【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
7時、17時、23時ごろ予定。
あの日から拓真は、しょっちゅう家に来るようになった。
野球部の活動から引退してからは特に。最後の夏は地区予選の準決勝で惜しくも敗退し、拓真も真南可も涙して部活動から身を引いていった。
それまで放課後も休日も野球に捧げていた時間は、丸々そっくり2人の蜜月にあてられた。
「拓真っ、それ感じちゃうから……っ」
彼の家でセックスすることもあったが、より多いのは真南可の部屋だった。2人して部屋に籠もっている時間が長くなっているから、さすがに涼介には行為を疑われているかもしれない。
でも――それでもやめられなかった。
部活のために節制していたぶんまで性欲に変わって溢れ出るようだった。拓真も、真南可も――。
■ ■ ■
『家族』との生活も変わった。
あれ以来、涼介とすっかり打ち解けられた。少なくとも自分ではそう思っている。
「姉さん」
そう呼ばれるのも気分が良くなってきた。
あんなによそよそしい態度だったのに、ひとたび軟化すると彼は意外にも人懐っこかった。
それに、
(やっぱカッコイイし)
大人びてはいるものの、その秀麗な眉目にはまだ年相応の中性的な雰囲気が残っている――他のツテから聞くところによると、彼は同級生や、ときに先輩の女子からも『王子様』だなんて呼ばれているらしい。
……実際は、高貴な雰囲気なんてないんだけれど。
家の中での『素』を知っているという優越感。涼介が無条件に笑顔を向けてくれるという愉悦感。
そんな彼の視線をもっと向けられたくて、真南可はときどきイタズラをする。
入浴後にはあえて無防備な姿で彼のそばを通ってみたり。上半身には下着をつけずにタンクトップ1枚と、際どいラインまで太ももが見えてしまうホットパンツで。
「またそんな格好して」
「だって。家なんだし、しょうがないじゃん」
「俺も一応男なんだからな――」
気まずそうに目を逸らす義弟が可愛い。
これまでも発育のいい胸に男性の視線を感じることは多く、そのたび居心地の悪さを覚えてきたけれど――初体験を済ませてからは心の持ちようが変わってきた。
拓真はこの身体に夢中になってくれる。こうして『クールな王子様』を煽ることだってできる――自分が魅力的な『大人の女』になっているんだと実感できて、いい気分だった。
「家族にしか見せないんだし、いいでしょ」
「真凛がマネするから。気をつけてよ」
「はーい。ふふっ」
「なに?」
「涼介もすっかり『お兄ちゃん』だなぁって」
「なんだよそれ……」
涼介は不服そうにこちらを睨むが――真南可の身体を見て、またすぐにそっぽを向いてしまう。
(こういうところは年下くんだなぁ)
しみじみとして、胸中でほくそ笑む。
彼を翻弄することが、真南可の楽しみのひとつになりつつあった。
生活の変化といえば、料理はもっぱら涼介が担ってくれていた。
母はもともと食に関心がないほうだったが再婚してもそれは変わらなかったし、師藤家のほうでも涼介の父は家事に無頓着らしかった。
――そもそも、父と母は最近あまり家にいない。
深夜には帰宅しているが朝には仕事に出ていってしまうし、家族全員で食卓を囲んだのなんて数えるほどだった。
そして真南可も、食べるのは好きだけれど料理するのは大の苦手だ。
だから自然と彼が担当してくれていて、
「そんなことより姉さん。ジロジロ見てないで座っててよ」
真南可は真南可で、キッチンに立って見事な手際で調理する義弟のことを、カウンター越しに眺めてしまう。
「だって暇だし」
「邪魔」
「えー、ひどいなぁ」
なんて言いながらも、胸元のざっくり開いたカットソーで彼を挑発し続ける。
「……真凛。この人の代わりに手伝ってくれ」
彼がチラリと振り向く先には、冷蔵庫に背をもたせかけて真凛が立っている。不機嫌そうな表情だったが、
「――どうして私が」
ぶつぶつ言いながらも涼介の隣に立って、言われるがまま包丁を握る。
「そう。もっとゆっくりでいいから、左手は絶対に切るなよ」
「…………」
優しく教える兄と、無言のまま従う妹。
なんだか微笑ましい光景だった。
「涼介はさ、なんでそんなに料理うまいの? モテるから練習した?」
と、からかってみる。
顔をあげた涼介はニコニコとした表情で、
「周りがしないからじゃない?」
「う」
こういうところは可愛くない。でもまあ、自分も悪いなと反省する。
「ずっと料理してたの?」
「父親がしないからね。母親
彼の場合、今の母親で3人目――と聞いている。
涼介の表情から感情は読み取れない。怒ってもいないし、悲しんでも、寂しそうでもない。もちろん、本心は分からないけれど。
チラリ、と真凛が横目で涼介の顔を伺っている。
「真凛、集中」
「…………はい」
素直に応じる妹。こういう真凛の姿は見たことがない。母親に対しても棘のあるタイプだし、真南可には心を許してくれているが、それとも態度がなんだか違う。
従順――
そう、従順になっている気がする。
少し嫉妬だ。自分にしか懐かなかった子猫が、ごく短期間で他の人間に寄り添っているような。まあ、いいことであるのに間違いはないのだけれど。
それに、自分が家事無精なせいとはいえ、涼介が真凛にばかり構うのも何だか悔しい。
「私も料理しようかな――」
ぽつりと言って涼介の反応を確かめるが、
「それは勘弁してよ。仕事が増える」
