【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
sideB(Bird's eye view(俯瞰))です。
「ツー、忘れ物はないかい?」
「うんっ。ないよ」
ショルダーバックの中身を確認しながらツーは答える。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「うん…行ってきます。先生っ!」
「さてと……」
眼鏡の位置を直すと、いつにもない鋭い目つきでつぶやく。
「僕もお仕事と行きますか…」
ジャケットに腕を通しブリーフケース片手に家を出た。
入り口には巨大な門がそびえ立っており、表札には力強い達筆な字で『両瀬』と書かれている。
ここは彼の担任する生徒である
「どなたでしょうか」
チャイムを鳴らすと、すぐに壮年の使用人が現れた。この男、所々に白髪が混じり始めているものの所作にキレがあり、従者としての生き方が染みついているようだった。
「私、今期より千両高校に赴任となりました
使用人は直感した。物腰柔らかい態度のこの好青年を主人に合わせなければいけない、と。
この使用人は未覚醒者だが、悪魔が溢れるギリギリの異界がすぐそばにある両瀬家で半世紀近く働いてきたことで、第六感が常人よりも鍛えられていた。
「
使用人は来客用の笑顔を浮かべて、不審な男を家に上げた。
主人のスケジュールを把握しているからこそできる独断である。優秀な従者は時に主人の予定を捻じ曲げてでも、家にとって最良の選択をする必要がある。
「お邪魔します」
二瓶は頭を下げて門をくぐる。その時糸が数本絡みついては千切れるような独特の感覚があった。
「……へぇ…。きれいなお庭ですね」
対悪魔用の簡易結界が生きていることに驚きの声が出かけたが、庭をほめてカモフラージュする。事実、目に入ってきた庭は広大な面積を占めているにもかかわらずきちんと手入れがされており圧巻であった。
「恐縮です。どうぞ、おあがりください」
豪勢な扉を開いて、使用人が家の中へと招く。
長い廊下の先に見覚えのある少女を見かけた。
「おや。おはようございます、両瀬さん。……休日もちゃんと早起きしているようですね」
後ろで玄関の扉が閉まる。やけに重厚なそれはまるで金属でできているかのようだった。
「ぇ……。はい…おはようございます。…………どうしてうちに…?」
「実は僕、凄腕の霊能力者なんですよ」
「そうなんです…え!?」
「お嬢様申し訳ございません。応接間でお話しいただいてもよろしいでしょうか?その間に旦那様をお呼びいたしますので」
「
静佳は支配者として育てられた娘である。まだ16歳ながらもその生き方は叩き込まれている。
その凛として的確な指示をするさまに、従者は僅かながらも彼女の祖母の面影を感じ始めていた。
「かしこまりました。よろしくお願いします」
おしめを変えていた少女の成長をうれしく感じつつも礼をして従者は去っていく。最近感情の動きが大きくなってきたように感じる尽五郎は、二人に背を向けた後に頬を緩ませた。
「お待たせしてしまって申し訳ない。私が当主の
使用人に連れられてやってきたのは、恰幅のいい男だった。スーツのボタンの隙間からシャツが覗く典型的なビール腹で、その体系に見合ったよく通る声の持ち主だ。
「こちらこそ急な来訪で申し訳ございません。静香さんの担任で霊能力者の
二瓶はその場に立ち上がり深々と礼をする。
「おや、静佳の……。」
当主は男の前に座り、何やら話をしていたらしい娘に視線を向ける。
父親からのその目線に娘は左右に首を振った。どうやら娘が招いたわけでも、霊能力者だということを知っていたわけでもなさそうだ。
「はい。静佳さんはテストの点が良いだけでなく、授業中の回答や質問も的確でいつも大助かりしているんですよ……」
