【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
それはクラスメイトがお月見の予定で騒いでいた時のことだった――。
俺、
そんな時、思わず飛び起きちまうような気になる噂が耳に入ってきた。
どうしても本人の口から事実を確認したくて、放課後ツーを空き教室に呼び出した。
「転校するってうわさ、本当か?」
彼女が来てからまだ一年もたっていない。
当然俺が望んでいた答えは当然ノーだ。……まさか二人っきりのときにノーを望む日が来るなんてな。
「うん」
しかし現実は俺に厳しいらしい。
「どうしてだ?せっかく仲良くなれたのに……」
……俺は命を懸けて町のために頑張ってるのに?……ちょっとは優しくしてくれてもいいじゃないか!?
「ごめんね?……えっと、家の都合なんだ」
謎にツーが言いよどむ。普段はあんなにハキハキと話すのに、ずいぶんと話しにくそうだ。
違和感。
彼女のことだ、嘘はついていないはず…。家…家?
……ツーって…。
「ツーから親の話って聞いたことないんだけど、親の仕事?」
「えっと……お仕事…、うん。お仕事」
少し考えてたみたいだったけど、最後は言い切った。
じゃあ何を考えてたんだ。
…………親じゃない?…じゃあ、ツーに近い大人……。
「仕事って……もしかして二瓶のせいか?」
ツーとキスしてやがったゴミカス教師、
アイツのせいで俺たちの中が引き離されなきゃいけないのか!?
「そう!先生のお手伝いっ」
それが正しいとでもいうようにツーは胸を張って答えた。
「なぁ、ここに残ってくれよツー!」
あんなのと一緒にいたらツーが汚れてしまう。
「それはできない。…ごめんね」
さっきまで考えながらしゃべってたのがウソみたいな即答だった。
「あいつじゃなくて俺を選んでくれ!」
約半年ずっと思っていたことを口に出す。
「?」
ツーはきょとんとした顔で首をかしげた。
「……っ!!」
やめてくれ!
なんでそんな想定していなかったみたいな顔をするんだ!俺が……選択肢にすらないみたいじゃないか!
俺はツー抱きしめようと迫った。
が、すんでのところで避けられる。
俺は無様に床の上に倒れ伏した。
「どうしてこんなことするの?ぼくたち友達だよね…?」
表情は見えないが、信じられない目にあったような声色だ。
……ちきしょう……。
そんなタイミングでドアが開かれる。
「ツー!大丈夫かい?」
入ってきた二瓶の声は恐ろしいほどに優しかった。
「うん、平気だよ」
「片見くん、無理やり迫るのはどうかと思いますよ?」
そんなことはわかってる。
「うるさい!お前のせいでツーは転校するんだろ!」
「そうです」
無理に迫ることが悪いのはわかってる。
でも、それまでの信頼があったはずなんだ。
それが、その思い出よりも正論で開き直っているこの男のほうが大事だってことが我慢できなかった。
俺は立ち上がって拳を振りかぶった。
「あっ「ツー」……」
あいつが助けを求めるみたいにツーの声を遮ったがもう遅い。
拳はまっすぐに胸元を貫き……止まった。
「あ…?」
硬かった。
モンスターを殴ったことはある。肉を殴る感触は知ってるつもりだ。
これも確かに肉だった。鉄とかじゃ、ない。
だけど芯みたいなのがある、ぎっしりと詰まった硬さだ。
「正当防衛として制圧させてもらいますね?【ブフ】」
「は?」
何言って……寒い…?
足側から冷たい感触が……足が動かない?
下を見ると腰あたりまで凍り付いて身動きが取れなくなっていた。
「なんだ!?これーっ!……【アギ】!」
火の玉を呼び出す魔法だ。一般人の前で使うのはどうかと思ったが、こいつは…。
「…【アギ】」
俺が呼び出した火は、別に現れた炎に燃やされて無くなった……?
え?…は?どういうことだ……?
「片見くん、落ち着いて聞いてくださいね。人生の先輩として3つほどアドバイスをします」
するりと二瓶の顔が目の前に現れて、そのメガネが光る。
「まず一つめ。僕や君みたいな存在のことを覚醒者と呼びます。…珍しいですが唯一ではありません」
ピンと指を一本立てる。
「!?」
かくせい…しゃ…?
いやちょっと待て、もしかしてさっきの魔法こいつがっ!?
