※この作品はR-18です。

機動戦士ガンダムSEED TR -輝ける星を目指して‐   作:開いたぞ、性癖の扉が!!

23 / 25
第23話「離れた二人は」

 

 

 

 

 クルーゼの手によってヴェサリウスへ引き取られたラクスは1人、考え込んでいた。例の少年の事である。

 己の感性に任せて行きずりに体の関係を持ってしまったが、それは問題ではなかった。

 肝心なのは今後の政治である。彼が連合である限り一緒に居られる事は無いに等しいだろう。

 何せプラント内部ではナチュラルへの偏見や地球単位での人類の抹殺などを考える輩までいる。もちろん後者は殆どの人間が反対した少数派だが―――ナチュラルで言う所のブルーコスモスは確かに存在していた。

 地球の資源を少なからず頼っているプラントの人間がよくも言えたものだと思うが、それほどまでに膨れ上がった憎悪と差別感情、そして自信過剰がプラントにはある。

 世間で言われている程ラクスも綺麗なものではない―――世論がどういうふうに動いているかは把握していた。

 父、シーゲル・クラインがニュートロン・ジャマーと呼ばれるものを地球へ投下した事でナチュラルだけでなく地球に住むコーディネイターまで巻き込んだエネルギー危機。それすらも『核報復よりマシ』と言われてる始末だ。

 そういった話で済まされるものではないだろうと憤りを感じざるを得ないが―――事実被害は10億と計算されているものの、それが全て死者とは限らない連合側の思惑もあっての数字だが―――それ以上をやりかねないのがこの世界の政治家たちだ。

 人の生まれ故郷である地球へ安易に核を放り込もうと考える人間も、その生まれ故郷を離れて生きようとする人を宇宙人呼ばわりする人間も色々と余計な事をし過ぎた。

 結果的にそれが巡り巡ってラクスを苦しめている。

 それさえ無ければ、あの少年との別れは無かっただろう。

 少し荒んでいるが、その中でも見られるかわいらしさと温かさ―――誰も理解出来ないだろうが―――それをラクスは知っている。

 MSのパイロットなどは辞めさせるべきなのだ―――本当に誰に言っても理解できないだろうが―――ラクスだけが知っている。

 とどのつまりラクスには感覚的に少年に感じるものがあった。

 誰にも理解出来ないそれが恋ならば、それを声を大にして言ってもいい。

 

「ニュータイプ……」

 

 今でも彼から放たれた温もりを思い出す。

 彼と出会った時の衝撃。今まで出会った人々との感覚とは全く違ったものだった。

 アスランと出会った時のそれとはまた違う。あの頃はまだ互いに意識出来ていたからぎこちなかっただけとも言える。

 引き込まれたのは一瞬だった。まるで異空間に放り込まれたように意識が周りの世界とかけ離れた場所に居た。

 ほかのニュータイプでもこうなるかはケイも知らないと言う。少なくとも他人で感じ合う事は稀と言う。

 

 そう思うと、やはり届かない距離に居る少年が恋しくもなる。

 ツンと棘を張っていたが、自分に対して甲斐甲斐しく世話をしてくれたのも事実だ。コーディネイターへの偏見のあったアークエンジェルの艦内の雰囲気を変えてくれもした。

 ケイが居なければ、居たたまれず黙って部屋で閉じこもっていただろう。そして他の人と仲良くする事もなかった。

 拡大解釈も良い所だが、ラクスにとってのケイはまさしく世界を広げる鍵だ。そうした人を傍に置きたいと彼女は思う。

 だからこそ戦いは辞めて欲しい―――辞めて、その温もりをお互いに伝えあって生きたい。

 

 それに友人も出来た―――キラ・ヤマトだ。

 彼女はとてもゆったりとした優しく美しい女性だったが、それでいてかなりの豪胆さもある。言葉のどこかには自信が隠れていた。

 例えば彼女の通っているゼミの教授が普通の生徒ではこなせないような、半ば趣味と言っていい課題を放り投げては毎回ギリギリまで放置しているとか。

 彼女はそれを怠惰な自分を語りたい時に話題にするが―――ギリギリでこなすにはそれはそれで実力が必要だ。

 それにMSの扱いでケイに負けている事を嘆いていたが、そもそも軍属の人間に褒められるほどの動きが出来ている時点で素晴らしい才能を持っている事に違いはない。

 そして何より人が見れば放っておけない性格をしている。あのケイですら彼女の必死のお願いには下唇を噛みながら応えるのだから、相当なものだ。

 彼女が男性だったなら、自分はコロっと落ちていたかもしれない。

 彼女にも戦ってほしくはない―――恐らくケイよりも平和の中でゆったりと過ごすのが一番似合っているだろう。

 

