【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
■ ■ ■
――あれは、ライザとミーティアとの別れ際。
「え、2人とも冒険者学校の卒業生なのか?」
「そうだ」
「卒業ほやほやだよ~」
俺たちはそんなやり取りをしていた。
明日やって来る、冒険者学校の生徒たち。彼女たちはどんな相手なんだろうと思って雑談程度に話を振ってみたら、そんな答えが返ってきたのだった。
聞くところによると、冒険者という職業、この世界ではそこまでシビアではないらしい。
割とあちこちの探索を終えてしまっているので、職業兼趣味くらいで冒険者をやってる人が多いという話だ。
ただ、成績の突出した生徒は、王宮や貴族などからスカウトされて別の職に就くこともあるとのこと。
そんなルートでこの2人も女王に仕えることになった、ってワケだ。
「私たちは優秀だったしねぇ~」
「セックスは弱かったけどな」
「うう……それ言っちゃいます~? でも今の在校生よりはマシだよ、今の子たちは性行為実習まったく受けてないからねぇ~」
「ライザちゃんよりピュアだから~」
「だ、誰がピュアだ!」
と、ピュアな竜族ちゃんは顔を赤くしながら、そして2人(3人)とも俺との別れを惜しみながら、学園から去っていった。
「さて、と――」
生徒のいない校舎を振り返る。
明日はこの夏休みの学園に、滅多に無い外部からの『お客さま』がやって来るのだ。
■ ■ ■
「テレジア学園長殿、3日間お世話になります」
冒険者学校の選抜1クラス、20名が学園に到着した。
俺たちは講堂で出迎える。
うちの学園のように制服ではなく、個人個人が自由な服装で、軽装の鎧を身につけている女の子もいれば、フード付きのローブを纏っている生徒もいる。種族も様々なのは、うちと同様だ。
そんな個性豊かそうなその集団を率いていたのは教師ではなく、1人の生徒だった。
目の前でひざまずく彼女に、学園長ちゃんは、
「そちが生徒代表か。名は?」
「はい。ファティマと申します――」
プラチナブロンドのショートカットは、髪そのものが光を放っているように輝いている。
中性的な整った美貌に、透明感のある白い肌――完璧すぎて、ともすると作り物のようになりそうだが、柔和で自信に満ちた表情のおかげもあって生気にみなぎって見える。
強そうだな……。
体格は普通のヒト族の女の子だ。腰に帯びた剣も儀礼用のようで、血なまぐささは全く感じさせないけれど、漂うオーラからして常人じゃないのが分かる。
「ふぅむ……」
「――? 僕の顔になにか?」
「いや、こんな逸材を抱えておったとはの。ぜひ我が学園にも欲しかった」
「ふふ、光栄です」
学園長ちゃんを前にしても物怖じしていない。
凜とした声のボクっ子。
彼女――ファティマ以外の生徒たちは、萎縮や緊張した様子でいる。
無理も無い。こんな感じだが学園長ちゃんは女王と真っ向から張り合っている大物だ。そうでなくても、つよつよな妖狐として知られている女傑――姿は小さくても、いやそれだけに、放たれる魔力とのギャップに恐れを感じているんだろう。
……俺はしょっちゅう彼女のことを犯してるし、昨日なんかはラブラブセックスしたばかりだから、もう怖さなんて感じられないけど。今日も、俺と会っただけでちょっと赤面してたし。
ともかく。
普段は凄いしビビられてる学園長ちゃんに対して、落ち着き払った態度。
このファティマという生徒、結界を越えてうちの学園という『魔境』を訪れるにあたって、生徒代表を任されるだけの人物だというのは確からしい。
「そちらにも紹介しておこう。本校が誇る性奴隷のリュータじゃ」
一斉に視線が集まる。
