【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
学園には、トラップが張り巡らされていた。
どれも、この学園の教師たちお手製のものだ。
生徒昇降口から侵入したファティマのチームを迎えたのは、靴箱からの炸裂音。
「きゃあっ!?」
仲間――クラスメイトが悲鳴を上げる寸前、ファティマは反応していた。その彼女の手を引き、身を入れ替え、側面からの不意の攻撃をかわした。
「――音だけ、か。単に、僕たちを驚かせたかったようだね。――ごめんね? 急に強く引いて。痛くなかったかい?」
「い、いえ……! ありがとう、ファティマさん……」
腕の中でぽうっとなる彼女の無事を確認してから、先へ。
廊下には、行く手を阻むように鉄線が張り巡らされていた――縦に、横に、斜めに、不規則に這う細い鉄線。
「私が確かめます」
仲間の1人が剣を抜き、切っ先で慎重に鉄線に触れる。ピンと張ったそれを、試しに切断。
「……特にトラップはなさそうですね」
彼女が一歩前進した、その直後、
「あいたっ!?」
どんな原理か、天井から黒板消しが落下してきた。術者の彼女の頭にパコンと当たり、床に転がる。
「な、なんで?」
「……本命は、こっちだったみたいだね」
ファティマは、中空に右手を伸ばす。指先が鉄線とは別の物に触れた。
直後、頭上に小型の魔法陣が浮かぶ。召喚用だ。
その魔法陣から今度は、水のたっぷり入ったバケツが落下してくるが、ファティマは細身のレイピアを抜いて一閃。飛びすさって、水しぶきを頭から被るのは回避した。
「こっち、って……?」
「糸だよ」
ファティマが手のひらをかざすと、数拍遅れて細い糸が降ってきた。
「これで遠隔式の魔法陣を描いていたんだ。そして、トリガーもまた糸だね」
鉄線とは別に、目をこらして見ないと判別できないほど細い糸が、やはり不規則に設置されていた。仮に鉄線を避けて通ろうとしたところで、この糸に引っかかる。そして、別の糸が中空に魔法陣を描く――という仕組みだ。
「こんなイタズラみたいな――」
「僕たちと正面切って戦うつもりはないのかもね」
「戦闘に自信がないんですよ、きっと」
「……かもね。でも、遠隔でこれだけ糸を精緻に操作するのは中々の腕だよ」
仲間の髪に付いたチョークの粉を払ってやりながらファティマは、
「糸の魔術――縫製魔術あたりかな?」
と、見当を付けていると、
「正解です」
コツコツというヒールの音とともに、廊下の奥から1人の教師が姿を見せた。
紫がかったロングヘアーの女性だ。メガネをくいっと押し上げて、
「私がお相手しましょう。貴女たち本職の皆さんには敵わないでしょうけれど」
■ ☆ ■ ☆ ■
「キキキっ、遅いっすよ!」
一方。
機動力の高いメンバーで構成されたナツメのチームは『ダンジョン』を上から攻略すべく、校舎の壁を伝って屋上へのぼったところで、待ち受けていた体育教師たちと戦闘に突入していた。
「くっ……、チョロチョロと――!」
体格と筋力、そして魔力でもナツメを上回っている体育教師たちだったが、ナツメの動きには翻弄されっぱなしだった。
「何人で掛かって来ても無駄っすよ? 体術だけなら自分、ファティマ殿より強いんすから! その、首からぶら下げているオーブ、もらうっす!!」
そもそも壁を駆け上ってくるとは思っていなかった体育教師たちに、これは不意打ちだった。
4つのオーブのうち1つを身につけ、この屋上で待ち受けるつもりだっただけに、いきなり陣形を崩されて混乱していた。
ナツメのチームは俊敏の獣人で固められており、まさに速攻で――
「いただきっ! ではさらばっす!!」
「に、逃げるかっ――!?」
「これは『オーブを奪え』って試合っすからね! ウキキっ!」
あっという間にオーブを奪取すると、躊躇なく屋上から飛び降りていった。
■ ☆ ■ ☆ ■
「これは……、なに……?」
正反対に、まるで攻略する気がないかのようにトボトボと進んでいたのはダーナのチームだった。
ダークエルフの彼女は、特別教室棟に入り、会敵しないように探索していたのだが、
「ふっふっふー! 食らっちゃいましたね? それはウチの学園ちょ……ダンジョンマスターさま特製の、魔法の快楽粉なんですよー?」
黒ローブのダーナとは対照的な、白衣を纏った女教師だった。生徒かと見紛うような外見の彼女が仕掛けていたトラップにダーナは簡単に引っかかってしまった。
――厳密には、トラップ発動の直前にギリギリ回避できそうではあったのだが、ダーナは面倒くさかった。
どうやら、身に降りかかった粉はいわく付きらしいが……
「風に触れるだけでムズムズしてくるでしょう? 衣擦れで敏感な部分が――
「………………」
「その身体感覚がやがて性悦を――」
「……………………」
「あ、あれっ?」
「……効かない、なんともない」
