※この作品はR-18です。

機動戦士ガンダムSEED TR -輝ける星を目指して‐   作:開いたぞ、性癖の扉が!!

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第15話「敵軍の姫」

 

 

 

 結局補給を受けるだけでアルテミスを出たアークエンジェルは、月を目指して航行を再開した。

 ケイやマリューは補給を受けられただけマシ―――そう考えていたが、民間人たちの我慢は限界に近かった。

 限られた船内では動きも制限され、同時に彼らに与えられる食事や衣服も戦時の範疇では豊かであっても、ついこの間まで一般的な生活を送っていた彼らからすれば耐えられないものであった。

 フレイ・アルスターもその一人である。

 アルテミスの兵士たち相手に「化粧品が」「食事の味が」と文句をつけ、婚約者のサイが止めなければ兵士に何をされていたか分からない程に堪え性が無い。

 分かっていても、普段の生活を求めてしまうのが人間―――特に甘やかされ贅沢をして生きてきた少女にとって戦時の戦艦での生活は我慢ならなかった。

 アークエンジェルの搭乗員を頼りないと思う彼女にとって、唯一己の命を握っているのが本職ではない士官たちとMS乗りの少年二人―――あとアルテミスで補給を受け戦線復帰したムウとかいうちゃらんぽらん。

 

「いつまでこんな事が続くのよ」

 

 やけに乾いたパンを口に入れながらフレイは不満タラタラに言う。

 サイやトールといった面々も同じことを考えていたが、彼らはまだキラという特別な才能を持った友人を支えるという気持ちもあるため口には出さない。

 アルテミスに入った時、サイに「ここは安全だ、光波防御帯が守ってくれる」と言われてつい終わったものかと錯覚していた。

 やはりサイは頼りにならない―――彼は未来が読めるわけでもないのに、フレイの中で彼の株が不当に下がっていく。

 

「あのケイって子がさっさと全部倒してくれたら終わるのに」

「馬鹿言うなよ、フレイと同じ歳の子を戦わせてるんだぞ―――才能があって戦ってる分僕らより酷い」

「でもエリートなんでしょ?」

「詳細は分からないけど、そうだよ?」

「だったら!」

「でもさ、そう簡単な問題かな……」

 

 仮に自分たちを追うザフトを振り切ったとして、何事も無く帰れる保証も無かった。

 何せ民間人を乗せるためのシャトルすら捻出できないアークエンジェルだ。今からこの艦を降りる事は出来ないし、民間人の中にシャトルを扱える人間が居ない以上そこにアークエンジェルの搭乗員というリソースは割けない。

 キラが居れば話は別だと思うが、彼女もしたことの無い操縦をやれと言われても困るだけだ。

 連合の戦艦が戦時中にオーブに寄港すれば、オーブは連合との関係を疑われる。その上自分たちの身分を照合するにはかなりの時間を有するだろう。

 

「アルテミスの司令が言ってたよね、認証コードが無いから僕たちを友軍扱い出来ない―――これってアークエンジェルが本来所属するはずの艦隊へ合流しない限り何処へ行っても同じなんじゃないかな」

 

 つまり、マリューも所属する第八艦隊に合流するまで民間人はロクに身動きが取れない。

 そしてその艦隊にたどり着くことができるか―――そもそもその艦隊が自分たちが合流するまでに存在していられるか。

 これは戦争であり、一分一秒の判断で生死が決まる場所である。

 サイ達はどこか客人気分でこの艦に乗って居たが、本来はそういうヒリついた命綱無しの綱渡りをしているのだから、我儘は言っていられない。

 

「確かにケイって子も強いけどさ……それもいつまで"もつ"か分からないだろ」

「……そうだけど」

 

 フレイがもたなかったのだから、彼とていつ壊れるか分からない。

 キラもキラでどこか神妙な面持ちで、今までの彼女よりずっと暗い雰囲気を発している。

 白と赤で勇ましく作ってあるアークエンジェルだったが、フレイにはそれが空回りしているだけの泥船に思えた。

 自分も誰も彼も、今はあの二人に命を握られているも同然だった。

 

