【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
ラビを乗せた馬車は、リュータの馬車に先行してとある街に到着していた。
彼女の監視役を担当するのは、ハーフエルフ族のジーン。普段は王宮内で政務に当たっている彼女は、女王に忠実な臣下の1人だ。
「いかがですか、この街で一番の宿ですよ」
「はい。私にはもったいないくらいで――」
街の規模は小さいが、観光地でもあり宿の施設は充実している。
ダンサーバニーの族長の娘に対しても、この宿なら問題ないだろう。
だが制服姿の少女は、ジーンに微笑をもって返事してくるものの明らかに気落ちしている。
(それほどあの性奴隷と一緒がいいのかしら……)
聞くに、2人は毎夜、床を共にしているという。
1人の牡にそこまで熱を上げるなんて――、とジーンは信じられない思いだ。
彼女が仕える女王は、ハーレム狂いと言っていい性癖の持ち主。
国民には禁止令を出して性行為から遠ざけておきながら、自身は活きの良い性奴隷を囲って楽しみ尽くしている女性だ。
その貪欲さを、ジーンは王の器だと評価している。
……ジーンたち側近は、そのおこぼれにもあずかれるし。
「はぁ……」
窓の外へ目をやってため息を吐くラビ。別行動の性奴隷リュータのことを心配しているのか、彼の肌を恋しく思っているのか。
(魔力が強いとはいえ、たった1人の牡でしょう? 何をそんな――)
男なんて、取っ替えひっかえするもの。1人ずつの精力が低いのは、数で埋めればいい。もっとも、そんなことが出来るのは王族ほどの富と権力が必要だろうが……。
「お疲れですね。無理もありません、1日中馬車に揺られていましたからね」
ジーンはラビのことを案ずるような素振りを見せながら、
「――ところで、この香はいかがですか?」
入室したときにセットした香炉からは、ゆらゆらと仄かな煙が上がって、室内に甘い匂いを振りまいている。
「特別に調合した香で、疲れがすぐに取れるんですよ」
「え? あ、とてもいい香りです。ありがとうございます」
先ほどまでの不安な表情ではなく、本当に嬉しそうな顔で笑う。
なんとも素直で、人懐っこい娘だ。
(少し気が引けますが――)
この香は、宮廷魔術師の手製。本当に特別な調合が成されてあるのだ。
始めは先ほどの説明どおり、リラックスを促す効果の芳香を漂わせる。
だが次第に、その煙には媚薬の効果が溶け込んでいく。
荷ほどきなどで時間を潰しているうち、
「…………、んっ……?♡ あ……、なんだろ……」
ほんのりと頬を染めて、ラビがモジモジし始める。
(ふふ、効果覿面ですね)
ジーンは事前に予防薬を服薬しているため効果は現れないが、もともと性欲の強いダンサーバニー族には特によく媚薬が効いているようだ。
しかし、
「は、はふっ、はふっ……♡♡」
汗をにじませ、体を火照らせるダンサーバニーの少女は、同性から見てもあまりに艶っぽい。
「んく……、な、なんで私っ……♡ ん、ぁあ……♡」
予防薬を飲んでいて良かったと思うジーン。
こんな淫らなフェロモンをまき散らかされてしまっては――場合によっては、ジーンがラビのことを押し倒していたかもしれない。
(これは、例の性奴隷じゃなくても興奮するでしょうね)
こっちの世界の牡でも、襲いかかってしまいかねない性的魅力だ。
ともかく――
ジーンは心を落ち着かせて、
(そろそろかしら)
第一段階で心と体をほぐして、媚薬で性欲をくすぐって、それから――。
「ふにゃ……は、ぅ……?」
「あら? 思った以上に疲労が溜まっているようですね。取りあえずベッドに腰掛けてはいかがですか?」
「は、はい……」
とろんととした目つきで、緩慢な動き。
(掛かって来てるわね、催眠が……!)
それが第三段階、本命だ。
その深度を探るべく、ジーンは問いかける。
「あの性奴隷と離ればなれで、寂しいですね?」
「――はい、とても寂しいです……」
「セックス、したいですよね?」
「はい。今すぐにでもしたいです――」
首尾は上々。
うつろな表情で淡々と、さっきまとはまた違う素直さで応答する。
性欲が高く、純粋で、一途な性格――
催眠の標的としては最適な相手だ。
この催眠香は時間が掛かるぶん、対象に気づかれにくく、そして深く効く。
(さて、ここからが本番よ……)
ジーンはラビの正面に回って、
「それは大変ですねぇ。発散しないと、今晩耐えられそうにありませんよね?」
「――はい」
「セックス、したいですよね?」
「はい」
コクりとうなずくラビに、ジーンはほくそ笑みながら、
「実は、下の階には何人もの男性がいるんです」
「…………」
「ただの男ではありませんよ? 王宮秘伝の精力薬で、瞬間的にですが性欲を何倍にも高めた、活きのいい牡ばかり15名――」
そう、これは簡単に言えば色仕掛け。
ラビのこと直接傷つけるワケにはいかないが、『自分の意思で』他の男と寝たという事実さえこしらえてしまえば、性奴隷との仲を乱すのに役に立つ。
催眠に堕ちている今の記憶は曖昧になる。
性欲を抑え切れなかったラビが男たちを誘惑した――そういうふうに思い込ませれて、刷り込めばいい。
「ラビさん、いつもと違って1人で眠るの寂しいですよね?」
「はい。寂しいです」
「性行為、したいですよね?」
「はい。したいです」
完全に堕ちた。
ジーンは、任務の成功を確信する。
「活きのいい逞しい牡たちと一晩中……セックスしましょうね」
「いいえ」
「いい返事です、では彼らを呼んで――…………、え?」
聞き間違いか?