「私が出来る事は……」

 

 ―――出来る力があれば、出来るだけやっておきたいんだ。後悔しないように。

 

 キラがラクスに言った言葉だ。

 その視線がケイを貫いていたのはここだけの話だが、彼女の戦う理由がケイにあるのであればそれはそれで問題だ。

 ケイが止まらなければキラも止まらないだろう。

 プラント無いの厭戦感情を引き出せる事が出来ればそれが一番だが―――その力はラクスにはない。彼女にあるのは歌だけだ。

 

「戦いの無い世界は、どうすれば手に入るのでしょう」

 

 胸の前で己の手を握り目を瞑った。

 それをキラに話せば、優しい微笑みで手を貸してくれるだろう。

 それをケイに話せば、あるわけが無いと現実と妥協を突きつけられながらも悩むラクスは立派だと慰められるだろう。

 ラクスはそれを未だ知らない。

 

「ラクス……」

「アスラン」

 

 ふと、ヴェサリウスで与えられた部屋の扉が開いた。

 そう言えば―――ハロが部屋の鍵を開けたのを忘れていた。

 彼は呆れた顔でこちらを見ると、鍵を開けたハロを一瞥して近づく。ぼーっとして能天気な女とでも思われたのだろうか。

 

「ご機嫌は?」

「……まあ、余所余所しいですのね」

 

 ラクスが手を差し伸べてアスランへ近づく―――その手は空を切った。

 婚約者に対して余所余所しいにも程がある彼に、ラクスは特に変わりなく話を続ける。

 

「あまり良くありませんわ。部屋にこもりっきりはつまらないですもの」

「戦艦の中です、何かあっては俺も庇いきれません」

「向こうでは食堂には行けましたのよ?お話もそれなりに」

「……足付きですか」

 

 アスランはラクスの当てつけにハア、とため息を吐いた。

 十中八九キラだろう―――軍の人間がラクスを自由にするはずがない。それにナチュラルの中に居る唯一のコーディネイターだ、ラクスに親近感を持っていても違和感はない。

 そう考えると、思い浮かぶのはキラの顔だ。

 何を考えているのか分からないぽやっとした顔でラクスに『部屋は窮屈だろうから、外で食事でもしながらお話しようよ』とかなんとか言ったのだろう。あり得ない話ではない。

 実際には脱走にも見えるラクスの散歩の先がアスランの嫌う白兎―――ケイ・ムラサメの個室だったのだが。

 

「幼馴染の事が気になりますか?」

「やはりキラに会ったんですか!」

「ええ、とても可愛らしい方でした」

 

 ラクスはキラの事になると声のボリュームの上がるアスランに引きつつも、己の感想を包み隠さず話した。

 キラは戦いたくはない事、アークエンジェルの人々のために戦っている事。

 そして―――ケイ・ムラサメの個人名は出さないが、MSのパイロットを助けるために戦っている事。

 

「あいつ……何を馬鹿なことを!」

「たった一人で背負い込むのは酷だと、出来る力があるならと言っていましたわ」

「大体、そのMSのパイロットは―――白兎でしょう!?何故……」

 

 アスランの脳裏には同僚の死の映像が流れていた。

 挙句散々辛酸を舐めさせられている相手だ―――ネビュラ勲章を持つクルーゼですらシグーが玩具のように扱われる始末だ。

 憎い相手と放っておけない幼馴染が良い仲だと言われて腹が立たないわけが無い。何せ白兎のパイロットは人格破綻者だ―――人の死を笑える人でなしだ。

 ―――救助した民間人を人質に取って、キラを戦わせて、そんな卑怯者のどこに正義があるのか。

 

「きっと騙されてるんだ。あいつ、そういう所があるから……良いように言いくるめられて、その友達ってやつを人質に取られでもしてるんですよ」

「そうは見えませんでしたが……」

 

 確かにあの船の中では浮いている方だったが、それでも人質のような恐怖で支配している様子は無かった。

 何せラクスとキラの会話に混ざるミリアリアやそれに聞き耳を立てる男性陣も居た―――とてもではないがアスランの言うような人物ではない。

 しかしアスランにはやはり同じ軍の味方の事もある―――キラが自分の知るキラでは無くなった事もある―――それらが白兎による事だと知っているからこそ賛同出来なかった。

 