「……コーディネイターって意外と凄くないのね」

「フレイ……それ、キラの目の前で言うなよ」

「いいよ、僕が弱くて役に立ててないのは事実だし」

「……ごめん、キラ。コーディネイターだからって何でも出来るわけないもんな」

「っ………………本当は、何でも出来たらいいんだけどね」

 

 ガルシアにMSのパイロットとして呼ばれたケイが去った後、兵士に聞こえないような声で安堵したサイ。

 そんな彼にフレイは『どうして安心しているのか』と聞いた。

 するとサイは『キラはコーディネイターで、つまりコーディネイターの集まりでもあるザフトは同胞。仲間殺しをしているようなものだ』と発言してしまったのだ。

 結果的にフレイにキラがコーディネイターであることが露呈し、彼女の偏見もあってキラは居心地が悪かった。

 幸運なことにアルテミスの兵が何も聞いていなかった事が幸いしていたが、サイの一言でキラの中に『裏切者のコーディネイター』という烙印が生まれたのも事実だった。

 そう考えると、アスランの苦しみながら洩らしたキラへの投降要求は間違っていなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 月への航行中に信号をキャッチし、その先で救命ポッドを拾ったアークエンジェルは騒然としていた。

 プラント製のそれにはコーディネイターが乗っている事は確定であったが、その人物が問題だった。

 1人の少女を囲むように、ムウとナタル、そして艦長のマリューが部屋に集まっていた。

 

「救命ポッドを拾っていただいてありがとうございました」

 

 少女がぺこりと頭を下げる。

 品の有る所作でマリューやナタルが怖気づくが、それも仕方が無かった。

 桃色の髪を惜しげもなく晒し肩の出る恰好、丸い機械のようなものを抱える少女の素性―――生まれが問題だった。

 

「私(わたくし)はラクス・クラインですわ―――こちらは友達のハロ」

『ハロハロ、ラクス、ハロー』

「はぁ、どうも」

 

 ムウが思わず返事をし、マリューとナタルに睨まれる。

 喋る丸っこい奇怪な機械―――これもこれで警戒させるには十分だ。

 

「クライン……またとんでもない拾いものをしちまったな」

「プラント評議会現最高議長、シーゲル・クライン氏のご息女……といったところか」

「あら、シーゲル・クラインは確かに私の父ですわ。ご存知ですの?」

 

 ―――存じまくりだよ、こんちくしょう。

 ポン、と両手を合わせてほほ笑むラクスにその場の三人は頭に手を置いて天を仰いだ。

 いわば敵国の姫が転がり込んだと同然だった。

 政治のカードとしては最高の一手かもしれないが、アークエンジェルにとっては最悪でもあった。

 この1人のジョーカーのせいで艦の存在が危ぶまれる―――扱い一つ間違えれば戦争を激化させることだってあり得るのだ。

 

「そんな方が、どうしてあんな場所で救命ポッドに?」

「―――ユニウスセブンの追悼式典をやるつもりでしたの」

「……こんな時期に、か」

 

 ナタルが黙りこくった。

 おかしい―――ユニウスセブンの残骸があるデブリ帯は確かにこの近辺にあるが、つまり地球に近い。

 地球に近ければ近いほど連合軍の勢力は強くなるうえに、いくら民間人とはいえ評議会のトップの娘を派遣するのはクラインの娘を排除したいか、或いは余程の日和見をしているようにしか見えない。

 時期として連合とザフト両軍の戦闘によって、ヘリオポリスというコロニーが消えた事くらいは知っているだろう。

 危機感が無いというか、そうでもしなければ相手は士気を保てない程脆弱なのか?ナタルにはいまいち理解出来なかった。

 

