【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
ガチャリと鍵の開く音がして、メイドは玄関へ向かう。
「お帰りなさいませ。だんなさっ…!?」
驚くのも無理はない。
目をギラつかせて、口を真一文字に結び、全身から怒気を放つ男が立っていた。
――様っ!―ン様!―テン様
チリトリは首を数度振り、メイドには目もくれず家の中に進んでいく。
「あ、あの!」
自分の業務を果たすために、勇気を振り絞って声をかける。
「モッピー知ってるよ。今ご主人は機嫌悪いって事。メイドちゃんはもうお部屋でねんねしてた方がいいよ」
使い魔がいつものニヤニヤ顔でその声を遮る。
「おやすみなさいませ。だんな様、モッピー様」
メイドは頭を下げて二人を見送る事にした。
―テン様!―ダテン様っ!
―ダテン様っ!行かないで?
どうして?
―ダテン様!
男は時折壁にもたれかかり、その度に首を振ってよたよたと前に進んでいく。
―テン様!
たすけてっ!
ついに目的の部屋に着く。
ドアを開けた先に待っていたのは、便器だった。
いつもとほぼ変わらないその姿を見て安堵したのも束の間
痛い。怖いよ。お願い!
―ダテン様お願い!これも!―ダテン様××も!
お守りください!
イダテン様!
「おぇっ……うっあぉ……ぷ……っげぇあっ……」
せきを切ったように胃の中身を吐き出す。
どこに行っていってらしたんですか?
イダテン様!!死んじゃう!
それはお家の為に……
「うるさぁがっ……おげっ……ううっ……おろっ」
手を振り回して声を消そうとして、吐き気を催し便器を掴み直す。
少しチリトリのこれまでについて触れよう。
彼が生まれたのは地方霊能組織の分家だった。
世間が半終末に突入した高校一年の春、山梨で覚醒した。優秀だった兄の訃報を聞いた晩だった。翌日一反木綿シキガミを連れて故郷に帰ると、兄の代わりに地元の悪魔の湧き潰しをするようになった。
一反木綿は本家の護衛に回し、ひたすら悪魔を殺し続けた。だが、すぐに悪魔の量が増えた。それでも町の人々の盾となって走り続けた。
走って殺して。走って殺して。走って守って。走って殺した。
風のように駆け、悪魔を殺した彼はいつしかイダテン様と呼ばれ始めた。それは本家で祀っていた神の名前だった。
悪魔の量は増え続けたが、足の速さは打ち止めが訪れた。勇気を振り絞って異界攻略を進言したが却下された。町の人間にも縋り付かれた。
「行かないでくれ」「助けてくれ」と。
それからは睡眠時間を削った。食事も供えられたものを走りながら食べた。
「神が離れてる隙に悪魔に襲われたくない」そう思った住人に物理的にしがみつかれた。
ある日、いつものように集めたマッカを換金して本家に上納しようとした時、ガイア連合に保護された。
それからモッピーとのリハビリが始まった。自分のやりたいことを探すため。やりたい事をやりたいと思えるために。
このシェルターに来たのだってその一環だ。
他人に消耗されない生き方を身に付けるための練習だった。あえて横暴で身勝手な振る舞いをしてみて、やりたい事へのハードルを下げていこうとしていた。
結果はこのザマだ。
「おっ……うぇっ……はぁっ……はぁ……」
何度も嘔吐を繰り返しているうちに、吐くものをすっかり吐き尽くしてしまってえずくだけになる。
「モッピー知ってるよ。ご主人の事。胸貸すよ?泣く?」
「モッピーっ……ごめんっ……ズビッ」
両手を広げて待機していたモッピーを持ち上げて、その体に顔を埋める。
「よしよし」
短い手で主人の頭を撫でる。
この時モッピーは慈愛の微笑みと満面の笑みを足したような、主人でも見たことのない顔をしていた。当然今も見えてないので、主人が見ることは一生ないかもしれないが。
「……あの目だ……縋り付くみたいな……おえっ」
「うんうん。嫌だったよね?」
「クソっ……うっ……」
「モッピー知ってるよ。ご主人は裏切られたって感じてる事。あの娘にちょっと同情してたもんね」
「あぁ……。俺はあの人に自分を……重ねてたのか……?」