「そして重要なのはこっちです。……覚醒者はいわば法外の存在です。つまり、力を行使した時点で弱肉強食の理の下に置かれることになるわけですね。そして
「よ、よわっ!……っ!」
俺が、唯一の戦士じゃ……。両瀬だって俺のこと強いって……両瀬のおじさんだって…………。
「二つ目。ずっと前にも言いましたけどツーは
2本目の指を立てながら、ツーを抱き寄せて話す。
……触るな。
「それは…違うだろ?最初からってのも、お前のものってのもおかしいだろ!ツーはツーのものだろ!?」
人をもの扱いするなんてどうかしている。これだからこいつが嫌いなんだ!
「ツーは僕の為だけに産まれた使い魔です。…そもそも片見くんとは別の生き物なんですよ」
使い…魔?……は?
人間じゃないのか……。
「……だからなんだって言うんだ!」
いや、人間じゃないからと言ってもの扱いするのは違う。
それに『そうあれ』と作られたとしても心はツーのものだ。誰を愛すかの選択肢は彼女にある。
「だからあなたとは別の動物なんですよ。例えば、片見くんは猿と恋人になろうと考えたことがありますか?…それと同じでツーは人間と番になる気は全く無いんです」
「!?」
「そもそも片見くん相手に欲情する機能がないんですよ。だから友達以上になることは無いんです」
「それじゃ最初から!」
何のためにデートさせたんだ…?
「…そんな機能がなくても真実の愛ならと、思ったんですけどね。愛は愛でも友愛でしたね」
…友、愛……。
確かにさっきも『ぼくたち友達だよね』なんて言ってたっけ?
「くっ……」
バカみたいだ。
全部俺のバカみたいな一人相撲じゃないか!
「そして最後。…人のモノに手を出すんじゃ無い」
恐怖。
ゾッとして床を見ていた顔を上げるが、そこにあったのはいつもの二瓶のニヤニヤ顔だった。
「今後ガイア連合という組織の人間がこの町に来ると思うのですが、連合員のほとんどはツーのような使い魔を保有しているんです。みなツーと同じく美男美女で、非常に大事にされています。」
「……」
ツーみたいな?そんな存在が何人も……?
「ガイアの人間はだいたい強力な覚醒者でして、そんな彼らが偏愛している使い魔たちに色目を使ったりしたら……命はないと思っていいでしょう」
「そっ、そんなの!殺人じゃないか!」
さすがに許されていいわけがない。
「言ったでしょう?弱肉強食だと。異界に放る、悪魔に食わせる、魔法で消し炭にする。いくらでもやりようはありますし、そうなったとき両瀬家はあなたを助けませんよ」
「!?」
「そりゃそうでしょう?片見くんよりも何倍も強い彼らのご機嫌を取る為なら、あなたの犠牲くらい目をつぶりますよ」
「そん……な……」
今まであんなに俺を頼りにしてきたのに?
俺だってその期待にこたえられるようにモンスター狩りを命懸けでやってきた。
それなのに……自分より優秀な人間が来たらポイ?
「そんなっ……っそんなのって……」
…あんまりじゃないかっ!?
全身の力が急に抜けて、床しか見えなくなる。
その床もだんだん……にじんで……。
「大丈夫ですよ。…連合員の数はそんなに多くありません。その中でも、外に出て人助けをしようとする物好きは少ないと言ってもいい。片見くんが彼・彼女らの機嫌を損ねなければ悪いようには扱われないはずです」
「機嫌だって?機嫌一つで人を殺すなんて、野蛮な化け物じゃないか!そんな奴の顔色を窺いながら生きろっていうのか!?……そんなっ!それこそ横暴じゃないか!」
「君もやってきた事でしょう?この町は君の機嫌によって守られてきた。違いますか?」
「そんな…そんなこと!」
……ない。
毎日のようにダンジョンに行って、モンスターを倒し続けてきた。そこに機嫌なんて関係なかった。
「ないと思ってるのだったら両瀬家が上手く乗せてくれていただけですよ」
「…」
思い当たるフシは……。
あぁ、十五夜で団子くれたりするのもそういうことだったのかな…。
「……心当たりがありそうですね。これからは媚びる相手が片見くんから別の人間に変わるというだけの話です。もちろんあなたももこの町の霊能組織一員としてね」
「れーのう組織…?」
「ええ。幽霊の霊に能力の能。……そのあたりのお勉強も必要そうですね。……あと一応殺しについて弁解しておくと、覚醒者の肉体はレベルが上がると強固になりがちなので、さっきみたいにカッとなって殴ると人の命が奪えてしまうようになるんですよ」
「……あんたもか?」
「ええ。手加減しないと一撃ですね」
にこりと笑いながら見せつけるようにこぶしを握ってくる。
冗談にしか聞こえないが、さっきの殴った感じの硬さそのままで殴られたら確かに危険だ…。
「もう質問はありませんか?」
「……この怪物め。人間に化けやがって!」
さっきの話といい、こいつ人に化けたモンスターじゃないか?
