■05 本当の夜の始まり
「幸平創真。君の事を少し、誤解していた」
2人はベッドに並んで座った。照明は消したままなので、部屋は暗い。柔らかなヘッドボードに背を預け、枕を胸に抱いて、緋沙子はそう切り出した。
「初めて会った時は、君は粗野で、乱暴で、品性の欠片もなくて、無礼で、無知で、有害で、不遜で……」
「おい、お前な――」
「しかし、このスタジエールで私の考えは変わった。君は状況に振り回されず、落ち着いていて、柔軟な発想で課題を切り抜けてみせた」
目は合わせられなかった。膝の辺りを見ながら、緋沙子は続けた。
「君が居なかったら私は、きっと挫折していたと思う。それに何より――私が真に望んでいた事を、進みたいと思っていた道を気付かせてくれた。……感謝に堪えない。本当に、ありがとう」
謝意を示しながら、横目で創真を
彼は相変わらず軽い笑みを浮かべている。
「なんだよ、いいっての、そんなこと」
「それに……楽しくも感じていたんだ。その……今回、君と過ごした研修は。なのに……。今だって君は冷静でいるのに、私は君を避けるような真似ばかりして、嫌な思いをさせて。すまない。でも、そんなつもりはないのだ。避けるつもりは」
「ふーん。誤解ねえ。なんだ、じゃあ、おあいこだな」
「あいこ? どういうことだ?」
創真は笑ってみせて、
「オレだって新戸のこと、もっと堅物だって思ってたしな」
「堅物……」
「でも意外と可愛いところもある――っつーのが分かっただけでも、スタジエールに来た価値はあるよな」
「なっ、か――」
「不器用なとこもあるけどさ、真っ直ぐで、熱いやつなんだなって思ったぜ。それに……エプロンも似合ってたしな」
「だ、だから! 何なんだそれは! ――っ」
緋沙子が隣を振り向いた瞬間、2人の目が合った。沈黙。しばらく見つめ合う格好になって、緋沙子は自分の胸の鼓動が、今までになく高まるのを感じていた。
どうしてしまったのだろう。直視していると胸が苦しいのに、目を逸らすことが出来ない――
「新戸」
創真の真剣な声色に、緋沙子は頬が上気するのを自覚した。辺りが暗くて良かったと思った。
「――ひとつだけ、お前、まだ誤解してることがあるぜ」
「まだ? 何を――」
「オレ、全然落ち着いてなんかねーよ。この部屋に入ってからずっと、緊張しっぱなしなんだよ」
創真の左手が、緋沙子の右肩を掴む。
「あ――――」
体が勝手に、びくんと反応する。
創真の顔が、緋沙子のすぐ前に寄せられた。
「落ち着いてなんか、いられるわけねえだろ……」
「あ、や――」
左肩も掴まれ、緋沙子の体が、創真の手によって引き寄せられる。
――そっと、2人の唇が重ねられた。
緋沙子は、ただ堅くまぶたを閉じるしか出来なかった。
■06 むさぼり狂う
初めは、ただ薄皮が触れる程度の口づけだった。
しかし創真の激情は、堰を切ったように溢れ、もはや留めることは出来なかった。緋沙子はまるで固まったまま、目を閉じ、体を強張らせている。
創真は、それを解きほぐすように、何度も唇を重ねていく。
もう――我慢など、出来るはずもなかった。
創真はずっと、彼女の事を見ないようにしてきた。部屋に入る時も、風呂あがりにも、ベッドに入り込む時にだって――目をそらしてきた。
真っ直ぐに見つめてしまっては、きっと自制が効かなくなる。そんな確信があったし、実際、それは現実になった。
「んっ――はぁ……」
緋沙子の吐息が、創真の脳髄を揺らす。
お互いに、不器用なキス。
しかし繰り返すうちに、彼女の唇からは余計な力が抜け、肩に込められていた緊張も、少しだけ様子が違ってきた。