ジーンは改めて質問する。
「あの性奴隷以外とでも、セックスしたいですよね?」
「いいえ」
「…………!? せ、性行為はしたいですよね?」
「はい」
「今すぐにでも性欲を発散したいですよね?」
「はい」
「あの性奴隷以外でもいいですよね?」
「いいえ」
――――。
ジーンは香炉を近くに持って来て、媚薬と催眠の効果をさらに高めてから、
「だ、誰とでも性行為したいですよね?」
「いいえ」
「性奴隷リュータとなら――」
「したいです」
「毎日セックスを――」
「したいです」
「ハーレムに興味が――」
「ありません」
「で、では、性奴隷並みに強化された男となら――」
「いやです」
「………っ!?」
瞳をのぞき込んでみるが、間違いなく魔術には陥落している。
暴走発情寸前まで性欲は高まっているし、理性は剥がれ落ちて、本能のままに受け答えをしている状態だ。
「ご、ごほん。いやぁ、セックスって気持ち良いですよね」
「はい」
「――でも、1人しか知らないってもったいないですよ。より多くの経験を積むことも必要だと」
「…………」
「ですので他の男と――」
「絶対に嫌です」
もはやこれは、理性だけでなく本能でも彼以外を拒否しているということ。
(つ、付けいる隙間がまったくない……!?)
「あの――」
困惑するジーンに、今度はラビのほうから声を掛けてきた。
「な、なんですか?」
「リュータさんは……どこですか……?」
催眠状態にありながら話しかけてくるというのはイレギュラーだが、夢うつつなことは変わっていないようだ。
「いませんよ。彼は別行動で――」
「悪いこと、していませんよね?」
「へ?」
「リュータさんに悪いこと――」
彼のことは、魔術師のミーティアと騎士のライザが担当している。
ミーティアは浮ついたところはあるが精液採取の任務は遂行するだろう。
ただライザの方は短期で――まあ、だからこそ、「もしかしたら『事故』が起きるかも知れない」という女王の采配で、彼女を付けているわけだが。
「リュータさんに悪いことしたら……許しません……」
理性を失った、光のない目でジーンのことを真っ直ぐに見てくる。
「ゆ、許さないって――」
「絶対に、です」
感情の籠もっていない声が、薄ら寒さを感じさせる。
ダンサーバニー族は、温和な性格で争いを好まない平和的な種族だ。
だが、けっして種として弱いわけではない。
精霊召喚を行えるほどの潤沢な魔力。魔力に裏打ちされた、健康的な肉体。もしも戦闘となれば単騎で多勢を圧倒するほどだという。
特に脚。
魔力の籠もった本気の蹴りは、竜族の頭を飛ばすほどで――。
その潜在的な戦闘力があるからこそ、彼女たちに手を出そうとする者は少なく、平和的に種を存続させられてきたというのが歴史の事実だ。
過去、ダンサーバニー族が本気を出したのは、自分たちの家族が傷つけられたとき。
身内を守るためならば、死力を尽くす一族だ。
普段は穏やかで、理性の高さゆえに暴力や殺意からは縁遠い種族なのだが――いまラビは、ジーンが用意した魔術のせいで、理性のタガが外れて何をしでかすか分からない有り様だ。
暴走発情状態になれば性欲が、そして魔力も最大限にまで高まる。性行為も激しくなるが、もしもそれが闘争にも適用されようものなら――
「ま、待って、私はあちらのことは管轄外で……!」
背中に脂汗を滲ませながら、しかしジーンは一歩も後退することができない。虚ろな顔のラビから受ける強い圧力に、ただ身をすくませるしかできない。
「リュータさんに何かあったら……」
柔和な少女は、ゾッとするような無表情で見据えてきて、
「……私は、皆さんのことを絶対に許しませんので――絶対に――」
「もっ、もちろんよ!? 何もあるはずないわ! ま、窓開けましょうね? 空気の入れ換えをしましょう!」
蛇に睨まれたカエルのようだったジーンは、慌てて窓と扉を開け放ち、香炉を叩き壊し魔術を無効化してから部屋から逃げ出ると、下の階でスタンバイしていた男たちを即座に撤収させた。
そして別の宿に駆け込み自分の部屋を取り、ガタガタ震えながら、ライザがリュータのことを真っ二つにしていないように、と強く願いながら夜を過ごしたのだった。