「私が追悼式典をどうしてもと、父にお願いしたものですから」

「あー……」

 

 その一言でムウが察した。

 つまりはシーゲル・クラインは娘に甘く、それでいて彼女は押しが強く、彼女は戦争を知らないか知っていてそれでもと思ったかのどちらか。

 娘を止められなかったのだろう、シーゲル・クラインは。

 

「そうしましたら、地球軍の船と私たちの船が出会ってしまい―――私たちがここへやって来た理由がお気に召さなかったのか、諍いが起こってしまいました」

「……相手は評議会の議長の娘だからな、難癖をつけるやつも居るだろう」

「私は何かあってはいけないとポッドに1人入れられ、外に」

 

 そこからは何もわかりませんの、とラクスはひと通りを話し終えて口を噤んだ。

 彼女らは式典を行うためにユニウスセブンの近くへやって来たが、連合軍の船と接触し問題が発生―――恐らく地球軍が最初に手を出し、彼女の乗って居た船は沈んだ。

 幸いにも救命ポッドに詰められたラクスは生き延び、こうして事件の後運悪くやって来たアークエンジェルに保護された。

 一つ間違えれば大問題に発展しかねない状況でありながら、ラクスは落ち着いたままだった。

 余程の剛の者か、或いはただの世間知らずの御姫様か―――三人の胃はキリリと痛んだ。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼはアスラン・ザラとその父『パトリック・ザラ』と共にプラント本国への出頭命令を受けていた。

 ヘリオポリス崩壊はプラントにとっても重大な案件であり、評議会は火の車のように慌ただしくなっている。

 クルーゼはそうした評議会でも堂々と冷静に状況と自らの対応の未熟さへの反省、そしてこれからを述べるとアスラン・ザラと共に早々に評議会の場を去った。

 そしてラクス・クラインの安否不明が報じられたのである。

 

「君も大変だな、アスラン」

「……ラクスがああなった事は残念です」

「残念、か」

 

 もっと他に言いようがあるだろう。クルーゼは内心この少年の頭の中がどうなっているのか気になった。

 婚約者が安否不明、最悪死んで亡骸も何処にあるのか分からないというのに『残念』の一言で済まされるラクス・クラインが可哀想とも言える。

 彼らは婚約を発表して3年の付き合いであるし、それなりに青い春を謳歌しているものだと思っていたが―――クルーゼが思うよりも冷え切っているようだ。

 それに加え、パトリック・ザラの暴走。

 妻を血のバレンタイン事件―――実際にはその後のコロニー爆破テロによって反ナチュラルどころかナチュラル殲滅すら目標にした彼の暴走は息子を軍隊へ向かわせた。

 そして運命のいたずらかアスランには軍人の才能があり、赤服―――ザフトのエリートの中でも屈指の兵士にまで上り詰めた。

 ―――だからこそ冷めもするか。クルーゼは納得した。

 あの優しい歌で頭がいっぱいの娘だ、母を亡くし狂う父を見て『立派な兵士になるぞ』と息巻く少年には少し未熟な女に見えただろう。

 

「ストライクのパイロット……君の幼馴染の事もある。本国でゆっくり休んでもいいが」

「キラ……いえ、あいつは俺が必ず連れ戻します。他の奴に討たれる前に、俺が」

「―――ふむ」

「優しいやつなんです。きっと脅されて戦っているに違いありません」

 

 ―――生きているか分からない婚約者よりも幼馴染、か。

 明らかに態度の違うそれをクルーゼは冷ややかに評価した。

 私情に踊らされるなと言いたいところだったが、優等生のアスランがこうも人間臭いとクルーゼとしても野次馬根性が働くものである。

 そんなやり取りをしていると、パトリック・ザラが二人の前に現れた。

 

「アスラン、ラクス嬢の事は聞いているだろう」

「……ええ」

「クルーゼ隊には休暇を押して捜索をさせる」

「なっ!?」

 

