【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
saidC(Shizuka)
……静佳はCから始まってないやん!ほんま…つっかえ…。
16って、オトナから見ると子供なのかなぁ……。
「はぁ~っ」
…やめた。ぜんっぜん集中できない!庭に行って外の空気を吸おう。
見ての通り私は最近少し悩んでいることがある。そのせいで勉強に身が入っていない。……もちろん学校の勉強は頑張れてる。なるべく積極的に手を挙げたいし、テストも高得点を取っておきたいから。けど、家のこととかがどうしても……。
それもこれも……。
「おや。おはようございます、両瀬さん。……休日もちゃんと早起きしているようですね」
家で聞くとは思わなかった声に心底驚く。まさか悩みの種が向こうからやってくるなんてあるはずがない!
恐る恐る顔を上げると、玄関に
「ぇ……。はい…おはようございます」
フリーズした頭のままだったけど挨拶は反射的に出た。
「…………どうして家に…?」
そのまま当然の疑問も一緒に口から出てしまったけど。
「実は僕、凄腕の霊能力者なんですよ」
「そうなんです…え!?」
霊能力者といってパッと思い浮かんだのは。明人くんだ。クラスメイトの
もともと目立つほうじゃないし別に気にもなってなかったんだけど、話してみると意外と面白い人だった。ちょっと抜けてるところもあるけど、正義感が強くて命がけでこの町を守ってくれている恩人で……。
「お嬢様申し訳ございません。応接間でお話しいただいてもよろしいでしょうか?その間に旦那様をお呼びいたしますので」
使用人の
「
相手は先生だし、礼儀よりも効率を考えてもいいはず。先生には悪いけどこっそりおもてなしの練習にも付き合ってもらおう。
「かしこまりました。よろしくお願いします」
礼をして去っていく
「先生、応接間はこちらになります」
「コーヒーでよろしいですか?」
「はい。ありがとうございます」
とりあえず上座の椅子に座ってもらって、早歩きで厨房に向かう。ポッドに
……コーヒーの淹れ方ちゃんと習わなきゃ…。
「お待たせしました」
習った通りに……普段通りに……。
そっと机にコーヒーを置く。
…やたっ。かなり静かに置くことができた!
今の感覚を頭の中で反復しながら、向かい側の席に座る。
「ありがとうございます。おや…いい匂いですね」
一度目を閉じて香りを確かめた後、顔を上げて笑みを浮かべる。
…先生はよく笑う。見てるこっちも口角が上がっちゃうくらい、いっつも微笑んでる。
「いただきます」
先生がコーヒーを一口。
湯気、立ってたけど熱くないのかなぁ。……眼鏡も全然曇ってないし、曇り止めでも塗ってるのかな?
「おいしいです」
コトリとカップを置いて、また笑顔。
「あ、ありがとうございます…」
私が作ったわけじゃないんだけどつられて笑顔になる。
そこでノックが三回。
「はい」
「お待たせしてしまって申し訳ない。私が当主の
お父さんがやってきて、隣の席で自己紹介を始める。
「こちらこそ急な来訪で申し訳ございません。静佳さんの担任で霊能力者の
先生も立ち上がって礼をする。
私も立ったほうがいいのかな…?
「おや、静佳の……。」
お父さんがそう言いながらこっちを見る。
先生が霊能力者ってことは知らなかったので首を横に振る。
…立つようにとのジャスチャーはないのでとりあえず座ったまま様子を見ることにした。
「はい。静佳さんはテストの点が良いだけでなく、授業中の回答や質問も的確でいつも大助かりしているんですよ……」
先生に急ほめられて、顔が熱くなる。ちょっと挙手しすぎてないか心配だったけど、大助かりだったみたい。
先生とお父さんは二人で声をあげて笑うから、少し俯いてやり過ごすことにする。今絶っ対顔赤くなってる…。
「……押しかけてしまったのには理由がありまして…。この付近にある異界の反応がそろそろ限界なのではないかと思いまして、急いで来たのですが……」
スッと笑い声が止むと先生は本題に入った。
まとめると、先生が調査を始めたころから家の異界はずっと危険な状態で、今から調査に行くらしい。
調査を始めたってことは……4月か5月くらいからかなぁ…。でも明人くんに聞いた限りだと、今学期に入ってから何か変化があったようには感じないんだけどなぁ…。
それにしても先生も霊能力者だったんだ…。てことは、これからは明人くんと一緒に異界で戦ったりするのかな?…そのあとは先生ともお話しできたりして……。
でもこれは大丈夫なはず!明人くんと仲良くなるようにっておばあ様にも言われてるから、先生とも仲良くするようにって言われるはず。
……。
明人くんが嫌いになったわけじゃないんだよ?ちょっと鈍いところもあるけど、根はとっても優しいの知ってるし。ほぼ毎晩命がけの戦いを町のためにしてくれてるし……。おばあ様に言われてるのもあるし、明人くんとそのまま付き合うことになるんじゃないかなって……。別にそれでもいいかなって思ってる。
けど先生のオトナな感じもちょっといいなって思っちゃってる。よく気遣ってくれるし…かっこいいし……、ライバル多いし……。でも家に言われたらライバルとか関係なく仲良くなっても仕方ないよね…。
『両瀬好きだ!』
『両瀬さん、好きですよ』
そんなっ。どっちかなんて……私…。
はぁ…それにしても………。
「先生遅いなぁ…」
応接間でもう何杯目かになる紅茶を口に含んだ。
その数秒後、ノックの音が聞こえて先生が入ってきた。
「先生っ!無事だったんですね!」
思わず立ち上がって先生を迎える。
「ええ。見てのとおりです」
両手を広げて、無事のアピールをする。いつもよりちょっとお茶目な気がするけど、戦いで興奮しているのかな?
