【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
文化祭当日。
校内は例年同様に賑やかだった。
快晴のもと、残暑も比較的おさまっていて、教室展示や中庭でのイベントも盛り上がっている。
キリエたちのクラス展示も、出だしこそバタバタしたものの、前日まで苦労した甲斐があって盛況だった。
初めて文化祭を経験する1年生たちは脱出ゲームを楽しんでくれたし、がっつりとしたギャルメイクの上級生グループも、テーマパークのノリで意外と純粋に喜んでくれた。
たまに顔を見せる先生たちは、普段とはまた違った距離感で――教師というより先輩のような気軽さで――脱出ゲームに興じていた。そしてだいたい「いい出来だった」とキリエたちの努力の成果を褒めてくれる。
「ふぅ……」
開始直後、キリエはあちこちのフォローに忙しかったが――
10時を回る頃には、客引きや入口でのルール説明、迷路内部を担当するスタッフたちもそのオペレーションに慣れてきて、次々とやって来る客を混乱なくさばいていた。
ちなみに、クラス総出で仕事を回しているわけではない。
トータルで5~6人ほどいれば十分なので、交代で店番、他の生徒は自由に校内を回っている。それで、今はキリエが担当しているという状況だ。
交代要員はきちんと戻って来てくれる。まとまりのあるいいクラスだと思う。キリエはもう交代してもいい頃合いだったが、なんやかんやと世話を焼きたくなってしまい、まだこうして教室にいる。
……ちなみに。
和樹は、恋人の志乃原愛花に連れ行かれたきりだ。
しかし最近彼は、以前のように浮かれていない。
なぜか愛花の姿を見ると引きつった顔で固まってしまう――とはいえ、もはや彼の交際についてはキリエの関知するところではないので、トラブルでも起きない限り関わるつもりはないけれど。
(まあ、別れてないところを見ると上手くいってるのかな)
と、我ながらドライな感想を持ちつつ、客の入りも落ち着いてきたので教室からいったん出て、軽く休憩。
何となく校舎の窓際で体育館を見やりながら、ハンドタオルで汗をぬぐっていると、
「キリちゃん、お疲れさま」
友人の萌も教室から出てきた。
「さすがだね、おかげで上手くいったよ~」
「私なんて別に――」
「ううん。キリちゃんのおかげだね。断言するよ。ウチのクラス、ノリはいいけど全体をまとめてくれる人がいないからさ~」
それは事実だ。
例えばあの夏の旅行のように、提案力や積極性はバツグンなのだが、長期的な計画を立てたり、それを実行する人材が不足している。
涼介がいればもっと円滑にすべてを回してくれていたとは思うけれど――彼は、今日も部活動のほうに引っ張られて不在だ。
「こっちは大丈夫だから、キリちゃん回ってきていいよ」
「うん。萌は――」
「私はキリちゃんのピンチヒッター! お留守番!」
「留守番って」
「そろそろ、師藤君の出番なんじゃないの~?」
「う」
体育館で行われる上映会。
そこで涼介が出演するバスケ部の動画も発表される。
キリエのようにクラスの仕事があると見られないので、1日に何度か、同じ動画が上映されるスケジュールになっている。
その一回目が、あと10分ほどで始まるのだ。
この時間にひと息ついたのは偶然だったが――無意識に、上映会のことを意識していたのかもしれない。
「行ってきなよ~、師藤君も体育館にいるだろうし」
「でも……」
「もー。キリちゃんは素直じゃないんだから」
むーっと頬を膨らませながら萌が、右腕にギュッと抱きついてくる。
彼女は仲良くなるとスキンシップが増える。あまりベタベタした友人関係を持たないキリエだが、萌とだけは波長が合うので、こうして密着されても嫌悪感どころか何だか照れてしまうくらいだ。
実際、愛らしい笑顔を浮かべて萌は、
「行ってきなさい。師藤君も喜ぶよ? クラスのことはもういいから。がんばったご褒美! ね?」
「――うん」
本当にいい子だと思う。
ここは萌の好意に甘えておこう。
「じゃあ、見てくる」
素直にうなずくと、萌はいっそう表情を明るくさせて、笑顔で送り出してくれた。
■ ■ ■
体育館はごった返していた。入口のところから既に混雑していて、全校集会のように整列していないので、まるで音楽フェスの会場のようだ。
