【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
翌日。
ラビが差し入れてくれた布団のおかげで熟睡できた俺は、彼女と一緒に学園長室をたずねていた。
ラビ主導による、学園長との『交渉』だ。
一限目の時間帯。
ラビは、特別に許可を得て授業を欠席していた。
「――ふむ。ではラビよ。そちは、リュータにも寮の部屋をあてがってやれと言うんじゃな?」
「はい」
学園長の前でも物怖じせず、ラビは真っ直ぐに正面を見据えて答えた。
俺は『学園長ちゃん』なんて呼んでいるし、相変わらず愛らしい見た目ではあるが、それでもやっぱりここでは一番偉い人なのだ。
おまけに、どうやら魔術師としてもかなりの尊敬を集める人物らしく、国中から恐れられている女王様にここまでの教育環境を譲歩させたのも、やはり刮目に値すべき偉業なのだそうだ。
テレジア学園長は、今日は生徒の前ということもあってか完全に『先生モード』で、小さい身なりながらも、なるほどかなりの威厳を放っていた。
性奴隷制度のこともそうだが、学園長は伝統を重んじる派であり、『奴隷は奴隷小屋に』というスタンスも踏襲して、譲りそうにない。さすがは超高齢者(推測)。
「さっそく情でも湧いたかの? 昨日は、昼間からずいぶんとお楽しみのようじゃったからの。ふふ」
超高齢者(推測)らしいイヤらしい煽り文句にも、しかしラビは動じない。
「――学園長先生。私は『召喚主』として特別に許可を頂いて、この学園にとって、もっとも大事な『性奴隷』の件でお話に伺ったのです。私個人の話はあとにしませんか?」
ラビは毅然としていた。
「それに、せっかく学園長先生にも貴重なお時間を割いていただいているのですから――
なにこの男前美少女。
レスバつよつよかよ。惚れるわ。
「なんじゃつまらんのー。そういうところ、可愛げがないぞー。……ま、さすがは姫君と言うべきかの」
「姫君?」
そういえば、昨日も学園長はラビのことをそう呼んでいた気がする。
俺が驚いていると、ラビは隣に立っている俺のことを振り向いて、
「族長の娘ってだけで、私たちだけの国があるわけじゃないんですよ」
と苦笑する。
「んで、姫君。そちの言う『お話』とやらは、どんなものかのぅ?」
ラビが『姫』と呼ばれることに苦手意識があるのに気づくとすかさず攻撃材料に使ってくるあたり、やはり年寄りはえげつない。
けれどラビはやっぱり冷静なままで、また正面に向き直って答える。
「性奴隷は、奴隷小屋で暮らすべきだというのは知っています」
「それが世の中の決まりじゃからのぅ」
「おっしゃる通りです。伝統を引き継いでいくのは大事ですし、女王様からの特別な許可で性奴隷制度を導入しているのですから、むやみに決まりを破って、こちら側から不利な状況を作るのも、得策ではないのだろうなと思います」
「然り、じゃ。なんじゃ、分かっておるではないか」
なるほど、そういう側面もあるのか。
規則を破って制度を運用した結果、大きなトラブルを起こしてしまいました――なんてことになったら大変だもんな。
「ですが」
と、ラビは続ける。
「それは、私たちの『世界』での決まり事……常識です。けれどもリュータさんは、この世界の人ではありません」
「……む?」
「私が無理やり呼び寄せた異世界人です。そして、強制的にこの学園の『性奴隷』になってもらっています」
「……じゃから、待遇を良くせいと? ふぅん」
そこで学園長は、俺のほうを見てニヤリと笑う。
嫌な予感……。
「しかしのぅ、こやつ、昨日はさぞ喜んでおったぞ?
