※この作品はR-18です。

【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話   作:タイフーンの目

3 / 63
03 カラダが疼きを覚えてる ☆

 久しぶりに晴れた、土曜の夕方のこと。

 

(もうこんな時間か……)

 

 師藤真南可(しどう・まなか)は、壁掛け時計が18時を回ろうとしているのを見て、沈んだ気持ちになった。せっかくの休日を、無為に過ごしたことに対する自己嫌悪。

 

(夕飯、どうしよう……。食べに行くのも面倒くさいし……コンビニ、かなぁ)

 

 ひとりでいると、どうしても不摂生になってしまう。

 

 1日中、アパートの部屋でだらだらと過ごしたツケがたたっていて、空腹なのに食べる気が起きない、けれど食べないわけにはいかない――という、なんとも居心地の悪い気分だった。

 

「はぁ……」

 

 それでも意を決して、重い体で立ち上がり、近所のコンビニへと出かけようとする。

 

 そのとき、ドアフォンが鳴った。

 

 ――誰だろう? 勧誘だったら嫌だな。

 

 だが同居人あての荷物が届いたのかもしれないので、応対しないわけにもいかず、ドアフォンで来訪者を確認する。

 

 ドアフォンから聞き慣れた声が流れてきた。心臓がバクっと跳ねて、裏返りそうになった。

 

「――りょ、涼介」

 

 来訪者の正体を知って、真南可は愕然とする。そして、彼に応じるべきか、大いに悩んだ。

 

 空腹がどうのとか、コンビニに行くのが億劫だとか――そんなささいなことで思い悩んでいた数瞬前の自分を、恨めしく感じるほどに思い悩んだ。

 

 だが、もうドアフォンで応答してしまった。

 居留守ももう使えないし、このまま彼を帰らせることもできないだろう。

 

 だってこの5つ下の義理の弟は、学生とは思えないほど口がうまくて、真南可などが口先で追い返せるような相手ではないのだ。

 

(このまま成長したら立派な結婚詐欺師にでもなってしまいそうだ――)

 

 と、義姉を本気で心配させるような男だった。

 

「…………」

 

 覚悟を決めて、真南可は玄関に向かう。

 ドアの前まで来たところで、シューズロッカーに備え付けられた姿見に目が行く。

 

(…………)

 

 ノーメイクの顔。地味なTシャツ。ジャージ。気が抜けていることこの上ない格好だった。

 

 もっとも。

 真南可はもともと目鼻立ちの整った美貌の持ち主だし、肌のきめも細かく、まつ毛だってくるんと長い。間違いなく『美女』に分類される女性だ。部屋着でも十分見栄えがするほど、スタイルもいい。

 化粧をしないと幼く見られるくらいで、気にする必要もなさそうだが――彼女自身にとっては『だらしない格好』であるという事実に変わりはない。

 

(どうしよう……)

 

 今さら着替えるわけにもいかないし、メイクなんてもってのほかだ。

 

 ……いや。

 そもそも玄関の向こうに立っているのは、()()()義弟なのだ。着飾る必要なんて、何もないはず――

 

「…………っ」

 

 真南可はとりあえず、ボサボサの髪の毛をいそいそと撫でつけてから、ドアの鍵を外す。

 

「やあ、姉さん。久しぶり。来ちゃった」

「来ちゃったって、あなたね……」

 

 気さくな態度の涼介。突然の来訪にもかかわらず、悪びれた様子など一切ない。

 

 真南可の住所は彼にも伝わっていたはずだが、涼介は今まで、一度もこの部屋を訪れたことはない。

 

 真南可が家を出てから1年と3ヶ月。

 やっと、涼介のことを忘れかけていたのに――

 

「何しに来たのよ」

 

 つい、声が硬くなる。

 

「ん? 姉さん、どうせロクなもの食べてないだろうと思って。久しぶりに、専属シェフが腕を振るってやろうかなってさ」

 

 言って、スーパーの買い物袋を掲げてみせる。重そうなビニル袋には、夕飯の食材がそろっているようだった。

 

「……いきなり来ないでよ」

「いいじゃん。姉弟なんだし」

「それは――」

 

 義理ではあるが、姉弟であることに違いはない。

 ただし、正常な姉弟でないことも確かだが。

 

「……誰かが居たら、どうするつもりだったの」

「義兄さんは出張でしょ?」

「どうして、それを」

「別に、俺が探ったわけじゃないからね? 昨日、義兄さんから連絡があってさ。長期の出張が入ったから、姉さんのこと頼むって。死なないように気をつけてやれってさ」

 

 真南可はフィアンセと同棲している。

 

