【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
あのデートから約一か月。
6月の下旬ごろ――。
二瓶は迷っていた。
「…ごん、もう半分くらいは進んでますよね?」
彼にしては珍しく不安げな表情で、体に巻きついている管狐に話しかけた。
場所は両瀬家の裏山にある異界の中。広さはまちまち、場所によっては謎の勾配すらある洞窟だが、暗くて時々ガキとスライムが出てくることだけはずっと同じだった。
「キューン……」
少し高音の甘えた声が洞窟の闇に吸い込まれるように消えた。
ひたすら歩いてマップを埋める作業をかれこれ8時間近く続けている。
さすがに消耗が見え始める二瓶を慰めるようにモフモフの使い魔は頬に顔を擦り寄せた。
「ありがとう。君が居なかったら僕は挫けていたかもしれません」
あごの下を指先を使って優しく掻く。
スイッチが入ったのか、管狐は全身を擦り付けるように甘え始める。二瓶もそれに応えて丁寧なスキンシップを行っていく。
数分続いていたふれあいが中断されたのは、ごんが突然前を見据えて毛を逆立てたからだ。その警戒の仕方はスライムやガキに対するそれではない。
一瞬にして空気が張り詰める。
二瓶は気を引き締めつつ歩むことにした。
奥からジャラジャラと鎖のこすれる音を響かせて現れたのは三体のアークエンジェルだった。
アークエンジェルは背に羽を生やし、鎖帷子と兜を身に着けて手には剣を持ったレベル20前後の悪魔だ。大天使とも表記され、
てんし アークエンジェル が 3 体 でた!
「こんにちは。まさか、こんなところで天使サマに会うとは……」
先に話しかけたのは二瓶だ。
一瞬のうちにその顔から先ほどまでの疲れが無くなっていた。レベルがさほど離れていない強敵相手に緊張したというのもあるが、実のところほとんど暇疲れだったのでこのイベントで元気を取り戻したのだった。
「おやおや、ニッポンの異能者ですね」
口調は冷静、というより二瓶側に問いかけてすらいない断定である。
「ということは異教徒ですか?」
歩いていた一体が剣を構えて臨戦態勢をとる。
「stopです。出口を知っているかもしれませんよ?」
「出口!」
その言葉によっぽど興奮したのか構えていた矛先が下を向く。
「待ってください。異教徒と話そうというのですか?…それに門の警護は?」
最後の一体が汚らわしいものを見るように嫌な顔をする。
「ハレルヤ!これぞ主の思し召しでは!?」
その言葉が聞こえていないのか、飛ぶために脳みそスカスカの連中だから会話が不可能なのか。……この個体は飛んですらいないのでその優位性すら失った、足の遅いダチョウか。
「そう!長きに渡る試練に耐えた私たちに対する主からの贈り物に違いありません!まずは外に出てMAGを補充することが先決です。あの方もMAGを持ってくればお喜びになるはず」
「確かに。……この者を信仰に目覚めさせることも主からの試練なのかもしれませんね」
それなりに響く声で方向性をまとめたらしい天使は二瓶の方を向いた。
「ニッポンの異能者。出口に案内させてあげます。そうすれば特別に私たちが洗礼をして差し上げましょう!」
「それは興味深いですね。……ところでこの異界の奥は皆さんが来た方角でしょうか?」
「もしかして、私たちに質問しているのですか?」
虫ケラは黙って私たちに従えばいいのだ。
不愉快そうな顔を隠そうともせずに、潔癖症じみた一体が怒りをあらわにする。
「まぁまぁ、これも試練です。……ニッポンの異能者、私たちも長い間彷徨っているのです。奥がどちらかは分かりかねます」
「……そうですか。残念です」
二瓶はがっくりと肩を落とす。
仕事のかたわら異界に通い詰めては迷うこと約1か月。ガキとスライムを潰しながら行き止まりを潰していく作業に飽きを感じ始めていた。
「質問は終わりです。さ、出口に案内しなさい。知っているのでしょう?」
数で威圧するようにアークエンジェルが告げる。
「かしこまりました。……最後に一つだけよろしいでしょうか?」
「…………一つだけなら許可しましょう」
悩んだようだったが、数秒で終わる条件をのむことでここから出れるのならと天使の一体は判断した。
「……お供はどうしました?」
その一言に空気が音を立てて軋んだ。
