【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
■ ■ ■
文化祭の準備も佳境に入ってきた。
あの日以来、キリエは放課後にクラスTシャツに着替えるだけで涼介との情事を思い出し、スカートの中で下腹部がじわっと疼く。
(変態じゃん、私……っ)
教室で作業が進む中、自分だけが淫らな熱に浮かされていることが恥ずかしい。
(涼くんのせいだ……!)
と、ここに居ない彼のせいにしないと鎮まりそうになかった。
涼介は部活組。
クラスの準備だけでなく、部活動によっては文化祭のステージで自発的にアピールを企画することもある。
「師藤くんって、バスケ部だったんだね」
「え。あ、うん」
クラスメイトの声で我に返る。
「中学の頃はサッカーやってたけど、背が高いからって先輩にスカウトされて、高校からはバスケ部だって。ヤル気はないから幽霊部員らしいけど」
「へー。流石カノジョ、詳しい~」
「そ、そんなんじゃないって……!」
ヒジでつつかれ顔が赤くなる。
しかしこの話は本当に、付き合いはじめる前から知っていたことだ。なにせあの頃――涼介に絡まれるようになってからは毎日のように彼から話しかけてきていたし、スマホにメッセージも頻繁に届いていた。
ほとんど聞き流していた話題の中に部活動の遍歴もあり、それで何となく覚えていただけに過ぎない。けっして『カノジョ』の特権で知り得た情報ではなく、彼も隠しているわけでもないから周知の事実……のはずだ。
ちなみにバスケ部は動画を製作してステージで流すらしい。今日はその撮影に呼ばれて、幽霊部員ながらも涼介は参加しているところだ。
「バスケ部か~、言われてみれば似合うね。ユニフォーム姿とか格好良さそう」
「そう……かな」
ふと想像してみる。
涼介はスラリと背が高いだけでなく手足も長い。バスケットボールを抱える姿も
「~~~~~っっ!?」
「キリエちゃん、どうしたの?」
「な、なんでもないっ!」
妄想してしまった。彼の裸と、そんな彼に責められる裸の自分を。
「早く作業進めよう、私たちのクラス遅れてるからさ……!」
太ももがじっとりと汗ばんでくるのを誤魔化すためにも、話題を変える。しかしそんなキリエの内心など知る由もない友人は、
「あはは、真面目~。気にならないの? バスケ部って確か女子マネージャーもいるし、女子バスケ部とも合同なんでしょ。師藤くん、人気だと思うよ?」
「……別に、なんとも」
我ながら、いまだ素直になれないなと思う。
指摘されれば気になってしまう。
女子たちに囲まれ、あのチャラい笑顔で楽しげに話す姿――。
顔に出さないようにと努力しても、つい表情が陰ってしまう。
涼介のせいで気分が浮いたり沈んだり、無駄に忙しい。落ち着かない。
いつのまにか自分の中で彼が占める割合が大きくなっている。
(自己嫌悪……)
彼にだってコミュニティがある。その中で他の女子と話すことだって必要だろう。キリエが咎められるものではない。
――嫉妬を感じることにも、その感情自体にも嫌悪を覚えてしまう。
「はぁ……」
「どしたの? 気分悪い?」
「ううん、平気」
「そう? キリエちゃんいないとウチのクラスまとまらないからね、倒れられたらヤバいよ」
キリエは別に委員長でもないのだが、何だかんだと世話を焼いてしまう性格のせいか、気づけばこの『脱出ゲーム』づくりにおける中心人物の一人になっていた。
(変なこと考えてる場合じゃないよね)
と、肩を落としながらも作業に取りかかろうとしたとき、スカートのポケットでスマホが振動した。
取り出して見て見ると、
「――あ」
涼介からだ。
メッセージはひと言。
『撮影だるい』
外面はいい涼介だ、部活の仲間にはやっぱりいい顔をしてるんだろう。でも、キリエにはこうして愚痴ってくる。
つい顔がほころびそうになるのを我慢しつつ、打ち返す。
『真面目にやって』
『こういうときくらいしか働かないんでしょ』
スイスイと指が動いていた。彼とのやり取りは、すっかり身体に馴染んでいる。
すぐに返信が来た。
『厳しい……』
『もっと俺を甘やかしてよ』
『ダメ』
『ウチは厳しく育てる方針だから』
『子ども!?』
『手の掛かる子ども』
『くっそー』
『キリエのほうが子どもっぽいだろ』
『私は大人ですー』
益体のないなやり取り。
でもそれが楽しい。
撮影の合間でもわざわざコミュニケーションを取ろうとしてくれることが、嬉しい。
『そうだ』
『明日、うち来てよ』
急な誘い。
明日は平日だが、午後から学校は休みになる。
中学の教諭が来校し、学校説明を受けるらしい。教職員がその対応にかかるため、生徒は午前の授業が終わると部活も文化祭の準備もなく、そのまま家に帰される予定だ。
『明日?』
『なんで』
『部活の撮影がんばったご褒美』
『まだ頑張ってないでしょ』
『これからがんばるから』
『だから明日は甘やかしてよ』
『やっぱ子ども……』
『子どもでいいからさ』
『な?』
『仕方ないから』
『行くけどさ』
『やった!』
ここまでほんの数十秒、文字だけの会話――なのに彼の表情まで容易に思い浮かべることができた。
そして、そんな彼の顔を想像するだけで、いつのまにか上機嫌になっている自分がいる。これはもう、言い訳のしようがないほどドツボにはまっている。