『やったー! ぼく、せいどれいなんだ! おんなのこと、いっぱいこうびできるんだ! うれしいなー、うれしいなー! わーいわーい♪』
などと、その辺でギターをかき鳴らしながらスキップしておったわい」
「…………。……してました?」
「してないから! スキップなんてしてないから! あれ? そこ、信用ない!!?」
まあ、大いに喜んでいたのは事実なのであまり強く否定もできない。
「……それはともかく、です」
気を取り直して、ラビは、
「リュータさんが快く受けてくださったのはいいのですが……異世界で彼は、奴隷小屋よりはずっと良い環境で暮らしていたそうです。お仕事は大変だったようですが……少なくとも、住環境は奴隷小屋のようではなかったというお話です。ですから、性奴隷として心身共によいコンディションを保ってもらうために、よりよい環境を――」
「そうは言ってものー。そのうち慣れるじゃろうし。しばらくのあいだは、ほれ、肉体的なダメージなんぞ治癒魔術をかけてやればよかろうに」
それにじゃ……と、学園長は続ける。
「寮に性奴隷を入れるのは危険なんじゃ。生徒が、ではなく、リュータがの。夜這いをかけられて、ムチャクチャにされる恐れがある」
それ怖いんだが?
……いや、少しだけ、そこそこ、熟考していいくらいには興味があるけど……。
「いくら治癒魔術といえど限度がある。性奴隷がそんな状態になってしまっては、昼間の授業に支障が出るからのぅ」
正論めいた学園長からの抗弁。
けれど、ラビは負けなかった。
「もう1つ、リュータさんの特殊性に関する重大な問題があります。これは、学園の存続にもかかわる、相当に深刻な問題です」
「……なんじゃ、それは」
ここでラビは、俺が『ダンサーバニー族が召喚した精霊でもある』という事実を掲げてみせた。
「確かに私の召喚は成功しました。ですから、リュータさんが今日明日、すぐに消えてしまうということはありません。ですが――ここから先もずっと、とは保証できません」
「なんじゃと?」
――なんじゃと?
「ですから、なるべく私の近くに置いておきたいのです」
「そちがおれば、消滅を防げると?」
「はい。本来の精霊召喚も、三日三晩に渡って魔力を交換し合うからこそ、精霊はこの世界に留まり続けることができるのです。受肉のおかげで当面は安定しているとはいえ、イレギュラーな召喚でしたし不安も残ります。できる限り頻繁に魔力交換を行うことで、リュータさんをこの世界に定着させたいと考えます」
「なるほど、のぅ……」
「昼間はともかく、夜間、奴隷小屋で何かあってから駆けつけるのでは遅いのです。……そうですね、それでもどうしてもリュータさんの入寮が無理だとおっしゃるのなら、私が奴隷小屋に住んでも構いませんが」
「ぬぅ……」
奴隷は奴隷小屋に――
けれど、生徒を奴隷小屋に住まわせるわけにはいかないでしょう? という攻め手か。しかも当のラビは『お姫様』なのだから、ぞんざいには扱えない、と。
「性奴隷が消えてしまえば、この学園の意義がなくなってしまいます」
「また召喚すればよかろう?」
「私は拒否します。ダンサーバニー族は、初めての男性しか認めません。私は、リュータさん以外の人を召喚するつもりはありません」
「……ふぅむ」
学園長はうなる。
「しかし、外から別の召喚術士を呼び寄せる手もあるが……」
「結界が閉じた今、そう簡単なことではないはずです。外部から術士を招くのでしたら、またあの女王様の前で膝を折ることになるかと思いますが?」
「ぬぬぬ……!」
女王の名を聞くと、相変わらず学園長の顔は渋くなる。よほど嫌いな相手なのだろう。
学園長はしばらく腕組みをして、散々「うーん、うーん」と頭をひねったあと、
「ええい! わかったわかった、そちの勝ちじゃ! よかろう。奴隷小屋は、なしじゃ!」
「本当ですか!? ――っ、リュータさん!」
ラビは、ぱあっと顔を輝かせて俺のほうを見る。俺以上に俺のことを喜んでくれているのが分かって、やっぱり照れる。
「しかし、寮に住ませるわけにはいかん。……じゃから、別の場所におぬしらのための家を建てさせよう。2人、そこで住むのじゃ」
「「え……、えええっ!?」」
いきなりの2人暮らし案に俺たちは戸惑うが、学園長はぐいぐいと話を進めていく。
「よい折衷案じゃろうが。寮から離れた場所に建てればリュータが襲われる危険も少なく、ラビと夜を共にすることで、リュータが消滅するリスクも抑えることができる」
学園長は、お気に入りの扇子を片手でぱっと開いて、
「授業外での性行為は望ましくはないが……私生活すべてに口出しはせんよ? それに、リュータの消滅を防ぐにはなるべくたくさん『接触』するのがよいじゃろう?」
「そ、それは……!」
「どうじゃ? 妾は生徒の進言を聞き入れて柔軟な判断ができる、立派な立派な学園長さまじゃからのう!!!!」
……この、やられてもタダでは起きないのじゃロリBBAめ!
