機動戦士ガンダムSEED TR -輝ける星を目指して‐ 作:開いたぞ、性癖の扉が!!
イザーク・ジュールは目の前の奇妙な機体に苛立ちを感じていた。
ラスティはヘマをしてMSを強奪する前に死に、随伴のジンは幾つかを"最小限の爆発しか起こらないよう"白いMSに倒された。
相手は腕の立つパイロットと言えるが、認めたくないのが本心だった。
コーディネイターだからこそMSを運用でき、強奪したMSですらすぐに動かせた―――自分たちがナチュラルに劣るわけがない。そうした差別意識が根底にあるからこそ認められなかった。
しかし現状、その白いMS『白兎』に尻尾を巻いて逃げろという指令が下った。
「帰れってよ、イザーク……どうする?」
「確かに目的は果たしたが、かといってアレを見過ごせるわけが無いだろう!!」
「だよな、流石に俺もやられっぱなしは癪だ」
「所謂『慣らし』をあの機体で済ませればいい事だ!」
そう会話しているうちにも、白いMSは4機の連合から強奪した最新鋭MSを前にひるむことが無い。
こちらが機体を完全に掌握できたわけでもない上に両者共にコロニー内で最低限の攻撃しか出来ないと言えども、最新鋭の4機を相手に鈍重に見える盾を持ったMSでこうも近接戦闘をされると単純な操縦技術で差を付けられているのが分かる。
白兎―――血のバレンタインの後、ザフトの中ではあのMSがコーディネイターが秘密裏に開発した最新鋭MSなのではないかと噂された事もあった。
世間では核を使用したことやユニウスセブンが崩壊した事しか主だって話題に上がらないが、軍関係者ならばかのMSについて一度は考えたことがあるだろう。
―――連合が核からプラントを守った?或いはそう思わせるプロパガンダのためにわざとやったのか?
どちらにせよ、いい意味でも悪い意味でもロクな機体ではないとイザークの勘が告げる。
「白兎め、仕留めてお前の秘密も暴いてやる!」
兎狩りだとでも言わんばかりに、イザークの駆る『デュエルガンダム』が肉薄する。
かく言うイザークも白兎がザフトの秘密兵器だと信じて止まなかったという落胆も、肉薄に勢いをつけていた。
ヘイズルは迫る連合のG兵器の内の1機『ブリッツガンダム』をスラスターを吹かして上に避けると、サーベルを抜きブリッツの背後から躍り出たデュエルを迎え撃つように振るった。
サーベル同士が干渉しあう中、血気盛んなデュエルとは裏腹にヘイズルは至って冷静にデュエルに蹴りを入れ距離を離す。
「チッ、いまいち分からんやつだ」
MSというのはザフトが先に手を付けたものであり、その運用に長けているのもザフトである。
それをこうも凌げるどころか飄々と操られてはザフトの面目丸つぶれとも言えた。
鈍重なMSで格闘戦をしたかと思えば、一度の斬り合いで離脱―――格闘戦自体を想定していないわけでも無いだろうに、それを避ける理由は何か。
「時間稼ぎかっ!!」
このMSには活動限界がある。
具体的に言えばPS装甲と呼ばれる実体弾を無効化する特殊装甲に電力を使用しているが、電力は無限ではない―――とどのつまり、装甲が電力切れで意味を成さないようにしてから通常兵器でも破壊可能にするつもりなのだろう。
今しがた初めて乗ったMSの仕様をイザークが知っているのも常人では考えられないが、しかし相手のパイロットもその仕様を把握していた。
「時間稼ぎが目的なら僕たちはここを離れる事を優先しましょう」
「あーあ、白兎も持って帰れたら大戦果だったのによ」
ブリッツ、バスターの2機が先導して離れる―――その間にイザークの頭の中ではもう1機のG兵器と白兎の事で頭がいっぱいになっていた。
ファンと言うほどでは無いが密かに気になっていた白兎。血のバレンタイン事件の映像が確かなら、ミサイルに追いつく程の恐ろしい機動力とそれに着弾させる射撃能力を備えているMSであることが示唆される。
それがザフトに牙を剥く―――目の前に見える機体が本来の力を発揮できているとは到底思えないが、もし全力の白兎を相手にするとなると並のパイロットでは相手にならないかもしれない。
内心味方で無いのが惜しいが―――ナチュラルにも恐ろしい人間が、或いは恐ろしいOSを備えた兵器が存在するものだと関心すら覚えた。
「ビーム!?撃ってきたのか!」
「離してくれるわけもないか……!」
ブリッツとバスターに対してスラスターを目掛けての射撃が襲う―――コロニー内での射撃が何を意味しているかを知っての行為ならあまりにも危険過ぎた。
多少の穴なら塞げばいいが、しかしそう簡単に撃って良い代物でもない。
「ちぃっ!アスランは何をやっている!」
逃げるには4機纏まって逃げた方が良い―――しかし残りの1機に乗った同僚の姿が見当たらない事にイザークが気づいたのは撤退を決断したすぐ後だった。
