【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
「おはようございます、両瀬さん。…とっても素敵ですよ」
「お、おはようございます。今日はよろしくお願いしますっ……」
デートに誘われた当日の朝、車で迎えに来た二瓶先生は開口一番に私を褒めた。
昨晩まで悩んで選んだチェックのキャミワンピ。先生を驚かせるためにミニスカートも考えたけど、ツーみたいにスタイルがいいわけじゃないし……。スニーカーを合わせるんだったらってこっちを選んだけど、間違いじゃなかったみたい。
「上着も用意してくれましたか?」
「はい。……でも今の時期に使いますか?」
「それはお楽しみということで」
気になる。けど、笑顔で返されてしまうとそれ以上聞けなくなってしまう。ずるい人だ。
「それでは、娘さんをお預かりします」
見送りに来てくれていたお母さんにあいさつしてる。強引なのか律儀なのか、先生のことは全然わからない。
「……忘れ物はありませんね?」
「大丈夫です」
「わかりました。行きましょうか」
「はい。……行ってきます」
「…行ってらっしゃい!」
お母さんは一瞬少しだけ複雑そうな顔をしたが、笑顔で送り出してくれた。
私を助手席に乗せて先生の車は走り出した。
運転する先生の横顔は新鮮で、机を挟まないこの距離もまた非常に新鮮だった。だからこそ私は……。
「両瀬さん、緊張してる?」
「へっ……いや、その……はい」
言い当てられてしまい、体がびくっとする。
「はははは。実はね、僕も少しだけ緊張してるんですよ」
「…え?…先生も、ですか?」
意外だった。なんか慣れてる感じがしてたから。
「だって両瀬さん可愛いでしょう?」
「っ~~~!」
照れと怒り。
きっと先生は誰にだってそう言ってるんだ。その女慣れしてる感じが少しイラつく。
「すみません、少し調子に乗りすぎましたね。…けど僕は本心から言っているし、誰にでも言っているわけじゃありませんよ?」
「学校で言ってるの聞いたことある気がするんですけど?」
「……アクセサリーを没収した時や小物を褒めているときですね?」
「そうでしたっけっ?」
確かそうだった気もする。
「今日僕が褒めているのは両瀬さんで、その理由は嬉しいからです」
「嬉し…い?」
「ええ。そのお洋服もきっと時間をかけて選んでくれたんでしょう?朝早く起きてメイクや身支度もしているはずだ。僕とのデートの為に、わざわざ。それが僕は嬉しいんです」
「でもそれって…」
つまりはデートする相手だったら誰にでも言うってことじゃ……。
「安心して下さい。
「そう…ですか…」
「あと純粋に可愛かったので口から出ちゃいました!」
「先生っ!」
まったく油断も隙もない人だ。少し考えたらすぐこういうことを言う。
「あははははっ。緊張、取れてきました?」
「おかげさまでっ!……あと、デート中は
「流石にそんなに節操なしじゃありませんよ。…今日は両瀬さん以外の子を見るつもりはありませんから」
車で移動すること2時間くらい。ついた目的地は……。
「ここって…!?」
「ええ。両瀬さんは魚が好きだと聞いたので…」
やって来たのは隣町にある水族館。何年ぶりだろう!すごい懐かしい!
「あの!ありがとうございます先生!」
「…ははははっ。喜んでもらえたみたいで何よりです」
行きましょうかと、先生は車から降りると助手席側に近づいてきて、並んで歩き始める。
先生は背が高くて脚もすごく長い。隣にいるとそれを自覚してしまって、途端に恥ずかしさがこみあげてくる。
さっきまで何てことなかったのに……。人の目が怖い…。
「大人二人でお願いします」
下を向いて歩いていると受付までたどり着いてしまったみたい。
……ちょっと帰りたい気持ちまで出てきた…。けどお金を払ってもらった以上わがままは言えないし…。
「はい、ありがとうございます!どうぞ楽しんでいってくださいねっ!」
受付のお姉さんの明るい声が耳に響く。先生もあんな風にしゃきっとしたお姉さんのほうがいいんじゃないかな…?
