【カオ転三次】癖に生きる俺らと割を食うシキガミ・現地民 作:アレデルトロン
ツーが転校してから2ヶ月が過ぎ、季節は冬。
「おはよう明人くん」
少し歩くペースを落としながらも、
「おはよう両瀬」
少女の重装とは反対に
「…今日は体調よさそうだな」
「ええ、……こほっ…昨日よりはだいぶマシみたい」
「……あー、それにしても寒いよな」
「そうだね。最近寒い……ってなんか嬉しそうね?」
「…今週末ツーが来るんだよ」
「ホント!?…ツーが転校したのが10月だったから……2か月ぶりくらい?」
「そう。んで、修行のために来てくれるからいつもみたいに両瀬ん家借りるから」
「ええ。分かったわ」
「それにしても風邪が長引きすぎて体力落ちてるんじゃないか?」
「………歩くの遅かった?ごめんね?」
少し、ほんの少し少女は考えてから発言する。
「いや、それはいいんだけど、…ちょっと太った気するし、もっと運動したほうがいいんじゃないかなーって思っただけ」
二瓶の勧めで彼は筋トレと武道に打ち込んでいた。
出来上がった体を自慢したいこともあって体型の話を振ったのだった。
「………っ!?」
対する両瀬は妊娠中期。だいたい20週目を迎えたころだ。
二瓶からもらったネックレスの効果で、着用者が妊娠していても未覚醒者は気が付くことができない。しかし低レベルといえども覚醒者である片見には若干の違和感は生じるようだった。
「……どうした?風邪治ったら筋トレするといいぞ。結構体変わるからな!」
「…………ふぅ…。明人くん?」
あまりカッとしてお腹に悪影響が行くと困る。そう考えた静佳は深呼吸をして返事をしたのだった。
「んぁ?」
「そういうことは、女性に対して言わないのがマナーです。配慮が足りないですよ?」
冷静に、大人として伝える。
「あー……すまん。」
パチンと手を合わせて謝る。
彼は天狗になった鼻がへし折られてようやく素直に謝ることができるようになってきた。
「はぁ……気を付けてよ?」
「ああ。………てか今の話し方先生っぽかったな」
「それは……」
自分が一番影響を受けている大人が二瓶だ。とっさにお手本として出てくるのは自然なことだった。
「それは?」
「えっと、…明人くん先生に修行をつけてもらってから変わったから。…先生の真似したら分かってくれるかなって……」
「ごめんて。次から気を付ける。……マジで結構似てたぞ?」
この半年間、濃密な日々を過ごしている相手の真似をしたのだから似るのも当然だと、赤くなる顔をマフラーで隠して静佳は思った。
週末、両瀬家にある異界にて――。
「ツーにはコレ」
そう言って二瓶が渡したのは、新聞紙を丸めて作った前腕と同じくらいの長さの剣だ。
「わかった!」
「は?」
再開の挨拶もそこそこに、冗談のような修業が始まった。
「振らずに当てるだけですよ?」
「うん!」
「ちょっと待った!俺は完全武装でツーは私服に新聞紙?」
「片見くん?その常識が通用しない世界に貴方は踏み込むんです。僕と違ってツーは近接型ですよ?」
「……。ダメだと思ったらそんなガラクタ捨てていいからな!」
武術を学び始めて調子に乗った時に二瓶に手も足も出なかった経験がある片見はとりあえず従うことにした。
「うーん……?そうするよ」
そうはならないと思いつつもツーは頷いた。
「では始めましょうか。ツー、ゆっくりスピードアップしていってくれないですか?」
「うん!いくよっ」
ツーが左右に往復を始める。
右へ左へと行くたびに速度がどんどん上昇していく。
その速度の秘密を探ろうと、片見の視線が下にさがる。
今日履いてきたショートパンツは制服のスカートよりもずっと短い。そのせいで白く輝く太ももと脚の長さが際立っている。
「片見くん、余所見はいけませんよ?」
青年はハッと我に帰ってツーを見つめ直す。既に常人の限界近い速度が出ており、長い三つ編みが地面と平行に彼女を追い始めている。
さらに数度往復を重ねた時には、目で追うのがやっとになっていた。
「ツー。もういいですよ」
「うん。いくぞっ」
スパァーン!
