【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
訪ねてきたウサ耳少女に、俺は戸惑いながら挨拶を返す。
「お、おう……こんばんは」
奇妙な状況だった。
夜の奴隷小屋に、地下からの侵入者。ジャージ姿のラビが、よいしょよいしょと這いだしてくる。
優しげな笑顔には、保健室での淫らな面影はまったく残っていない。最初に出会ったときの、優等生美少女なウサ耳少女の顔だ。
「いま、俺のことリュータって……言ったっけ?」
「目が覚めてから、ジュリ先生にうかがいました。私の自己紹介はまだでしたよね。ラビです。えっと、ラビ・ポンパール。ダンサーバニー族です」
変な緊張感から俺は、彼女の前でついつい正座していたのだが、彼女も俺に合わせて、ちょこんと正座で向き合ってくれる。長いピンク色の髪は、今はポニーテールに結わえられていた。
「それで、あの……」
落ち着いた様子だったラビは、一転、頬を赤く染めながら、
「ひ、昼間は……、本当にその……すみませんでした!」
彼女が謝罪するのは、あの保健室でのこと。
「いや、俺も不注意というか色々と至らず――」
「いいえ! リュータさんは何も悪くありません! 私があんなふうになっちゃって、それで、首輪の魔法まで使っちゃって……」
「――記憶、あるの?」
あれほどの酩酊状態だったのだからてっきり何も覚えていないかと思ったのだが。けれどラビは、もじもじと恐縮しながら答えた。
「……はい、バッチリと」
「くっきりと?」
「せ、鮮明に……! うぅ……!」
思い出して恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、真っ赤な顔を両手で覆うラビ。
「そ、それで、まずはお詫びをお伝えしようと……。夜間は外出禁止になっているので、地下を通って――」
「地下って……」
さっきのゴリゴリ音――
地中を掘り進んできたのだろうか?
「はい。見つかるわけにはいきませんでしたし。あと、これを届けにと思いまして」
ラビは振り返って穴の中に上半身を突っ込むと、中から掛け布団と枕を引っ張り出した。
「ベッドはさすがに……。すみません」
「いやいや、とんでもない。ありがとう、これ助かるよ」
受け取ると、お日様のにおいがする。掛け布団はふわふわ、枕もほどよい硬さ。
「これで眠れそうだわ」
「本当ですか、良かった」
「……奴隷にこんな差し入れして、怒られない?」
「さあ? どうでしょう――。でも、そのときはそのときです」
ラビは、ふふっと笑って肩をすくめてみせる。
自分が怒られることも気にせず俺のために……なにこの子? 天使なの?
「ていうか、寮からここまで地面の中を? どうやって?」
「もちろん魔術です。土属性の」
「へぇ。でも、土汚れ埃ひとつないよな。布団も、ラビちゃんも」
「あ、ラビでいいですよ」
気軽なふうにほほ笑んで彼女は、
「これは風属性の魔術――その応用ですね。こうやって、身に纏わせて。ですので、布団は全然汚れてませんから。安心して使ってくださいね」
彼女が体操服のジャージなのは汚れを気にしてのことではなくて、単に動きやすさを重視した結果らしい。
「魔術……すごいな。俺、こっちの世界のことよく分からないけど、ラビってもしかして相当高レベルな使い手なんじゃない? もしかして、天才?」
「い、いえいえ! 決してそんなことは!」
「でも成績は良さそう」
「それは……私なりには頑張ってるつもり、ですけどね」
えへへと、はにかむ姿がまた愛らしい。
昼間、通常モードのラビの姿は、ほんの少ししか目にしていない。教室での彼女はまさに『クラスの頼れる委員長』みたいな雰囲気があったけれど、今のジャージ姿で照れている様子はどこか無防備で、これはこれで可愛らしいのだ。
……と、俺からの視線に気づいたラビは、また照れて、前髪をぺたぺたと撫でつけながら、
「も、もうちょっと……オシャレしてくれば良かったですかね……?」
「ラビちゃん――ラビって、そのままでも十分可愛いし。気にすることないでしょ」
「そ、そういうこと、言うタイプなんですねリュータさんは……!」
感情が昂ぶると本人の意志とは無関係に耳が動いてしまうらしい。長い耳の、半分から先は折れ曲がっていて、そこがくるくると勝手に動いているのだ。
なんだこの生き物。可愛いな。