 驚きながらクルーゼを見やるアスランにクルーゼは冷たいなと返した。

 

「なに、ザラ委員長の息子である君の婚約者だ―――部隊の責任者として部下を想ったまでさ」

 

 ―――思ったほどの効果は無さそうだがな。

 こうも冷めていては『婚約者を敵から救った英雄』や『婚約者の亡骸を抱きながら戻り怒りに燃えるパトリック・ザラの息子』を演出するのは難しいか。

 余程キラという少女に御執心と見える。

 キラ・ヤマト―――クルーゼも"よく知る"あのキラだとしたら、これほどの喜劇は無い。

 そして白兎―――常人の生まれでは無いだろうその人物も気になるところだ。

 クルーゼに休んでいる暇など無い。むしろ人生で一番充実しているとも言えた。

 

「幼馴染―――キラ君も君のもとに戻ると良いな。アスラン」

「―――はい!」

 

 ―――戦争より女に夢中か。親子共々、せいぜい踊るがいい。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ケイは敵国の姫に浮ついているアークエンジェルの艦内から避けるように自室に籠った。

 ラクスという少女が拾われた時、ケイはいつに無く嫌な気配を感じていた。

 その少女がポッドから姿を現した瞬間、嫌にでも感じる少女の精神―――ラクス・クラインはニュータイプか、或いはそれに似た何かだ。

 ケイにはそう確信が持てた。それも兄弟よりも強い念を感じる。

 つまり相手もケイを感じた―――或いはケイと会ったせいでそれに目覚めた可能性すらある。

 心の中をジロリと舐めまわされるように覗かれた―――ニュータイプとはいえ相手の全てが分かるわけでは無い。そこまで便利な人間ではないが、しかし覗かれた。

 

「何だ、アイツ……」

 

 前に戦闘したシグー、クルーゼと言ったそのパイロットやムウとは違った気分だった。

 ラクスという人間はケイからすれば呑気な、うすぼんやりとした穏やかさのある空気で無理やりケイの心を覗いてきた。

 それが気に食わない―――今日ここで会っただけの人間が、視線を合わしただけで己の精神を相手に潜り込ませるなどといった傲慢極まりない行為。

 人の家の玄関を壊し、土足で上がり込んでいるようなものだ。

 握った拳が更に力を増す。

 何より『自分がそれに一瞬でも気を許した』という事実が腹が立つ。

 追い出すようにして覗かれるのを中断出来たが、スルリと人の隙を縫うやり方。

 ケイは少し安定してきた精神が覗かれた事でまた揺らぐのを感じた。

 そうしていると、唐突に部屋の扉が開いた。

 

「申し訳ありません、お水を一杯頂きたいと思ったのですが…………まあっ、貴方は」

「は……?」

 

 居るはずがない。

 仮にも敵国の人間―――部屋に押し込んで、鍵をかけたはずだ。

 

「何で、お前がここに居る……!?」

『オマエモナー』

「この子……ハロが鍵を開けてくれたので、少しお散歩に」

 

 この子、と言われて視線を下げると変な丸っこい機械がコロコロと転がっては、耳のように丸く切られたパーツをパタパタとさせながら、『ハロー』と気さくに挨拶をしてくる。

 

 ―――ちょっと可愛い。

 

「じゃなくて、お前!自分が置かれた立場分かってるのか!?」

 

 それがハッキングをするような機械には見えなかったが、見た目で騙すような狡猾な女なのだろう―――きっとコイツには火器も仕込まれているに違いない。

 銃を抜き、ケイはラクスへそれを向けた。

 するとラクスは一瞬悲し気な表情をすると、しかしどこか据わった目でケイを見て言った。

 不思議なことに、ラクスにはケイが撃たない確証があった。

 

「おやめください―――貴方は銃で人を脅すような人ではありませんわ」

「知ったような口を……銃で殺しもした、出まかせに騙されるか」

「それでも、私には分かってしまったのです」

 