二瓶の笑みにつられて当主の男も声をあげて笑う。両者とも随分と笑い慣れているらしく、数秒後には示し合わせたように笑いが止まる。
「……押しかけてしまったのには理由がありまして…。この付近にある異界の反応がそろそろ限界なのではないかと思いまして、急いで来たのですが……」
「…はて?……
「いいえ旦那様。特に最近動きがみられたという話は聞いておりません」
「……そういう訳なのですよ、先生?」
「これはすみません。……語弊があったようです。」
「ふむ、語弊ですか…。私たちが何か間違っておいでですかな?」
「そういう訳ではありません。ここにある異界は調査を始めた段階からずっと限界ギリギリだったのです。私が今日急いで来たのは、ようやく場所が特定できたからなんです」
「ほぉ…。最近何かあったわけではなく、ずっと危険な状態だったと……」
「おっしゃる通りです」
「うーむ。そう言われましてもなぁ…」
「とりあえず異界の場所に案内していただけませんか?あとはこちらでやっておきます。……昼過ぎには勝手に戻ってきますので…」
無知な若者の無鉄砲というにはあまりにも自信にあふれすぎている発言だった。
「
当主の男は、前当主の母にも仕えてきた頼れる兄のような使用人にも判断を振った。自分が霊能にはからっきしのため『任せた』ではなく『頼めるか』と確認を取ったのである。
「お任せください旦那様」
その答えは即答だった。
「それでは先生よろしくお願いします。……くれぐれも安全第一でお願いしますぞ」
信をおける従者がそういうのだ、当主は立ち上がって手を差し出した。
「もちろんです」
二瓶も立ち上がるとその手をがっちりと握った。
「こちらになります」
使用人の案内で山の傾斜を上がっていき、二人は異界の入り口に到着した。その場所は岩でできた洞窟のようで、金属の扉にしめ縄やお札が張り付けられており厳重に封じられていた。
「ありがとうございます。………少し準備してもいいですか?」
「どうぞご自由に」
その言葉を受けた二瓶は、ブリーフケースからポーチを取り出して腰に固定した。さらにスーツの内ポケットの中を確認し始める。最後に白手袋をはめて、持っていた鞄をバックパックとして背負った。
「では行ってきます」
スーツのまま軽い足取りで二瓶は扉を開けて闇の中に消えていった。
背後の重い扉が閉まると一切の光は無く、目が慣れても命のやり取りには不安が残るほど暗かった。
「ナイトビジョン」
二瓶は眼鏡のフチを二回叩いてパスワードをつぶやく。MPを若干使用して、眼鏡にかかっていた暗視のお
動作確認も含めてまずは周囲を見回し敵影がないことを確認する。
ひとまず安全が確認できたので二瓶は内ポケットからボールペンを一本取りだし、ひっくり返してペン先側についている円錐の金具を回して外した。すると中から黄土色の
「キューンッ!……ヘッヘッヘッヘッ!」
宙を泳ぐようにして茶色のもこもこは二瓶の肩に乗った。サイズは2Lのペットボトルほどで、よくよく見ると狐のような顔がついている。愛玩動物のような見た目をしているが、これでも立派な悪魔で、名を管狐という。
「ごん、今日も頼みますよ?」
「キューンッ!」
二瓶がなでてやると嬉しそうに鳴いて目を細める。……愛玩動物のような見た目をしているが、管狐という立派な悪魔である。
今度こそ準備が整った二瓶は奥に向けて歩みを進める。すると少し行ったところで小さな人影を見た。
それは体長1.1~1.2mほどのガリガリに痩せこけた男性で、全身が紫色をしていた。まるで骨と皮だけのようだが、栄養失調児のようにぽっこりと腹部は出ている。
そんなすぐにでも倒れてしまいそうな見た目をしているが、瞳だけはギラギラと輝いており獲物を求めてさまよっているようだった。
二瓶はその姿を見つけるとすぐにポーチから