 その彼とは、涼介と姉弟になる前から交際関係にあった間柄で、大学に入り、互いに就職の目処が経った頃からこのアパートで同棲を開始していた。

 

 そして昨日から、彼は確かに仕事で出張中だ。明朗で、快活で、仕事にも熱心な男性。

 

 そして、人たらしであるこの義弟は、そんな真南可のフィアンセともすぐ仲良くなってしまい、今でも気軽に連絡を取り合っている仲なのだ。

 

 ――それが、真南可には恐ろしくてたまらない。

 

 いつ、フィアンセに真実を告げられてしまうのか。真南可の罪をさらされてしまうのか。それが、怖くて怖くてたまらない。

 

 ……だが、涼介のほうにはそういう気がさらさら無いようにも見えた。彼に対して罪悪感を抱いているようなそぶりは一切ないし、敵対心があるようにも、まったく見えない。

 

 誰よりも近くで暮らしたのに、彼の本心がまったく分からない――。

 

「料理って……真凜(まりん)は、夕飯どうしてるのよ」

 

 妹を引き合いに出す自分の卑怯さに嫌気を感じる。ただ、両親はどちらもほとんど家に帰って来ないので、真凜のことを心配する気持ちも嘘ではなかった。

 

「昼に作り置いてきたから、大丈夫だよ。――真凜は、姉さんよりずっとしっかりしてるしね」

「…………」

「あと、姉さんに会いたがってたよ。たまには顔見せに帰ってきなよ」

「それは――」

 

 ――どうして帰りたくないのかは、誰よりもあなたが知っているでしょう?

 

 そう問い詰めたくなったが、真南可はぐっと堪えた。

 代わりに、話題を戻した。

 

「買い物までしてきて……私が出かけてたら、どうするつもりだったの?」

「そのときは生モノだけ持ち帰って、保存できるものだけドアに掛けて帰ろうかなって」

「…………」

 

 母親より、ずっと家庭的な義弟。この気の回しかたが、本当に憎らしくて、そして――愛おしいと感じてしまう。

 

「とりあえず、上がってよ。そこに居られると、近所の人に勘違いされちゃうから」

「ははっ」

 

 この余裕っぷりが、本当に可愛くない。どちらが年上なのか分からなくなる。

 

 それにしても――

 

(背……また伸びたんだ)

 

 真南可も背が低い方ではないが、それはあくまで女性の平均的な体格というだけで、男性の中でも背の高い涼介とは比べられない。

 

 それでも、初めて会った頃はまだ真南可のほうが上背があったのに。あっという間に並ばれて、今では、涼介のほうが頭ひとつぶん高い。

 

 ――大人になってるんだ。

 

 そう思うと、義姉としての感情以上のなにかが、真南可の胸中で揺れ動いた気がした。

 

 

  + + +

 

 

「うわ。これ賞味期限1ヶ月以上過ぎてない?」

 

 まるで自宅のような気安さで冷蔵庫を漁りながら、涼介が指摘する。

 

「つ、次のゴミの日に捨てようと思ってたの」

「……で。そうやってるうちに1ヶ月が過ぎた、と」

「い、いいから……! 人ん家の冷蔵庫、物色しなくていいから!」

「義兄さんも大雑把なとこあるからなぁ。心配だよ、弟としては」

「余計なお世話よ……」

「へえ。そんな口利くんだ……」

 

 冷蔵庫の前でかがんでいた涼介が、首だけで振り返り、声のトーンを低くしてそう切り返してきた。

 

「姉さん、自分の立場わかってるの?」

 

 鋭い視線が真南可を刺す。瞬間、心臓が早鐘を打ち出した。涼介が言葉を継ぐまで、まるで蛇ににらまれた蛙の気分だった。

 

 ――が、

 

「姉さんさ、誰の料理でそこまで育ったと思ってんの? 俺、姉さんと真凜のおかげで、一時期は本気で調理師免許でも取ろうかとまで思ったんだぜ」

「な、なによ……人には、得意不得意ってもんがあるでしょ」

 

 そう返すので精一杯だった。

 心臓はまだ高鳴っているが、涼介が使える食材を探すため冷蔵庫漁りに戻ったのを見て、少しだけ安堵する。

 

 けれど。

 涼介はすぐに、また声を落として背中でぼやいた。

 

「……俺が調理師になるより、姉さんに栄養士の資格取ってもらうべきだったかな。いや、割と深刻に」

 

 

  + + +

 

 

 コンビニの弁当が並ぶはずだった食卓には、涼介の作った温かい手料理が並んだ。 

 