 一歩、ラクスがケイに向けて歩を進めた。

 その一歩で十分に脅威に感じたはずだが、ケイは動けない。

 見透かされている―――自分すら知らない自分を見られたような恐ろしい気分だった。

 同時にニュータイプとして優れたケイだから分かる、少女が自分を害する事など何も考えていないことを。ケイもまた、彼女を見透かす事が出来た。

 頭の中には歌と哀悼の気持ちと、それから自分への理解。そうしたイメージが頭に流れ込む。

 たった一瞬で、ラクスはケイが自分を殺せるような程非道な人間でないと感じ取った。

 

「私、貴方を一目見て思いましたの―――貴方は他の人と少し違う、とても純粋な方だと。貴方のそれは強がりなのでしょう?」

「随分な物言いだが、人を殺した人間が純粋?……ふざけるのもいい加減にしろ!」

「こんな気持ち初めてで……貴方を見た瞬間、頭の……心の中で―――白鳥が羽を休める綺麗な湖のほとりで兎が遊んでいました。私のものではない、とても穏やかな温かい気持ちが私に流れ込んだのです」

「ッッ!!」

 

 ケイには覚えがあった。

 白鳥、湖のほとり、兎。そうした単語で理解できてしまう。

 ケイと兄弟たちの思い出の光景だ。

 それがケイにとっての全てであり、ケイには"それしか"無かった。

 そしてそれらは兄弟を亡くした今となっては孤独の象徴でもある。

 

 キラやマリューにボーっとしていると注意されて気づいたが、自分の心は未だそこにある。未だに兄弟とそこで遊ぶ過去に縋って、彼らと見た荒唐無稽な夢の話が今のケイを形作っている。

 誰にも明かさない、自分の弱さ。

 それを明かさないからこそケイは大人のように振舞えるし、殺しも出来た。

 15年生きたケイにとっての全て―――それを、あの一瞬で、この女は。

 

「人の心に、土足でッ!!」

 

 銃なんていう無粋なものを下げ、ケイは強く拳を握って少女を睨んだ。

 ケイと殆ど変わらない背丈の、恐らく年齢もそう変わらない少女。

 それはじっとケイを見つめていた。

 

「……!」

「でも私にも分からないのです、どうして貴方の事が私に分かったのか―――こんなに温かな気持ちを持っているのに、今の貴方はどうしてこんなにも苦しそうにしているのか」

「黙れ……!」

「勝手に貴方の知られたくない事を知ってしまったのであれば謝りますわ。しかし私は知りたいだけなのです、この現象の事を」

 

 ラクスに敵意など無い。余分な同情も。

 ただ流れ込んだ情報を理解したいだけだ。ただ知らないを知りたい―――それだけ。

 それが伝わり、分かっているからこそ。ケイはぐっと歯を食いしばってラクスへの怒りを静めた。

 戦場でもないのに敵意の無い人間に拳を向けても虚しいだけだ。ラクスは本当に何も悪意を発していない。

 

「……ニュータイプ、かもしれない」

「ニュータイプ?」

「……洞察力が人より鋭い人間の事。人間が進化したんじゃないかって」

 

 ポツポツとケイはラクスにそれが何なのかを告げた。

 ニュータイプはただの洞察力が鋭い人間から特殊な感応波を出したり感じたりする人間までいる事。

 複数のニュータイプが居れば、それは互いを察知しあったり引き合ったり反発しあったりする事。

 コミュニケーションにおいて何となく相手の考える事が分かる事。それらが強いニュータイプであるほどイメージが鮮明になる事。

 ラクスは強いニュータイプ能力によって精神空間を覗いたのかもしれないと、ケイはボソボソと説明した。

 するとラクスは急にパァと表情を明るくしてケイの手を取った。まるでなんでも知りたがる時期の子供が、答えを得たように。

 