「うんうん。モッピー知ってるよ。ご主人がとっても優しいって事。責任に潰されそうな顔が見てられなかったんだよね」
「優しい…か……。いや、俺はただ求められたことだけを…」
「モッピー知ってるよ。今回は違うって事。ご主人は自分であの娘を選んだんだよ」
「そっか……。そうだったな」
そういったきり男は黙る。
静かな泣き声を狭い室内が優しく封じ込める。
男には人知れず泣ける場所がトイレ以外になかった。
それはこうして泣きつく相手が出来てからも変わることはなかった。
「なぁ、モッピー」
「うん?」
「俺もあんな目をしてたのか?ショタおじはいっつもあんな目を向けられて……こんなっ気持ちにっ……ぅえっ」
「うーん。盟主の考えはモッピーでも知らないよ」
「そっか……。モッピーでも知らないかぁ…」
「うん。ご主人が聞いてみればいいよ」
「そう……だな」
「ちなみにモッピーはご主人に頼られるとチョー嬉しいよ」
「そっ……かぁっ…!」
「モッピー知ってるよ。シキガミがそういうものだって事。だからどんどん頼りにしてね」
「あ…あっ……そうさせてもらうよ」
再度男は強く己のシキガミを抱きなおして、静かに静かに泣いた。
歯を食いしばり音を噛み殺すのではなく、ただただ両目から溢れ落ちるのを止めなかっただけ。そんな、男にとっては不慣れで体にとっては自然な涙だった。
温かい体液を体に感じなくなってからシキガミは口を開く。
「どうするー?山梨に帰っちゃう?」
「でも、1年の契約が…」
「モッピー知ってるよ。そんなのどうとでもできるって事。大事なのはご主人が残りたいかどうかだよ」
「残…………る…かな?」
「オッケー。でもモッピー知ってるよ。いつでもご主人は帰れるって事」
「ああ……俺も覚えておく」
「うんうん。じゃあ行動指針も決めよっか」
「昨日のままじゃ居られない……か」
「モッピー知ってるよ。そんな事ないって事。でもまたあの目だよ?」
「っ!」
「シェルター周囲だったらモッピーだけでも大丈夫だし、ご主人は今後戦わないってのもありだね!」
「いや……それっ……は……」
「モッピー知ってるよ。開き直って悪役ごっことかヒーローごっこもできるって事」
「ヒーロー……うぅっ」
「よしよし、大丈夫だよ。ただの選択肢で選ぶのはご主人だよ?」
「はぁ…ごめん……」
「いいって事よ!ゆっくり考えていこうね」
「ああ……そうだな」
「じゃまずはお風呂入ろっか?」
そういうモッピーの体は、涙、鼻水、だ液、吐瀉物と顔から出る体液のほぼ全てにまみれていた。
「あっ…ごめん」
「今日は洗いっこしよっか?」
それから数日後――。
「このスレ面白れぇな」
「そうだね!モヒカンに化けてるってとこがいいよね」
チリトリとモッピーは家にこもってだらだらとスレとDDSの動画サービスを見続けていた。
「こっちのバラエティーは今夜の決勝にやっと追いついたね」
「ちょっと録画溜めてたもんな」
「……ご主人。この二つの共通点わかる?」
「あー?……分からん。現地民が出てる?」
「それもそうだね。他にはわかる?」
「ブラックカードが発信してる?」
「そうそう!それもそうだよ」
「あとは……。ほんとに分からん」
「じゃあ正解言っちゃうね?」
「おう」
「どっちも現地民を助けてるんだよ」
「……。デスゲームもどきが?」
「賞品が出るし、出演中は安全でしょ?」
「あー?そうだな?」
「ご主人も人助けしたいんじゃない?」
「そんなことっ!」
「自分の好きなように、目障りだから助けるくらいでゆるくやってみない?」
「……。それもあり、か?……」
「じゃあ何やるか考えよ?夜までに決めて、明日から頑張ろう?」
「そうするか……」
チリトリはアティに家に来るように連絡した――。
キャラ崩壊②モッピー(「IS 〈インフィニット・ストラトス〉」の登場人物・篠ノ之箒を元に誕生した派生AAキャラクター):
その他マスコット型シキガミ、モデルモッピー
ヒーホーと思わせといて、彼のは地母神のエッセンスが入っている
本来はただの煽りキャラ
もちろんヒーホーなだけのやつもいる
伏線回収したし、終わり!閉廷!以上!みんな解散!