「
「その通りです。この広い異界の出口を探すなら手分けした方が効率的でしょう?」
歩きながらアークエンジェルの一体が続けた。
「……もしそうなら小隊を作りますよね?隊長がまとまる必要はないと思いますが」
一応隊長格である大天使がまとまるよりも、天使複数体を大天使一体で指揮するグループが複数あったほうが機能的だ。
「必要だったのですよ。……その理由をニンゲンに答える義務はありません」
「もう一つ、よくその霊格を維持できてますね。この微量にMAGを吸い取ってくる異界の中で何十年も」
そこでわざとらしく一区切りつける。
柔和に見える口元はそのままに天使たちの目が鋭くなった。
「……部下は美味しかったですか?」
「ええ!……ですが、」
破顔。三日月状になるほど口角を釣り上げて嬉しそうに返した。その表情のまま円を描き、その半径を徐々に狭めるようにゆっくりと二瓶に近づく。
「これっぽっちも足りませんでしたねぇえええ!」
走り寄って素早く距離を詰めつつアークエンジェルは大段で剣を振りかぶる。
二瓶よりもさらに大きい、2mほどの体格を最大限に生かす戦い方を天使は知っていた。走る速度を乗せて腕をしならせながら大きく踏み込む。これにより体重が剣先に乗ってとてつもない破壊力が生まれる。
【ブフ】
風を切り裂きながら迫る刃を前に、二瓶は呟くように詠唱を終えた。
その魔法でアークエンジェルの支えとなっていた足の下に氷が張られる。
一瞬にして踏ん張りがきかなくなった足場にアークエンジェルの体勢が大きく揺らいだ。
「なに…をごっ!?」
剣を振った勢いのまま倒れ行く顔面に二瓶の肘が突き刺さった。アークエンジェルの全体重が顔にかかり背中が大きく反る。
そして完全に無防備になった腹部に掌底が繰り出された。その衝撃を足元の氷によって堪えることもできず後ろへと転がっていく。
「異教徒がぁああああ!」
「これは許されませんね!粛清です」
自分たちの足もとへと帰ってきた仲間の姿に二体のアークエンジェルが激怒する。そして怒りのままに翼を広げて二瓶に向かって飛び掛かる。
「ごん、手出し無用ですよ?【ブフ】」
邪魔にならないように巻き付いていた使い魔に一声かけると魔法を行使する。
前傾姿勢で向かってくる天使の一体。その目の前に突如として氷塊が現れる。
「ぎゃっ!?」
それがもし二瓶から飛んできたのであれば、身をひるがえして避けることも可能だったかもしれない。しかし突然出現した障害物相手には速度を落とすこともできずにそのまま突っ込む。
幸いそこまでのダメージはなかったが、目くらましとしては働く。天使は一度動きを止めた。
しかしもう一体のアークエンジェルが二瓶に向かって剣を振りかぶる。
最初の個体とは違い、飛行しているので足元を凍らせる戦法はもう使えない。
頭部に向けて刃が振り下ろされる。
とっさに二瓶は何も持たない手で、剣を上段で横に構えるようなポーズをとった。
【ブフーラ】
硬いものがぶつかる音が響く。
音の原因は天使の剣と、二瓶の両手の間に形成された直径8cmほどのつららだ。
「異教徒……貴方本当にニンゲンですか?」
つららごと叩き切ろうと、かち合った刃先をカチカチと鳴らしながら手に力を籠めた。
「見てのとおりですが、何か疑問点でもおありですか?」
対する二瓶は両足を軽く開き腰を落として、上からの重圧に耐える。
「知らぬふりをしても無駄です。その魔法の使い方、まるで悪魔……いえ、悪魔ですらない」
「へぇ……そちら側からみてもその結論なんですね」
この考えには二瓶もたどり着いていた。
なにせ現地民の魔法は型に当てはめたものを再現するのが近い。*1それに対して転生者は手足のように得意魔法を操れる。
この感覚はどちらかといえば悪魔に近いらしいのだ。ただ、悪魔は魔法を自由に操れるが創意工夫は少々不得手だ。
転生者たちは悪魔のような自由度で人間のように小賢しく魔法を使えた。
特に二瓶は努力のかいもあって、この時期にしては魔法の扱いが上手い。
例えば先ほど床を覆った氷には「滑る」概念で強化されていたもので、今握っているつららは「停止」概念で強化されている。
凍るということは運動が停止することだ。その過程で分子が均等に整列し表面の摩擦は少なくなる。またもし停止し続ける特性を持った物体があるのならばそれは壊れない。なぜならば分子が動かないことには形状は変化しないからだ。
