「そろそろ夏美が来る頃です。」
「俺はバスローブのままでいいのかな」
「どうしますか?昨日ご主人様が着ていた服はクリーニングに出してもう戻って来ておりますが」
黒鉄は一度リビングから出て、すぐに昨日俺が着ていた服を持って戻って来た。その服は、確かに俺が着ていた服だったのだが、出来れば、昨日黒鉄が準備していた新しい服の方が良かったなと思うも、それを言い出すのも何だか憚られ、黙って受け取り、服を着た。そして、一つ気になっていたことを聞いてみた。
「夏美は例の媚薬を今日飲んでるの?」
「飲んでますよ」
「……」
「不満ですか。俺のテクならいくらでも感じさせてやるのに……ってとこですか」
黒鉄は皮肉っぽい笑みを浮かべた。それは図星だった。俺は今まで何人もの女を抱き、そして満足させてきた。イクことを知らない女を初めてイカせたことも何度もある。愚息も巨根というほどのものではないが、まあそれなりに自信のある逸物で、離れられなくなったと言う女の数も少なくない。女を満足させることが出来ない男なら、ハーレムを作るにあたり媚薬も必要だろうが、俺にはそんな必要はない。それだけの自負が俺にはあった。そして、今回もまた黒鉄は俺の内心を正確に読んで答えた。
「そうお考えのご主人様は実際多いんですよ。でもそれは自惚れです」
「違う。実際に俺は……」
「演技してないって確実に分かりますか?」
「……演技じゃない。それくらい分かる」
俺は思わずムキになって言った。すると、黒鉄は「まあまあ」などと言って、俺を落ち着かせようとする。その余裕な態度がまた俺を腹立たせる。
「仮に、これまではそうじゃなかったとしましょう。でも、ハーレムに選んだ姫がご主人様と相性が合うかは分かりません。体調や精神的な問題もありますしね」
「でも、時間をかければ、俺は絶対……」
「味見の時にはそんな時間はないんです。そして、一回目というのは一番大事なのです。一回目で圧倒的な快感を与えられれば、姫達はそれによりご主人様に対する絶対の忠誠が生まれるのです。そして、それがハーレムの姫には絶対に必要なんです。私どもの組織がご主人様に提供するのはハーレムです。単に、愛人を何人か紹介するのとは訳が違います。主に絶対の忠誠を誓い、心と体を捧げるのがハーレムの姫達です。そして、主がその忠誠を勝ち取るためには、一回目のセックスの時にこそ、媚薬が必要なのです」
黒鉄の熱弁に俺はまた説得をされてしまった。確かに、黒鉄の言うとおりなのだろう。最初にガツンとやらなければ、主としてのカリスマ性は得られない。そして、自分を省みれば、俺としてそこまでの性豪ではないのだから、利用できるものは利用すべきだろう。
「ハーレムに選んだ後は、薬の頻度はご主人様にお任せします。あくまで、普通の反応が見たいとか、ご自分のテクニックを試したいということであれば、薬を飲ませるのを強制するものではありません。しかし、体の開発や調教というのは、薬を飲ませながらでも楽しむことは出来ます。私どもの提供する媚薬というのは、あくまで快楽に身を委ねるきっかけに過ぎないのですから、姫達をどこまで満足させるかはご主人様次第ですので」
そして、俺は、結局昨日の味見の時と同じく、黒鉄に例の香水を振り掛けられ、夏美が部屋に来るのを待つこととなった。
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「来たようです。しばらくお待ちを。くれぐれもご主人様としての威厳は忘れずに」
「分かってる……ところで、桐野さ……夏美は、自分を呼んだのが俺というのは知ってるのかな?」
「知らないんじゃないですか。名前は教えてませんから」
「そうゆうことじゃなくて、俺が、夏美が働いているスタバの客だってことだ」
「……どうですかね。少なくとも私どもからは何も言ってません」
「そうか……わかった。呼んでくれ」
黒鉄は完璧に一礼を施して部屋から出て行った。俺は平日はほとんど毎日スタバに通っていたし、言葉も交わしたことはある。だから、夏美も当然俺のことを知っていと思っていたが、もしかすると気付かれないかもしれない。それはそれで寂しい気もする。そして、何より、黒鉄に心の中で笑われそうなのが嫌だった。
