※この作品はR-18です。

機動戦士ガンダムSEED TR -輝ける星を目指して‐   作:開いたぞ、性癖の扉が!!

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今更ながら前々から気になっていたアストレイのリマスターエディション全6巻を電子版で拝読しました。
ただテンション高めな作品だったのでこの小説内では要素を出せるかどうか分からないです。


第16話「嫉妬」

 

 

 キラ・ヤマトは胸の中にあるドロッとした感情を隠せないでいた。

 ラクス・クラインというプラントの評議会最高議長の娘が保護された事はまだいい。それは命が1つ助かったという事だった。

 そしてその少女が少し世間離れしているが、敵国の戦艦の中で横暴に振舞う程悪い人間ではなった事も幸いだった。

 しかしキラにはそんな温厚なラクスに対して許せない事がある。

 彼女とケイ・ムラサメとの距離だった。

 

 ラクスは警戒されながらも、監視付きであればアークエンジェルの食堂で食事をとる事を許された。

 彼女自身がこの艦への敵対行為などする気が無い事―――それから件のハロという機械が部屋のロックを軒並み解除してしまうからである。

 仕方なく制限を設けて、彼女の善性に賭けるしかなかったとも言う。

 そのハロを抱えながら、ラクスは食堂で二人分の食事を運ぶケイと談笑していた(キラ視点ではそう見えた)。

 

「ハロはアスランからの贈り物で、毎年誕生日になると必ず送っていただくのですが……戦争が終われば、ケイにもアスランに頼んで一つプレゼントしたいですわ」

「いや、別に欲しいってわけじゃ」

 

 ケイが食事を運び席に着くと、ラクスは話を始めた。

 アスランと知り合いだった事はキラにとっては寝耳に水だったが、彼はコーディネイターの中でも特にカーストの上位に位置する家の育ちだ―――あり得ない話ではない。

 彼の父親の事を考えれば、いい相手を見繕ったと言える。

 ラクスはケイにハロを差し出すが、ケイはそれを触ろうとしない。

 そもそもケイはキラの知るところでは人間を遠ざける猫のような生き物だったし、彼には彼のペースがあった。

 だからこそキラはそれを掴み損ねて悶々としていたのだが、ラクスはそんな事知らないとばかりに押せ押せでケイに迫っている。

 

 ―――ああ、嫌がってるのに。

 

「……お嫌いですか?」

 

 スン、とラクスがしおらしくなるとキラはそれ見たことかと―――ケイはハロよりトリィの方が好きだもんねと、存在しない記憶すらでっち上げて内心ガッツポーズした。

 しかしケイの返答は思っていた反応では無く―――キラの心に隕石衝突並の衝撃を与えた。

 

「……はぁ。嫌いじゃないけどさ……それまでお互い生きられたら―――どうしてもって言うなら貰ってもいい」

「ふふっ……楽しみですわね」

「だから、何で戦争が終わる前提なんだ」

「何となく、そう思ったので」

 

 あれは本当に自分の知るケイ・ムラサメか?―――キラの脳の活動が一瞬エラーを吐いて停止した。

 自分が押せ押せとアプローチを仕掛けた時にはうざったそうにしていたケイが、今日ぽっと出のラクスに自分の見たことのない対応を見せている。

 どうあがいても塩対応しか返ってこない人間に何をしたらああいう風に変わるのか。

 少女かハロか、どちらかがケイの心の壁を破壊した。

 

「なあキラ、なんであの子ここに居るんだよ」

 

 カズイが近寄って話しかけてくる。ええい邪魔をするなと思わなくもないが、友人を邪険には出来ない。

 

「艦長が食堂くらいなら監視付きで居てもいいって。彼女もあんまり荒事が得意ってわけでもないし」

「冗談じゃないわよ」

 

 キラとカズイの会話に割って言うのはフレイだ。

 ラクスもケイも、その大声に気が付きフレイを見る。

 当人は一斉に視線を向けられた事で居心地が悪そうにしたが、意を決したのかラクスを指さして叫んだ。

 

「何で敵のコーディネイターと一緒に食事しないといけないのよ!」

「フレイ!」

 

 ミリアリアが抑えようとするが、フレイはそれを振り切った。

 彼女の中では戦争は単純で連合とザフトが戦っている―――ナチュラルとコーディネイターが戦っているという構図が決まっていた。

 遺伝子操作をされてビジュアルでもインテリジェンスでもフィジカルでもナチュラルを上回るように作られた命―――彼女にとってコーディネイターとはそういう超人的な存在だった。