(――行ったことないけど)
この人混みの中でお目当ての人物を見つけるのは難しそうだ。いくら彼が長身でも、この大人数の中で目立つほどではない。
首を伸ばして周囲を見渡しても発見できない。
(どうしよ、涼くんも忙しいかな)
きっとバスケ部のメンバーと一緒だろうし。
握ったスマホでメッセージを送ろうかと迷っているうち――
フッと照明が落ち、体育館のスピーカーから開演を知らせるベルが鳴った。思わずビクッとしてステージのほうへと視線を送る。
軽快な音楽とともにスクリーンが明るくなり、バスケ部が男女合同で制作したという映像が流れ出した。
歓声。拍手、指笛の音が体育館で巻き起こる。観客のテンションにキリエが付いていけないまま、動画は進んでいく。
バスケットのシーン、それから校内のあちこち――教室や階段、プールサイド、普段は入れない屋上の映像などだ。
恋愛をテーマにしたらしい脚本。ただし、長尺のドラマではなく各シーンの繋がりもあってないようなもので、急に踊り出したり、流行のネットミームを模して笑いを誘ったりしている。
誰か、普段から動画をよく編集する部員でもいるのだろう。カメラや演出の技術は高く、そのままSNSにアップしても良さそうなクオリティだ。
観客の生徒からするとよく見知った友人が出演しているわけで、新しい出演者が現れるたび「おーっ」といった歓声が上がる。
中でも――
「師藤先輩だ!」
ドラマでは主人公のライバル的な立ち位置らしい涼介が大写しになると、女子たちの甲高い声援が耳に飛び込んでくる。
(ホントに人気者じゃん……)
映像の中でも涼介はいつもどおりだ。
余裕のある笑み。よく通る、耳心地のいい声。演技のために大げさに振る舞ってはいるものの、それすら自然に見えてしまう。
特に1、2年の女子たちからの人気が高いらしく――彼女らはスマホを構えてスクリーンをそのまま録画しては、隣の友人と顔を見合わせてはしゃいでいる。
(涼くん……)
恋人として誇らしい、という気持ちがないワケではない。
けれどそれ以上に不安になる。モテるのは知っていた。ビジュアルだけでなく、ああいう振る舞いを自然とできる涼介だ。
直接彼から聞いたことはないが、よく告白もされるらしい。
彼の人気っぷりを、こうして見せつけられると胸のあたりが締めつけられた。
(――私より)
可愛いコはいっぱいいる。
映像に向かって手を振る1年生もいるし、普段は大人しそうな同級生も友人と身を寄せ合って飛び跳ね、喜んでいる。
涼介さえその気になれば、彼女たちは喜んで彼と付き合うだろう。
「…………」
けっきょく、15分ほどの動画の内容はほとんど頭に入ってこなかった。
動画が終わると立ち見の観客は、始まったとき以上の大きな拍手と歓声で褒め称えていた。
中には「アンコール」を唱える集団もいたが、次のスケジュールへと行事は移っていき、バスケ部目当てだった生徒たちは三々五々、体育館から退場していく。
「わっ――」
その人並みに気圧されながら、キリエはまた涼介の姿を探して歩く。
いた。
目線の先、数メートルのところにバスケ部の集団。
男子と女子、合わせて20名ほどの仲間たちに囲まれて笑っている。知らないコも多い。文化祭だからと派手なメイクを施して、キラキラと輝いて見える。
どうやら、取り囲まれてこれから一緒に校内を回ろうと誘われているようだ。
(クラスに、戻ろうかな……)
まだ仕事はある。
いや、仕事でこの気分を紛らわせたい。
来なければよかった――
きびすを返し、出口へ。
と、そのとき、
「キリエ――!」
背中に声がかかる。
涼介だ。
「悪い、俺カノジョと約束あるから」
約束はしていない。
キリエはクラス展示が軌道に乗るまで離れるつもりはなかったから、体育館の初回上映に来られる保証もなかった。だから、文化祭を見て回るのも「お互い余裕ができたら」としか伝えていなかった。
けれど、小走りに駆け寄ってきた涼介は、
「見てくれた? どうだった、俺の演技」
「ち、近いから――」
周りの目が気になる。
特に女子から冷ややかな視線を浴びることになるかもしれない、と。
だがそれは杞憂だった。
「あ、師藤先輩のカノジョじゃん!」
「うそ、マジじゃん」
「師藤先輩、嬉しそう~」
「尊いよね!」
(…………??)