【万里の眼鏡】*1
アナライズ…つまり悪魔の名前や属性相性といった情報を得ることができる魔法がかけられている道具だ。一回使うと破損してしまう消費アイテムでお財布に痛いことが弱点だが、この世界において情報はそれ以上の価値をもたらす。
「……」
本来ガキは破魔弱点である。そもそもの由来は仏教の餓鬼から来ており、生前の悪行によって飢えに苦しむ亡者だ。同じく仏教用語で、悪魔や煩悩を払うという意味の破魔が弱点になるのは道理だろう。しかし今回のように異界により耐性や弱点が変化することもまた珍しいことではない。そのためわざわざ二瓶はアイテムを消費してまで情報を調べたのだった。
バックパックに壊れた万里の眼鏡をしまい込みながら、二瓶は歩みを続ける。そんなことをしていれば当然……。
ガキが二瓶に気が付いた。
決して満たされない飢えがマシになると、目を大きく開きにったりと笑う。そして大きく開いた口からよだれを滴らせ、いびつな動きで獲物に向かって走り出した。
「ぎゃっぎゃっぎゃっ……」
空腹で目が回る。足はもつれるし、体は重い。そんな自分に対して天は慈悲を与えたのである。ほかのヤツらに見つかる前に……。ああっ……苦しいっ!喰わせろぉおおおおおおお!!!
そこまで思考が残っていたか定かではなかったが、ガキは一心不乱に走った。そして真正面から二瓶に蹴られて、僅かなMAGを散らして死んだ。
まるでボールでも蹴るかのようにあっさりとガキの命を奪った男は、落ちたマッカを拾い上げると何事もなかったかのように歩き始めた。
「分かれ道ですか…」
生徒の片見がいつも引き返す岐路まで何事もなくたどり着くと、右の道を歩き始めた。
その道の先には、緑色のゼリー状の物体がいた。彼らはスライムと呼ばれ、悪魔が最低限のMAGを維持できなかった際になる姿である。例えば先ほどのガキがMAGが足りず飢えて飢えて、己を形成するMAGにも手を付けてしまい、形を保てなくなりながらも、それでも消滅できなかった時になるような最底辺の悪魔の総称である。
二瓶は当然のように踏みつぶした。
スライムにせよガキにせよその飢えを満たすために必要なのは人間だからだ。そんな積極的に人間を襲うような悪魔をわざわざ見逃す理由はない。
「それにしても……ごん」
1時間ほど散策したあたりで二瓶が管狐に声をかけた。
「キューン【マッパー】」
この世界はゲームと違ってオートマッピングがない。いや、方眼紙に手書きでマッピングしながらプレイしていたころの女神転生らしいといえばらしいのだが。
そしてこのマッパーという魔法は周囲の地形を確認するものだ。あくまで周囲だけであり、ダンジョンの全体像を把握するようなことはできないのである*2。
そこでマッパーで見れる周囲の地図を『テレパス』によって共有し、さらに管狐が記憶した道順を書き込むことで即席の地図として使用しているのである。
二瓶は視界に浮かぶ地図を見ながら異界の全体像を掴もうとする。この異界、悪魔は弱いが分かれ道が多くなかなかに骨が折れそうなのである。
これまたゲームと違うのは、メニューや地図を見てるとき、立ち止まってるときでも接敵があるということだ。
飢えで鋭敏になった嗅覚が捉えた人間の匂いをたどってきた身からすれば、その隙だらけな姿を襲わない理由はなかった。
奥から3体、来た道からも2体のガキが二瓶に近づく。そしてあるタイミングで我先にと走り出した。
管狐の毛が逆立ちシャーシャーと警戒音を鳴らす。
「分かってるよ…【マハブフ】」
二瓶を中心に360度ありとあらゆる方向に氷のつぶてが撃ち出される。
その一瞬でガキたちの体は穴だらけになり、また凍り付いて砕けた。
「さぁ、ごん。もう少し行ってみましょうか?」
再び歩み始めた足元で氷のかけらがジャリッと音を立てた。
長くなったので分けます。