■即堕ち①:ふるえる文明の利器
ある日のこと――。
「あのさ緋沙子。こんなもの買ってみたんだけど」
「ん――?」
えりなの世話のため極星寮をおとずれていた緋沙子は、創真に呼び止められ、彼の部屋で、小さなダンボールの包みを差し出された。
蓋を開けると……
開けると。
「……なんだ、これは」
「ん、電気マッサージ器」
「…………」
こけしのような形をした、電気マッサージ器であった。
「どう――使うのだ……」
「ん、まあまあ」
言って、創真は包みから電気マッサージ器を取り出し、スイッチを入れた。独特の振動音が部屋に響く。
――ヴィイイイイイン……
「いや創真、『まあまあ』ではなくて……」
「あはは。まあまあ……」
「だから何なんだ! なぜそう低く構える!」
――ヴィイイイイイン……
「いやあ、緋沙子も最近疲れてるかなって」
創真の電マは、床すれすれを低空飛行し、緋沙子の下半身に迫っていた。
――ヴィイイイイイン……
「じゃあ肩にしろ! ほらもっと、違う場所があるだろう!」
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさか自分の恋人がここまで愚かだとは、思ってもいなかった。
「私はこれで失礼する――!」
「ちょっと待てよ緋沙子、これ、意外と高かったんだぜ」
「知るか!」
「ほら、すげぇ気持ちいいらしいぜ? [[rb:榊 > さかき]]が言ってたんだから、間違いねぇって――」
「た、ただれている!」
――ヴィ、ヴィイイイイイン……
…………。
気持ち……いいのだろうか?
「はっ!」
危ない。危ない。
あやうく、怪しい誘いに乗ってしまうところだった。
――ヴィイイイ!
…………。
電マが誘っている。
「ほらほらー、絶対気持ちいいからさ。な? オレが手伝ってやるって」
「あり得ない! 断じてありえない!」
そうだ。あんなものが気持ちいいわけがない。あんな――丸っこくて、ぶるぶる震えて、ちょっといやらしい形の、あんなものが。あんな規則的で小刻みな振動で、下半身を刺激されて、気持ち良くなるわけがない……
・ ・ ・
「気持ちいい! 気持ちいいよおっ! あっ! も、もうダメ! 創真っ、見ないで! やあっ、おかしくなりゅ! わ、わらひ、おかしくなっちゃううううう! あっ、あっ、あああああっ――!」
日々の疲れはすっかり吹き飛んだとさ。
■即堕ち②:テレフォンショッキングピンク
「おいーっす」
「なんだ、こんな時間に」
その日の緋沙子は、学業を休み、新戸家の用事で九州に来ていた。
ビジネスホテルの狭い部屋にチェックインし、制服姿のままベッドに腰かけたところで、創真から電話があったのだった。
「いや、緋沙子が寂しがってるかなって思って」
「――そんなわけがないだろう」
たった2、3日会わないだけで、寂しさなど感じるはずもない。創真の声を聞いてほっと一安心など――あるわけがないのだ。
「そうか? ふうん。オレは寂しいけどな」
「な、なにを――」
「だから嬉しいぜ。緋沙子の声聞けて」
「か、からかうな、バカ者! バカ創真!」
一人の部屋で、なぜこんなに慌てふためいているのだろう。緋沙子は熱くなった頬を押さえながら、
「よ、用事がないなら、もう切るぞ! 明日も早いのだ!」
「いや、用事ならあるぜ」
「ん――そうなのか?」
「おう。緋沙子さ――」
声を落として創真は、
「オナニー、してみてくれよ」
「お、おおおおお――!? 何を言っているんだ、きみは!」
先ほどとは違う理由で頬が赤くなる。
「聞きたいんだよ、緋沙子の可愛い声」
「バカ、バカだきみは!」
やるわけがない。
そんなはしたなくて、胸がドキドキするような真似は――。
確かに、思いがけず恋人の声を聞けて、少しは高揚している自分がいる。だが……だからといって、自分で自分のことを触るなど――しかも、その一部始終を電話で彼に聞かせる? 恥ずかしい声とか、音とかを、創真に聞いてもらって、いやらしい命令を下してもらう?
あり得ない。そんなハレンチな行為は、絶対にしてはならない。
たとえ、もう既に下半身がうずいていたとしたって……そんなこと、できるわけがないのだ…………
・ ・ ・
「ぐちゅぐちゅ! ぐちゅぐちゅいってるっ! あう、創真……すごい、指、きもちいい――! もっと、もっと言って……ん、んうっ! そう――、はあっ、き、聞こえる? 私のおまんこ、いやらしい音してるのっ、やあ、もっと、もっとかき混ぜてっ――――!」
翌朝、なぜか肌つやの良かった緋沙子は、いつもの1.5倍の速度で仕事をこなしたのだとか。
■即堕ち③:スーツ系男子
「んー、首元くるしいな、これ」
「ふふっ、馬子にも衣装といった感じだな」
窮屈そうにネクタイをいじる創真を見て、緋沙子は微笑ましい気持ちに包まれた。
十傑第七席、[[rb:一色慧 > いっしき・さとし]]の仕事についていくのだと言う創真を、新戸家にまねき、スーツを見立てている最中のことだった。
「さっきのダークグレーもよかったが、濃紺のスーツもなかなか似合うじゃないか。そうだ、こっちのネクタイはどうだろう……」
クローゼットから見繕った一本を手に、振り返った緋沙子は、
「っ――――!」
ふと、固まってしまった。
「ん――」
しかめっ面で、ネクタイを緩める創真。……なんだか、仕事を終えて帰宅したビジネスマンのような――妻の前で、『外の顔』から『内の顔』に切り替わる瞬間のような――そんな色気を、感じないでもなかった。
「さ、さあ、こ、ここ、こっちも似合うと思うぞ?」
「ん? どうしたんだよ緋沙子。顔赤いぞ」
「何でもないっ!」
「? 変なやつ……」
いぶかしがる創真からネクタイを奪うと、別の一本を彼の首に回し、胸のところで結んでやる。
「……なんかさ、こうしてると夫婦みたいじゃね?」
「ばっ――――!」
言われてみると、そんな構図である。
胸元のはだけたカッターシャツ。結びかけのネクタイ。自然、互いの距離は近い。一方の緋沙子はと言うと、制服のブラウスにエプロンという出で立ちである。
……しかし。
男子のスーツ姿に欲情するなんて、そんな単純な思考回路は、あいにく持ち合わせてなどいない。普段だらしないくせに、こうしてみると凜々しく見えるんだなぁ、なんて、絶対に思っていない。
それにまだ昼間だ。
たとえスーツ姿のまま迫られて、抱きしめられ、情熱的なキスをされたって、一線を越えることなんて、絶対にないのだ。新戸家の一室で、制服エプロンのまま創真に犯されるなんて、あってはならない。そう、絶対にあり得ないのだ…………
・ ・ ・
「んうっ! 激しいっ――は、はぁっ! そんな、後ろからなんて……やああっ! 好き、好きなのぉ――創真のこと、大好きだからっ! だからもっと、熱いのいっぱい――――!」
あつあつであった。