【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
「ただいま戻りました」
「静佳ーっ!ただいまー!」
いつもと違って二人はぼろぼろの状態で帰ってきた。
ただ両瀬家の面々は服だけが破れて、その下の肌に傷がないことを不審に思ったが些細なことだ。それ以上にこの二人がこんな姿になって帰ってきたことに衝撃を受けていた。
「そろそろ夕食のご準備が整います。少々お待ちください」
朝出ていき現在時刻は夕方。どうやらちょうどいいタイミングで戻ってきたようだった。
「分かりました。……ツー着替えて待ってようか」
「うん」
「「「いただきます」」」
「お赤飯、ですか…」
「ええ。静佳、ほら…お話しなさい?」
母親に促されてもじもじと娘は口を開いた。
「実は……先生の赤ちゃんが……」
顔を真っ赤にして俯く。そして愛おしそうに腹部をなでるのだった。
「やったねっ静佳!」
真っ先に反応したのはツーだった。食事中でなかったら走り出しそうなほどの喜びようを見せる。
「おめでとうございます」
二瓶は胸元に手を突っ込み、長財布ほどの大きさの長方形の箱を取り出す。
「こちらは記念の品です」
パカリと開かれた中に入っていたのは、小さな赤い宝石が付いたネックレスだった。
「え、あのありがとうございます!」
お付けしますと二瓶は席を立ち、静佳すぐそばに寄る。
「本当は誕生日にお渡しする予定だったのですが……これは安産お守りであり、厄除けでもあるので……。はい付きましたよ」
「に、似合ってますか?」
シンプルで落ち着いたデザインのためどんな服装にも人物にも合う。チェーンの色選びはしたが、そもそもガイアクオリティの一級品だ。
「ええとっても。…お守りなので、できれば四六時中身に着けていてくださいね」
この後、彼女から代々引き継いでいく家宝になるのだがこれはそれだけの価値がある品物だ。
なにせ地母神の加護こそかかっていないものの、黒札の血液を使って作った呪具なのだから。
「良かったわね」
「とっても似合ってるぞ」
両親からも温かく褒められて、静佳は照れ隠しのように食事をほおばった。
「僕からも一つ朗報があります」
席に戻った二瓶が話題を切り出す。
「お、何ですかな?」
「異界の奥で門番のような役割をこなしていた天使を始末しました。彼が悪魔を発生させているところを確認していたので、これからは出現数が減ると思います」
「ま、……真ですか?」
静佳の祖母が軽くむせながら聞き返す。
従者は素早くそばによって背中をさすりながら水を勧めた。
「ええ。……門の奥にいた異界の主は倒せそうになかったという悲報付きですが…」
「いえいえ!悪魔の数が減るならそれで充分です」
目に見えぬ怪物がいつ結界を破って自分たちを殺しに来るかと怯えずにすむ日が来たのだ。当主は大きく喜んだ。
それからほんの少し日にちがたち、9月の初め頃――。
休日を利用して二瓶たちは町から離れてあるレストランに訪れていた。
「よお、淫行教師」
店に入るとすぐに30代中頃の男が手を挙げて呼びかけて来た。
ここは転生者が運営している中華料理店「膳王」。本人こそいない店舗だが味は折り紙つきだ。
「声がでけーよ!?暴食派遣社員」
二瓶が珍しく口調を崩して反論する。
それもそのはずで相手はチャットで馴染みの黒札仲間だ。つい砕けた話し方になってしまうのも無理はない。
「事実だろ?」
「事実だとしてもです。いらぬ誤解を招きます」
ツーとともにテーブルを挟んで向かい側に座る。
「だから誤解じゃなくて事実だろって」
「同意ありの純愛です!」
もう何度かしたやり取りだが、無駄にキリリとした顔で二瓶は言い切る。
「ヤってんだったら事実だろ?」
対する男はニタニタ笑いながらお冷を口に含む。
ツーはメニューをペラペラと眺めながら何を食べるかうんうんと頭を悩ませているようだった。