「つまり私と貴方はニュータイプという運命の下、引き合ったのですね?」

「思いっきり反発してるだろ」

「引き合って無ければ、貴方の考えている事が見えませんわ」

「……そうじゃなくても見える事くらいある」

 

 そう聞いて、ラクスは思う所があった。

 

「貴方も、私の事が?」

「話聞けよ………………まぁ」

「嬉しいですわ。私、色々な人から『変わっている』とか『特殊だ』と誤解される事が多くて……」

「……実のところ変なことは何も考えてない―――あるとしたら歌と世間への憂いだか鬱憤に満ちてるとかそんなところだろ」

 

 苦い顔をしながら話すケイに『当たりですわ』と言い、ラクスはケイの手を両手で握ると勢いよく振った。

 ただの大人しい箱入り娘ではなく、それなりに普通だった。

 今までの淑女のような振舞いは何処へやら、まるで年頃の子供のようにはしゃぐラクス。

 年頃の女子にロマンティックなテレパシーは禁物だった。

 ケイはやりにくさこそ感じていたが、壁を壊された手前格好つける事も出来ないで困惑していた。

 マリューといいラクスといい、壁を乗り越えるのではなくぶち壊して超えてくる人間が多い。

 そういえばとラクスは改まってケイに聞いた。

 

「私、貴方の名前をお伺いするのをすっかり忘れていました」

「……当ててみなよ、ニュータイプさん?」

「まあ」

 

 うーんうーんと悩むラクスを見ながら、ケイは何故か胸のすく思いをした。

 他人に壁を作るにも疲れるものであり―――少なくとも目の前の少女はケイの内情の細部を知らずも壁の奥を見た。

 わざわざ取り繕う事も無い、そう思うと肩がすっかり軽くなった。

 そうしているとラクスが困ったようにこちらを見るので、投了と見て答え合わせをする。気の抜ける女だとケイはごちた。

 

「ケイ。ケイ・ムラサメだ」

「ケイ……素敵な名前ですのね」

「……そんな綺麗なもんじゃない」

「響きの良い名前ですのに、嫌いなのですか?」

「それは…………好きでも嫌いでもない」

「複雑ですのね……私も似たような思いをしていますわ」

 

 11番目の被験体だからアルファベット順で11番目の『K』―――それを好きかと言われても、答えようがない。

 兄弟が同じ理由で付けられた名前だから、好きとも言えるし―――それが子供の名付けの理由としてはあまりにも最低なものであると知っているから嫌いとも言える。

 名前を明かした少年を前にラクスもまた、胸の内を明かした。

 決められた婚約者がいる事、それがもう数年もまともに会えず、あっても味のしないものを噛んでいるかのような関係で。

 そうしているうちに自分の中にあった彼への好意は、ただの良い人に変わって―――彼の長所だからこそ好きは好きだが、愛しているとは言えない。

 互いに気を使いあって互いの表面を撫で合う関係だったのに、それすらも無くなった事。

 

「私、ほとほと愛想が尽きそうで」

「何で俺は相談を……なら別れれば良いだろ」

「コーディネイターには遺伝子上の欠陥として、特定の組み合わせでしか子供ができ辛いという事があるのです。そしてそれは世代を追うごとに先鋭化していくのです……」

「!!」

 

 だからこそ、相性が良く家柄も良かった二つの家は諸手を挙げて二人を婚約者とした。

 年頃の男女が結婚をする相手なのだとお互いを認識すれば、それなりにドキドキもしたが―――血のバレンタインがそれを変えたと言える。

 結果的に残ったのは遺伝子的に相性がいいというデータと、それと裏腹に距離の離れた婚約者という事実。

 もしこれが連合の連中にでも知られたら『プラントを鎖国状態へ追いやってコーディネイターという種を緩やかに絶滅させればいい』とでも考えるのだろう。

 ケイが浅い政治の知識でそう思うのだから、彼らが考えないわけがない。

 