「私は旦那様を呼んでまいります。少々お待ちください」
「先生。どうでしたか?」
努めて冷静に尋ねる。……さっきまでの考えは一度忘れて。
「だいぶ広いですね。これは少し骨が折れそうです」
帰ってきた答えは求めていたものじゃなかった。けど、そんな話明人くんから聞いたことない。いつもモンスターがいたって話だけで…。
「……その、コイン見せてもらってもいいですか?」
「コイン……?ああ、マッカのことですか?」
まっか…?正しい名前はそうだったかな?明人くんに合わせてコインって言ってたら忘れちゃった。
どちゃっ――。
握りこぶしが5個分くらいの袋が机に置かれた。中身が随分と入っているみたいで、置いた重みで下のほうが広がった。
……えっ?
ちょっと待って……?明人くんが見せてくれるのは4~5枚じゃなかった?
何この量……!?
「せ、先生…、これ…?」
震える手で指をさすと先生が袋を持って傾けた。
「本物ですよ?」
じゃらじゃらと机の上に黄金の輝きが広がっていく。
この中身……全部
クラクラしてると、お父さんにお母さん、おばあ様と
「いやご無事で何よ……なんですかなソレはっ!?」
お父さんが大声を出しながら目を見開く。その気持ちはわかる!私も信じられないもん。
「静佳さんに見せてくれと頼まれまして……」
先生に名前で呼ばれた…。
……両瀬さん呼びだったらここにいる全員そうだからね。
「二瓶先生!ぜひとも我が家に雇われてほしいっ!金なら出そう!」
お父さんが駆け寄ってきて机をたたいた。少し頭を下げているのかもしれない。
先生とお父さんが言い合っている。お父さんはお金で先生を雇いたいみたい。こんな凄いんだったら雇わない理由がないもん。でも先生はそれが嫌みたい。ちょっと先生が分からなくなった。
「では、
先生がとんでもないことを言い始めた。
「
おじい様の代から悪魔退治ができる人が少なくて困っているというのは聞いたことがある。
「じゃあまず……
……?明人くんへの口止め?…どうして?
「片見君に?……なぜ?…もしや……」
「彼もこの異界に出入りしているんでしょう?」
「な、どこでそれを?」
明人くんが家に出入りしていることが先生にバレてたっ!?……でもそれは別に明人くんと付き合ってるとかそういうのじゃなくて……。
「見れば彼も覚醒していることはわかりますよ。そしてこの町はここ以外に異界がない。……簡単でしょう?」
良かった。変な勘違いはされてないみたい。
「そうですか。……理由をお聞きしてもいいですかな?」
確かに。どうせだったら一緒に戦ったほうが安全な気がする。一人ってどうしても危ないと思うし…。
「彼のため……ですかね。知り合いが自分より強力な霊能力者だと分かったら落ち込むでしょうから、タイミングはこちらから切り出したいんですよ」
やっぱり先生は…先生なんだ。いつも優しく生徒のことを見守っててくれる。
「は、ははぁ。………ず、随分と生徒思いの先生のようだ。……静佳も安心して預けられますな。はっはっは!」
お父さんがそんな風に高笑いする。先生がお父さん公認の先生になったみたいでちょっと恥ずかしいかな…。
「ええ、お任せください」
やっぱり恥ずかしい。『娘のことを安心して預けられる』『任せてください』って結婚の許しをもらうときみたいじゃない?
「あと、才能あるものとして……必要であれば種の提供もご協力いたしますよ?」
種…?