「いえ、ラクスは知らないだけです。白兎のパイロットは人を弄ぶように殺す……!そんなやつにキラが―――あいつが手を貸すわけが」

「強がっているのかもしれません。人を手にかけるその心情は私には分かりませんが、命の重みに耐えかねて狂う兵士の話は私も知らないわけではありません―――アスランは人を殺めて、心が痛まないのですか?」

「痛みますよ、俺だって人間です……でもあれは異常だ」

 

 間接的に相手も人間だと言うが、アスランからの感触は悪い。

 既に母を殺され、父はナチュラルへの憎悪で変わり、そして彼もまた変わろうとしていた。

 そして変わったと思われたのはラクスも同じだった。

 

「……ラクスは随分と変わりましたね」

「……我儘なのは変わりませんわ。貴方が私から目を背けているだけで」

 

 アスランがラクスに辛辣に投げかける。その目は彼女には向いていない。

 ラクスがこっちを見ろと言っても見ないのだろう。ロクに見ると居心地が悪いから。

 アスランはラクスが苦手だ―――それをラクスが知らないわけでは無い。良い婚約者を演じるあまりに壁が出来たのはラクスも申し訳ないと思うが―――ラクスに我慢を妥協させられるだけの材料を与えられなかったのもアスランだ。

 そんなにキラが良いのかと、多少なりとも嫉妬もする。

 先ほどからアスランの心配はキラに向けてのものだ。ラクスに対するそれは儀礼的なものにとどまっている。

 心配くらいしてよとも言えなくはない。だが―――言ったところでと思えるのは期待が薄すぎるか。

 

「俺が、ラクスから目を?」

「……もう少しくらい、心配してくれてもよくありませんか?クルーゼ隊長はいたく心配してくれましたが、婚約者の貴方がそれでは」

「……すみません。気が利きませんでした」

「いえ、私も欲張り過ぎたかもしれません」

「…………戦いばかりで気が立っているんです」

 

 ラクスは内心で肩を落とした。無理にでも心配してくれた方が、まだ気が休まるというものだ。

 父に言って婚約を解消してもらおうかとも考える。その方が気が楽かもしれない。

 蝶よ花よと愛でられて生きてきた自覚はあるが、だからといってここまで心配されていないと最早女としての多少の幸せも望めないだろう。

 まあ―――ラクスの知らない、戦士としてのケイは残酷な事もするのだと分かった時点で得たものはある。

 やはり戦争は人を変える。ラクスはそれを止めたいという意思を固く持てた。

 アスランの気持ちは離れるばかりだが、彼女は最早それを止めなかった。己に成せるものは―――出来る事は無いかを必死に探すために構っていられないのだから。

 戦争は人を変えるという言葉はアスランだけではなく彼女にも当てはまる事でもあった。

 

「何と戦わねばならないのか、難しいですわね」

「…………」

 

 アスランはそれに答える事が出来なかった。

 キラ・ヤマト―――未だ友情を信じて止まない彼女と銃を向け合う自分。意固地になってこちら側に来ない彼女をどうやって引き込むか。

 ラクスもまた考えた。

 ケイ・ムラサメ、そしてキラとその友人たち。この人々をどうすれば平穏へ帰す事が出来るのか。

 そこに互いを考慮しない二人は、互いに目を背けて黙った。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 一方でケイは1人考え込んでいた。己の名を知るシグーのパイロット―――それはまさしくケイの過去に関係していた人物と言える。

 だがケイには昔のクルーゼと会っていた事など知らず思い当たる節は無かった。研究員の誰かか、或いは兄弟たちと金のためにやらされたあの場所に居た誰かか―――或いは知らない場所で研究所が自分の情報を何処かへ流したか。

 研究所と言っても一枚岩ではない―――元は知的探求心を抑えきれなかった変人たちの駆け込み寺のようなものだったと聞いている。だからこそ人の考えられる範疇を優に超えてしまえる。

 人でなしたちだ、あり得なくはない。

 ともあれ第八艦隊との合流を待つだけのケイにそれ以上考える暇はなかった。

 