「…安藤さんこそ高級店での食事を経費で落とすのそろそろ辞めたらどうですか?それ横領一歩手前でしょう?」
この安藤と呼ばれた男は『
「そっ、しゃあねぇだろ?現地組織のお偉いさんの性格見るにゃ飯食ってる時が一番だ」
自分でもグレーだと思っている部分は何度突かれても痛い。
「その能力には非常に助かってますし敬服すらしています。でもですね、回数が多すぎるのでは?」
「確かな判断を下すにはどうしても回数がいるんだよ」
「ほぼ毎晩?時には一日何食もですか?」
「そもそも当たるかも分かんねぇんだぞ?行って、店員と仲良くなってこっそり情報聞いて、遠目で判断してんだ。それくらい許せよ」
『食事に居合わせれば人となりはわかる』というのが安藤の信条である。多少席が離れていようとその能力に狂いは生じない。
「これは失礼しました。てっきり趣味で行ってる分も経費で落としているものだと……」
技術は確かだが同時に彼は美食家であり健啖家でもあった。訪れた場所場所でひたすら食事処をはしごすることもあり、仕事中は一日平均5食ほど平らげている。それもほとんどは名家が訪れるレベルの高級料理店でである。
「……ツーちゃん今日もかわいいなぁ。なんかデザート頼む?このふじリンゴのゼリーとかオススメだぞ」
安藤がメニューを広げて露骨に話を逸らす。
「わぁ……それ食べたい!」
見た目も美しい甘味にツーが目を輝かせた。
「僕のツーにあんまり近づかないで下さいね?」
にこやかに、肩に手をまわしつつ言うが目は笑ってない。
「例の坊主にはデートさせたんだろ?」
二瓶が大げさにアピールしているだけなのを理解している安藤は冷やかすように問いかける。
「彼は良いんです。何かあってもツーが捻り殺せますから」
「ひゃー怖ぇ」
冗談めかして笑うが、この教師は噓をつかないことを男は知っていた。
「ぼくはそんなことしないよっ!?……明人を殺したりなんて…しないよ」
不穏な会話を耳にしたツーが声を上げる。
「……ツー。するしないではなく出来る出来ないの話です。それだけの力関係があるから僕は安心できるというだけです」
そもそも『ツーが捻り殺せる』というのは事実なだけで、そういう命令を下しているなんてことは言ってない。
「安心ねぇ…。そもそもお前さんのことだツーちゃんに穴隠し*1付けてんだろ?」
「付けてても嫌なものは嫌なんですっ。…安藤さんもシキガミを女の子にしたらわかりますよ」
「…俺ゃ食うからなぁ」
もともと地方を回るつもりだった彼は、常に命を預けられる防具をシキガミにしていた。
「大食いっ娘とか、食べてるとこ見てるのが好きって子がお似合いだと思いますけど?」
「経費倍になって良いか?」
タダ飯を食うためにガイアに入った男である。その顔はいたってまじめだ。
「彼女の分くらい払って下さい」
「ケチだな」
口ではぶー垂れつつもくっくっくっと愉快そうに笑う。
「ガイアから調査費も出てるんでしょう?…僕とは違って」
「お前さんは受け取ってないだけだろ?申請したら出してくれるだろうに」
「それを受け取ったら地方を売ってるみたいで不誠実じゃないですか」
マッカが欲しい人間はいくらでもいる。ガイア連合もなかなかの高レートで現金と交換してくれるため、ちょっと裕福な生活をするくらいならば貰わなくても問題ないのである。
ただ霊装を買うにはガキを蹴散らかす程度では全然足りないので、ツーの服はよく破けている。
あと少しでまとまった額になりそうなので、これから山梨へと出稼ぎに行く予定だ。
「マジメだねぇ」
「これでも聖職者の端くれですから」
「とても教え子に手ぇ出して一年でポイする奴の言葉じゃねぇな」
「私も人間ですから」
「違ぇねぇな!」
両者ともドッと笑い合う。
「それで、今日は僕をイジりに来たわけではないですよね?」
「まぁ待て。そろそろ飯が来る」
「そうですね」
食事が運ばれ、軽く談笑しながら料理を平らげていく。
「えっ!?A町の件がまだ片付いてない!?」