 フレイはコーディネイターを恐れている。

 キラは自分に言われているようにも思えた。

 キラが少し狼狽えているうちに、ラクスはゆったりとしたまま立ち上がるとフレイの近くまで歩み寄る。

 

「ケイさまが私の我儘を聞いて下さって、交渉してくださったのです。それにコーディネイター全てが連合と戦争をしているわけではありませんわ。地球にも同胞は居ますし、私の父はプラントでも穏健派―――ナチュラルとの和睦と回帰を目標として「知らないわよ!そんな小難しい話!!」……あら」

「ザフトがヘリオポリスをどうしたか知らないわけ!?地球に変な物ばら撒いて何億人が死んだと思ってるの!?」

 

 それを聞いたラクスは胸に手を当てると、フレイの眼を見て言い聞かせるように落ち着いた声色で話す。

 どう考えてもフレイの態度はヒステリックのそれだが、彼女の置かれた環境が彼女をそうさせただけだ―――というのがラクスなりの気遣いでもあった。

 自分が部屋に閉じ込められなければならないように、フレイもまたこの船に閉じ込められなければならない―――その上戦闘になれば命がいくつあっても足りない程の不安が襲うだろう。

 

「それは……被害を考えれば無視できない痛ましい事だと思ってはいますが、ザフトは軍の名称でありコーディネイターの総称では無く―――貴方も私と同じで、軍の方ではないのでしょう?」

「誰が一緒ですって!?一緒なわけないじゃない―――コーディネイターのくせに馴れ馴れしくしないでよ!」

 

 それはこの場に居たキラにも軽くはない痛みを負わせた。

 コーディネイターへの無意識の差別は事実として存在していた。

 MSに乗る事が出来たキラに「コーディネイターだから」と言ったのもそうだし、ラクスの歌声を聞いて「そういう声になるように調整されたのかもな」と冗談めかして言ったり。

 ―――やっぱり僕も、どこかで皆に避けられてるのかな。

 キラはまたしても友人たちとの距離を感じじずにはいられなかった。

 ミリアリアに誘われたグループだったが、今日この頃はただでさえ浮いていた自分が更に宙ぶらりんになったようでキラは寂しさが湧いた。

 フレイは言い放った勢いそのままに立ち去る。

 残ったのは何とも言えないラクスと、沈んだ気分のキラ―――それから何を言って良いのか分からないミリアリアやその他の友人。

 ケイはそれを見ながらパンをもそもそと口に運んでいた。

 ラクスも何をしていいのか分からず、おずおずと元の席に戻ると食事も口に入らず小さくなってしまった。

 

「私は何か気に障った事をしたのでしょうか」

「さぁ?"ブルーコスモス"なんだろ」

 

 ケイの言うブルーコスモスは、環境保護団体を名乗っていた現在は反プラント・反コーディネイター主義に染まった団体である。

 彼らはコーディネイターという『自然でない者』を許さず、血のバレンタイン事件で核を放ったのもプラントを破壊したのも彼らだという噂もある。

 穏健派には『遺伝子病の治療程度ならばむしろ健全な技術の使用法だ』とする意見もあり―――ケイもこれには賛成だが―――コーディネイターにするための遺伝子操作は現在形骸化されているとはいえ違法、それを旗本にする過激派は多い。

 過激な思想は伝搬しやすく、ナチュラルとコーディネイターの軋轢が大きくなると連合軍部にも蔓延し、現在は総司令部がブルーコスモス支持者であり軍部の中では主流と言ってもいい戦力を持っている。

 『青き清浄なる世界のために』―――それが彼らのスローガンである。

 過激だろうが穏健だろうが今時珍しくもない―――ケイは早計にそう言うと、考え込んだラクスの開いた口にパンをひとかけらだけ詰め込んだ。

 

「これが戦争が無くならない理由でもあるな」

「むぐ」

「ザフトだけじゃなくコーディネイター全体まで憎ければ、話なんてする気が起きないもんだ。お前の婚約者が俺と戦うのもそういう事」

「それは……むぐ」

 

 ケイはラクスが何かを言う前にパンを詰まらない程度に小さく千切っては放り込む。

 何も言わせないためだが、ラクスは目でそれに反発した。

 しかし目で語っても事実として差別しあうナチュラルとコーディネイターの軋轢が無くなるわけでは無い。

 ケイからすれば語るだけ憎しみや恨みが増えるだけだった。

 

