【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
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「おはようございます、兄さん」
「おはよう。食事できてるぞ」
月曜の朝から師藤家の食卓を囲むのは、兄妹2人だけだ。
父はゆうべ遅く別々に帰ってきて涼介たちと顔を合わせることはなく、今朝は今朝で、すでに家を出てしまっている。母はどこに泊まったのか、家には帰ってきていない。
涼介は父と入れ替わるように1階に下りてきて、ごく簡単な朝食の準備を済ませていた。
「真凛が進学したら、弁当も作らないとだな」
「兄さんと同じで、買い食いで構いませんよ」
すでにセーラー服に着替えている真凛が、ダイニングチェアに行儀良く着座しながら応じる。
「それとも私が作りましょうか、兄さんのぶんも。
「曖昧?」
「愛しの妹と書いて
「変なこと言ってないで、さっさと食べるぞ」
「本気なんですけど。愛情と情念たっぷりな、おそろいのお弁当」
などと他愛のない会話を交わしながら、ダイニングテーブルで向かい合い、兄妹で朝食をとる。目玉焼き、味噌汁、炊きたてのご飯。涼介にとってはもはや手癖で作れるものばかりだが、真凛はいつも美味しそうに平らげてくれる。
「――そういえば。あんまり気を回しすぎるなよ」
「なにがです?」
「昨日もだよ」
キリエが家に来ることを察すると真凛は、涼介も気づかぬ間に家を出て、2人きりにしようとする。
「ふふ。だって、そのほうが集中できるでしょう? それとも、たまには私がいたほうがセックスに背徳感が増しますか?」
秋晴れの朝には似つかわしくない、そして可憐な外見の美少女が口にするべきでない言葉をさらりと言ってのける。
これもまた日常のことなので、涼介も妹をたしなめるようなこともしない。
「キリエも会いたがってるんだよ」
「……私にですか?」
キョトンとする真凛。
「そんな気づかいなんて。2人きりの時間を楽しめばいいのに」
「いやキリエは――彼女、本気で残念がってたよ。今日は真凛ちゃんと会えると思ったのに、って」
キリエの場合、家族に取り入るなどという
「参りましたね、兄さんから恋人を奪ってしまうかも」
「そのときは妹が相手でも手加減しないけどな」
「うわぁ……! 逆に興味が湧いてきました」
真凛が大きな瞳を爛々と輝かせるのを見て、
(余計なことを言ったな……)
と、涼介は珍しく失言を反省した。
あまり刺激すると、この義妹は本気で兄の恋人にすら手を出し兼ねない。
「兄さんにズタボロにされたいです……私、どうなっちゃうんでしょう――」
「おまえの性癖はどこで歪んだんだろうな」
自分にも責任の一端はあると自覚しつつも、取りあえずボヤいておいた。
「しかし、兄さんもすっかりキリエさんにご執心ですね。……ああ、私にも『姉さん』が増えそうで楽しみです」
「飛躍しすぎだ」
味噌汁を飲み干してから涼介は、
「その前に『先輩・後輩』になってもらわないとな。勉強のほうはどうなんだ?」
まだ9月だが、キリエのことから話題を逸らすため、あえて親父臭い説教を選んで投げかける。
「もちろん順調です。――そうですね、そろそろ
「…………。通る前提なんだな」
試験勉強どころか、入学後の予習にまで進んでいるらしい。
我が義妹ながら、ここまで才色兼備で謙遜もしない性格だと、さぞ敵も増えることだろう――と心配にはなる。
無論、その程度の障害につまづくような妹でないこともまた、承知していることだが。
「家族3人での学校生活、楽しみですね」
「……遅刻するなよ」
妄想に耽溺し始めると手が付けられなくなるので、放っておいて食器の片付けに移る。
キッチンで皿を洗いながら涼介は、真凛にも聞こえないほどの声で、
「――家族、ね」
実感の伴わない言葉をポツリとつぶやいた。
■ ■ ■
「ねえ、見て見て」
昼休み、クラスで机を合わせ4人で弁当を食べていたキリエは、隣の友人から差し出されたスマホの画面に目を落とす。
「――彼氏?」
「そう! これメッチャよく撮れてない?」
画面には、その友人と年上らしき男性が映っている。背景はどこかのカフェテラスだろうか。それも夜。おしゃれな皿に盛り付けられたイタリアンを挟んで、仲良さそうに顔を寄せ合った2人が自撮りした写真だ。
「相手って大学生、だっけ」
「うん。もうね、ヤバいよ。知らないところたくさん連れていってくれて――」
この友人からは、2学期に入ってからというもの、ずっとこの調子でノロケ話を聞かされている。彼とは夏休みから付き合い出したという。
まあ、愚痴を聞かされるよりは幸せな話のほうがまだ微笑ましいものだ。
「……でね、ここも奢ってくれちゃって。車で家まで送ってくれて……!」
などと浮かれる彼女に、他の友人が意地悪な笑顔でたずねる。
「襲われちゃったりしないの?」
「えー、それは秘密かなぁ」
「うわ、出た~。ヤってるね、これは」
「きょ、教室でそういう話は……」
つい自分の頬まで赤くなってしまうキリエは一応たしなめるが、
(人のこと、言えないけど……)
と、自身を省みる。
夏休みに恋人ができた。デートもした。肌も重ね合った……昨日だって、たっぷりと。浮かれ気分なのは、自分も同じだった。
果たせるかな、話の矛先が今度はこちらに向けられた
「キリエはどうなの~? 師藤くんとさぁ」
「…………っ!」
友人2人から、ニマニマとした顔を向けられて狼狽してしまう。
「わ、私は――っ」
火照りながらも目だけで教室内を見回す。