どうだろうなぁ……と今更ながら心配になっていると、夏美がやや緊張の面持ちで部屋の中に入って来る。その後ろから入って来た黒鉄は夏美を追い抜いて、俺が座るソファの横に立った。俺は脚を組んで両手を膝の上で組み、偉そうに座って夏美を見詰める。
黒鉄「こちらがご主人様です。挨拶しなさい」
夏美「――はい。はじめまして。桐野夏美です。私を選んで下さいまして、ありがとうございます。よろしくお願いします」
黒鉄「勘違いしないで下さい。まだ候補になっただけですよ。……選んで頂けるかは、ご主人様が夏美を実際に気に入るかどうかにかかっている」
夏美「すいません……気に入って頂けるよう頑張ります」
夏美は少しよそ行きのようなオレンジ色のワンピース姿で、髪はアップで纏めていたが、バイトの時のような無造作なものではなく、美容室に行ってきたばかりのような俺が今まで見たことのない感じで、その姿はいつも以上に魅力的だった。少し緊張しているようではあるが、物怖じせず、はきはきと話す様子は芯の強さを感じさせた。この子をこれから味見することが出来るなんて……と思うと、早くも下半身は滾り始め、にやにやしてしまいそうになるのを必死に堪えた。
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しばらく沈黙が流れ、俺の言葉を待つ様子の夏美の表情に変化が表れる。それは、『どこかで見たような……』というようなもので、夏美の視線がその答えを探るように俺を見て、それから黒鉄を見た。
黒鉄「どうかしましたか?」
夏美「……いえ、そうゆうわけでは……でも」
俺「スタバで働いてるよね」
夏美「はい。……よく来て頂いてました……よね?」
俺「あぁ。覚えていてくれたかな?」
夏美「はい。もちろん。……そうなんだ。あの……この度はありがとうございます」
夏美は、相手が知った顔のせいか、緊張を緩めホッとした表情を浮かべる。俺の印象は然程悪いものではなかったようで、俺自身も少しホッとした。
黒鉄「夏美。分かっていると思うが、ご主人様に仕えることになったら、24時間、ご主人様に尽くすことになる。出来るか?」
夏美「……はい。ご主人様にお仕えすることが出来るのなら、こんなに嬉しいことはありません……それに……」
黒鉄「それに……何ですか?」
夏美「知っている方だったので……少し安心しました。是非選んで頂きたいです」
夏美は、俺の目を見てしっかり言うものの、やはり僅かに歯切れが悪く聞こえるのは、大学のことだろうか。黒鉄が意味ありげに視線を寄こすと、俺は黙って頷き、軽く手を上げる。すると黒鉄は嫌味なほど丁寧に一礼すると、部屋から出て行った。
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「……正直、驚いたよ。夏美の顔をリストで見た時は」
「……」
「いろいろ苦労してるんだね。でも、スタバで会う時は全然そんな風には見えなかったからさ」
「……アルバイトと言っても、仕事は仕事ですから。プライベートのことはお客様には関係ないので」
「そうか」
「ご主人様にお仕えする機会を頂けて、本当に光栄です」
俺はソファに座り、夏美は立ったままで言葉を交わす。思ったとおりのいい子のようだ。口調も丁寧語ではあるが、親しみを感じさせるものだった。こんないい子を金の力でモノにするのはいかがなものか……なんてことは肉欲で満たされた俺の頭の中には入る余地はない。
「ハーレムに入るということはどうゆうことか分かっているね」
「はい。家族が幸せになります。もちろん、私も……。ご主人様にお仕えしたいです」
「夏美は今大学3年だろ。大学に未練はないのか?」
「ありません。……それにそんなこと言ってる場合じゃないし」
「未練があるんじゃないのか。勉強も頑張っていたんだろ」
「……未練はないです。本当です。だから、私をハーレムに入れて下さい」
夏美は必死な表情で俺に訴えかけてきた。これが夏美の素の表情なんだろう。『いいじゃないか、いいじゃないか』と俺は心の中で呟く。夏美が口では何と言おうと、大学に未練があることも俺には伝わってきた。それと同時に、それを諦めてでも夏美が本当にハーレムに入りたいという気持ちも伝わってくる。黒鉄の言うマインドコントロールの力というのはやはり口先ばかりのものではないようだ。
「大学には行きなさい。せっかく入学したんだから」
「えっ……でも……」
