【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
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キリエは、涼介に呼び出されていた。
まさか、その途中で和樹に告白されるなんて考えてもいなかったものの――
(涼くん、なんのつもりだろう)
彼女の意識は、もう完全に涼介のほうに向いていた。
砂浜の外れで交わったあとの、涼介の行動には少し不可解なところがあった。夕方、彼はキリエの前から姿を消して、男子たちとも別行動を取っていた時間があったのだ。
一体、何をしていたのか――。
「ああ、キリエ」
夜の廊下で、彼は待っていた。
突き当たりの部屋の前だ。
「どうしたの?」
キリエは、周囲を気にしながら話しかける。
今しがた、成り行きから和樹には喋ってしまったが、2人の交際はまだ友人たちには秘密にしてある。
「いや、ちょっとね……」
彼は、廊下の照明が届きにくい位置に立っているせいでその表情が読みづらい。
危ういところがある――
と先ほどキリエが評したように、彼は、時折不可解な空気を発していることがある。今も、何か突拍子もないことを考えているような、そんな気配を纏っていた。
そして実際に。
キリエはこのあとで思い知ることになる――
「入ってよ」
涼介は、部屋の引き戸に手をかける。
「ここって――」
「いいから、早く」
「うん……」
キリエは漠然とした不安を抱きながら、彼に促されるまま部屋に入っていった。
■ ■ ■
「……師藤、あいつマジかよ」
和室の畳であぐらを掻いた1人が、口元を歪めて苦笑した。
「声とか、大丈夫か?」
「隣の部屋も俺たちのだし。大丈夫だろ」
男子部屋と女子部屋は、2部屋ずつ取ってある。建前上は『別グループ』ということになっているので、男子部屋は隣合っているが、女子の部屋は離れている。
「やっべ。昼間の水着姿、思い出しちまうよな」
「なぁ。……師藤のおかげだな。あいつが口説き落としてくれたんだろ?」
和樹はなぜか部屋に戻って来ないままだが――
「ま、あいつはこういうの、苦手そうだしな。彼女も居るんだし、いいだろ。今ごろ仲良くやってんじゃね?」
1人が下卑た笑いを浮かべたとき、部屋の扉が開かれる音がした。
それまで談笑していた男たちのあいだに、ある種の緊張が漂った。そろって息を呑み、入口のほうへと視線を向ける。
ふすまを開けて現れたのは――
ピンク色の浴衣を着た少女だった。
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「な、なんで……」
キリエは室内の情景に、身を固くした。
背後には涼介が立っている。
彼は有無を言わせぬ声音で、
「ほら、入って」
「で、でも……っ」
突拍子もないことをする相手だとは分かっていた。
けれど――
これは、キリエの想像を上回っていた。
「この部屋……なに?」
誰も居ない和室。
そこはキリエたちの部屋の、1つ上の階だ。女子部屋とも男子部屋とも違う、明らかにグレードの高い個室だった。
「他の人……いないよね?」
「当たり前じゃん。他人の部屋に上がり込んじゃマズいでしょ」
「……えーっと。どういうこと?」
まず、涼介に別の階に呼び出されたときから不審ではあった。他のメンバーは、1つ下の階でくつろいでいるはずだ。
「前に、2人で旅行したいって話したの覚えてる?」
「それは……もちろん」
「だから予約してみたんだ。いきなり2人で泊まりがけっていうのは難しいかなと思ってさ。せっかくの機会だし」
「……皆の部屋とは別に、この部屋を? 涼くんが?」
「うん。皆には内緒で」
「…………」
「キリエ?」
「ごめん、ちょっと頭痛が――」
涼介の話を詳しく聞くと、彼は少し前からこの計画を立てていたのだという。
2人きりで泊まりがけとなると、放任主義らしい涼介の家庭はともかく、キリエはまだまだ両親の許可が下りそうにない。
だから、今回の旅行を利用してしまおう、というのが涼介の企みだったそうだ。