◆ ◆ ◆
「アスラン……!アスラン・ザラ!!」
「君は本当にキラ・ヤマトなのか!?何故こんなところに居る!!何故そんなMSに乗っている!!」
「僕だって分からないよ!!君こそ何でザフトなんかに!!何で人を殺すんだ!!」
イザークが撤退判断を下したその時、強奪された『イージスガンダム』と民間人が乗った『ストライクガンダム』の2機のMSは取っ組み合いをしていた。
連合の秘密兵器に乗った民間人と、その秘密兵器を強奪したザフトの軍人―――この両者はかつての幼馴染同士だった。
幼馴染が人間を殺すための機械に乗っている―――認識の齟齬はあれど二人の考えは一致していた。
「ナチュラルは血のバレンタインを起こし、そしてこうも恐ろしい兵器を生み出す―――俺の母はあの後のテロで死んだ、その犯人が野蛮なナチュラルだ!!」
「っ!!!だからって……!!」
「もう抵抗はよせ、キラ!お前だってコーディネイターだろう!?なぜナチュラルの味方をして同胞を殺すMSに乗るんだ!?」
「仕方ないじゃないか……友達が居るんだ!守らなくちゃいけない人達だって!!」
両者は今どこに居るのか、何をしている最中なのか忘れて殴り合う―――装甲同士が干渉し火花が散ってもお構いなしに。
イージスガンダムのパイロット『アスラン・ザラ』は小さく舌打ちをした。
動きが違う―――同じG兵器だというのに明らかにあちらの動きが軽快だった。
何が違う?機体に使われた機構が違うのか、或いはこの機体を動かすためのOSか――――
「あの短時間でOSを書き変える……キラのやりそうな事だ」
否が応でも認めるしかない。幼馴染の規格外さを。
―――いつもはどこか抜けているが、そういう所は本当にすごいんだ、キラは。
凄いからこそ、認めているからこそ相手にしたくない。
友人を殺す趣味なんて持ち合わせているわけもなく、純粋に相手を尊敬しているからこそその将来を奪うような事はしたくなかった。
「アスラン!!」
「この、分からずや!!」
突貫するストライクをイージスの足で蹴り止める。
何故分かってくれないのか―――それはさっきの言葉の応酬で分かり切っている。
キラにも大切なものがあり、自分たちはそれらを脅かしている。
しかしアスランにとっては既に大事なものが傷つけられ、今もどこかで同胞が差別され殺されている。
「分からずやは君の方だ!!君がコロニーを襲ったせいで大勢の人が死んだ!」
「俺はザフトで、連合の敵なんだ!これは戦争なんだぞ!ナチュラルがコーディネイターを殺すから……!!」
「何を遊んでいる―――アスラン!」
「背を向けてお友達の手助けをする余裕があるのか?」
「イザーク、避けろ!!」
「チッ!自軍の秘密兵器だ、どうせ落とせもしないくせに!」
何度目かの拳の交差を迎えると、遠くからデュエルガンダムと白兎がこちらへ向かってくるのが分かった。
イザークはイライラとした様子で小言を垂れているが―――言っている事に間違いは無い。
相手からすれば奪い返すのが目的にある本機をむやみに傷つけるのはしたくない筈。射撃を行いこそすれ手足を狙うに留まっているため当たる確率の方が少ないだろう。
「撤退だ、アスラン。呑気に遊ぶ時間なんて無いぞ」
「分かっている!……キラ、よく考えろ。俺たちの敵になるという意味を」
アスランはそう言い残すと白兎をけん制しつつもデュエルと共にコロニー外へと去った。
コロニーの外に出れば最悪白兎の追撃を受ける事になるが、そうなれば味方艦からの援護射撃で堕とす事も可能だ。
白兎とストライクは動く気配が無い―――というより緊急出動した両機体には余裕が無いと見える。
「……何でこんなことになったんだ」
アスランは記憶の中で微笑むかつての親友の事を想った。
月面のコペルニクス、そこで二人桜の木の下で約束したことを。
淡い記憶、アスランにとっては甘酸っぱいそれを。
あの時には思いもよらなかっただろう。
互いに兵器に乗り戦うなどとは。
◆ ◆ ◆
ケイの駆るヘイズルは想定されていた以上にコロニー内での活動を制限され、敵機の逃亡を許す苦い結果となった。
途中に連合から『G兵器の損傷を極力避けて無力化しろ』などという通信が入らなければ、今頃コロニーに空いた穴の数よりも少ない射撃で仕留める事が出来ただろう。
それにザフトの兵士は想像よりもはるかに優秀であり、強奪したばかりのMSを動かして戦う事が出来たのは驚きだった。
コーディネイターの力と言えば差別になるだろうかと己を皮肉る。
「あ、あの……」
「…………」
G兵器。
ヘイズルを駆る者として、その存在はデータとして知っていたが確かに既存の戦艦やMA、MSでは太刀打ちするのは難しいと言えた。
