【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
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「おかえりなさい! キリエさん、兄さん」
スーパーでの買い物を終えて帰宅すると、珍しくテンションの高い真凛が制服姿で迎えてくれた。
彼女も午後からは休み――教師たちが涼介の学校を訪ねているから――だ。
「久しぶり、真凛ちゃん。お邪魔しちゃってゴメンね」
「とんでもありません! キリエさんならいつでも大歓迎です。さあ、上がってください。さあさあ」
急かされながら靴を脱いだキリエの腕に、はしゃぐ真凛がベッタリとくっつく。
「おい真凛――」
「ふふ、恋人を取られて可哀想な兄さん。でもダメです、私にもキリエさんと仲良くする権利はあるはずです」
キリエはうろたえつつも、嫌がっている様子はない。
むしろ、嬉しそうに見える。
……まあ、恋人の家族に歓迎されて悪い気はしないだろう。
それに一応、今の関係を築くにあたり、真凛の暗躍も一助になったことは事実だ。キリエを取られて悔しくはあるが、確かに彼女にも『権利』はある。
「まあいいや。ハンバーグが出来るまで、キリエのことをよろしく」
「はい、承りました!」
今日は家にはこの3人だけだ。
昼食にキリエを招き、涼介の手料理を振る舞うという予定になっていた。
キリエを連れてくること、そして恋人としての姿を見せること――それが、この義妹にとっては『ご褒美』になるらしい。
だからこれは、言ってみれば家族サービスの一環でもあるわけだ。
「……な、なんだか私、どうすればいいの?」
「真凛が満足するまでイチャイチャしてやってくれ」
「えぇ……!?」
「リビングでゆっくりしててよ。俺はその様子を眺めながら料理するから」
「ですって、キリエさん! 兄さんに見せつけちゃいましょう」
父がデザインした師藤家は、キッチンからリビングが見渡せる構造だ。父親に対して特別な念を抱いていない涼介ではあるが、建築家としての腕だけは素直に評価している。
涼介は、制服を脱いでTシャツに――カバンに入れてあった文化祭のクラスTシャツなり、買ってきた野菜をカウンターキッチンのシンクで洗う。
いつもは両親が不在がちなせいで物寂しさが漂う空間だが、今日はキリエと真凛が騒いでいるおかげで華やかな雰囲気だ。
もっとも、騒いでいるのはおもに真凛だが。
「――兄さんは、キリエさんと付き合い出してからさらに優しくなったんですよ? なんだかもう、常に幸せオーラをまき散らしていてですね」
「ふぅん……」
と、ソファで振り返った彼女たちの視線がこちらに注がれる。
「何だよ、その顔は」
同じツリ目がちな美少女だが、造形は似ていない。真凛のほうはまだ線が細く、ともすれば一種の恐ろしさを伴った鋭さがある。月下で映えそうな真凛と対照的に、キリエのほうは明るい太陽が似合う眩しい美貌だ。
かつては、だからこそ、その顔が沈痛に歪むのを愉しんで見ていたが――
今では、彼女が笑っているとそれだけで何か深い満足を感じられるようになった。
しかし、それはそれ。
2人してニヤニヤとこちらをからかうように笑っていると、さすがに反撃したくなる。
「真凛、知ってるか? キリエも2人きりのときは潤んだ目で俺のことを――」
「ちょっと!?」
「へー! 聞きたいです、どんなふうに見つめ合うんですか!?」
「真凛ちゃん!?」
妹は完全にキリエの味方というわけではない。単に、涼介とキリエが仲睦まじくしている姿を見たくて、休みの今日もこうして遅めの昼食のために待機していたのだ。
からかいの矛先を変えてやれば、喜んで食いつく。
「わ、私もやっぱ手伝おうかな……!」
真凛からの至近距離のアタックに耐えられなくなったキリエは、いそいそと立ち上がり、制服のブラウスに手をかける。
「わぁ!? キリエさん、大胆なんですね――」
「ち、違う! 今日は下にTシャツ着てるから」
例によって彼女もクラスTシャツだ。涼介を手伝う目的で、初めからブラウスの下に着込んでいたらしい。
真凛から逃げてきたキリエが、キッチンで横に立つ。
「今日は俺がもてなすのに」
「い、いいから。えっと、それでどうすればいいかな……?」
「家で料理の手伝いは?」