こんなの、もっとイジメたくなってしまうだろう。
「……いやぁ、本気で美少女だと思うよ? メイクしなくても可愛いし、したらしたで、すっごく映えそうだし」
「な、なにを」
「制服も似合ってたし、ドレスも着こなせそうな雰囲気あるよな。とはいえ日常感満載のジャージ姿も気を許してくれてるようで男からするとなかなかグっとくるものがあるし――」
「だ、だからなにを言ってるんですか……! や、やめてくださいよ!」
さらに赤面してあたふたするラビ。
「そ、それ以上言ったら、また発情しちゃいますからね!? い、いいんですか!?」
なかなか聞けない種類の脅し文句だった。
「あ、ああ。――ごめん」
「本当は、布団の差し入れなんかじゃなくて私の部屋に来てもらうのがいいかもしれないと思ったんですけど、また、あんなふうになっちゃったら……」
「で、ですよねー」
「………………」
「……………………」
気まずい沈黙。
お互いに、昼間のことを思い出して目を伏せてしまう。もっともこの場合、俺は『思い出し勃起』してしまわないように、自制する必要があるからなのだが……。
だって、最後の一線は越えなかったものの、あれだけ濃厚な性的接触を行った相手が、いま目の前にいるのだ。しかもあんなことがあった娘と、こうやって普通に会話をしている――改めてそう考えると、妙にそわそわしてしまう。
「…………」
目の前で正座している少女。
今はまったく淫靡な雰囲気なんて纏っていないのに――
けれど俺は、ジャージに包まれたラビの肉体が、どれほど素晴らしいのかを知っている。奴隷小屋という貧相なロケーションはともかく、こんな夜に、2人きりで過ごしていると、またぞろ変な気分になってしまいそうだ。
――そしてどうやら、ラビのほうも似たような感情だったらしく、正座の
「え、えっとですね! そのへんの事情も……説明をしておこうと思いまして……!」
「う、うん?」
ダンサーバニー族の少女。
あのあと聞いた話だと、『発情』すると歯止めが利かない種族なのだとか。
「……そうなんです」
ラビは恥ずかしそうにしながらも、自身について説明してくれた。
「もともと私たちの種族は『女の子』しか生まれて来ない体質なんです」
「じゃあ、異種族と交わって子供を……?」
「いいえ。神さまを……精霊を降ろして、まぐわうんです」
「――精霊?」
ラビの話によると、彼女たちの言う精霊とは『神さまの住まう領域』に存在している魂だけの存在らしい。
「その精霊を召喚するんです。――自分ともっとも相性のいい精霊を。その儀式にはほとんどの場合、演舞が伴います。【ダンサーバニー】と初めに誰が名付けたのかは定かではありませんが、その語源もこの精霊召喚の儀式に由来するんです」
俺のいた世界で、シャーマンだとか巫女だとか呼ばれていた人種に近いのかもしれない。特別な儀式によって意図的にトランス状態を引き起こし、神さまと交信しようとするような。
「私たちの種族はその精霊との性交でないと子を成せないのです。他の男性とでは、たとえ子宮のガードを解いて精子を迎え入れても子はできません」
「……ん? 『子宮のガード』?」
これもまた未知の概念だ。
「?? はい。子宮を守っている魔力の結界です。……そういえば、リュータさんの世界には魔術が存在しないんでしたよね。どうやって避妊を?」
俺がコンドームやピルなどについてかいつまんで説明すると、ラビは感嘆の声をあげた。
「――技術力も凄いですが。では、それをしないとすぐに妊娠してしまうんですね」
「……その魔力の結界って、自分の意志で解除できるのか?」
「ええ。女性が孕もうとしたときに、自分で解除します。そうすることで」
初めて妊娠に至る、ということか。
性奴隷とか性行為実習なんてものが当たり前のように存在するから、てっきり、避妊について特殊な技術があって、それを用いるものだと思っていたけれども。どうやら女体にデフォルトで備わっている機能らしい。
……それで学園長たちは『中出し』だとか気軽に言っていたのか。
確かに、実習で次々と生徒たちが妊娠していったら『健全な』学園生活を送れなくなるよな。家族だってそうだ。送り出した子がみんな性奴隷の子を孕んで帰るんなら、もっと反対者が多くてもいいはずだ。
「ときどき、性行為実習が気持ち良すぎて無意識のうちにガードを解いちゃう生徒もいるらしいんですけど」
