【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
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やり直しの誕生日デート当日は、土曜日。
残暑の10月にしては過ごしやすい涼しさになった昼前の時刻。
涼介は、キリエの自宅前まで迎えにいった。
こちらから提案した『お迎え』には、キリエも最初は戸惑っていたが、結局は「いいよ」と承諾を得られた。
約束の10分前には近所までたどり着き、少しだけ時間を潰してから連絡を入れ、返信を得てから霧崎家の門扉の前に立った。
――霧崎家にやって来るのは、これが3回目。
前回、夏休みの旅行帰りに自宅前まで送っていった。その前は――キリエの初めてを奪った日だ。
あの頃と比べると、キリエの柔らかさは随分と増した。
態度も、表情も。
それでも、からかうと面白いことに変わりはない。むしろ、今のほうがより多くの顔を見せてくれるようになっただけ、余計に面白い。
今日はどんな顔をするだろうと想像しつつ、チャイムを鳴らす。
すぐに応答があり、何だか騒がしい物音を立てつつ玄関からキリエが姿を見せた。
「お、おはよう……!」
パタパタとエントランスを降りてくる。
「よ。晴れて良かったな」
「う、うん――」
幾分か以上に緊張しているようだ。待ちに待った誕生日デートだからというだけでなく、休日の自宅前というシチュエーションも手伝ってのことだろう。
それから――
「服、見たことないやつだね」
「えっ? あ、うん、も、もう秋――だし?」
よく手入れされた髪はハーフアップにまとめられている。
もともとくせっ毛のある長い髪だが、最近は――涼介と付き合い出してからは、友人や美容師のお姉さんからアドバイスをもらって、丹念にケアしているらしい。特に今日は、目の前に立つだけでふわりと甘やかな香りをたなびかせている。
襟元にささやかなフリルがあしらわれたトップスに、だぼっとした薄手のアウター。スカートは膝上のミニスカートだ。
足元は、ちょっと多めに歩くことを予想してのスニーカーだが、コーディネートをトータルで見ると可愛らしさと大人っぽさが、ちょうどいい塩梅で同居していた。
「メッチャ似合ってる」
「そ、そーいうのいいってば……!」
照れるとすぐ赤くなる頬には、チークなどは乗せていない。普段からノーメイクのキリエだが、今日は、まつ毛だけには軽く手を入れているようだ。軽くカールしていて、目元がいつもより映えて見える。
「うん、やっぱ一段と可愛いし」
「だ、だから――っ!」
「最高。神。俺のカノジョ、今日も可愛すぎ」
「~~~~っ、怒るよ!?」
胸の前でぎゅっと両拳を握って威嚇してくる。そんな彼女をいなしていると、
「――――」
キリエの背後で、玄関のドアが控えめに開かれた。
「あ」
涼介が声を漏らすと、キリエはその視線を追うようにバッと振り返って、
「お、お母さん――!?」
ドアの隙間から、そーっと顔を覗かせ、何とも言えない表情でこちらを観察している女性――あれがキリエの母親らしい。
「ご、ごめんね~。やっぱり気になっちゃって」
「ごめんねじゃなくて! 見なくていいって言ったじゃん……!」
「だって――」
えへへと苦笑いしながらも、引っ込むどころか玄関から出てくる。直前まで、母娘のあいだで何やかんやとあったのだろうと容易に想像できた。
「キリちゃんに初めて出来た恋人だし……和くんじゃないって言うし。どんな人なのかなって」
「も、もう――っ!」