「そこそこ……たまに……、あんまり……」
「了解。じゃあ肉をこねてもらうかな」
調理用のビニル手袋を装着させて、ハンバーグの肉だねを担当してもらう。
包丁を持たせるのよりも、そっちのほうが良さそうだ。キリエも、手伝いたいが邪魔はしたくないと思っているらしく、素直に従う。
「こうして見ると、新婚さんですね」
カウンターに両肘を載せて、真凛が嬉しそうに笑う。
「服もおそろいですし」
「こ、これは学校の、文化祭の――!」
図らずも、色違いのペアルックだ。相変わらずキリエはサンライトイエローのデザインがよく似合っているし、Tシャツになると余計にその立派な胸が強調されている。
「あー、私も早くお2人の後輩になりたいです」
「受験勉強、大変だよね」
「いいえ。テストなんて、授業を聞いてさえいれば間違うことないですから。たまに設問がおかしいことがあって、満点ばかりとはいきませんが」
「な、なんか凄いね……」
さらりと言う真凛は自慢げな雰囲気すらない。こういう物言いをするから、同級生たちから恨みを買ってしまうわけだが――こればかりは本人の性分なので、どれだけ言い聞かせても直らない。
「キリエだって勉強できるじゃん」
「…………。毎回、涼くんのほうが少し上じゃん」
「ははは。俺は努力の人だからな」
からからと笑っていると、
「『涼くん』――!」
カウンター越しに真凛が目を輝かせた。
「ああ、いいですねいいですね! もっと呼んでください!」
「なんでお前が喜んでるんだよ」
「あぅ、うう……! なんでこうなるの……!」
肉をこねるキリエの手が、その熱で味にすら影響を与えそうだな、と涼介は思った。
+ + +
ダイニングテーブルには、炊きたてのご飯と、ハンバーグと、付け合わせの野菜、そしてスープが並んだ。
「美味しそう――」
芳しい匂いに、キリエのお腹も小さく鳴る。
買い物から調理と時間がかかったので、もう14時を回ったところだ。お腹はペコペコ。
料理が上手いとは聞いていたが、手際の良さといい、この出来映えといい、悔しいけれど涼介が自慢するのも当然といったところだ。
(食器もオシャレだし……)
ただの白皿ですら造形に品がある。
レストランのような食卓に、思わず背筋が伸びる。
ちなみに、キリエは真凛と並んで、向かいに涼介が着座していた。
「真凛ちゃん、貴女のお兄さん――意外と凄い人なのかもしれない」
「でしょう? そうなんですよー。私の胃袋は、兄さんにがっつり掴まれちゃってるんです」
「なんか、素直に褒められるとむず痒いな……」
向かいで涼介が微苦笑する。
(……この人が、私のカレシなんだ)
と、場違いな感想が浮かんだ。
ただのTシャツ姿なのに男の色気があって、料理も上手くて、妹にも優しい。さっきキッチンで並んでいるあいだも、彼の指示は的確で、それでいてキリエへの気づかいも忘れていなかった。
(やば、どうしよ――照れる……)
今さらながらに、例のTシャツの条件反射で身体が火照る。
食欲に、性欲に――なんて自分は浅ましい人間なんだろう。
なるべく平静を装っているが、嬉しさ、気恥ずかしさ、罪悪感……色んな感情が絡まって、体温がグングンと上がっている気がする。
「早く食べようぜ。俺も我慢の限界かも」
「ええ。――いただきます」
「い、いただきます……!」
3人で手を合わせてから、料理に手をつける。
「――――!」
真凛が絶賛するのも納得だ。
見た目だけじゃなく味も素晴らしいものだった。見た目は上品なのにどこか家庭的で、ファミレスで食べるようなハンバーグとは一線を画していた。
母の料理はもちろん大好きで、それとは少し食感が違うけれど、キリエもすぐに虜になってしまった。
「涼くん、美味しい」
「だろ?」
今ばかりは茶化せない。余裕たっぷりに笑う涼介のことに、ただただ首肯して返すしかできなかった。
「惚れ直した?」
「…………っ!? ごほ、ごほっ!?」
「兄さん、食べてるところにそんなこと言っちゃ……、それで、惚れ直したんですか?」
「ああもうっ!」
まったくこの兄妹は。
キリエは半分開き直って、
「惚れ直したから! 私も涼くんの料理、好きになったから……っ! ふ、2人とも笑わないでよっ!」
微笑ましいものでも見るような兄妹の視線に、キリエは楽しいながらもソワソワしっぱなしのランチを過ごした。