「いいから。これは命令だ」
「でも…それじゃ、ご主人様にお仕えが……」
「大学に行きながらでも私に仕えることは出来るだろ。それとも、夏美は大学にかまけて私に仕えるのはサボるつもりかな?」
「そんなことありません。絶対…絶対にご主人様にお仕えするのを疎かにしたりしません」
「そうだろ。夏美ならそれは出来ると私は信じてる」
「……でも、お金が……。学費は滞納してしまっているし……」
「もちろん、私が払う」
夏美は必死に泣くのを我慢しようとしている。肩は振るえ、きゅっと締めた唇からは嗚咽が漏れようとしている。大きな目の縁からは涙がぽろりと零れ頬を伝った。……美人の涙と言うのはなぜこうも美しいのだろうか。俺は立ち上がり、夏美に近づく。手を伸ばして夏美の頬を伝う涙を親指で拭う。夏美の目に溜まった涙がまた零れた。
「どうしたんだ?」
「……信じられ…なくて……私なんかのために……こんなことって……」
「まだ決まったわけじゃない。夏美のこと味見させてもらわないとな」
俺が冗談っぽく言うと、夏美は手の甲で涙を拭いながら笑みを浮かべて頷いた。その笑顔は憂いの雲が一気に晴れて眩しいほどのものだった。
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俺が顔を寄せると夏美は目を瞑り、俺の首にしがみ付くように手を回してくる。唇を触れ合わせ最初は大人の余裕を見せつけるようにねっとりと上唇を唇で挟み舌で味わい、次は下唇。夏美の腰に手を回して抱き寄せると、夏美の体が俺の体に密着し、俺の興奮は高まるも、キスはゆっくりとしたペースは崩さない。
顔を離し夏美を見詰める。夏美の瞳にはまだ涙が溜まったままでとろんとして俺を見詰める。その瞳は俺に全てを委ねきっていることをまさに口ほどに物を言っているようだった。俺は腰を抱いたまま見詰めあう。いつも店のカウンターを挟んでいたあの美人が今は俺の腕の中に、そして、数センチの距離にあの魅力的な顔がある。しかも、俺に向ける視線は客に対するものではなく、崇拝しきった主を見詰めるそれだった。ハーレム最高やないか、と叫びだしたい気分ではあったが、俺はもちろんそんなことは言わず、冷静に「ベッドに行こう」と告げたのだった。
++++++++++++++++++
俺は夏美の手を引き寝室に向かう。夏美は手をつなぐだけでは物足りないというように、小走りで俺に並ぶと腕に自分の体ごとしがみついてきた。可愛い奴よのぉと思いつつ寝室に入ると、やはり当然のようにベッドメイキングは済んでいる。いつも、これは誰がやっているのだろうということが頭をよぎる。
しかし、そんなことはすぐに忘れて夏美の服を脱がしにかかる。ここも俺はゆったりと冷静に。夏美の両肩に手を置いて、後ろを向かせると、ワンピースのホックを下ろし、ワンピースの裾から捲り上げて脱がせてしまう。下着の色はピンク。ワンピースを脱がせてから、もう一度両肩に手を置いて、自分の方を向かせる。
僅かに恥ずかしそうな表情。ベッドルームには陽射しも入り、夏美の体は全て俺の視線の中にはっきりと浮かび上がっている。これがEカップの胸か……と思いながら、下から掬い上げるようにブラの上から揉み込むと、弾けるような弾力が掌に伝わってくる。なかなかいいじゃないかと思い、さらに揉みたくなる気持ちを抑え、手を下ろし、適度に括れた脇腹から腰のラインを撫で、ショーツの縁に沿って太腿から内股へと指を這わせていく。夏美は発情しきった表情で声こそ漏らさぬものの吐息を一つ漏らし、視線を斜め下に伏せており、長い睫毛が目に止まる。
「俺の方見て」
「はい。すいません」
「謝らなくていい。……恥ずかしいの?」
「少しだけ……っぅ」
俺の指がショーツの上から夏美の大事な秘部に触れた。そこはもう布地に染みが出来るほどで、夏美自身驚いているようだった。これが媚薬の力なのだろうが、俺は自分の力のみでないことが物足りなくも思った。
しかし、黒鉄の『私どもの提供する媚薬というのは、あくまで快楽に身を委ねるきっかけに過ぎないのですから』という言葉が思い浮かぶ。今はこれでいい。夏美は薬のことを知らされていないのだから。自分の体が疼き、いつも以上に快感を覚えてしまうのは、相手が俺だからと思い込めばいいのだ。その思い込みこそが夏美の心と体を俺に繋ぎ止める枷になるのだから……。