素早い詠唱に、効果発生位置の精度の高さ、概念強化、そして攻撃が迫る中でそれを行える胆力と自信。超とまではいかないまでも、すでに単純な魔法の扱いだけなら一流クラスといっても過言ではないだろう。
「この私にィ…ニンゲンがァ!」
先ほど顔に氷のブロックが直撃した個体が立て直したのか、声を上げた。
「もう少し考察を聞いてみたかったのですが、仕方ありませんね」
鍔迫り合う二瓶はその声を聞いて、少し落胆したような反応を示したあとつららから手を離した。
「なっ!?」
剣士が剣を離す。その思考は正統な剣術を重んじる天使の中にはなかった。
すべての体重を剣に乗せていたアークエンジェルは支えを失ってバランスを崩す。
【ブフーラ】
拳にまとったのは円錐状のつらら。片手が氷でできた溝のないドリルになったといえばわかりやすいだろうか。
それがアークエンジェルの腹部に吸い込まれていく。えぐるような角度でアッパーカットが入った。
魔法によって強化された氷の先端に全体重がかかる。じゃらりと鎖帷子が動いて衝撃を緩和しようとするが、勢いに負けて鎖の一部が砕けた。
硬い鎖の破片が二瓶の頬にあたったかと思えば、温かな血液によって洗い流されていく。
「主よ…今御許へ…」
アークエンジェルの一体は二瓶によって串刺しとなって消えた。
「死ねぇっ!」
先ほどの攻撃を警戒してか片腕で顔を防ぎながら天使が突っ込んでくる。
今度は上から切り払うのではなく突きによって貫くつもりのようだ。腹部あたりに狙いを定めて低空を高速飛行して距離が詰まった。対する二瓶はまるでバットでも振るかのようなポーズをとっている。
貫くために真っ直ぐ定まった剣先が、腕と肩そして腰のひねりによってまるで矢のように射出される。
【ザン】
二瓶が使ったのは衝撃の魔法。
アークエンジェルが剣を握ったその拳と腕、肩にかけて外側から衝撃が掛かる。宙に浮き前方へ移動することに専念している体ではそれを受けきれずに切っ先がそれる。
その瞬間を逃さずに二瓶は見えないバットを振る。
【ブフーラ】
再び氷の魔法。だが今回作ったのはつららでもバットでもなく、ツヴァイヘンダーと呼ばれるような大型の両手剣だった。全長1.5mほどにもなる氷でできた剣が天使の頭部に直撃する。
ガードしていた片腕は砕け、それでも自らのスピードを止めることができずに首の骨が折れて消滅した。
ちなみにわざわざ二瓶が腕を振ってから剣を作ったのは、魔法の再使用時間を待つ必要があったことに加え、重すぎてまともに振ると疲れる上によけられる可能性があったからだ。
「信こぅ……MAGっ!…足りないぃいい!」
最初に転がっていった一体が狂ったように叫びながら剣を振り回して向かってくる。
【ブフーラ】
二瓶が作ったのは十文字槍と呼ばれるタイプの槍だ。槍の穂先が十字になるように横方向にも刃がついた特徴的な槍である。突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌と喩えられるほど多彩な使い方ができるが、使いこなすには修練が必要な代物だ。
真っ直ぐに走ってくるその腹部に狙いを定めて槍を放つ。
しかし覚醒者とは言え所詮は素人の付け焼刃。天使は獣じみた反応速度で身をよじって穂先をかわす。だがそれは想定済みだ。槍の直線状に位置する穂先を避けれても、そこから横に伸びる刃まで回避するには速度が出すぎている。
じゃりっと音を立てて横っ腹に刃がめり込む。伝わってくるのは確かな手ごたえだった。だが浅い。天使の動きは一切止まらない。
それもそのはずで、アークエンジェルが着込んでいる鎖帷子は斬撃に強い。編み込まれた鎖に刃が食い込み、受け止める。結果的に鎖の一部が砕ける程度のダメージしか与えられなかったのだ。
「っ!」
間合いに潜り込まれた槍に優位性は少ない。
ここで二瓶の槍に対する熟練度がもう少しあったなら横薙ぎにして、柄の部分で打撃を加える選択肢があった。しかしそれを行うには一撃目に比重を割きすぎた。中途半端に繰り出すくらいならと全力で撃ったのが裏目に出ていて、構えが崩れすぎている。当然この状態では距離をとるためのバッグステップすらできない。
