本編の誕生会とリンクしてます。
僕たち、CSは2.5勤、1.5休のシフトで働いている。なので、休みは不定期で、意識しないと、今日が何曜日なのか忘れてしまう。昨日の21時で2.5勤が終わり、昨晩はサブスクの配信サービスの見たかったドラマを一気見して明け方まで起きていたため、目が覚めたのは、もう昼過ぎだった。2階の自室から出て吹き抜けに面した廊下を歩いて、1階に降りる。
「徳斗、おはよ」
「おはよう。菊乃さん、コーヒーある?」
僕がキッチンに入ると、菊乃さんが料理をしていて、首でコーヒーメーカーを示す。僕は、コーヒーメーカーに入ったコーヒーをマグカップに入れて、一口飲みながら、カウンター越しにリビングを見るとソアさんともう一人、女性がいた。
「徳斗、今、起きたの?こっち来て飲もうよ」
「お邪魔してます。亜里沙です、はじめまして」
ワイングラスを持ったソアさんは手を挙げて、亜里沙と名乗った女性は小さく手を振ってお辞儀した。その仕草、顔を見て、確信した。――現役の姫だ、と。
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菊乃さんが作ったサラダ、マグロのカルパッチョ、鯛のブイヤベースに舌鼓を打ちながら、4人で食事をする。僕と菊乃さんとソアさんはワイン、亜里沙さんは菊乃さんお手製の美容ドリンクを飲んでいる。話を聞くと、亜里沙さんとソアさんは、かつて、同じハーレムに所属していたらしい。亜里沙さんは、現在、25歳で専属の姫とのことだった。ちなみに、菊乃さんとソアさんはどちらも専属の姫ではなく、一般人だ。
「ハーレムで亜里沙と一緒になって、やっぱ専属の姫ってスゴいと思った。年下なのに私たちのことまとめてくれて。気苦労もあったでしょ?」
「それほどでもなかった…ってことなかったけど、楽しかったから。みんないい子ばっかだったし」
「それはそうだったよね、ホント」
亜里沙さんとソアさんの思い出話を菊乃さんは黙って聞いていた。やっぱり同じハーレムにいたということは、その中の姫達だけの絆というものがあるのだろう。
「ソアさん達のハーレムって何人だったんですか?」
「最初、4人。その後、入れ替えなんかもあったけど、私と亜里沙と静佳はずっといたよね」
ソアさんの言葉に亜里沙さんも頷く。美人には見慣れているつもりだけど、間近で見る現役、しかも専属の姫の魅力は半端ない。完全プライベートのオーラ消している状態でもこれということは、オーナーの前ではより魅力的なのだろう。
「亜里沙は、最近も忙しいの?」
「んーフツーかな。愛人は1人だし」
ソアさんの質問に亜里沙さんは淡々と答えた。補足説明すると、専属の姫というのは、基本的にはシルバー以下のメンバーは指名できない。ハーレムに入るかオーナーから呼ばれるか、あるいは組織の指示でVIPに対し、一晩の相手や愛人をすることになる。僕のようなCSは専属の姫と接する機会はほとんどないので、フツーというのがどのくらいの忙しさなのかはあまり想像がつかない。
「そうだ。今度、あれ行く。権藤様の御誕生会」
「そっか。権藤様はVIPだもんね。青海さんからのご指名ってこと?」
「うん。去年も縁あって声かけていただいて。今回、日数も長いしなかなか姫の確保できていないみたい」
久々に食べることと飲むこと以外で口を開いた菊乃さんの質問に、サラダを食べながら亜里沙さんは答える。誕生会か…僕はワインを飲みながら、ずっと黙って話だけを聞いていたけど、ほぼ初めて口を開く。
「……あのぉ、僕も今回行くんですよね、権藤様の誕生会」
みんなの視線が、今日初めて、僕に集まった。
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「みなさんは、誕生会、参加されたことはあるんですか?」
「私は…今回が3回目かな」
「私、なーい」
亜里沙さんとソアさんが答える。菊乃さんは、フッフッと笑いながら、4本指を立てた。
「私、4かーい。苑川様のハーレムいた時3回と、遊女で1回」
「どんな感じなんですか?誕生会って」
「要するに大規模スワップよ。私が参加した時で一番多かった時は、オーナー様の姫も入れて100人以上の姫が来てた時あったからね。結構な大きい旅館貸切って。懐かしいなぁ」
