【書籍化&コミカライズ】魔法女学園の売店ではたらく俺は、異世界から召喚された『ハーレム奴隷』です。 作:タイフーンの目
「ここは……どこだ?」
謎の存在と契約を交わしたあと、俺は異世界で目を覚ました。
なお、例の存在とのやり取りについて、その内容はよく覚えていない。……だがおそらく、世界の命運に関わる、とても崇高で、神秘的な、至極知的で、ハイレベルな、密度の濃い交渉だったに違いない。
ともかく。
目を開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。見知らぬ光景だけれど、どこか懐かしくも感じた。
「……教室?」
そう、教室だ。
教壇に黒板。窓や、ドアのあの感じ。
俺が過ごした学校より随分と小綺麗で、ところどころに上品な装飾があしらわれている。まるで、セレブのお嬢さまあたりが通う私立学校という雰囲気だ。
「ん? あれ……?」
そして実際、俺を取り囲んでいるのは女子ばかりだった。ブレザーの制服姿。首をめぐらすと、眼鏡をかけた女性教師。
そして首を正面に戻したところで、俺の目は釘付けになった。
「ウサギ?」
コスプレだろうか。
ピンク色の長い髪に、ウサギの耳を生やした女の子。ウィッグにしては自然だし、地毛にしてはありえない髪色。どんな機構をしているのか、ウサ耳なんて、ぴくん、とひとりでに動く。
ブレザーのスカートの下には、白いタイツを履いていて、身の丈ほどの長い杖――魔法使いのコスプレか?――をぎゅっと抱きしめていた。……今どきのコスプレってこんなにハイレベルになってるのか?
とびきりの美少女だ。
十人中、百人くらいが「美少女だ」と口をそろえて断言するほどの、嫌味のない、ピュアな可愛らしさ。
俺のことを大きな瞳で見つめたまま、きょとんとして固まっている。
「……でき、ちゃいました」
彼女がぽつりとつぶやくのに一拍遅れて、教室中から、耳をつんざくような悲鳴が上がった。教室にいた、二十数名の女子生徒から、一斉に。
「きゃぁあああああああ!!?」
「ホントに出たぁ!」
「雄だよね? これ、雄だよね??」
「性奴隷召喚……本当に……」
「見てっ、アレ……ふぁああああっ!?」
女子生徒たちはめいめいに叫びながら、ある者は手で顔を隠し、ある者は俺のことを指さして、隣にいる友人と抱き合ったりしている。
一体なんなんだ?
騒ぎすぎじゃないのか? 男がそんなに珍しいのだろうか?
戸惑う俺は、しかし、自分の体を確認して悲鳴の原因に気づく。
俺は裸だった。
全裸だった。
なぜか全裸で、教室の椅子に後ろ手に縛られた状態で座らされていたのだ。動けない。ガチガチに手足を拘束されていて、身動きひとつ取れない。
そんな状態で、もちろん股間もありのままに晒しているわけで――
「ぎゃああああああ!!?? なんだコレ、なんで裸!!!?」
「うわぁああっ!! しゃべった!? 性奴隷がしゃべったァ!?」
「教えられちゃう! 性行為のこと、教えられちゃう!」
「ぬ、脱いだほうがいいのかな? えっと、最初はお口だっけ??」
「ベッド! 誰かベッド!」
俺と生徒たちの悲鳴が交差して、教室内はカオスな状態に陥る。
いくぶんか落ち着いているのは、眼鏡の女性教師と、俺の目の前にいるコスプレ少女だけ。
ただし、女の子のほうはただ呆然としていただけのようで、ようやくこの事態を飲み込むと、じわーっと顔を赤く染め上げて、
「そ、そんな状態で喚び出してごめんなさい! 服……えっと、これを!」
魔法の杖を放り出し、自分のブレザーを脱ごうとする。どうやら俺に与えてくれようとしているらしい。だが焦りからか手つきが定まらず、ボタンが外せず苦労していた。
「ええっ!? ラビ、脱ぐの!? やっぱり脱いじゃうの!?」
「委員長、ズルい!」
「ち、違うから、私はただ……!」
テンションのぶっ壊れたクラスメイトたちからはやし立てられ、ラビと呼ばれたコスプレ少女はさらに慌てることになる。
「落ち着きなさい、貴女たち」
見かねた教師が、生徒たちをいさめる。
「ラビ、これは貴女が召喚した性奴隷よ。大丈夫、噛みつきはしないわ。召喚の術式も成功している……首輪がそのしるしよ。たとえ暴走したとしても、貴女の命令には逆らえないわ」
「せ、先生……そうじゃなくて、その、格好が……!」
ウサ耳少女のラビは、片手でブレザーを脱ごうと試みつつも、もう片方の手で目を隠す。他の生徒は、恥ずかしがりながらも指の隙間からチラチラとこちらを見ていたりするが、この子は本当に照れているらしく、俺の全裸を見ないように努めていた。
「? ああ、あれはペニスです。男性器。授業で教えませんでしたか?」
「知ってますけど! じ、実物は……!」
「今のうちに見慣れておきなさい。これからの学園生活、何度もあの男性器を挿入することになるのですから」
「…………っ! そ、そうかもしれませんが……っ」
「いいですか? この性奴隷は、召喚主である貴女にとっては最高の相性であることに間違いはないのです。つまり、この男性器の形が貴女にはぴったりで――」
「いいですから、そういうの、いいですから!」
「――ああ、もちろん屹立した状態なら、ですよ?」
「そういうことを言ってるんじゃなくって! ……ああ、もうっ!」
…………。
さっきから不穏な単語が聞こえてくるが、俺の聞き間違いだろうか?