 簡単にぱぱっと作れるものばかりだったし、ご飯は涼介が買ってきたレトルトのものだったが――それでも、食べ慣れた涼介の味に、真南可の舌と胃袋はたいそう喜んだ。

 

 ――悔しいが、やはり涼介と過ごす時間は楽しかった。

 

 相変わらず、涼介はよくしゃべった。彼の学校のこと。妹の真凜の近況について。

 

 そして何より彼は聞き上手で、就職したばかりの真南可の愚痴を引き出してみせたり、同棲生活でのくだらないエピソードを笑って聞いてくれた。

 

 ――そうしているうちに、ついついリラックスして心を許してしまう。

 

(いけない。駄目だ……)

 

 そうは思っても、こうして、ただの姉弟として接するだけなら問題ないのではないか、と自身に言い訳をしてしまう。

 

 そこで真南可はふと、涼介の荷物に気づく。

 

「買い物行ってたの?」

「まあね。靴を買いに」

「……新しい彼女と?」

「いいや、友達と」

「そう――」

 

 それ以上は聞けなかった。姉という立場でどこまで踏み込んでいいのか――その正常なラインを、もう真南可は判断できない。

 

 今さら、どんな顔できょうだいを演じればいいのか……。

 

 

  + + +

 

 

 涼介と過ごす時間は、あっという間に過ぎた。どこまでもスマートな義弟は。律儀に食器の片付けまで手早く終わらせてから、

 

「じゃ、俺そろそろ帰るから」

 

 あっさりとした挨拶で玄関へと向かう。

 

「そう……」

 

 名残惜しさを感じてはいけない――そう自戒しつつ、真南可は大きくなった義弟の背中に付き従って見送りをする。

 

「姉さん。本当に、義兄さんが留守のあいだに餓死しないでよ」

「し、しないってば」

「栄養失調とか。逆に激太りとか」

「しないし! ……彼も、1週間で帰って来るし」

「そっか」

 

 相変わらず、真意の読み取れない笑顔だ。けれど、リラックスした彼は子供っぽい表情も見せてくれて、やはり憎みきれない。

 

 と――

 

「姉さん」

 

 不意を突かれた。

 左腕をつかまれ、引き寄せられた。

 

「あ……っ」

 

 と声を上げた刹那には、唇を重ねられていた。

 

 玄関で靴を履いた涼介は一段下に立っているので、両者の顔の高さはほとんど同じだった。

 

「ん、む……っ、やっ、涼介――っ、だめっ、んっ――」

 

 腕を掴まれたとはいっても、片腕だけだったし、涼介の手にもそこまでの力は入っていなかった。

 

 だから、本気になれば振りほどけたはずなのに、真南可はそうしなかった。

 

 それは意識してのことなのか、それとも無意識のせいだったのかは自分でも分からない――けれど、理性が本能に屈していることだけは、確かだった。

 

 何度も経験した、涼介の唇。

 優しくて強引な舌先。吐息。体温。

 

 そのすべてが真南可の体を芯から痺れさせて、冷静な思考を奪っていった。

 

(駄目……、本当に、駄目なのに……っ)

 

 脳裏には、愛しいフィアンセの笑顔が浮かぶ。

 

 ほとんど幼馴染のようにして育った彼とは、中学生になってからごく自然に交際が始まって、同じ高校に通って――そのまま、幸せな未来が訪れることを信じて疑わなかったし、実際、今のところ現実になっている。 

 

 

 ――ただひとつの誤算は、真南可が涼介と出会ってしまったこと。

 

 それも、誰よりも近く、逃げ場の用意されていない、家族として一緒に暮らすようになってしまったことだ。

 

「ぁっ、んっ……んむっ……はぁっ、んっ……」

 

 彼の唇が次にどう動くのか、舌がどんなふうに入ってくるのか、手に取るように分かる。幾度も幾度も肌を重ねた相手のことは、時間が経っても体が覚えていた。

 

 ――せっかく、家を出たのに。

 

 この関係を終わらせたくて、大事なフィアンセに涼介との関係がバレるのが怖くて、わがままを言って同棲を始めたというのに。

 

 そして実際、それは功を奏していた。

 少しずつだが涼介の体温を忘れ、フィアンセのことだけを考えられるようになったと思ったのに。

 

 そんな希望が、この一瞬で打ち砕かれてしまった。

 

(ごめんなさい……、ごめんなさい……っ)

 

 頭の中では何度もフィアンセに詫びながらも、同時に、真南可はキスの甘い快感に溺れていた。

 

 フィアンセに、不満など一切無い。

 