娘の制止も聞かず、ぺこりと頭を下げるキリエの母。娘とよく似ている。ただし、ツリ目気味なのにどこか呑気そうな、キリエよりもおっとりした雰囲気をしている。
若く見えるが若作りをしている様子はなく、ただし――部屋着というより外出着のようで、よそ行き感は多分に見受けられる。
取りあえず、
「初めまして、師藤涼介です」
休日に自宅まで来たのだ。両親と鉢合わせることも想定済みだ。
「キリエさんのクラスメイトで――娘さんとお付き合いさせてもらってます」
さらりと頭を下げると、キリエ母は恐縮したように、門扉の前まで降りて、
「あっ!? ごめんなさいね、挨拶が遅くなっちゃって……! キリちゃんの――キリエの母です。母親です。よ、よろしくお願いします……!」
涼介以上に、深々と頭を下げる。
すぐにテンパるのは母親ゆずりらしい。涼介は、笑ってしまいそうになるのを堪えなければならなかった。
2人に挟まれ、とても居心地が悪そうにしているのはキリエだ。
「もういいでしょ!? 今日はお父さんとデートなんだから、早く支度すればいいじゃん……!」
「まだ時間があるし、だって、……ねえ?」
チラ、チラとこちらを見てくる。本当に、目元がそっくりだ。娘と同じくらい長い髪を、片方で結んでいる。
「こ、こんな大人っぽい彼氏と思わなかったし、凄くきちんとしてる……! キリちゃんも見習わないと」
「
頭を下げていて良かった。
口元はガマンできずに、プッと笑いを漏らしてしまっていたから。
しかし、それも取り越し苦労かもしれない。言い合う母娘はこちらの笑い声にも気づかずやり合っている。
「キリちゃん、写真も見せてくれないし」
「撮ってないし、保存してないから……!」
「本当?」
「お母さんたちとは違うの! ほら、お父さん待ってるでしょ……!」
母の背を押して、グイグイと玄関へ戻そうとする。どうやら、家の中には父親もいるようだ。
「――ご挨拶していったほうがいいですかね?」
顔を上げて軽くたずねると、
「「えっ!?」」
そろって同じリアクション。賑やかな母娘だ。おかげで、こちらは表情筋のいいトレーニングになる。笑いを堪えて、真顔でいるための筋肉がつく。
「パパ、照れ屋だから。え~、でもどうかしら!? ぜひぜひ上がって行って欲しいけど――」
「ダメ!? ぜったい、ダメ!」
全力で阻止しようとするキリエ。やや背伸びした大人っぽい服装をしていても、中身は彼女のままだ。
「パパも驚くと思うな、キリちゃんの彼氏がこんなに格好良かったら」
「やめて! お父さん、頑固なんだから! そういうのはもっと、その――」
きちんとした場で、と主張したいのだろう。ただそれはそれで、とても緊張するシチュエーションになってしまう――
そんなことを考えているに違いない。勝手に想像して、勝手に赤くなっている。――本当に、退屈しない恋人だ。
涼介としてはどちらでも構わなかった。
この場で
だから成り行きに任せていたのだが、
「――そう? 残念。じゃあ、師藤くんにご迷惑かけないようにね?」
結局、キリエによる必死の抵抗を受け、母親のほうが折れた。
また一礼してから、なんとなく名残惜しそうに玄関へと戻るキリエ母と、肩で息をするキリエ。
どちらもイジり甲斐のあるタイプ。
「…………」
そんな2人を眺めていると、つい。
「――なんなら、ダブルデートにします?」
「「っっっ!?!?!?」」
■ ■ ■
「涼くん……! もう、ぜっっったい、ウチまでは来させないからね!?」
「はは。ゴメンってば」
相変わらず軽薄そうに笑う彼に、反省の色など見えない。
(こういうところがホントに……!)