■ ■ ■
最終着地点はともかくとして、どうにか当初の目標を達成した俺たち――というか、完全にラビのお手柄なのだが。とにかく俺たちは、学園長室を後にしてひと息ついた。
「本当にありがとうな。ラビのおかげで人並みの生活ができそうだよ」
「いえ、私が無理やり召喚したのは事実なんですから。これくらいは」
良い結果ではある。
しかし――
「俺、やっぱり消えちまう可能性もあるんだな。受肉した状態とはいえ、不安定には違いないのか……。なにか、普段から気をつけることとかあるか? もし予兆でもあるんなら俺も知っておいたほうが――」
「嘘です」
ラビは、あっけらかんとした顔で言った。
「嘘です。リュータさんが消えてしまうなんて、嘘」
「それじゃあ……学園長相手に、ハッタリかましたってこと?」
「はい、かましちゃいました☆」
「きみ、ホントに大物なんだな……」
繰り返すが、あの学園長は見た目はともかくかなりの傑物らしいのだ。
なのに、この子は……。
「ご主人様……。一生ついていきます」
「ええ、そうしてください」
口元に手を当てて、くすくすと笑うラビ。
その横顔に、心の底から、この子に召喚されて良かったと思った。
「……それに。感謝したいのは私もなんですよ?」
「ん? 俺に?」
「はい――」
ラビは隣を歩きながら、
「……記憶、ばっちり残ってるんです。昨日の」
「あ、ああ。そう言ってたな――」
「だから、リュータさんの言葉も」
「……ラビとしたい、ってやつ?」
「そ、それもですけど……そっちじゃなくて……」
ウサギの耳が、ピコピコと不規則に動く。
「私を気づかって、しないでいてくれたことです。あのままだと私、きっと孕んでましたから……」
精霊召喚直後の『発情モード』。
子種を授かるための、ダンサーバニー族の習性。
「――孕むのは本望なんですけど。でも、まだ私は学園にいたいから。みんなと学園生活を楽しみたい」
俺の我慢にも意味があったのなら――まあ、苦労した甲斐があったよ。
「あれ我慢するの、本当に大変だったからな?」
「あはは……、えっと、私と……そんなにしたかったですか?」
「もちろん」
「……たまに照れるくせに、リュータさんってそういうことはハッキリ言いますよね?」
「我慢するつらさは、昨日、嫌というほど体験したからな」
2人して苦笑を漏らしたところで、廊下の突き当たりにまで来た。ラビはここから教室に向かう。俺は、より精密な身体検査を受けるためにまた保健室行きだ。
「じゃ、またあとで」
「はい。またあとで――あの、リュータさん」
「ん?」
去り際、ラビは俺の耳元に顔を寄せてきた。
ふわりと彼女の髪の香り。
ラビは小声で、そっと囁いた。
「昨日は我慢してくれて、本当にありがとうございました。でも、私が卒業するときには…………絶対に、孕ませてくださいね?♡」
命令ですよ――
そう言い残し、跳ねるような軽やかさで去っていくラビを、俺はただ呆然として見送っていた。
……駄目だ。
俺のご主人様は可愛すぎる。