「声がでけーぞ?」
もちろん最初から防音結界は張っており情報漏洩対策はしっかりしている。とはいえうるさいものはうるさいしびっくりするものはびっくりするのだ。
「いやだって、えぇ……。プライドじゃ悪魔は倒せないでしょう!?」
二瓶は一度目の前の男に連れられて、A町のトップの食事シーンに立ち合ったことがあった。向こうがVIP席に居たこともあり直接見た訳ではなかったが印象は悪かった。
最初は静かに食事をしていたのだが、痺れを切らした二瓶が運ばれるワインを【アギ】で軽く温めた。ぬるくなったソレを一口飲んだ途端「ワシを誰だと思っとる!!」と大激怒。店内には老人の怒声と、ウェイターの悲痛な謝罪と、棒状の物による打撃音が響き渡った。「食い物の恨みはしゃーない」と止められなかったら個室の温度を急激に変えて、ヒートショックで殺すところだった。
何もしないのは流石に申し訳なかったので、後でウェイターには傷の治りが早くなる程度に弱めた【ディア】をかけたが気休めだろう。
またガイアからの書状による忠告は無視、もしくはあからさまに小馬鹿にした様な返信を寄越していた。
誰もが呆れ果て正直見捨てたいと思っている。
ただA町はそれなりに大都市であり、捨てるには惜しい工場や技術者も存在していた。また大規模な異界を抱えており、放おっておいた際の影響が未知数なのも放置したくない理由の一つだった。
そんな厄介な案件のA町が一年以上も放置されている。二瓶が驚くには十分すぎる情報だった。
「だから、お前さんたちに懐柔して欲しいんだって」
「明らかに僕らが付け込みにくい相手じゃないですか!?」
「それっきゃないだろ?」
「だーかーらっ!根願寺に異界状況の報告を勧告させて、難癖つけて下請けとしてガイアの実力者数人捩じ込んで電撃解決すれば良いじゃないですか!?」
「やりてーやつがいねーんだよ」
「ゔっ!?」
ガイア連合の弱点が露見する。個人の意見を尊重するあまり、誰もやりたくない事は誰もやらないのだ。当然二瓶だってこんな地雷案件に首を突っ込みたくない。
つまりは、
「保留……ですね」
「だろ?」
そういう事である。
「B市、これもダメ!あのセクハラ親父のとこにツーは送りたくない!」
残った仕事のリストを確認しながらダメ出しをしていく。
「C村、これもダメ!一年もかける様な異界じゃない!」
「D村、因習が酷い」
「E村、だからこれ系はホラー好き俺らに勧めて下さいよ」
「…あれも!……これも!…皆さんいい案件から取ってくからゴミしか残って……ん?」
「それは……辞めとけ」
先ほどまでの人好きのする笑顔は鳴りをひそめ、いつになく真剣な口調でそう告げられる。
「詳細を聞いても?」
「いいぜ」
挑発する様にニヤリと笑った情報屋は、見聞きしたネタを洗いざらい吐いていく。
「へぇ、それは……面白そうですね」
「じゃあやるのか?」
歯をむき出しにして笑う。それは挑発とも取れる表情だった。
「……いえ、別のにします」
彼も俺らであった。
そんなフラグの立ったところに行きたくはない。そもそも信頼できる嗅覚を持つ男が「辞めとけ」と言うのだ。行く理由がない。
「じゃあ、あとは厄ネタだけだぜ?今年はやめるか?」
「やめません」
「その心は?」
「僕はこの国が好きだから。…あとこの国の少女も好きだから」
「よっ!淫行教師!」
「褒めてるんですか、それ?」
「褒められる様な事言ったか、お前ぇ?」
「あ、もちろんツーが一番だけどね」
「えへへ……」
ゼリーに舌鼓を打っていたツーは呼ばれたことに反応する。
「はぁっ。で、どれにするよ?」
「仕方ないです。次はA町に行きます」
「任せたぜ」
「あくまでもつなぎ役ですよ?攻略は期待しないで下さいね?」
今回の異界はアナライズの結果イケそうだと判断したから攻略までしたが、地図の制作や取次が彼らの本来の仕事だ。
「分かってる。分かってるって」
情報で人を操るのも情報屋の仕事であった。