菊乃さんは懐かしそうな表情を浮かべている。それにしても、100人以上の姫が集まるってすごいな。いくら大規模スワップと言っても聞いたことがない。さすが、五皇の誕生会ということか。
「今年は、船みたい。私たちは前日集合だから、全部で5日間拘束。徳斗君は、いつから?」
「は、はい。僕達も前日から呼ばれてますので、5日間です、はい…」
初めて亜里沙さんから名前を呼ばれて、どきっとしてしまった。いや、普段、こんな童貞みたいな反応はしないはずなんだけど。そんな僕の反応を見て、菊乃さんとソアさんはにやにやしてるし。
ちなみに、僕のようなCSはプランナーのサポート業務をすることはあるけど、この前の奥寺さん達の分類でいう『保守派』や『赤星派』のプランナーのサポートをすることはあまりない。この派のプランナーの方々には、組織の管理部に所属しない専属の部下がいて、その部下の人たちがプランナーのサポートをしている。特に、青海さんは、西日本のオーナー様を数多く担当しているので、各地方に部下が常駐している。だから、普段は誕生会にもCSが呼ばれて手伝いに行くことはないはずなのだけど、今回は青海さん担当の別のオーナー様も同時期にイベントをするようで、人手が足りなくなったようだ。まぁ手当はかなりいいので、臨時収入が得られるのはありがたい。
――閑話休題。思い出に浸っていた菊乃さんが、「そう言えば」と言って、亜里沙さんに問いかける。
「毎回、なんか変なゲーム大会してるよね。今もやってるのかなぁ」
「してますよ」
亜里沙さんは答えた後、急に笑い出した。
「どうしたの?」
「フフフッ…去年も私参加したんですけど、ゲームの内容がマーダーミステリーで、犯人当てだったんですよ。それで、私、助手ってロールもらってて、最初にお相手した人が犯人当てられるようにサポートしなきゃいけなかったんですけど、その人、全然推理してくれなくて。結局、その人も含めて誰も解決できなかったので、あまり責任感じずに済みましたけど」
「えっ、その人って誰?オーナー様、メンバー?」
ソアさんが聞くと、亜里沙さんは口に人差し指を当てて首を振る。
「現役のCSの徳斗君いるし黙っとくね。そのオーナー様、今年もいらっしゃるかもしれないし」
その人って、オーナーなんだな。
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「ソアさん、今日って、静佳には声かけたんですか?」
「うん、かけたよー。でも、最近できた愛人さんが、土日会いに来るみたいで。今日はNGだった。亜里沙、静佳と会ってないの?」
「んー、結構前に、現場で会ったけど、それっきりかな。現場だとなかなか話したりできないし」
「そうだ。静佳も誕生会行くって言ってたよ」
「そっか…静佳に会えるんだ。楽しみ増えたな」
静佳というのは、葉月静香のことだろうか。そうだとすれば、その最近できた愛人というのは、衣川さんのことだ。でも、これは業務上の秘密だから、顔には出さずに黙っている。
「私もこのままハーレムにお呼ばれしなかったら、マンリョウして姫辞めようかなぁ、ソアさん達みたいに」
「亜里沙はまだまだ早いでしょー。組織だって、専属の姫のマンリョウはそんな簡単に同意しないだろうしね」
ソアさんの言葉に菊乃さんも、うんうんと頷いている。確かに、専属の姫は、組織が時間と労力をかけて育てているだけに、仮に10年経ったとしても、少なくとも20代のうちは同意はされないと聞いている。
「――やっぱり、亜里沙さんもハーレムに入るのが一番いいんですか?…ほら、オーナーリストに載せない姫も結構いるじゃないですか?だから…」
「うん。私が専属の姫っていうのもあるかもしれないけど、ハーレムに入って、一人のオーナー様にお仕えするのが一番幸せかな」
亜里沙さんの夢見るような表情は、何とも言い難い魅力があった。――もし、万が一、僕がプランナーになることができたら、そのオーナーにはまず、亜里沙さんを紹介しよう。そのためには、宇城さんのオーナー審査のこと、もっと真剣に考えなければならない……黒鉄さんに相談してみるしかないか……。僕にとっては一歩踏み出す勇気の出る飲み会となった。