「なっ!?」
お父さんが驚きの声を上げ、後ろでおばあ様も息をのんだのが分かった。
「種…?植物かなにかでしょうか?」
明人くんから聞いた話だ。ゲームだと強くなれる種というものがあるらしい。使うとなくなるそうだけど、育てたほうが絶対いいと思う。
「……霊的才能は遺伝しやすいと、言われている。証拠の文献はなくなってしまったがね……」
……。
「遺伝……!では先生はこの町に住んで……その…子供を……」
ガツンと後頭部を殴られたような衝撃が来る。先生という存在がそういう風な行為をして親になるということに。そしてそれを先生は拒否する感じでもなくて……。
「それは無理ですね。日本にはここと同じかそれ以上に限界を迎えている場所があります。……来年はまた別の学校に向かうつもりです」
「じゃあ……どういう……?」
結婚して子供を作って…。そうなるととても1年で足りるはずがない。先生はいったい何を言っているんだろう。
「先生は誰か気になる方がいますかな?それともこちらでお見繕いしましょうか?」
お父さんが急に楽し気に先生に向けて話し出す。…なんかやだな。
「ならんっ!」
私の気持ちを汲んでくれたのか、おばあ様が大きな声を上げた。
「両瀬家はその霊能をもってしてこの地位を築いた。二瓶様に協力してもらえれば家の再興も異界の管理も出来るようになるっ!ほかの家に…渡してなるか」
「母さん。とは言え家には……」
「わ、私がっ!…静佳も産んでいますし……子育て経験もあります!」
お母さんが手を挙げた。
……?お母さんが先生と赤ちゃんをつくる…?ん?あれ…?
「静子さんや。あんたにゃウチの血が流れてないだろ?」
おばあ様が首を振りながらそれを否定して、私はほっと息を吐いた。
「私がせめてもう少ぅし若ければなぁ………」
「おばぁ様……。って、え。もしかして…私っ!?」
おばあさまの声があんまりにも悲しそうだったので振り向くと、目が合った。……両瀬家の血が流れている女で妊娠可能ってもしかして…!?
「え、でも私高校生だし、先生は先生なんだよ!そんなの私には…「静佳」」
まくしたてるように必死に否定しようとして、おばあ様にさえぎられた。
……もしかして、明人くんと仲良くするように言ったのもそのため?仲良くなって今後も異界の管理を手伝ってもらうためじゃなくて、霊能力のある子どもを私に産ませるため?
口を閉じたせいで、思考が頭の中でぐるぐるする。
「……二瓶様、孫娘のことをよろしく頼みます」
おばあ様が腰を折るように深々と頭を下げた。少し泣いてるみたいだった。
……これって、結婚はしなくていいから私と赤ちゃんを作ってくださいっておばあさまがお願いしてる?……先生には否定してほしい。けど私は……否定してほしくない。
「承諾しかねます」
え……。
息ができなくなる。
私実は嫌われてたのかなぁ…。それとも魅力が足りなかった?やっぱりツーみたいじゃないと…ダメなのかなぁ……。
「!?……こう言っては何ですが自慢の娘です!何かご不満がおありですか!?」
やめてお父さん!私、ダメ出しなんてされたら耐えられないよ…。
「ええ、不満です。そこに静佳さんの意思がない」
……。
「はあ?」
お父さんから聞いたことのないような声が出た。
「生徒が家の指示で年上の男性に孕まされるなんて、教師として見過ごせないでしょう?そうでなくても、妊娠・出産にはリスクがありますし進学できなくなるかもしれない。静佳さんの人生が狂ってしまうかもしれないんですよ!」
先生は口元を引き締めて熱く語った。その顔は今までに見たことのないくらいまじめで、私のことを本気で考えてくれてるんじゃないかなって思った。
「先生……」
涙は出なかった。代わりに乾いた声で呼んでしまった。
「あ…心配しなくても両瀬さんは魅力的だし、もちろんそうなった時はこちらとしても色々フォローしますよ?」
先生は優しい声でこっちを見つめて言う。…魅力的。…そっかぁ…私魅力的かぁ。
「僕はこの町の為に両瀬さんが犠牲になるのは嫌なんだ。分かるよね?」
町のため。おじい様は町のために亡くなったと聞いている。おばあ様はその足を失ったと。お父様も毎日身を粉にして働いているし、片見くんは町の民に命を懸けている。
「は、はぃ」
そして私は、町のために先生と赤ちゃんを作ることになるのかもしれない。でも先生はしなくてもいいという。
「でももし、万が一にでもそうなってもいいなって
そして、シてもいいとも…。
「…ぃ…」
私だけが町のために何もしないというのはおかしい。けど先生はその考え方はいやだという。……苦しい。