PS装甲には電力という難点が付いて回るが、しかし実弾兵器主体のザフトを相手取るのであればこれを開発した事は大きなアドバンテージであり、しかし強奪され失ったのはディスアドバンテージとも言える。
そして現状の連合に残されたMSはストライクと外様のヘイズルのみ。
片や複雑怪奇なOSで動かすのも困難であり、片やニュータイプ専用に作られている非常人向けの機体。
―――連合も終わりかな。
ストライクの運動性に関しては目を見張るものがあったが、戦争は数でありそれを補う質という面でもストライクでは心許ないと言える。
たとえ連合が終わっても、ムラサメ研究所が存続する限りTR計画は速度が変われど続行される。連合以外にも戦争をするための兵器や優れたパイロットのニーズはある。
「あのっ!!」
思考の中で反省会を行っていた途中だった。
鼓膜を破る勢いで発せられた声に、ケイはようやく気が付いた。
声の方向に目をやると、茶髪の少年がこちらを見ているのがわかる。
「……何だ」
「さっきはごめん、加勢に行けなくて」
「―――加勢?」
「えっと、僕はキラ・ヤマト……あの白と青のMSに乗ってたんだけど。ストライクっていう」
ストライク。
連合が唯一守り抜いたG兵器であり、イージスとキャットファイトを行っていたあの機体かとケイにも合点がいった。
動きは悪くなかったが、子供じゃないかと―――おおよそ自分が他の人間に思われている感想をそのままそっくりそのパイロットに抱いた。
やけに馴れ馴れしいと思ったが、よく考えればこの少年よりもケイは年下である。
「あれで加勢か」
ケイから見ればストライクは起き上がったと思ったらイージスに絡まれ、謎にイージスとの戦闘に拘っていたようにも見えたが―――動きは悪くないと言っても攻撃を仕掛けなければ意味がない。
捕らえるだとか破壊するだとか、そういった意思を感じさせない動きだった。
「そ、それは僕が民間人だからで……君は軍の所属なの?僕よりも年下に見えるけど」
「一応少尉の階級は持ってる。年齢は15歳だけど、それが問題か?お前くらいの歳で戦争のど真ん中に居るやつも多いが」
「そうなんだ、僕より年下なのに凄いね。……戦争が嫌でヘリオポリスまで来たんだけど……でもこんな事になるうえに、君が白兎のパイロットだなんて」
「……白兎、か。そんなに有名なのか?アレ」
ケイは己の愛機が白兎と呼ばれている事に懸念があった。
極秘裏の計画であるのに、デュエルのパイロットも白兎と呼んでいた―――それは軍関係者だからいいとして、民間人に知られるのはあまり良くないとも思える。
しかしケイの懸念とは違い、キラは目を輝かせて首を横に振った。
「軍の関係者とかならもっと知ってる人は居るんだろうけど、民間じゃネットのアングラに話題が上がるくらいだよ。血のバレンタインの日に核攻撃を無力化して去った謎の白い機体―――盾にあるエンブレムが兎だから『白兎』って呼ばれてるんだ。一説によればプラントの守護者だとか秘密兵器だとか、外宇宙からやって来た侵略者とか!あと面白い考察だと……ぶつぶつ」
「もういい、長い」
聞いた俺が馬鹿だったと、止まらない念仏を他所にケイは軍士官と思われる女性の下へ向かった。
慣れ合うつもりは無いにせよ、緊張をほぐせるかと思ったがほぐし過ぎたようである。
ちなみにキラが立ち去ったケイに気づくまで、10分程かかった。
Tips:イザーク・ジュール
ザフトのクルーゼ隊に所属する少年。乗機はデュエル。
噂の白兎の謎に興味関心を抱いていたが、敵対した事でその興味が恨みに変わった。
マザコン疑惑がある。
Tips:ニコル・アマルフィ
ザフトのクルーゼ隊に所属する少年。乗機はブリッツ。
戦いが苦手でピアノが好きな少年。ニコるかニコらないか悩み中。
Tips:ディアッカ・エルスマン
ザフトのクルーゼ隊に所属する少年。乗機はバスター。
炒飯を作るのとイザークの扱いが上手いと噂されている。
Tips:アスラン・ザラ
ザフトのクルーゼ隊に所属するキラの幼馴染。乗機はイージス。
幼い頃から危なっかしいキラを甲斐甲斐しく世話をしてきた自負があり、キラが敵として立ちふさがった事にショックを受けているものの「奴は利用されている」と持ち前の判断力で立ち直った。
母を血のバレンタイン事件の際のテロで失っており、それがきっかけで変わってしまった父親を見て軍人と息子としての自分の在り方に悩んでいる。
キラの事は好きか嫌いかで言えば好きな部類だが「やれやれ、俺が面倒みないとな」のタイプ。
パイロットとしては既に上澄みの類いだが、悩みもあり全力で戦えていない。
Tips:キラ・ヤマト
白兎の事になると急によく喋るようになるし、早口になる。
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