【書籍化&コミカライズ】ツンデレ女子が幼馴染の鈍感男子に「ざまぁ」されていたので、寝取って教え込んであげた話 作:タイフーンの目
あれは、師藤家に拓真が初めてやって来た日のことだった。
姉の真南可が幼馴染である彼を連れてきて、その頃まだ冷めた関係だった涼介との橋渡しを頼んだのだ。
リビングでビデオゲームに興じ、しばらく経った頃、2人は真凛と涼介を置いて2階へと上がってしまった。
ゲームでは涼介を相手に負けが込んでいて、悔しかったのを覚えている。
家庭でも学校でも、誰に何を負けようが気になんてならなかったのに、涼介にだけはなぜか負けたくなかった。
だから、
「アナタは誰にも興味がないんですね」
視線はテレビに向けたまま、ソファで離れて座る涼介へと語りかけた。
「寂しいひと」
似た人種なのかもしれない。
けれど、決定的に違うところがあった。
真凛は幸せだった。
大好きな姉が幸せそうで、義理の兄になるであろう拓真も、純真そのもので見ていて面白かった。
涼介には――そんな相手はいない。
それだけは確信があった。
だからこそ、この一言で彼の感情を揺り動かせると、そう踏んでいた。
しかし、この問いかけは失敗だった。
「興味か……確かにね。今、初めて湧いてきたかもな」
「――はい?」
一区切りついたゲーム画面から目を逸らし、思わず彼のほうを振り返ってしまっていた。
こちらを見ていた。
自分よりも、底知れない黒い瞳が。
「寂しいんだよ。つまらない」
整った顔は、微笑をたたえたままだった。
感情にゆらぎが見えない。
怖い。
生まれて初めて、他人が自分に対してどんな感情を抱いていたのかを、本当の意味で知った気がした。
触れてはいけない。
踏み込んではいけない。
あれは獲物を毒で侵す生き物だ。
けれど、真凛が毒蜘蛛なら、彼は毒蛇だ。
到底敵わない。
これも直感だった。
「――――、初めて興味が湧いたとは、どういう意味ですか」
耐えきれず目を逸らしながら問いただす。
「言葉どおりだよ。義理の妹が、想像していたより面白い相手だなと思ってさ」
「私が――」
「そう、真凛が」
声も毒。
冷たく乾いた響きなのに、耳奥まで伝ううちに甘く蕩けて変わる。
「嘘ですね」
もはや無駄な抵抗に等しかったが、
「あと、姉さんには絶対に色目を使わないでください」
「使ってないだろ」
「アナタの色目は、普通の人と違う」
「というと?」
「ただセックスをしたい、という男性とは違うという意味です」
先程まで、拓真が真南可に向けていたような。あるいは、真南可が拓真に。
「子どもがそんな言葉を」
「授業で習いましたから、子どもでも知ってます」
確かに、と苦笑する声もまた、耳にジンジンと響いた。
「アナタは姉さんを壊してしまうかもしれない。そんなことは私が許しません」
「上の2人の邪魔をするなと?」
無言でうなずき返す。
「兄さんと姉さんは、今日が『初体験』なのかな」
「知りません」
「真凛こそ、嘘つきじゃないか」
「…………」
姉たちは、あれで隠しているつもりらしい。
さっきだって、早く二人きりになりたくてウズウズしていた。真凛からしてみれば――そして、悔しいが涼介の目から見ても、それは明確だったろう。
「――知らないのは、事実です。まだ見ても聞いてもいませんから」
「それもそうか」
またカラカラと笑いながら、涼介は淡々とゲームを進めていた。真凛も、コントローラーを手にしたまま彼のゲームに乗る。
「さっき真凛が言ったとおり、俺は誰にも興味なんてない――なかった。けど対等に話せる真凛とは、きょうだいになってみたいと思った」
「――――」
悔しい。
彼に認められて嬉しいだなんて、一瞬でもそう感じてしまった自分が、絞め殺したいほど憎らしかった。
「そのためには何をすればいいかな」
こちらに問うでもなく、涼介が独りごちる。
「……姉さんとも、仲良くなればいい?」
「…………」
「安心していい、真凛の楽しみは奪わない。兄さん……拓真さんと姉さんの関係も壊さない」
「そんなことが――」
「出来たときは、俺ときょうだいになってくれるか?」
「――――っ」
またも思わず振り返り、今度は涼介を睨みつける。
彼は笑っていた。
「楽しいと思わないか? 姉さんと、俺と、真凛と。3人できょうだいになるんだ。俺の寂しさも、ちょっとは埋められそうじゃない?」
「――まるで、プロポーズですね」
「はは。そうかもな」
軽薄そうに笑う涼介のことを、唇を噛んでよりきつく睨んだ。
そうでもしないと、胸がバクバクが彼に聞こえてしまうかもしれない、と思った。
「どう? 考えておいてくれる?」
「…………」
真凛の手はコントローラーを握ったまま凍りついていたが、涼介は会話中も粛々とゲームを進め、当然ながらあっさりと真凛が操作するキャラクターに勝利を収めていた。
「俺の勝ち。じゃあ、そういうことで」
――彼が姉の真南可を抱いたのは、それから数日後のことだった。
※次話は明日22時ごろ更新予定です。