「なっ!? わ、私だってちょっとは……食器だって洗ってるでしょう?」
「食器洗浄機が、ね」
「うぅ……っ!?」
「――ふっ」
漏れた笑い声の主へと、涼介と一緒に目を向ける。
真凛だ。
滅多に笑わない少女が、小さく吹き出していた。
「…………。なんでもありません」
まな板と向き合ったままだし顔にも出さないが、どうやら照れているらしい。
涼介と目を見合わせて、笑う。
(え、楽しいんだけど)
――気づけば。
涼介のおかげですっかり家が楽しくなったし、彼を中心にこの家は回っている。それが何だか心地良かった。
順風満帆だ。恋人との関係も、義弟との関係も。
……ただ、もうちょっと。
義弟とはもう少し距離を詰めてみたい。この、誰もが
(姉として――、そう姉として、だよね)
心の奥にわき起こる『悪い感情』を誤魔化すように、真南可は胸中でつぶやいた。
■ ■ ■
きょうだい3人だけの夕食も終わり、姉妹たちのあとで入浴を済ませた涼介は、髪を乾かして脱衣所を出た。
廊下はシンと静まり返っている。
両親は帰宅していないし、真凛は1階にある寝室に――真南可は2階の自室に入っているらしい。
あいにく、静寂には慣れている。
――水槽の底にいるみたいだ。
と、涼介は自分の家をそのように感じることが多い。静かで、整っていて、人工的な光だけが照らす狭い世界。
……最近は異物が転がり込んできたけれども、それには慣れている。慣れているはずだ。
物音で2人を起こさないよう階段を昇っていくと、キィ、と音がしてドアが開いた。真南可だった。
「……姉さん?」
どうやらこちらの微かな足音を聞いて部屋から出てきたようだ。義姉は――真南可は、
「ちょっと涼介と話したくて」
後ろ手にドアを閉めて、ちょっと甘えたような視線を向けてくる。
「いいけど……今日も姉さんが皿を割った話?」
「そ、それはさ!? まだ2回目じゃん!?」
「まだ割る気?」
妹の真凛とは性格がだいぶ違う。手先の器用さも、繊細さも。無警戒でがさつなところがあるが、愛嬌でカバーするタイプだ。
「そんな話じゃなくてさ。いやぁ、最近涼介って、いい雰囲気だなと思ってさ」
「どうしたんだよ急に」
「ほら最初はあんな冷たかったじゃん」
「ああ、アレね――」
べつに真南可たちを毛嫌いしていたわけではない――きょうだいが増えようと涼介にはどうでも良かった。
「すぐに出て行くかもしれない相手に、愛想を振りまく必要はないと思ってね」
「え――」
父が再婚したのはこれが初めてではない。涼介の実母も、その後にやって来た1人目の義母も長く持たずに去っていった――父親は1人の女性を愛するのに向かない性格だ。だからすぐに破局する。すぐに代わりを見つけてしまう。
そのことを涼介はよく理解していた。つまり『新しい家族』に取り入ったところで、涼介に特にメリットはない。
「それに、ああいう態度のほうが父親も喜ぶ」
「……義理のきょうだいと仲悪いほうが?」
「っていうより――」
父親に反抗的な態度を取ることが、だ。
あの男は、子どもなどに興味はない。出来れば世話なんてしたくないと思っている――『反抗期の息子』を演じていれば、彼も余計な家族サービスをせずに済む。
「――『反抗期だからそっとしておいたほうがいいんだ』とか周りに言い訳できるだろ。姉さんたちの母親にも、そういうことを言ってると思うよ」
だから、彼が望むように振る舞う。
他人が望むものを読み取って演じるのは得意だ。家でも、学校でも。ありのままの自分がどうだったのかなんて覚えていない――いいや、生まれてからこれまで、『自分』なんてどこにもいなかったのかもしれない。
「そんな……」
ショックを受けているようだった真南可の表情は、憐れむようなまなざしに変わる。
(……いらないんだけどな、同情とか)
きょうだいが出来たのは初めてだったから少し興味はあった。
どんなものかと観察をしていた。
真凛の冷めたところは自分に似ていると思った。血縁はなくても、『妹』だと素直に受け入れられそうだ。
真南可は――
「あのさ、涼介。甘えたくなったら甘えてもいいよ。いちおう私、年上だしさ? 寂しくなったら甘えても――」
彼女は自身の魅力に自覚的だ――いや、ここ最近で覚えた、というべきか。拓真とのセックスで、男に求められる快感を知ってしまった。
だからあえて無防備に装って『義弟』のことまで挑発してきている。年下の男子を誘惑するのが楽しくて仕方ないらしい。
でも彼女は――相手を選ぶべきだった。
「姉さん。『甘える』って?」
「まあ寝付けないときは話し相手くらいにはなれるよ。部屋も隣だし――」
「……そう」
薄暗い廊下で。
彼女の意識の外。
涼介はすばやく距離を詰めると右手で真南可の頬を愛撫し、首をかたむけ唇を奪った。
「えっ? んッ――!?」
戸惑う真南可の唇を自分の唇で押さえ込む。抱きしめた柔らかな肌には、ボディーソープの甘い残り香があった。
「な、なにを、涼介……」
怒りを浮かべる余裕すらないらしく、義姉の顔には困惑ばかりが広がっている。
「言ったでしょ。俺だって男なんだよ、姉さん」
涼介は言葉を選ぶ。
彼女を追い詰める言葉を。真南可が悦ぶ言葉を――
「いつもそんな格好して、俺の視界に入ってきて。耐えられると思う?」
「あ、ぅ……っ」
「姉さんがそう言うなら甘えさせてもらうからね――これからも」
「え、あ」
「おやすみ。――姉さん」
真南可の横をスルリと通り抜け、涼介は自室に入った。