「世の中ではコーディネイターはお金をかければ何でも出来ると思われがちですが、その実は種の存続すらとても難しいのです」

「だから、別れる事が出来ない?」

「いえ……アスランは不器用ですがとても優しい方ですので、立場もありますから……私も婚約自体には反対ではありません」

「…………アスラン?」

 

 ケイはその名前に覚えがあった。

 キラの幼馴染、イージスガンダムのパイロットでありその腕はかなりのものだった。確かあいつもと思い出す。

 アークエンジェルが疫病神なのか、それともキラ・ヤマトが疫病神なのか―――或いは自分か。こうも世間が狭いとは思わなかった。

 強力な兵器を操り争う二人の幼馴染と、その婚約者―――くだらない三角関係で戦争を引っ掻き回されるのはごめんだとケイは内心で呆れた。

 

「だから、複雑なのです」

「…………政治の事だ、人の心とはまた別の問題なんだろ。兵士をやってる身でそれに逆らえとは言えない」

「貴方はアスランと戦うかもしれないのですね」

「もう何度か殺し合ってる―――俺はあいつの目の前であいつの僚機を2機堕とした。今日日『悪しき連合』とやらを潰すために軍に入り、戦友として生きてきた人間が殺されれば止まりはしないだろ」

「……それは困りましたわ」

 

 困るで済めばいい話だが―――ケイは目の前で悩む少女を他所に、アスランという、キラを前にして揺れている敵を思うに今更止まりはしないだろう。

 キラへの執着を見るに余程キラにプラント側へついて欲しいのだろうが、この少女の語るアスランと自分の知るアスランは本当に同じ人間か疑うレベルで温度差がある。

 それがラクスにも伝わり、両者の関係は冷めきっていたとも言える。

 

 ―――めんどくさい。

 

 誰が好き好んで婚約者の居る男が別の女に現を抜かす裏付けを知らなければならないのか。

 どうにかしろよとまだ姿の知らないアスランに呆れながら、ケイは放っておくとどこかへフラフラ歩いて行くラクスの面倒を見ざるを得ない予感がしていた。

 

 





Tips:ラクス・クライン
不思議な少年と出会った事でニュータイプ能力らしき力を発現したプラント議員の娘で歌姫。
ユニウスセブンの追悼式典を行うためにやって来たらしいが、運悪く連合の艦船と出会い救命ポッドで逃がされた。
アスランと婚約していたが、最近は関係が冷え込んでいるらしい。
ケイの心の中に土足で入り込むも人当たりの良さで許された。

Tips:ケイ・ムラサメ
心の中に土足で入られた少年兵。兄弟との過去に囚われている。
ラクスの行動に一度は憤慨したものの、彼女の態度に絆されて渋々許した。
ラクスに対しては「何なの、この人……」状態。
今回の件でアスランに対してトラブルメーカー的な印象を持った。
ラクスの持つハロを見てちょっとだけ欲しくなった。

Tips:アスラン・ザラ
今は婚約者よりも薄幸爆乳美人に育った幼馴染に脳が焼かれている。ラクスの事も心配していないわけではない。
白兎絶対許さないマン。

Tips:ラウ・ル・クルーゼ
部下の婚約者を捜索するために部隊を動かす意外と部下想い、或いは政治の上手い仮面の男。アスランの婚約者に対しての態度に「それは人としてどうなの?」と内心で引いている。
キラの事を知っている様子。

Tips:フレイ・アルスター
コーディネイターに対して「遺伝子を改造したから何でもできる」という偏見があるが、ナチュラルとしては一般的な認識。

Tips:サイ・アーガイル
サイ「君、(裏切者の)コーディネイターだろ?」


ラクスの扱いが難しい。
人の命を思って戦いを止めたい少女と、戦った先に死が待っていても成し遂げたい事がある少年の主義主張がかみ合わない……けど合体はしてほしい(欲望)
なので少し自信が無いです。

主人公の見た目に関する挿絵

  • いるね
  • いらないね
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