緑に煌めく流星が茶の尾を引いて通りすがった。
片見は何が起こったのかわからなかった。
「なっ!?……がああああ!!」
大きな音に疑問を感じた瞬間、腹部を激痛が襲う。
「ツー。さっきの速度もう一度出せるかい?」
残された時間が多くない二瓶はスパルタ気味に進行していく。
「うん!…バッチリだよ!」
大雑把な感覚を覚えたツーが元気よく答える。
ちなみに今の速度はコントロールも急ブレーキも十分可能な範囲だ。
「どうですか片見くん。手加減してるとはいってもツーの速度だとかなり痛いでしょう?」
「いてぇ。けど……やれる。来いツー!」
「防御か回避が出来るようになれれば上々です。頑張ってくださいね?」
・
・
・
スパァーン!
「ぎゃー!」
スパァーン!
「いでーっ!」
スパァーン!
「そろそろ交換しましょうか」
数発当ててはボロボロになった新聞紙の剣を交換して修行が再開する。
スパァーン!
「ぬぁー!」
・
・
・
2度打たれた頃には腹を盾で隠し始めた。そうなると速度は関係なく攻撃箇所を守れるようになったため、頭腹脚の3箇所をタイミングよく守ることになった。
その結果として難易度は一気に向上し、さっきの一撃で合計20発近く攻撃を喰らっている。
「まだ攻撃の瞬間ではなく、移動の瞬間にターゲット決めしてるんですからちゃんと見極めてください」
「でも先生。見えないものは見えないんだけど?」
「はぁっ、【ブフ】……ツー次はこっちを当ててください」
氷でつくったのは紙の剣と同サイズの凶器。その太いつららは前見た強度的に考えても棍棒と呼んだほうが相応しいだろう。
「死ぬっ!俺を殺す気か!?」
「悪魔はその気です。集中してくださいね」
教師は何でもないことのようにニッコリと微笑みかける。
「よし……行くぞっ!」
ツーが走るための事前姿勢に移る。顔が揺れ、蛍の如き光が舞う。武器を
(見えたっ!脚!)
バキンッ!
盾で脚を守りにいった瞬間、手に衝撃が走る。盾に当たった氷は砕けて、キラキラと宙に散った。
「あ、れ?」
「お見事です。死ぬ気になればできるじゃないですか」
パチパチと手を叩きながら二瓶は嬉しそうに言う。
「だ、騙したのか?」
いつものと同じものなら、あんなに簡単に壊れるはずがない。あの速度なら盾がひしゃげる可能性すらあった。
「騙すとは人聞きが悪いですね。速度を考えて少し脆く作っただけです。それより片見くん、防げないかもしれないと思ったのに防いだんですか?」
「なっ!?」
守ることしか頭になかった少年は急なひっかけ問題に驚く。
「ツーはよっぽど信頼されているみたいだ」
裏を返せばそういうことだ。少女が自分を傷つけるような無茶なことはしないだろうという無意識下の信頼の表れでもある。
「へへへ……友達だもん」
「ツー……」
離れても変わらない彼女との絆に青年は胸を打たれる。友達以上になれなかったのは悔しいが、関係がなくなるよりはよっぽどいい。
「休憩はもういいですね?速度にも慣れて来たようですし、次からは回避と防御に反撃も出来るように練習しましょう」
その後、片見少年に様々な修行や知識を叩き込ながら、裏で両瀬少女の心身のケアを行っていた二瓶は、予定通り3月末に別の学校へと旅立っていった。
教室に潜む黒札編の本編終了です。
あと♡なおまけが2話くらい続きます。