第44話 前日~その1
――――今、九州へと向かう飛行機は、地面を離れ、空港から飛び立った。カズがチャーターしたプライベートジェットに乗っているのは、9人。年齢順で言うと、俺、カズの兄の世之介さん、薫子、さやか、世之介さんの姫の雛田楓香、ひらり、由芽、優衣、そして、カズ。席は、世之介さんと楓香、カズと薫子、さやかとひらり、由芽と優衣が隣同士に座り、なぜか俺の席の隣は空いているのだが……。
カズの父親である丞一さんの誕生会は、今回は豪華客船で行われる。明日、13時に出航する船に乗り、3泊4日、全て平日だ。しかも、乗船した時点で、なぜかスマホは没収、電波どころかwi-fiもつながらないそうだから、隠し持っても意味がない。いや、俺はともかく、参加者には大会社の社長も多いらしいし、みんな平気なんだろうか。一応、客船内には、公衆電話があるのと、外部からの連絡は電報、もしくは、毎朝来るヘリで手紙とか人を送り込むことだけだそうだ。薫子の話では、もてなすためには、外部との連絡を一切絶って、寛いでほしいということのようなのだが、本当に寛げるのか?以前の誕生会では、誕生会が終わった時には、参加していたオーナーの会社が潰れていたということが実際にあったそうだ(すぐに、権藤家が支援して再建したらしいが)。
とりあえず、明日の13時までは、山岸君とは定期的に連絡を取れるので、随時、報告を受けるつもりだが、それ以降は、約72時間、基本的には外部と連絡が取れないと思った方がいいということだ。もし、この間に、とんでもない事件が起きて、株価や通貨が大暴落したら、どうしよ……。新聞は、毎朝ヘリで送られてくるということなので、それだけが頼りだ。緊急事態が起きた場合には、ヘリで日本に戻ることも出来るそうだし。
「薫子さん、最終的な参加人数って何人だっけ?」
隣の空席と通路を挟んで座る薫子に俺は聞いてみる(その隣に座るカズは椅子の上に膝立ちになって後ろを向いて、優衣と由芽と話してる。)。
「はい。オーナー様が権藤家の皆様も入れて17名でしたが、鏑木様が欠席となりましたので、16名、メンバーが18名、オーナー様がお連れする姫が41名、遊女が50名以上と伺っております」
合計で…124人、遊女の人数は確定してないっぽいからそれ以上か。……正直、多いのか少ないのかわからん。
「例年に比べますと、オーナー様のご参加は少ないと伺っております。やはり、4日間、洋上で過ごすというのはお忙しいオーナー様にとっては、なかなか難しいのかと」
「でも、参加者名簿見たら、五浦様や諸星様がいらっしゃるし、神崎様とか芸能関係者も多いから、優衣はしっかり売り込まないとね」
由芽が隣に座った優衣にそう声を掛けて、両手で「がんば」のポーズを取る。優衣は緊張の面持ちで、小さく頷いた。今回の誕生会にどの姫を連れて行くかは正直かなり迷った。さやかは確定として、もう一人は、一番安心なのは晶子で、晶子自身もお任せするというスタンスだったのだが、控えめながらも参加の意思を表明したのは優衣だった。
組織に入ると、組織は渉外部を通じて、芸能界に影響力を行使するらしい。実際、どうやってるかは知らんけど、効果があることは歴史が証明している。だから、必ずしも、積極的に何かしなければいけないというわけではないのだが、やはり、実際に顔を見て、会って、知っているかどうかというのは、やはり重要なようで。特に、優衣は弱小事務所にいるので、チャンスの回数はもらえても、大きなチャンスというのはなかなか巡ってこない。優衣は、大きなチャンスを掴むために、意を決して俺に参加したいと伝えてきたのだ。
――ぶっちゃけ、優衣には俺しか男を知ってほしくはないという本音はあった。だけど、元々、優衣は自分の夢を叶えるために組織に入ったのだから、俺がそれを応援しないのは優衣に対して誠実さに欠ける。だから、俺は……(言葉にならない思いもありつつ)優衣を連れて行くことにしたのだった。ただ、いきなり誕生会で初めて俺以外の男とするとして、粗相があってはいけないと思い、経験を積ませるために鏑木さんに貸し出すことにした。鏑木さんは快く引き受けてくれた上に、今度、源川まどか海外ロケから帰ってきたら、貸してくれることになった!!!見返りは、ひらりんかと思っていたので(それはそれでもちろん嬉しいんだが)、これは、嬉しい誤算と言わざるを得ない。
「ウチも売り込ませてもらいまぁす」
俺の席の後ろからひらりが、片手を上げて宣言し、飛行機内の視線がひらりに集まる。昨日、鏑木さんから、感染性の風邪にかかってしまい、誕生会に参加できなくなったと連絡があった。そうなると、鏑木さんのお供として参加予定だったひらりも欠席になるはず…だったのだが、ひらりは参加を熱望した。鏑木さんからも何とかならないかと言われ、俺は薫子さんに相談し、薫子さんから権藤家に連絡してもらい確認したところ、俺の預かりという形で参加できることになったのだ。
ちなみに、ひらりの会社には俺のファンドから5000万円出資することになった。企画書によれば、近々、ひらりの会社のプロデューすで阪本エルザと源川まどかのチャンネルを開設することが決まっていた――勝ち確やろ。これなら十分リターンが期待できるという判断だった。ひらりは、空港で合流してからも、他の姫達に親しく話しかけており、動画のオファーを出していた。そして、逃げ切れなかったさやかは、大きなサングラスをかけて顔を隠しながら、ひらりの自撮りVLOGに出演させられていた。
そんな話をしていると、CAさんがドリンクメニューを聞きに……って、CAじゃなくて金剛さんだ。
「金剛さん、何してるんですか、こんなところで」
「私は、世之介様のプランナーですから。あと、諸星様も私の担当ですので、権藤様の船にも乗船させていただきます」
俺は、立ち上がって振り返り、世之介さんの顔を見る。今日が初対面で軽く挨拶しただけだったので、プランナーのことは聞いていなかった。とゆうか、隣で挨拶してくれた雛田楓香をかわえぇぇ、と見惚れてた。
「プランナーも来るんだ。黒鉄は何も言ってなかったけど……カズさんのプランナーは来るんですか」
「ん?桃井は来ないんじゃないか。薫子、知ってるか?」
「桃井さんのご担当のオーナーで参加するのはご主人様だけですから、来ないと伺っております。ただ、緊急事態が起きた場合には、対応するとのことです」
「桃井は戦力になりそうもないからな。鏑木さんが抜けたのはぶっちゃけ痛いけど、ひらりんが残ってくれたのは不幸中のシアワセだったな」
……まだ、継承戦のこと言ってるのか、カズは。そんなものはないのになぁ。ただ、カズの言葉はいつもダブルミーニングがある……と言ったのは、カズの兄で丞一さんの長男の龍之介さんだった。継承戦の裏にある本当の意味は何なのか……九州に着くにはまだ時間はある。金剛さんから受け取ったワインリストに高いワインがあったので、俺はそれを金剛さんに注文し、椅子のリクライニングを少し倒す。ワインを飲みながら、龍之介さんに会った時のことを思い出すとしよう。