クラスメイトたちはおのおので昼食をとったり、しゃべっていたりと、こちらを気にする様子はない。涼介も、男友達らと先ほど教室を出て行ったので姿はない。
「私たちは、別に……っ」
「『たち』だって!」
「どーなの、どーなの!?」
ただでさえ恋愛トークは苦手なのに、自分のこととなるとなおさらだ。キリエが困っていると、向かいに座っている親友――
「はい、そこまでー。キリちゃんへの取材は私を通してくださ~い」
ショートカットの愛らしい女の子。人の話をさえぎるときすら、その愛嬌から嫌みなところなどまったくない。
(萌……)
助かった。キリエはほっと胸を撫で下ろすが、話題はすぐには終わってくれない。
「えー、今みんなが注目してるカップルなのに」
「そ、そうなの? なんで――」
「なんでって。そりゃあキリエは男子人気ナンバーワンだし」
「――!? 初耳なんだけど」
「……まったく、これだから」
「そこがキリちゃんの良いところだけどね~」
これには萌も乗っかってくる。
「キリちゃん、本当に自覚ないから。私が男だったら、真っ先にキリちゃんをさらってるね!」
「取り付く島がなさそうだったから、諦めた男子はいっぱいいるんだよ?」
本気で初耳だ。
……しかし確かに、前は『幼馴染み』のことしか目に映っていなかった。他の男子のことなんて恋愛対象として見ていなかったから、そんな心持ちが態度に出てしまっていたかもしれない。
「気は強いけど、キリちゃんって本当は素直で可愛いもんね~」
「おまけにこの胸! 育ちすぎー」
「ちょ、ちょっと……!」
つい胸をかばう。
まだ夏服のこの時期、薄手のブラウスで強調されてしまうバストが目立っていることは……そのことについては一応自覚がある。男子たちが、胸の膨らみに目線を送ってくることも感じている。
正直、勘弁して欲しいと思う。
目立ちたくて目立っているわけではないのに。
ただ、
(涼くんに見てもらえるのは嬉しいけど……)
昨日、彼の部屋でじっくりと愛撫されたことを思い出しそうになって、慌てて首を振る。
危ない。
こんなところで発情していいワケがない。
「それに相手が師藤くんでしょ? そりゃみんな気になるって」
「師藤くん、大人っぽいもんね~」
「ウチの彼氏といい勝負。うん、師藤くん『推し』の子は山ほどいるから。気をつけなよ?」
などとからかってくる友人たち。
「そう言われても――」
何をどう気をつけていいやら。
交際をオープンにしてからは、教室でも普通に話す。涼介はまだ気を遣って『霧崎』と呼んでくれるし、自分からも『涼くん』などとは呼ばない。
そのくらいの距離感で精一杯だ。
さっきの彼女のように恋人を見せびらかすなんて、そんな大胆にはなれない。学校で話すだけで、まだ照れてしまうというのに。
「……アイツって、そんなにモテる?」
「モテるモテる!」
「特に1年ね。もう何人も告白してるらしいよ」
「3年の先輩にも師藤くん狙いの人いるって、よく聞くし」
「へ、へえ……」
平静を装うとするが、やはりうまくいかない。
この気持ちはなんだろう。
嫉妬のような、自分の恋人が褒められて嬉しいような……ともかく、居心地が悪い。
「他校の女子にまで狙われてるから。ガチで気をつけなよ」
「う、うん」
「大丈夫だよキリちゃん」
のほほんとした笑顔で萌が言う。
「私が見る限り……あと、ウワサで聞く限り、師藤くんってキリちゃんのことしか目に入ってないみたいだから」
「そんなこと――」
「あるんだよ、あるある。告白した子、みんな撃沈してるんだって」
「あ、それは私も聞いた。てか、見た」
「なんか最近の師藤くんって、なんか雰囲気変わったよね」
「キリちゃんに一途になったからだよ」
「恋は人を変えちゃうのか~」
「だね。間違いない」
なんだか、キリエを蚊帳の外にして3人で盛り上がっている。
しかし非常にマズい。
こんな話を聞いていると、耳まで熱くなってしまう。ウワサはウワサだし、どこまで本当のことかなんて推し量れないけれど――
(こういうのが、『付き合う』ってことなんだ……)
初めてできた恋人。初めての交際。
からかわれるのはある程度覚悟していたとはいえ、いざ渦中の人になってみるとやっぱりむず痒い。
「いや、何度も言うけど気をつけなよ? 獲られないようにもだけど――師藤くんにフラれた子から、恨まれたりとか」
「う――」
「校内でイチャイチャしすぎないように」
それは嫌だ。
別に見せびらかしたいわけでも、マウントを取りたいわけでもないのだけれど、相手からすればそんなことは関係ないだろう。
「しないから!? 絶対、ない! てゆーか外でも……し、してないから!」
「キリちゃん、顔に出すぎ~」
「バレバレだね」
「うんうん」
「でも大丈夫! キリちゃんのことは私が守るから!」
と、萌が胸を張って、
「私はキリちゃんのナイト様だから、ね!」
「じゃあ師藤くんは王子様かぁ」
「キリエ姫、私にも何かおこぼれを――」
「……っっ! この話、もうよくない!?」
キリエが顔を真っ赤にすると、友人たちはひとしきり笑って、またスルスルと次の話題に――クラス展示である脱出ゲームの話に移っていってくれた。
安堵しながらもキリエは、まだ余韻を引きずっている。
(なんだろこれ、恥ずかしいし疲れるし……!)
けれど、ちょっぴり嬉しい。
そんな複雑な気分。
(でも『気をつける』……それはそうかも)
校内では、夏休み明けのテストも終わっておりすっかり文化祭に向けて浮かれた雰囲気になっている。
涼介との関係で周囲に波風を立たせないようにしないと……。
あらためてキリエは、心にそう刻んだ。