ラビはポツリとつぶやいてから、この学園についてより詳しく教えてくれた。どうやら俺の知識量を考慮して、自身の話よりそちらを優先することにしたようだ。
「女王様の政策で性行為実習が禁止になったのは聞きましたか?」
「ああ。で、学園長ちゃんが抵抗してこの学園を――」
「ちゃん?」
「…………学園長先生がその政策に反対して、伝統的な性行為実習を復活させようと俺を召喚したんだよな」
「そうです。なので、この学園には元からいた生徒に加えて、他校に通っていた『性行為実習を受けたい生徒』も多く集まっています。……もっとも、女王様を恐れて転校していった生徒もいましたから、差し引きすると定員よりはやや少なめにはなっているんですけど」
新入生である1年生だけでなく、ラビたち2年生や、最上級生の3年生にも、他の学校から転学してきた者も多いらしい。
「学園長の思想に賛同した生徒たち、か」
「生徒の希望だけでなく、家庭の方針だったりもしますけどね。淑女のたしなみを身につけるために。……そして私も、転学してきた1人です」
「ラビも?」
ということは、彼女も性行為実習を望んでいるということか。あるいは、彼女の家族が。
「私の場合は、種族としての必要性もありまして――」
ラビの話は一周して、ダンサーバニー族に繋がった。
「精霊と交わらないといけない種族、なんだよな」
ラビはうなずく。
「先ほどお話したように、私たちは子宮のガードを外して他の種族と性交しても、妊娠はしません。私たちを孕ませることができるのは、精霊だけ」
だから精霊を召喚する。
「精霊を召喚したダンサーバニーの娘は、その直後から精霊と床を共にします……。三日三晩、寝ずにまぐわい続けるのです。――孕むために」
牝ばかりの種族。
精霊と交わって、命をつないでいく一族。
「あの、その……それで……」
それまで淀みなく話していたラビが、急に口ごもり出す。
「……昼間の、あの『発情』なんですけど。あれは、精霊を降ろした直後のダンサーバニー族が陥りやすい状態なんです。……召喚直後から、精霊とまぐわって、孕まないといけないので……」
「ああ、なるほど」
あの、異常なまで積極的だったラビには、そういう背景があったのか。俺の股間のせいだけではなかったことに、何となく安堵する。
「……うん。あんな勢いで可愛らしく迫られたら、どんな堅物の精霊でもコロッといくだろうな」
「――……っ!? は、恥ずかしいですから! 改めて言われると……っ!」
本気で恥ずかしがっているようなので、それ以上の言葉責めは控えておいた。俺のために説明してくれてるんだもんな。あんまり茶々を入れるのは良くない。
ラビは咳払いをひとつしてから、話を続けた。
「精霊をこの世界に繋ぎとめておくのはとても難しく、長くて三日が限度です。ですから、そのあいだに確実に孕まないといけない。――失敗に終わっても、二度、三度と精霊を召喚することも不可能ではありませんが……自分と最高の相性を持った精霊は、どの世界を探しても一人しかいません。……完全に発情した私たちと、同じくその気になった精霊との夜通しの性交は……割と命がけですので。初回の召喚で、きちんと孕むのが最良だとされています」
そこまで聞いて、ラビがこの学園を選んだ理由が分かった。
精霊から確実に、そして大量に子種を搾り取るために性行為を学んでおく必要があった、ということか。
けれど、女王様の嫌がらせで男を調達できない。だから学園長は、召喚の儀式を行えるラビに白羽の矢を立てた。そして利害が完全に一致するラビは、その申し出を受けた――と。
しかし、ラビが本気で性行為の技術を身につけたらどうなってしまうんだろう?
あの、未熟な状態の『発情ラビ』を相手にしてすら、俺はむちゃくちゃに搾り取られてしまったわけだし、成長したラビと三日三晩ぶっ続けにまぐわったら……
なるほど、普通の人間じゃ持たないだろうな。精霊だとかいう、埒外の存在でもなければ耐えられそうにないよな。
「精霊って、どんな姿をしてるんだ? 人間と同じ姿?」
「……え?」
ラビはきょとんとして、それから、遠慮がちに俺を指さした。
心なしかさっきより顔が赤い。
「……そんな姿、ですけど?」
「……ん?」
「うしろには誰もいませんよ。……ですから、私が召喚した精霊はリュータさんですので……」
「んんんん????」
首をひねって考える。
――そうか、そうなるのか?