彼が調べたところ、ちょうど男子部屋の1つ上の部屋だけが空いていたそうで――かなり値は張ったらしいが、涼介は彼個人でこの部屋を取ったのだという。
念のため彼は、午前中に皆で受付をした際には、新調した黒いキャップを目深にかぶり顔を隠して過ごした。そして、海水浴の途中にグループから離れ、1人でこの部屋を予約するために宿に引き返していた――
「……分かった。涼くんって、馬鹿なんだ」
「そう? こうして2人きりになれたんだし、天才じゃない?」
「あのね、私、本気で呆れてるからね?」
サプライズにしても無茶苦茶だ。お金の使い方も、学生のそれじゃない。というか、社会人であったとしてもおかしい。
「……これ、皆にも内緒なんだよね? 皆は――」
■ ■ ■
その頃、真下の部屋では、
「遊びに来たよー」
トランプを手にした萌を先頭に、浴衣姿の女子の一団が男子部屋に合流していた。それぞれ、夜食のお菓子などを抱えている。
男子たちからは、歓声が上がる。
「ちょ、ちょっと、周りの迷惑になるから……!」
「大丈夫だって。ここ1階だし、隣も俺たちの部屋だし」
「でも上の階とか――」
「上までは聞こえないだろ。それより、ほら座って!」
「テンション高い……」
もともと、女子たちは入浴後に男子たちと会うつもりはなかった。
親に黙って男子と旅行していることに後ろめたさが残っていた彼女たちは、せめてもの自分たちへの言い訳に、夜は男子とは会わない、と決めていた。
男子たちにとってはそれが不服だったのだが――
「師藤に感謝だな。女子を口説き落としてくれて」
「あ、変なことしたらすぐ部屋に帰るからね?」
「しねーよ。健全に遊ぶんだろ」
「当たり前ですー」
男女ともに人当たりのいい萌が全体のムードメーカーになっていて、先ほどまではわずかに下心を抱いていた男たちも、すっかり毒気を抜かれてしまった。
そして、女子たちの中には愛花の姿もある。
「志乃原さんも良かったわけ? 幸野は?」
「和樹くん、疲れちゃったんだって。隣の部屋で休むって」
「なんだ、そうだったのか。……志乃原さん、一緒に居なくていいの?」
1人がからかうが、愛花は落ち着いた微笑で返す。
「和樹くんも1人になりたい時があるだろうから」
「おお、さすが彼女だな」
ひととおり愛花たちの話で盛り上がったあと、1人が、
「師藤もうまくいくといいけどな」
と、涼介の話題に水を向けた。
「ちょっとビックリしたよな。まさか、あいつが――」
■ ■ ■
「――あいつらには、『霧崎に告白するから2人きりにしてくれ』って頼んである」
涼介が平然として言った。
「へ?」
「長時間、部屋を空けたら不自然だろ? それも2人そろって」
「そ、そうだけど」
「相川さんにも話を通してるから」
「萌に?」
「そう。キリエと2人きりになりたいって。それで、俺だけいい思いをするのも皆に悪いと思ってさ。ついでに相川さんを説得して――今ごろは、女子も男子部屋に集まってると思うよ」
涼介は微笑んで、
「まだ俺たちのこと内緒にしておきたいなら、『霧崎にはフラれた』って言っておくからさ」
「もう……本当に何考えてるのか分かんない」
キリエはへなへなと崩れ落ちて、畳に座り込む。
「そこまでして2人きりになりたかったわけ?」
「そういうこと」
涼介も、キリエの前に座った。
ふいに目が合い、ドキリとする。
「あ――」
吸い寄せられるようにして彼の腕の中に収められ、唇を奪われる。
「ん、う――ッ」
途端に、全身が蕩ける。涼介の声で、手で、唇で甘やかされるとそれだけで、キリエの芯が、かあっと熱くなり、彼のことが欲しくなってしまう。
そんな浅ましい自分をちょっとだけ嫌悪して――けれど、そんな自分を歓迎してしまう。涼介によって変えられてしまった自分を、とても嬉しく思ってしまう。
「涼、くん……っ。んっ、んっ……」
口の端から勝手に漏れる、とびきり甘えた声。
(私……またしちゃうんだ。ここで……セックス……っ、すぐ下に、皆が居るのに――っ)
下腹部から込みあげてくる熱に身を委ね、キリエはぎゅっと目を閉じた――。