「両瀬さんどうします?」
「な、何をですかっ?」
急に名前を呼ばれて顔を上げると、先生が心配そうな顔でこっちを見ていた。
「両瀬さんの見たいように回りますか?それともショーのタイミングに合わせて見れる範囲で見ますか?」
先生の手にはパンフレットが握られていた。餌やりやショーの時間と館内のマップを確認してるみたい。
「えっと、私はどっちでも……」
「了解です。じゃあショーを見ていく方針で、途中で両瀬さんが見たいのがあったらそれを重視しようか」
「……はい」
「両瀬さん、また緊張してる?」
少し移動して、水槽の前で先生は私に話しかけてきた。
「…してます」
少し考えたけど素直に答えた。
「ははは。…だよね。ごめんね、僕みたいな年上が相手で…」
先生は急にらしくないことを言い始めた。
「両瀬さんみたいに可愛い子は普通に同い年くらいのかっこいい男子とが良かったですよね……」
水槽を見たまま先生はそういう。本当にらしくない。
「そんな…そんなことありません」
そんな先生を見たくなくて、まっすぐに見つめて言い切った。
「でも、ずっと下を向いてるでしょう?僕と歩くのが恥ずかしいんじゃないですか?」
「ぎゃ、逆です。先生はとってもかっこよくて……スタイルもいいし優しいし、私には釣り合わないんじゃないかって恥ずかしくて……」
少しずつ恥ずかしくなってしまい、最後はうつむきながら話していた。ちゃんと聞こえちゃってたかな……。
「両瀬さん」
私の両肩に手が添えられる。ゆっくり顔を上げると先生と真正面から目が合った。
「両瀬さんはとっても可愛いですよ。釣り合わないことなんて全くないです」
……。
目を見ながらそんなこと堂々と言わないでほしい。心臓おかしくなる。
「……恥ずかしいです…」
片手で軽く顔を隠しながらいう。ほんとに恥ずかしい。
「両瀬さん…いや、静佳さん。今日貴女は僕の恋人なんです。僕を信じてください。……楽しい思い出をたくさん作りましょう。…ね?」
「ここここ、こ……。はい」
恋人…その言葉に意識を持ってかれそうになったけど大事なのはそこじゃない。いやそこも大事だけど…。
私が下を向いていたら、先生も楽しくないんだ。
……。
私は前を向いて胸を張る。両瀬家の一人娘としてどこに行っても恥ずかしくないほど礼儀作法は叩き込まれているんだから、きっと大丈夫。
「ありがとうございます。……次、行きますか?」
笑う先生は、片手を私の前に差し出してきた。
『今日貴女は僕の恋人なんです』
つまりそういうこと。
そう、恋人なら普通のことだから…。
私も反対の手を前に出すと、するりと手が入り込んできてあっという間に繋がれてしまう。……恋人つなぎじゃないよ?
「そういえば、静佳さんはどうして魚が好きなのか聞いてもいいですか?」
二人で水槽を見たり、おしゃべりをしたりしてる内にそんな質問が先生から飛んできた。もちろん片手はずっと繋がったまま。
「私が小さいころ、よくこの水族館に連れてきてもらってたんですよ」
「そうだったんですね!たまたまとは言え思い出の水族館ですか。懐かしいのではないですか?」
「ええ。いろいろ改修もしてるみたいですけど微かに記憶そのままのところもあって…」
「…嬉しそうですね」
先生にもそんな場所があるのかどこか懐かしそうな顔をしながら相槌を打つ。
「……思い入れのある場所なのに最近は来れてなかったんですか?」
それからすぐに当然の疑問を投げかけてきた。
「はい。その…私もですけど父が忙しくって……」
「お父様が?確かに異界と町の管理を両方やるとなると……必要とされる能力も違いますし……」
「そうみたいです。……実はそれ以前に……父は私が幼いころ悪魔の存在を信じてなかったと聞きました」
「それで家族サービスも十分にできていたんですか」
「はい、遊園地や海にも連れてってもらいました。でも、私が中学に上がる前に……」
「つらいようでしたら、ゆっくりで大丈夫ですからね?」
「…はい、大丈夫です。そもそも母との結婚もおばあ様に反対されていたみたいです」
「あの車いすの方ですか?」
「そうです。私がお腹にいたのと父が当主として跡を継ぐことを条件に結婚の許しを得たと聞いてます」
もしかして、反対の理由はお母さんに霊能力がなかったからなのかもしれない。この間お父さんも『霊的才能は遺伝しやすいと、言われている。』って言ってたし。