つまり俺は、この学園にとっては『性奴隷』で、ラビにとっては『精霊』でもあるわけか。
「そういえば俺、前の世界で死んだあと――」
話しているうちに、おぼろげながら死後の世界のことを思い出してきた。
何もない世界で俺は、誰かの声を聞いたような気がする。なにかを俺に問いかけてくる声。そして俺は、とても崇高で、とても理知的な答えを返したような覚えがある。その感覚だけは、はっきりとある。
「――あれって、もしかして?」
「ええ。おそらくそれは、私の呼びかけだったんだろうと思います。……ただし、私が意識して呼びかけたというよりは、無意識の……あの、えっと、昼間の……発情したときの私の、ああいう感じの……」
「別人格?」
「――とまでは掛け離れていきませんが。あれもやっぱり、私自身ですし」
さらに思い返すと。
召喚された直後、教室でジュリ先生は、俺が肉体的に『ラビにぴったり』だと評していたような――
「ぴったり……」
やばいな、むっちゃ照れてきたぞ?
自分と相性ぴったりって。それも、どの世界を探しても他にいない、最高の相性だとか。たとえ肉体的な話であっても、なんか照れるわ。
考え込んでいる俺の雰囲気で察したのか、ラビは慌てて、
「そ、そうなんですけど! 精霊召喚って、そういうものですから! ええっと、領域にいる、数多の精霊のなかから、魂と肉体の形が自分にピッタリの相手を選んで…………えっと、ああっ! べ、別に、この目で見て選んだわけじゃないですからね?? まじまじと見て、この形いいなぁって、……思ったわけじゃないですから!」
混乱しきったラビは、言わなくてもいいことまで口にし始めた。
「教室で初めて見て! ……お、男の人って、こうなってるんだって! 絵では見たことあっても、本物って初めてで! 男性の家族とかいないし……! さ、触ってみたらどんな感じだろうって無意識で思った結果があの保健室かもしれなくて! そ、そこばかり見てたわけじゃないですよ!? リュータさんのこともちゃんと……! いい雰囲気の人だなぁって! 精霊とまぐわうってちょっと怖かったんですけど、この人となら怖くなさそうだなぁとか! そういうこともちゃんと、考えてましたから!? え、えっちなことだけじゃないですからっ!!!! ……はあっ、はあっ……!」
一気にまくしたてて息の切れたラビに、水道から水を汲んで渡してやると、彼女は喉を鳴らしながらひと息で飲み干した。
「んくっ、んくっ……、ぷはぁっ。ふぅ……」
「落ち着いた?」
「あ、ありがとうございます…………。どこまで話しましたっけ?」
「意外と俺の好感度が高かったこと」
「ぴにぃッ!? わ、私、そんなことまでバラしてましたかっ!!? あっ、あれっ?」
意外とあれだな。
この子、テンパりやすいのかもな。
このままじゃ話が進まない。
混乱しているラビに、とりあえず深呼吸をさせる。
「はい、ひっひっふー。ひっひっふー」
「ひっ、ひっ、ふー。……変わった呼吸法ですね?」
「俺の世界では一般的だ」
「なるほど。でもよく利きます。みんなにも教えてあげようっと」
しまった。俺のちょっとした悪戯心のせいで、異世界の魔法女学園でラマーズさんが有名になってしまうかもしれない。
「落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます」
「……さっきの話で、最後にひとつ聞いていいか?」
夜も更けてきた。
彼女をこのままにしておくワケにはいかないだろう。聞きたいことはまだまだあるが、最後に重要なことをたずねておこう。
それは、俺自身の生存に関わること。
「俺がラビに召喚された精霊なんだったら、俺は『三日』で消え去ってしまうのか?」
ダンサーバニーの娘が三日三晩、一生懸命にまぐわうのは、精霊が消えてしまわぬうちにということだ。ならば、俺の余命も……あと三日?
俺って、三日後に死ぬ精霊?
それはさすがに儚すぎる……!
「消えても、もとの魂だけの存在に戻るのかもしれないけど」
だが、俺の心配は杞憂に終わった。
「リュータさんの召喚は、ちょっとイレギュラーなんです。私の精霊召喚がベースなんですけど、学園長先生のお力添えもあって、完全に受肉した状態です」
「――つまり、三日経っても消えない?」
「消えません。リュータさんは、リュータさんのままです」
ラビは、迷いなく断言した。
「代わりに、その首輪が付いちゃったんですけどね……
神さま的な存在が、好き勝手暴れたらマズいってことか。
「――リュータさん」
「……はい?」
ラビが背筋を伸ばしてまっすぐに見つめてくるものだから、俺も居住まいを正して耳を傾ける。
「そのへんの事情を踏まえて……明日、私は学園長先生に交渉しようと思います」
「交渉?」
「はい」
ラビは、きっぱりとした口調で言った。
「――リュータさんを、この奴隷小屋から解放するための交渉です」