「ん、ふぅ……」
「……新戸」
一旦顔を離し、見つめ合う。
緋沙子の瞳には、湿ったような熱が満ちていた。
「やっぱお前、すげぇ可愛いよ」
「な――」
今度は、唇をむさぼるような口づけ。
互いの粘膜と粘膜が、交じり合い、絡みあうような甘い快感。
創真は、彼女の内側へと舌を伸ばす。
「――っん、うっ……!」
緋沙子の驚きが、体の震えとして伝わってきたが、構わずに儀式を続ける。舌先で、彼女の薄く、それでいて柔らかい唇を堪能する。びくりと、少女の肩は震えた。
さらに舌をねじ込む。
緋沙子はまだ戸惑っているようだが、それでも、おずおずといった風に――創真の動きに呼応するかのように、舌の動きで愛撫に応える。
ぬらりとした感触。
どんな料理でも味わったことのない、甘美で、刺激的な感覚だった。
じゅるっ、ぴちゃっ――
2人の赤い舌は、まるで蛇のまぐわいのように、互いを絡め取ろうと這い回り、擦れ合う。
「は、ふぁ――」
緋沙子は息苦しそうに声を漏らすが、容赦はしない。
――否、出来なかった。
(新戸をむちゃくちゃにしたい――)
もはやその思考だけが、創真の体を突き動かしていた。
彼女の肩を強く握っていた右手を、ゆっくりと這わせる。まずは、腕に沿って。緋沙子の両手は、胸の前で組まれたままになっている。
細い二の腕の輪郭をたどり、肘を撫で、たおやかな手首へ。そこでようやく、彼女の肌に直に触れる。
「――――っ!」
瞬間、創真の手のひらに快感が走った。
これはまったく予想外だった。ただ肌に触れただけなのに、今の創真の手のひらは、まるで性感帯のように敏感に、彼女の肌の滑らかさを伝えてきた。
「んっ、んうっっ……」
それは緋沙子も同じようで、身を捩って、小さく震える。
絡みあう唇と、ふれあう指先。
手を握りしめると、こんなにも小さいものかと、創真は改めて驚いた。
彼女の肌に、もっと触れたい。
衝動は、血液に混ざって、全身を駆け巡った。
右手は、彼女の胸元へと伸びた。
薄い布を隔て、胸の膨らみに触れる。
「あ、やっ――、そこは……」
緋沙子は体を引こうとするが――左手を背中に回し、それを許さない。
「あっ、くぅ――」
「すげぇ、柔けぇよ。新戸の胸」
「や、やめろっ――そんなこと、言うなっ……」
手のひらに収まる、瑞々しい弾力。それを優しく撫でる。どうやら布と肌とが擦れてくすぐったいようで、緋沙子は背中をうねらせる。
「やあっ……だめ……っあ!」
創真の親指が、突起物を捉えた。
「ここ、気持ちいいのか?」
布ごしにそのしこりを、一段と慎重に、しかし執拗に撫で回す。
「だめっ! それ、それ以上っ、う、あぁ――」
快感から逃れようとするように、緋沙子は首を小刻みに振る。だがその動きが、創真の欲望をさらに扇動する。
右手は、滑るように上へと動く。
緋沙子の首筋に触れる。
「っきゃ――!」
想定外の刺激に反応するように、緋沙子の顎が上を向いた。
頬に手を当て、創真はもう一度、彼女の唇を奪う。
「んっ、ふむぅ……」
深く口づけを交わしながら、右手はさらなる刺激を与えるべく、首筋を戻り、鎖骨に触れ――先ほど達した柔らかい肉を目指す。
肌を隔てる布の下。
彼女の柔肌に、直接触れる。
「――――っ!!」
そこは、熱を持った彼女の白い丘。
その先端を、中指で軽く押さえてやる。
こりっとしたその感触と、明らかに荒くなる、緋沙子の吐息。
さらに、転がすように、中指を回す。
「んんっ――、それは、本当に――、あ、う、はぁっ!」
体を支配する快感から逃れようとする緋沙子を――創真は白いシーツの上に押し倒した。