完全に無防備になった二瓶に殺意がにじみ出る刃が迫る。この状態で先ほどのように滑らせてものしかかるように天使が降ってくる。自分より体格が良く武器を持った悪魔の下敷きになるのは死とほぼ同義だ。
二瓶は素早く槍を投げ捨てると、横方向に大きく飛びながら転がって体勢を立て直す。
「【ブフーラ】っ!」
アークエンジェルが正面に来るように転がり、両足が地面につくと同時に魔法を唱えて無我夢中で前へと踏み出す。天使から見れば首を差し出しに突っ込んできたように見えたかもしれない。
二瓶が目線を向けた時には敵の姿は目と鼻の先にあり、自分の判断の正しさを直感する。
彼が作り出したのは2mほどの湾曲した大盾だった。その盾に体重を預けながら、天使に向かって全力でタックルを仕掛けたのだ。
アークエンジェルの胴体に盾がぶち当たる。
屈んだ自分に合わせて盾の上部を曲げて作っていなければ、天使の腕を巻き込んで形成し切りつけられていたかもしれない。それくらいアークエンジェルの移動は素早く、ギリギリだった。
だがそれが逆に威力につながる。先ほど滑ったのを警戒して天使は転んでも刺し殺せるだけの勢いを出していた。それが唐突に壁に叩きつけられたのだからひとたまりもないだろう。また鎖帷子は打撃攻撃の威力は素通りさせる。
盾に大きな衝撃が響いて二瓶の手を震わせた。
アークエンジェルがタックルを受けてなお剣を振り下ろしたのだった。盾に体重を預けることで足元をすくわれる恐怖から解放された天使が、二度三度と剣を振るう。
そして衝撃によって生じたわずかな傷にポンメルを叩きつけ始めた。ポンメルとは柄頭とも呼ばれ、持ち手の底側にある部分である。アークエンジェルのそれには金属の球がついており、それなりに頑丈なようだ。
二瓶の心に危機感が募る。当初はタックルで体勢を崩して、そこを仕留める流れのはずだった。それが盾に被さるような体勢を許してしまっている。振りほどくだけの力もこのまま移動するだけの力も彼にはない。
上を向いて盾の状況を確認することもできない二瓶は、何とか精神を集中しようと努める。
そしてその時は来た。
アークエンジェルが剣を逆手に持ち直して盾に突き立てる。ダメージが蓄積していた部分はその衝撃に耐えられず、盾に穴が開き剣が突き刺さる。
その瞬間二瓶もまた動いた。盾を支えるのをやめるように一度姿勢を低くする。その背中に切っ先がめり込んだ。
【ブフーラ】
魔法を発動しながら二瓶は横に転がる。傷口も肋骨に沿うように横に広がっていく。
距離をとって天使を見た二瓶は、苦痛による冷や汗をかきながらも笑みを浮かべた。
アークエンジェルの剣が盾に突き刺さったまま、そこから伸びた氷によって固定されているのである。必死に抜こうと力を込めているようだが、鍔付近まで凍り付いているものがそう易々とは離れない。
【ブフ】
先ほどと同様に足元に氷を張る。盾にかけていた足に対しても念入りにだ。
すっころぶ天使に向かって二瓶は駆け寄る。構えは上段。狙うは確殺。
「は、【ハマ】っ!!」
残り少ないMAGを振り絞って破魔属性の魔法をアークエンジェルが唱えた。
【BLOCK】
しかし即死もありうる凶悪な属性に二瓶が対策をとっていないわけがなかった。
【ブフーラ】
対する二瓶が氷で作ったのは杵にも似た大型のハンマー。振り下ろしたそれはアークエンジェルの腹部にめり込み、内臓を破壊した。そうして最後の一体もMAGに帰っていく。
「っ……。ふぅーっ。ごん、他にいないですか?」
周囲を警戒しながらも一息つきながら、使い魔に尋ねる。
「きゅきゅっ!」
管狐は心配そうな表情を浮かべながらも首を左右に振った。
「いててっ……【ディア】」
背中の傷を魔法で癒すと、ゆっくりと息を整えながら体の動きを確かめる。
「課題点はまだまだありますね。……咄嗟に剣を受けたのも直さないと、氷剣ごと切られてた可能性もあります。受け流す動きがまだ体にしみ込んでませんね。あとは……」
早くも先ほどの戦闘の反省をしながら、二瓶は確かな足取りで歩み始めた。
アークエンジェル君都合よすぎ問題。
プリンシパリティまでいくとレベル26~30くらいあって修羅勢じゃないと厳しいし、エンジェルだとレベル14くらいで物足りない。
アークエンジェルが18~21レベルくらいで修羅じゃなくてもいい勝負になるの便利すぎん?