「ほら、後は自分の部屋で食え―――どうせ居てもつまらないだろ」

 

 ケイは気を利かせてそう言うとラクスに食事を渡そうとしたが、キラがケイの反対―――ラクスとはケイを挟んだ形で座った。

 

「……何だ?」

「いや、僕もコーディネイターだから居心地悪いなって。それにその子、アスランの婚約者なんでしょ?―――幼馴染の婚約者、どんな人なのか気になって」

「あら、アスランをご存知ですの……?」

「うん、月の幼年学校の頃から。僕はキラ・ヤマト―――このトリィもアスランがくれたんだ」

 

 そうして女子二人のアスラントークが始まり、ケイはようやく子守りから解放されたと足を組んで目を閉じた。

 キラは少なくとも二人が仲良くしているので自分も、と割って入ったのだが―――ラクスはいい意味でキラが思っていたような子ではなかった。

 てっきりケイにコナをかけていたのだと思ったが、単純に寂しいだけだったようで警戒心はすぐに解けた。

 やれアスランが、と互いにあの何を考えているのか分からない男の愚痴で盛り上がると、彼女の苦労もよく分かる。

 アスランはそういうところがあるからな―――キラはラクスの話が自分の幼年期の頃の彼と変わらない様子で少し微笑ましかった。

 少し人となりが分かったところで、キラはグンと距離を詰めてラクスに迫った。

 

「ラクスはさ、ムラサメ少尉と仲いいよね―――何かあったの?」

 

 その問いにラクスはフフと笑うと、人差し指を口に当てて悩む素振りをする。

 やがて言葉が見つかると彼女は満面の笑みで言った。

 

「運命の出会い、ですわ」

「「「「「えっ!?」」」」」

「馬鹿言うな」

 

 すぐにケイからツッコミが入る。

 まさか婚約者も居るプラントの御姫様の口から運命の出会いと出るとは思わなかったのか、ケイも内心焦った。ただの冗談でブルーコスモスとプラントを敵に回す政治問題は嫌だった。

 ラクスは洒落が下手なのかとケイは認識を改めた。

 しかしすぐに空気を戻すと、ラクスはケイを一瞥するとキラたちに諭すように言う。

 

「第一印象で悪い人ではないと、そう確信しました」

「悪い人じゃ、ない……?」

 

 サイたちがざわつく。

 それも無理ないとキラは思った。何せヘリオポリスから今に至るまでの彼の戦いで冷血さが見て取れる。

 本当は優しい言葉もかけられる人なんだ、とキラは最近の出来事でドヤ顔マウントを取っていたがラクスは斜め上を行った。

 

「―――不器用な方だと思いました。人が求めるものを差し上げようとする心と強く孤独であろうとする心で、揺れ動いていると」

「優しい……?」

「口から出まかせ言ってるだけだ」

 

 ミリアリアが無いと言いたげに呟いたのをケイが同意した。

 彼女はMSの管制担当だったため彼と数度言葉を交わすこともあったが、戦闘中の声は酷く好戦的だった。

 それが優しいと言うなら、この世のどれほどの人類が優しいのか。

 キラはラクスに『分かる』と頷いていたが、この場の多数決ではケイを含めて『あり得ない』が総意である。

 キラはケイが洞察力に優れ、相手の求める事が分かるからこそ突っぱねたりもするが―――本当に困っていたら見過ごせないのを知っている。

 ドヤるキラを見て、ミリアリアも年頃の少女である―――キラとラクスに近寄ると、興味津々といった様子で談笑に混ざってきた。

 

「ムラサメ少尉ってあんまり喋らないけど、一目で分かるものかな?」

「こう、バチッと?ピッキーンと来ましたわ」

「僕にも分かるよ、そのバチっと来るのが」

「お前らな……」

 

 いつの間にかラクスの周りには人が増え、彼女自身の話やキラたちの話をして盛り上がっていた。

 ケイは己が過去に研究者たちに言われたニュータイプの革新を思い出した。

 人が皆、彼女のようなお利口さんであればそれも叶うだろう―――しかし人間は、ケイはそうではない。

 みんなで楽しくお話なんていうものに興味が無かったケイは、隙を見てキラにラクスを押し付けて退室した。

 

「……お前」

「……何よ」

 