彼女たちの学校に、性奴隷はいない。というか男さえいないという。さっきからチラチラ見られていたし、興味津々なんだろう。敵意は感じないが、近づくと危険な珍獣でも見ているような目だ。
「貴方が――」
ファティマが、すっと立ち上がり、俺の前まで歩み寄ってくる。
「よろしく頼みます」
「こ、こちらこそ」
自然と差し出された手を取って、握手。
華奢な指だが力強い。
男慣れしていないはずだが、ファティマのほうはごく自然体だ。身長は俺より頭ひとつぶん低いし礼儀正しい態度なのに、なぜかこっちが気圧されてしまう。
「――俺たち教師が、ダンジョンのモンスターになって相手をさせてもらうんだが」
「承知している。安心してくれたまえ、貴方に怪我はさせない」
俺が負ける前提――まあ、当然だろう。
ただでさえ男は女より弱い。そして目の前にいる彼女たちは、女性の中でも特に優れた戦闘能力を持つ冒険者の卵。実力差は歴然だ。……普通なら、な。
「妾の部下たちは、学園内の要所要所でそちらを阻む。もちろん、こちらもそちらを傷つけぬよう、細心の注意を払おう」
不敵な笑みなら、うちの学園長ちゃんも負けていない。
「トラップもあるゆえ、足をすくわれるでないぞ? 特に、そこのリュータには負けるなよ。負けたら極楽な――ゴホン、悲惨な目に遭うからな」
「成る程――」
うなずいて、ファティマが俺を見つめ直す。
「要注意モンスターか」
「ああ。俺が勝ったら全員犯すけど――いいよな?」
■ ☆ ■ ☆ ■
「勝ったら犯す、か――」
講堂をあとにして、校門付近の広場に再集合した冒険者学校のメンバーたち。ファティマは、先ほど対面した性奴隷・リュータの言葉を、平坦な声音で反芻していた。
「――本気なのかな」
「あんなの、虚勢に決まってるじゃない!」
「アリエラ……」
ファティマは同級生の顔を見る。
アリエラは、学校でも随一の攻撃魔術の使い手。性格も積極的というか、エネルギーが有り余っている感じで、やたらとファティマの世話を焼きたがる少女だ。
長い髪のサイドテールがトレードマーク。
束ねている髪飾りには蝶のモチーフが付いており、それは、以前にファティマがアリエラの誕生日に贈ったものだ。
そのとき彼女は、「こんな子どもっぽいものなんて……!」と口を尖らせていたが、それ以来、なぜだかいつも装着しているし、何ならアピールしているように見えることもある。
どうにも捉え所のない女の子だと思うのが、周囲に言わせると『分かりやすい』のだとか。
ファティマはよく鈍感だと評されるので、きっと自分が世間とズレているんだろう、そういうことにしている。
そんなアリエラは、サイドテールの髪を、右手でピンと払って、
「どんなヤツかと思ってたけど、魔力も全然感じなかったわ。予想どおりね」
と、リュータについて感想する。
「確かにそうなんだが――。触れてみて、やや違和感を抱いたのだけれど」
「ファティマ! あんなの気にする必要なんてないわ! セッ……、せ、性行為したがる男なんて珍しいけど……二度とファティマには触らせないから!」
「キキッ、アリエラ殿はファティマ殿の事となると、目が怖ーくなるっすな」
「――なによ!?」
アリエラのことをからかうのは、ナツメだ。サルの獣人で、体術の天才。
「でもあの牡の身体、ただ者ではない気がしたっすよ?」
「やっぱり、ナツメもそう思うかい?」
「ナツメは、喧嘩できればいいんでしょ!?」
「喧嘩じゃないっすよ? 試合っす。拳と拳で語り合うのが、世界共通のコミュニケーション、そこに男女の違いもないっすー」
「……体が大きいから、殴りやすそうってだけでしょ?」
「それもあるっすねー」
キキキ、と屈託なく笑うナツメに、アリエラはあきれ顔でため息を吐く。
2人のやり取りを横目に、ファティマは別のクラスメイトのほうを向いて、
「ダーナはどう感じた?」