町のためだからと言い訳にして先生に身を預けてしまえばどんなに楽になれるだろうか?でも、それはいけないことなんだと先生は言っているんだ。
「4月までいるからゆっくり考えて大丈夫だからね?」
「…」
あと約10か月かぁ…。確実に妊娠するためにはなるべく早くしなきゃいけない。でも……。
「僕も異界攻略頑張るから。……たぶん今後数年は溢れるようなことがないくらいには、ね?」
「そんなことが可能なのですかっ!?」
お父さんが声を上げる。……やっぱり今まであふれそうになってたんだ…。
「今までのパターンから行くと…ですけどね」
「ありがとう…ございます!」
お父さんが深々とお礼をする。そんな姿はほとんど見たことがなかったからとてもびっくりした。
「さて、と。……私からは以上になります。片見君にはくれぐれも内密にお願いしますね?」
…明人くん…に少し相談してみたいと思った。…いや、彼に言ってもいい答えは返ってこないかもしれない。そもそも黙ってるのが約束だから。
「ははっ。肝に銘じますよ」
「ありがたや……。静佳、お送りしなさい」
おばあ様はもはや先生のことを拝んでた。
「…ぇ、はい。おばあ様」
ついでに返事もして来いという無言の圧力を感じた…。
先生と二人で廊下を進む。私たちの間には重たい沈黙というか緊張が漂っていた。
「両瀬さん。学校では内緒にしてくださいね?」
沈黙を破ったのは先生だった。口元に人差し指を当てて、ナイショのジェスチャーをしてくる。
「ひっ!……い、言えませんよこんなこと……」
声につられて振り返ると、先生の顔が思ったよりも近くて…変な声が出た。
「あと、連絡先……交換しましょっか」
連絡先…先生との…。
「は、はい」
スマホを取り出して友達登録を進めていく。
「何かあったら連絡してくださいね?」
「何か……」
返事のこと…かな?それとも……ちょっとしたことで連絡しちゃってもいいのかな?
「あと、片見君に見られてもバレないように……僕の名前は変えといたほうがいいですよ?」
「あ、はい」
そっか。先生が好きって子たちに見つかってもダメだし何か考えておかなきゃ…。
「それでは僕はこれで失礼します。また明日、学校で」
「はい……また明日」
その日、明人くんは珍しく家に来なかった。
翌日月曜――。
先生のこと明人くんのこと、いろいろ考えているうちに夜更かししてしまったのでちょっと眠たい。みんなのあこがれでもある先生とそういう関係になるのは罪悪感がある。明人くんにも黙ってなきゃダメだし、裏切ってるみたいで……。でも先生と……。みんな頑張ってるのに私だけ……。はぁっ……。
こんなんじゃダメだ。学生の本分は学業!授業に集中しないとっ。
……でも、違和感なく先生と話せるかな?
足に任せて歩いていると、明人くんをいつもの道で見かけた。
「……おはよう、明人くん」
考えすぎた結果、挨拶が少し暗くなってしまったかもしれない。しっかりしなさい静佳!
「うわっ!?お、おはよう両瀬!」
飛び上がるように驚いてから振り向く明人くん。
……ん?…少し顔がにやけている気がする!
「……やけに嬉しそうね?…何かあったの?」
「いや~。その…な……?」
頭を掻きながらずいぶんと歯切れの悪い回答を返してきた。こういうときは……。
前に回り込んでじっと目を見つめる。こうすると彼は嘘をつけなくなる。
「わかった!言う!言うよ。…………俺、昨日ツーとデートに行ってたんだ…」
「……ぇっ…?……」
昨日感じたのと同じくらいの衝撃が私を襲った。
ツーはかわいくて性格もいい。私も大好きだ。でもとても誰かとデートに行くような子には見えなかった。
それが、明人くんとデートに…?
「隣町の遊園地にさ……。誰にも言わないでくれよ?両瀬だから話したんだぞ?」
「……へぇ……。そう、だったの…?」
固まった表情を何とか動かして言葉を絞り出す。…でも口は乾いてて声は小さかったし、呂律も回ってなかったかも。
「実はな……へへへっ…」
それに気づかないほど嬉しい出来事だったのだろう。彼は屈託のない笑みでそう言った。
そう、別に私たちは付き合っているわけでもなかったし。先生と一緒になることで、彼に対して悪いと思う必要なんて一つもなかったんだ。
私は先生に連絡した。返信はすぐに来た。
『再来週の土曜日デートに行きませんか?』だ。
もちろん私はすぐに承諾した。
それに対して先生は両親に許可を取ること、歩きやすい靴で来ること、防寒機能のある上着を一着持ってくることの3点を守るように言ってきた。
服…選ばなきゃ。うんとオシャレして、先生に見合うような子になってやる。