外界からの刺激など余計なものでしかない。鮮やかな景色も芳しい匂いも、音も、味も、肌で受ける感覚も――無いに越したことはない。
「……呼吸するだけで寿命が縮まる……、余計なものは感じたくない……から」
「まさか自身に支援魔術を? 感覚を遮断してるんですかっ!?」
「はぁ……、視覚や聴覚は仕方ないけど…………、他は、なるべく……」
「え、ええっ!?」
なにやら大きなリアクションを取る、養護教諭らしき小柄な女性。
「ぷ、プリンの感触や味は……ほ、欲しくないんですかっ!?」
「……? いらない……、けど……」
「!!!!!!!???」
恐ろしいモノを見るかのような目をして、ワナワナと震える白衣女。
……こんなに忙しそうにしてよく疲れないな、と溜息をついてから、
「みんな……、お願い……」
チームメイトに指示を出し、戦慄中の敵教師を捕縛。
彼女が保健室に隠し持っていたオーブを、最小限の労力で確保したのだった。
■ ☆ ■ ☆ ■
アリエラは、自身の性向に従っての正面突破を試みていた。
トラップを攻撃魔術でなぎ払い、ダーナとは真逆の方針で、つまりは人の気配の多い方へと突き進み、敵がいれば魔術で排除していった。
「アリエラがいると楽でいいね」
「これくらいは誰だって楽勝よ。――トラップが多いのは、戦闘に自信がない証拠ね」
実際、生活魔術に特化した教師がほとんどで、戦闘向きなタイプとは遭遇しない。
「セッ……性行為なんかにかまけてるから悪いのよ。これからの時代、女だったら戦闘用の魔術をもっと磨くべき――」
「え~? それ、はんたーい」
「!?」
と、不意に緊張感のない声が割って入ってきた。
「……なに? 貴女たち」
「私たちですかー?」
そこには際どい格好の女性が2人――いや、少女が2人。
「私たち、サキュバスです♡ 私、リッカと、こっちはネネーナちゃん♡」
「見てのとーりじゃん、わかんないのおねーさん?」
顔のつくりは愛らしく整っているのに、表情が生意気100%で構築された少女と、清楚な美少女。
……ただし、お揃いの服装は学校には、そしてダンジョンであったとしても場違いなほどあられもない格好だった。
外見年齢にそぐわしくない、黒い革のボンテージ。
幼い肌の露出が生々しく、彼女たちが自称するとおり確かにサキュバスの羽と尻尾が生えている。
「…………変態みたいな格好」
「はあ!? へんたいじゃないし!」
「貴女たち生徒――よね? 何してるのよ」
自分でもわかるくらい、思いっきり眉をひそめてアリエラは問う。
「そりゃあ、あたしたちが特別優秀で――」
「補修です。私たち、夏休み抜きなんですよー」
「ちょっとリッカ!?」
「……付き合ってられないわ」
小さく嘆息。キッと2人を睨んで魔術を発動。
「きゃっ!?――もう、危ないですよ?」
「いきなりこーげきとか、ズルくないっ?」
「防御壁……!」
アリエラの放った火球と、追従して仲間達の撃った魔力弾も、ことごとくが少女たちの眼前で魔力によって防がれた。
「くっ、さすがはサキュバスってこと?」
それにしても――全身に漲る魔力量が、つまりは精力が段違いだ。
こちらが戸惑う様子を見て、清楚なほう――リッカという名のサキュバスがクスクス笑う。
「魔術、もっと強くなりたくありませんか? 魔力量を増やしたくありませんか?」
「何を――」
「そんなの簡単だし♡」
生意気なほうが口を挟む。
「セックスすればいいんだよ♡ おねーさんさ、ぜったい才能あるし♡ あたしがゆーんだから間違いないし」
「なっ、――そんな、そんなことの才能なんて」
「セックスです♡……もしかして、したことないんですか? もったいないですよ♡」
悪魔の誘惑めいたサキュバスたちの声。
「しましょうよ、男の人とのセックス♡……いいえ。女の人も、男の人も、みんなみんなグチョグチョになる、楽しい性行為を♡」
「ふ、ふざけないで、そんな爛れた……!」
「さっきの綺麗な顔をしたご友人も……ファティマさんでしたっけ?♡」
「あのおねーさんも、間違いなく淫乱だしね♡」
「――――――っっ!?」
『彼女』を引き合いに出された瞬間、アリエラの頭の中で、プツンと何かが切れる音がした。
アリエラは手をブルブルと震わせながら、杖を振りかざし、最大級の魔術を充填する。
「え?……それ、ちょっとヤバすぎじゃない?」
「校舎でそういうの、使っちゃいます!?」
余裕綽々だったサキュバスたちの顔がひきつる。
「ストップ、ストップだってば!?」
「か、考え直しません!?」
2人の狼狽もお構いなしに、アリエラはとびきりの破邪魔術を発動させる。
「ファティマがそんな爛れた……破廉恥なこと! するわけっ、……――ないでしょうっっ!」
「うぎゃーーーー!!!?」
「いやぁあーーー!!!?」
アリエラの絶叫。雷鳴のごとき轟音。悲鳴。
渾身の魔術を前に、ボンテージ姿の悪魔たちは魔力の防御壁を粉砕され、割れた窓からピューンと中庭へ飛ばされていった。