「うーん」
なんだか、この状況にも慣れてきた。
手足の拘束は、どうあがいても解けそうにないし、この異常な状況は考えても理解が追いつきそうになかった。
諦めの境地だ。
そんなふうにリラックスすると、身体のほうは正直になってくる。
俺に露出趣味はない。
女の子たちに嫌な思いをさせて、そんな顔を見て興奮する趣味はない。
けれどここの女子たちは、歓迎されているとは言わないまでも、嫌悪の感情は抱いてなさそうではある。むしろ、一部の女子たちは、キャーキャー騒ぎながらも俺の裸体に興味津々のようだ。
……もう一度言おう。
見られて興奮する趣味はない。
ないけれど、ちょっと興奮してきた。
男の身体というのはそうなると正直なもので、勝手に血液が一カ所に集まるものだ。覚醒したばかりでふにゃっとしていた一部分に血液が集まった結果、俺は元気になった。
「ね、ねえ! 動いたよ? ピクって動いたよ??」
「えっ、あれって……!」
「立った! 奴隷が立った! 座ったままなのに、立った!!」
ごめんなさい。
ホントごめんなさい。
男の子の身体はこんなもんなんです……。
興奮半分、情けない気持ち半分で黄昏れていると、俺をこの世界(?)に召喚したらしい、クラス委員長のラビちゃんは、ようやくブレザーの上着を脱げたようで、
「これ、これで隠してください……っ!」
俺にかぶせてくれようとする。
けれど、まだ片手で目を隠したまま。
「あっ、あれっ? あっ、と……」
不自然な体勢で俺に近づこうとしたものだから、彼女はつまづき、よろめいた。
「あっ――きゃっ!?」
そしてそのまま、体勢を立て直すこともできず、彼女は顔面から倒れ込んだ。
はたして、幸か不幸か。
彼女が顔面を打ったのは床ではなかった。床ではなくて、彼女の前方にあった、ちょっと柔らかくて、ちょっと硬いもの――
「ぷぎゅっ――」
変な声をあげて、ウサ耳美少女のラビは、俺の股間に顔面を突っ込んだ。全裸の股間に――。
あんなに騒がしかった教室が、たった一瞬で、水を打ったように静まり返る。
「お、おーい」
「…………」
股間に向かって呼びかけても、返事がない。
長いウサ耳も、へにゃっと脱力して少女はまったく動かない。息をしているのさえ定かではなく、本当に、指一本動かない。
「………………」
俺は悪くない。
俺は、一切悪くない。
むしろ被害者だ。
たしかに転生は望んだが、まさかこんな形で全裸を衆目にさらされ、悲鳴を上げられるなんて、想像もしていなかった。
あまつさえ、顔を突っ込まれるなんて。
避けようにも、俺は椅子に拘束されていて動けなかったのだから、俺はまっっったく悪くない。
……悪くないが。
それでも、これだけは言っておこう。
全力で。心の底から。
気持ちを込めて。
もう届かないかもしれない、股間の少女に向けて。
全裸の俺のことを気づかってくれた、心優しい、異郷の美少女に対して――
ごめんなさい!!!!
なんか、本っっ当にごめんなさい!!!!