「そろそろ姫の選抜をしますか」
俺は「そうですね」と答えながら無意識の内に両手を擦り合わせていた。いよいよかと思うが、どうやって姫を選び己のハーレムに入れるのかは何も聞いていない。俺は期待をこめて黒鉄を見た。黒鉄はタブレットを操作して、俺に手渡した。
「ご主人様が選ぶことの出来る姫のリストです。画像をタップすると姫の詳細情報が出て来ます」
タブレットには画面いっぱいに女性のアップの画像が映し出されていた。全部で……4×8=32人。画面の端を見ると横向きの△のマーク。もしかしてと思い、フリックすると、また新たな32人の女性の画像。次も…次も……次も。6回フリックして、ようやくページは尽きた。全部で200人以上もいる!!
「ご主人様はまだ私どものご利用を始めたばかりですので、選んで頂けるのはこのリストにあるだけです」
俺の耳には既に黒鉄の言葉は入って来ていなかった。……こんなにたくさんの中から選べるのか。俺はタブレットの画面に釘付けになっていた。しかも、これだけの人数がいれば多少外見的に落ちる女性の画像があってもおかしくないはずだが、好みの問題はあるにせよ、全くもって外れの女性がいないのであった。
「検索条件入れると年齢や身長、スタイルなんかで検索でき……」
「ちょっと黙ってて」
俺は未だ1人の画像もタップ出来ていなかった。どこから見ていこうかとしばし考え、ようやく最初のページに戻り、左上の姫から見ていくことにした。画像をタップすると、全身画像が画面の左側に映し出され、右側に様々な情報が書かれていた。名前に年齢、身長に体重、スリーサイズ、出身地、学歴…etc。1000万というのは…、年間の金額だろうか。なかなか手ごろな値段かもしれないな。名前は、柏羽碧と表示されている。再生ボタンがあり、そこをタップすると、碧が自己紹介する動画が流れる。
「はじめまして。柏羽碧です。22才です。身長164cm。体重52kg。スリーサイズは84、60、86です。趣味は料理で、得意料理は和食全般です。」
心地よい声と控え目に浮かべる笑みに思わず魅入ってしまう。いかんいかん。これはキリがないぞ。右側の情報欄の下の方を見ると、経験人数という欄があり、そこには何と……。
「146人!!」
「碧は17の時から客を取らせていますからね。まぁそのくらいはいるでしょうね」
一気に萎えた。処女に拘るつもりはないが、いくらなんでも146人は多すぎる。それにしてもこんなに清楚に見える女の子が146人なんて……しかし、こんな女性がもしデリにでもいれば、毎回指名してしまうに違いない。この子が……と信じられない思いで碧の画像をフリックして次々見ていく。碧の様々な服装や仕草がタブレットの画面に映し出され飽きることがない。さらには下着姿や、ヌードまで、その画像にキリはなかった。
「このリストにある女性はみんな、経験人数多いんですか?」
「私どもはハーレム以外にも女性の派遣や紹介も行なっておりますから、その仕事を行なっている姫は経験人数3桁はざらですね。ただ私どもの仕事をしている女性の仲でも姫のリストに載せられるのはハイクラスのごく一握りの女性だけですよ」
現実を思い知らされた気分だった。確かに、ハーレムに仕えるような女性ということであれば商売女であるのは仕方ないのかもしれない。碧の情報欄を見れば、さらに「整形3ヶ所」「アナル開発済み」「スカトロ大小可」など書かれている。……でも、ここまではっきり書かれてしまうと、さすがに夢がなくなる。俺は黒鉄をうらめしそうに見上げた。
「ハーレムの主は姫の情報の全てを知る必要がありますからね。実際に姫を選んで頂きましたらさらに詳しい情報をお知らせしますよ」
「……これ、検索条件で抽出することも出来ますか」
「もちろん。ちょっと貸してください。どんな抽出条件にしますか?」
「経験人数を……10人以下……いや、5人……」
「ご主人様。お言葉ですが、経験人数だけで抽出してしまうのは勿体無いように思いますよ。経験人数が多いからといって、すれたような女性は一人もおりませんから」
「んー……じゃあ、20人以下にして下さい」
「分かりました」
「あと整形は……1箇所までで」
「はい」
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タブレットが戻って来る。おそるおそる画面をフリックすると、1、2、3、4ページある。まだ100人以上の中からは選べると思い、ひとまず胸を撫で下ろした。1人1人詳細を見ていくと、時間がかかりすぎると思い、ざっとリストの姫の画像を見ていく。すると、すぐに気付いたのは、最近よくドラマに出ている若手女優に似ている女性。その画像をタップすると……名前が違う。やっぱり似ている女性かと思い、なぜか安心する自分と残念に思う自分がいた。
「この子、女優の○○にすごく似てますね」
「○○ですよ」
「でも、名前違うじゃないですか」
「これは本名です」
「えーーっマジでか!」
徐々に一流のビジネスパーソンという俺の外殻が壊れ始め、欲望に忠実なただの雄の内面が露になっていく。真っ先に見てしまうのは、経験人数の欄……8人か。これは多いのか少ないのか。整形欄は……「未」ということはしてないということだよな。
「彼女は、デビュー当時からとある大物の愛人だったんですよ。その時、接待なんかで別の男に貸したりとかもされてたんですけど、8人ということであればそこそこ大事にされたんじゃないんですか」
「今は?」