「愛を貫いたわけですね」
「愛って…そんな……。…でも、そうかもしれません」
愛。たしかに…愛なのかもしれない。
「おっと、そろそろ正午ですね。話の続きは食事をとりながらしませんか?」
「はい」
朝から緊張して、そのあとは歩きっぱなしだったから意識したとたんにお腹がすいてきた。ここのフードコート変わってないといいなぁ。
「静佳さんはなににしますか?」
テーブル席の正面に座った先生がメニューを見せてくる。いろいろ増えたみたいで目移りすけるけど、私が選ぶのはやっぱり……。
「えーと、カレーライスで…」
「…もしかして思い出のメニューですか?」
先生がニヤリとしながらメニューを指さす。
「…そうです。子供のころ食べた記憶があって…」
「一人前を?」
「そうです…」
ちょっと恥ずかしいけど子供ながらに食べれてしまった記憶があるのだ。それを両親が驚いてる記憶もある。
たくさんはしゃいでたくさん食べて、午後もたくさんはしゃいで車で寝る。そんな感じだったらしい。
「それは期待できそうだ!私も同じのにします」
ドリンクを選んだあと、先生は注文を手早く済ませていた。
「いただきます」
「ぁ…いただきます」
「お、美味しい。これは一人前余裕ですね」
先生がまずは一口食べる。口に合ったみたいでよかった…。
「ん、おいしい…っ」
続いて私も一口。子供でも食べれるように辛さはそこまでじゃないけど、無駄に甘ったるくはない。むしろスパイシーさと海鮮系のダシ?によって味に深みが出てて大人になってからのほうがおいしく感じる。
思い出よりも美味しいカレーに手が止まらず、二人して夢中で平らげる。
「「ごちそうさまでした」」
「美味しかったですね」
「はい。記憶よりもおいしくてびっくりしました」
「あまり居座っても悪いですし行きましょうか。……僕はお手洗いに行きますが静佳さんは大丈夫ですか?」
「えっと……念のために行ってきてもいいですか?」
急に行きたくなってからじゃ遅いからね。行けるときに行ったほうがいい。
「ええ。行きましょうか」
トイレから出ると先生がちょうどお会計を済ませていたところだった。男の人って随分と早いけどそれでちゃんと出きってるのかな…。
午後も午前中と同じようにショーは気にせずに自分たちのペースで見て回ることになった。…手も繋ぎなおすことになった。さっきトイレでしっかり洗ったので午前中にびっしょりかいた手汗は落ちたはず…。
「静佳さんの幼い時の話、もう少し聞いてもいいですか?」
そうだった。食べるのに真剣になってて話してる暇がなかった。卑しいって思われてないかな…?
いや、先生も同じくらいがっついてたし大丈夫かな……。
「はい…どうぞ?」
「急にお父様は忙しくなったんですか?」
「え…?………はい。それまではおばあ様が異界の管理をしていたようだったので」
そこ?…いや私じゃなくてお父さんについての話だったからびっくりしただけで怒ってはないよ?
「それで、ですか…。静佳さんはさぞ寂しい思いをしたんじゃないですか?」
「え!?……いやそんなことないですよ。……それに考えてみれば逆なんです。それまではおばあ様が家族で時間を過ごせるようにきっと必死で悪魔を抑えててくれたんですから」
「それでも、ですよ。寂しいものは寂しいしつらいものはつらいでしょう?」
繋いだ方の手を両手で包み込まれる。少しひんやりとした水族館の中で、その手はじんわりと温かかった。
そのあともいろんな話をした。
昔は両瀬家に仕える人の数がもう少しいた話、どこからか生きた牛が家に運ばれてきて消えていった話、おばあ様に弟か妹は欲しくないかとしきりに聞かれていた話、ひいおじい様やひいおばあ様が羽の生えた悪魔に殺された話もした。
先生は少し重たい話も親身になって聞いてくれた。肩に手を回されてあやすように撫でられたときは心臓が止まるかと思ったけど、でも不思議とすぐに安心できた。
「静佳さん、もう少し時間をもらってもいいですか?」
先生がそんなことを言い出したのは閉館時間の少し前だった。
「えと、大丈夫ですけど……」
『今日は門限を気にしなくてもいい』と許しはもらっているので実は時間的な余裕は結構ある。
「夕焼けを見に行きましょう」
そう言って先生はいたずらっぽく笑った。