「この子は、つい3ヶ月前ですね、リストに載ったのは。父親の借金の肩代わりのために売られたみたいです。……あっ、大学の費用も立て替えているみたいですね」
「そんなことまでしてんの?」
「そんなことって言うほどのことじゃないですよ。よくある話じゃないですか。私どもの組織の場合は、金融機関に強いコネがありますので、自営業者とか大きな負債がある人の情報を頂いて、そこに年頃の娘がいないかチェックしているんですよ。余程の美人じゃなければ、わざわざ借金が返せなくなるように裏から手を回したりまではしませんけどね」
「……ちょっとあくどすぎないか?」
俺は心が痛んだ。3ヶ月前から桐野さんがそんな辛い立場に置かれていたなんて。接客態度はいつもと変わらず、笑顔を見せていて、とてもそんな事態になっているなんて想像もつかなかった。でも、その笑顔を見せるには相当の努力が必要だったに違いない。俺は多少恨みがましく黒鉄を見た。
「今更、偽善者ぶるのはよしましょう、ご主人様。元々、完全な自由意志でハーレムに入る子なんていないんですから。彼女の幸せだけを考えるんなら、私どもの組織が肩代わりした父親の借金を返せばいいんです。ご主人様の総資産からすれば、微々たるものですよ」
「……」
ぐうの音も出ない俺。つーか、俺だって自分がいい子ぶったこと言ってるって分かってはいるのだ。でも、そんな実も蓋もないことを言われてしまうと、さすがに気分を害すると言わざるを得ない。
「ご主人様に出来ることは、彼女を自分のハーレムに入れて、少しでも彼女の負担を減らしてあげることなんじゃないんですか?」
「うん、そうだな」
黒鉄の言葉でようやく気が楽になった。俺はこうゆう言葉を求めていたのだ。俺が待っていた言葉をすぐに言える黒鉄もすごいとは思うが、だったら最初から甘い言葉だけを言ってくれればいいのにと思う。コイツ、俺があたふたするのを見て楽しんでいるに違いない。ネクタイを緩めシャツの首元を肌蹴て立ったままハイボールを飲む黒鉄の姿は悔しいくらい絵になっていやがる。そのことも気に障るところだった。
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「経験人数は何人なの?」
「5人ですね。リストに載る前に経験したのが2人。これはいずれも交際相手のようですね。その後、単発の客が3人です」
初めて、経験人数に交際相手がいる姫が出てきた。むしろ、いなかった専属の子が社会的に見れば例外ではあるのだが、新鮮さを覚えた。
「どんな男と付き合ってたかとかも分かるの?」
「概要程度であれば……最初に付き合ったのは……一応言っておきますが、最初にセックスした相手ということですよ。それ以前にキスまでしかしてない男がいたかもしれませんが、そのことまでは私どもも把握しておりませんので」
「そんなこといいから。続けて」
「……。最初にセックスした相手は同級生のようです。初体験は高2の夏休み。それから数ヵ月後に別れています。その次が、今度は1つ上の男で、高3の時に交際を開始し、去年の年末まで続いていたようです」
「去年の年末って……もしかして、今回のことが原因で別れたってこと?」
「んー……と、そこまでは書いていませんが、そうなのかもしれませんね」
「そうか……」
俺はまた胸がチクリと痛んだが、その一方で好きな相手と別れて俺の言うことを何でも聞く女になるというこのシチュエーションもまた堪らなく感じていた。
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俺はタブレットを黒鉄から受け取り、桐野夏美の詳細情報を見ていく。身長163cm、体重54kg、スリーサイズは88 63 86。Eカップと書かれている。あのエプロンの下にはこんな豊かなバストが隠れていたのかと思うと感慨深くなってくる。
現在20才で4月から大学3年生。大学は某一流大学の国際学科と書かれており、ほーと関心する。動画を見ると、普段後ろでまとめている深い焦げ茶色の長い髪を下ろしており、何となく違う一面を見たような気になる。いつも笑っているような目元、面長の顔、大き目の口。単に勉強が出来るだけでなくスポーツも万能、みんなの人気者という印象を俺は彼女に対して持っていた。さらには、解放的な雰囲気から帰国子女かななんてことも思っており、経歴を確認すると、やはり中学に入るまではアメリカに住んでいたようだ。自分を買う相手が見るであろう自己紹介動画だというのに、悲壮な感じは全くなく、笑顔ではきはきと話しており、むしろワクワクしているような印象すら受ける。
「もしかして、桐野さんにもマインドコントロールはしてるの?」
「もちろん。専属の子ほど深くはありませんけどね」
「値段は……おっ、1400万円だ。結構安いね」
「そうですね。容姿、スタイル、経歴はごく普通ですし、特筆すべき点も特にありませんからね」
「そうなのか……でも、大学のミスコンに入賞って書いてあるぞ」
「グランプリではないんですよね」
「まぁそうみたいだけど……」
「だから、そういうことです」
確かに、俺から見ればずいぶんと垢抜けた印象の子ではあるが、このリストに載ってしまうと平凡なのかもしれない。でも、俺にとってはやっぱり特別な子だった。俺の事務所にはコーヒーメーカーもあるのだが、わざわざスタバに通っていたのはこの子がいたからだった。この子の笑顔を見るために。時々一言でも会話を交わせれば、何だか得した気分になったくらいだった。その子を抱けるだけでなく、ハーレムに迎え入れることが出来るなんて、これこそまさに夢ではないか。
「味見してみますか?」
「呼べるの?」
「今からはムリですよ。呼ぶのは明日になりますが」
「……じゃあ頼むよ」
「了解しました」
――俺は「よし」と頷いてから、目頭をぐりぐりと指で押す。さすがに疲れたので、今日はもう寝ることにした。打ち合わせに来る前は、まさか泊りがけになるとは思わなかった。明日が日曜日なのは幸いだった。今にして思えば、ホテルの部屋で打ち合わせというのは、じっくり出来るし、味見をするにも便利なのでよかった。黒鉄は何だかんだいって、気が利くのだろう。……いや、黒鉄というよりも、黒鉄が言う「私どもの組織」とやらが、だ。
数時間前4人で楽しんだ寝室に入ると、当然のようにベッドメイキングもなされていた。俺は黒鉄が用意した服を脱ぎ捨てて、裸のままベッドに入る。瞼を閉じると、すぐに眠りについたのだった。