※この作品はR-18です。

秘書子とソーマ   作:タイフーンの目

9 / 20
極星寮のホットな宴(前編)

■01 逃走の令嬢

 

 遠月(とおつき)学園の広大な敷地の一角に、古めかしい洋館が建っている。そこは、学園から独立した特殊な学生寮であり、かつて遠月十傑(とおつきじゅっけつ)を始め、優秀な料理人を数多く排出し――そして今なお、料理の道を究めんとする若き獅子たちが集う梁山泊である。

 

 その名を『極星寮(きょくせいりょう)』――。

 

 この夜、ここに身を寄せる2人の少女があった。

 

   ◇

 

「……と、いうことなのだ」

 

 新戸緋沙子(あらと・ひさこ)は苦い表情を浮かべ、事情を説明する。その間、集った面々は、ひと言も発しなかった。極星寮の食堂に、重苦しい沈黙が流れる……。

 

 するとそこへ、渦中の人物――薙切(なきり)えりなが、湯上がりに頬を染めて戻ってきた。シルクのようなブロンドヘアーに、高潔な美貌を持つ少女だ。

 

「あの……お風呂ありがとうございました。感謝いたしますわ」

 

 慇懃(いんぎん)に頭を下げる彼女に、

 

「薙切さん!!」

 

 寮生たちが迫る。各々(おのおの)の目からは滝のような涙。そして暑苦しい慟哭とともに。

 

「は、はい――!?」

 

 思いがけぬ彼らの勢いに気圧されて、えりなはビクリと肩を震わせて後じさる。特に、寮生のムードメーカーである、お団子頭の少女、吉野悠姫(よしの・ゆうき)などは、

 

「いくらでも寮に居ていいからね! えりなっち!」

 

 と、号泣しながら力説する。

 

「え、えりなっち!? えりなっちって私の事?」

「そうだよう……! 困った事があったら、何でも言ってね!?」

「い、いえ、そんなに迷惑を掛ける訳には……」

「水くさいよ、えりなっち! 私たちの仲じゃん!」

「私たちの仲って……」

 

 えりなは今日、初めて家出をした。それは、彼女の父である薙切薊(あざみ)の冷酷な教育から逃れるためであり、従姉妹(いとこ)――悪友と呼んでもいいかもしれない――の、薙切アリスの手引きでもあった。

 

 しかし、確かな寄る辺(べ)のないえりなは、偶然、この極星寮に身を寄せることになり、その雨に冷えた体を、浴室で温めてきたばかりだ。彼女が極星寮を訪ねるのは初めてで、ごく一部を除き、寮生と接点を持たないえりなにとって、吉野は単なる同級生に過ぎないのだが……

 

「辛かったねえ、頑張ったねえ……!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 彼女は構わず抱きついてくる。彼女を筆頭に、寮生たちはどうにも直情型が揃っているようだった。

 

「そうだ、薙切くん。夕飯は?」

 

 寮生であり、十傑第七席の実力者でもある一色慧(いっしき・さとし)が、爽やかな笑顔で訊ねる。

 

「あ、まだ……」

「そうかい、ならば好都合だね! ……皆!」

 

 大げさに腕を振り上げ、芝居がかった調子で、

 

「極星寮にスペシャルゲストがやってきた! 大宴会と行こうじゃないか!!」

「は!? 今からですか!?」

 

 戸惑うえりなをよそに、寮の面々はすっかりと盛り上がり、せっせと料理の支度を始めた。

 

   ◇

 

 そうした喧噪を眺めていた緋沙子の肩に、ポンと手が乗せられた。

 

「あんたも風呂に入って来な」

 

 この極星寮を長年に渡って取り仕切る伝説の寮母――『極星の鬼婆』と呼ばれる女傑――大御堂(おおみどう)ふみ緒(お)だ。灰色髪をカチューシャでまとめた、険しい目つきの管理人である。だが口調は優しく、

 

「雨で冷えただろ。早く温まらないと風邪引くよ」

「申し訳ありません、私まで……。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

「気にすることないよ。あっちはしばらく終わりそうにないから、ゆっくりしておいで」

 

 ふみ緒は豪快に笑って、

 

「場所は……そうさね、おーい幸平! お嬢ちゃんを案内してやんな!」

 

 パーカー姿の少年に振り返り、声を掛ける。歩み寄ってくる彼――極星寮の住人である幸平創真(ゆきひら・そうま)だ。その姿を見て、緋沙子は複雑な表情を浮かべた。喜びと戸惑いの混じったような、何とも言えない顔。一方で創真は、いつもと変わらぬ軽薄な様子で笑顔を見せる。

 

 彼に連れられて、緋沙子は食堂を後にした。

 

 

■02 緋沙子の気苦労

 

「いやー、お前らが極星寮にいると変な感じだな」

 

 風呂場へと向かう廊下で、前を歩く創真が、緋沙子に語り掛ける。

 

「ああ、私としても予想外の展開だ」

 

 2人きりになったことで緋沙子は、幾分か気を抜いて創真と言葉を交わす。

 