よく分からないテンションで、またはしゃいでいる。おっかなびっくり横目でうかがうと、中には中学生の頃の後輩も混じっていた。
当時、バレー部で一緒だったコだ。進学してからキリエは帰宅部になってしまったし、彼女はバスケに転向したから付き合いは希薄になったけれど。
「霧崎先輩って、中学の頃から優しかったんだよ」
友人に話している。体育館が騒々しく、彼女のテンションも上がっているせいかこちらまで内容が筒抜けだ。
「顧問の先生にも意見言ってくれて、『まずは霧崎先輩に頼れば間違いない!』って感じでさ~」
「えー!? スパダリ同士のカップルじゃん! ガチ推せる!」
何だかキリエには理解できないノリで――まるでそれこそ、街で有名人にでも会ったかのような浮かれっぷりで、数人がこちらにスマホのカメラを向けてくる。
たじろぐキリエをかばうように、涼介が手を伸ばして彼女らの視線をシャットアウトする。
「はい、撮影禁止~。こっからはプライベートなんで」
と、流れるような動作でキリエの肩を優しく抱いた。
「ちょっ!?」
「「きゃ~~~っ」」
またも歓声。
なぜか彼女らも2人組で抱き合ったり、ぴょんぴょん跳ねたりして喜んでいる。
「りょ、涼くん――」
キリエはもう、しどろもどろだ。
突然のことに胸がバクバクするし、顔は熱くなるし、汗臭くないかなと気になるし――
「クラスのほうはもういいの?」
「えっ? あ、うん、萌たちがやってくれてて」
「そっか。俺もあとで交代しないとな。うまくいった?」
「う、うん」
「さすがキリエ!」
なぜこの恋人は、こんなにも無邪気な笑顔を見せられるのだろう――こちらが、ときめいてしまうような。
(は、恥ずかしい……!)
肩を抱かれて密着しているところを、みんなに見られている。
バスケ部の男子たちからは、
「師藤、霧崎さん! 末永くお幸せに~!」
「動画撮っとく? ウエディングビデオ!」
「ずりーよな、彼女いるやつは!」
などとからかわれる始末。
さっきとは違う理由でソワソワしてしまう。
「取りあえず行こう、キリエ。あいつら、うるさいから」
「え、わっ……!?」
グイグイと出口のほうへと連れていかれる。
背中でバスケ部員らの声を聞きながら、
「よ、良かったの? 友達とか……後輩とかと一緒にいたかったんじゃ」
「上映もうまくいったし、もういいでしょ。一刻も早くキリエと会いたかったし」
「~~……っ! ま、またそういうチャラいことを――」
「いやマジで。キリエは会いたくなかった?」
「あ――」
一瞬だけ言葉に詰まって。
それから、本心を伝えた。
「あ、会いたかった……」
「だよな」
ムカつくくらい快活な笑顔を見せる涼介に、まるでさらわれるようにしてキリエは体育館をあとにした。
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