「その感覚は間違いじゃ無いですよ。強い覚醒者ってのは人より悪魔に近づくらしいですからね。……片見くん覚醒してから人間離れした気がしませんか?」
「俺は人間だ」
すこし運動神経や動体視力が上がった気がするけど、人間だ。
「それなら僕だって人間ですよ。……ただ片見くんが他人に
「はぁ?」
…何言ってるんだ?
ちょっと調子に乗りすぎじゃないか!?
「人を外敵から守り、富と繁栄をもたらす。怒らせると災害を引き起こし、鎮める為に捧げ物や生贄が必要になる。……日本の神サマって元々はそうじゃないですか?」
「そんなモノ必要ない!出てけ!」
即答してやった。
はた迷惑もいいところだろ。なんでそんな奴らがこの街にやってくるんだ。
「僕は言われなくても出て行きますよ。ここの異界はほぼ潰したし、来年度には他の学校に行かなくちゃいけませんから。……あと、必要かどうかを判断するのは君じゃありません。両瀬家ですよ」
「ちょっと待った。いかい…?潰した?何を?」
「裏山にある、洞窟ですよ。最近は悪魔の出現数が減ってたんじゃないですか?」
「……どう、して…それを…」
あのダンジョンの場所は秘密のはずだ。
それに…モンスターが減ってるのは、俺と両瀬くらいしか知らないはずなのに……。
「ご当主の
「暴れた…?」
その程度で何とかなるようなもんじゃないだろ。
「数百は殺したと思うので数年は大丈夫だと思います。とはいえ、今度はより強力なダンジョンになるでしょうね」
「すうひゃ……。……強力って、何したんだ!」
何か企んでいるんじゃないだろうか?
「イライラしてるのは分かるけど、一々突っかかると印象悪くなりますよ?あと、僕は何もしてません。…放っておいても徐々に出てくる悪魔は強くなってました。それを一度減らして時間稼ぎをしただけですよ」
「…」
俺が、やろうとしてできなかったことだ。
俺が……俺が……。
拳を氷に叩きつける。
少しだけ砕けてパラパラと舞ったが、手にはじーんとした痺れが広がった。
「ガイアが介入するのはそれが原因ですね。……想像してみてください。悪魔は強くなる。けど寄せられる期待はそのままです。苦戦を強いられるでしょうし、時には戦略的撤退も余儀なくされるでしょう。そのうち一人じゃ湧き潰しも追いつかなくなって、町に被害が出る。……いや、その前に両瀬家の人間が殺されるかもしれませんね」
「両瀬…」
手が震える。もちろん痛みからじゃない。
「それを防ぐ為には片見くんが強くなるか、外から強い助っ人を呼ぶかです」
「だったら」
だったらそんなの呼ばないでも、俺が強くなりさえすれば……。
「この業界は才能が全てです。成長限界というものが人ごとにあるんです。……『やっぱりそこまで強くなれませんでした』じゃ済まないんですよ?」
「くっ……!」
わかってる。
こんな風に歯を食いしばったって強くなれないことは分かってるんだ。
「まぁ…使い魔を襲おうとした非協力的な青年がいるので、支援は非推奨って僕が言えばその強い奴も来ないんですけどね」
「っ!!」
にっこりと冗談のように言うが、実質脅しだ。
「別に僕に媚びろって言ってるわけじゃないですよ。能力も隠してたし、騙されたと感じるのも分かります。…僕に対してはそれでいい。けどもし、他の人がガイアから来た時には、この町の為にある程度は目を瞑らないといけないですよ?」
「……」
強いやつが来る。そいつに生意気を言わないようにする。
ただ、それだけだ。それだけでこの町の平和は守られるんだ。……簡単なことだ。
そうだろう、俺?
「返事は『はい』ですよ?」
「……はい」
「よく出来ました。……この業界には小学生にしか見えない超人や子供扱いすると怒る人なんかもいますから。礼儀は大事ですよ」
「…はい」
心を無にする。気に食わないが今、俺はこいつに手も足も出ないんだ。
「うんうん、よく出来ました。よく出来たので、男としてのアドバイスもしておきます。自分のものだと言い張りたいなら、気を配り、よく話し、愛を伝え、スキンシップを適度に取りましょう。それをせずに奪われたって思うのは、単に自分の努力不足ですよ?」
やけに饒舌に話す。
けど、そうなのかもしれない。デートの時も気配りが足りなかったことがあったかもしれない。上手に話せたかも怪しい。…そもそもあの告白以降、異性として好きってちゃんと言ってたか…?
悔しいが、きっとこの男は間違ってはないんだと、そう思った。
そしてほんの数週間後、ツーは転校していった。