「今は愛人はしてませんね。でも、このリストにあるってことはハーレムに入ることは了解してるみたいですね。売れっ子女優といっても業界の後押しは必要なんですよ」
「ちょっと聞きたいんだが、彼女が仮に俺のハーレムに入ったとしても、俺は業界に何の影響力もないんだが」
黒鉄は、ソファの背凭れに背中を預け、にやにやとした表情で俺のことを見た。その顔は情報を持っている者が持っていない者に対して見せる余裕の表情だった。
「ご主人様……私どもの組織は芸能界とは切っても切れないものなんです。とても深くつながっているんです。いいですか、彼女の所属事務所が彼女を私どもの組織に預ける。そうすると、私どもは私どものコネクションを使って彼女の所属事務所に利益を与えます。そうすれば、彼女も芸能界でいいポジションを与えられる…そうゆうことです。誰が彼女をハーレムに招くかは関係ないんです」
「……そうすると、もし、俺が彼女を自分のハーレムに選んだら……彼女も俺を自分の主として仕えてくれるのか」
「当然です。彼女自身もハーレムに入ることは拒否していないのですから。いくら事務所が入れたくても本人が拒否している場合は、このリストには載りません。彼女もそれなりに野心があるということでしょう」
「なるほど。でも……いいのかな、俺なんかが主人で」
「ご主人様は姉河原様のハーレムでどんな体験をしましたか。そのことを思い出せば分かるでしょ」
黒鉄はにやにや笑いを表情に貼り付けたまま静かな声で言った。そう、俺はあの夜、映画女優を抱いた。正確には、俺が一晩の内に抱いた4人の女の1人が映画女優だったのだ。彼女は俺と恋人のように…いやまさに自分の主のように接し、俺が別の女性を抱いている時ですら、彼女は俺に傅き、尽くしたのだった。それを思い出せば、黒鉄の言っていることは信じられないわけではなかった。
「どうします?この姫を選びますか?」
「うん……でも、4000万円か。高いな」
「このクラスだとそのくらいはしますね」
「……」
俺は考え込んでしまった。こんな有名女優を俺のハーレムに迎え入れられるのであれば、それはとても誇らしいことといえる。しかし、彼女1人に4000万円を使うとすれば……組織に払う金が1200万、家賃が200万×12ヶ月で2400万ですでに3600万だから、合わせるともう7600万円になってしまう。仮にハーレムに掛ける費用を1億円とすると、残りはたった2400万円しかなくなってしまう。そしたら、俺のハーレムに招くことの出来る姫はせいぜい3人がやっとだろう。でも3人は寂しい、それじゃハーレムとは言えないし、せっかくの6LDKが勿体無い。
「悩んでますね。まず、予算とハーレムの人数を決めた方がいいですね。それから、人件費を平均的に使うのかメリハリをつけるのか、その辺りもしっかり考えた方がいいかもしれませんね」
「んー」
「コーヒー淹れなおしますね。時間はたっぷりありますからゆっくり考えて下さい」
~~~~~~~~
黒鉄はすっかり冷めてしまったコーヒーカップを手にとって立ち上がった。この部屋に入ったのは13時過ぎだったが、すでに16時を回っている。俺はスーツの上着を脱ぐと、大きく伸びをする。そこにコーヒーカップを持った黒鉄が戻って来る。
「ご主人様は意外とがっしりとした身体してますね」
「あぁ、普段身体を動かさないからジムには出来るだけ通うようにしてるんでね」
黒鉄のような色男からまじまじと見詰められると、そんな趣味はないのに何だか照れてしまう。照れを隠すように淹れなおしてくれた熱いコーヒーを一口飲むと、黒鉄に冗談っぽく問いかける。
「こうゆう仕事をしていると、周りが女ばかりで摘み食いし放題なんじゃないか」
「それはないですね。私達プランナーは姫よりも卑しい奴隷ですから」
「ははっ、まさか昔の中国の宦官みたいに去勢なんかしてないよな」
「よく分かりましたね。そのとおりです」
「……冗談だろ」
「なくても困りませんよ。女性に興味はありませんし、相手は専ら男性ですから」
「……」
黒鉄の目は笑っているが、言っていることが冗談なのか…それとも本当なのか、判断出来なかった。しかし、この国に全く自分の知らない狂った世界があるということの一端に触れた気がした。俺は軽く頭を振って深く考えないようにして、タブレットを手に取り画面に視線を落とす。すると、背後から黒鉄が画面を覗き込んでくる。黒鉄の身体からはいい匂いがした。
「ここをタップすると……姫の属性が表示されます」
姫の画像の隅には『専』『仮』『処』『通』といったマークが表示されている。これはどんな意味があるのか……。
「この『専』というマークはなんですか?」
「これは専属という意味ですね」
「……というと?」
「私どもの施設でハーレムでご主人様に仕えるために教育された姫のことです」
「……」
「早ければ10代前半から、健全な発育環境であらゆる教育を施します。もちろんハーレムで仕えるために必要な素養をということですが。外見も多少いじってはいますが、何の問題もありません。」
言葉が出ない。ハーレムで主人に仕えるために教育……それは本当にこの国の話なのか。そんなことが許されるのだろうか。しかも、こんなに綺麗な女性が。名前は亜里沙と書かれている。
「……名字は?源氏名か?」
「その姫は名字はないですね」
「……」
「あまり深く考えないで下さい」
言われた通り、ひとまず考えから名字の件は置いておく。何しろ、俺はまだ1人も姫を選ぶことは出来ていないのだから。