「…………ええ……、そうね……、うん……」
いつでも虚ろな目をしたダークエルフのダーナ。
別に体調が悪いのではなく、省エネスタイルが彼女の信条だ。ちなみに、人生の目標は長生き。
「…………健康、そう……、いいな…………ふぅ……ズルい」
こんな調子のダーナだが、体格はとても恵まれていて性奴隷リュータ並みの身長。バストやヒップの発育具合も学生とは思えないほどだ。
「――ともかく。油断せずにいこう」
ファティマは生徒全員のほうを振り返って、空気を引き締め直す。
「ここはあのテレジア学園長の領域だ。あちらの先生方は、性行為実習以外の分野でも一流の方が多い。――性奴隷だけに気を取られず、ベストを尽くそう」
今回の『ミッション』。
ファティマたちはダンジョンに見立てた校舎へと進み、関門を突破しながら学園長室を目指す。
戦闘も許可されている。
互いに殺意こそないものの、全力でのバトルすら解禁されている。ファティマたちの中にも治癒魔術を修めている者もいるが――あちらには、その道の名手、ミリア女史も控えているから安心だ。
「関門は4カ所。それぞれに『オーブ』が安置されている。それらをすべて入手することが、ダンジョンマスター……テレジア学園長に対峙する条件だ」
実のところ、ファティマには女王から密命が届いていた。
――演習が始まれば、全員で性奴隷リュータを襲撃。命までは取ることはないが、『女』の怖さをその身に植え付けて、性奴隷としての役目を果たせないようにする。
それが、ファティマに託された任務だった。
しかし。
「どう動くの、ファティマ?」
「――隊を4つに分ける。あちらは性奴隷に注目を集めたいようだったが、わざわざその術中に嵌まることはないだろう」
命令無視。
あとでペナルティを受けるかもしれないが――
(……そういうのは趣味じゃないからね)
この国で暮らす以上、秩序を乱すつもりはない。
それでも、女王個人を盲信しているわけもないのだ。
「――アリエラ、ナツメ、ダーナ。それぞれリーダーを頼めるかい?」
ファティマからの問いかけに対して、アリエラは不敵に、ナツメは楽しそうに笑い、ダーナはため息混じりながらも首肯した。
「方針はどうするっすか、ファティマ殿。慎重に? 安全に?」
「のんびりでも…………、いいけど?……疲れるし……」
「そんなの、あり得ないわよね?」
「ああ――」
強気なアリエラの勢いを借りて、ファティマは言い切る。
「せっかくの対外交流。油断はもっての外だが――最速最短。各自、死力を尽くすように」
「そうこなくちゃ!」
「キキキっ、さすがはファティマ殿」
「仕方ないけど…………貴女が言うならそうするわ……」
攻撃魔術のアリエラ。
体術のナツメ。
特殊な支援魔術を使うダーナ。
彼女たちとチームを組むクラスメイトも、意気軒昂。その自信は、実力に裏打ちされた確かなものだ。まったく、頼もしい仲間達。
問題は何もない。何も。
ただ――
(………………)
友人達からの信頼をその身に感じるたび、ファティマの胸は鈍く痛む。
(言えない、よね……)
清廉潔白。皆はファティマのことを、純真で、真っ直ぐな戦士だと見ている。それは、ファティマ自身がそう振る舞っているからなのだけれども……。
だから、友人達は悪くない。悪いのは秘密にしている自分自身だ。
(僕がしたいことなんて――)
おそらく同級生の誰よりも、『女』として芽吹いてしまっているファティマ。その身を持て余し、級友達の目から逃れて、夜な夜なみずからを慰めていることなんて、言えなかった。
そして先刻、リュータと会ったときに抱いた感情を――劣情を、口になんて出せるわけがなかった。
〝俺が勝ったら全員犯す――〟
胸が高鳴り、期待に震えてしまったなんて――絶対に言い出せるはずがなかった。