 退室しようとすると、扉の前―――の少し横の死角にフレイが居た。

 察するに気まずくなって戻ってきたら、友人たちが嫌いな人間と談笑していて居心地の悪さがぶり返したと言う所か。ケイはフレイの出で立ちからそれを感じた。

 

「さっきはごめんなさいとでも素直に言えば、仲間に入れてくれるかもな」

「くっ…言いたいのはそれだけ?」

「無理に敵を作ると身動きが取れなくなるぞ、お前みたいな誰かに甘えてないと生きていけないやつはな」

「アンタに言われたく無いんですけど!!」

 

 フンと鼻でフレイを笑うと、ケイはどこかへ行った。

 残されたフレイはとうとう居たたまれなくなり、来た道を戻った。

 居場所がどんどんと狭くなる感覚を覚えた彼女は焦りすら覚えた。

 女性と言う生き物が集団で生きる習性があるだとか、そういう事ではなく―――単純に寄る辺が無いのが苦しかったのだ。

 誰かに甘えたいだとか、そういう子供らしい感情。

 あの鼻で笑った小僧もきっとそうに違いないと決めつけて、フレイはふて寝した。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「パパが迎えに!?」

「ああ、第八艦隊の先遣隊がすぐそこまで来てるって―――フレイのお父さんも一緒だ」

 

 フレイは喜びに満ちていた。

 先ほどの憂鬱なつまらなく息苦しい孤独からようやく解放される―――自分は一足先に家族に会える。そうした優越感が彼女を幸福にしていた。

 大西洋連邦政府の外務次官を務める父が、すぐそこに来ている。わざわざ危険を顧みず。

 これを愛と言わずして何と言おうか。フレイはパパこそがヒーローなのだと、自分を救ってくれるのは何時もパパだと心で称賛した。

 サイも彼女の内心を知ってか、危険を共にしたフレイに気を使って多くは語らない。

 

「あぁ、やっとこんな息苦しいところから解放されるのね」

「分かってても他の人の前で言うなよ……これからもアークエンジェルは戦うんだから」

 

 かくいうサイも第八艦隊と合流すればこの艦を降りることになっている。民間人は総じてこの逃避行から生き延びて帰れるのだ。

 キラもまた安堵していた。

 どこかでまだ自分も降りられると―――自身がケイに対して言った言葉も決意も忘れ、平和がそこにあると信じていた。

 

「はぁ、あのケイとかいうやつとラクスとかいう女―――ざまぁ無いったら」

「なあ、フレイやめよう。彼だってまだ戦わなきゃいけないんだ―――僕らが平和になったって戦うんだ」

「何よ、私の味方してくれないわけ?」

「そうじゃないけどさ」

 

 軍属のケイは第八艦隊に合流後、今後の行動を今一度連合とすり合わせなければならない。

 アークエンジェルを降り別の部隊に行く可能性の方が高いだろう―――戦局が芳しくない場所は多い。

 それを聞いてフレイはざまあないと黒い感情をむき出しにしたが、サイに諭される。

 

「こうしちゃ居られないっ!私、身だしなみ整えて来るわね!」

「あ、ああ……」

 

 ―――何事も無ければ良いのだけれど。サイの小さな呟きは壁に吸収されて消えた。

 

 




Tips:ラクス・クライン
婚約者が居るのに爆弾発言をした歌姫。フレイの事を気にかけるくらいには余裕がある。
ケイに対して押せ押せムーブが目立ちキラから警戒されていた。
同い年の女の子が沢山居て少し舞い上がっている。
軍艦の部屋のロックを勝手に外すハロを持っている。

Tips:フレイ・アルスター
ブルーコスモスに所属する父を親に持ったためコーディネイターに対して偏見がある。
ラクスに居場所を盗られたように思えて嫉妬するも、素直に謝れないお年頃。
父が迎えに来たと知って舞い上がっている。

Tips:キラ・ヤマト
爆速でケイと距離感を近づけたラクスに嫉妬と警戒心があったが、今は殆どない。
『ケイはハロよりトリィ派』というありもしない記憶を作り出した。
幼馴染の婚約者でもあるラクスとアスランあるある談義で盛り上がった。

Tips:ケイ・ムラサメ
トリィよりハロ派な少年。ラクスは嫌いではないが、押しの強い所は苦手。
爆弾発言のせいであわや命の危機だった。
生まれのせいか必要とされる事に対して弱かったりするが、年頃の人を寄せ付けない所がそれを補っている。

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