ほら、こっちもこんなに硬くなってる……創真、気持ちいい?」
「ああ……」
快感が首を絞める。緋沙子から与えられる刺激だけでは、物足りなくなってくる。このまま彼女を組み伏せて――
「駄目」
創真の考えを察したのか、緋沙子は言って、
「まだ私の番だ」
こたつに首まで入ると、創真の下半身へと顔をうずめる。
ジャージのズボンと、下着を脱がせ、すでにパンパンに腫れ上がった創真の先端を、ちろりと舐める。創真の口から、不意にあえぎ声が漏れる。
痛いほどそり立った男根の、その裏筋を少女の舌が這い回る。つうーっと、根元から先端まで、丹念に舐め上げられる。
「待て、まじでやばいって、それ」
「やばい? ふふ、でもこっちは、やめないでと言っているようだぞ?」
緋沙子は恍惚とした視線で見上げてくる。腫れ上がった亀頭をやさしく撫で、そこへ唾液を垂らし、指を絡ませ、搾り取るようにピストン運動を加えてくる。
「ほら、すごく硬くなった……創真、気持ちよさそう」
全身の筋肉が硬直し、何も考えられなくなる。
「ふふっ――」
緋沙子は妖艶に微笑むと、ぱくりとペニスを頬張った。緋沙子の口内は唾液で満たされた肉の部屋。粘膜同士が接触し、どちらの体液かわからないものが、潤滑油として機能する。
じゅる、じゅぽっ――緋沙子が首を上下するのに合わせて、いやらしい水音が立つ。
「ふうっ、んうっ――」
あえぎにも似た緋沙子の声。
奉仕するのが彼女で、されるのが彼――そのはずだが、彼女自身、まるでペニスで口を犯されているかのようだ。根元までくわえ込むと、大きくなった先端は、彼女の喉を突く。それすらも彼女は悦びに変えているようだった。
ぐぽっ! じゅぽっ――緋沙子の動きが激しくなっていく。一心不乱に創真の股間に顔をうずめ、舌による愛撫も速度を増す。
「緋沙子、オレ、もう――」
欲望の塊が、睾丸から押し上げられてくるのを感じながら、創真は苦悶の声を上げる。
緋沙子は優しい手つきでふたつの睾丸を揉みしだき、
「出して。創真の精子、私の口の中にたくさん出して」
言って、ふたたび男根を咥える。
我慢の限界など、とうに越えていた。
「んっ、ふうっ――んん」
緋沙子の口を汚したい。耐えがたい衝動は、とうとう先端から溢れた。びゅるっ、ぶぴゅっと、熱い液体がぶちまけられる。
「んっ――!」
緋沙子は、残さずそれを口内で受け止める。それでもなお、彼女は首の動きを止めない。搾り取るように、創真の竿を、唇でしごき上げる。じゅるっ、じゅぽっ――。
やがて、びくびくと痙攣するペニスから口を離すと、彼女の唇からは、唾液に混じって白いものが垂れた。ごくりと喉を震わせて彼女は、
「ふふっ、いっぱい出た」
「お前な……」
「気持ちよかった?」
「――ああ。完敗」
緋沙子は嬉しそうに笑った。