「すまない。えりな様のことを頼む」

「おう。ま、何とかなるだろ。……ところで緋沙子」

 

 首だけで振り返り創真は、

 

「お前、大丈夫か?」

「大丈夫とは?」

「いや、何か顔色悪いし。寒いだけじゃないんじゃねえの?」

 

 そんなことはない――と言いかけて緋沙子は、

 

「……そうだな。君に隠し立てしても仕方ないか。このところ、えりな様のことで気が落ち着かなくてな」

 

 えりなは、父である薊が屋敷に戻ってきたことによって、見るからに怯え、衰弱していったし、とうとう外部との接触まで絶たれてしまった。

 

 秘書を解任され、主の事を、ただ眺めるしかできなかった緋沙子もまた――彼女を救えない無力感に打ちのめされ、すっかり弱ってしまっていたのだ。どうにか逃げて来たこの極星寮も、決して安全な場所とは言い切れないが――それでも、屋敷にいるよりは随分と安心できそうだ。

 

 そうした、心労と、安堵の色とが同時に浮かんでいたのだろう――。

 

「そっか、お前も大変だったんだな」

 

 2人は、まだ付き合って間もない恋人同士である。普段はどうにも抜けているような彼だが、たまに見せる鋭さに、緋沙子はドキッとさせられることも多い。

 

「いや、えりな様と比べれば――」

 

 言い終える前に、創真は緋沙子の体を引き寄せ、腕の中に抱いた。

 

「なっ!? こ、こんなところで――」

 

 恋人からの突然の抱擁に、緋沙子は目を丸くして慌てる。

 

「ホントに体冷えてんな」

「……そういう君は、随分と体温が高いんだな」

「知ってるだろ、そんなこと、とっくに」

「へ、変なことを言うなっ――」

 

 肌を重ねた時の事を思い出して、緋沙子はかあっと顔を赤くする。

 

「お、温まってきた」

「う、うるさいっ! 早く浴室まで案内しろ!」

 

 照れ隠しに吠えて、創真の体を押し離す。

 

「へいへい。こちらですよ、お姫様」

 

 ヘラっと笑い、廊下を進み出す創真。緋沙子は軽くため息をつくと、まだドキドキと高鳴る胸を押さえながら、彼の背中に従った。

 

 

■03 肉食系彼氏 

 

「ここが風呂場な」

「そうか、すまない」

 

 創真に案内されて緋沙子は脱衣所に入り、アレコレと説明を受ける。

 

「これタオル」

「ああ、ありがとう」

「ドライヤーはそっちだろ。あとは――」

「うむ、それくらいで大丈夫だ」

「そっか。よし、んじゃ入るか」

「ああ。…………ん?」

 

 緋沙子は眉をひそめる。

 

「入るかって、どういう……! ちょっと待てぇ! 脱ぐなぁ!!」

 

 すでに上半身裸だ。創真はインナーごとパーカーを脱ぎ捨てながら、

 

「いや、風呂入るんだから、そりゃ脱ぐだろ」

「まさか一緒に――」

「おう、そのほうが早いし。いやあ、オレも濡れちゃってさー」

「で、では君から先に入れば……」

「あのさ、緋沙子……」

 

 両手を彼女の肩に置き、創真は真面目な顔で、

 

「震える彼女をほったらかす男より、一緒に風呂に入って襲う男のほうが、よっぽど彼氏に相応しくないか?」

「何だその謎理論は! 最低だな!?」

「んー、ぶっちゃけ、エッチしたい」

「開き直るな! 少しは下心を隠せ! 馬鹿なのか!」

 

 息を荒くして罵倒する緋沙子。そのブレザーの襟に、創真の手が伸びる。するすると脱がしながら、

 

「ほら、早く制服脱がねえと、ホントに風邪引くぞ」

「うるさいっ! このくらい自分で――んんっ!?」

 

 創真は唇を重ねて、緋沙子の言葉を遮った。

 

「んっ! んうっ――」

 

 唇による優しい愛撫。器用な手つきで脱がされるブレザー。

 

「んっく、っは、――や、やめろ!」

 

 緋沙子は首を捻って抵抗するが、

 

「わり、やめられそうにねーわ」

 

 創真は、舌先を緋沙子の耳に這わせ、じゅるじゅると音を立てて刺激する。

 

「きゃ、ひゃあっ!! くすぐった……あぅっ」

 

 身を離そうとするが、抱きすくめられて動けない上に、耳からもたらされるむず痒さが、次第に痺れるような快感へと変わっていくに連れ――抵抗する気力すら失せていった。

 

 彼の舌は、首筋を辿る――

 

「や、あっ――! だ、だめ……」

 

 創真の指は、緋沙子のネクタイを外し、ブラウスのボタンを解いていった。彼の熱い肌が、緋沙子のことを直に温め、少女の理性を溶かしてしまう――下着の上から胸を愛撫される頃には、緋沙子は、自らの意思で彼の唇を求めていた……。

 

 そうして、薄紫色をしたブラジャーの肩紐は、ゆっくりと彼女の肌の上を滑り――2人は強く抱き合った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。