――大嫌い。
だったはず。
それがいつの間にか。
隣を歩きながら横目で窺う。
憎めない。
それどころか。
「…………はぁ」
「こんな日にため息?」
「朝から疲れたし――」
今日のために目一杯おしゃれして、服だって新調して――それ以外にも、これまで割と適当だった髪や肌のケアも最近はしっかりと勉強している。
その結果が――
いや。
そうなんだった。
出会い頭に褒められたんだった。
可愛いだとか、色々と。
「うぅ……」
「頭痛?」
「涼くんのせいでね……」
付き合ってからも、振り回されてばっかりだ。しかも今朝は母親まであんな調子で、いきなり汗をかく展開になってしまった。
そりゃあ、頭も痛くなる――のだが。
涼介は足を止めて真剣な声音で、
「やっぱ風邪、うつした?」
「ち、ちがうちがう! そっちじゃなくて!」
いらぬ心配をかけてしまった。
「だってほら、お母さんがホントに出てくると思わなかったんだもん」
「ああ」
先ほどのことを思い出しているのか、涼介は微笑した。
「優しそうで、いいお母さんじゃん。仲良さそうだし」
「うん、まあそうなんだけど」
「お父さんとも会ってみたかったな」
「――――っ!? まだ早いってば!」
「……『まだ』、ね」
「うっ」
再び歩き出す涼介がニヤニヤと笑っている。
「ま、まだ先だから……」
「分かってるって。楽しみに待ってるよ」
気軽に言うけれど、この男は緊張なんてしないんだろうか? 普通、恋人の親に会うなんて気まずいだろうに――特に、男性は父親と会うのはことさら緊張すると聞くのに。
(会って、くれるんだ……)
勝手に胸がドキドキしてしまう。
頑固で不器用な、でもけっして気が強いワケではなく、人見知りをする自分の父親と……この涼介とは、似ても似つかない。
でも、父の性格はキリエ自身とは近いところがある。
(……すんなりと懐に入りそうな気もする……)
過去の経緯を思い出し、自嘲を込めてキリエはまた肩を落とす。
しかしやはり、すぐには会わせられない。
父親のキャパシティの問題もあるが――気まずい。
さっきもそうだったけれどキリエは――キリエと涼介は、とっくに一線を越えているのだから。
何なら、付き合う前から。
そして先日なんて、自分から。
(…………っっ)
世の中には
もちろん涼介は、さっきもそんなことをおくびにも出さなかった。それどころか、彼の態度を母は一発で気に入ってしまったようだった。
あのテンションの上がり具合は、そういうことだ。娘の恋人として十分以上の合格点を下しているだろう――きっと、清い交際を始めたばかりだと、そう思っているはずだ。
ちょっとした罪悪感。
そして、大人になってしまったという浮ついた昂揚感も、ある。
また、涼介の横顔を盗み見る。
ポーカーフェイスで、大人に対しても動じず、けれど時々思い切り子どもっぽく笑って。
彼の家庭事情が複雑なことは聞いている。彼が、それをどんなふうに感じているのかは……いまだに測りかねるところがある。
彼の両親に会うことになったら、自分は毅然としていられるだろうか。自然に振る舞えるだろうか。さっきの涼介のように――
「キリエ」
「っ!? ひゃいっ!?」
「?」
「な、なんでもないよ? ご、ゴメンね、なんかテンションが変で……!」
せっかく彼がセッティングしてくれた誕生日デートなのだ。こちらの気分で彼に気を遣わせたくない。
今日の目的地は遊園地だ。
電車を乗り継いで30分ほどの街中にある、昔ながらの遊園地。
かつて、キリエの両親がよくデートをした場所。そしてキリエも、幼い頃によく連れて行ってもらった、小さな遊園地だ。
しかしなかなか年期がかってきており、残念ながら、来月には閉園になってしまうという。
――そんな話題を、だいぶ前に涼介との会話でさらりと語ったことがあった。
彼はそれを覚えていて、今日のデートに選んでくれたのだった。
「先週待たせたぶん、今日は全力でエスコートするから」
「うん――」
「手」
「え?」
「繋ごうか」
と、彼はすっと左手を差し出してくる。
「…………っ!」
そんな仕草もさまになっていて、何だか悔しい。
けれど。
キリエだって誕生日を迎えたのだ。もう、彼と同い年だ。近所の住宅街だけれど――気恥ずかしさを乗り越えて、右手を彼に預ける。
「お。素直じゃん」
「い、いいでしょ、たまには……!」
「うん。いいね」
「…………」
ああ、もう。
好きすぎてたまらない。
彼の言動ひとつひとつに、これでもかと心が揺さぶられる。
なお激しくなる胸の鼓動が繋いだ手から伝わらないようにと願いながら、キリエは涼介と一緒に電車に乗り込んだ。