嫌な気は――しない。
「霧崎さん、これってどうするんだっけ?」
「あ。うん、それは入口の――」
スマホをポケットにさっと仕舞って、キリエは仕事に戻る。
自分でも分かるくらい、声も、身体も、軽くなっていた。
■ ■ ■
翌日。
授業は予定どおり午前で終わり、学校から解放された。その足で涼介は、制服のままでキリエを連れて、近所のスーパーマーケットを訪れていた。
買い物カゴを手に、隣のキリエにちょっかいをかける。
「いやー、こうしてると夫婦みたいだよな」
「……全然。別に、こんなの……」
と、口ごもる彼女は目を合わそうとしないが、分かりやすく頬が紅潮している。意識しているのは明かだが、いつものように素直じゃない。
(思ったとおりのリアクションだな)
涼介は胸中でほくそ笑んだ。
照れたキリエの姿を至近距離で眺められる――
(最高の娯楽だよなぁ)
恋人の特権を存分に発揮しつつ、昼食の食材を物色する。
「……手慣れてるね。次、なに買うの?」
「パン粉がないんだ。あっちの棚に行こう」
「うん」
放任主義が極まっている両親のおかげで、また、義姉妹のためという事情もあって中学生の頃から料理をしてきた涼介は、この行きつけのスーパーのことは熟知している。
一方でキリエは、あまりこういった経験は少ないようだ。
こちらのリードに従い、そばに付いてくる。
「手、繋ぐ?」
「……!? い、いいって! ほら買い物できなくなるじゃん……!」
「そうか、残念」
軽口を叩くだけで頭から湯気をふかしそうなほど慌てる、初々しい恋人。
(ヤバい、俺もちょっと浮かれてるな)
真凛とはこうして買い物をしたことはあるが、彼女はまったく末恐ろしいというか何と言うか……自分から腕を組んできては、『私たち、夫婦みたいですね』なんてみずから発言するような少女だ。
――あれはあれで面白くはあるのだが、キリエとの時間はやっぱり新鮮だ。
本当に、新婚夫婦にでもなったような気分がする。
「でもさ、マジでハンバーグで良かった? もっと手の掛かるものでも俺、平気だけど」
「だって……好物は何かって聞くから」
「小学生男子みたいなチョイス」
「っっっ! 涼くんも好きって言ったし!」
「うん。好きだよ、大好き」
売り場の通路でキリエが声を張り上げたせいで、周りの客がチラチラとこちらをうかがっている。
――前後を知らない他人が聞けば。
好きだ、自分も好きだ……と、若い男女が会話のラリーをしているわけで。
「あ、あぅう……!」
そのことを自覚してしまったキリエが、顔を伏せてまた耳を赤くする。
「ああもうっ……! 早く次行こうよ……!」
「はは。俺の彼女、最高」
スタスタ歩くキリエのことを笑ってやると、無言の彼女から抗議の
「痛い痛い」
と、口では言いつつも動じない涼介に、キリエはますますむくれていた。
「っていうか、目立っていいの? ここ涼くんちの近所でしょ。知り合いとかに見られたら――」
「いいよ。むしろアピールしたいくらいだね。俺の彼女、こんなに可愛いんだよって」
「~~~~っ、すぐそういうこと言う!」
「キリエこそ、大丈夫だった?」
校内では交際を公にしたし、霧崎家からは少し離れた場所ではあるが、彼女だって知り合いに目撃される可能性はある。
「……それは、まあ。お母さんたちは話したし……」
ボソボソと、照れながらつぶやく。
「『彼氏』、できたって……」
「報告してくれたんだ」
「お、お母さんにだけ……、ね? お父さんにはまだちょっと。えっと、ダメだった?」
「いや嬉しいに決まってるじゃん」
もはや没交渉と言っていい師藤家と違って、キリエは両親とも仲が良いらしい。それでも彼女の性格を考えると、報告するには勇気が必要だったはずだ。
「そんじゃ、お義父さんには揃って報告に行ったほうがいいかな」
「ちょっと!? そ、それはまだ早い……!」
「はは、分かってるって。いつか、な」
「う、うん……」
もうこれ以上小さくなれないんじゃないかというほど縮こまってキリエは、小さくうなずいた。
そして、
「……なんか、ズルい」
「何が?」
「涼くんって余裕ありすぎ」
「俺のほうが年上だからな」
「4月、だったよね。涼くんの誕生日」
「そう。あと2週間――10月15日までは俺が年上」
「……覚えてるんだ、私の誕生日」
「当たり前じゃん」
「ふ、ふぅん……」
さすがに女性の誕生日を忘れる涼介ではない。それも、恋人となればなおさらだ。文化祭は10月13日の金曜日。その2日後の日曜がキリエの誕生日だ。
「もちろんスケジュールは空けてくれてるよな?」
「……どーしよっかな。私も忙しいし」
チラリ、と横目でこちらを見上げてくる。どうやらこちらを挑発したいらしい。尖らせた唇からは、さっきの軽口の『お返し』が放たれてくる。
「誕生日、祝ってくれる友達たくさんいるし?」
「俺に任せてくれたら最高の1日にしてあげるのに」
「そーいうところ。自信ありすぎ!」
「そりゃあ、大事な恋人のためだから。全力をかけるに決まってるでしょ」
「…………っ!」
いい加減、こちらには敵わないと学習しても良さそうなものなのに――ムキになるところが、また堪らなく嗜虐心をくすぐってくる。
涼介は背を丸めて顔を近づけ、キリエの耳元でトドメのひと言を囁いた。
「一生忘れられない1日にしような、2人きりで」
今度は、みぞおちに