 大西洋連邦はケイにとって苦い思い出をもつ人間が居る場所だ。

 ムルタ・アズラエル―――間接的にケイの兄弟、その最後の1人を殺した張本人。

 アズラエル財閥というケイには到底理解できない規模の財閥の令嬢であり、大西洋連邦を拠点に活動している反コーディネイター主義者の環境保護団体「ブルーコスモス」の盟主を務める人間だ。

 噂によると最近は財力こそ衰えるどころか成長を見せるものの、財閥内で派閥争いをしていた最中に強行的な対立派閥に押されて地位を失いかけているとかいないとか。

 まあ―――今更考えを改めたところで、ケイにとっては兄弟の仇そのものだ。

 かの人物が金をつぎ込んで作り上げた人の限界を引き出すための薬物が原因で010J―――ケイの兄は脳と精神に異常をきたして暴走、ケイが自らの手でその命を終わらせるという思い出したくも無い記憶がある。

 曰く、ニュータイプの力を薬物の力で引き出す事は出来るのか否か。それを確かめるべく行った実験らしい。

 最後に残ったたった一人の兄弟すら、そんな理由で死んだのだ。大枚を叩かれて、研究所はその薬物がどれほど危険なものか分かってて殺したも同然だ。

 

 ―――アズラエルのお膝元というわけだ、大西洋連邦は。

 マリューやナタル、ムウといった人物が所属しているだけでも驚きだったが大西洋連邦にも色々な人間が居るのだろう。

 

「問題はストライクだ」

 

 G兵器―――ケイですら呆れたOSをしているそれを、第八艦隊はどうするつもりなのだろうか。

 キラ・ヤマトは恐らくこの船を降りる。それは当然そうあるべきだ。

 それに対して大西洋連邦―――その中に巣食うブルーコスモスはこの事を良く思わないだろう。自分たちが心血を注いだ新兵器がコーディネイターによって動かされていたとなっては、メンツが立たない。

 そういう思考をした人間たちなのだ。コーディネイターに兵器開発で劣っているというのに、劣等感か対抗意識だけが肥大し未だに自分たちで満足のいく兵器を生み出せていない。

 兵器の性能だけが独り歩きし、扱えませんでしたでは笑えない。

 ムウの話ではストライクのテストパイロット達でさえその操作はお粗末なものだったと言う。

 だからムラサメ研究所を頼ったのだ。自分たち―――ひいてはザフトですらつい最近開発に成功したMSを、それ以前のジョージ・グレンの木星探査用のスーツから開発していた彼らの技術が必要だった。

 結果は金をむしり取られ、少数精鋭とも言っていいケイたちニュータイプの実験体が彼らの対ザフトの依頼をこなす―――それで満足してしまっている。

 確かにまだザフトは連合と比べると総数で劣る―――だがジンはそれ1機で戦艦を落とす事だって出来る。

 鈍重な軍艦と違い、宇宙の白兵戦を担うMSの有用性は連合も知るところだ。だからこそ今は1機でも多くのMSとデータが欲しい筈。

 キラ・ヤマトが船から降りられる確率は半々と言ったところか。コーディネイターであることが彼らの反コーディネイター的感情を刺激して居れば降りられるだろう。

 最悪は、キラがケイのような実験に使われる被験体になる可能性もあるという事だ。連合はコーディネイターを薬物で縛り前線で尖兵として扱った前科がある。

 

「…………何考えてんだか」

 

 頭を振り払って、ぽやぽやした顔のキラの像をかき消す。

 どうなろうがケイにとっては他人事だ。

 軍人組は配置転換、民間人は降りる。これで話は終わりだ。

 そしてそうなった後も変わらない―――ザフトを殲滅するまで戦争は終わらない。

 

 

 

 




Tips:ムルタ・アズラエル
アズラエル財閥と呼ばれる地球有数の財閥の一人娘。年齢は秘密。
ケイが出会った当初は環境保護団体『ブルーコスモス』の盟主だったが、現在は組織内部の政治とある理由から盟主の座を父に譲っている。
そのためケイは未だに彼女がブルーコスモスの盟主だと認識している。
コーディネイターの集団でもあるプラントに武力で対抗するために兵士に後天的な強化を施す計画を幾つも画策するが、その結果ケイの兄弟が亡くなる事に繋がったためケイからの印象は悪いを通り越して怨敵になっている。
しかしその財力で研究所での発言力を手に入れているため、ケイは彼女に対して反抗出来ないでいる。

主人公の見た目に関する挿絵

  • いるね
  • いらないね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。