 真南可の欠点も受け止めてくれる頼りがいと、他人に対するおおらかな優しさと。仕事にも真面目で、誰からも愛される、これ以上ない素敵な男性――。

 

 なのに、自分はこれだ。

 

 3年前。まだ自分より背の低かった涼介に迫られ、激しく求められ、体を許してしまってからというもの、真南可はずっと、幼馴染のフィアンセを裏切り続けてきた。

 

(ああ、駄目なのに、もう、いやなのに……っ)

 

 二の腕で感じる、涼介の指の硬さ。それから、突き放そうとして涼介の胸で止まってしまった右手で、彼の肉体的成長を実感してしまう。

 

 さらには唇から、ずっとずっと忍耐してきた甘い快楽が、これでもかと流し込まれてくる。

 

「姉さん――」

「んんっ……、んっ。は、ぁっ……涼介、んむっ、んっ」

 

 いつしか真南可は、みずから涼介の唇を求めていた。――いや、いつしかなどという表現は()()()()だ。

 

 本当は、あまりの快楽に耐えられず、そして涼介のことをもっと気持ち良くしてあげたくて、自分の意思で愛撫をし返したのだ。

 

 長い長い口づけ。

 フィアンセとのあいだでは決して感じることのない、背徳的で、淫靡な口愛撫。真南可の理性は、すっかり溶けて流されてしまった。

 

「――あ、むっ……。涼介?」

 

 突然キスを切り上げて涼介は、

 

「今日は、元気そうな姉さんの顔が見れて良かったよ」

 

 そう言うと、腕の拘束を解いて真南可を自由にした。

 

 切ないほどあっさりと、彼は帰っていく。

 

 それを引き留める理由など――引き留めていい大義など、真南可は持ち合わせていない。

 

「じゃあね。また来るから」

「――う、うん」

 

 去って行く義弟のことを見送ってから、激しい罪悪感に苛(さいな)まれた。

 

 なにが「――うん」だ。再会の約束なんて、許されるはずがないのに。

 

(私は……また……)

 

 快楽に身を委ねて、流されてしまった。

 この最悪な気分は、以前にも、いやというほど味わったというのに。

 

 涼介と初めて肌を重ねた日。

 

 恋人のことを思いながらも、義弟の情愛にほだされる自分が、気持ち良くて気持ち良くて仕方がなかったこと。

 

 その日以来、涼介のことを自室に誘ってみずから求めてしまったこと。

 

 髪を結わえて欲しいから――などと強引な言い訳をつくって、2人きりになり、唇を重ね、服を脱がせ合い、体液を交換して、激しく果て合ったこと。

 

 ――そして、そのたびに押し寄せる、強い悔恨の念。

 

(あ、ああッ――……)

 

 そのすべてがとびきりの快楽を与えてくれることを、真南可のカラダは思い出してしまった。

 

 ――もし、あのまま涼介に求められていたら。彼に迫られて、その場に押し倒されていたら。

 

 フィアンセと暮らすこの部屋で、真南可は彼のことを受け入れていただろう。あの気持ちのいいセックスを何度も何度も味わって、ねだって、しがみついていただろう。

 

 彼と2人で寝ているベッドに涼介を連れ込んで、何度も何度も腰を振っていただろう。

 

(私、わたしはっ……、ごめんなさい、ごめんなさい……っ)

 

 火照りきった体を抱きしめて、廊下にうずくまる。

 

 涙をこぼしつつ、リビングを振り返る。1年以上、愛する人と暮らしたこの部屋なのに、今、目に浮かぶのは涼介の姿ばかり。

 

 さっきまで共にしていた食卓。キッチンに立つ彼の姿。真南可を呼ぶ優しい声。手のひらの温度。唇。声――

 

 もう、何もかも駄目になってしまった。

 これまでの忍耐も。決意も。

 すべてが無駄になった。脆くも崩れ去ってしまった。

 

(ああ、――ああっ……!)

 

 フィアンセには、絶対に告白できない。

 この罪悪感を抱えたまま、ずっと生きていかなければならない。

 

 そう考えると――

 

「ッ――、っっ…………!?」

 

 腹の奥が、強烈に疼(うず)く。

 

 はしたない欲望に、柔肉が濡らされ、じくじくと灼(や)き尽くされてしまう。

 

「は、ぁッ……はぁっ……!!」

 

 きっと、この地獄は続く。

 結婚しても、いつになっても。永遠に、永遠に続く。

 

(涼介……、涼介っ――……)

 

 許されない関係に思いを馳せて、真南可は激しく悶えた。

 

 それが恐怖によるものなのか、それとも喜悦によるものだったのかは、彼女にも分からなかった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。